超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第百三十話 今、私に出来るのは

 拠点となる場所がないからか、それとも常にどこかで何かをしているからか、もう一人の私は神出鬼没。初めて現れた時と、状況把握の為に浮遊大陸内へ突入した時の二度、偶発的に会う事は出来たけど、狙って出会えた事はない。

 そして私はまだ、もう一人の私とちゃんと話す事が出来ていない。話したい事と、確かめたい事も、まだもう一人の私と交わせていない。だから、もう一度会いたいと、今度こそ話したいと、私は思っていた。折角セイツが背中を押してくれたんだから、何としても会って、話さなきゃって。…だけど、こんな展開は予想もしていなかった。まさか、ネプテューヌ達を取り戻して、追撃も振り切って、漸く出られる…そう思って扉を開けた次の瞬間、外にいたもう一人の私と鉢合わせる形で、再び遭遇するなんて。

 

(嘘…もう、一人の…私……!?)

 

 特別何かした訳じゃない。予兆を見逃したって事もない筈。けれど、ただ…ただただこの教会らしき施設の正面出入り口の扉を開いたら、そこにもう一人の私がいた。真正面に、こちらを向いて…もう一人の私が、立っていた。

 

「ど、どーしてここにいるのよ!扉あけたらいきなりって、なんなのよきゅーに!」

「きゅ、きゅうきょくイリゼさん…?(あわあわ)」

「知った事か。貴様達こそ、何故ここにいる。よもや、揃いも揃ってあの出来損ない共に降ったか」

 

 私達の多くが驚愕で言葉を失う中、若干声を裏返らせながらもラムちゃんが私達全員の思っていた事を口にし、その発言にロムちゃんも続く。

 対するもう一人の私は、これまでと同じく超然とした態度。けれどよく見れば、ほんの少しだけど目を見開いていて…返された言葉と合わせて、私は理解する。これは、偶然なんだって。もう一人の私は待ち構えていた訳じゃなく、何らかの目的でここに入ろうとして、偶々私達とタイミングが合ってしまっただけなんだって。

 相当な偶然ではあるけれど、現象としてあり得ない事じゃない。それに…今気にすべきは、そこでもない。

 

「…言ってくれるわね。ネプテューヌにあんな事をしておいて、悪びれもなく……」

「悪びれ?一体何を悪びれる事がある。ああ、確かに私は彼女を斬った。だがそれはあの出来損ないを、あろう事か庇おうとした結果の自業自得以外に何だと言うのだ」

「テメェ…それを本人の前で言うたぁ、随分と性根が腐ってやがるんだな」

「ふん。奴等に加担していた貴様等の言葉が、私に響くとでも?」

 

 一触即発、次の瞬間には交戦状態に入ってもおかしくないような雰囲気。特に怒りを露わにしているのはノワールで、尚且つノワールはネプテューヌの左側に立っている。ネプテューヌが失った左腕を、庇うように。

 けど、これはいけない。今ここで私達から仕掛けるのは、完全に悪手。そもそももう一人の私は明確な敵でもないんだから、間違いなく戦闘は避けるべき事。

……と、そこまで考えたところで、私は気付く。一度目や二度目と違って、今の私はもう一人の私を前にしてもかなり冷静でいられている事に。

 

(…三度目だから…?ばったり遭遇した衝撃に全部持っていかれたから…?それとも、今は初めから窮地だから…?)

 

 何が理由かは分からない。けど、これまで程動揺していないのは事実。だったらまずは、この場を切り抜ける事を考える。次にもう一人の私との話を、対話をする。女神らしく、堂々とこの場に立ち向かう。……そう、私が思考を纏めていた、その時だった。

 

「…………」

「…な、何よ……」

 

 ふっとネプテューヌ達から視線を離し、代わりにネプギア達女神候補生の四人を見やるもう一人の私。じっくりと、一人一人を見定めるような瞳で四人を見つめ…それからもう一人の私は、小さく笑う。

 

「そうか、自らへの反意も受け入れたか。…その点に関しては、評価しよう。肯定であろうと、否定であろうと、それは人の意思。人々が、女神へと向けてくれる、尊い思い。それを理解出来たというのなら…貴様達はまだ、見込みはある」

「み、見込み…?それは、一体何の……」

「女神候補生、だったか。…君等の在り方は、この私が正す。女神の在るべき姿に、在るべき力と在るべき心に」

 

 平然と、何の躊躇いもなくもう一人の私は言う。ネプギア達を、自分が正すと。在るべき姿へ、その形へ。

 そこに悪意はない。それは分かる。そもそもこれまで、もう一人の私から悪意を感じた事は一切ない。…けど…それはあんまりにも勝手だ。正すという事はつまり、間違っていると指摘しているのと同じなのだから。見込みがあるから正す…それは完全にネプギア達を下に、格下だと見ている発言だから。

 

「…勝手な事を言わないで頂戴。ネプギアは、わたしの妹よ。女神候補生は、わたし達の妹よ。もしも貴女が、ネプギア達に可能性を感じてくれているのなら感謝するわ。でも、悪いけど貴女にネプギア達を任せるつもりはないし、ネプギア達を導くのは……」

「自分達の務め、とでも?…それは叶いはしない。既に判断の時間は終わった。優しく勇敢なるあの少女の願いに応えるべく、これまで貴様等に矛を向ける事はしなかったが…やはり貴様等は、今の時代を…この災禍の中である者は悲しみに暮れ、ある者はそれでもと立ち上がり前を向く、誇るべき人と救うべき人に溢れる今の信次元を守るのに、導くのには相応しくない」

『……っ…!』

 

 もう一人の私からの一方的な言葉に、それでもネプテューヌは冷静に返す。ほんのりと怒りを滲ませながらも、落ち着いて突き出された主張を拒否し……けれどそれにもう一人の私が返したのは、それ以上の否定。ネプテューヌ達の事を、真っ向から否定し…その手に精製したバスタードソードを、ネプテューヌ達へと突き付ける。

 その瞬間、ギリギリで保たれていた雰囲気が完全に崩壊。まだ対話の出来そうだった空気は霧散し、ネプテューヌ達皆の瞳が臨戦態勢のそれになって……だけど、私はそれを止める。前に出て、もう一人の私と皆の間に…もう一人の私が向ける刃の正面に立って、もう一人の私と真正面から正対する。

 

「待って…ッ!叶いはしないって、相応しくないって…なら、まさか……」

「彼女等は、この私が撃滅する。女神は正しく在らねば意味がない。人の為とならねば価値がない。そして、無意味にして無価値な女神など、邪魔以外の何物でもない」

「……ッ…だったら、コンパとの約束を反故にする気…!?人との約束を破る事が、もう一人の私の考える正しい女神だって言うの…!?」

「勘違いしないでもらおうか。ああそうだ、私は彼女と約束した。だが同時に言った筈だ。私は見定めると。そして、私は見させてもらった。今の人の営みを、今の人の感情を、今の人の在り方を。…だからこそ、素晴らしき今の人々を導くべく、私の手で討つ。言葉で、行動で、凡ゆる誠意で以って、真に在るべき女神の姿を理解してもらう。…それが、私の答えだ」

 

 あぁ、駄目だ。このまま戦いになるのは、絶対に避けなくちゃいけない。その思いのままに私は立ちはだかり、もう一人の私に言葉をぶつけた。ぶつけたけど…分かったのは、もう一人の私の意思は既に決まっているという事。深く人を愛するその心は、同じ女神に対しては一切向けられていないという事。そして、私が引き出した言葉は…私の望まない方向に、皆を動かす。

 

「…いい加減に…いい加減にして下さいッ!そんな勝手な話、一方的な主張、飲める訳がありませんッ!そうでなくても、お姉ちゃんは、お姉ちゃん達は、わたし達にとって、大切な人です!そのお姉ちゃん達を、討つというなら……」

「待ってネプギア。…わたし達だって、そんな言葉を認めはしないわ。幾ら貴女が原初の女神であろうと、わたし達はその勝手な主張を認めない。貴女がそれを撤回しない、譲らないのであれば……」

「待って…待ってよ皆ッ!分かってるでしょ…!?こんな、私達全員が疲労した状態で…四人が満身創痍の状態で、戦うなんて……ッ!」

「お前の意見など聞いていない。そしてこれは決定事項だ。私が貴様等を討ち、候補生を正し、信次元を幸福で包む。その邪魔をするのであれば、如何なる存在であろうとも……斬り伏せる」

 

 ネプギアは声に怒気を孕ませ、ネプテューヌは静かな怒りを声に滲ませ、もう一人の私へと向けて意思を示す。それは、もう一人の私の主張に対する…完全な否定。

 気持ちは分かる。分かってる。私だって、もう一人の私の理不尽な言いようを、受け入れるべきだとは思わない。ネプテューヌ達を討つ?ネプギア達を、一方的な考えで正す?…そんなの、もう一人の私の言葉だって承諾出来る筈がない。

 だけど、今戦えば…全員が疲労し、更にネプテューヌ達は満身創痍の状態で戦ってしまえば、結果は見えている。それは皆だって分かってる筈で、なのに今ここで戦闘を避けようとしないのは…きっと皆が思っているから。もうこれまでのようにはいかないって。今はもう、戦闘は避けられないんだって。

 

(…でも、違う…まだ一つ、手はある)

 

 皆がそう思うのも当然の事。そういう雰囲気を、もう一人の私が放っているから。満身創痍な状態じゃ、振り切るのも困難だって判断した部分もあるのかもしれない。

 けど、皆には取れなくても、私には出来る手がまだ一つある。私だからこそ…もう一人の自分という、もう一人の私にとってきっと最大のイレギュラーたる私だからこそ、きっともう一人の私と『交渉』が出来る。

 正直、これまでまともに話す事も出来なかったもう一人の私との、初めてのちゃんとしたやり取りが、そういう形になってしまうのは悲しい。もう一人の私には私の思いを聞いてほしいし、訊きたい事だって沢山ある。……けど今は、やっとネプテューヌ達を取り戻せたんだ。ネプギア達の努力が、やっとこの結果に繋がったんだ。…だったら…皆で頑張って掴んだ今を、手放すものか。

 

「……もう一人の私。…いや、原初の女神よ。この場は今一度、矛を収めてもらえないだろうか」

「駄目だ。矛を収める道理がない。矛を収める理由がない」

「では、今彼女達を…当代の守護女神を討つ事が、誉れ高き貴女の正義だと?理由はどうあれ、満身創痍の彼女達を、後から現れたに過ぎない貴女が討つ事こそが、示すべき正義だとでも?」

「愚問だな。満身創痍である事は、見逃す理由になどなりはしない。過ちを正し、人の幸福の為に最善を尽くす。ただ、それだけの事だ」

 

 膨れ上がるような緊張感。身体を包むプロセッサの内側から汗が吹き出し、心の中が混乱する。どうして私は、もう一人の私と…お母さんも同然の存在と、言葉の刃を交わしているんだろう、って。

 その混乱をぐっと堪えて、私は続ける。鉄壁の牙城を崩すべく……切り札を、切る。

 

「…貴女の意思は分かった。それが、生半可な言葉で揺らぎなどしない事も、十分に理解した。だがその上で…改めて言わせてもらおう。今一度、貴女には矛を収めてもらいたい」

「くどい。そもそもお前は何者だ。何故私と同じ姿をし、私と同じシェアエナジーをその身に秘める。もう一人の私、お前がそう呼ぶ理由は……」

「──それを、話そう。貴女の疑念、不可解、その全てに、出来る限り私が答えよう。貴女が、この場で矛を収めてくれると言うのなら…この身の自由を貴女に預け、その全てに答えると、約束する」

『な……っ!?』

 

 私は待っていた。私からではなく、もう一人の私からそこに触れる瞬間を。こっちから押し付けるのではなく、求めに応える形になるのを。そしてその問いをもう一人の私が口にしたところで、間髪入れずに私は言う。今の私が繰り出せる、恐らく唯一もう一人の私に届く「提案」を言い放ち…ネプテューヌ達は、絶句した。…けど、それも当然の事。言い方を変えてはいるけど…要するに私は、この場で戦わないでいてもらう代わりに、人質になるって言ったんだから。

 

「ちょっ、い、イリゼ!?何を急に言ってるのよ…!?」

「そうよ!この身を預けるって、何を勝手に……」

「…なら、冷静に考えてみて皆。この場での最善の選択は何?なし崩し的に戦う事が、一番の選択なの?」

『それは……』

 

 慌てて私に異を唱えてくるネプテューヌ達。そのネプテューヌ達へと私は振り返り、静かに、少し問い詰めるような雰囲気も込めて言葉を返す。

 それに皆は、言葉に詰まる。詰まるって事は、状況把握が出来てるって事。私が思った通り、「ここで戦うのは得策じゃないけど、状況的に避けられない」と思っていたんだって事。

…そう。このままなし崩し的に戦ったって、結果は見えている。疲労しているとはいえビヨンドフォームを会得したネプギア達ならまだしも、満身創痍のネプテューヌ達や、その内ロムちゃんラムちゃんに掛けてもらった治癒が切れる私は…話にならない。

 

「…えぇ、分かりますわ。貴女の言う通りですわ。けれど……」

「だからってイリゼ、もしその条件を飲まれたらどうする気だよ…!」

「勿論、その時はもう一人の私に委ねるよ。じゃなきゃ、この話は成立しないし…皆も、知ってるでしょ?私の、今の思いを」

 

 皆もそれは分かっている。それでも、と私を止めてくれる。…当然だ。皆は本当に優しいし…誰かを犠牲にして自分の身を守る事を、ネプテューヌ達が良しとする筈がない。

 でも、それは違う。これは私自身、もう一人の私も話したいからっていう狙いもあって提案している。それに何より…私は信じている。もしもう一人の私がこの提案を飲んでくれるとしたら、その時は私を徒らに傷付けたりしないって。証拠はないけど…私の心が大丈夫だって、きっとそうだって伝えてくれる。

 

『イリゼ(さん・ちゃん)……』

「大丈夫。ネプギア達は、ネプテューヌ達を取り戻す為に一生懸命頑張って、ちゃんとその思いを貫いたんだから…今度は私に、少しは格好付けさせてよ」

 

 心配そうに私を見つめてくれるネプギア達へは、笑い掛ける。…これも、私の正直な気持ち。頑張って頑張って、本当に自分達の力で姉を取り戻した今の四人は格好良くて…だから私も、その四人を指導した身として、少しは格好付けてみせたい。これが、格好良いかどうかは…怪しいところだけど。

 納得してくれるか、やっぱり駄目だと止められるか。私が皆の言葉を待つ中…聞こえてきたのは、後ろからの声。

 

「勝手に話を進めないでもらおうか。私がそれに応じるとでも?」

「貴女こそ、本当にこのままで良いと?今の信次元を見てきたとは言ったが、それはあくまで人の営み、人の在り方に対してだろう。…問わせてもらおう、もう一人の私。貴女は、今の時代の『常識』を知っているとでも?それすらも知らぬままに、人々の意に添う事が出来ると?全ての人を幸福に導けるとでも?」

「…言ってくれるな。ああ、確かにそうだ。だがそれを、何故お前に訊かねばならない。今も信次元には、イストワールがいる。心優しき、懐の広き人々も数多く生きている。にも関わらず、何故それをお前に訊く必要がある」

「貴女は信次元各地を飛び回っているのだろう?人の為に、奔走しているのだろう?私以外にも訊く相手はいると言うが…ならばそれに、日々懸命に生きる人々を巻き込むと?今も人々と協力し、私達女神や人の助けとならんとするイストワールに、更に手間をかけるのが最善だとでも?…少なくとも私は、互いに無難な結果を得られる提案をしているのだと、そう自負している」

 

 再び意識を切り替えて、もう一人の私と向かい合う。引いちゃいけない。尻込みしてはならない。そうしてしまえば、私はもう一人の私に飲み込まれる。この圧倒的な雰囲気に、創造主へ対する思いに、何も言えなくなってしまう。

 混じり合う視線。瞳から感じる、私を見定めるような眼光。もう一人の私へ対する答えは示した。後は、もう一人の私次第。私の言に価値を見出してくれるか、下らないと切り捨てるか、二つに一つ。その状態で、一秒、二秒と時間が過ぎ……

 

「…あ、あのさっ!…わたしからも、お願い。イリゼの提案を、飲んであげて」

「……っ…ネプテューヌ…」

 

 正面に立つ私よりも更に前、殆どもう一人の私が向けているバスタードソードの刀身へと身を投げ出すような形で、大きいネプテューヌが割って入った。反射的にもう一人の私が剣を降ろす中、私ともう一人の私との間に立って……頼み込む。

 

「君は……」

「わたしは貴女の事を、全然知らない。なんか凄いんだなぁって位しか分からない。…けど、イリゼの事なら知ってるから。まだ長い付き合いじゃないけど…イリゼが優しくて、友達思いで、誰かの為に頑張れる女神様だって事は、よく知ってるから。それがわたしの…女神じゃない、人間のわたしの正直な思いだよ」

「…………」

「それに…ちっちゃいわたし達がくろめ達に味方をしたのは、わたしにも責任があるの。わたしがもっと早く、もっとちゃんと本当の事を話していれば、こうはならなかったのかもしれないの。だから…ちっちゃいわたし達が悪いって言うなら、わたしも同罪だよ。悪いのはちっちゃいわたし達だけだなんて…そんな事は、絶対ない」

 

 私の、私達の前に立ちはだかるようにして、大きいネプテューヌは言う。私への信頼と、自分の咎をはっきりと口にして、もう一人の私を見る。ここからじゃ見えないけど…きっともう一人の私の視線を、真っ向から受けて見返している。

 知らなかった。ネプギアと入れ替わり、共に戦った訳じゃない私に対しても、ここまで信じてくれてたなんて。ここまで強く、ここまで深く、ネプテューヌ達の事へ責任を感じてたなんて。…改めて、思う。別次元だって、女神じゃなくたって…ネプテューヌは、ネプテューヌなんだと。

 

「…ネプ、テューヌ……」

「…ネプギア達もだけど…イリゼだって、わたしを信じてくれたでしょ?ちゃんと話さなかったわたしを、それでも信じて、頼りにしてくれたでしょ?…だからこれは、そのお返しだよ。信じてくれたなら…信じ返すのが、友達ってものでしょ?」

「…ありがとう、ネプテューヌ。私、やっぱり…あの時皆と、ネプテューヌを信じて良かった」

「ふふん、でしょー?……だからさ、イリゼの提案を聞いてあげて。ちょっとだけでも、皆に時間を頂戴」

 

 そう言って、大きいネプテューヌは頭を下げる。私みたいに交渉をするのではなく、純粋な思いで、もう一人の私へと頼む。

 その言葉を、もう一人の私は何も言わずに聞いていた。静かに、じっと大きいネプテューヌを見つめていて…そして、声を上げる。

 

「…頭を上げてほしい、女神と同じ名を持つ少女よ。君の思いはよく分かった。どれだけ君が清らかな精神を、強い信念を持っているのかも、しっかりと伝わってきた。…ふふ、あの時の彼女達もそうだったが…このような場においても臆する事なく、はっきりと思いを口にし、それを貫ける人がいるというのは、本当に素晴らしい。そんな人々を守り、思いに応える立場で在れて良かったと、心から感じられる」

「……!なら……」

「あぁ、良いだろう。彼女等の傷が癒えるまでの間は、今一度矛を収めるとしよう。…だが、勘違いするな。私がその提案を受け入れたのは、彼女の思いあっての事。そして……その傷が癒えた時、改めて私は貴様等を討ち、証明する。真に在るべき、女神の姿を」

 

 ほんのりと声を弾ませながらもう一人の私が浮かべる、嬉しそうな笑み。それが本当に心からの言葉だって事が分かる、穏やかな微笑みをもう一人の私は浮かべて…それから私を、私達女神を見やり、言う。私の提案を飲む事と、矛を収めるのは「一旦」である事を。…あぁ、それで十分だ。今の私に、もう一人の私の考えを変えるような事は出来ない。その上で望める、最大限の譲歩を…きっと、引き出せた。

 

「ネプテューヌ君。君が望むのなら、ここから下へと送り届けよう」

「…ううん、大丈夫。それより、皆の事を……」

「分かっている。君との約束を、違えるつもりはない」

 

 ゆっくりと首を横に振り、わたし達全員を見て言う大きいネプテューヌ。その言葉に首肯したもう一人の私はバスタードソードを霧散させ、背を向けてここから飛び立つ。

 私は何も言われていない。けれどここで付いていかなければ、その時点で契約不履行。だから追うように私も飛び立とうとして……私を止める、一人の手。

 

「待って…!駄目、やっぱり駄目よこんなのは…!わたし達の為に、イリゼがなんて……っ!」

 

 振り向けば、それはネプテューヌの右腕。罪悪感と自責の念の混ざった、酷く苦しげな表情を浮かべていて…それは、その表情をしているのは、ネプテューヌだけじゃない。守護女神の四人、全員が同じ顔をしていて…ネプギア達も、更に私を心配する表情になっていて……駄目だなぁと、私は思う。もっと皆に心配をかけない言葉選びが、出来たら良かったのに。

 だけど、今出来なかった事を悔やんでも仕方ない。ゆっくりしている訳にもいかない。だからこそ、私は皆一人一人を見回して……落ち着いた声で、言う。

 

「…皆。多分今のままじゃ、言葉だけじゃもう一人の私の思いは変わらない。考えは、変えられない。だから…まずは、ちゃんと怪我を癒して。癒して、その上で…皆が間違っていない事を、示しにきて。私も、出来る限りの事をするから。私も、皆を……信じてるから」

 

 その言葉と共に、私は私の左手首を掴むネプテューヌの手を右手で握って、ゆっくりと離して…そして、飛び立つ。

 これからどうなるか分からない。まだこの選択が、本当に正しいものだったのかも定かじゃない。けれどもう、状況は進んでる。だから私は、交わした言葉の通りにもう一人の私を追う。皆へと向けた、信じてるという思いを残して。




今回のパロディ解説

・きゅうきょくイリゼさん
MOTHER3に登場するモンスターの一体、きゅうきょくキマイラのパロディ。トイレではなく施設を出たところにいた彼女。乗っているのはひよ子ではなく…イストワール?

・「〜〜誰かの為に頑張れる女神様〜〜」
ガンダムビルドダイバーズ Re:RISEに登場するキャラの一人(二人)、ムカイ・ヒナタ及びイヴの代名詞的な台詞のパロディ。女神は皆、誰かの為に頑張れていますよね。
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