超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
決戦は明日。万全…とまではいかずとも、コンディションは好調。何かあった際の対応も、信頼の出来る仲間に任せてある。決戦前日の状態としては……悪くない。
戦う事となるのは、原初の女神。これまでの信次元を守る為の戦いではなく、わたくしの…わたくし達当代の女神の、正しさを証明する為の戦い。そんな戦いを控える夜…わたくしの下に、ある電話が届く。
「…あら?」
着信を知らせたとは、私用ではなく、公務用の携帯端末。相手は…ある男性。
「夜分…それも重要な戦いを控える中でのお電話、申し訳ありません女神様」
「気にする事はありませんわ。…このタイミングで掛けてきたという事は、今掛ける必要があった、という事でしょう?」
穏やかで落ち着いた、されど油断ならない何かを感じさせる声。その声の主は、ニル。ある意味でくろめにも劣らない程心の読めない彼が、わたくしに対して非合理な連絡をしてくるかといえば…勿論、否。
「流石は女神様、お見通しという訳ですか」
「ふふ、まあ前置きはこの位として…何の用事でして?」
「…えぇ。女神様…我々が初めてきちんと対面した日の事を、覚えておいでですか?」
今は別段忙しくもないとはいえ、流石にのんびり長電話をするような心境ではない。そう思ってわたくしの方から本題に入るよう切り出すと、返ってきたのは意外な問い。
「……?覚えていますわよ…?」
「あの時は、随分と驚かされました。貴女の人となりはある程度知っていたつもりでしたが、よもや漠然とした理想を、ああも堂々と言ってのけるとは…」
「そうでしたわね。けれどあれは、パフォーマンスではありませんわよ?」
「分かっておりますとも。そして私は、そんな貴女の有り様に…一国の長という、否が応でも思い通りにならない現実に、どうにもならない不幸に幾度となくぶつかる筈の立場にありながら、折れる事なく自信を持って甘い理想を語れる貴女の在り方に、一つの可能性を感じました。それに付き合うのも悪くない…そう思ったのです」
「…そんな事を思っていましたのね…。しかし何故、今それを…?」
少々芝居掛かった言動を見せる事はあれど、強い感情の籠った『本心』はまず見せようとしてこないニル。その彼が珍しく、比較的とはいえ確かな感情を感じさせる言葉を発した事には、驚いた。
けれど同時に、何故?…とも思った。何故今、この話を…と。それを今明かす理由は、一体何なのかと。
「…お分かりになりませんか?聡明な貴女らしくもない」
「…わたくし、勿体ぶられるのはあまり好きではありませんの。…貴方は何を、言いたいんですの?」
「おや、これは失礼。そういう事でしたら、単刀直入に言わせて頂きましょう。……あの時と同じ言葉を、今も同じように仰る事が出来ますか?」
「……っ…!」
一瞬間に沈黙が挟まれ…そして彼が発した、静かながらも重みのある言葉。電話越しでありながら、実際に対面した状態で言われているようにも感じる声。
その言葉を聞いて、わたくしは思い出す。原初の女神とレイが初めて刃を交えたあの時、彼もあの場に姿を現していた事を。
(……確、かに…そう言われるのも、当然…ですわね…)
あの日、あの時語った言葉は全て真実。今も、その思いに変わりはない。…けれど、今のわたくしは、今のリーンボックスはその理想とは程遠い。わたくしは多くの人を守れず、未だ目の覚めぬ国民も数多く存在し…何より、わたくしは一度敵に回ってしまった。わたくし自身にその意思はなかったとはいえ…そのような形に、傍から見ればそう思われるような立ち回りをしてしまった事は事実。
怒っている…ようには聞こえない。どちらかといえば、残念そうな声だと感じる。同時にわたくしを試しているようにも、次の言葉で改めて見定めようとしているようにも感じられる。…であれば、わたくしがする事は?弁明?釈明?あれは仕方のない事だったのだと、そんな意思はなかったのだと、今ある現状に対して一つ一つ理由を説明する事?……いいえ、違いますわ。
「……明日の戦いが、わたくしにとって…グリーンハートにとって重要な戦いである事は、ご存知ですわね?」
「勿論です」
「で、あれば…明日の戦いで以って、わたくしは証明し直しますわ。あの日わたくしが語った、思いと信念を」
我ながら、些か自分に甘い返し方だとは思う。この場では返さず、明日の戦いでというのは、体良く答えを先延ばしにしているようなもので、自信を持って答えられるのであれば、今すぐ返せば良いだけの事。それをしなかったのは……えぇ、分かっていますわ。わたくし自身、はっきり言い切る事への躊躇いがあるんですもの。今のわたくしが、あれ以降わたくしがした事、出来た事は、掲げる思いを堂々と言い切れるだけのものなのかと。その言葉に、あの時と同じだけの自信を込められるのかと。
思いは変わっていなくとも、今のわたくしが立っている場所は違う。…だからこそ、まずは証明し直さなくては。わたくしが、変わらずわたくしである事を。
「…良いでしょう。女神様が、そう言うのであれば」
「ええ。貴方に、その問いにはっきりと答える為にも…全身全霊を賭けて、わたくしは明日の戦いに望みますわ」
「ならば私は、朗報を期待するとしましょう。では、武運を」
そうして切れる、彼との通話。切れた事を確認したところで、わたくしはゆっくりと吐息を漏らす。
まさか決戦前夜に、このような話をするとは想像もしていなかった。…正直に言えば、今でなくとも出来た筈の話を、よりにもよって何故今、と思う部分もある。ひょっとすると…不甲斐ないわたくしへの当て付けとして、わざと今掛けてきたのかもしれない。
けれど、多くのものを背負ってこそ女神。自身の心を話す時は、堂々としていてこそのわたくし。なればこそ…今話した事、新たな使命も背負って──わたくしは、グリーンハートの誇りを貫くだけですわ。
*
扉を開いて、そこを通って、天界に降り立つ。何も変わらない、一見すればどこまでも空が広がっているように見える、空と浮き島と虹の橋で出来た…信次元の、もう一つの空間に。
ここに来たのは、わたし達四人と、ネプギア達四人だけ。女神だけで来たわたし達は、何かあった時皆の方からこっちに来られるよう、扉が開いたままになるようにして、歩いて向かった。イリゼから伝えられた、原初の女神が待つ場所へ。
「…来たか」
原初の女神が待っていたのは、シロガネの山の山頂…とかじゃなくて、比較的大きい浮き島の一つ。その中心で、原初の女神は悠然と…けれどどこか威圧感を抱かせる佇まいで立っていて……その原初の女神の正面へと、わたし達は並び立つ。
「待たせたわね。それに……」
「遅くなっちゃってごめんね、イリゼ」
同じように堂々と立つノワールに続いて、わたしはイリゼへ向けて言う。イリゼはわたしからの言葉を聞くと、ううんとゆっくり首を横に振る。
「これは、皆にとって必要な時間だった…そうでしょう?それに…私にとっても、必要な時間だった。だから…何も、遅いなんて事はないよ」
「そう言ってくれると、助かるわ」
「それに…確かにイリゼ自身、得たものがあるようですわね」
中心に立つ原初の女神の斜め後ろ、付き従うように立つイリゼの表情は、そこに籠る意思が見えそうな程に引き締まっている。これからイリゼも戦うのかと思う位に、真剣で本気の顔をしている。
原初の女神と行動を共にする中で、イリゼがどんな思いを抱いて、どんな答えを出したのかを聞いてみたい。わたしも知りたい。…でも、それは後。今は目の前に、何よりもやらなくちゃいけない事が…果たさなきゃいけない目的があるんだから。
「言っておくが、貴様等とその在り方について語らうつもりはない。今更言葉を並べ立てられたところで、何の意味もない。…故に、自らの正しさを信じると言うなら、自らこそが在るべきだと思うのなら、力で以って証明してみせるがいい。……それが出来ると、言うのであれば」
鋭い視線をわたし達へ向けてくる、原初の女神。証明してみせるがいい、とは言ってるけど、それに期待している様子はない。出来るならすればいい、出来ないなら下すだけ…そんな気配を、原初の女神からひしひしと感じる。
でも、別にいい。そういうスタンスだろうとは思ってたから。それに、これはわたし達がわたし達で貫く為の戦いであって…原初の女神に、認められたくて交わす戦いじゃない。
「…おねえちゃん…」
「やっぱり、わたしたちも…!」
「駄目よ、ロム、ラム。これはわたしの…守護女神の、戦いなの」
「ほんとに、良いの…?こんな形を取らなくたって、アタシは……」
「ありがと、ユニ。…でも、これは私自身が譲れない事なの。ラステイションの守護女神、ブラックハートとして、絶対に」
「……お姉ちゃん」
「…うん。見ててよネプギア。お姉ちゃんの、パープルハートの格好良いところ…ばっちり見せてあげるからっ!」
廊下で話したあの時と同じ、わたしの身を案じてくれる気持ちと、わたしを応援してくれる思いの、両方が顔に浮かんでるネプギアへわたしはにっと笑って、右手で頭をくしゃくしゃっと撫でる。するとネプギアは、嬉しそうに笑ってくれて…うーん、やっぱりネプギアは可愛い。とっても可愛い、ラブリーマイシスター!
…だから、ネプギアの為にも負けられないよね。ネプギアが憧れてくれるわたしは、間違ってなんかいないんだって…証明しなくちゃ。
「…皆。私に、付いてきてもらえるかな?」
そう言って静かに飛び上がるイリゼにネプギア達は頷いて、その後を追う。そうして五人が移動したのは今いる浮き島からそこそこ離れた、ここより一回り小さい浮き島。そこならまず戦闘の余波は届かないだろうし…向こうからだって、的確な援護は多分出来ない。
戦闘に参加しない五人が離れた事で、今ここにいるのは原初の女神とわたし達守護女神だけ。わたし達は、それぞれでゆっくりと息を吐いて……女神化。
「…そんな間に合わせの補修をした腕で、私に勝つつもりか」
「その間に合わせの補修をしなきゃいけなくなったのは、他でもない貴女のせいだけどね。…言っておくけど、わたし達は善戦出来ればそれで十分…なんて、そんな程度の低い事は考えていないわ」
女神の、本来の姿となったわたしの左側に向けられる視線。そこにあるのは…プロセッサで作った、装備としての右腕。
生身の腕は勿論、くろめが用意してくれた義手よりも、このプロセッサの腕の性能は低い。低いというか、殆どこれは両手持ちである大太刀をある程度でも振れるようにする為のもので…確かに間に合わせという評価は、的を射ている。
(けど、それが何?100%の状態じゃなくても、戦わざるを得ない時なんて普通にある。そんな中で、どれだけ戦う事が出来るのか…それだって女神の、守護者の実力ってものよ)
この腕に、不安はない。性能には不満があるけど、それは仕方のない事。分かっている事なんだから…この腕で、今のわたしで、出来る事を尽くすだけ。
「…好きにかかってくるが良い」
「あら、先手は譲ってくれるんですの?」
「先手がどちらになろうと、結果は同じだ。であればどちらかに拘る必要もない」
バスタードソードを手にした原初の女神は、その場から動かない。雰囲気そのものは臨戦態勢だけど、そこに一切の構えはない。
だけど、もう全員分かってる。原初の女神の力を考えれば…今構えているかいないかなんて、些細な違いに過ぎない事は。
これから戦場となる浮き島を包む静寂。先手を取るか、敢えて先手を譲って出方を見るか。普通ならどちらにも長所短所があるけど…今の私に、彼女の攻撃をまともに捌く事なんて不可能。だったら選択肢は…一つ。
「…皆、仮にここで勝てたとしても、それで信次元に平和が戻る訳じゃない。でも……」
今目の前にいるのは、今に全力を懸けなきゃ絶対に勝てない相手。最後まで言うまでもなく頷いてくれた三人にわたしも頷き返して、再び原初の女神を見据える。
もう、余計な事は考えない。乾坤一擲、全身全霊、今のわたしの持てる力全てを懸けて……原初の女神に、証明する…ッ!
*
当代の四人の守護女神と原初の女神、その戦いの火蓋を切ったのは、ネプテューヌ…パープルハートだった。
「はぁああぁぁぁぁッ!」
地を蹴り、隙のない前傾姿勢で突進をかけるネプテューヌ。一気に肉薄したネプテューヌは腕を振るい、肩を突き出す体勢から斬り上げ気味の斬撃を放つ。
とても片腕が性能に難のある急造品とは思えない、卓越した一太刀。その斬撃はブレる事なく原初の女神の首へと迫り…だが触れる直前、原初の女神の姿が消える。
「……っ!ぐぅぅ…ッ!」
視界から消えた相手の姿に一瞬目を見開くネプテューヌだったが、次の瞬間弾かれるように反転。弧を描くような軌道で振り抜いた大太刀を自身の真正面へと戻し…その直後、掲げた大太刀に衝撃が走る。
それは、女神ですら容易には目で追い切れない程の速度で以って背後を取った、原初の女神による一撃。バスタードソードによる横薙ぎが大太刀の刀身を捉え、勢いそのままにネプテューヌを吹き飛ばす。
「…ほぅ、流石に反応は出来るか」
「おかげさまでね…ッ!それと、わたしを気にしていて良いのかしら……ッ!」
打ち出されるように吹き飛ばされたネプテューヌだが、空中で姿勢を立て直し、両足の先と右膝を地面へ突く事によって勢いを殺す。邂逅時と違い、直感的反射で吹き飛ばされながらも対応して被害を抑えたネプテューヌの姿に原初の女神は少しだけ眉を動かし…その背後に、ノワール、ベール、ブランが迫る。
真上からの戦斧と、左から仕掛ける大剣による狂いのない挟撃。右側、原初の女神から見て左側こそ空いてはいるが、それは罠。敢えて躱す事の出来る場所を用意する事でそちらに誘導し、時間差を付けたベールが突進からの刺突を打ち込む事こそが、本命の攻撃。
作戦そのものに、抜かりはない。やっている事は挟撃と時間差攻撃を合わせただけのものだが、それが的確な連携と女神の卓越した能力の下で行われれば、完全に対応するのは困難。…だがそれを、原初の女神は迎撃する。技でも、戦術でもなく…単純な力と速度で、弾き返す。
『ちぃ……ッ!』
「やはり、こんなものか…ならば」
振り向きざまの一閃でノワールとブラン、二人の攻撃を立て続けに斬り払い、懐にまで飛び込んできたベールの大槍は柄へ膝蹴りを打ち込む事によって迎撃。それから散開して立て直す三人を見やった原初の女神は、その場で小さく嘆息を漏らし…動く。
「その程度の防御で、阻めると思うな」
「んな……ッ!?」
立っていた地点周辺の地面が砕ける程の勢いで地を蹴った原初の女神は、一切の妨害を許さずブランへ肉薄。本能的に翼を広げ、防御の姿勢を取るブランだったが、上段からの一撃でその防御は瓦解。即座に放たれた回し蹴りが下がろうとするブランの脇腹を捉え、振り抜くと共にブランの身体を跳ね飛ばす。
一つ隣、やや上方に位置する浮き島の側面にまで吹き飛ばされ打ち付けられるブランだが、その時点で原初の女神は次なる攻撃に移行済み。異様な程の加速力で一気にベールの上方を取り、そのままベールを上から刺突。
「そう易々とは…あぐ……ッ!」
「ベールッ!この……ッ!」
打ち下ろされる攻撃に対し、ベールは半身となりつつ得物を振り上げる事で回避と共にカウンターを図る。しかし逆に原初の女神もまたそれを躱し、カウンターが見えた時点で離していた左手で以ってベールへと掌底。降下の勢いも乗った打撃はベールの肩を強かに打ち、そのまま浮き島へ叩き落とす。
ブラン、ベールが立て続けに重い一撃を受ける中、原初の女神へ迫るエクスブレイド。だが原初の女神は飛来する巨大剣を難なく避け、次なる目標をネプテューヌに定める。
「代わりの腕を用意してまで、と思ったが…やはり所詮はその程度という事か」
「ぐ……ッ!」
「好き勝手言ってんじゃ、ないわよッ!」
次なるエクスブレイドも紙一重で、しかし余裕の表情で避けつつ接近を掛けた原初の女神は、その勢いのままに片手で袈裟懸け。ブラン同様その一太刀で防御を崩し、燕返しが如く逆袈裟に入ろうとするも、そこに全速力のノワールが強襲。速度を全て乗せた斬撃を叩き込む事で攻撃を阻害し、原初の女神に防御を強いる。
次の瞬間、ほんの一瞬ノワールはネプテューヌに向けて目配せ。それだけでノワールの意図を理解したネプテューヌは頷き、大太刀を握り直して攻撃へ。
「助かるわ、ノワール…!」
「言ったでしょ、貴女の左側は私が守るって…ッ!」
斜め右前へと踏み込んだネプテューヌは、ノワールとは別方向から原初の女神へ反撃。防御しながらも原初の女神はバスタードソードを逸らし、大太刀の軌道へ斬っ先を滑り込ませる事によって受け止めるも、ならばと二人は地面を踏み締め、二人掛かりでの突破を図る。…だが……
「守る?ふざけた事を…人も満足に守れないでおきながら、女神同士で守り合おうとするなど、言語道断だ…ッ!」
弾かれるような勢いで、されど姿勢は殆ど崩さないまま背後へ跳躍する原初の女神。対象が一瞬で離れた事によりネプテューヌもノワールもつんのめり、すぐに姿勢を立て直すも、その時にはもう再び接近を掛けた原初の女神の姿が眼前。得物を盾として掲げるのが手一杯だった二人は纏めて左右に吹き飛ばされ、原初の女神は飛んでいく二人を冷ややかに見つめる。
まだ戦闘が始まってから、数分と経っていない。しかしやはり、その実力差は歴然だった。守護女神達はこれまでの経験を糧にする事で、今のところは辛うじて戦闘の形となってはいるが、全力を注ぐ四人に対し、原初の女神は余裕綽々。
「遅い、温い、脆過ぎる…本気でさえこの有り様だというのなら、これまでも随分と人々に迷惑を、不幸を与えてきたのだろうな」
『……ッ…まだ、まだぁッ!』
侮蔑するような原初の女神の言葉に対し、立ち上がり、或いは得物を構え直して、四人もまた闘志を燃やす。
実力差は火を見るよりも明らかだが、四人の気持ちはまだ折れていない。それ故に、守護女神達は果敢に立ち向かっていき…それを原初の女神が、圧倒する。
「お姉ちゃん…ッ!…駄目よ…分かるけど、お姉ちゃんの気持ちも分かるけど……ッ!」
「ねぇ、やっぱりわたしたちも行かなくちゃ!じゃなきゃ、おねえちゃんたちが…!」
「わ、わたしも…見てる、だけなんて……!」
「…駄目だよ、皆。それはしちゃいけない。それはさせない」
その戦いを離れた浮き島で見つめる女神候補生達の表情は、辛そうに歪む。大事な姉達が必死に戦っていて、しかし歯が立たず、攻防を重ねれば重ねる程、自分達の姉だけが傷付いていく姿を見せられれば、平然としていられる訳がない。嘗てギョウカイ墓場では自分達が無力故に、満足に戦えず姉に守られた四人だったが、今は力があるにも関わらず、助ける事が出来ない。イリゼがそれを、良しとしない。
「…分かります。これが守護女神の戦いなんだって、お姉ちゃん達自身がそれを選んだって事は、わたし達も理解してます。…だけど、それでも……」
「それでも、駄目なんだよ。皆が加勢した時点で、もう一人の私は…原初の女神は、四人を相応しくないと断定する。守護女神だけじゃ守れないんだって、そう証明する事になる」
「それは……そんなに、大切な事なんですか…?今までわたし達は、全員で力を合わせて、女神全員で、協力してくれる皆さんの力も借りて、皆で戦ってきたじゃないですか…。それは、間違ってたって言うんですか…?」
「ううん。…だけど、これは女神と女神の戦いだよ。守護者と守護者の、指導者と指導者の…今を、未来を守る者の勝負なんだよ。それに…もう一人の私は、守護女神の四人と戦う事を望んだ。だから私は…その邪魔を、皆にはさせない」
加勢を制止するイリゼへと向けて、ネプギアは問う。訴えかける。そんなにも、自分達の加勢は駄目なのかと。
それに対して、イリゼは…原初の女神の複製体は答える。守護女神の四人が戦う事、四人で戦う事に意味があり…原初の女神が選んだこの戦いには、女神候補生と言えども横槍は入れさせないと。
そんなやり取りが交わされる中でも、戦いは続く。守護女神達は喰い下がり、力を振り絞り…それでも全く届かない。絶望的な程の差は、埋まらない。
「はぁッ…はぁッ…負け、っかよ…ッ!」
「折れなど、しませんわ……ッ!」
「…哀れだな。だが、これが結果だ。これが現実だ。誤った道を進んだ、その末路だ」
「勝手な、事を…ッ!」
肩で息をし、複数の傷口から血を流しながらも、上空の女神を睨め付ける四人。その四人を見下ろし、傷一つない身体で言葉を返す原初の女神。吐き捨てるような言葉と共にネプテューヌが突進し、それを援護するように三人も飛び上がるが、原初の女神は四人を一蹴。今一度吹き飛ばされ、地面や別の浮き島に打ち付けられ、更にまた傷が増えるが…それでも歯を食い縛って、四人の守護女神は立つ。
実のところ、その姿までを原初の女神は侮蔑している訳ではない。四人が人の為に、国の為に戦っている事も、感じてはいる。だが…足りない、至らない。原初の女神の中にある、『女神の在るべき姿』には、あまりにも劣っている。だからこそ、彼女に温情をかけるなどという考えは生まれず……無情に、刃を振るう。
「皆、連携よ…原初の女神にわたし達が絶対負けないものを、連携の力をぶつけるしかないわ…ッ!」
「そう、ね…彼女だって、私達と同じ女神…だったら、絶対敵わない事なんて……ッ!」
言葉を交わしたネプテューヌ達四人は、幾度目か分からない突撃を開始。一番槍をベールが担い、そこにノワールとブランが続き、最後尾でネプテューヌが見定める。
現実問題として、現状ネプテューヌは他三人より戦力的に劣っている。それは仕方のない事であり、そこを踏まえて三人はぶつかり合う事も撹乱する事も必要のない、全力の一撃だけが求められる本命の攻撃を任せていた。
その連携を果たす為、渾身の力で以って仕掛ける。ネプテューヌもまた自身が本命だと悟られないよう動き回り、その上で付け入る隙を伺う。そんなものはない、としてしまえば簡単だが…それでも、少しでも可能性がある場所を探すべく、身体と共に視線も走らせる。
『ブランッ!』
「こッ…んにゃろうがぁああッ!」
一瞬の判断を惑わせる事を目的としたシザース飛行からの挟撃をかけたノワールとベールを、原初の女神は斬撃と蹴撃で同時に迎撃。次の瞬間、一手前の攻防で敢えて弾き返されたブランは強引に衝撃を抑え込み、迎撃直後の原初の女神を後ろから急襲。しかしそれすらも原初の女神は反応し、位置の確認すらない左腕の裏拳で以って振り向く動きのままに撃墜。数瞬の内に三人は跳ね返されて落ちていくも……そこにネプテューヌが、ほんの僅かにでも可能性を感じたネプテューヌが突貫を仕掛け、叫びと共に刺突を放つ。
「この、一撃でぇええええええッ!」
今引き出せる力の全てを注いだような、最高速度を込めた刺突。岩であろうと貫き、生半可な防御は問答無用で突き崩す、真っ直ぐに伸ばされた大太刀の一撃。
分かっていた。この攻撃であっても、それだけで勝つ事は出来ないと。どの程度のダメージを与えられるか分からないと。しかしそれでも、一撃入れば何かが変わる。少しでもきっと、原初の女神の戦闘能力は落ちる。そうなってくれさえすれば、それで十分。…そんな思いで、ネプテューヌは刺突を打ち込んだ。しかし、そんな期待すら……原初の女神は、打ち砕く。
「…何度やろうと、変わりはしない。今の貴様等の攻撃など…私には、届かない」
「そん、な……ッ!?」
迫るネプテューヌの姿を捉え、バスタードソードを腰溜めの姿勢で持った原初の女神。一瞬、原初の女神の動きが止まり…次の瞬間、振り出されたバスタードソードは目前にまで迫っていたネプテューヌの刺突を弾いて無力化。強烈な一撃で弾かれた大太刀の斬っ先は何もない上方を向き…無防備なネプテューヌの胴へと、バスタードソードは振るわれる。
その瞬間、咄嗟にネプテューヌは左腕を動かした。弾かれた時点で左腕は大太刀から離れ、フリーの状態になっていた。策も何もなく、ただ致命傷を避ける為だけに無我夢中でネプテューヌは左腕を突き出し……その直後、シェアエナジーで編まれたプロセッサの腕は、砕け散る。
「──もう、十分だ」
再び片腕を失う姉の姿を見て咄嗟にネプギアが叫ぶ中、原初の女神もまた呟く。怒りもなければ哀れみもない、ただ分かり切っていた結果を確認し終えた後のように、ぽつりと呟き…急降下。衝撃でバランスを崩したネプテューヌには目もくれずに、低空で立て直すノワールとベールの直下へと潜り込み、防御体勢を取る二人を二連撃で続けざまに打ち上げる。
直後、その二人への追撃を阻止する為ネプテューヌとブランが空から突進。元の隻腕となったネプテューヌは急降下の勢いを利用する事でもう一度刺突を仕掛け、ブランも短く持った戦斧で素早い横薙ぎを掛けようとするも、常人が同じ速度、同じ機動を行えばそれだけで骨が折れてしまいそうな動きで以って原初の女神は躱しつつ二人の間に滑り込み、バスタードソードを話して二人の右手首を同時に掴む。
そこから一回転した原初の女神は、その勢いを乗せてネプテューヌとブランを斜め上空へと投げ飛ばす。その先にいるのはノワールとベールであり、二人以上の速度で投げ飛ばされたネプテューヌとブランは、背中を向けた状態で激突。その衝撃で、四人は殆ど同時に呻きを漏らし……その、次の瞬間だった。新たに原初の女神が精製した二本のバスタードソード、それが光芒もかくやの速度で飛来し……ネプテューヌとブラン諸共ノワールとベールを、二組の腹部を同時に突き刺し貫いたのは。
『がッ、ぁ……ッ!?』
「散れ、守護女神。貴様等の命が終わろうとも…人々の安寧と幸福は、私が守る」
二組を貫いても尚勢いの止まらない二振りの剣は、そのままその先にある二つの浮き島へとそれぞれ激突。一瞬の合間の後、二つの浮き島には剣が刺さった地点を中心とした亀裂が走り、更に次の瞬間その地点は崩壊。それぞれを繋ぐバスタードソードが元のシェアエナジーとして霧散する中、破片となった岩と共に四人は落下していき……そこに刃が、何十の、何百もの、或いはそれすらも超える数の刃が降り注ぐ。
無数の刃がプロセッサユニットを砕き、皮膚を、肉を、骨を穿つ。突き刺さり、落とし、四人の身体を元いた浮き島へ縫い付ける。普通ならば、腹部を刺し貫かれた時点で重傷であり、その状態で落ちれば致命傷となってもおかしくないにも関わらず、過剰な程に、原初の女神の攻撃は続く。シェアエナジーが武器の形となった刃で、四人の身体を引き裂いていく。
そして、その非常な斬雨が降り止んだ時……そこには見るも無残な四人の姿と、致死量としか思えない四つの血の海が出来上がっていた。
今回のパロディ解説
・シロガネの山
ポケモンシリーズに登場するダンジョンの一つ、シロガネ山の事。そこの頂上で待っているのは…原点にして頂点、彼も正しく『オリジン』ですね。
・「…そんな間に合わせ〜〜つもりか?」
マクロスfrontierに登場するキャラの一人、オズマ・リーの名台詞の一つのパロディ。悪夢の先で立ち向かう四人と、紀元前に人々の救世主となった女神の戦いですもんね。
・「〜〜分かるけど〜〜分かるけど……ッ!」
機動戦士ガンダムSEED(とdestiny)の主人公の一人、キラ・ヤマトの名台詞の一つのパロディ。でも別に、ユニは「ならアタシは、お姉ちゃんを討つ!」となりません。