超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第百三十四話 女神の信念

「…では、ネプテューヌさん達はこれまで通り、安静にする事を最優先として下さい。イリゼ様の事は勿論ですが、くろめさん達の事も、守護女神の皆さんの力は必要となりますから(´・ω・`)」

 

 話が全部終わって、最後にいーすんが締めの一言。まあ確かにもう一人のイリゼはわたし達を…狙ってる、で良いのかな?…訳だし、次元の危機に守護女神は不要、じゃ何の為の「守護」女神なのさって話だから、当然だよね。それに何より、わたしは主人公だしっ!

 

「ねぷねぷも皆さんも、少しでも変だな、って思った事があったら言って下さいです」

「ベール様…まさか誰かに頼んで、こっそりネトゲ環境整えてたりはしませんよね?」

「んもう、そんな事はしませんわよあいちゃん。今は大人しく…携帯機やソシャゲで我慢していますわ」

「…………」

「うっ…あ、あいちゃんからの冷ややかな視線が…けれどあいちゃんのクールな雰囲気とマッチしたその視線、格好良くて素敵ですわ…!」

「え、そ、そうですか…?…って、はぐらかさないで下さい!もうっ!」

 

 普通にドキドキしてる感じの声を出すベールに、一瞬嬉しそうな顔をした後、指摘を上手い事躱された事に気付いて怒るあいちゃん。二人のイチャイチャも、なんだか久し振りな感じで…それを温かい目で見守ってあげるか、それとも茶化してみようかとわたしが迷う中、ちょっと良いかな…っておっきいわたしが声を上げる。

 

「おっきいネプテューヌちゃん、どうかしたの?」

「したの…?(きょとん)」

「えっと…わたしはやっぱり、またちゃんとくろめと話したいって思ってるんだ。今は平行線でも、いつかはちゃんと、話したいの。…けど、これはわたしの思いだから。くろめは悪くない、なんて事もないし…次に相対する時は、わたしの事を気にせず悪い事は悪いってちゃんと言ってあげて。遠慮なんかせず、ガツーンってさ」

「当然ね。貴女がいようといまいと、言うべき事は言わせてもらうわ」

「理由がなんであろうと、彼女がしたのは許されざる事よ。だから…えぇ、遠慮なく言うわ」

 

 途中までは真剣な顔で、でも最後はぐっと拳を握って、おっきいわたしは言う。自分の事は、気にしないでほしいって。

 それにブランとノワールがすぐ答えて、わたし達もこくんと頷く。頷きながら、思い出す。前にもおっきいわたしは、くろめを気にかけるような事を言っていたけど…それはおっきいわたしにとって、くろめが放っておけない相手だったからなんだね。

 

「じゃあ、お姉ちゃん。コンパさんも言ったけど、些細な事でも何かあれば言ってね?」

「その通りだ。折角ここまで回復したというのに、油断や軽視から完治が遅れてしまっては勿体ないのだからな」

 

 そうして皆は部屋を出ていく。それをわたし達は見送って、昨日までと同じ、ベットの上での生活を再開しようとして……だけど一人、最後まで残っていたネプギアは、他の皆と様子が違った。

 

「…ネプギア?」

「…その、お姉ちゃん。実は…話したい事が、あって……」

「…二人だけの方が、話し易い?」

 

 躊躇うような顔をしてから、おずおずと口を開くネプギア。雰囲気で大事な話なんだなって分かったわたしが訊き返すと、ネプギアはその場で小さく頷く。

 だったら、とわたしは両脚をベットの外に出して、スリッパを履く。ちょいちょい、と右手でネプギアを呼んで、一緒に部屋から外の廊下へ。…え、動いても良いのかって?いやいや、ちょっと立って歩くだけだもん。これ位は、普通にセーフだよ。

 

「…ごめんね、お姉ちゃん。色々話した後で、お姉ちゃん休みたかったのかもしれないのに……」

「大丈夫大丈夫、正直もう休む事に飽きてきてるからね。前の時もそうだったけど、ずーっと部屋にいなきゃいけないっていうのは、ゲームとかあっても辛いものだし。その点で言えば、本やネトゲでずーっと籠っていられるベールやブランは凄いよねぇ…」

 

 わたしだってゲームは好きだけど、大好きだけど、外で身体動かしたい時だってあるし、それを止められちゃうのは意外と苦痛。で、こういう話の場合、普段ならネプギアは苦笑いをするんだけど…今日は小さく頷いただけ。

 

「…すぐ話せる?もう少し、雑談してからの方が楽?」

「…ううん、大丈夫。……お姉ちゃん、左腕…痛く、ない…?」

「痛くないよ。第81独立機動群もないし」

「う、うん…凄く分かり辛いけど、ファントムペインもないんだね…」

「あははー。まあともかく、作品知ってても伝わり辛そうなネタを言える位には元気だから、その点は安心して」

 

 思い返せば、戻った直後以降は腕について何も訊かれなかった…というか、ネプギアは話に出す事自体してなかったような気がする。そのネプギアが言ってきたって事は…多分『話したい』のも、そういう事。

 

「…お姉ちゃん、聞いたよ。腕は…少なくとも暫くは、このままで復帰するつもりだって」

「…うん、そうだよ。柱間細胞とか磁気を操れる悪魔の実で作った義手並みの物が作れるならともかく…普通の義手じゃ、絶対わたしの動きに付いてこられないからね。それに他の皆ならともかく、わたしの場合は女神化前後で体格が違い過ぎるって問題もあるし」

「…だよね。それは、分かってるの。お姉ちゃんだって、考えがあっての選択だって事も…お姉ちゃんの気持ちが、固い事も」

「そっか…」

 

 自分自身じゃ、左腕がない今の自分ももう受け入れてる。勿論気にしてない訳じゃないし、受け入れてても辛いものは辛いんだけど…今はこのままでいく、って選んだのはわたし自身だから、覚悟は決まってる。

 でもそれはわたしの覚悟だし、わたしの事をいつも大切に思ってくれてるネプギアには、もしかしたらわたし以上に辛い思いをさせているのかもしれない。そう思ってはいたけど、今までこの話にはならなかったから、訊く機会もなくて…そういう意味では、良い機会なのかもしれない。

 当たり前だけど、わたしの選択を喜んではいないネプギア。でも…ネプギアはわたしが思っていたよりも落ち着いていて、感じる雰囲気もわたしが想像してたのとは違う。

 

「やっぱりネプギアは、そうしないでほしかった?」

「それはそうだよ。…正直に言えば、今だってお姉ちゃんには治療か義手を選んでほしい。けど…それは、出来ないでしょ?」

「…ごめんね、ネプギア」

「うん。…だから、せめて聞かせて。そうまでして…自分から辛い道を選んでまで、もう一人のイリゼさんと戦おうとする理由を」

 

 そう言って、ネプギアはわたしの目をじっと見つめる。止めたい、けど止められない、だからこそせめて知りたい、わたし自身の言葉で納得したい…ネプギアの瞳から感じるのは、そんな思い。

 避けられない戦いだから。いつまでも、ずっと待ってくれるとは思えないから。…それも理由ではあるけど、一番の理由は違う。

 

「原初の女神…もう一人のイリゼはさ、無茶苦茶だよ。いきなり現れたと思ったら何も言わずに襲い掛かってくるし、いっつも一方的な事言ってくるし、戦闘能力に至っては常時強制敗北イベント並みだし」

「…だね。もう一人のイリゼさんが悪い人じゃない…っていうか、人の事を最優先にしてるのは間違いないけど、やっぱりちょっと…いやかなり無茶苦茶な女神、だよね…」

「…だけどさ、今ネプギアが言った通り、こんぱの時も、おっきいわたしの時も…人に対しては、凄く真摯で、心から敬意を払ってたでしょ?さっきイリゼも言ってたけど、毎日の様に四ヶ国を飛び回って、人を助けたり、悩みを聞いて上げてたりしてた訳でしょ?…だから多分、もう一人のイリゼはわたし達が憎いんじゃなくて、もう一人のイリゼにとっての『理想の状態』を作れていないわたし達を許せないって気持ちと、自分が今の信次元を良くするんだって気持ちから、わたし達を…わたし達女神を、排除しようとしてるんだと思う」

 

 話しながら、思い出す。状況的には繋がるだけでもびっくりなのに、それどころか普通に話せてしまったイリゼとの会話を。

 イリゼは教えてくれた。具体的に何をしてたのか分からなかったもう一人のイリゼの行動も、イリゼ自身は今のところ本当に何もされてない事も。話を聞く限りもう一人のイリゼはイリゼの事も好意的には見ていないみたいだけど、それでも今イリゼが元気で、辛い目には何も遭ってないって分かっただけでも凄く安心。それに…最後にイリゼは言っていた。自分はもっと、もう一人の自分の在り方を知りたいって。自分じゃない自分の、原初の女神の在り方を側で見て、感じたいって。

 その声には、落ち着きと、強い決意が籠っていた。イリゼはもう一人の自分と向き合って、抱いていた自分の思いを確かめて、拒絶されたとしても尚もう一人の自分へ、自分の思いを貫く事を決めていた。…そんな思いを聞かされたら…そりゃ、思うよね。…格好良いじゃん、って。

 

「…もしその通りなら、悲しいけどね。わたし達ともう一人のイリゼの願いは、やっぱり同じなんだって事だもん。同じなのにこうなるのは、悲しいよ。…だけど、だからって引けはしない。もう一人のイリゼが女神として、人の為にわたし達を討とうとしてるなら…尚更、そんなの受け入れられないよ。わたし達だって、女神として…女神の誇りに懸けて、逃げる訳にはいかない。…それが理由で、納得してくれる?」

 

 もしももう一人のイリゼの主張を、やろうとしてる事を受け入れたら、多分わたし達に未来なんてないし…それは、もう一人のイリゼの方が正しかったんだって認める事にもなる。わたし達女神は信じてもらう事で成り立ってるのに、間違ってたのはわたし達だって認める事は……絶対に出来ない。

 これは皆に話した時からわたしの心の中にあった思いだけど、さっきのイリゼの言葉を、思いを聞いて、この思いはもっと強くなった。同じ女神として、プラネテューヌを守る守護女神として…わたしにも、貫きたいものがあるんだから、って。

 

「…………」

「…大丈夫だよ、ネプギア。玉砕覚悟で、とか誇りを貫けるならこの命を落とす事になっても、とかは考えてないから。あくまで…というかいつだって、わたしが狙ってるのはビクトリィー!…なんだからね」

「…知ってるよ、だってお姉ちゃんの妹だもん。それに…やっぱり、ほんとに…お姉ちゃんは、格好良いね」

「自分の心に誠実に生きる事が、強くなれる秘訣だからね。…ねぇ、ネプギア…ネプギアにとっては、妹にとっては、やっぱりこういうのって…嫌?それでもやっぱり、こんな事は…しないでほしい?」

 

 わたしはわたしの選択に、何の迷いもない。でも、嫌だから…ネプギアに辛い思いをさせるのは嫌だから、有耶無耶にしないで訊く。わたしの思いを聞いた上での、ネプギアの…妹の気持ちを。この意思を撤回する事は出来ないけど…受け止める事なら、出来るから。

 そう言ってわたしがネプギアの瞳を見つめると、ネプギアは静かに目を閉じる。そのまま数秒、ネプギアは考えていて…それからゆっくりと目を開けると、ネプギアは言う。

 

「…嫌だよ。いやだし、しないでほしい。けど……それと同じ位、わたしはお姉ちゃんに、格好良いお姉ちゃんでいてほしい。それ以上に、お姉ちゃんにはお姉ちゃんの思いを貫いてほしい。不本意な理由とか、焦りとかで今のままいようとしているなら、何が何でも止めるつもりだったけど……その思いを貫く為なら、止めないよ。わたしは…お姉ちゃんの、妹だから」

「…ありがと、ネプギア」

「うん。だけど…それはわたしも、同じなんだからね?」

 

 じっとわたしを見つめ返して、ネプギアがわたしに言った言葉。それは、全部がわたしへの優しさ。わたしを大切に思ってくれるから、無理はしてほしくなくて、でもそれ以上にわたしを応援しようとしてくれてる。もしかすると、わたしの「ネプギアにとって格好良いお姉ちゃんでいたい」って気持ちも、察してくれてるのかもしれない。

 ほんとに、ネプギアは優しいなって思う。だけどその後、少しだけ頬を緩めて言った言葉で、わたしは思い直す。…多分ネプギアは、今後のわたし、今後の戦い次第では本当に止める。力尽くでも、止めてくる。だって、今のネプギアはもう…真正面から戦って、わたしに勝てるだけの力があるんだから。そうする覚悟も、持ってるんだから。

 

(…負けて、られないよね。イリゼにも、もう一人のイリゼにも…ネプギアにも)

 

 生みの親な筈のもう一人の自分に否定されて、一度は道に迷って、それでも今は否定をしてきたもう一人の自分と向き合っているイリゼ。どこまでも純粋に、ただ人の為に『女神』の使命を果たそうとしている原初の女神。わたしを大切に思う気持ち、わたしを応援してくれる気持ち、それに妹として止める覚悟…全部を持って、今ここにいるネプギア。三人共それぞれに信念があって、それも強さの一つで…だからやっぱり、負けてられない。プラネテューヌの、守護女神として。

 

「…よし!なんか、気合い入ったよ!」

「え、気合い…?…今…?」

「そう、今!何か今なら、即修行パートを始めても良い気分!」

「だ、駄目だよ!?完治するまでは安静にって話だったでしょ!?」

「でもほら、立ち絵は普段のそれでしょ?って事はもう平気だって!」

「いや、立ち絵に関しては元々いつも怪我の有無は関係ない…って、そもそもないよ!?これ原作じゃなくてネット小説だからね!?」

「じゃ、地の文地の文!ほーいっ!」

 

 そういうネプテューヌの立ち姿は普段通り。心配されてはいるものの、もう大丈夫と言っても差し支えないようだった!

 

「ほらね!」

「ほらねじゃないよ!?じ、自分が視点担当だからって、地の文使って事実を改竄しようとするとか前代未聞だからね…!?」

 

 負けてられない。その気持ちでエンジンが掛かったわたしだけど…残念ながら怒ったネプギアに連れ戻されて、敢え無く元の部屋に帰還。むぅ、珍しくやる気を出すとこれなんだから、世の中上手くはいかないものだね。

 

「ネプテューヌ、話は済みましたの?」

「うん、ばっちり!」

「すみません、皆さんにも気を使わせてしまって…」

「気にする事はないわ。ロムとラムだって、しばしばわたしを心配して色々言ってくるもの」

「悪いのは貴女じゃなくて、心配をかけてしまってる私達だもの。…だからこそ、私達も果たすべき使命は果たさないと、ね」

 

 ぺこりと頭を下げるネプギアに、そんな事はない…とノワールは肩を竦める。わたしもそれに頷いて、さっきのは冗談だから、とちゃんと訂正。

 それから今度こそ出て行くネプギア。そのネプギアを見送りながら…わたしは改めて、わたしの気持ちを決めた。皆と、守護女神として…真っ向から、原初の女神とぶつかるって。

 

 

 

 

 もう一人の私と行動を共にする事で、もう一人の私について色々と分かった。気持ちの部分、信念の部分もそうだけど…行動の部分だって、それは同じ。

 やっぱりもう一人の私は、人助けの為に信次元中を飛び回っていた。四ヶ国は勿論の事、時にはその外の浮き島群にだって飛んでいき、そこで人を助けていた。そういう能力があるのか、もう一人の私は行き当たりばったりではなく、何かしらの根拠を持って困っている人、助けを求めている人を見つけていた。

 幾ら能力が桁外れだからって、信次元中を回るのはそれだけでも相当な時間を必要とする。だからかもう一人の私は食事を摂らず、睡眠も一切取っていなかった。勿論お礼に食べ物を貰った時は、断る事なく何だって食べていたけど…それ以外の生命維持に必要な事は、恐らく全てシェアエナジーで賄っている。

 

「…ここか」

 

 今もう一人の私、それに私がいるのは、その数々の浮き島の一つ。小さな村であるお願い…というか依頼を受け、鬱蒼とした草木が生える地帯へと来ている。

 女神は基本的にシェアエナジーさえあれば何とかなる…というか、シェアエナジー節約の為に食事や睡眠で体調管理をしているとはいえ、普通一切の休息を取らず、全てシェアエナジーで賄ってしまう…なんて事はしない。だけど、それをもう一人の私はしている。シェアエナジー保有量の違いかもしれないけど…それもまた、私や皆との『違い』の一つ。

 

「…ここで、どうする気?」

「どうする気?まさか、彼等の言葉を聞いていなかったとでも?」

「い、いや勿論聞いていたよ?私が言っているのは、そうじゃなくて……」

 

 質問をしただけなのに、冷ややかな視線を返される。でもそれが、悪意や不愉快さをぶつけられてる訳じゃない事は分かってる。

 村で頼まれたのは、害虫の駆除。ある時期になると農作物に被害を及ぼす害虫が生息しているのがこの地域で、ここには毒を持つ虫や棘のある草木も多いから、駆除をしたくても出来ない…村の人達は、そう言っていた。

 困っている事、切実な願いである事は、よく伝わってきた。何とかしてあげたい、素直にそう思った。けど…一体どうやって駆除するつもりなのか。この身一つで、どうする気なのか。そう思いで私が訊き直そうとする中…もう一人の私は、自身の周囲に次々と大剣を精製し始める。

 

「え、ちょっ…もう一人の私……?」

「助力は不要だ。それよりも、私より前に出るな。邪魔になる」

「邪魔って…まさか……」

 

 私へ言葉を発している間も、増え続けるシェアエナジーの刃。私が一度に出来る限界を優に超え、それでもまだ増える大剣を前に、私の頭にはある可能性が浮かび上がる。

 いやまさか。そんな方法無茶苦茶過ぎる。…でも、もう一人の私なら…普通なら考えもしないその手段が浮かび上がったその直後……もう一人の私は、精製した大剣を地上へと放つ。

 

(…嘘、でしょ……!?)

 

 空に立つもう一人の私の周囲から飛来する、無数の大剣。もう一人の私の意思を乗せた無数の刃は草木の生える地面へ深々と突き刺さり、或いは木々の中に消え……次の瞬間、不可視の爆発が巻き起こる。

 それは、圧縮されたシェアエナジーが解放された事により起こるもの。私だって、攻撃や移動に活用する…私にとっては、見慣れたもの。それが、眼下の地上で巻き起こり……凡ゆるものを、吹き飛ばす。

 

「…出てきたか、忌まわしい虫風情が」

 

 精製が続けられ、次から次へと飛来し爆発を起こすシェアエナジーの大剣。それはまるで、絨毯爆撃。容赦無く、一切の躊躇いも無しに行われるその攻撃が、大地諸共その上にあるものを吹き飛ばしていき…その内に、炙り出された夥しい数の虫が姿を現す。現れ、四方八方に逃げていく。

 けど、それを一瞥したもう一人の私は幾分か小さい…短剣から片手剣サイズの剣を大剣群とは別に精製し、それ等を逃げる群れへと射出。虫の飛行速度を遥かに超える射出剣は瞬く間に追い縋り…爆発。抵抗能力は皆無に等しい虫を何十、何百、何千という単位で粉々に砕き…それによって、害虫と評された虫を殺していく。

 大剣の爆発により住処を薙ぎ払い、その爆発を逃れた虫も、追撃の刃が爆ぜる事で吹き飛ばされる。環境も何も関係ない…圧倒的な力による、無情の蹂躙。

 

「人の生活に仇成すなど、言語道断。過ちを自覚し、懺悔しながら死んでゆけ」

 

 眉一つ動かす事なく、冷え切った瞳で逃げ惑う虫を見下ろしながら、もう一人の私は殲滅を続ける。壊し、砕き、薙ぎ払い、無数の生命を無に帰していく。そして、その殲滅が終わり、砂煙も晴れた時……そこに動くものは、何もなかった。

 

「…こんなものか」

「……っ…ま、待って…待ってよ、もう一人の私…ッ!」

 

 少し前まで鬱蒼と草木が生えていたこの場所は、今や戦争が起こった後も同然な状態。それを前に、たった一言呟いただけで、もう一人の私は戻ろうとした。終わったと、村に報告へ行こうとした。

 もう一人の私の行為に、私は唖然としていた。予想を遥かに超えていて、愕然としてしまっていた。けど、何とかここで我に返り…私はもう一人の私を止める。

 

「なんだ」

「なんだ、じゃないよ…!?…そりゃ、確かにどんな方法でも構わないとは言っていたけど…この場所自体は別に貴重でもないって言ってたけど…これじゃあただの、環境破壊だよ!?あれだけあった草木も、多分いた害虫以外の動物や虫も、丸ごと死滅させたんだよッ!?」

「ああ、そうだな。それがどうした」

「……っ…!」

 

 正直言えば、私は特別動植物を大切にしよう、って思っている訳じゃない。必要なら止まないとは思うけど、不必要に殺したり死滅させたりする必要はないと考えているし、多分世の中の大概の人がそう。…だけど、もう一人の私は違った。この行為で、それなりの広さのあった『自然』そのものが潰れたというのに…もう一人の私は、それを「それがどうした」としか思っていない。

……いや、分かる。分かってる。もう一人の私は、人の事が最優先で、人にとっての良し悪しを絶対の基準にしてる。これまでに見てきた、もう一人の私の精神を考えれば…こういう事をしたって、何もおかしくない。

 だから私は、一度自分を落ち着ける。もう一人の私にとっての基準から、考え直して…それでもやっぱり、言葉を返す。

 

「…分かるよ。だってこれが、村の人達の頼みだったんだから。だけど…ここの自然には、害虫の住処以外の存在理由があったかもしれない、とは思わないの…?この環境を壊した事で、何か弊害が…人にとって良くない事が起こるかもしれない、とは思わなかったの…?」

「あぁ…なんだ、そんな話か。確かにそれはそうだ。環境は単独で存在している訳ではない。何かが生まれた事により、何かが失われる事はある。その逆もまた然りだ、発生や消滅が連鎖する事も往々にある」

「だったら、これは……ッ!」

「だが、所詮は自然だ。替えなど幾らでも効く。虫も、植物も、大地も、人一人が唯一無二の人とは違うのだから。そして、どうにもならなくなれば…根本から、変えてしまえば良い。ただ、それだけだ」

「…根本から、変える…?…何を、言って……」

 

 今の行為は、未来へ影響する。…もう一人の私は、それもきちんと分かっていた。分かった上で、この行為をしていたんだと知って…余計に私は、愕然とした。

 そこへ重ねられる、不可解な言葉。けど私がそれを尋ねるより早く、もう一人の私は反転し…村の方へ。慌てて私が追い掛けると、今回もまたもう一人の私は私を待ってくれる気配なんてなく…だけど不意に、後方の私へと向けて言う。

 

「……お前は、女神が何の為にいると思っている。この力は、何の為にあると思っている」

「え…?…それは……」

 

 突然の…でもこれまでとは違う、ただ一方的に突き付けるだけだったこれまでとは何かが違う、もう一人の私の問い。単純なようで、複雑な…けれどやっぱり単純なようにも思える、そんな問い。

 それから間もなく、村の周辺に着いたもう一人の私は降下を開始。私達が戻ってきた事に気付いた村の人達が集まる中、もう一人の私は害虫を殲滅した事、もうこの村の農作物が襲われない事を空から高らかに言い放ち……それに、声が返ってくる。歓喜の、感謝の、多くの声が。

 

「ありがとうございます、ありがとうございます…っ!これまで自分達は、どれだけあの虫共に困らされてきた事か…!」

「こんなに早く駆除してくるなんて、流石は女神様です…っ!」

「えぇ、えぇ、確認なんていりませんとも!貴女様の瞳、声を前にすれば、それが真実である事は分かります!」

 

 この村にとって最大の問題を片付けてくれたもう一人の私へ向けられる、惜しみない感謝。それは私にも向けられて、正直私としては申し訳ない。私は何もしてないのに、感謝だけを受けるなんて…そう思いはしたけど、感謝の声に飲み込まれで、私の声は通らない。思い切り声を張り上げれば、届くかもしれないけど…それじゃあ今の盛り上がりへ、水を差す事になってしまう。

 そんな中で、向けられる言葉へ可能な限り答えるもう一人の私。答えるその顔に浮かんでいるのは……心からの、温かな微笑み。

 

(…あぁ、そうか…もし、本当に…もう一人の私の、言う通りなら……)

 

 それは、感謝され、讃えられた事による笑みか。シェアを得られる事への喜びか。…いいや、違う。もう一人の私が笑っているのは…村の人達が、喜んでいるからだ。村の人達の喜び、頼みを叶えられた事、人の為になれた事…その事にもう一人の私は、笑っているんだ。そしてそれは、私にとって…どこまでも美しく、正しく見える。何も間違っていない…私の心は、本気でそう感じている。

 人の為。さっきもう一人の私が言った問いを訊き返したのなら、間違いなくこの言葉が返ってくるだろう。本当に、本当に…どこまでももう一人の私は、ただそれだけの為に存在しているんだ。…だからこそ、私は感じた。もう一人の私といる事で、少しずつ形になっていった思いが…遂にはっきりとした答えになって、確信する。

 電話で聞いた、聞こえた状態からして、もうすぐネプテューヌ達四人は回復する。そうなればもう、戦いは避けられない。避けられないし…避けちゃいけないんだ。だって、もう一人の私は…正しいから。女神として、確かに正しいから。だから、もう一人の私と正対する上で、必要になるのは間違いを突き付ける事じゃない。理念の穴を突く事じゃない。必要なのは……同じく理念を、自分達の持つ正しさを……もう一人の私へと、証明する事なんだ。




今回のパロディ解説

・第81独立機動群
ガンダムSEEDシリーズに登場する部隊、ファントムペインの事。作中でネプギアが突っ込んでいますが、これ単体だとほんとに全然分からないネタかな…と思いました。

・柱間細胞
NARUTOシリーズに登場するキャラの一人、千手柱間の細胞の事。柱間細胞の義手なら、流石に何の問題もなく動かせると思います。…いや、入手出来るならの話ですが。

・磁気を操れる悪魔の実
ONE PIECEに登場する悪魔の実の一つ、ジキジキの実の事。こっちの場合、義手は能力の活用の一つに過ぎません。そして上記同様、まず入手面の問題が大有りです。

・「〜〜誠実に生きる事が、強くなれる〜〜」
バック・アロウのOPの一つ、dawnのフレーズの一つのパロディ。サビ前の部分ですね。女神は信じるという信念の塊ですし、凱帝同様ワッパー一つでは足りないかもです。
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