超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
ネプギアとネプテューヌ、ユニとノワール、ロムちゃんラムちゃんとブラン…姉妹で戦う形を取ったのは、勿論四人の思いを尊重したから。モチベーションの向上にも繋がると思ったから。…でも、それだけじゃない。機動力に長けるノワールには多彩な範囲攻撃を持つロムちゃんやラムちゃんを、防御を得意とするブランには高い貫通能力を持つ射撃が出来るユニを…という適材適所な組み合わせに敢えてしない事によって、その辺りの戦術は特に立ててない…と思わせようとしたのも理由。そう思ってくれれば、カニバル及びビヨンドフォームの修練と並行して行った『対守護女神戦術』への警戒が、そういう特訓もしたんだって事に気付く可能性が下がると私達は踏んだから。実際上手くいくかどうかは分からないけど…そこはもう、戦ってみるまで分からない。
その関係があるから、私はベールの相手をすると決まっていた。姉妹対決の形にしたのは、ネプテューヌ達の方だけど、姉妹対決の形になりさえすれば良いんだから問題ない。そして、今のネプギア達ならきっと勝てるから、私は無理に勝つ必要はない。負けさえしなければ、皆が勝つ事で自然と有利になるんだから。
とはいえ、だからってそんな気持ちじゃ戦わない。状況はどうあれ、今私が矛を交えているのは守護女神の一人。それに私は、姉に打ち勝とうとするネプギア達に指導をした身。だったら……私だって本気で勝ちにいかなきゃ、原初の女神の複製体の名折れというもの…ッ!
「そこッ!」
「甘いッ!」
足払いの様な下段斬りの直後、穂先を跳ね上げる様にして突き出される大槍の一撃。下段斬りを跳んで避けた私はそれに対して長剣をぶつけ、軌道を逸らすと同時にそのまま回転。お返しの回転斬りを叩き込み、それでベールを退かせる。
「…ふぅ。やはりこうして相対すると、貴女との戦いはやり辛いですわね」
「まあ、それが私の戦いだからね。…けど、そういう割にはまだまだ余裕そうじゃない?」
「どう戦うか、何が得意かは、よく知っていますもの。それに、まだ余裕があるのは…お互い様ではなくて?」
「…確かに、ねッ!」
互いに得物の届かない距離で止まった私達は、構え直しながら軽く言葉を交わす。お互い探りを入れるように言葉を発し、視線を交えて…再度接近。ほぼ同時に床を蹴って、得物同士をぶつかり合わせる。
せめぎ合いながら、ちらりと私は皆を確認。少し離れた位置にいるユニ、ロムちゃん、ラムちゃんは、それぞれビヨンドフォームの力を活かして戦っている。その上できっと、それぞれに策を巡らせ、展開している。そしてそれは…一番近くの、ネプギアだって同じ事。
「ふッ…はぁああぁぁぁぁッ!」
跳び上がっての、打ち付けるような振り下ろし。それをネプテューヌが後方への跳躍で避けると、ネプギアは待機させていた遠隔操作端末でネプテューヌを追い、ネプギア自身も床を蹴ってそこに追撃。端末の射撃で追い立てながらも、ネプギア自身も積極的にネプテューヌを攻め立て、反撃に転じる余裕を与えない。
良い動きだ。自分自身も真っ向から仕掛けつつ変幻自在に端末を動かしている分、消耗もそれなりにはあるだろうけど、ネプテューヌに対して互角以上に立ち回っている。少なくとも、サポートしてあげないと…なんて思いは、全くもって湧いてこない。
(…よし。だったら私も……)
ベールと数度刃を打ち合い、互いに弾かれた次の瞬間私はサマーソルトキック。それ自体はバックステップで回避されるも、回転しながら私は左手に四本の投げナイフを精製し、身体が再びベールの方を向き始めたところで一斉に投擲。一本ずつ指で挟んだ投げナイフは広がりながらベールへと飛び…けれど大槍の一振りで、当たる軌道を通っていたナイフは全て弾かれた。
でもそれは想定済み。回転終了と同時に私は床を蹴って懐へ飛び込む…と見せかけて長剣も投げ放ち、その上で突進。最初のナイフは今いる地点から逃がさない為の攻撃。長剣は弾く為に大振りの防御をさせる攻撃。そしてここからの打撃こそが…本命の攻撃…ッ!
「く……ッ!」
「まだ、まだぁッ!」
懐まで踏み込んでの一発目は、間一髪…本当に紙一重で躱される。けれどその時点で、ギリギリの回避。何度も続けられる訳がない。
だから私は、更に床を踏み締める。左に続いて二撃目を放つ為、脇を引き締め右の拳を握り締める。そして離れようとしているベールをしっかりと見据え……
(……!?今、視線が……)
その瞬間気付いた、ベールの視線の奇妙な動き。私ではない何かを、私よりも後ろの何かを見るように視線が動き、それが私の違和感となる。
ベールは今、何を見た?偶々、視線が別のものへと移っただけ?…違う、戦闘中にベールがそんな迂闊な事をする訳がない。…って、事は……。
「イリゼさんッ!」
「……っ!」
次の瞬間、背後から聞こえた声。それとほぼ同時に感じた、直感的な危険信号。そしてそれに従い私が上に跳んだ直後…私のいた場所を、後ろ向きのままネプテューヌが駆け抜ける。
「…ベール、これを分かって……」
「如何にネプギアちゃんが多数の砲を有しているとはいえ、至近距離ならわたくしの方が早く対応出来る、と思って待っていたのですけど…そう上手くはいかないものですわね」
私は後方に下がり、ネプテューヌは後方宙返りをかけて着地する中、ベールは残念そうに言う。…けど、残念なのは私の方。ネプテューヌの横槍が偶然なのか、意図的に飛んできたのかは分からないけど…チャンスが潰れたのは、私の方なんだから。
先程弾かれた長剣を私は拾い上げ、その間にネプテューヌはベールの隣へ。呼応するようにネプギアも私の側に降り立って、私達は各々構え直す。
「ここは協力しましょ、ベール。…ネプギア的には、一対一のままの方が良かったかしら?」
「ううん、別に構わないよ。…お姉ちゃんに勝つって目的は、変わらないんだから」
まだ余裕のある雰囲気で言うネプテューヌに、ネプギアもまた落ち着き払った声で返す。私とベールは、それぞれの言葉に頷いて…戦闘、再開。
一対一で戦うのが、考えていたプラン。でも二対二の形になる事も想定はしていたし、それならそれで続けるだけ。私もネプギアも多くの場数を踏んでいる以上、プラン通りじゃなきゃ戦えないなんて事はない。
模擬戦で結構な怪我を負ってしまったあの時の事は、まだよく覚えている。でも、ネプギアと連携して戦う事に、不安なんてない。…だって、そうでしょう?今のネプギア達を…その強さを、どれだけ信頼出来るかを、誰よりも知っているのは…この私なんだから。
*
今現在でも、ネプギアは強い。総合的にはわたしの方が上でも、わたしを上回っている部分なんて、幾つもあるのがネプギアだと、わたしは日頃から思っている。…けど、同時にまだネプギアは成長途中。まだ強くなる最中なんだとも思っていて…だからこそ、真正面からわたしとぶつかれる、全く劣る事なく戦えているネプギアに驚いた。驚いたし、喜びの感情は勿論あったし…だけどそれは、そうしなければならないと思わせたわたし達にあると考えると、複雑な気持ちでもあった。
正直言えば、ネプギアとは最後まで一対一で戦いたい。今のネプギアの強さを体感して、認めて、その上でまだ超えられない壁でありたいと、わたしは思うから。…けどこれは模擬戦じゃない。姉として以外にも、くろめの味方をしている以上、ただ勝つだけじゃなく、よりベストな勝ち方を選ぶ必要がある。だからわたしは、ベールと連携する事を選んだ。ビヨンドフォームは強力だけど…連携の上では、新しい力の分わたしとベールより、ネプギアとイリゼは練度に劣るものがある筈だから。
そう、これはより早く、より少ない消費で勝つ為の選択。ネプギアが強い事は、疑うまでもない。疑うつもりもないけど…だからって、負けるともわたしは思っていない。
「ネプテューヌ!」
「えぇッ!」
突進からの刺突を仕掛けるベール。それを飛んで避けるイリゼ。真後ろに付いていたわたしはベールが避けられた直後に引いた大槍の柄を踏み台にする事で素早く跳び、宙にいるイリゼへと袈裟懸けで追撃。長剣で防御したイリゼを弾き飛ばし、わたしは上から、ベールは横から更に仕掛けようとしたけれど、そこにネプギアのオールレンジ攻撃が入り、わたし達は接近を阻まれる。
「ありがと、ネプギア!」
「はいッ!」
着地と同時にイリゼが立て直すと、そのイリゼと入れ替わる形で端末は後退。イリゼはわたしに斬り掛かり、ネプギアは端末と共に光芒を放ちながら迎え撃つベールへ突っ込んでいく。
「中々ネプギアと息が合ってるじゃない、イリゼ…ッ!」
「当然…ッ!」
視線を交わらせ、大太刀と長剣で鍔迫り合い。互いに振り抜くようにして相手を弾き、そこから数度わたし達は斬り結ぶ。
「ネプギアちゃんと刃を交える事となるとは…わたくし、かなり複雑ですわ…ッ!」
「わたしもですよ、ベールさん…ッ!」
わたし達がぶつかるように、ネプギアとベールもまた激突。ベールの鋭くも激しい攻撃をM.P.B.Lの刀身で凌ぎながら、ネプギアも端末の砲撃を用いて反撃をかける。立ち回りに合わせて包囲からの全方位砲撃、左右に展開しての一斉砲撃、そして時には浮遊ユニットに装着しての照射と適宜運用方法を使い分け、わたしの時と同じ位上手く立ち回っている。…本当に、流石はネプギア。だけど……
(やっぱり、わたしの見立て通りね…)
今ネプギアは、自在に端末を操作して戦っている。でもさっきイリゼの援護に向かわせた時は、イリゼが立て直すまで妨害をしただけ。連携攻撃はしていなかったし、それはさっきだけの事じゃない。二対二となってからずっと、ネプギアはイリゼと連携をする時、端末を助ける時かわたし達が距離を開けようとした時位にしか使っていない。
理由は分かる。幾らネプギアの意思で動いていると言っても、端末からの攻撃はネプギア自身からの攻撃よりずっと読み辛いし、読み辛いのはイリゼも同じ。だからイリゼが接近戦をしようとすると、端末の攻撃はむしろ邪魔になってしまう可能性もある訳で…きっとそれを避ける為に、そういう時ネプギアは使用を控えている。これがユニちゃん達なら遠距離戦に専念する事で問題なく使えるんだろうけど…イリゼである以上、これが付け入る隙になる。
「…ベール」
「えぇ、わたくしも気付いていますわ。けれど…良いんですの?」
「勿論。手抜きも情けもかけない…それこそが姉として、守護女神として見せるべき姿だもの」
上を取り、そこから刺突。それ自体は難なく避けられたけど、避けられる前提だったわたしはそのまま加速し、ベールの背後を取ろうとする端末を追い払いながら素早く着地。包囲からの集中砲火を二人で斬り払いつつ、わたしとベールは言葉を交わす。
向こうの弱み、力を活かし切れない部分は見つけた。であれば、そこを攻めるのが戦闘のセオリー。これが試合且つ、格下相手って事ならまた別だけど…これは試合じゃないし、ましてや相手が格下だなんて、わたしはこれっぽっちも思っていない。
「イリゼさん!ここは……」
「うん、このまま畳み掛けるよッ!」
続くネプギアからの全方位攻撃。そこにイリゼの武器射出も加わって、尚且つネプギアはM.P.B.Lにエネルギーチャージ。イリゼも掲げた両手に巨大剣を精製し、遠隔攻撃でわたし達を押し留めながら重い一撃を放とうとする。
けれど、それは完全に見えている。だからわたしは、着実に包囲攻撃を凌ぎながら足元でエクスブレイドを精製。床から出すような形で発生させ、ベールと二人で打ち上げられるようにして包囲の外へ。
「ダイナミック、ですわね…!」
「久し振りにやったけど…上手くいって良かったわ…ッ!」
向こうの想定を超える形で一気に脱したわたしは、一直線にイリゼへ強襲。阻もうとするネプギアの前にベールもシレットスピアーを打ち込み、二人で今度こそイリゼへ仕掛ける。
「……っ…!急にペース、上げてきたね…ッ!」
「相手のペースを崩して綻びを突く事がイリゼの戦法。であれば、崩される前に決めるまでですわ…ッ!」
「確かにそうだね。でも、そういう……」
「そういう思考にも、付け入る隙はある、かしら?」
余力確保を二の次にした全力連撃で、イリゼに畳み掛ける。ベールの言葉にはまだ返す余裕のあったイリゼだけど、被せる形でわたしがその次の言葉を口にすると、イリゼの表情は俄かに歪む。
何度も共に戦った相手だからこそ、お互いの戦い方は熟知してる。だから読み合いじゃ差が生まれ辛いし、そうなれば数の差でこっちが有利。…でも、そう上手くはいかない。だってこれは、一時的な二対一に過ぎないんだから。
「そうは、させないよッ!」
せめぎ合いの形でベールがイリゼを抑え、その瞬間にわたしは背後へ。即座に一撃加えようとしたけど、そこにネプギアの射撃が走り、続いて斬撃も襲ってくる。
どちらも回避し、横薙ぎでの反撃から斬り結ぶわたし。振り抜いて強引に下がらせるとすぐに装着状態の端末四基から砲撃が放たれ、回避先へすぐにネプギアが飛んでくる。
「お姉ちゃん…お姉ちゃんは、リーンボックスでもう一人のイリゼさんと戦った…そうだよね…?」
「そう言うって事は、やっぱりネプギアもあの場に来たのね。…えぇ、そうよ」
「その時お姉ちゃんは、大きな怪我を負った…そうなんでしょ?」
「…………」
「…そこまで…そこまでして、お姉ちゃんがくろめさんの味方をする理由は何…?何が、お姉ちゃん達をそこまでさせるの…?」
再び斬り結び押し合う状態となったところで、ネプギアが発するわたしへの問い。それは、この戦闘そのものには関係ない…けど、わたし達が戦う最たる理由。
わたしは少し考える。答えるかどうか、答えるならどう答えるか。ほんの少しだけど考えて…力は一切抜く事なく、言う。
「…そうしたいから。そうしなきゃいけないって、思うから。曖昧な表現に聞こえるかもしれないけど、これがわたしにとっての理由よ」
「…本当に?それがお姉ちゃんの、何一つ曇りのない本当の理由だって、言い切れる?」
「勿論よ」
「…そっか」
理由を聞いたネプギアは、聞き返してくる。本当なのかと、わたしの目をじっと見つめて見返してくる。
でもここに、本当に嘘や偽りなんてない。曖昧な表現も、そうとしか言えないから。自分の心を見つめて出てくるのは、それだけだから。そしてそれだけだって事は…きっとこれが、わたしの本心。そう思うから、思っているから、わたしは戦っている。
声を張る事はない、静かな会話。その中でわたし達は、互いに少しずつ力を抜いていった。このまま押し合っても無駄に体力を使うだけだと分かったから、力を抜き…でも意識はいつでも相手を出し抜く事を考えている、力比べから駆け引きの時間に。そうして得物同士がほぼ触れ合ってるだけの状態まで力を抜いた時…一度口を噤んでいたネプギアは、再び口を開く。
「それならやっぱり、わたし達は今、お姉ちゃん達に勝たなきゃいけない。じゃなきゃ…いつか、取り返しが付かなくなった時に、きっとお姉ちゃん達は後悔するから」
「…気持ちは分かるわ。でも本当にわたし達は……」
「そうしたいって、そうしなきゃって、思うから。…わたしだって、理由は同じだよ。同じだし……お姉ちゃんって、割と言うべき事ははっきり言うタイプだもん。こういう時、曖昧な表現はしないもん。…だからやっぱり、違うんだよ。今のお姉ちゃんと、わたしの知ってるお姉ちゃんは」
はっきりと、真っ直ぐと、ネプギアはわたしの目を見て言い切る。ずっと前の、控えめで、あまり自分に自信のなかったあの頃とは完全に違う、一人の女神としての立ち姿を見せて。
ネプギアの成長は、よく知っているつもりだった。そのつもりだったけど…今こうしている中で、より深く知れたような、そんな気がする。それが、こういう形でというのは皮肉だけど…知らないままよりは、ずっといい。
…けど、少しむっともした。人の姿の時なら、「ネプギアの分からず屋ー!」…とでも言っていたと思う。…分かってくれないなら、やっぱり勝つしかない。勝って、これから示すしかない。
「だから、わたしは……」
「そうね。それ以上は…言わなくても分かるわッ!」
刃が完全に離れた瞬間、わたしは脇腹を狙ってのミドルキック、ネプギアは顔を狙っての左ストレートをそれぞれ使用。放ちながら相手の攻撃も認識したわたし達は、お互い避ける為に左へ飛んで…どちらも空振り。但し、ベール達との距離は違う。ネプギアは距離が離れたのに対し、わたしは近付く。
「隙有り…ッ!」
「くぅ……ッ!」
ターンと同時に加速し左斜め後方から肉薄したわたしは、そのまま斬り上げ。ベールに長剣を振るった直後だったイリゼは寸前で短剣を作り出し、それの根元で斬り上げをガード。けれどそうなればわたしとベール、二人に挟まれる形な訳で、イリゼが漏らすキツそうな声。
当然すぐに、ネプギアが割って入ろうとする。そうくると分かっていたから、わたしとベールは視線を介してタイミングを合わせ、同時にネプギアとは逆側に回転。大太刀と短剣、大槍と長剣越しにイリゼをネプギアの前へ押し出す。
『……っ!』
「言いましたでしょう?崩される前に、決めるとッ!」
強引に弾き出されたイリゼは、ネプギアとぶつかりかけて慌ててブレーキ。ここまでは狙い通りだけど、更に上手い事イリゼの身体が障害物になって、ネプギアが視界を確保出来ない状況が発生。こっちもネプギアの事はよく見えないけど…言うまでもなく、大きなチャンス。
「出し惜しみは……」
「しませんわッ!」
「……ッ、イリゼさんッ!」
姿勢を立て直してイリゼが横にズレつつ振り返ったのと、わたしとベールがそれぞれ小型のエクスブレイド、シレッドスピアーを打ち込んだのはほぼ同時。小型と言ってもわたしの大太刀やベールの大槍よりは大きいし、威力と速度も十分込めた。
狙ったのは、イリゼの方。でもイリゼより一瞬早く視界の開けたネプギアは弾かれるようにイリゼの前へと立ちはだかり、ブレイドとスピアーを同時に防御。間に合わせるのが精一杯だったネプギアはそのまま飛ばされ、真後ろのイリゼも巻き込んで…けれどこれはまだ、本命の攻撃じゃない。
『これで……ッ!』
二人が飛ばされていく最中にわたしは人差し指と中指を立てた状態の左手を掲げ、今度こそ巨大剣としてのエクスブレイドを精製。同じく普段のサイズでシレッドスピアーを展開するベールと再び合わせ、壁にぶつかる事で発生した煙へ向かって叩き込む。
飛び散る壁の破片と、更に広がる煙。これで決められたかどうかは分からない。決められたかもしれないけど、防ぎ切られているかもしれない。だから前者なら御の字で、後者なら次の手を打つまで。そう考えながら、わたし達は油断なく煙を見つめ……次の瞬間、弾丸の如く現れる影。
(……!イリゼ一人…?)
煙から出た後にシェアエナジーの爆発を使ったのか、ある地点で一気に加速が掛かるイリゼ。そこからの横薙ぎを跳躍で避けつつ視線を動かすけど、ネプギアが出てくる気配はない。
でもそれは、別におかしい事じゃない。防御したとはいえ、ネプギアは身を呈してイリゼを守った訳だし、位置の関係から本命の攻撃だって先に受けたのはネプギアな筈。なら戦闘不能になる事も、十分あり得る。
「全く…容赦がない事をしてくれる…ッ!」
「二人の実力を認めてるからこそよ…ッ!」
とはいえ身を隠して回復を図ってるだけかもしれないし、用心は必要。そう考えながらわたしは宙からの振り下ろしを打ち込み、対するイリゼは斬り上げで迎撃。側面からベールが仕掛けるとイリゼは長剣を手放す事で横に避け…両手に武器を作り出す。
右腕には先端に剣の付いた盾、左腕には両側面は刃状になった盾という、奇妙な見た目と組み合わせ。けどイリゼにふざけてるような気配はなく、瞳の光も至って本気。
「また、珍妙な武器を使ってきますわね…ッ!」
「盾だって使い方次第だよ…ッ!キャプテンにシールダー、某定理者と、先人達を見れば分かる通りに、ね…ッ!」
…ッ!」
「その人達は皆そこまで奇妙な盾は…っと……!(やっぱりやり辛いわね…)」
右の盾は刺突を、左の盾は打撃と横薙ぎを主体に防御を交えつつ攻めてくる。動き自体はそんな複雑じゃないし攻撃時は盾部分が丸ごとデットウェイトになるから怖くはないけど、複雑じゃなくても特殊な動きが多い分、それに合わせた立ち回りをするのが難しい。加えてメインは盾だから、流石に防御に回ると硬い。
「そうだ、まだ感謝を伝えてなかったわね…!」
「感謝…?」
「ネプギアの事よ。わたしがいない間、またネプギアを…ネプギア達を導いてくれた事、感謝するわ…ッ!」
「どう致しまして、と言いたいところだけど…そんな事を言う位なら、ちゃんと戻ってきてほしかったよ…ッ!」
頭を狙ったわたしの斬撃をしゃがむ事で避けたイリゼは、右の盾でベールの攻撃を阻みながら左の盾をわたしに向けて、そのまま跳び上がるような突進をかけてくる。それを大太刀の腹で防御し踏ん張ると、イリゼが発したのは切なさを滲ませたような言葉。その言葉に、ほんの少しだけどベールの表情は歪み…多分、わたしも似たような顔をしている。
今自分が、間違った事をしているとは思わない。だけど、友達にそんな声を出させてしまうのは辛い。ネプギア達の思いを考えれば、自責の念にも駆られてくる。…それでも、だからって刃は降ろせない。わたしは勝つと、勝って示すと決めたんだから。
「…イリゼ、貴女はどうなんですの?貴女は、わたくし達の事を……」
「私の気持ちは、ネプギア達と同じだよ。けど、それ以上に……私は私が、正しいと思っている…!私は四人が今、間違った事をしていると思っている…!故に、女神として、友として…勝利で以って、守護女神を正す…ッ!」
さっきの言葉を、切なげな雰囲気を払拭するように、堂々たる雰囲気で以って迫るイリゼ。…ここまで言い切られたら、嫌な気持ちになんてならない。むしろ、これこそイリゼだって、清々しささえどこか感じる。
そう。目的は同じ。わたし達も、イリゼ達も、目指すのは勝って示す事で…だけど、譲らない。勝つのは、示すのは、このわたし達。
さっきとは逆に、わたしが斬り上げを用いて迎撃。左の盾での追撃をしようとした瞬間、そこに合わせてベールが刺突し、勢いの乗っていなかったイリゼは押されて後退。そして狙い定めたわたしの上段斬りをギリギリ左の盾で受けた次の瞬間、盾は割れて砕け散る。
「ぐっ…だけど、まだ……ッ!」
「えぇ、まだ終わりではありませんわッ!」
反射的に前へ掲げられた右の盾を腕ごとかち上げるベールの蹴り上げと、そこから続く踵落とし。わたしの方へ右の盾を投棄したイリゼは交差させた両腕で受け、反撃の蹴りを放とうとするけど、大太刀で盾を弾いたわたしはそのまま滑り込むようにドロップキック。膝を蹴られて転倒したイリゼの呻き声が聞こえる中、もう一撃わたし達は仕掛けようとして…けれど転倒状態から強引に一回転してきたイリゼは、ハンドスプリングの要領で更に強引にわたし達を蹴ってくる。わたし達を引かせ、尚且つ自分は素早く着地し、精製した棒を手に床を蹴……ろうとした瞬間、ぐらりと揺れるイリゼの身体。
『……ッ!』
「しまっ…あぐ……ッ!」
それは、今受けた膝へのダメージによるぐらつき。隙を認識したわたしとベールは瞬時に仕掛け、同時攻撃でイリゼの身体を跳ね飛ばす。こうなる事は予想していなかったけど、嬉しい誤算。そしてこのチャンスを逃す理由は、どこにもない。
「これで終わりよ、イリゼッ!」
飛ばされた先で立て直そうとするイリゼに迫り、そのまま一閃。防御体勢が完成する前に放った一太刀で姿勢を崩し、大太刀に身を任せるようにしてわたしは左へ。がら空きとなったイリゼの正面、そこにベールが滑り込み、勝負を決める態勢に入る。
イリゼなら、ここからでも防ぐかもしれない。でも分かる。完全な防御は、間違いなく無理。仮にベールが防がれても、その次のわたしの攻撃で決着は付く。これで終わる。わたし達の、勝ちになる。
何一つ隙のない、ベールの動き。立て直しの間に合わない、イリゼの身体。左右も上も、イリゼが精製した武器なんてなく、この一撃を阻むものなんて何一つ……
「……かかったね、二人共…ネプギアッ!」
『……ッ!?』
そう、思った次の瞬間、イリゼが口元に浮かべたのは笑み。してやった、そう言わんばかりの表情を浮かべて…叫ぶ。イリゼと共に戦っていた、ネプギアの名前を。
イリゼの瞳が向くのはわたし達の後ろ。声とその視線で意味を理解したわたしとベールは、反射的に反転し…その最中、やられたと思った。これはベールの攻撃を中断させる為、わざとこういう事を言ったんだって。
けどそれならそれで、別に良い。完全な嘘ならこのまま回転斬りに移行するだけだし、もし本当にネプギアがまだ健在だったとしても…それはそれで、想定済み。作戦を組み直し、改めて確実に倒すだけ。…そう、わたしは思っていた。反転し、ネプギアの姿を見る……その時までは。
『な……ッ!?』
反転が終わり、ネプギアの姿を視認した直後、わたしもベールも揃って絶句。そこにあった光景に、目を見開く。
確かにそこでは、ネプギアが立っていた。しっかりと立ち、M.P.B.Lの銃口をこちらに向けていた。その銃口には、シェアエナジーの光が集まっていて…だけど、それだけじゃない。
ネプギアの正面、煙の晴れた空間で、高速回転を行っていた四基の端末。それはまるで、特殊な力場を作るような動きで……四基が作る円の中で輝くのは、幻想的な未知の光。
(あれは…NP粒子…!?いや、違う……ッ!?)
それが、どんな力を持った光かは分からない。けれど、危険なものである事は間違いない。だからわたし達は、避けようとする。わたしは右に、ベールは左に。けれどそこに響く…一つの声。
「受けてもらおうか、ネプギアの…私達の、一撃をッ!」
その声と共に感じる気配。本能的にわたしは左腕で防御をしようとしたけど……その直後に気付く。わたしとベール、それぞれの腕に分裂した棒が絡まる事に。棒は棒でも、それは七節棍であった事に。
七節棍は、拘束用の武器じゃない。一瞬あれば、引き剥がせる。…だけど、わたしは忘れていた。わたしの左腕は、本来の腕じゃない事に。ほんの僅かにだけど、反応が遅れてしまう事に。それは普通の戦闘なら問題ない誤差でも、一瞬で何かをしようとすれば、それは確かな差となってわたしを襲い…尚且つ七節棍が絡んでいるのは、わたしとベール、それぞれの腕。僅かな差が、微妙な動作のズレが、ベールを引っ張る形となってしまい……離脱が、遅れる。
「お姉ちゃんッ!ベールさんッ!二人の心は、わたしが必ず取り戻すッ!取り戻してみせるッ!だから、今は…少しだけ、眠っていてッ!」
あぁ、不味い。そう感じた時点で、もう間に合わない事は確定していた。その時にはもう、M.P.B.Lから光が放たれていた。
撃ち込まれる、一本の柱の様な射撃。それ自体、大出力のビーム攻撃で…だけとそれが四基の間を、形成された空間の中を通った瞬間、桁違いの光芒へと変貌。膨大な光の奔流に、目が眩む程の光の渦となってわたしとベール、二人に迫る。…やっぱりもう、間に合いはしない。
(……そっ、か…そうよね…能力やプロセッサが変わってたって、繋がる心は変わらない…。本質は何も変わってないんだって、わたしの知ってるネプギアのままだって、それに気付けなかったから…)
迫る光。確定した未来を前に、どこか静かになっていく思考。勝って示す筈だったのに、逆に示されてしまった。改めて、気付かされてしまった。…ネプギア達の、本当の強さを。
だけど、そこに鬱屈した気持ちはない。そういう事なら、その強さによって負けるなら、敗北を認められるような気もする。…そう、わたしの心は呟いて……わたしとベールは、光の奔流に飲み込まれた。
今回のパロディ解説
・キャプテン
マーベル・コミックのアメコミシリーズに登場するヒーローの一人、キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャーズの事。盾をメインにするといえば、まず彼ですね。
・シールダー
Fate/Ground Orderに登場するキャラの一人、マシュ・キリエライト及び彼女の属するクラスの事。二部以降はともかく、それまでは彼女の物も純粋な盾でしたね。
・某定理者
ラクエンロジックの主人公、剣美親の事。彼もメインの武器となるのは盾。上二人や他のキャラ(やロボット)もそうですが、盾は殴ったり投げたりする質量武器になりますね。