超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第百二十九話 取り戻せたもの、失ったもの

 どうして浮遊大陸の地下の事を知っていたのか。一体何を隠しているのか。敵なのか、味方なのか。……大きいお姉ちゃんが心の中に秘めているものを知らないまま、わたし達はここまで来た。

 大きいお姉ちゃんの事は信じている。でも、ちゃんと聞かなきゃいけない。確かめなきゃいけない。わたしは大きいお姉ちゃんの事を、全部知った上で信じたいから。その思いで、わたしはユニちゃん、ロムちゃん、ラムちゃんの三人と大きいお姉ちゃんを探し……そして、見つけた。今正に、くろめさんから襲われそうになっている大きいお姉ちゃんを。

 何があって、そうなったのかは分からない。大きいお姉ちゃんもくろめさんも、敵と戦っているって雰囲気じゃない。…でも、そんな事は関係なかった。大きいお姉ちゃんが、別次元のお姉ちゃんが襲われている。危機に陥っている。…それだけで、動くには十分な理由だった。だって大きいお姉ちゃんは…わたしの、大切な人の一人だから。

 

「おっきいネプテューヌちゃん、だいじょーぶ?」

「おけが、ない…?」

「ロムちゃん、ラムちゃん…う、うん大丈夫!この通り、元気元気!」

「…それなら、一先ずは良かったです」

 

 射撃と魔法でくろめさんを後退させ、大きいお姉ちゃんの前へと割って入ったわたし達。ロムちゃんラムちゃんの二人は大きいお姉ちゃんを気に掛ける言葉をかけて、それに大きいお姉ちゃんからのはっきりとした返答が来ると、ちらりと見ながらユニちゃんも頷く。

 二人は純粋に大きいお姉ちゃんを心配してる感じだけど、ユニちゃんは少し複雑そう。…でも、その気持ちも分かる。大きいお姉ちゃんの疑わしい要素は、まだ解決していないから。

 

「…驚いたよ。まさか、君達が来るなんて」

 

 そんな中で、次には出されたのは前からの声。その主は勿論くろめさんで、声音からして本当にわたし達が来た事を驚いている様子。そんなくろめさんの近くには、いーすんさんにちょっと似ている女の子がいて……え、誰…?

 

「知ってると思うが、あいつ等は姉の四人と戦ってた筈だぜ?その四人が、こっちに来てるって事は……」

「上手く戦闘を中断させたか、逃げの一手で一度撒いたか……或いは、勝ったのか。…いや、まさかね。クロワール、君はどう思う?」

「さぁな。まあ何にせよ、面倒な事になったのにゃ違いねぇだろ」

(クロワール…?…って、事は…あれが、封印されていた人……?)

 

 二人のやり取りの中で、さらりと出てきたクロワールという名前。名前が似てて、どっちも次元移動に関わる能力を持っている訳だから、何か関係があるのかもと思っていたけど……まさか、こんなにも似てるだなんて。そっくりとまでは言わないけど…姉妹だって言われたら、普通に信じる位には似ている。

 でも、今はそれについて掘り下げる時じゃない。それよりもっと、する事がある。

 

「…どうする?ここなら、ダークメガミも呼び出せないと思うけど…」

「うん。けど今は、くろめさんを倒しに来た訳じゃない。それにわたし達だけならともかく、お姉ちゃん達の事を考えれば……」

「そうね。ロム、ラム、話は……」

「聞こえてたよ」

「わかってるわ!」

 

 見えている敵は少ない。くろめさんやクロワールさんの力は未知数だけど、それを差し引いても今はくろめさんを倒すチャンスかもしれない。

 だけど、その為にわたし達は来た訳じゃない。最初の目的はお姉ちゃん達に勝って取り戻す事で、今の目的は大きいお姉ちゃんから本当の話を聞く事、その為に守る事。だったら…ここで無理に、戦って倒しにいくべきじゃない。

 ユニちゃんが声をかければ、二人からの頼もしい声が返ってくる。更に続く形でかけられたのは、大きいお姉ちゃんからの声。

 

「…ねぇ、皆。もしかして、ちっちゃいわたし達は……」

「…大丈夫です。わたし達は、わたし達のするべき事、果たしたい事をきっちりと果たして…その上で今、ここにいますから」

「そっか…格好良いね、皆は」

 

 期待と不安、その両方が籠ったような声音。それを聞いたわたしは、肩越しにお姉ちゃんの方を見て…はっきりと、頷いてみせる。

 それに返ってきた、格好良いの言葉。格好良いっていうのは、いつもわたしがお姉ちゃんに対して思っている感情で…女神じゃなくたって、大きいお姉ちゃんにそう思ってもらえるなら嬉しい。

 

「それじゃあ皆…行くよッ!」

『うんっ!』

「えぇッ!」

「来るか…!」

 

 掛け声と共に、わたしは跳躍。迎え撃つように放たれたコードを斬り払い、続いてわたしは前方へ射撃。くろめさんではなくその後ろに控えるモンスター達に光弾を浴びせて、向こうからの反撃を潰す。

 この時点で、くろめさんはわたし達がここでの戦闘を選んだ、と考えている筈。その為に、わたしは前に出たんだから。けれど勿論、わたし達の目的は…その逆。

 

「はぁああぁぁッ!」

「うん?どこを狙って…いや、これは……」

 

 上段からM.P.B.Lを振り下ろすわたし。でも距離の足りないその一撃は、くろめさんが避けるまでもなく空振りし、正面の床だけを斬り裂き砕く。

 でもそれで、わたしの意図がここでの戦闘じゃないと気付いたらしい。けど初手さえ気付かれなければこっちのもの。わたしはM.P.B.Lの引き金を引いて、砕けた床に向けて光芒を照射。その一撃で煙を起こし、すぐにわたしは反転する。

 

「行くわよネプテューヌちゃん!」

「ちゃんとつかまっててね…!」

「う、うん任せ…おわわっ!?」

 

 煙が広がるより先に、ユニちゃんの射撃が天井を狙撃。その狙撃がコードの出ている場所を撃ち抜きつつも瓦礫を生み出し、煙と共にくろめさん達を阻害。

 その間に…というかわたしが仕掛けた時点で、ロムちゃんとラムちゃん、それに大きいお姉ちゃんは後退していて、煙が広がったところで二人はそれぞれの杖を持っていない方の手を大きいお姉ちゃんへ。大きいお姉ちゃんがその手を掴むと、二人は軽く床を蹴り、飛んで来た道を引き返し始める。

 勿論それに、わたしとユニちゃんも追走。いつ追撃が来ても良いよう、二人と大きいお姉ちゃんを守れるように位置取って、周囲に視線を走らせつつ飛ぶ。

 

「こんな引っ張られ方をしながら飛ぶのは新感覚…って二人共、曲がる時は気を付けてね!?十字路とかでスピード上げたまま曲がって、遠心力に身体を持ってかれたわたしが角にびたーん!とかなったら、わたし大変な事になっちゃうからね!?」

「だいじょーぶ!あぶなそーなら魔法で守るわ!」

「けがしたら、治してあげるね…!」

「ねぷぅ!?まさかのそうなる前提!?ちょっ、安全飛行で!安全飛行でお願いしますぅううううっ!」

 

 通路の様な空間に響くのは、大きいお姉ちゃんの切実な声。可哀想だから代わってあげようかな、と一瞬思ったけど…あそこまで速度も角度もぴったりに飛べるのは二人ならではだし、わたし一人だと両手が塞がっちゃうか、荷物を小脇に抱えるみたいな、大きいお姉ちゃんに負担が掛かる持ち方をするかのどっちかしかない。だから…す、少しの間我慢しててね、大きいお姉ちゃん…!

 

「ひぇぇ…あ、そ、そうだ…この状況、ちっちゃいわたし達には……」

「さっきアタシが大きいネプテューヌさんを見つけたって事だけは伝えておきました、詳しい話をする前にネプギアが仕掛けちゃったので、それ以上の事は言えませんでしたが…!」

「あっ、それはその……」

「…まぁ、良いわよ。今はそんな事気にしてる場合でもないしね…!」

 

 確かに今ユニちゃんが言った通り、わたしははっきりと大きいお姉ちゃんの姿が、襲われているような光景が見えた時点で動いていた。けど軽率と言えば軽率な訳で、言い返せないわたしが口籠ると…仕方ないと言うような声音で、ユニちゃんは許してくれた。その理由に今の状況を挙げているけど…それでもやっぱり、ユニちゃんは優しい。

 

(この速度なら、お姉ちゃん達の所までそう時間は掛からない筈…このまま、一気に……!)

 

 今のところ追い付かれる気配はない。でもここが敵陣な以上、くろめさんは罠や設備でわたし達を止めようとしてくるかもしれない。だったら、必要なのはスピード。邪魔される前に合流して、そのまま離脱するのが一番。

 ロムちゃんとラムちゃんが振り向いた時、わたしはアイコンタクトでそれを伝える。ユニちゃんとも頷き合って、素早く次の角をカーブ。もうお姉ちゃん達がいる所まで、約半分は来ている。この調子なら、一切の邪魔をされる事なくお姉ちゃん達の所まで……

 

「はぁい、いらっしゃーい♪」

『……ッッ!』

 

 そう思いながら少し広い場所へと出た次の瞬間、真上から飛来する強烈な電撃。反射的にロムちゃんラムちゃんが大きいお姉ちゃんを離して魔法障壁を展開し、大きいお姉ちゃんが飛んでいかないようわたしとユニちゃんで掴む中…上から聞こえてきたのは、嘲笑と愉快さの混じった声。

 

「キセイジョウ・レイ…ッ!」

「そうよぉ?この広くもない地下でそんなに急いでどこ行くのかしら?」

 

 わたし達が立ち止まる中、ふわりとわたし達の前に降り立つレイ。一瞬、無視してそのまま突っ切る事も考えたけど…彼女相手にそれは危な過ぎる。

 

「…アタシ達に、それに答える義務があると?」

「あはっ、そりゃ勿論ないわね。だから別に答えなくて良いわよ?どこ行くかは興味なんてないし。…それよりぃ…アンタ達、なんか面白い力を使えるようになったみたいじゃない。少しは倒し甲斐のあるレベルになったようだし、ちょっとボコさせてほしいのよねぇッ!」

 

 にやりとした笑みのまま、わたし達を品定めするように動く視線。さっきの戦いを見ていたのか、それとも感じ取る力があるのかは分からないけど、彼女はビヨンドフォームの事を知っている。そして、それを認識した上で…一方的な言葉と共に、突っ込んでくる。逃がさない為の足止めでもなく、少なからず疲労している今こそ好機という判断でもなく…これまで通りの、傲慢そのものの意思と態度で。

 

「……っ!」

 

 突進からの薙ぎ払いを、わたし達は散開して回避。わたしだけは大きいお姉ちゃんを掴んだまま飛ぶ事で一緒に退避し……直後、わたし達四人はほぼ同時にビヨンドフォーム化。四方向から、レイへと集中砲火を叩き込む。

 勿論これは、レイの期待に応える為じゃない。単にこれは、出し惜しみの出来る相手じゃないから…ッ!

 

「あははははッ!やっぱり、一味は違うって訳ねッ!」

「ぐッ…ネプギア、お願いッ!」

「うんッ!」

 

 弾丸と魔法の猛攻を真正面から切り裂いて、レイはユニちゃんへと肉薄。両腕の楔状のパーツで杖の一撃を受けるユニちゃんだけど、振り抜かれた杖に押されて後退。入れ替わる形でわたしが割って入り、M.P.B.Lでせめぎ合う。

 ビヨンドフォームでも、レイの攻撃は重い。ビットを射出して攻撃しようとしたけれど、即座に跳躍からの遠距離攻撃に転じられて、範囲攻撃でビットの動きを封じられる。

 

「それなら……ッ!」

 

 ビットはプロセッサの一部だから、壊されれば当然すぐには再使用出来ない。だからわたしはすぐに引き戻して、普通の砲として四基を活用。

 更にわたし達には、数と連携っていう強みがある。わたしがメイン、ユニちゃんが隙を埋めるという形での前衛を担って、ロムちゃんとラムちゃんから支援を受けて、四人がかりで対抗する。無理は、しなくていい。とにかく今は、この場を切り抜けられさえすれば良いんだから。

 

「ていや…ッ!」

「とりゃーっ!」

「ざんねーん、ハズレでーす。ほらほらもっと必死にならないと、一人ずつ捻り潰しちゃうわよ?」

「ぐっ…まだ、まだぁ……ッ!」

「でしょうねぇ?アンタ達、あいつ等との戦いの中でも、本気ではあっても全力じゃなかったみたいだし」

「……!」

 

 二人合わせて八つの魔法陣を全て攻撃に回し、ロムちゃんラムちゃんは種類も色も多彩な魔法を次々と発射。それを無茶苦茶な機動で避け、わたしからの射撃の僅かな隙間を縫うように膝蹴りを打ち込んでくるレイ。刀身の腹で受けたわたしは押し返すも、すぐに逆脚での横蹴りが飛んできて……尚且つ、レイは言う。何でもないかのように、はっきりわたし達の事を見抜いた言葉を。

 

「ま、本気だろうと全力だろうと関係ないですけどね〜。雑魚か、雑魚に毛が生えた程度かの違いであってぇ、どっちにしろ私には敵わないんだからさぁ!」

 

 間一髪バックステップで横蹴りを避ければ、レイはその勢いのまま回転をかけ、振り向きざまに魔力の斬撃。近距離で飛ばされたそれをわたしが斬り払い、横からユニちゃんが二挺のサブマシンガンを放ちながら仕掛けるけれど、それにもレイは的確に反応。避けて、弾いて、ふざけているような声とは裏腹に「強い」としか言いようのない攻防を見せるレイは、確かにこの傲慢な態度に見合うだけの実力があって……あぁ、分かる。このままじゃ、さっきみたいに振り切る事は出来ないって。

 

「……っ、皆…!」

 

 M.P.B.Lと四門とで扇状にビームを放ち、それで前進を止めながらわたしは後方へ跳躍。同じく下がったユニちゃんとロムちゃんラムちゃんの左右に着地し、四人で揃って構え直す。

 流石にビヨンドフォームのわたし達四人が一ヶ所に集まっているからか、レイも不用意には仕掛けてこない。…けど、このままお姉ちゃん達のいる方へ行こうとしたって邪魔される。何か策が、隙を作れる手段がなくちゃ、大きいお姉ちゃんを連れて離脱する事は出来ない。

 

(どうする…?やっぱりここは、多少強引にでも突っ込んで…ううん、駄目。状況的には、むしろそうしてくるのをレイも狙ってる筈。…けど、それならどうすれば…急がなきゃいけない中で、今わたし達に出来る最善手は……)

「ちょっとぉ?私言いましたよねぇ?もっと必死にならないとって。…それともぉ…私に捻り潰されたいのかしらぁッ!」

『──ッ!』

 

 忘れちゃいけないのは、ここがまだ浮遊大陸の地下だって事。ここであまり手こずってしまえばくろめさんや追っ手に追い付かれるし、それだけは回避しなきゃいけない。

 だけど焦れば、手痛い反撃を貰うのは必至。迅速に、冷静に、振り切り離脱する為の策を打たなきゃいけない。勿論それを考えるのだって、余分な時間はかけられない。だからこそ、向こうが警戒している今の内に、頭をフル回転させて策を練り上げる。

…そんな思考を読まれたかのように、その直後に動き出すレイ。警戒しているように見えたのは嘘だったのか。そう思わせる程の気迫を放ちながらレイは床を蹴り、考えてる場合じゃないとわたしも迎撃に動こうとしたその時──一振りの刃が、わたし達とレイとの間に突き刺さる。

 

「……あぁ?」

「……っ!この、刀って……」

 

 横槍の如く飛来し、床に深々と突き刺さった一本の刀。紫と黒に彩られた、無骨だけど美しさを感じる大太刀。…その武器を、この刀を得物にしてるのなんて、一人しかいない。そう、これは…この大太刀を投げ放ったのは………

 

「お姉ちゃん……っ!」

「今よッ!皆ッ!」

 

 間違いない。間違える筈がない。それは、お姉ちゃんの大太刀。響いたのは、お姉ちゃんの声。弾かれるように、引き付けられるように振り向けば、確かにそこには、イリゼさんに支えられる形でお姉ちゃんがいて……けど、歓喜より先に心が叫ぶ。今すべき事は…この一瞬を、チャンスに変える事だって。

 この瞬間、レイの動きも止まっていた。視線がわたし達から逸れていた。そしてお姉ちゃんの声に押し出されるように…わたし達は、全力攻撃。けれどそれはレイ本人ではなく、真上の天井に叩き込む。

 

「ちっ、そういう小賢しい手を使うから雑魚は嫌……」

「貴様の意見など聞いてはいないッ!」

 

 攻撃で天井が崩落する中、レイは面倒臭そうに衝撃波で落ちてくる瓦礫を吹き飛ばす…けどその瞬間、声を遮るようにして発されたイリゼさんの言葉と共に、イリゼさんとノワールさん達三人の遠隔攻撃がレイを強襲。流石のレイもそれを完全無視するような事は出来ず、そっちの対処をしている内に瓦礫は次々と降り注いでいく。

 

「これなら…行きますよ、大きいネプテューヌさん!」

「う、うん!」

 

 大きく損傷した事で、攻撃を止めても尚崩れる天井。ユニちゃんの声を合図に大きいお姉ちゃんは走り出し、わたし達も守るようにしながら移動。向かう先は…勿論、お姉ちゃん達が待っている場所。そしてわたし達は合流し……頷き合って、離脱。

 

「大きいネプテューヌ、すぐに飛べる?」

「…ごめん、色々あって…今は、出来ないの…で、でも出口なら分かるよ!」

「なら、ナビゲートお願い!」

 

 今度はわたしが大きいお姉ちゃんを抱えて飛ぶ中、その大きいお姉ちゃんとイリゼさんが言葉を交わす。

 普通、天井の崩落に巻き込まれたら一溜まりもない。わたし達だって、結構な足止めはさせられてしまう。けど、レイ相手だとどこまで足止めになるかは分からないし、当然くろめさん達の事もある。だから最後まで…油断は、出来ない。

 

 

 

 

「…………」

 

 女神に本気で逃げられてしまえば、追い付くのは容易じゃない。仮に追い付いたところで、ぶつけられる十分な戦力がなければそこでまた逃げられてしまうだけ。だから一度オレは戻り、全体把握からの対処をしようとした。追うのではなく、先回りを考えた。

 だがその結果…オレは知った。一番あり得ないと思っていた可能性、女神のねぷっち達が負けたというのが、真実であった事を。そしてそのねぷっち達はもう…オレの味方としては、動いていない事を。

 

「こりゃ結構な痛手だな。お前からすれば、頼れる戦力が一気に離反しちまったようなもんだろ?実際には、離反じゃなくて元鞘だがよ」

 

 本に乗って浮きながら、然程困った様子もなくクロワールは言う。

 クロワールを直接引っ張り出せたのは大きい。とはいえ、女神のねぷっち達四人と、ねぷっちを失った引き換えと考えると……苦い。求めるものは違うとはいえ、痛い。

 

「にしても、やるなぁビヨンドフォームってのは。負のシェアエナジーなんて、こっち側じゃなきゃ使えないどころか害になるような存在だってのに、それを利用して姉より強くなるだなんてよぉ」

「…少し、静かにしていてくれないか…」

「なんだよ、こっちは解放されて今気分が良いってのにつれねぇなぁ。…それに、ネプテューヌがお前を裏切るってのは驚いたぜ。あいつは正義感こそ強ぇが甘ちゃんだからな、お前には最後まで味方してやるのかと思ってたが、やっぱお前とあいつ等じゃ……」

「黙れ…ッ!」

 

 こうなるとまた今後の事を練り直さなきゃいけない。また状況が変わっている以上、女神のねぷっち達が味方になる以前のプランへそのまま軌道修正という訳にはいかないし、ねぷっちの事もある。

 だというのに、クロワールはべらべらと話しかけてくる。勝手に話しているだけなら好きにすれば良いが、わざわざオレに話しかけてくる。何よりその内容が、ねぷっちに関する話は、今のオレにとってはあまりにも腹立たしく……思わずオレは、声を荒げてしまった。

 

「……すまない、今のは冷静さに欠く発言だった。けれどクロワール、君がオレに感謝を感じているのなら、少し静かにしていてほしいものだね」

「あぁ、そりゃこっちこそ悪かったな。…けどまぁ、気にすんなって。ネプテューヌも別に、お前の事を嫌いになった訳じゃないみてーだしよ」

「余計なお世話だ。そんなに解放されて気分が良いなら、その辺りを散歩でも……」

「ちょっとぉ?アンタのお友達(笑)に、なんか邪魔されたんですけどー?」

 

 封印から解放された直後であれば、気分が良くなるのも無理はない。封印とは、そういうものなのだから。だが、それに付き合う程今のオレに余裕はないし、そういう気分でもない。…だというのに、そこへ更にかけられる不愉快な声。それはご愁傷様だね、とでも言いたいところだが…そうもいかない。

 

「…悪いね、レイ。ぎあっち達が来た時、君に迎撃を任せるべきだったよ」

「えー、何それ面倒くさーい」

「…………」

「あ、もしかして怒っちゃった?いやいや冗談だって。…っていうか、結局奪い返されてるじゃない。やっぱ、ダークメガミとの融合素材にでもすれば良かったんじゃないの?ほらあの、マジェ…マジェ?…アジャ?アジャ、コン……」

「いやそれはアジアのキングコングじゃねぇか…そんな人物登用出来る訳ねーだろ……」

「マジェコンヌか…前も言った通り、ダークメガミは通常タイプでも十分な破壊力を持っている。反面小回りや機動性には欠けている。そんなダークメガミと攻撃力、機動力、その他多くの要素を兼ね備えた女神のねぷっち達を融合させたところで、巨体故の欠点は埋まらず、破壊力はただただ過剰になって明らかに割に合わない結果が生まれるだけさ」

 

 相変わらず、本当に相変わらず顔を見せれば何かしら嘲笑の言葉を吐いてくるレイ。そういうやつだと思っても不愉快なものは不愉快だし、今はねぷっちも女神のねぷっち達もいない。…あぁ、憂鬱だ。

 

「あ、そ。まあ何にせよ、自分で撒いた種は何とかしてよね。私に泣きつかれても困るし」

「…ああ、分かってるさ」

 

 君こそ原初の女神を探す人手として彼女達の手を借りていたじゃないか。…そう言ったところで意味はないのだから、オレはその言葉を飲み込んで、考える。こうなってしまった今、これからどうするかを。

 

(…大掛かりな何かをされた訳じゃない。なのにオレの元から離れたって事は、結局女神のねぷっち達は、その程度にしかオレを思っていなかったって事だ。残念だけど…本当に残念だけど、仕方ない。…けど、ねぷっちは……)

 

 もうオレに協力は出来ない。ねぷっちはそう言った。そう言われたのは驚きだけど…ねぷっちの優しさを考えれば、そういう思いになるのも理解は出来る。それに…クロワールに言われずとも分かっている。ねぷっちは、ただ今は耐えられなくなっただけだ。将来的には戻ってきてくれるだろうし、ならばその為に、また話し合う機会を何とかして作り出すだけ。

 そうだ。駄目ならやり直せばいい。やり直し、やはり自分は間違っていなかったんだと示せばいい。これまでのように…これからのように。

 

 

 

 

 大きいお姉ちゃんの指示の下、わたし達はビヨンドフォーム解除後も飛び続け…そうして出たのは、前に訪れたあの施設。浮遊大陸の、教会らしき建物の中。

 そういえば、そういう事も戦闘前に言っていた。そう思い出しながら、わたし達はその施設の中もある程度進んで…漸く、一息吐く。

 

「ここまでくれば、取り敢えずは大丈夫だと思うよ。…いや、大丈夫っていうか、まだ本拠地の中だけど……」

「そうね…。…………」

 

 くるりと見回した大きいお姉ちゃんの言葉に、お姉ちゃんが一つ頷く。頷いて…それからわたし達の方を見る。ノワールさん、ベールさん、ブランさんも一緒に…わたし達の方へと振り向く。

 

「…皆。落ち着ける状況になるまでは、待とうと思っていたけど…やっぱり、一言だけでも今の内に言わせて頂戴」

「……っ…ネプテューヌ…」

「…ネプギア、ユニちゃん、ロムちゃん、ラムちゃん、イリゼ…それに、大きいわたし。この事は、本当に……」

「…う、うぅ…おねえちゃんのバカぁっ!」

「おねえ、ちゃん…っ!」

 

 真剣さと罪悪感、その両方が籠った瞳。そんな瞳で、わたし達の事を呼んだお姉ちゃん。そしてお姉ちゃんは、何かを言おうとして…けれどそれは、遮られた。ブランさんへと飛び付いた、ロムちゃんとラムちゃん二人の声で。

 

「…ロム、ラム…あぁ、すまなかったな……」

「…お姉ちゃん…ちゃんと、正気に戻ってくれたんだね……」

「えぇ…犯罪組織の時も、今回も…また貴女達に、助けられちゃったわね…」

「…不甲斐ないですわ。理由はどうあれ、こんなザマでは……」

「気にしないで…とは言わないけど、そう気には病まないで。理由はちゃんと、分かってるから」

 

 それを皮切りに、ユニちゃん達も言葉を交わす。安堵と喜びの気持ちから、思いを言葉に変えて紡ぐ。

 それは、わたしも同じ事。お姉ちゃんが戻ってきてくれて、取り戻せて、本当に嬉しいしほっとしてる。…だけど……

 

「…お姉、ちゃん……」

「…ありがとう、ネプギア。本当に、ネプギア達には感謝しかないわ」

「……っ…でも、でもっ…お姉ちゃん、腕が…っ!」

 

 にこり、とお姉ちゃんは微笑んでくれる。優しく、穏やかに笑ってくれる。だけどわたしは、素直には喜べない。だって…そう笑うお姉ちゃんの左腕は、途中から無くなっているんだから。

 具体的な事は分からない。でもあれは…治ったように見えていた腕は、くろめさんの力由来だったらしい。だから、そのくろめさんから離れた今…お姉ちゃんの、左腕はない。

 

「…その話は、また後にしましょ。今は、帰らないと」

「……う、ん…」

 

 そう言いながら、お姉ちゃんがわたしの頭に乗せてくれる右手。それはわたしを安心させようとしてくれる、お姉ちゃんの思いで…だから小さく、わたしは頷く。だって…一番辛いのは、失ったお姉ちゃんに決まってるんだから。

 そうしてわたし達は再度動き出し、この建物の正面出入り口へ。その頃にはもう、わたしの心も落ち着いて……なんかいなかったけど、それでも少しは整理出来た。良かった事、悪かった事、その区分け位はする事が出来た。

 あまりにも痛々しい、お姉ちゃんの左側。だけど、お姉ちゃん達を取り戻せたのは事実。大きいネプテューヌさんもちゃんと見つけられたし、わたし達だって大きな怪我はない。作戦は、ばっちり成功している。だったら、それを喜ばなきゃ。これは、わたし達が頑張って、それで掴み取ったものなんだから。…そう言い聞かせるように、確かめるように、わたしは心の中で呟いて、皆と一緒に施設の外へ……

 

「……ほぅ?」

『な……ッ!?』

 

──出た、その時だった。本当に、出た瞬間だった。開いた扉、開けた景色……その真正面に、もう一人のイリゼさんが立っていたのは。




今回のパロディ解説

・「〜〜広くもない〜〜どこ行くの〜〜」
交通安全スローガンの一つのパロディ。しかし広くもないと言っていますが、多分そんなに狭くもないです。確かに地下なので、開放感はなさそうですが。

・アジアのキングコング
プロレスラー、アジャコングこと宍戸江利花さんの事。くろめ、クロワール、レイとなると、地味にクロワールが突っ込みに回る事が多くなるような気がします。

・「〜〜お姉ちゃん、腕が…っ!」
ONE PIECEの主人公、モンキー・D・ルフィーの台詞の一つのパロディ。でもこれは、ネプギアではなくくろめを守っての怪我ですね。原初の女神も失せてませんし。
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