超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第七話 紐解ける疑問

 崩れた天井に続いて、床に開いた大穴。そこからイリゼとるーちゃんが落ちたと聞いて、俺は不安で不安で仕方なくなった。あの時俺が何か出来ていたらとか、もっと慎重に進んでいたらとか、色々な後悔が心の中を渦巻いたし……そういう気持ち抜きにも、イリゼにもしもの事があったらと思うと、とても落ち着いてなんかいられなかった。

 そんな状態で原因であるボスゴドラとバンギラスを止めようとする最中、グレイブに(ちょっと悔しいけど)諭され、漸く冷静さを取り戻した俺はグレイブと共に二匹の戦闘を強引に終わらせ、イリゼ達を助ける為に地下へと向かった。きっとイリゼなら大丈夫、どっちも無事だと、そう信じて。

 走って、降りて、また走って。息の上がった身体を気持ちだけで動かし続けて、遂に辿り着いた地下のある場所。そこでは戦いが繰り広げられていた。そう、一方的に襲われているのではなく、戦いが…それも、たった一匹が多数を同時に相手取る、歴戦の猛者の様な戦いが繰り広げられていて……しかもそれを行っているのは、意外過ぎるポケモンだった。

 

『…チルタリス……』

 

 ぼそり、とほぼ同時に呟く俺とグレイブ。この場で一番の存在感を放つ、綿雲の様な翼を悠然と広げて飛ぶそのポケモンは、チルタリス以外の何者でもない。

 チルタリスは遺跡に住処を作るようなポケモンじゃないし、仮にここの近くへ飛んでくる事があったとしても、こんな地下に迷い込むとは思えない。その時点で、答えはほぼ分かっているようなものだけど…もっと分かり易い答えがある。一目見るだけで分かる。だってそのチルタリスは……るーちゃんと同じ、黄色の身体をしているんだから。

 

「…進化、したって事…?」

「あぁ…もしバトルの最中に進化したんだとしたら…ははっ、やるじゃねぇかるーちゃん」

 

 俺達が見つめる中、引き絞るようにして翼を振り上げたチルタリス…るーちゃんは、前方に向けてその翼を振り下ろす。

 その瞬間翼から放たれたのは、無数の刃。エアカッターの様にも見えるその刃は散らばるように広がっていき、飛行していたポケモン達…ズバットやゴルバットを纏めて打ち払う。

──進化。それは、多くのポケモンが持つ、より強い…より高みへと進んだ姿へ形を変える、トレーナーなら待望の現象。チルットのまだまだ小鳥って感じの姿から、立派な…鳥にも竜にも見えるチルタリスの姿に変わっているそれは、間違いなく進化で…もしグレイブの言う通り、戦いの中で進化したのなら、イリゼを守ろうという思いで進化に到達したのなら、そんなの誰だって興奮する。…って、そ、そうだ……!

 

「イリゼ、イリゼは……!?」

「イリゼは?…って…そこでるーちゃんに指示してるじゃないか、ここからじゃ声までは聞こえないけどさ」

 

 驚きで思わず思考がるーちゃんばかりへ向かっていた俺だけど…よく見れば確かに、るーちゃんの後ろにイリゼがいる。るーちゃんの身体で上半身は見えないけど、きっとイリゼだ、イリゼに違いない。

 そんなイリゼに指示を受けているるーちゃんは、強気に鳴いて前方へ突進。素早くも安定感のある飛行で複数のイシツブテやゴローンが放つ撃ち落とすをひらひらと躱し、再び空気の刃を放って反撃。ゴローン達を支援するように奥のカバルドンが砂の風を巻き起こすが…チルタリスの放つ風はそれよりも強く、どう見ても攻めあぐねているような状況。

 

(…凄い…幾ら進化したとはいえ、ここまでの事をるーちゃんが出来るなんて……)

 

 地面タイプのポケモン達をるーちゃんが圧倒する中、背後から迫るドラピオン。けれどイリゼからの声があったのか、るーちゃんはその場で即座に振り向き、振り出されたクロスポイズンをコットンガードを展開して防御。その一撃でコットンガードは大きく削れるも、慌てる事なくるーちゃんは綿を前へと突き出す事でドラピオンの視界を塞ぎ、流れるようにドラピオンの顎へとムーンサルトキック。そしてその口へと紫の光を輝かせ、よろけたドラピオンへ竜の波動を叩き込む。

 野生とはいえ、ドラピオンの接近からの攻撃は決して甘いものじゃなかった。だけど、それを完全に上回っていたんだ。るーちゃんの、るーちゃんとイリゼの連携は。

 

「ちぃぃるぅううううぅぅぅぅッ!」

 

 地も宙も斬り裂いていく空気の刃。光と共に薙ぎ払うエネルギーの奔流。凄いパワーの攻撃と広い範囲の攻撃を同時に放つという、分かり易い強力さで更にるーちゃんは地下のポケモン達を圧倒し……遂に、地下のポケモン達は逃げ始める。

 

「…完全勝利だな、るーちゃんとイリゼの」

「…だね」

 

 散っていくポケモン達を前に、るーちゃんは追う事なくその場で滞空。綿雲の様な翼は、羽ばたく音も静かで…ポケモン達のいなくなったこの場には、そんな静かな音だけが流れていた。

 

 

 

 

 強く煌めく光に包まれたるーちゃん。女神化にも似たその光が収まった時、そこには確かな力を、強さを感じる一匹のポケモンがいた。

 知らない存在、見た事ないポケモン。だけど本能的に、直感的に、感覚的に、私はそれがるーちゃんだと分かった。思考すら必要なく、るーちゃんだという確信があった。

 理由は分からないけど、姿が変わったんだ。それはるーちゃん自身も分かっていたようで、暫し自分の身体を見つめた後にこちらを振り向き…こくんと一つ、頷いた。その頷きに、その瞳に、るーちゃんからの思いを感じ取った私は、頷きを返し…るーちゃんと共に戦った。グレイブ君や愛月君の様に、トレーナーの様に。

 

「ふぅ…るーちゃん、お疲れさ…わぁああ!?」

 

 逃げていくポケモン達は追わないようるーちゃんに伝え、敵意を完全に感じなくなったところで漸く一息。続けて頑張ってくれたるーちゃんを労おうとして……次の瞬間、くるりと振り返って私の胸元に飛び込んで(飛び掛かって)きたるーちゃんによってすっ転ぶ。

 

「ちるっ!ちるちるっ、ちるぅ〜♪」

「ぐぇぇっ!ちょっ、る、るーちゃん体格!自分のサイズが変わってる事忘れてる忘れてるぅぅぅぅ!」

 

 ひっくり返った私の上でばたばた(ふわふわ?)翼を振りながら、にっこにこでじゃれ付いてくるるーちゃん。その様子は姿が変わってもやっぱり可愛いけど…うんこれやっぱりるーちゃん力加減間違えてるって!さっきまでと同じ調子でじゃれてきてるもん!っていうかこれ、最早何かの技じゃない!?のし掛かる技とか、じゃれ付く技とかじゃない!?あるのか知らないけど!

 

「おーいイリゼー!」

「うぇっ!?そ、その声はグレイブ君!?それに、愛月君も……ほぐぅッ!?」

「ちっちる〜……ちる?」

 

 余程嬉しいのか声の届いていないるーちゃんに私が困り果てる中、聞こえてきたのはグレイブ君の声。驚いてそちらを向けば、グレイブ君、それに愛月君もこちらへと走ってきていて……けれど喜ぶのも束の間、気の抜けた私のお腹へるーちゃんのストンピング(当然るーちゃんははしゃいでるだけ)が入って私は悶絶。

 

「お、おぉぉ……さっきの脚技もだけど、るーちゃん逞しくなったね……」

「ちーるっ!」

 

 やっとこさ退いてもらえた私は、お腹を抑えつつゆっくりと起立。誇らしげなるーちゃんに、まずはじゃれ付き方を見直してもらわなきゃなぁと思いつつ……私は二人へ向き直る。

 

「…二人共……」

「…やっぱり、無事だったんだな」

「…うん。グレイブ君、愛月君、心配かけてごめ……って、あ、愛月君…!?」

 

 ぽつりと呼んだ私に対し、グレイブ君はにっと笑う。大丈夫だと分かってた。そう言わんばかりの笑みに、私も言葉を返そうとして…次の瞬間、びっくりした。だってその隣の愛月君は、じんわりと目に涙を浮かべていたんだから。

 

「あー…愛月はほんとに心配してたからな。けど無事だったんだから泣くなって」

「な、泣いてねぇし!誰かそんな……あ…」

「うんうん、るーちゃんへの驚きが収まった事で、さっきまでの気持ちがぶり返してきたんだよな」

「分析しなくていいから!それにこれは…め、目にゴミが入っただけだから!何度か砂煙も舞ってたし!」

 

 指摘されてから気付いた様子の愛月君は、ぐしぐしと袖で目元を拭う。それからすぐに顔を背けてしまったけど…分かる。今グレイブ君が言った通り、本当に愛月君は私を心配してくれてたんだ。

 そんな愛月君に、私はどうするべきか。何をしてあげられるか。一つ思い付くものはあって、でもそれはこの位の男の子に対してして良いものか迷うもので……だけど、うん。

 

「…心配してくれてありがとね、愛月君」

 

 顔を背けたままの愛月君に近付く私。愛月君は、私が近付いた事でふっと私の方を向き…そんな愛月君の頭を、私は撫でる。艶のある黒の髪を、整えるように優しくゆっくりと。

 

「なっ…なな……ッ!?」

 

 驚き目を白黒させる、頬を急速に赤くする愛月君へと、私は撫でるのを続ける。やっぱり恥ずかしさはあるんだと思うけど…こうしてもらえると安心出来るって事を、私は知っているから。愛月君だって、グレイブ君だって、まだ子供なんだから。…勿論、だからって侮れる事なんて一つもないんだけどね。

 

「…どう?少しは落ち着いた?」

「う、ぁっ…べ、別に…慌ててなんか……」

「そっか。じゃあ、余計な事しちゃってごめんね。ふふっ」

 

 これ以上は逆効果かな、と思ったところで私は顔を真っ赤にした愛月君から右手を離す。最後ににこりと微笑みかけると、愛月君はぽけーっとした顔になって……愛月君、ちょっと可愛いかも…。

 

「グレイブ君もありがとね。信じてくれてたの、嬉しかったよ」

「イリゼが強いって事はもう知ってるからな。…さてと、そろそろ移動しようぜ?さっきまでのバトルの音を聞いて、別のポケモンが来るかもしれないしさ」

「そうだね。それじゃあるーちゃん……るーちゃん?」

 

 愛月君にだけ感謝するのはアンフェアだし、勿論愛月君にだけ感謝している訳でもない。だからその思いを伝えると、グレイブは快活に笑うだけで…こういうとこは、グレイブ君の方が大人なのかな?それか、逆に愛月君以上に純粋だからこそ…って、そこはまあ別にいっか。

 という訳でグレイブ君の提案に頷いた私は、長くなった首を回して毛繕いをしているるーちゃんへと呼び掛ける。それを聞いたるーちゃんは、ぱっと飛び上がり……次の瞬間、淡い光に包まれる。

 

「え?これって……」

 

 急な…けれど心当たりのある光に私が目を丸くする中、その光は段々と弱まり…それが収まった時、そこにはさっきまでの…小鳥の様なるーちゃんの姿。

 

「…戻った?え?進化したポケモンが、戻った…?」

「今の、光は……」

 

 さっきまでの姿に戻ったるーちゃんに、グレイブ君も愛月君も目をぱちくり。当の本人…もとい本ポケもそれには驚いていて、「ちる?」…と戻った事にきょとんとした顔。

 

「…進化?るーちゃんの姿が変わったのは、進化って現象なの?」

「あ、あぁ。けど普通、進化ってのは一方通行…ってか、一度したら戻らないものなんだよ。落ちた頭が進化前のタマタマになるっていう、ナッシーみたいな例外もゼロじゃないけど……」

「少なくとも、チルタリスがチルットに戻る事はないよな…。けど、さっきまでは間違いなく進化してたし……」

 

 気になった単語に関して訊き返すと、二人は答えつつも考え込む。

 二人の口振りからして、るーちゃんの姿が変わった事自体は、そこまで特別な事じゃない様子。でも元に戻ったのは、あり得ない事らしくて……だけど私には、一つ思い当たる節がある。

 

「…二人共、進化についてもう少し聞かせてくれないかな?もしかしたら、って思うものがあるの」

「…分かった。じゃあ俺も気になる事があるし、この事は歩きながら話そうよ」

「だな。っていうか愛月、もう撫でてもらわなくていいのか?」

「う、うっさい!余計なお世話だ!」

 

 るーちゃんの…進化の逆だから、退化?…現象で止まっていた移動の事に話は戻り、私達は歩き出す。

 最初は二人が来た道を戻るものだと思っていたけど、二人は崩落に巻き込まれるまでの探索と、ここへの道探しで、行ける場所は大方確認し尽くしたとの事。だけど、私達が目的としていた場所は見つからず…だから二人は考えていた。地下から地上に出る道が複数あるなら、地下経由で崩落した通路の向こう側…まだ探索出来ていない場所に行けるんじゃないか、と。

 道中を先導してくれるのは、こういう場所に慣れているらしいガブリアスのスラッシュ。周囲を照らしてくれるのはエースバーンのバックスで、火炎ボールという名の炎を松明の様に燃やしてくれているんだけど…バックスはそれで、リフティングをしている。厳密には小石を核にした炎の球だけど…どっちにしろ、画が物凄い。

 

「そっか…じゃあやっぱり、女神の力が…シェアエナジーがるーちゃんを一時的に進化させたのかも…」

『シェアエナジー?』

「思いが元になった、女神の原動力みたいなものだよ。で、シェアエナジー…というかシェアに昇華された思いは時に奇跡さえ起こすものだから、私の側にいて、私と心を通わせたるーちゃんがシェアエナジーの影響を受けていても、それは決してあり得ない話じゃないと思う」

「思い…心……」

「…愛月君?」

「あ、いや、ちょっと考えてて…」

「そういや、愛月も気になる事があるって言ってたよな?」

「っと、そうだ。グレイブ、これなんだけど……」

 

 あくまで想像に過ぎないけど、るーちゃんの身を包んだ二度の光は、どちらも女神化とその解除に近いものだった。感覚的な意味でも、シェアエナジーが関係しているのは恐らく間違いなくて…でもこれ以上の事は、今のところ分からない。

 それから愛月君がグレイブ君に聞かれて出したのは、何かの花弁。直前の言葉からして、この花弁とその前の「考えてて」とは別っぽいけど……取り敢えず話はそっちの方へ。

 

「なんだこりゃ?」

「これ、ボスゴドラの身体から落ちた花弁なんだけど…調べてみたら、この花はホウエンにしか咲いてないらしいんだ」

「うん。…うん?」

「おかしいだろ?ホウエンにしか咲いてない花の花弁が、ホウエン以外でボスゴドラの身体に付く訳がない。けどこれは、ボスゴドラの身体から落ちてきた。って事は……」

「…愛月の勘違い?」

「違う!…いや、確かに絶対にないとは言い切れないけど、俺が言いたいのはそういう事じゃなくて……」

「そのボスゴドラ…ってポケモンは、この地域じゃなくて、そのホウエン地方に生息している『筈』のポケモン…って事?」

 

 落ちた後上で起きていた事は知らないけど、今のやり取りだけで何が言いたいかは想像が付く。

 この場合、あり得るのは三つ。まずはグレイブ君の言った「勘違い」…つまり、よく似た別の花と誤認してる場合で、割とこれもなくはない。二つ目は情報が間違ってるのパターンで、「これまでは発見されていなかったけど、実は未開拓の地域にあった」もここに含まれる。そして最後の可能性は…本来の地域から運ばれてきたという場合。…因みに私が訊き返した後、グレイブ君は「ま、勘違いじゃないならそれだよなー」と軽い調子で言っていた。……わざとボケたね、グレイブ君…。

 

「分かってたなら最初からそう言えよグレイブ…こほん。イリゼの言う通り、きっと暴れてたボスゴドラは、ホウエンに生息している『筈』の個体だと思うんだ。多分、バンギラスの方もね」

「でもよ、どっちも飛べないし泳げないだろ?流石にタイプはガイアじゃなくて岩だけど」

「気になるのはそこなんだよ。それぞれココドラとヨーギラスの時なら、大きい鳥ポケモンに攫われて…ってのもあり得そうだけど、ボスゴドラになるまでずっと花弁が付いたままってのは流石に変だし、どっかのトレーナーがホウエンで捕まえてここで逃したってパターンも、同じ問題にぶつかるし……」

「…お出まし〜、されたパターンとか?」

「いやいや、それは偶然にも程が……」

 

 

『……あ』

 

 私にはよく分からない可能性を口にしたグレイブ君に対し、愛月君は半眼で言葉を返そうとし……次の瞬間、私達三人の声がハモる。二人は同時に私の方を向いて、私自身も多分二人と同じ表情をしている。

 偶然も何も、ここにいるじゃないか。別の地方どころか別の世界、別次元から飛ばされてきた、私という存在が。そして原因が不明な以上……巻き込まれた、或いは同じ現象に見舞われた存在が、私以外いないとは限らない。そのボスゴドラとバンギラスも、本来の生息地から飛ばされてきたって可能性は…十分にある。

 

「…イリゼと同じように、ワープか何かで飛ばされてきた…それならこの地方にいた事自体も、説明がつくな……」

「もしそうなら、二匹も被害者みたいなものだよね。いきなりどこかも分からない場所に飛ばされて、しかも天敵がいたとなれば、そりゃ冷静じゃいられないって…。…まぁ、だからって遺跡崩壊させられたら堪らないし、罪悪感はないけど」

「もしそういう事なら、その二匹も何とかしてあげたいね…って、あれ?これ…階段じゃない?」

 

 話しながら歩いていたからうっかり見落としかけたけど、私は細い横道らしきものを発見。覗いてみればL字になった先に階段があって、上に登れるのはほぼ間違いない。

 それを目にした瞬間、私が心に抱いたのは安堵。やっぱり戻れる道を直接目に出来るっていうのは安心感があって、再び頭の上に戻った(でも翼の汚れからご機嫌斜め気味)るーちゃんも「やった!」って感じの鳴き声を上げていて、そうして上がる道を発見出来た私は二人にそれを伝えつつ階段に足を……

 

「ゴォォォォス……」

「ちるぅぅッ!?」

「うわぁ!?い、今の何!?狭間の世界の大魔王みたいなのがいたよ!?」

 

 かけた瞬間、壁をすり抜ける形で顔と両手だけのお化けみたいなポケモン(?)が現れ、私もるーちゃんもびっくり仰天してしまうのだった。しかもびっくりしたまま二人に問い掛けたせいで、二人には笑いを堪えながら回答されるという、何とも恥ずかしい目に遭うのだった。

…因みにそのポケモン、ゴーストというらしい。…ほんとにお化けみたいな名前じゃん…同じゴーストなら、せめてゴーストボーイとかゴーストガールみたいな、もっと愛嬌ある見た目なら良いのに…うぅ……。

 

 

 

 

 期待した通り、階段を上った先は崩落のせいで行けなかった「向こう側」だった。本当に結果的には、だけどイリゼ達の落下がこれに繋がった訳で、世の中何がどうなるかはほんと分からない。元々遺跡内は隈なく探すつもりだったから、最終的には見つけられただろうけど、イリゼ達が落ちるまではそもそも「地下」って発想が無かった訳だし。

 で、向こう側に出た俺達は、当然そっちの探索も進めた。同じ遺跡だから、こっちには目新しい物が沢山…って事は無かったが、大きな発見もあった。一つは中庭のような場所と、そこにある枯れた水場で……

 

「〜〜♪〜〜♪♪」

 

──現在、そこをイリゼが使っている。砂と埃をかなり浴びてしまった身体をすっきりさせる為に…水浴びの場所として、使用している。

 

「ちるっちる〜♪」

「あはは、樽を見つけた錬金術士みたいだねるーちゃん」

 

 聞こえてくるのは、イリゼの気持ち良さそうな声と、るーちゃんのご機嫌な鳴き声。砂埃で汚れていたのはるーちゃんも同じ事で、綺麗好きなチルットであるるーちゃんは即席プールが完成するや否やそこに飛び込んでいた(そして傷が染みて、「ちる〜〜!?」と飛び上がっていた)。

 

(落ち着け、落ち着け俺…!こういう時はメリープを数えて…って、それは眠くない時の対処法じゃん……!)

 

 順序を追って話すと、当然最初水場の中に水はなかった。けれどイリゼに頼まれた俺とグレイブはそれぞれブーストとウーパを出し、ブーストは大量の水でがっつりと、ウーパは高圧洗浄機の様にピンポイントで水場の中を洗い流した(その際るーちゃんは翼で、イリゼはるーちゃんの出したコットンガードの綿でせっせと汚れを取っていた)。そうして綺麗になった水場の中へ水を張って、テントを利用した仕切りを作り、俺達は仕切りを挟んだ向こう側に出て……今に至る。

 

「汚れ落とし、か…これは案外、ウーパの精密射撃と威力調整の特訓に良いかもな……」

「…よくこんな状況で冷静にそんな事考えてられるな……」

「こんな状況?何か今、慌てる事でもあるか?」

「う……」

 

 さらりと返してくるグレイブの言葉に、何も言い返せない俺。確かにそうだけども…!そうなんだけども…!でもお前、この仕切りの向こう側ではイリゼが……

 

(…って、だから落ち着けって俺ぇええええっ!)

「あ、愛月…?大丈夫かー、お前……」

 

 変な想像を追い出そうと頭をぐわんぐわん振っていると、ヤバいものを見たみたいな目でグレイブが声を掛けてくる。…この図太い感じの精神がちょっと羨ましいよ……。

 

「…にしてもほんと、びっくりだよな。元に戻ったのもそうだけど…あの強さ、とても進化直後のチルタリスとは思えないレベルだった」

「…それは…確かに。イリゼの指示もあっての強さだとは思うけど…絶対それだけじゃない」

「実は、それについても何か思い付いてるんじゃないか?」

「思い付いてるっていうか…まだ考え中」

 

 その数秒後、振られた話はるーちゃんの事。こっちを向いてにやりと笑みを浮かべるグレイブに対し、俺は首を横に振る。確かに頭の中には一つ考えてる事があるけど…それはまだ、「こうじゃないか」って言えるようなレベルじゃない。それにその考えだって、全部を説明するには程遠い…ような気がする。

 

「そっか。やっぱり女神の力、ってやつなのかな…」

「うん…?お、おい…今訊くのは止めろよ…!?」

「いや、やるかよそんな事…」

 

 まさかと思って釘を刺すと、流石にそんな事はしないと否定。…良かった……。

 

「わわっ!もう、はしゃぎ過ぎだってるーちゃん。そんな事すると…私もこうしちゃうぞー!」

「ちるっ!?ちるっ、ちるる〜!」

「あはははっ!ほらほら、わしゃわしゃわしゃ〜!」

「ち〜る〜〜っ!」

 

 そんな中でも、聞こえてくる水音と一人と一匹の楽しげな声。特にイリゼは本当に楽しそうで……うぅぅ、やっぱり落ち着けねぇぇ……!

 

「ふぅ…お待たせ、二人共。ごめんね、こんな事で待たせちゃって」

 

 そういう時間を過ごす事数十分。やっとイリゼが仕切りの向こう側から出てきて……俺も心の平穏を取り戻す。…あ、でも…イリゼの髪、まだちょっとしっとりしてる……。

 

「ちるっふ!」

「おー、るーちゃんも綺麗になったな。…んん?けど…なんかちょっと、服も綺麗になってないか…?」

「あ、グレイブ君気付いた?実はねぇ…じゃーん!」

『……?』

 

 自慢げにイリゼが取り出したのは、コットンガードと思しき綿。けどそれだけじゃ意味が分からずきょとんとしていると、イリゼは水場洗いの際に出た泥を自分の服の袖へ。

 

「ほら、見てて。今ここは汚れてる訳だけど、まず軽く濡らしたこれでぽんぽんっと叩くと……」

「わ、それだけでまあまあ綺麗になった…」

「でしょ?で、更に今度は乾いたやつでもう一度ぽんぽんってやって、最後に少し強めに拭き取ると……なんと、汚れも水分もばっちり取れちゃうのです!」

「お、おぉ…!確かにこれは、凄ぇ……」

「…けど、なんていうか…物凄く通販のお掃除アイテム感が……」

 

 しっかりと綺麗になった事は本当に凄いけど、さっきのウーパの水流掃除といいこれといい、テレビショッピングで紹介してそうな感じが半端ない。どこかから、「でも、お高いんでしょー?」と聞こえてきそうな気がしてならない。そしてそれは、イリゼも思っていたみたいで、俺の言葉に苦笑い。

 

「…あれ?でもそれなら、どうして髪は……」

「髪はしっかりやろうとすると、流石に時間がかかっちゃうからね。これ以上二人を待たせる訳にはいかないよ」

「別にそれ位待つけどな。でも、そういう事なら…行こうぜ?あの場所の、調査にさ」

 

 俺の疑問にイリゼが答え、今度はグレイブが言葉を発して、それを言い切るのとほぼ同時にテントを片付け仕舞い始める。俺もそれに頷いて、同じようにテントを片付ける。

 そう。向こう側であるこちらを探索した俺達は、二つの気になる場所を見つけた。一つは今あるここで、もう一つはこの奥にある、舞台の様になった場所。一番しっかりと作られていて、どこか厳かさを感じる場所。

 間違いない。きっとそこが、俺達の探していた場所。この遺跡の中心とも言える……バトルを捧げる、祭壇だ。




今回のパロディ解説

・ガイア
機動戦士ガンダムSEED destinyに登場するMSの一つ、ガイアの事。その前の「飛べないし泳げない〜〜」も、登場人物の一人であるアウル・ニーダの台詞のパロディです。

・狭間の世界の大魔王
ドラクエシリーズに登場するモンスターの一体、デスタムーアの事。どちらも頭と手だけの(デスタムーアは第三形態)身体ですし、シルエットが本当に似ていますよね。

・樽を見つけた錬金術士
アトリエシリーズに登場する主人公達の事。要は「たるったる〜」ですね。他のパターンなら、「ちーる」や「ちるるっ!」…とかでしょうか。
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