超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第八話 本気で、全力で

 探していたバトル場…もとい、祭壇を遂に見つけた俺達は、イリゼとるーちゃんの水浴びの後早速バトル…とはいかず、まずは調査をする事になった。まあ、流石に「あれ?どれだけバトルしてもパルキア出てこないぞ?」からの、「実はここじゃありませんでした」じゃ骨折り損もいいとこだから、当然だけどな。

 で、調べた結果、やっぱここが目的の場所なんだろうなって事になった。祭壇だ、って分かる看板や表示があった訳じゃないが…同じ神、同じ祀られる側の存在なだけあって、イリゼはここが祭壇で間違いないと断言した。

 見つけるべき場所は見つかった。そこでやるべき事も決まってる。となれば、後は……

 

「でーきたっと。二人共、肉巻きおにぎり完成だよ。好みでこのタレを付けて食べてね」

 

 夕飯だよな、うん。腹が減っては戦は出来ぬ、って言うしさ。

 

「あ、美味っ。ただ米に肉を巻いてるだけなのに、かなり美味い…!」

「お米とお肉は元々相性が良いし、こうして巻いて焼く事で、旨味が白米に浸透するからね。こっちの野菜のホイル焼きはどう?」

「こっちも美味しいよ、イリゼ。やっぱりイリゼは料理が上手だね」

「ちるちる」

「ふふっ、ありがとう」

 

 イリゼの作ってくれた夕食を、皆で囲んで食べる俺達。腹が減っては〜…なんて言ったが、本当の理由は祭壇である事を突き止めた時点で、もう日が暮れつつあったから。それに遺跡内でテントを張っても大丈夫かどうか訊いていなかったって事もあり、一度俺達は遺跡の外へ。だが出た時点でもう日が暮れていた為、遺跡の外にテントを張り、ここで一夜を過ごす事にした。

 因みに今日の夕食は、あの道の駅っぽい場所で仕入れた食材を使ったもの。イリゼが作ってくれるものはどれも安定して美味しいし、リクエストするとそれに合わせてくれるし、イリゼは良いお嫁さんになりそうだよなぁ…。

 

「ぶふぅッ!?」

「うぉわ!?ど、どうしたイリゼ!?大丈夫か!?」

「ぐ、グレイブ君!?いや他意はないんだろうけど…女の人に対してさらりとそういう事思うのはどうかと思うよ!?」

「え、そういう事って……心を、読まれた…!?」

「…あー…うん、読んだのは心じゃなくて地の文…って言っても分からないよね、はは……」

「いや、それ以前にグレイブは何を…?」

 

…でも、時々変わってるっていうか、変なところもあるんだよなぁイリゼって。……まぁ、愛月もだがちょっと変わってる位の方が話してて楽しいんだけどさ。

 

「…っと、そうだ。気になってたんだが、るーちゃんの進化…いや、変身?…って、今も出来るのか?」

「え?…うーん、出来ると思うけど…実際にやってみた訳じゃないし、ちょっと試してみる?」

「ちる?…ちー、ちるっ!」

 

 ホイルの中の野菜をついばんでいたるーちゃんは、イリゼの言葉にひょいと顔を上げて跳び上がる。その様子はやる気一杯って感じで、早速ちょっと離れた位置へ。

 

「…とはいえ、あの時は意識してやった訳じゃないし…女神化する時と、同じ感覚で良いのかな……」

「ちる〜、ちるっち〜」

「今、もしかして『イリゼー、やれるよー』…みたいな感じに言った?」

「ちるっ」

「そっかそっか。…よし、それじゃあ…いくよ、るーちゃん!」

「ちー、るっ!」

 

 少し考え込むようにしてぶつぶつ呟いていたイリゼだが、振り向いたるーちゃんに呼び掛けられた事で、ふっと口元に笑みを浮かべる。それから表情を引き締めたイリゼはるーちゃんと頷き合い、名前を呼ばれたるーちゃんはV字を作るように真剣な顔で翼を掲げ……次の瞬間、るーちゃんは光に包まれる。

 

「おぉ……!やっぱ出来るんだな。…っていうか、今の光……」

「やっぱり…やっぱりこれ、メガ進化に近い現象だ…!」

 

 光を解放するようにしてチルタリスとなったるーちゃんは、夜空を軽く一周するとイリゼの隣へふわりと降り立つ。そして、るーちゃんを包んだ光に俺がある事を連想する中…急に愛月が声を上げた。

 

「メガ進化?」

「ちるちーる?」

「あ、可愛い……じゃなくて、うん。メガ進化じゃないけど、今のはメガ進化っぽい光だったんだ」

「…どういう事…?」

「んー…メガ進化ってのは、普通の進化とは別で一時的な変化をする現象なんだよ。けど、今のるーちゃんみたいな進化の先取り的なものじゃなくて、こう…時間制限のある、パワーアップ形態的な……」

「えっと、メガ進化は出来るポケモンと出来ないポケモンがいて、チルットの場合はチルタリスになれば出来るんだけど……ほら。これが本来のメガ進化をしたチルタリス、メガチルタリスだよ」

「わっ…更にもこもこ……」

「ち、ちるぅぅ……」

 

 小首を傾げるイリゼとるーちゃんへ、俺達二人でメガ進化を説明。途中で愛月は図鑑を出し、メガチルタリスを表示させてイリゼ達へ見せる。

 尾が伸び、アホ毛が短くなり、背を中心に大幅に綿が増量したメガチルタリスを見て、目を丸くする一人と一匹。そんなイリゼ達へ、俺達は説明を続行。条件だとか、メガ進化に必要なものだとかを教え…同時に、考える。メガ進化っぽいところもある、けれど絶対にメガ進化ではないこれは、本当に何なんだろう…と。

 

「そっか…うぅん…るーちゃん…というかチルットって種にはメガ進化の素養があって、私はるーちゃんと心を通わせる事が出来ていたから、シェアエナジーの影響によって、メガ進化に近い現象が起こるようになった……って、感じ…かな」

「かもね。メガ進化の研究をしてる、プラターヌ博士に見てもらえばもう少し何か分かるかもしれないけど…」

「博士がいるのはカロスだからな。…それより……よし、決めた」

「決めた…って、何をだ?」

「バトルの相手だよ。明日のバトルは、俺と愛月でやるつもりだったが……やろうぜ?イリゼ、るーちゃん」

『え……?』

 

 この現象の正体は、勿論気になる。けど俺の中には、地下でるーちゃんの戦いを見てからずっと抱いていた思いがあり……それを俺は、口にする。るーちゃんの進化が、一度きりのものじゃないなら…このるーちゃんと、戦ってみたいって。

 

「や、やろうぜってお前…今度は何を考えてんだよ……」

「何をって…愛月こそ、考えてみろよ。世界初かもしれない進化を見せたチルットと、別世界の神のコンビなんて…トレーナーなら、バトルしてみたいに決まってるだろ」

「それは……あぁ、うん…そうだな、お前はそういう奴だった…」

「って、訳で…どうよ?勿論俺もポケモンは一匹だけにするし、必要なら愛月にアドバイザーをしてもらっても良い。そもそもイリゼは、るーちゃんが進化してる時の技の名前すら知らないだろうしさ」

「おい待て、俺の役割を勝手に決めるな」

「あはは…まあ、重要な所を二人に任せっきりになるのは申し訳ないと思ってたし、私は喜んで受けたいところだけど……」

 

 こんなチャンス、きっとそうそう…いや、もしかしたらもう二度とないかもしれない。そう考えると、このチャンスを逃したくない、逃すもんか。その思いを込めてイリゼに言うと、イリゼは軽く肩を竦めた後…るーちゃんの方へ向き直る。

 そりゃあそうだ。実際にぶつかるのはイリゼじゃなくてるーちゃんの方なんだから。イリゼは勿論、るーちゃんが嫌がるのなら、俺は無理強いなんてしない。

 見つめるイリゼに続いて、俺達も視線をるーちゃんの方へ。見つめられたるーちゃんは、ぐるりと見回した後イリゼと静かに見つめ合い……

 

「ちー、るぅっ!」

 

 にっこりと笑って、その豊かな翼を広げた。その表情に、その鳴き声に、溢れそうな位のやる気を見せて。

 

「…ありがとね、るーちゃん。それじゃあ…その勝負、受けて立つよグレイブ君」

「おう!へへっ、今から明日が楽しみになってきたぜ…!」

 

 そうして決まった明日の勝負。目的はあくまでパルキアを呼ぶ事だが…勝負は勝負。正々堂々、真剣に…本気で戦おうぜ、イリゼ、るーちゃん。

 

 

 

 

 驚く事にというか、ある意味らしいというか、グレイブはイリゼとるーちゃんに勝負を求めた。こんな巡り合わせ滅多にない、トレーナーならバトルしてみたいに決まってる…と。

 まあ、分からない事はない。俺だってトレーナーだし、あれだけの力を見せたるーちゃんと戦えたなら、きっとワクワクする。…けど、幾ら凄い力があったって、るーちゃんはまだまだバトルの経験は浅い筈。イリゼだってポケモンバトルに関しては同じで…一方のグレイブは、幾つものリーグの頂点に立ってきた覇者。普通に考えれば、あまりにも無茶な勝負で……それがパルキアに捧げるバトルになるのかどうか、正直不安に思っていた。

 そんな中で、かけられる声。かけてきた相手は……そのイリゼ。

 

「ね、愛月君。ちょっと、いいかな?」

「え?」

 

 呼び掛けてきたのは、夕飯を終えて、皆と触れ合いつつも気付いていない怪我や異変がないかを確かめていた時。六匹皆を診終わったタイミングで、イリゼは声を掛けてきた。

 

「今少し、時間良い?」

「時間?良いけど、なんで?」

「えっと…それも含めて、場所を変えたいんだけど…付いてきてくれる?」

 

 何だろうと思って訊き返すと、イリゼは意味深にグレイブの方をちらり。…グレイブには聞かれたくない話って事か…?

 

(…まあでも、いっか。イリゼの事なら、怪しい話じゃないだろうし)

 

 問い掛けに頷いて、立ち上がる俺。するとイリゼはありがとうと軽く笑って、遺跡の方へ歩いていく。

 遺跡に用事?…と思いきや、向かう先は俺達がテントを張った場所とは遺跡を挟んだ反対側らしい。うーん、そこまでしてグレイブに聞かれたくないと…?

 

「なぁイリゼ、用って……」

 

 何かやる事がある訳でもない移動中、俺は何の用事か訊こうとして…気付く。イリゼが、凄く神妙な表情をしている事に。

 それは、よっぽど真面目な話か、大事な話をするような顔。でも具体的にどんな話をするのかは、まだ全然想像出来なくて…ちょっと緊張する。

 

「……愛月君」

「あ、は、はい!」

 

 イリゼはずっと静かだから、どんどん高まっていく緊張感。角を曲がり、完全にテントからは俺達が見えない位置へ入ったところで、イリゼは俺の方を振り向く。

 こっちを見つめる、イリゼの瞳。碧色で綺麗な瞳が、真剣そのものの表情で、俺を見つめている。

 ここにいるのは、俺とイリゼだけ。グレイブには聞かれたくない何かの為に俺は呼ばれていて、今もイリゼは俺を見つめていて……って、何だこれ!?何だこの状況!?いや、ちょっ…これって、こういう展開って、まさかイリゼ……

 

「…るーちゃん…ううん、チルットとチルタリスの事、飛行タイプとドラゴンタイプの事、一つ一つの技の事……明日に備えて、教えてくれないかな?」

「──へっ?」

「えっ?」

「…あー……」

「あー…?」

 

……まあ、そりゃ、そうだよなー。…うん、逆になんか安心した…何に対して逆になのかは、俺自身もよく分からないけど…。

 

「…ご、ごほん。そういう事なら勿論良いけど、それだったら別にグレイブに聞かれても大丈夫じゃ?」

「愛月君の話はね。けど、それに対する私の反応で、どの位まで理解してるかどうかを読まれちゃうでしょ?それに…るーちゃーん!」

「ちる〜〜!」

「うぉっ…!…なんだ、飛んでたんだ……」

「進化した姿に慣れておかないと、バトルの時に不測の事態が起こるかもしれないからね。…で、ここに呼んだもう一つの理由は、私が考えてる戦法や戦術に、トレーナーとしての意見を貰いたいからなの。それも、お願い出来る?」

「…本気なんだな、グレイブと戦う事に」

「うん。グレイブ君が本気なら、半端な気持ちで相手になるのは失礼だし、本気なのはるーちゃんだって同じ事。それに…こっちの世界の神に見せるんだもん。信次元の女神として、雑な戦いは出来ないよ」

 

 今は柔らかな表情を浮かべているけど、イリゼの瞳は真剣なまま。イリゼは本気で、本当に…あのグレイブと、真正面からやり合おうとしている。

 駄目だな、俺は。…そんなイリゼを見て、俺はそう思った。当人のイリゼはこんなにも本気なのに、無茶だのなんだの思うだなんて。俺の見立てが間違ってるとは思わないが…バトルの先輩として、協力すると決めた身として、応援しないでどうするんだって話じゃないか。

 

「…よし、それなら俺が教えられる限りの事を教えるよ。……あ、でも長くなり過ぎて寝不足になったら不味いか…?」

「あはは、お手柔らかにね」

「おう。…けど、流石にグレイブの苦手なものとかは教えないよ?」

「……あるの?グレイブ君に…」

「そりゃ、まぁ…ある、んじゃないかな…?あのグレイブでも、一つ位は……」

 

 出る作品を間違えているというか、奥義が「たいあたり」な生徒会副会長さん位不必要に高い身体能力を有しているグレイブに、バトル面での弱点なんてあるんだろうか。数秒本気で考え込んでしまった俺だけど…まぁ、取り敢えず今それはどうでもいい事。気を取り直して、気を引き締めて、俺はイリゼとるーちゃんへ向き直る。

 これから俺が色々話したって、それで一気に強くなれる訳がない。戦い方に意見を言うのだって、バトルは明日なんだから、参考にして改良出来る範囲も限られる筈。だけどそれでも、イリゼとるーちゃんが本気なら…俺もやれる限りの事をしよう。明日、グレイブとイリゼ達が…満足のいく、本気のバトルが出来るように。

 

 

 

 

 朝起きて、皆で朝ご飯の用意をして、食べて、片付けて、出発準備を整えて。祭壇でバトルを捧げる為、パルキアが現れてくれる可能性に賭ける為に、再び私達は遺跡の中へと足を踏み入れる。

 もう道は分かっているから、今日はその通りに進むだけ。そう思っていた私達を待っていたのは、見るからに屈強な二匹のポケモンだった。

 

「バグゥ…」

「ゴゥ……」

「…こいつ等は……」

「まさか、向こうから待ち構えてるとはな……」

 

 屋内に入る前の庭みたいな場所。そこにいた二匹はバンギラスとボスゴドラというらしく……つまりこの二匹が、あの崩落の原因。

 二匹の戦闘を二人が強制終了させたって事だから、分かった途端私の心に緊張が走る。でも、恨みや仕返ししてやりたいって気持ちはない。私達の見立てが正しいなら、この二匹にもそれ相応の事情があったって事だから。

 

「けどま、向かってくるなら今度こそきっちり……って、うん?」

「…こいつ等、和解…はどう見てもしてないけど…俺達に対して、敵意がない…?」

 

 迎え撃つ姿勢を見せた二人だけど、その途中でグレイブ君は手を止め、愛月君も訝しげな声を上げる。

 確かに二匹の目に、こちらへ対する敵意はない。バンギラスはグレイブ君、ボスゴドラは愛月君をじっと見つめているけど、鋭いながらもその視線には落ち着きがあって…それから二匹は、どちらからともなく歩き出す。

 

「…グレイブ、もしかしてこれ……」

「…あぁ、そういう事みたいだな」

「そ、そういう事…?」

 

 こちらへ近付くにつれて自然と二匹の距離も縮まり、それに関して二匹はどうも不満げ。けれど歩みを止める事なく、二人の前まで歩いてきた二匹は、そこで再び二人を見つめる。体格から見下ろす形で、けれど決して見下してはいない…むしろ相手を強く認めているような、そんな瞳で。

 それに私が困惑する中、真意を理解した様子の二人はにっと口元に笑みを浮かべる。それから二人は腰のボールから手を離し、代わりに別のボールを出し、そして……それぞれボールを、二匹へ放る。

 

「…野生のポケモンが、ボールの中に…。…もしや、これが……」

「そう、これがポケモンの捕獲だよ。普通はバトルして、弱ったところを狙うんだけど……」

「偶に向こうから仲間になりたい、そう思ってくれるやつもいるんだよな」

 

 明らかに十倍以上のサイズを持つ二匹を吸い込んだ、或いは取り込んだボールは、石畳に落ちて左右に揺れる。それが何度か続いた後、終わった事を示すように揺れていたボールの動きが止まり、二人はそれを持ち上げる。

 

「これから宜しくな、バンギラス」

「後でゆっくり話そうか、ボスゴドラ」

 

 優しさと温かみの籠った、二人の声。その雰囲気は、新たな仲間を迎え入れる、チームの長そのもので…けれど浮かんでいた表情は、外見相応の嬉しそうな笑みだった。

 

(…可能なら、パルキアに二匹も元の地方へ…って考えてたけど…これもきっと、トレーナーならではの形なんだよね)

 

 恐らく…というか間違いなく、二匹がこうして現れたのは昨日の二人の行動の結果。昨日二人は力を示し、その上で必要以上の事はしなかった…バンギラスとボスゴドラ、それぞれの事を尊重したからこそ、二匹は二人の仲間になる事を選んだ。そうしたいって、思ったんだ。

 るーちゃんだってそう。二人が旅に連れているポケモン達も、ここまで見てきた野生のポケモンだってそう。言葉は通じなくても意思疎通を図る事は出来て、行動一つ一つに理由があって、どこまで人と同じかは分からないけど感情もあって。だからこうして、仲良くなる事が出来る。仲間になれる。共存出来る。

 なら、私達は…信次元の人や女神と、モンスターはどうだろうか。ライヌちゃんであったり、マガツちゃんであったりと共存出来ている個体もいるけど、全体的に見れば人とモンスターは敵同士。それは仕方ない面も多いけれど……そう思ってるから、ライヌちゃんの様な個体を『例外』と思っているから、そういう感覚になっているんじゃないだろうか。現に私の中にも、モンスターとポケモンは違う、ポケモンとは仲良くなれるけどって思いがあって……

 

「…やっぱり初めは、決め付けを捨てる事、自分から歩み寄る事なのかもしれない…結果的に敵対関係が続くとしても、それが人々にとって最善だという結論に至ったとしても、その過程に意味は……」

『……イリゼ?』

「…うぇ?…あ、い、今の何でもないっ!何でもないからねッ!?」

『え、あ、うん…』

 

……折角良い感じの空気感だったのに、私も至極真面目な事を考えていたのに、いつまで経っても治らない悪癖のせいで、また変な雰囲気になってしまった。…なんで…なんでほんとこうなるかなぁぁ……っ!

 

「…ちーる、ちるる」

「止めてるーちゃん…今慰められると、余計に辛い…余計に辛いから……っ!」

「……ちる?」

 

 新たな仲間を迎えられた二人は機嫌良く、悪癖を暴発させた私は穴があったら入りたい、穴を掘れたら掘ってしまいたい心境で、改めて私達は遺跡の屋内へ。昨日みたいな事にならないよう慎重且つ迅速に進み、途中で一度地下に降り、そこから別の階段で一階に戻り…そして、祭壇のある場所へと到達。

 

「ここまで来ると、流石に少し緊張するな…」

「愛月はバトルしないのにか?」

「見る側だって緊張はするっての。それに俺はイリゼに言ったんですー」

「はは…まあ確かに、そうだね。バトル自体は昨日もしたけど…トレーナーとの勝負は、これが初めてだし」

 

 がっつり精神ダメージを受けていた私だけど、流石にそれをいつまでも引き摺ったりはしない。もう意識は切り替えていて…同時に、意識している。グレイブ君を、これから勝負する相手として。

 

「グレイブ君、グレイブ君はどっちがいいってある?」

「いや、どっちでもいい」

「だよね。じゃあ、お互い近い方で」

「あいよ。…って、愛月?」

「俺はここで審判をやるよ。そうしてほしいって、イリゼに言われたから」

「へぇ……」

 

 その場から動かない理由を愛月君から聞いて、にやりと笑みを浮かべるグレイブ君。それは、舐められたもんだなって感情からくるものなのか、それともやるじゃないかという感情か。

 でも、どっちだっていい。私はこれがグレイブ君の実力を軽んじた選択なんかじゃないって、証明するだけだから。

 

「るーちゃん、準備は良い?」

「ちるちる!」

「…そういや、変身?…する時の掛け声って、やっぱりないのか?」

「あー…掛け声、かぁ……」

「確かに、そういうのがあった方がそれっぽくなる、かも?」

「そう?じゃあ……」

 

 ぴょこんと私の頭の上から飛んで滞空するるーちゃんを見つめながら、私は考える。別に無くたって問題はないけど、何やら二人はそれに期待(?)している様子。私自身、あったらあったで気持ちが高まるだろうし、気に入ってくれればるーちゃんもやる気が増すだろうし、少なくともあって困るものじゃない。

 だから考える事一分弱。思い付いた掛け声…というか口上は少し格好付け過ぎな気もするけど、多分悪いものじゃない。だから一度るーちゃんを呼んで、意図を伝え、再びるーちゃんがグレイブ君の方を見たところで……告げる。

 

「──黄金の体軀、純白の翼、時空を超えし思いを以って、顕現するはかの者が望みし未来!超越神化(メガライド)、イディアルフォース・チルタリスッ!」

「ちぃぃるぅううぅぅぅぅッ!」

『おぉー…!』

 

 右手にバスタードソードを持ち、左から地面へと突き立て、その流れのまま右手を振り抜き……私は思う、イメージする。進化したるーちゃんの姿を、共に戦わんとする勇気の翼を。そしてそれに応えるように、るーちゃんは凛々しく天へと鳴き……チルタリスへと、進化する。

 これが、るーちゃんを見て、るーちゃんを思って、心の中で紡いだ言葉。私が抱いた、素直で本気の思い。

 

「…どう、かな?」

「格好良かったよ、イリゼ!」

「望みし未来、か…確かにその強さは、そういう事なのかもしれないな。だったら…こっちもいくぜ、獄炎!」

 

 再びにっと笑ったグレイブ君は、ボールの一つを高く高くへ放り投げる。放たれたボールは下降の最中で上下に開き…飛来するよう力強く降り立ったのは、エンブオーの獄炎。その選択に、私は「あれ…?」と思い、愛月君は声を上げる。

 

「獄炎…?確かにお前の獄炎は強いし対抗策もあるとはいえ、チルタリス相手に獄炎は……」

「ああ。けどこれはハンデであり、本気でバトルする為の獄炎なんだ」

「…つまり?」

「最初っからこっちに不利な状況を作っておけば、『相手は初心者なんだよな…』っていう雑念を持つ事なく、イリゼと全力で戦えるって事さ。…まあ、そんなの関係なしに、俺の獄炎が負ける訳ないんだけどな」

 

 そう。獄炎ことエンブオーは炎と格闘の複合タイプで、格闘タイプはるーちゃんが持つ飛行タイプと相性が悪い。炎タイプだって、るーちゃんのもう一つのタイプであるドラゴンに対しては通りが良くない。つまり、タイプ相性においては明らかに選択ミスで…だけどグレイブ君は言う。これで良い、これが良いんだと。

 それを聞いて、凄いな…と思った。グレイブ君の熱意に、グレイブ君のバトルに対する、大好きって気持ちに。何の迷いなく、全力で戦いたいからこそ、敢えて自分を逆境に置くなんて……格好良いじゃん、グレイブ君。

 

「るーちゃん、グレイブ君は色んな地方でバトルのチャンピオンになってるんだってね。…相手は強い、物凄く強いよ。だけど私は負ける気なんてないし、るーちゃんじゃ勝てないとも思ってない。るーちゃんならきっとって、信じてる。だから……いくよ、天辺ッ!」

「ちるぅッ!」

「獄炎、獄炎とるーちゃんじゃ相性は悪い。るーちゃん自体も強くて、しかもイリゼは女神だ。けど、獄炎だって強い。いや…獄炎の方が、ずっとずっと強い!なんたって俺のポケモンだからな!余計な事なんて気にせず、いつも通り、全力でやってやろうぜッ!」

「ブルゥゥッ!」

「…ルールは一対一で、相手を戦闘不能にする、或いはリタイアさせたら勝利の勝負。二人共、それで間違いないね?」

「うんッ!」

「おうッ!」

「なら……勝負、開始ッ!」

 

 私達の声に応えて、臨戦態勢を取る二匹。るーちゃんと獄炎越しに、視線を交わす私とグレイブ君。審判として、適切な位置に立った愛月君の言葉に私達は強く首肯し……捧げる為のバトルが、私とグレイブ君の勝負が、幕を開ける。

 

「早速いくよるーちゃん!竜の波動ッ!」

「ちるぅううッ!」

 

 先手を取るのは私の声。るーちゃんへ向けて指示を飛ばし、それを受けたるーちゃんは首を振って紫色の光芒を放つ。

 続けて私はもう一つ指示。その通りにるーちゃんが動いてくれた事で、最初の策が獄炎を襲い……けれどグレイブ君は余裕の笑み。

 

「……っ!」

 

 迫る竜の波動に対し、グレイブ君が指示したのはアームハンマー。その一撃で、獄炎は竜の波動を叩き落とし……その周囲を、無数の空気の刃が駆け抜ける。

 

「やっぱりな。高威力だが範囲の狭い竜の波動を最初に撃つ事で回避を誘い、そこから即座に攻撃範囲が広いエアカッターを使う事で、確実に当たる…良い策だが、その程度じゃ通じないぜ?」

「みたいだね…でも、まだまだ勝負は始まったばかりだよッ!」

 

 あっさりと最初の策が破られたのは、正直少し驚いた。でも想定の範囲内。この程度じゃやられないなんて、十分分かっていた事だから。

 私の意思を受けて、るーちゃんは突進。近接攻撃を仕掛けていき、獄炎もそれを迎え撃つ。

 

「るちぃッ!」

「ブロォッ!」

「甘いな!獄炎、ニトロチャージ!」

「いいや、当たらないよッ!るーちゃん!」

 

 素早く迫るるーちゃんに対して、獄炎はカウンターを主体に対応。互いに何度か攻撃を避けたところでるーちゃんは少し距離を取り…その瞬間を狙って、獄炎がニトロチャージ。

 でもるーちゃんは飛んでいる。『上』を存分に回避に使える。名前を呼ぶだけでその意図に気付いてくれたるーちゃんは羽ばたき一つで突進を回避し、双方即座にぐるりと振り向く。

 

「まだ来るか…!るーちゃん、コットンガードで防御!」

「だと思った!今だ獄炎!飛び掛かってラリアット!」

「チルゥッ!?」

 

 まだ来ると分かった私は防御を選択。けどきっと、グレイブ君の言った「甘い」はそこまで含めての言葉で…それを示すように、綿で覆い切れていなかった首元へ向けて獄炎がラリアット。綿が広がり切るより先を取られたるーちゃんは、防御が出来ずに腕の一撃を受けてしまう。……だけど、

 

「へっ、まずは一撃……」

「るーちゃん、エアカッターッ!」

「な……ッ!?」

 

 攻撃は受けてしまった。だけど、私もただ防御を選んだ訳じゃなく……るーちゃんが立て直す事を信じて、攻撃を指示。

 そして期待通りに立て直したるーちゃんは、大きく広げた翼を振るう。それはさっきと同じエアカッターで…けれど、規模が違う。

 

「ブ、ルゥ……!?」

「コットンガードで、量を増やした…!?」

 

 跳んで範囲から逃れようとする獄炎を襲うのは、さっき以上の範囲を持ったエアカッター。

 それが、私の狙い。コットンガードを、綿を翼に纏ったままにする事によって、翼へ取り込める空気の量を増やし、エアカッターをより広範囲へ放てるようにする応用技。放つ前に一発受けた分、姿勢は万全と言えなくて、殆どは外れてしまったけど…確かに一発の刃が、獄炎を捉える。

 

「…やるな、イリゼ」

「言ったでしょ?負ける気なんかないって」

 

 るーちゃんは綿を切り離しつつ後ろに飛び、獄炎も立て直しながら後ろへとステップを掛け、距離を開けて構え直す。

 こっちは重い打撃を、向こうは無数の内の一つとはいえ弱点の技を、それぞれ受けた。だけどまだまだ、るーちゃんも獄炎も覇気は健在。そう、今は互いに少しダメージを与えただけ。勝負はまだまだ…これからだ。




今回のパロディ解説

・奥義が「たいあたり」な生徒会副会長さん
生徒会の一存シリーズのヒロインの一人、椎名深夏の事。生徒会の一存は他にも武闘派がそこそこいますからね。どうやら忍者らしき人もいるみたいですし。

超越神化(メガライド)
ヴァンガードシリーズに登場する現象の一つ、超越(ストライド)のパロディ。口上自体も、ちょっとストライド時のものを意識していたりします。

・「〜〜いくよ、天辺ッ!」
WIXOSS DIVA(A)LIVEの主人公、明日平和の台詞の一つのパロディ。ヴァンガードかと思いきやウィクロス…イリゼは何のカードゲームをしてるんでしょうね。
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