超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第百三十二話 原初の意志

 浮遊大陸から離れたもう一人の私は、何も言わずに暫く飛び続けた。どこへ行くでもなく、ただ移動と上昇を続け…不意に止まったかと思えば、空中で天界への扉を開いた。扉を開いて、ちらりと一度だけ私を見て…その中を潜っていった。付いて来い、そう視線で言うかのように。

 

(…こんな普通に、開けるんだ……)

 

 何の変哲もない、天界への扉。けど私達が天界への扉を開く場合、負担と難度を下げる為に教会のシェアクリスタルを利用する。でも今、もう一人の私は単独で、開いていた訳で…某カーガッシュの目さんばりにさも普通に開ける辺り、本当にもう一人の私は別格なんだなと感じさせられる。

 

「…これで私がしれっと引き返したら…はは……」

 

 ふと頭の中に浮かぶのは、私が出てくるのを一人でぽつんと待ち続けるもう一人の私の姿。…もし本当にそうなったら、虚し過ぎる。そんな事をするつもりはないけど、そんなもう一人の私は見たくない。

 とにかくもう一人の私が天界に行くというのなら、私もそれに付いていくだけの事。だから後を追う形で、私も扉を潜り……通り過ぎた時、そこは無数にある浮き島の一つの上だった。そこにもう一人の私は着地し、こちらを振り向いていた。

 

「……っ…!…あ、あの…どうして、天界…に……?」

「ここは私の知る天界とさして変わらない。落ち着いて物事を考える際には、見知った場所の方が適している。ただそれだけの事だ」

 

 ここまで殆ど止まる事も、さっきの一瞥を除けば私へ振り返る事もなかったもう一人の私がいきなりこっちを見ていた事で、一瞬言葉に詰まる私。そこを超えて初めに発したのは、この場所へと移動した事への質問。訊きはしたものの、ちゃんと答えてくれるか私は不安で…けれどその不安に反して、もう一人の私は普通に問いへ答えてくれた。

 ただそれは、友好的な心情によるものじゃない。別に無視する理由もないから、答えただけ。…もう一人の私が浮かべていたのは、そんな顔。

 

「…じゃあ、これまでも姿が見えない時は天界に…?」

 

 二つ目の問いに対しては、無言。無言だけど、多分これは肯定している。違うなら、その場合は違うと言ってくると思う。

 

(…どう、しよう…訊きたい事、言いたい事は、沢山あるのに……)

 

 そこから私は言葉が途切れ、もう一人の私も何も言わず、訪れる沈黙。今はもう一人の私と二人きりで、話をするのには絶好の機会なのに…今は、そういう気持ちになる事が出来ない。

 でもそれは、今の状況もあるかもしれない。早速その話をしてしまったら、まるで皆の事が建前の様になってしまうような気がするし、交換条件として提示した「もう一人の私の問いに答える」事より自分の思いを優先してしまったら、それもやっぱり自分本位。……なら、まだ自分の話をするべきじゃない。まずはきちんと、もう一人の私と交わした条件を果たして……そう、思った時だった。

 

「…もう一人の私。さっき言った通り、私は……って…もう一人の、私…?」

「……付いて来い」

「え、え…?」

 

 待っている必要はない。こっちから答えると言ったんだから、私から切り出せばいい。その思いで切り出そうとした私だけど、不意にもう一人の私の視線は私から逸れる。私から逸れて、どこか遠くを見るような目になって…それからまた、扉を開く。

 言うが早いか、私の反応も待たずに行ってしまうもう一人の私。急に何なのかは分からない。分からないけど…言葉と共に向けられたのは、真剣な瞳。これからしようとしている事は、きっと何か大切な事。そう思って私も、またもう一人の私が作った扉を潜る。

 

(けど、今度はどこに……)

 

 私を気遣うつもりはないらしく、もう一人の私は結構な速度で飛んでいく。それを必死に追いかけて暫くすると、今度は上昇ではなく降下を開始。そして今見えているのは…ラステイションの、生活圏。

 

「…え、ここって…あ、ちょっ……」

 

 そうして降り立ったのは、公共施設であるホール。ここは今、ある用途で使われていて…その中へと、もう一人の私は迷う事なく入っていく。

 

(あの足取り、ここがなんの施設か分かってるって事…?それとも、何の施設だろうと関係ないって事…?…と、いうか…これは、ちょっと混乱が……)

 

 廊下を平然と歩いていくもう一人の私を、私も後ろから追いかける。今の私達は女神の姿、しかもある理由からすれ違う人には悉く目を瞬かれていて…それももう一人の私は気にしていない様子。…ど、どうしよう……。

…と、思っている内に、私達は廊下を抜ける。廊下を抜け…私達は入る。不安に、悲しみに、悲痛な願いに満ちた、この空間に。

 

「…………」

 

 広がった視界。そこに見えるのは、多くの人達。眠っている、昏睡している、眠り続けている人達の姿。

 もう、かなりの人が目覚めてくれた。取り敢えずではあるけど、各国社会としての機能も取り戻している。…それでもまだ、意識が戻る事なく眠り続けている人達もいて……ここは、そんな人達を纏めて保護している施設の一つ。

 そしてここには、日々昏睡している人達の家族や友達も来ている。いつ目覚めるのかも分からない、大切な人を心配し、目覚めてくれる事を願い、同時に眠り続けている事、目覚める保証はない事への恐れを抱く…今も続く苦しみを背負った人達もまた、ここにはいる。

 

「……もう一人の私。ここは、この人達は…」

「知っている。だから、ここに来た」

 

 この人達の状態、こうなった理由を、もう一人の私は知っているのだろうか。もし知らないのなら、これはきちんと話さないと。…そう思った私だけど、もう一人の私も知っていた様子。それに、「だから、ここに来た」という気になる発言もそこに続けて…ここにいる人達の一人、眠る男性の手を握る女性の側へ歩み寄る。

 

「…ご婦人。彼は、君の家族だろうか」

「え…?…あ、い、イリゼさ……ま?」

 

 静かに問い掛けるもう一人の私。その声を聞いて振り向いた女性は、すぐに話し掛けてきたのが女神だという事に気付いて…けれどその直後、目を丸くする。その目でまずもう一人の私を、次に私を困惑そのものの表情で見やる。

 当然だ。だってこの人からすれば、全く同じ顔をした女神が二人目の前にいるんだから。女神云々を差し引いたって、いきなりそんな場面に出くわしたら誰だって驚く。

 

「…あ、あの…すみません、少し目が疲れているようで……」

「(や、やっぱり…)ちょ、ちょっともう一人の私…!何か考えはあるの…?このままだと、この人も周りの人もかなり混乱して……」

「分かっている。…ご婦人。彼女は私の分身体の様なものであり、君の目は正常だ。そこは、安心してほしい」

「……っ…!」

 

 小声でどうするつもりか訊いた私を軽く制し、もう一人の私は私を分身体であると説明。その言葉に、女性は一応納得したような表情を浮かべて…一方で私は、心の中が熱くなるような感覚を抱いていた。

 それが、この場で都合のいい建前である事は分かっている。…それでももう一人の私が、私を分身体だと…もう一人の自分であると表現してくれたのは、嬉しかった。たったそれだけでも、話す事を望んで良かったと思える程…心の中には、熱いものが込み上げていた。

 

「そ、そうなのですか…。…えぇと…はい。イリゼ様の仰る通り、彼は私の夫です」

「やはりそうか。…人生を共に歩む者が、ある日突然眠りから戻らなくなってしまったのだ。さぞ、辛かっただろう。さぞ、大変だったのだろう。…まずは、謝らせてほしい。君に、彼の身に降りかかった災難を、事前に防げなかった事を」

「そ、そんな…謝らないで下さい、女神様。こうなったのは、女神様のせいではありませんし、女神様が日々対処に当たって下さっている事は知っています。それに…まだ彼は、死んだ訳じゃないんです。きっと…目覚めてくれるんです」

「…ありがとう。君の優しさ、心の広さに、感謝したい。そして…そんな君の配偶者であれば、さぞ彼も素晴らしい人なのだろう。…聞かせてもらえないだろうか。彼の事を。彼が、どんな人であるのかを」

 

 私が場違いな思いを抱く中、もう一人の私は女性と言葉を交わす。初めに理解を示し、次に謝罪し、それから感謝し女性に訊く。今もここで眠り続けている、彼女のパートナーである男性の事を。

 何を思って、もう一人の私が彼の事を訊くのかは分からない。女性ももう一人の私の言葉に怪訝な表情を浮かべていて…けれどその真剣な眼差しに応じるように、じっと見返した後に首肯。眠る夫の手を握った後…語り始める。

 

「…彼は、何か特別凄いものを持っているような人ではありませんでした。ありふれた、至って普通の人で…そんな彼と、私は幼馴染みでした。私は彼を、昔から知っていたんです」

 

 記憶を、過去を振り返るように、女性は私達へ語ってくれる。彼は平凡な人であった事。けれど同じ平凡な自分の話で、日々の他愛ない会話で、いつも笑ってくれた事。その笑顔が、自分には魅力的に映っていた事。そんな彼と、幼馴染みの延長線の様に付き合っていて…それでもプロポーズは、本気の思いと真摯な愛でしてくれた事。そして…それからの、彼との日々。それはプライベートな話で、親しい間柄じゃない私達へ話すのは気恥ずかしさだってある筈で…それでも、話してくれた。…この人は、そういう懐の深さを持つ人なのかもしれない。もしかしたら、元々私を信仰していてくれたのかもしれない。そういう良い理由じゃなくて、私達に話をする事で、彼が目覚めない事への不安を紛らわせようとしている…そういう可能性だってある。

…でも、何であろうと、この人は私達に話してくれた。彼との思い出を、教えてくれた。それは事実で…感謝を、しなくちゃいけない。

 

「…という一面もあったんです。…本当に、彼は…意外性はなくても、安心感のある人で…だから、彼といる時は…いつも、穏やかな時間が流れて、いてっ……」

「……っ、も、もう一人の私…これ以上は……」

 

 話す最中、女性は昔の事を思い出すように何度か笑う事もあった。語りに沿って、表情が変わり…だけど、話している内に思いが込み上げてきたのかもしれない。今に、今の彼へ対する不安が溢れ出すように、段々と表情は苦しげなものに変わっていき…そうして遂に、涙を零す。俯き、太腿の上で拳を握って、涙と共に肩を震わせる。

 彼女は、快くもう一人の私の頼みを聞いてくれた。その彼女に、辛い思いなんてさせちゃいけない。咄嗟にそう思った私は、もうこれで止めにするべきだともう一人の私へと振り向き…そして、私は目にした。彼女を見つめるもう一人の私の瞳からも…同じように、涙が流れて落ちるのを。

 

「え……?」

「…ありがとう、ここまで話してくれて。けれど、もういい。これ以上、君が苦しむような事はしなくていい。それを、私は望まない。私も…彼も、望みはしない」

「…っ、ぁ…イリゼ、様っ……」

「君の話で、よく分かった。やはり彼は、素晴らしい人物だ。そしてそんな彼を思う君の心は、尊く美しい。…だからこそ、悲しみにくれないでほしい。絶望に打ちひしがれないでほしい。…信じて、ほしい。必ずや、彼は目覚める。私が君と彼とを隔てる闇を打ち滅ぼし、在るべき日々を取り戻す」

 

 そう言って、もう一人の私は女性の手を握る。涙を振り払い、強い意思の籠った表情を浮かべて、はっきりと女性に宣言する。

 それを、女性は静かに聞いていた。驚きを感じさせる顔で、最初から最後まで聞いていて…もう一人の私が宣言した瞬間、再び女性は涙を流す。涙を零しながらも何度も頷き、もう一人の私に答える。信じると、彼を頼むと。

 

「もうこれ以上、不安に思う必要はない。女神としての使命に、誇りにかけて彼を救おう」

「女神様…オレも、自分の兄貴もお願いします…ッ!兄貴もずっと、目覚めなくて……っ!」

「勿論だ。だがまず、話を聞かせてほしい。その彼の事も、私は知りたい。君の思いを、この彼の在り方を、私に教えてほしい」

 

 涙に濡れる瞳をしっかりと見据え、救うと約束するもう一人の私。その言葉に女性が深く頷く中、不意に一人の男性が声を…痛烈な叫びにも似た、切実さに溢れる声でもう一人の私へ頼み込む。

 もう一度強く、安心させるように女性の手を握って離したもう一人の私は、応じるようにその男性の方へ。それから女性の時と同じように、片時も目を離す事なく話を聞く。彼を労わり、その彼のお兄さんを讃え、再び涙を流す。そんな素晴らしい人物が、このような形で眠り続けるなど、許容されていい筈がないと。

 そしてその内に、もう一人の私の周りへは人だかりが出来る。自分も話を聞いてほしい、自分の大切な人も助けてほしい…そんな思いが、願いが、もう一人の私へと集まる。

 

(…もしかして…もう一人の私の情報が、無秩序に表れてたのって……)

 

 一人一人、一回一回、もう一人の私は向き合って聞く。話の先にあるのは殆どが悲しみや嘆きであると分かっているのに、最後まで聞き、話してくれた全ての人の心に寄り添う。

 話を聞いたからって、救うと約束したからって、それだけで眠り続けている人が目覚める訳じゃない。きっと目覚める…そう信じてはいるけど、確たる保証はない。…それでもここにいる人達は、不安や恐れを打ち明ける事で、女神からの『約束』を貰う事で、ほんの少しでも救われている。先への、目覚めないかもしれないという不安が和らいでいる。…だったら……

 

「…あ、あのっ…女神様、ぼくの…ぼくの、お母さんも……」

「……うん。君のお母さんの事も、私に教えて。君の大切な、お母さんの事を」

 

 人だかりの後ろ、前に進めずおろおろとしていた男の子の近くで私は片膝を突き、同じ視線の高さで訊く。彼の心に、思いに寄り添う。

 私にも出来る事がある。私にもするべき事がある。複製体だとしても、私も女神。なら……あぁ、そうだ。何より私が、女神がやるべきなのは…人を助け、救う事だ。

 

 

 

 

 ここを訪れてから、数時間が経った。私ともう一人の私は、大切な人を思う全ての人の話を聞き、その心に触れた。

 色んな人の、色んな相手に対する思いがあった。悲しみがあった。けれど、共通するのは…今も眠る大切な人へ、戻ってきてほしいという願い。

 

「女神様…自分、焦りなんてしません。幾らでも待ちます。女神様がいつも自分達人の為に頑張ってくれている事、知っていますから」

「ふふ、そう言ってもらえると心強い。君の様な人に信じてもらえるのなら、それだけでも心が満ちるような思いだ」

 

 最後の一人から応援の意図も込められた言葉を受け取り、もう一人の私は微笑みを返す。

 多くの話を聞いたけれど、もう一人の私は一度として叱責するような事は言わなかった。そもそも皆被害者なのだから、というのも勿論あるだろうけど…誰の言葉も、どんな思いも、もう一人の私は優しく受け止め肯定していた。

 

(…凄いな…助けるって、救うって、あんなにあっさり…ああも躊躇いなく、言えるなんて……)

 

 私は話してくれる人の話に耳を傾けながら、もう一人の私の言葉も聞いていた。もう一人の私は、一人一人に大丈夫だと、私が救うと話していた。

 そんな言葉、普通は言えない。普通に言うとすれば、それは重みのない口先だけの言葉か、本当に出来ると心から確信しているかのどちらかで…間違いなく、もう一人の私は後者。そう思っているんだろうし…圧倒的な力を持っている事は、私も知っている。

 

「……う、ん…?」

 

 良し悪しは別として、今もう一人の私は何人もの心に手を差し伸べ寄り添ったんだ。…その事実を心の中で反芻する中、私は視界の端に映ったある一人の事が気になった。

 その人は、壁際でじっとこちらを見ていた。恨めしそうな、でも羨ましそうな、そんな瞳で。…何かある。そう感じた私がその人物…少女へと話をかけようとすると、同じくもう一人の私も前に出る。

 

「…君も、何か話したい事があるのだろうか。もしあるのなら、教えてほしい」

「別に…何も、ないです……」

「そう、だろうか。…私には分かる。君の心に、やり場のない怒りと悲しみが渦巻いているのが。君の様に若く未来ある者が背負うべきではない、辛い思いが」

「……っ…だから、わたしは…っ!」

 

 問い掛けに対し、女の子は否定する。けれどもう一人の私が一歩踏み込み、更に少女へ言葉を紡ぐと、その子は表情を歪ませ…力無く俯く。

 この子は何か辛さを抱えている。それは、私にも分かった。表情、立ち居振る舞い、雰囲気…彼女から表れている様々な事から、何となくだけどそんな思いが伝わってきた。そしてきっと、ここにいて、私達を見ていたって事は…この子もまた、他の人達と同じ理由か近い理由。

 俯く少女に、もう一人の私は何も言わなかった。何も言わず、ただ少女の前で片膝を突いて言葉を待ち……暫く続いた沈黙の末、少女はぽつりと言葉を漏らす。

 

「…どうしようも、ないんだもん…あの日、あの子は事故に遭って…それで……」

 

 悲しみに包まれた、女の子の言葉。あまりにも切なげで、苦しげなその言葉に…私も心を、締め付けられる。

 はっきりとは言わなかった。でもきっと、はっきり言わなかったって事は…そういう事なんだ。いつかは目覚めてくれる…そんな希望さえ、この子は「あの子」に対して抱けないんだ。

 それを聞いて、私はやるせなさと、無力感に苛まれる。言葉を掛けてあげる事は出来る。心に寄り添ってあげる事も出来る。だけど、真にこの子が望む事はしてあげられない。期待を持たせてあげる事すら出来ない。だってそれは、女神でもそれだけは……

 

「……そんな事は、ない。嘆く必要は、諦める必要は…どこにも、ない」

「え……?」

 

 私までもが俯きそうになってしまう中、そんな声がふっと響く。強い意思の籠った瞳で、揺るぎないその精神で、もう一人の私が響かせる。

 思いもしなかった、普通言える筈もない言葉に、私も女の子も茫然と見つめる。そして私達が見つめる中、もう一人の私はこの場にいる全員を見るように振り向き……告げる。

 

「失われたものは還らない?終わった命は戻りはしない?…一体誰が、そんな事を決めた。一体何が、そんな事を定めた。……私はそんなものを真理と定めた覚えはない。人を悲しませる、苦しませる、幸福から遠ざかるような現実を、断じて許した事などない」

「…もう、一人の私…?何を、言って……」

「今、私の声を聞いている者達よ。私の声に、耳を傾けてくれる人達よ。覚えておいてほしい。世界とは即ち、人の為の世。次元とは、人の幸せの為に在る存在。ならば何を諦める事がある。ならば何も諦める必要はない。未来に希望を、明日に夢を…それこそが正しい形だ。生きとし生ける人の為に、信次元は在るべきだ。そして、その為に…その在るべき姿を創る為に女神()はいる」

 

 はっきりと、堂々と、もう一人の私は言った。何の迷いも躊躇いもなく、それこそが真実であると言わんばかりに、言い切った。

 最早それは、人を遥かに超越した…それこそ、女神としての意思。正しい、悪い、善、悪…そんな言葉じゃ測れないとすら思わせる程の信念が、そこにはあった。だからこそ…訪れたのは、静寂。

 

「私は必ずや成し遂げる。君達人が、人々が望む世界を創る事を」

 

 最後にもう一人の私は、穏やかな笑みで女の子の肩を軽く叩き、そうしてこの場を後にする。皆からの答えを待つ事なく、静かに歩いていく。

 半ば気圧されてしまっていた私は、その歩みに慌てて続く。追うようにして廊下を歩き、外に出て、もう一人の私と共にそこから飛び立つ。

 

「……もう一人の私…さっきの言葉は…」

「…お前が人々から聞いた言葉、受け取った思いは、天界で聞く。…まさかそれを、忘れてはいないだろうな?」

「え…?…それは、勿論。一人一人の思いが、願いが籠った言葉を、忘れる訳がないよ」

「…当然だ」

 

 こっちからの言葉はお構い無しに、もう一人の私から向けられる要求。けどそれは、無茶でも何でもない。誰が何を、どんな思いを語ってくれたか私はちゃんと覚えていて…そう返すと、もう一人の私は当然だとだけ言って飛行する高度を上げていく。

 もう一人の私は、ネプテューヌ達に対して一切の容赦がない。優しさの欠片もない位の言動を見せていて、それは私も同じ事。こういう表現をすると、辛いけど…私をおかしな存在、異物であるかのように見ている気もする。そしてきっとそれは、心を鬼にして…なんていう思いじゃなくて、もう一人の私の本心。

 だけど…それでもやっぱり、私は感じた。元々あった確信が、更に強く…よりはっきりとしたものになった。確かにもう一人の私は、同じ女神に対して厳しい。本気で排除すらしようとしてる。でも……

 

(…人の事は、心から思ってるんだ。心から愛してるんだ。人の為、人の幸せ……もう一人の私は、純粋にそれだけを願っているんだ)

 

 もう一人の私の事は、よく分かった。女神としてのもう一人の私を、よーく知る事が出来た。…でも、私の心は変わらない。私の思いも、私の望みも、変わりはしない。だから……これからだ。もう一人の私に、私の思いを伝えるのは。もう一人の私と…対話、するのは。




今回のパロディ解説

・某カーガッシュの目さん
デモナータの主人公の一人、カーネル・フレックの事。とはいえ別に、欠片を集めて天界への扉を開いている訳ではありません。多分次元の扉と似た感じです。

・「〜〜生きとし〜〜信次元は在るべきだ〜〜」
カードファイト!!ヴァンガードのユニットの一つ、イディアルエゴ・メサイアのフレーバーテキストのパロディ。この辺りのシーンで、原初の女神の在り方が出ていますね。
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