超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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百二十七話 一先ず一難去れども

 わたしとイリゼさんはお姉ちゃんとベールさんに、ユニちゃんはノワールさんに、ロムちゃんとラムちゃんはブランさんに…わたし達は、お姉ちゃん達に勝った。本気のお姉ちゃん達に、真っ向からの勝負で、お姉ちゃん達から勝利を掴み取った。

 少し前までなら、想像もしなかった。わたしが、わたし達が、お姉ちゃん達と戦うなんて。本気で勝とうとして、本当に勝ってしまうなんて。…でもこれは、夢じゃない。偶然でもないし、今わたしの心に驚きはない。勝てた喜びはあるけど、ほっとしてる部分もあるけど…勝てるって、分かっていたから。勝てると本気で思って、お姉ちゃん達とぶつかったから。

 勿論、これはまだお姉ちゃん達を超えたって事じゃない。女神は戦闘能力だけじゃないし、やっぱりわたしの目には本来の、本当のお姉ちゃんじゃなかったように見えたから。だからまだわたしは、わたし達は、お姉ちゃん達を超えていない。超えていないけど……それでもわたし達は、勝ったんだ。

 

「おろすよー、ロムちゃん」

「うん、ゆっくり…ね?」

 

 気を失った状態のブランさんを抱えた状態から、ゆっくりと降ろすロムちゃんラムちゃん。無事に勝てたわたし達は、お姉ちゃん達四人を近い場所で寝かせて…それで漸く、一息吐く。

 ビヨンドフォームは解いたけど、運ぶ為にここまでわたし達は女神化状態を維持していた。それに、お姉ちゃん達には勝てたとはいえ、ここがくろめさん達の拠点である事は分からないんだから、まだ気も抜けない。

 

「…よし。まずはお疲れ様、四人共。皆…よく、頑張ったね」

 

 全員が気絶している事、伏兵やモンスターの姿はない事を確認したところで、イリゼさんからかけられた言葉。その言葉に、わたし達はゆっくりと頷く。

 

「…ふふっ、良い顔をしてるよ、四人共。大きな事を成し遂げた…立派な女神の顔をしてる」

「…はい。これも、イリゼさんのおかげです」

「何を言ってるの、これは四人の努力と信念の賜物だよ。…まぁ、それにしても全員、エゲツない締め方をしたとは思うけどね……」

『それは、まぁ……』

 

 ビヨンドフォームを掴む事が出来たのは、お姉ちゃん達に勝てたのは、イリゼさんが最後まで力になってくれたから。支えてくれたから。その感謝を込めて言葉を返すと、イリゼさんは軽く笑いながら肩を竦め…それから、何とも言えない表情に。わたしとユニちゃんも返す言葉が見つからず、ちょっと目を逸らしながらお茶を濁す。

 勿論、恨みとかがあって過剰な攻撃をした訳じゃない。生半可な攻撃じゃ耐えられてしまう可能性があったから、わたしはあの攻撃を選択した。…けど確かに、相手がお姉ちゃんとベールさんだったから良いものの、他の相手だったら大怪我どころか塵一つ残らない結果になっていただろうし、ユニちゃんが最後にやった事は多分一番容赦がないし…ロムちゃんラムちゃんに至っては、女神じゃなきゃモザイク必死の光景になっていてもおかしくない。当の二人はぽかーんとしてるけど……やっぱり、あれかな…ビヨンドって言っても負のシェアが流れ込んでる事には変わらないし、そういう部分は少なからずカニバルフォームから引き継いじゃってるのかな…。

 

「こ、こほん。ともかくこれで、一番の山場は切り抜けた訳だけど……」

「はい、分かってます。まだ、お姉ちゃん達を正気に戻す段階が残ってますもんね」

「そういう事。やる事自体はそんなに難しくないから失敗する事はないと思うけど、一応やってる間の周辺警戒は私が…、っ……!」

 

 気を取り直すように咳払いをしたイリゼさんの言葉を、ユニちゃんが引き継ぐ。それにまた、わたし達は一つ頷く。

 そう。それが終わらなきゃ、そこまでやらなきゃ、お姉ちゃん達を取り戻した事にならない。それにお姉ちゃん達がいつ起きるか分からないから、早めにやるに越した事はない。…そう、私が考えている時だった。不意にイリゼさんは言葉を詰まらせ、片膝を折ったのは。

 

『イリゼ(さん・ちゃん)…!?』

 

 片膝立ちの状態になって、床に突けていない方の…さっきの戦闘で、お姉ちゃんに蹴られた膝を押さえるイリゼさん。慌ててわたし達が駆け寄る中、イリゼさんは困ったような顔で笑う。

 

「はは…心配かけちゃってごめんね、皆…。でも、大丈夫。ほら、この通り…ちょっと違和感はあるけど、動かせはするから」

「でも今、いたそうだった…(しんぱい)」

「いたくなかったら、しゃがんだりなんてしないでしょ?もー、ちゃんと見せてよね」

「あ、はい……」

 

 大丈夫と言うイリゼさんをその場に触らせて、じーっと見た後治癒魔法をかけるロムちゃんとラムちゃんの二人。

 多分イリゼさんは、わたし達に心配をかけまいと笑みを浮かべ、動く姿を見せたんだと思う。けど、それで「ならいっかー」ってなる程わたし達は単純じゃない訳で…流石に誤魔化されませんからね、イリゼさん。

 

「…そういえば、外観じゃ打撲なのか、骨折なのか、それとも本当に何ともないのか、全然分からないわよね。なのに、治癒なんて出来るのかしら……」

「まあ、そこは魔法だし、何か不思議な力が働いてる…とかじゃないかな?コンパさんから教わったわたしの治癒魔法は、手当ての知識と技術がベースだから、その辺りが分からないと上手く治癒出来ないんだけど…」

 

 二人が治癒魔法をかけている間、わたしとユニちゃんはそんなやり取りを交わす。そうして数十秒後、二人による治癒は終わって…会話も、本題に復帰。

 

「ありがとう、二人共。…それじゃあ、改めて…周辺の警戒は私がするから、四人はネプテューヌ達をお願い」

 

 再びわたし達はこくりと頷き、それからそれぞれお姉ちゃん達の横へ。両膝を突いて、その場に座って…用意しておいた、お姉ちゃんが作って保管しておいた、シェアクリスタルの一つを取り出す。

 外部から正常なシェアエナジーを送り込む事で、精神干渉を打ち破って、或いはこのシェアエナジーを打ち破る為の力としてもらって、お姉ちゃん達を取り戻す。そう表現すると、何だか難しそうでもあるけど…実際には単純。ここからするのは、物凄く簡単な事。だって要は、これを取り込んでもらうだけだから。それだけで、わたし達がすべき事は終わるし…後は、お姉ちゃん達を信じるしかない。

 

(…ねぇ、お姉ちゃん。やっぱりわたし、お姉ちゃんがいなきゃ嫌だよ。コンパさんもアイエフさんも、皆がお姉ちゃん達を待ってるんだよ。だって、わたしにとっては家族で、皆さんにとっては友達で、国民の人達からすれば女神の…わたし達皆にとっての大切な存在に、ずっと前からお姉ちゃんはなっているんだから。だから…戻ってきて、お姉ちゃん)

 

 別に、こうした方が良いって言われた訳じゃない。だけどわたしは送る直前、シェアクリスタルを胸の前で両手で握って、祈るように思いを込める。シェアクリスタルなら、きっとこの思いも一緒に届けてくれる。そう、信じて。

 そしてわたし達は、その行程に入る。意識のないお姉ちゃん達へ、シェアクリスタルを…シェアエナジーを送り込む手段として…………口の中に、そのまま突っ込む。

 

((……シュールだ…))

 

 ちゃんと入る位まで口を開けて、その中にクリスタルを入れて、顎を上げて飲み込んでもらう。…分かってはいたけど…客観的に見ても、目的としている事柄から考えても、この方法は恐ろしくシュール。結構重要な、言ってしまえばシリアスな雰囲気にもなりそうな段階なのに…シュール過ぎて、雰囲気も何だか変な感じに。

 

「これで後は、待つだけよね。……の、のどにつまらせたりとかしないかしら…」

「だ、大丈夫でしょ。シェアクリスタルなんだから…」

「お水、出す…?」

 

 そんな雰囲気のせいか、飲んでもらった後に交わされる会話もどこか間抜けな感じのもの。お姉ちゃんに飲んでもらった後、わたしはもう一つの…チカさんから渡されたシェアクリスタルを手に、ベールさんにもそれを飲ませる。…勿論、こっちのシェアクリスタルにも思いを込めて。優しくて、大人で、でもお茶目なところもある、ベールさんも…わたしの憧れの、戻ってきてほしい人の一人だから。

 

「…後は、お姉ちゃん達が目覚めるのを待つだけね…ここでそのまま待ちます?それとも、先にここから運んでしまうか……」

「…待とうか。ここは敵陣な以上、四人を抱えて移動するのは危険が伴うし……万が一、って事もあるし」

 

 一拍置いて、それからイリゼさんの言った言葉。万が一…わたし達の見立てが外れていて、お姉ちゃん達が正気に戻る事なく目覚めてしまうという可能性。そうなってはほしくないけど、確かにそこは考えなきゃいけない。そして…これも、信じるしかない。これで、お姉ちゃん達が戻ってきてくれる事を。

 

「…とはいえ、今ここに敵がいる訳じゃないし、やる事がないのも事実…。さて、どうしようか……」

「…あ。イリゼさん。大きいお姉ちゃんに頼んで、一度別の場所に移るのはどうです?その方が、わたし達も落ち着いて待てますし」

「確かにそうだね。ネプテューヌ、そういう事だからまたお願いしたいんだけど……」

 

 わたしからの提案に頷いて、イリゼさんはくるりと反転。同じようにわたし達も振り向いて、下がってもらっていた大きいお姉ちゃんの方へ視線を…視線、を……

 

…………。

 

………………。

 

 

『……あれ!?いない!?』

 

 影も形もない大きいお姉ちゃんに、揃って目を見開くわたし達五人。え…ほ、ほんとにいない!?そういえば、さっきから大きいお姉ちゃんはやけに静かだなぁと思ったけど……そもそもいなくなってたの!?

 

「お、お姉ちゃん!?お姉ちゃーん!?」

「ほ、本当にいない…ここじゃどこにいても危ないと思って、もっと遠くまで退避したって事…?」

「…もしかしておっきいネプテューヌちゃん、ネプギアのビームで……」

「ふぇっ…!?そ、そうなの…(がくがく)」

「えぇぇ!?ち、違うよ!?そ、そんな事にはなってない筈だよ…!?」

 

 急いで探してみるわたし達だけど、戦闘で出来た穴や瓦礫の裏にも大きいお姉ちゃんはいない。しかもはっとした顔のラムちゃんに恐ろしい「もしや」を言われて、更にわたしは慌てながら否定。う、撃つ時は間違いなく射線上に大きいお姉ちゃんはいなかったし、そんな事はない筈…ない筈だよね……!?

 

「お、落ち着いて皆。女神じゃなくともネプテューヌなんだから、そんな事にはなってない筈…。…っと、そうだ。大きいネプテューヌにもインカムは渡してあるんだから、それで連絡を取れば良いんだよ、うん…」

「あ、そ、そうですね…。そうだ、そうだった……」

 

 本当に慌てたわたしだけど、言われてみればその通り。どこかに移動したって事なら、取り敢えずこれで確かめられる。

 連絡をするのに、特に待つ理由はない。そう思ったわたしは早速交信をかけようとして……

 

「…待った、ネプギア」

 

 そこで、ユニちゃんに止められる。顎に親指と人差し指を当てて、真剣な表情をした、ユニちゃんに。

 

「……?ユニちゃん…?」

「…おかしいと思わない?確かにここに留まるのには危険があるし、離れておくっていうのは分かるわ。でも、戦闘終了が分からない、今さっきネプギアが出した声量でも気付かない場所まで離れちゃったら、それはそれで危険でしょ?だってここは、敵陣なんだから」

「…それは、そうだね…」

「それに、何も言わずに…ってのも引っかかるわ。相手はお姉ちゃん達なんだから、離脱しようとするネプテューヌさんを優先的に狙うなんて事は、考え辛いでしょ?…まぁ、これに関してはまだ付き合いの浅い大きいネプテューヌさんとアタシ達で、認識の差があるだろうから微妙なところだけど…はっきり言って、変よ。この状況も、ここまでの経緯も」

 

 わたし達が見つめる中、神妙な面持ちでユニちゃんは言う。大きいお姉ちゃんがいない事に対して、おかしい…と。

 その内容に、明らかな間違いはない。推測も混じってるけど、ユニちゃんの言う事にはわたしも同意出来る。…でも、それって…ユニちゃんが、考えてる事って……。

 

「ヘン…じゃあ、ユニはどう思うのよ?まさか、やっぱりネプギアが……」

「いやそうじゃなくて…この場の事、ここを知っていた事、理由の説明を待ってほしいと言った事…全部の事を考えると、やっぱりアタシは……」

「…怪しいね。ネプテューヌは、何か知って…ううん、関わっているのかもしれない。…あくまで、可能性の話だけどね」

 

 訊かれる形で、結論を口にしようとしたユニちゃん。けれどそれに先んじる形で、ユニちゃんが言おうとするのを制するように、「怪しい」とイリゼさんは言った。

 怪しいという、イリゼさんの言葉。大きいお姉ちゃんに対する、疑念の視線。…それを、わたしは否定出来ない。

 

「じゃあ、おっきいネプテューヌさん…にげちゃったってこと…?」

「かもしれないね。…だからさ、探そっか。これが勘違いか、そうじゃないのか確かめる為に。大きいネプテューヌから、本当の事を聞く為に」

 

 不安そうに言うロムちゃんへ、イリゼさんは肩を竦める。肩を竦めて、柔らかい声音で…でも真面目な顔をして、言った。探してみよう、って。

 さっきわたしは、否定出来なかった。大きいお姉ちゃんの事を信じてはいるけど、何かある、何か隠してると感じていたのも事実だから。あの時わたしは信じると答えたけど…信じるっていうのは、おかしいと思う心に蓋をする為の行為ではないから。

 どうして姿を消したのか、お姉ちゃんは何を考えているのか。…それは分からない。分からないからこそ……わたしは知りたい。確かめたい。その上で…やっぱり、信じたい。

 

「…賛成です、イリゼさん。皆…大きいお姉ちゃんの事、探そうよ。イリゼさんの言う事もそうだけど、もしかしたら緊急事態が起きて、遠くに逃げるしかなかっただけ…って可能性も、まだ残ってるもん」

 

 まず頷いて、それから三人の方を向いて、わたしはわたしの意思を示す。わたしはそうしたいって、三人に伝える。それを聞いた三人も、それぞれの表情で頷いてくれて…大きいお姉ちゃんを探す事に、真意を確かめる事にわたし達は決める。

 話し合いの結果、イリゼさんはここに残って、わたし達四人で探す事に。もうずっと遠くまで行っちゃったのかもしれないし、大きいお姉ちゃんの本心が、わたしの望むものとは違うかもしれない。だから、ちゃんと確かめよう。不安だから、確かめないでおくんじゃなくて…胸を張って、信じる為に。

 

 

 

 

 全く情けない話だけど、大きいネプテューヌがいなくなっていた事に、全くもって気付かなかった。戦闘中はともかく、終わってからもあの段階に至るまで気付かなかったっていうのは、かなり大きな反省ポイント。

 そのネプテューヌを、これからネプギア達が探しにいく。全員で行かないのは、言うまでもなくネプテューヌ達を放置は出来ないから。私が残るのは、もしネプテューヌ達が正気に戻らなかった際、力尽くで押さえ込む事を考えれば私が一番向いているからで…皆には言わなかったけど、ネプギア達の精神的にはここでただ結果を待つより、確かめる為に動く方がまだ楽だろうと思ったのも、私が残ると決めた理由の一つ。

 

「イリゼちゃん、おねえちゃんたちをお願いね?」

「何かあったら、すぐよんでね…?」

「分かってる。四人こそ、危ない時は勿論だけど、何かおかしいと感じた時も連絡してね?」

 

 これといってするべき準備もなく、決まってすぐに四人は元来た道の方へ…大きいネプテューヌが行った筈の方へと向かう。

…と、思ったけれど、そこで「ちょっと待って」のジェスチャーをし、私の方へ戻ってくる子が一人。

 

「…ユニ?どうかしたの?」

「…イリゼさん。さっきは、ありがとうございました」

「……と、いうと?」

「さっき、アタシに被せる形で大きいネプテューヌさんが怪しいと言ったのは…それをアタシが言う事で、ネプギア達と軋轢が生まれるのを防ぐ為、ですよね」

 

 小さく頭を下げ、訊き返す私へと話すユニ。ありがとう、の時点で薄々そんな気はしていたけど…やっぱり、この事だった。

 正直に言えば、それはその通り。ネプギアにとっては言うまでもなく姉の同一人物な訳だし、ロムちゃんラムちゃんにしたって、ユニがそれを言えば「酷い」と思ってしまう可能性がある。対等で友達なユニと、一応は目上な私とじゃ、同じ発言でも感じるものは変わると思う。だから、ユニに言わせない為に言ったんだけど……

 

「…どうだろうね。何となく、あのタイミングで言いたくなっただけかもしれない」

「え…?そんな、別に今ははぐらかさなくても……」

「まあまあ、これは重要な事でもないでしょ?だから、神のみぞ知る…って事で、ね?」

「いや、アタシもイリゼさんも女『神』なんですが……」

「そこは目敏く突っ込んでこなくていいの。ほら、行った行った」

 

 返答として私が言ったのは、肯定も否定もしない、誤魔化しの言葉。言いながら私はユニの肩を掴んで反転させ、ネプギア達の方へと押す。…え?なんで誤魔化したかって?そりゃ…ここでそれを素直に肯定しちゃったら、格好悪いからね。

 

「うぅ…そう言うならアタシもこれ以上は言いませんけど…とにかく、感謝します」

「うんうん。じゃあ取り敢えずは受け取っておくね」

 

 小走りで戻るユニを見送って、それから私は肩を竦める。ほんと、ユニは律儀だね、と思いながら。

 誤魔化したのは、格好悪い…もっと言えば、恩着せがましくなっちゃうから。それにもう一つ理由を挙げるとすれば…私は別に、誰かが悪役になるべきなら、自分がなれば良い…なんていう自己犠牲を是としてる訳じゃない。さっきはそういう感じになっちゃったけど、悪役を、誰かが傷付く事を仕方ないとは思わないし、犠牲を容認するのは女神として正しいとも思わない。でもあそこで「そうだ」と答えてしまえば、自己犠牲を是としているようにもなってしまう訳で…って、私は誰に説明してるんだろうね。私の犠牲に対する価値観なんて、別に……って、あ…あれだよ!?私はそう思うってだけで、古今東西の自己犠牲を非難してる訳じゃないよ!?いや勿論、犠牲なんて払わずに済んだ方が良いに決まってるけども!

 

「…うん、落ち着け私…完全に一人でテンパってるから……」

 

 言い聞かせるように自分へ対して言った後、私ははぁ…と嘆息を漏らす。さっきの膝といい今といい、どうも私は自分で思っている以上に疲れているのかもしれない。まあ、戦いが戦いなんだから、当然と言えば当然だけど。…にしても、さっきのは完全に情けなかったなぁ…ロムちゃんラムちゃんに困った子扱いされちゃったし…あの時はもっと軽い調子を出して、「膝に矢を受けてしまって」とか言えばただの冗談に……見えないか。ネプテューヌならともかく、私の場合…。

 

「…しょうもない事考えてないで、警戒続けよ……」

 

 変な疲労感に襲われた私はがっくりと肩を落とし、それから気持ちを切り替える。

 正気に戻らない可能性もそうだけど、別の敵に襲われる可能性もあるし、意識のない四人を守りながらの戦闘はかなりの不利。こんな中で不意打ちなんてされたら堪ったものじゃないんだから、十二分に警戒をしておかなくちゃいけない。私が残ると言った以上、私には皆の分も守る責任が……

 

「……っ、ぅ…」

「……!ネプテューヌ…!?」

 

 そう思った直後、僅かに震えたネプテューヌの瞼。気付いた瞬間私の中で緊張が走って、さっきのネプギアの様にネプテューヌの側へ。

 どうも完全に意識が戻った訳じゃないらしく、呼び掛けても反応はない。無反応だから、今のネプテューヌがどういう状態かも分からない。…けど、今のは恐らく意識が戻り掛けてるって事。そう信じて私は警戒を維持しつつ、ネプテューヌ達四人をじっと見つめ……次の瞬間、私は愕然とした。

 

「…え……?…こ、これ…って……」

 

 

 

 

 通路を進む、一つの人影。全速力ではないものの、その人影は…ネプテューヌは、走り続けていた。この場所のどこかにいる、ある人物と会う為に。

 

「……っ…ここにもいない…」

 

 幾つか心当たりのある部屋や広間を探すネプテューヌだが、探している人物の姿はない。

 巻き込まれないよう、邪魔にならないよう女神同士の戦いから離れ、しかし居ても立っても居られなくなり、探し始めてから十数分。見つからない事と、誰にも言わずに別行動を取ってしまった事で、ネプテューヌの心の中では段々と焦りの感情が広がり……しかしそこに、やや皮肉めいた声がかけられる。

 

「らしくない顔してんなぁ。ステイクールに行こうぜ?」

「……っ!クロちゃんだからって、某黒の剣士さんの真似とかしなくていいから…!」

 

 焦り故か、声に対し余裕のない反応を返すネプテューヌ。しかし声の主、クロワールに強く当たっても仕方ないと考え直し、話を変えて言葉を続ける。

 

「…久し振りに喋ったじゃん、クロちゃん……」

「うん?そうか?」

「そうだよ、具体的には第……」

「いやメタ視点での回答は要らねぇよ…後最近は登場してない回もそこそこあるんだから、それで言うとむしろややこしくなるだろうが……」

「そんなのどうでも…いい、って言うと何かネプテューヌの名折れな気がするから言わないけど…冗談抜きに、クロちゃん妙に静かだったじゃん。姉妹対決になりそうって時は興味示してた癖に…。…何か、企んでるの…?」

 

 途中些か気の抜けたやり取りも混じってはいたが、ネプテューヌの表情は大いに真面目。その表情で、半ば問い詰めるようにネプテューヌは訊くが…対するクロワールはどこ吹く風。

 

「さぁな。それより良いのかよ、お前一人で」

「…大丈夫だよ。わたしは戦いに行く訳じゃないんだから。これから会うのは…敵じゃ、ないんだから」

「へっ、そうかい。だったら俺は、楽しみにさせてもらうぜ?」

「楽しみ…?クロちゃん、何を言って……」

 

 元々クロワールは、かなり利己的思考の強い存在。しかしそれを差し引いても尚含みを感じる言い方に、ネプテューヌはその意味を問い質そうとする。

 だがその瞬間、不意に感じた一対の視線。今いる先の空間から感じる、確かな気配。そしてネプテューヌが直感的に感じたのは…それが、自分の探している存在だという事。

 直前のクロワールの発言もあり、一瞬躊躇ったネプテューヌ。しかし、引き返す訳にはいかない。直前で怖気付いて踵を返す程、生半可な気持ちでは来ていない。…そう、自分の気持ちを確認したネプテューヌは、小さく一つ深呼吸をし……中へと、入る。

 

「…やっぱり一人で来たんだね、ねぷっち」

「…くろめ……」

 

 戦闘が行われている空間程ではないものの、それなりの広さを有する広間。そこでネプテューヌを待っていたのは…くろめ。

 いつものように、くろめが浮かべているのは薄い笑い。だが、その瞳の奥に籠る感情の光は…普段ネプテューヌへ向けているものよりも、暗い。

 

「…ねぷっち。オレは君に、言いたい事がある。凄く言いたい事があるんだ。…けど、それはねぷっちも同じみたいだからね。だから、先は譲るよ」

 

 不敵に、余裕たっぷりに、本心を感じさせる事なくくろめは言う。その声に、雰囲気に、自然とネプテューヌが感じるのは緊張。

 しかし今くろめが言及した通り、ネプテューヌには彼女に言いたい事がある。言わなければならない言葉がある。だからこそ、ネプテューヌはくろめの瞳を真正面から見つめ返し……言った。

 

「…ねぇ、くろめ。もう、止めようよ…」

「止める?何をだい?」

「全部だよ…今してる事も、これからしようとしてる事も、全部…」

「…それは、冗談で言っているのかな?だとしたら、あまり笑えない……」

「冗談じゃないよ…冗談なんかじゃないよ…!わたしはくろめを、ずっと信じてきた。くろめが本当は悪人なんかじゃないって信じて、だから力も貸してきた。けど、けど…こんな事までして、今も続けてて、しかもそれを何一つ悪いと思っていないような姿を見せられたら…わたしはもう、くろめに協力なんて出来ないよ…ッ!」

 

 穏やかに返すくろめの言葉を断ち切るように、ネプテューヌが発する切実な言葉。信じてきた。そこに「これからも信じたい」という思いを滲ませながら、それでも苦悩の表情と共に発した言葉。

 それをくろめは、口を挟む事なく聞いていた。静かに、彼女もまたネプテューヌをじっと見つめ、ネプテューヌが言い切るまでを待っていた。そしてネプテューヌが言い切り、訪れた沈黙。クロワールを収めた本を持つ右手、空の左手、その両方を強く握り締めて、ネプテューヌが辛そうに俯く中……くろめは、笑う。




今回のパロディ解説

・膝に矢を受けてしまって
The Elder Scrolls V: Skyrimに登場する衛兵の台詞のパロディ。受けたのは矢ではなくドロップキックですね。それにイリゼはこれで一線を引く…なんて事もありません。

・某黒の剣士
ソードアート・オンラインの主人公、キリトこと桐ヶ谷和人の異名の事。クロワールの場合なら…黒の記録者、でしょうか?又は黒の史書…ですかね?
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