超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第百二十五話 終わりまでを見据える魔法

 気の弱いロム、その時々の感情に流されがちなラム…着実に成長してると言ったって、二人はまだ幼い。ネプギアやユニ以上に、まだまだ子供だってのは事実。

 だが、わたしは知っている。二人の芯の強さを、幼くたってわたしと同じ女神だって事を、ギョウカイ墓場から助けられて以降、何度も見てきている。…幼いって事は、その分伸び易いって事だ。早く、大きく成長するって事だ。それは十分、理解している。

 それでも、意外だった。その上で、まさかロムとラム…女神候補生が、新たな力を手にしてくるなんて。

 

「行って、ラムちゃん…っ!」

「まかせて、ロムちゃんッ!」

「来るか……ッ!」

 

 わたしへ向けるように角度を付けられた一つの魔法陣。それを操作するロムの声に応じたラムが魔法陣に両足を付けると、次の瞬間ラムは飛翔。魔法によるブーストを受けて、一気にわたしへ迫ってくる。

 

「とーりゃあぁぁぁぁッ!」

「ンなろぉッ!」

 

 勢いはそのままに、氷を纏わせハンマーの様にした杖で殴りかかってくるラム。迎え撃つわたしは下段から戦斧を振るい、それぞれの柄と柄が激しく衝突。一瞬の拮抗の後、わたしがラムを押し始め…だがわたしの左右へと現れるのは、ラムの操る魔法陣。

 

「ち……ッ!」

 

 そこから攻撃魔法が放たれる事は分かっている。だからそうなる前にわたしは飛び退き、僅かに前のめるラムを別方向から攻める事を考えたが…どうもそうなる事は考えていたらしく、ロムは自身の左右に魔法陣を展開済み。ロムのいる位置からして、わたしがラムへ仕掛けられる方向は全て射程圏内と見て間違いない。

 

(…厄介だな……)

 

 呆れる程仲の良い二人が、連携ミスを犯す事はまずない。無理に仕掛けようものなら、魔法による飽和攻撃に晒される事だろう。

 二人を突進からの一撃で押し切り、二人とのタイマンに持ち込んでから、そこそこの時間が経った。今のところ、わたしもロムラムもこれといったダメージはなく…負けちゃいないが、二人に対して優位でもない。

 ロムとラムがそれぞれ駆使する四つの魔法陣。攻撃用の魔法射出器、防御用の魔法障壁、機動強化用のブースター…それぞれが超高性能の万能魔導具が如く機能する魔法陣四つを同時に操る今のロムとラムは、厄介極まりない。流石に遠くには飛ばせないようで、わたしを囲おうとするなら接近する必要があるみたいだが…連携含め、正面から普通に突破する事は難しいだろうな…。

 

「どーよおねえちゃん!コーサンするなら、今のうちよ?」

「ごめんね、おねえちゃん。でもこれで手加減するのは、むずかしいから…」

「はっ、ラムはまだしもロムまで言ってくれるじゃねぇか。よっぽどその力に…今の自分に、自信があるんだな」

 

 今の発言の内、ラムは普段から言うような、「らしい」発言だが、ロムの場合は性格からしても、本気でそう思ってなきゃ…わたしに勝てると思っていなきゃ、まず言わないような言葉と意思。そしてわたしが二人の顔を見つめて言うと…二人は頷く。しっかりと、本気が籠った眼差しを浮かべて。

 実のところ、嬉しさはある。二人がまた成長した事に、何だかんだ言ってもわたしの後を付いてきがちだった二人がこうしてわたしに勝つと、わたしより前に出る事を本気で考えている事に、充実感のようなものがあるのは事実。

 だが勿論、だからって負けるつもりはない。遊びじゃない本当の戦いで、まだまだ子供な二人に負けるなんざ…真っ平御免だ。

 

「…来ないの?おねえちゃん」

「来ないならまた、わたしたちから行っちゃうわよ?」

「迎撃態勢ばっちり整えておきながらよく言うぜ。…なら行ってやるよ、真正面から堂々とな…ッ!」

 

 一度戦斧を振るった後に床を蹴り、言葉通りに正面から突進。初めに撃ち出された二つの氷塊の内、片方を斬り裂き、片方を殴り壊して、更にわたしは二人へ接近。次々放たれる魔法を避けながら、その先に立つ二人へ迫る。

 

「ロムちゃん!」

「うんっ!」

 

 続けて放たれる魔法の数々。光弾や突風は地面や壁に当たった時点で消え、氷塊も地面に落ちてから暫くした後溶けるようになくなり、その間もあれよあれよと魔法はわたしを襲ってくる。ただ避けるだけなら何とかなるが、これを突破して二人へ一撃叩き込むってなると、その難度は跳ね上がる。

 だからわたしは、避け切れなくなる直前に戦斧を投擲。投げ放った戦斧は横に回転しながら二人へ迫り…だがそれを見た二人は即座に魔法陣より放つ魔法の一部を切り替え、迎撃として衝撃波を発射。

 その衝撃波で軌道を逸らされ、戦斧は全く違う方向へ。けどその分、注意がわたしから戦斧に移った分、わたしへの攻撃は緩み…その僅かな隙を突いて、二人へ肉薄。二人纏めて蹴り飛ばすつもりで、右から脚を振り出し……だが、それはロムに防がれた。展開している魔法陣の内、唯一攻撃には使わず待機させていた一基によって。

 

「ふっふーん、甘いわおねえちゃん!ロムちゃん、今ならっ!」

「だよね、ラムちゃん…!」

(……っ!包囲攻撃…いや、違う……ッ!?)

 

 強引に蹴り破る事も考えたが、即座にそれが叶う程ロムの防御は柔じゃない。そしてわたしが障壁に阻まれている数瞬の間に二人はわたしの周囲へ魔法陣を、二人の有する八つ全てを展開し、それ等でわたしを包囲する。

 一瞬わたしは、そこからの一斉攻撃がくるものかと思った。…が、それに反してラムは杖の先に魔力球を発生させ、振り抜く事でわたしへ魔力球を放ってくる。

 単なる直線の攻撃、それも一発の魔法なんて脅威でもなんでもない。むしろ何らかの陽動だろうと考えたわたしは最小限の動きで避け、次の動きを見極めようとし……次の瞬間、わたしの本能が警鐘を叫ぶ。

 

「んな……ッ!?」

 

 危険を叫ぶ本能に従い避けるわたし。その背後から迫り、避けたわたしのすぐ横を駆け抜けたのは、今し方ラムが放った魔力球。そして外れた魔力球は、何故か戻ってきた魔力球は、展開された魔法陣の一つにぶつかり…わたしが今いる方向に向けて、弾かれる。

 それも避ける。避けると同時に振り返り、魔力球の行く先を追う。そうしてわたしが見ている中で、再び…いや、三度目の反射が起こり、わたしは確信した。二人の狙う、攻撃の意図を。

 

「また随分と、無駄に凝った事を考えるじゃねぇか…!どこぞの反射衛星砲かっつの…ッ!」

「にがさないよ、おねえちゃん…!」

「位置はじゆーじざいなんだからねっ!」

 

 打ち込まれたのは一発だけだが、触れた瞬間魔法陣から魔力を得ているのか、全く速度が低減しない。魔法陣は随時位置が変わる為に包囲の外へ出る事はなく、同時にわたしの脱出も阻む。

 擬似的な追尾攻撃と、相手を一定範囲から流さない仕組み。二人らしい、中々ユニークな発想で…だが、普通に包囲攻撃をする方が、集中の面では楽だった筈。その上で敢えて、こんな攻撃を選んだ理由は……

 

(特に深い理由はねぇか、わたしに見せたかったってところだろうな…ッ!)

 

 他の相手ならそんな馬鹿なと思うが、ロムとラムならそれはあり得ない事じゃない。むしろ二人なら、その可能性は大いにあり得る。まだ無駄や余計のある、けれどもそれを構成する魔法技術は惚れ惚れする程に、悔しい程に洗練された…二人らしい、突飛な攻撃。

……けど、わたしだってただやられているつもりはない。二人の意図が、これがどういう攻撃なのかはよく分かった。だからわたしはもう何度目か分からない回避をした直後に反転し、すぐに跳ね返ってくる魔力球を見据え…突き出した右手で、それを消し去る。

 

『……!』

「面白い技だったが…同じ一つの魔法を、わたしに見せ過ぎたな」

 

 対象となる魔法に対し、同量の魔力と、全く逆の性質を持つ術式をぶつける事によって、その魔法を無効化する技術、対魔術式魔法。避け続ける中で魔力球を分析したわたしは、それを用いて消滅させ…二人と向き直る。

 一瞬の沈黙、次の瞬間今度こそ放たれる包囲攻撃。だがそれが放たれるより早くわたしは包囲から脱出し、二人に仕掛ける……と見せかけて、急降下から戦斧を回収。

 

(大したもんだ…一対二だって事を差し引いても、攻防両方の面において段階が上がってやがる。こうなると、あぁいう合理性に欠ける攻撃も、逆に危ねぇな……)

 

 着地と同時に左脚を振り、右脚を軸に半回転。構え直すと同時に二人を見やり、ここまでで得られた情報を纏める。

 普段の二人なら、合理性のない攻撃は隙になる。だが今の二人には、その隙を埋めるだけの力がある。むしろその非合理な攻撃が流れの緩急となり、こっちの判断を狂わせる要因にすらなりかねない。

 なら、どうするか。一対二におけるセオリーはどちらか片方に攻撃を集中し、数的優位を活かした行動をさせない事で、連携する事によって1+1以上の力を発揮する二人には特に取るべき戦法だが…それは姉として、女神候補生に対する守護女神としてやるような戦法じゃねぇ。…だったら……

 

「…来いよ、ロム、ラム。理由はどうあれ、お姉ちゃんに…ホワイトハートに、喧嘩を売ったんだ。ならまさか、この程度でもうネタがなくなった…なんて言わねぇよなぁ?」

「む…言ったわね、おねえちゃん…!」

「だったらもっと、見せてあげる…っ!」

 

 二人を見上げ、戦斧を下段に構えたまま、わたしは薄く笑いを浮かべて言う。二人の今の実力を、心の中で認めた上で…二人の戦意を、駆り立てる。

 今の二人は強い。だがその強さはあくまで一つ一つの行動。点の攻撃、或いはその点を二つか三つ繋いだ程度の策が殆どで、長い線の、流れの動きは見られない。…だからわたしは、そこを突く。二人の攻撃を受け切り、捌き切り……尽きたところで、わたしが勝つ。

 

「あぁ見せてもらおうじゃねぇか、たっぷりとなッ!」

 

 八つの魔法陣を自身の上下左右に展開し、そこから巨大な氷杭を放つロムとラム。一つ目を避け、二つ目も避け、三つ目も回避し四つ目で氷杭を踏み付ける事によってわたしは真上に上昇。すぐに二人は魔法陣の向きを変えて攻撃を続行してくるが、その間にわたしは体勢を作り…飛んできた氷杭へフルスイング。刃に魔法で氷を…刃の両側へと氷を纏わせる事によって敢えて切断能力を下げ、その状態で振り抜く事で氷杭を二人へ打ち返す。

 

「わわっ…!…なーんて、ねっ!」

 

 一瞬驚いたような顔をしたラムだったが、どうやらそれは演技らしく、回避しつつも四つの魔法陣を二つずつで重ね合わせる。

 そこから放たれるのは、これまでよりも数倍のサイズを持つ氷杭。防御はともかく、流石にこれを即座に打ち返す事は無理だと判断したわたしはその氷杭を大きく迂回し…そこは火炎と電撃が強襲。ちっ、これはロムか…!

 

「抜かせないよ、おねえちゃん…ッ!」

「だと、思ったよ…ッ!」

 

 二つを避けると、次に迫ってきたのは光芒。氷を解除した戦斧で斬り裂きわたしは進もうとしたが、邪魔されている間にラムはわたしの直上へ。見上げた時、そこにあったのは菱形を作るように組み合わさった四つの魔法陣で…そこから降り注ぐのは、白く輝く魔力の雨。

 

「ホーリー、すぱーっくッ!」

「それだと攻撃ってより、わたしの動きを封じる呪文みたいになるな…ッ!(…いや、強ち間違いでもないか…?)」

 

 ここまでの攻撃とは段違いの、本当に雨が如き弾幕。一発一発はプロセッサで十分防げそうなレベルだが、物量が防御を不可能にしている。防御し切るなんざ、不可能だと見て分かる。

 わたしがその範囲から飛び退くば、薙ぎ払うようにして魔力の雨も追ってくる。向きも変えられるとなれば…わたしは二人に、近付けない。攻撃出来ない。

 

(…だが、こんな湯水の様に使う攻撃が長く続く筈がねぇ。んでもって、ロムは間違いなく切れた瞬間のサポートを考えている筈。だったら、ここは……)

 

 強行突破は出来ない。避けるしかない。けどだからって、思い切り逃げるような事はしない。避け切れるギリギリの距離を、ラムからしても集中砲火を浴びせられそうに思うだろう距離を全力でキープし、ラムにこの攻撃を続けさせる。ハイペースで魔力を消費させ続ける。

 そしてわたしの見立て通り、不意に途切れるラムの攻撃。組み合わさっていた魔法陣は四つに戻り…その瞬間を狙って、わたしは突っ込む。

 

「魔力切れ…じゃ、ねぇよなッ!思ったより判断が早ぇじゃねぇか!」

「ムリはきんもつだって、イリゼちゃんが言ってたもんね…ッ!」

「おねえちゃんも、よく言ってる…!」

「っと…そうだったな……ッ!」

 

 予想通り、ラムを守るように仕掛けられるロムからの攻撃。だが数手先を考えていた分わたしの方が動きは早く、届かなくなる前に迎撃を突破。ラムが次の行動に移ろうとする中、わたしは戦斧を斜めに振るい…後一歩のところで、回避される。

 それは、ラムが魔法陣を全て背面に配置する事で大きく機動力を上げた結果。そのままラムはわたしの背後へ回り込もうとし、わたしもまたラムを追う。ラムよりも内側の軌道を描いて、その背後を取りに動く。

 

「速ぇな、だがそのスピードは後ろを取るのに向いてねぇよ…ッ!」

 

 速ければ速い程曲がり辛くなるのは当然の事。ラムよりも小回りで逆に背後を取ったわたしはその勢いのまま横蹴りを打つが、ラムは背後を取るのを諦め離脱した事によって蹴りは空振り。入れ替わるようにロムがわたしの前に躍り出て、四つの内二つからは攻撃魔法を、残り二つからは魔力で編まれた帯を時間差有りで飛ばしてくる。

 

(やっぱりロムはラムのサポートを優先するか…って、いや待て…この時間差攻撃、まさか……ッ!)

「てぇええええいッ!」

 

 一斉じゃなく時間差が付いている分、一つ一つは避け易い。だがその避け易さに違和感を抱いたわたしは、反射的に振り返り…次の瞬間、視界に飛び込んできたのは突進してくるラムの姿。咄嗟にわたしが戦斧での防御をすると同時に、激しい衝撃が腕へと走る。

 加速を乗せて叩き込まれたのは、杖の上部から形成された氷の大剣。振りそのものは素人のそれだが、それでも魔法陣全てを起動強化に用いての突進斬りは…重い。

 

「さっきはハンマー、今は大剣か…ユニもだが、随分と前に出るようになったな…ッ!」

「ふっふん、今よロムちゃん!」

「今…?…っておいおい、ロムもかよ…ッ!」

 

 パワー偏重なラムの斬撃を横に流し急いで振り向けば、ロムもまたわたしへと肉薄。ロムも杖に氷の剣を、だがラムよりは短く細い、氷の刀とでも言うべき刃を形成し、鋭くわたしへ切り込んでくる。

 そっちもネプテューヌやマベちゃんに比べれば、拙い刀捌き。だがラムは大振りで気が引かれ易い攻撃を、ロムは素早く隙を突いてくるような攻撃を行う事で補い合い、わたしに隙へと付け入れさせない。…にしても、この攻撃は……

 

「あれか、あっちの二人の……」

「せーかいよッ!前からちょっとずつ、ロムちゃんとれんしゅーしてたんだからっ!」

「びっくりした?おねえちゃん…!」

「ああ、驚いたさ…けど、少し実戦投入が早過ぎたな…ッ!」

 

 こんな事も出来るんだから、そう言わんばかりに振り回す二人。色々チャレンジしてみるのは良い。女神の膂力と風魔法で上手い事扱っているのも評価は出来る。…だが、それでもやはり甘い。使いこなしているというよりも、今の二人は強引に近接格闘をしているだけ。

 だから、わたしには攻撃の軌道が読める。どこに仕掛けてくるか予想が付く。だったらそこに合わせて動きゃ…隙が出来る。

 

「そらよッ!」

 

 二人が同時攻撃に入った瞬間、わたしは二人の斬撃の間へ入るようにして回避。驚く二人に笑みを浮かべ、即座にロムへと打撃を一発。魔法陣で防がれた直後にわたしはその魔法陣を足場にし、飛び出すようにラムへと仕掛ける。

 振り抜く戦斧、無理な防御で砕ける氷剣。下がるラムへはゲフェーアリヒシュテルンで追撃をかけ、勘を頼りに急降下。すると思った通り、ロムの魔法が頭上を駆け抜け…いよいよわたしの認識は、推測から確信へ。

 

(やっぱり二人の攻撃に、大きな流れはねぇ。ビヨンドフォーム、ってやつの力も大体分かった。…そろそろ、決着だな……)

 

 急接近からの連続攻撃でロムを追い立てながら、わたしは心の中で決める。二人の成長、二人が新たに手にしたものは、よーく分かった。だから後は、それでもまだわたしが上だと、戦いってのはパワーやスピードだけじゃねぇんだって事を、分からせてやるだけ。

 

「…相手の本陣に少数精鋭で乗り込んで、正面からぶつかる…犯罪組織の時と言い、わたし達がいないと、毎回随分と大胆な策を取ってくるもんだな…ッ!」

「おねえちゃんたちだって、マジェコンヌさんの時は、そうだったでしょ…?」

「ま、確かにな…ッ!けど、今回は違ぇだろ?マジェコンヌの時は、犯罪組織の時と違って、他に戦力を割く必要はなかった筈だ。…そこまで自信があったのか?その、ビヨンドフォームに」

「そーよ!…って、言いたいところだけど……」

「…ちがうよ、おねえちゃん」

 

 だがその前に、一つ確かめておきたい事があった。きっとわたし達と戦う為、勝つ為に習得したビヨンドフォーム。それに絶対の自信を得た事で、自分達だけで勝とうと思ったのか、それとも別の理由があって少数精鋭を選んだのか、それは確かめておきたかった。

 その問いをわたしは、ロムに仕掛けながらぶつける。すると先に返してきたのは、側面から光芒を放ちながら戻ってきたラムで、言葉を引き継ぐようにして、ロムも言う。ロムが前者を、否定する。

 

「この力はね、おねえちゃんたちに勝つには、今のままじゃダメだって思ったから、がんばってしゅうとくしたの」

「でも、さいしょからそう考えてたわけじゃないわ。色々考えて、おはなしもして、それでわたしたちはわたしたちで、わたしたちの力でおねえちゃんに勝ちたいって思ってたの。だって…わたしたちも、女神だから」

「いつかじゃなくて、今勝ちたいって…そう、思ったの。もしかしたらね、がんばってもやっぱり、おねえちゃんには勝てないかもしれないけど…やる前に、あきらめたくは、なかったの」

「…そ、っか……」

 

 一度攻撃を止め、下がるわたし。二人もまた静かに並んで、二人で答えの続きを話す。二人の、女神候補生の思いを、真っ直ぐな瞳でわたしへと答える。

…正直言って、目頭が熱くなりそうだった。女神として勝ちたいという言葉に、何もせずに「勝てない」なんて諦めたくないという思いに、胸が一杯になりそうだった。言う訳にはいかないが…負けてやりたいとすら、わたしは思った。

 けど、わたしだって生半可な気持ちでくろめの味方をしている訳じゃない。ましてや二人に勝たせてやりたいから、わざと負ける?…そんな行為が、姉としてしてやるべき事な訳あるか。本気の思いに、手抜きの行動で返す事が、女神の誠意な訳がねぇ。…あぁ、そうだ。そういう事なら、尚更負けられない。二人の為に、お姉ちゃんの強さを見せてやらなきゃならねぇ。

 

「…だったら、もう何も言う事はねぇ。その力で、今、勝てるかどうか…ぶつけてみろ、ロムッ!ラムッ!」

『……ッ!』

 

 今の空気を斬り払うように、わたしは戦斧を振るって戦闘再開。停止状態から一気に加速し、全速力で二人へと突っ込む。

 反射的に放たれる、二人の迎撃。だがそれをわたしは最小限の回避だけで、更に数発は多少のダメージ覚悟でプロセッサで受けて、ほぼ真っ直ぐに突進を続行。止まらないと見た二人は左右下方へ回避し、ならばと私も無理矢理慣性を捩じ伏せ振り向く。

 向き直った時点で、二人はまた何か魔法陣を組み合わせた攻撃をしようとしていた。だがそうはさせない。わたしは身体の捻りも加える形で戦斧を投げ、放った戦斧はブーメランの様な軌道を描いて合体しようとする魔法陣を妨害。その上でもう一度わたしは二人を見据え…二人もまた、真っ向からわたしを見返し杖を掲げる。

 

「いくよ、おねえちゃん…ッ!」

「見せてあげるわ、おねえちゃんッ!」

 

 右手と左手、それぞれで持つ杖の先で生まれるのは、魔力による特製の氷塊。二人の最も得意とする、二人の絆の象徴の一つでもある魔法、アイスコフィン。

 そんな気はしていた。こうなれば、二人はこの魔法を使うと。この魔法を選ぶように、選びたくなるように、わたしは言葉と態度で仕向け…心の中で、ほくそ笑む。

 

(悪ぃな、ロム、ラム。わたしに二人を勝たせてやるつもりなんざ、ないんだよ。だから図らせてもらった。二人の全力を見た上で…わたしが勝つ為にな)

 

 わたしが再び突進する中、迎え撃つように放たれるアイスコフィン。魔法を全うに学んだ者なら誰もが一級のものだと認める二つの魔力氷がわたしに迫り…だからこそ、わたしは勝利を確信した。

 何故、わたしがアイスコフィンを出させたか。それは、わたしが二人の魔法の内、最も知っている一つだから。知っているという事はつまり、分かるという事。術式も性質も理解しているという事。知っている通りの、洗練された二人の氷魔法である事に、確信と共に安堵を抱き…わたしはそれ等を、消失させる。先の魔力球と同じように、対魔術式魔法で以って。

 

「ふん…ッ!」

 

 振り下ろす拳。もう一度避ける二人。だが二度目の今は、さっきよりも距離が近い。この距離ならば、逃がさない。

 着地と同時に脚を振り出し、その勢いで半回転。下がろうとする二人の姿をしっかりと捉え、床を踏み締め拳を握る。

 これで終いだ。一度に二人は無理だが、一対一となればここまでの均衡は完全に崩れる。だからもう、これ以上考える事はない。ただ飛び立ち、この一撃を決めるだけ。そしてそれを果たすべく、わたしは床を砕かんばかりに蹴り出して……

 

 

 

 

 

 

──だが、わたしが飛び立つ事はなかった。何かにわたしの脚を掴まれ……わたしの身体は、動かなかった。

 

「…は……?」

 

 がっちりと、完全に掴まれ覆われているような感覚。伏兵なんざいる訳がない。にも関わらず、動かない脚。訳が分からない。何一つ浮かばない。だからわたしは、視線を自らの足元に下ろし……そうして、気付いた。わたしの足元が、青白く輝き…床諸共、わたしの脚が凍らされている事に。

 

「…こ、れは……」

「ふぅ…作戦せいこーね、ロムちゃんっ!」

「作戦…?…まさか、床に…わたしがアイスコフィンを無効化してる間に、魔法を仕掛けておいたってか…?」

「ううん、もっと前だよ。…おねえちゃん、気づかなかった?」

「もっと、前…?…馬鹿言え、そんなタイミングどこにも……」

 

 上手くいった、とばかりに表情を輝かせるラム。まさかとわたしは言葉を返すが、ロムは横に首を振る。もっと前だと、そう言ってくる。

 そんな訳ない、それをわたしが見逃すものか。反射的にわたしはそう思った。だがその直後、わたしの視界に映ったのは、青白い光…床に展開された魔法陣の中にある、無数の氷片。小さく砕けた、氷の欠片で……

 

(これは…あの時の……ッ!)

 

 わたしは、思い出した。暫く前に二人が放った氷塊の内、他の魔法と違って消えるタイミングがやけに遅かった数発を。今わたしが立っているのと、その氷塊が落ちたのは、ほぼ同じ場所であると。

 攻撃魔法に偽装した、或いはそれに付与された、設置起動型の魔法。二人の意図に、狙っていた事に、漸くわたしが気付いた時、ロムとラムは掲げた杖を触れ合わせ…わたしの左右に、巨大な氷塊が現れる。

 

「…考えて、やがったのか…咄嗟にじゃなくて、一つの策としてじゃなくて、先を見越した仕込みとして、これを設置してたのか……」

「わたしたちががんばったのは、この力をしゅうとくすることだけじゃないんだよ?」

「うらのうらを読め、っておねえちゃんもイリゼさんも、ニンジャさんも言ってるもんね!」

「…は、はは……」

 

 茫然とする。唖然となる。こんな事をしてくるなんて、こんな策を仕掛けるなんて、想像すらもしなかった。二人の行動は、点か短い線止まり。戦闘の全体、最後までを考えた策なんて、まだそこまで考えが至らないと…だから一つ一つの行動を打ち破れば、それだけで「勝利」という終着点に自然と近付くと思っていた。

 だがこれはどうだ。今わたしが嵌められたのは、正にその「最後」までを考えた上での策じゃないか。予め仕掛け、それを気付かれないように立ち回り、ここぞというタイミングでそこへ誘導する。それは正しく、長い線としての戦術じゃないか。

 思い返せば、今回ロムとラムは魔法陣から魔法を放つ事に終始していた。意図的か無意識の判断かは分からないが、それも恐らくビヨンドフォームを、新たな力そのものを意識させ、力とは関係ない仕込みに気付き辛くする為の策だったのかもしれない。…だとしたら、わたしは……

 

(…わたしの方が、実力を見誤っていたって訳か……)

 

 悔しい。認めるのは、あまりにも悔しい。だが…認めるしかない。この一戦において、わたしは二人の成長を見ているようで…実際には、二人に踊らされていたんだと。術中に、嵌ってしまっていたんだと。

 迫り来る左右の氷塊。戦斧があればまだしも、今は投げ放ってしまった後。拘束する氷も、一瞬じゃ砕けない。……もう、戦況は覆らない。

 

「…どうだった?おねえちゃん」

「また強くなったでしょ?おねえちゃん」

 

 あぁ、本当に悔しい。情けない。二人には悪いが、正直ちょっと屈辱ですらある。…だがそれでも、心の中はすっとしていた。可愛い二人の妹が、こんなにも実力を付けたのかと思うと…認める気持ちの方が、ずっと大きくなっていった。

 自信満々に、尚且つ誇らしげに言う二人。その二人の顔を見て、わたしも自嘲気味に笑う。

 ったく、いつもわたしが知らない間に強くなってんじゃねぇよ。そんな思いを、わたしは心の中で呟き……そして氷塊が、わたしを無意識の闇へと沈めた。




今回のパロディ解説

・反射衛星砲
宇宙戦艦ヤマト(2199含む)に登場する兵器の事。この場面、SEED destinyのレクイエムの名前も出す事を考えました。レクイエムはまたちょっと違いますけどね。

・「ホーリー、すぱーっくッ!」
デュエル・マスターズに登場する呪文の一つの事。イラストは勿論、デュエプレだと実際光の雨ですからね。…あ、因みにこれ、この魔法の正式名称じゃないですよ…?

・「うらのうらを読め〜〜ニンジャさん〜〜」
NARUTOシリーズに登場するキャラの一人、はたけカカシの台詞の一つのパロディ。彼だけでなく、教え子のナルトやその息子のボルトも言う場面がありますね。
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