超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
自分達の、当代の守護女神の在り方を思い出し、思いに応える為に限界を超え、新たな領域へと至った守護女神達。女神が持つ無限の可能性、人の思いに応えて高みへと舞い上がる姿に初めて確かな賞賛を送りつつも、未だ譲る事のない原初の女神。今一度正対し、己が信念と正しさを貫く為に…愛する人々の未来を手ずから守る為に激突する戦い……その再開の火蓋を切ったのは、ノワールだった。
「……ふッ!」
「……!?」
一回り小さく、どちらかといえば片手剣の範疇に収まるサイズにまで小型化された剣を手に、静かに地を蹴るノワール…ネクストブラック。背部の翼、そこから舞い散るようにシェアエナジーの光が煌めき……次の瞬間、ノワールは原初の女神の背後を取る。
反射的に振り向いた原初の女神は、バスタードソードを振り出し防御。両者の刃が激突し、原初の女神が振り抜いた事でノワールは後退するも…その時原初の女神の表情に浮かんでいたのは、確かな驚き。
(なんだ、今の動きは…私が目で、追い切れなかっただと……!?)
弾かれたノワールは空中で剣を振り、再度突撃。その動きに原初の女神は真っ向から迎え撃つ姿勢を見せるが…再び彼女の視界から、ノワールの姿が消える。消失し、次の瞬間にはもう彼女の直上。
目で捉え切る事が出来なかったからと言って、それだけでやられる原初の女神ではない。こちらもまた常軌を逸した反応と動きで以ってバスタードソードを振り上げ迎撃する…が、攻撃態勢のままノワールは身を翻し、離脱する事によって原初の女神の攻撃を空振りさせる。
「避けるか、ならば──」
「ノワールだけに意識を向けていて……」
「良いのでしてッ!」
逃がさない、とばかりに原初の女神は追撃しようとするも、そこへネプテューヌとベール…ネクストパープル、ネクストグリーンが鋭く斬り込む。
間合いに入るまではほぼ同速。そこから入る直前に加速を掛ける事でほんの一瞬早く攻撃に入ったベールを横回転で躱し、すぐに目前となったネプテューヌの斬撃をバスタードソードで受け流す。
(こちらも速い…が、十分認識出来る速度。全員が、今の黒の女神と同等の機動力を有している訳ではないという事か…?)
跳躍により二人の上方を取った原初の女神は、彼女達の新たな力、ネクストフォームの分析をしつつもバスタードソードの斬っ先を下へと向ける。…が、更にその上方をブラン…ネクストホワイトが取り、ノワールとは対極的に一層の大型化を果たした戦斧で大上段から斬りかかる。
迫る戦斧に対し、原初の女神は素早く身体を回す事で攻撃を刺突から斬り上げに移行し、振り下ろされる戦斧と激突。一瞬のせめぎ合いを経て原初の女神はブランを弾き返し、即座に距離を詰めての反撃をかけるが……放たれた斬撃は、ブランの防御を前に止まる。
「……っ…衝撃を、殺し切るか…」
「元々防御は得意なんでな。今程度の攻撃なら…突破は、させねぇよ」
斬撃が掲げられた戦斧へと衝突した瞬間、ふわりと揺らめいたブランの翼。その翼により衝撃が吸収、或いは拡散されたのだと見抜いた原初の女神はブランと睨み合い…彼女から大きく距離を取る。
正面突破は不可能…そう判断した訳ではない。今の一撃は、全力には程遠い一太刀に過ぎないのだから。では何故、退いたかと言えば…それに答えるように、幾本もの槍が原初の女神の眼前を貫く。
「今更ですけれど、このまま四対一で続けさせてもらいますわよッ!」
「私は元々そのつもりだ。元々は私が全て守護していた四大陸を、それぞれの国として守護しているのならば…むしろ、一対四でなければ不公平というものだろう」
「はっ、言ってくれるじゃないッ!」
駆け抜けていく槍とは逆側、発射されたであろう位置へと目をやれば、そこにあるのは自身へと突進をかけつつ周囲に新たな槍を精製していくベールの姿。同時に別方向からはノワールも接近をかけ…だがその速度は確かに速いものの、先のように視認出来ない程ではない。
だからこそ、不可解さを抱く原初の女神。何か狙いがあり、意図的に速度を下げたのか。それとも常にあの速度を出せる訳ではないのか。ノワールを見据え、その点をはっきりと見定めたい原初の女神だったが…無論、そんな時間をネプテューヌ達は与えない。
「畳み掛けるわよ、皆ッ!」
飛来する槍群を、続くランスチャージを迎撃し、ノワールを交わし、投げ放たれた戦斧を弾き返したところで、真正面へと迫るネプテューヌ。ノワールやブランの得物に比べれば変化の少ない、しかしやや無骨な印象を抱く形状から流線的且つ華麗な姿となった大太刀による袈裟懸けが放たれ、それを真っ向から迎え撃ちそのまま切り崩すべく原初の女神もまた袈裟懸けを敢行。
紫水晶が如き大太刀の刃と、白水晶が如きバスタードソードの刃。武器でありながら芸術品の様な美しさを持つ二つの刃は激突し…しかし次の瞬間、バスタードソードは折れる。…否、断ち斬られる。
「……っ!」
「もらっ……く…ッ!」
中程から断たれた自らの剣に、原初の女神は目を見開く。寸前で蹴りを間に合わせ、ネプテューヌに防御を強いる事で迫る大太刀の一撃を阻む事には成功したが…確かに今、彼女の剣は斬られていた。押し負けていた訳ではない、強度も十分であった筈のバスタードソードが、酷くあっさりと。
間髪入れず、挟撃をかけるノワールとベール、二人の突進。それを急上昇で避けた原初の女神は脚を振り出す形で後方宙返りをかけ、身体が下を向いたところで折れたバスタードソードを投棄。新たな剣を…それも今度は左右それぞれの手に精製し、二振りのバスタードソードを手に急降下をかける。
三度目となる、視認不能なノワールの接近。左方から仕掛けた彼女の斬撃を左の剣で受けつつ左回転をかける事によって殆ど速度を落とさずに受け流し、眼下のブランへ真っ直ぐに一閃。それもブランは姿勢を崩しながらも両手で持った戦斧で耐え抜き、逆に原初の女神を跳ね返すが…そこまで彼女の想定内。
(今一度、確かめさせてもらう…ッ!)
一度攻撃対象にブランを挟む事で彼女へ意識を向けさせた原初の女神は、弾かれた流れのままにネプテューヌへ強襲。咄嗟に防御を図ったネプテューヌを右の剣の一撃で弾き、更に左の剣で刺突をかけると、半ば後ろへ転がるようにしてネプテューヌは回避。背後上方より放たれた槍を本能的に察知し左へ避けた直後、三度目の攻撃として右の剣を振り下ろすが、避けていた僅かな間に多少なりとも姿勢を立て直したネプテューヌは大太刀を振り上げ、二つの刃は今一度激突。無理に振り出した形となったネプテューヌは、踏ん張りが利かずにまた体勢が崩れるも…再び、激突したバスタードソードの刃は斬られる。
「これは…やはり、純粋な力ではないという事か……!」
「ブランに仕掛けると見せかけてわたしへ急襲…漸く、そういう『駆け引き』を引き出せたみたいね…ッ!」
「ああ、ほんとに漸く…なッ!」
同様の結果になる事も想定していた原初の女神は右の剣を断ち斬られた時点ですぐに左の剣を振り出し、ネプテューヌは崩れた姿勢のままに後転をかけて紙一重で回避。
そこへ入れ替わるように、ブランがネプテューヌを飛び越え一撃。叩き付けられる戦斧を原初の女神は右の剣を手離しながらバックステップで難なく回避し、地面へ打ち付けられた戦斧の背を踏み軽く跳躍。
その狙いは、地面に深々と喰い込んだ戦斧を更に沈め、得物による攻防を封殺する事。狙い通りにより深く喰い込んだ事を視界の端で確認した原初の女神は鋭く宙返りを掛け、両手持ちのバスタードソードで斬撃を叩き込む。……筈、だった。しかし、そうすべく原初の女神が振り出した時点で…ブランは既に、迎撃体勢に入っていた。振り出されたバスタードソードに対し、こちらも振るわれた戦斧が迫り…迎撃が、間に合う。
「な、に……?」
「だから、そう簡単にゃ抜かせねぇよ」
「それと、あまり足を止めるのはお勧めしませんわよ?」
「……!」
膂力を読み間違えたつもりはない。確かに今の状態なら、迎撃も防御も間に合わなかった筈。にも関わらず、出来ない筈の事をやってのけたブランへ原初の女神は目を見開き…しかしその驚きの感情の処理もそこそこに、原初の女神はその場を飛び退く。
飛び退いた地点、そこに飛来したのは複数方向から放たれた槍。回避先にも次々と緑の槍は飛び込み、その射手たるベールも突進。立て続けに槍を放ちながらもその動きに淀みはなく、鋭く切り込んでは刺突を掛ける。
(…この私に視認を許さない程の速度、間に合わない筈の迎撃、単純な力とは無関係の切断…この槍にしてもそうだ。あまりにも予備動作が少な過ぎる……)
流れるような連撃を凌ぎ、躱し、隙を突いた掌底でベールを後退させた原初の女神は瞬時にバスタードソードを背後へ振るい、迫っていたネプテューヌとノワールへ同時に対応。止めると同時に宙へ剣を精製し撃ち込む事で二人に回避行動を取らせ、そこから大きく飛び上がる。
主戦場の浮き島から離れた原初の女神を追撃すべく、即座に守護女神の四人も飛翔。水晶の様に煌めく翼を、紫、黒、緑、白…四つの光が広がり追う。
「逃がさないわよッ!」
「まぁ、逃げるつもりはないだろうがな…!」
正に神速たるノワールの追従を躱し、理解不能な挙動を見せるブランの攻撃を凌ぎ、まともに打ち合えば一方的に破壊されるネプテューヌの斬撃に対しては手数と反応速度で対応。単なる身体能力、感覚の向上の範疇を遥かに超えた力を前に、それでも原初の女神は常軌を逸した力で以って押される事なく立ち回り、幾つもの虹の橋の上、浮き島の周囲を駆け巡る。
そうしてある時…彼女は気付いた。立て続けに仕掛けられる攻撃だが、そこに一人足りない事に。そして、それに気付いた原初の女神が二つの浮き島の間を通り抜けた次の瞬間…彼女は目にする。待ち構えるベールの姿を。その周囲に展開された、何十もの…或いはそれ以上の数の槍を。
「誘い込まれたという訳か…良かろう、ならば……」
全てが自身へと向くベールの視線と穂先を前に、回避や射線上からの離脱ではなく迎え撃つ事を選ぶ原初の女神。彼女も自身の周囲に次々とバスタードソードを展開していき、その柄尻に圧縮状態のシェアエナジーを装填。
原初の女神にとって、武器射出による遠隔攻撃は決して得意分野という訳ではない。ただ彼女の性質上、そのような戦い方も出来、時にそちらの方が高効率であるから行うというだけの事。しかしそれでも、原初の女神は敢えてベールから仕掛けられた勝負に乗る。女神として、ここで退く訳にはいかない、と。
「ふふっ、そうくると思いましたわ。…原初の女神、シェアの貯蔵は十分かしら?」
「ふっ…抜けると思うのであれば、やってみるがいい…!」
交錯する視線。次の瞬間、主の意思によって展開された槍と剣は解き放たれ、目標に向けて宙を猛進。一気に狙う相手へと迫り…刃同士が、激突する。
最初の一本の激突を皮切りに、次々とぶつかる双方の刃。出し惜しみなく放たれる槍弾、剣弾は激突により逸れ、折れ、砕けてみるみるうちに減っていき…されど射出ペースはそのままに、両者は新たな刃を展開。凄まじい速度で次弾が展開されていき、それ等もまた目標を襲う。
「まだまだいきますわよ…ッ!」
たった一点に向けて降る、槍と剣の集中豪雨。横殴りの斬雨を自らが放つ刃で撃ち落とし、双方共に無数の刃を撃ち続ける。
速度はほぼ同等。威力に関しても、相手に届く前にその可能性を潰し合えている時点で大差は無し。であれば勝敗を決し得る大きな要因の一つは持続性であり、その点において原初の女神は絶対の自信があった。今のような、シェアエナジーを湯水の様に注ぎ込む勝負であれば、間違いなく自分が優位であると。…だが……
(…押されて、いる……?)
未だ全ての刃は両者の間で激突し、双方の周囲には瞬く間に次なる刃が展開される。されど次第に…ほんの僅かにではあるが、激突地点が原初の女神の側に寄り始める。押され、始める。
その事を認識したのは、両者ほぼ同時。原初の女神がぴくりと眉を動かしたその時、ベールは確信を得たようにほんの少し口角を上げ…言う。
「やはり、貴女のその攻撃の原理はイリゼが使うものと同じなようですわね。であれば、わたくしが遅れを取る筈はありませんわ。何せ、貴女とわたくしとでは…
「そういう、事か……!」
少しずつ前へ出る事により、激突地点が遠退いた分の距離を相殺していくベール。
一見すればどちらも、行なっているのは作り出した刃を放つ事による攻撃。だが、原初の女神のそれはシェアエナジーの圧縮による武器の形成と、同じく圧縮されたシェアエナジーを解放する事による爆発を推力として用いる…謂わば、技術同士を掛け合わせた応用技。対して今のベールが行っている槍の形成と射出は、そのどちらもが…否、「槍を生み出し放つ」事それ自体が基本の技術。二行程で行われる応用技と、一行程で行われる基本技であれば…どちらが早く形になるかは、自明の理。
「二桁の数では誤差も同然でしょう。三桁であっても、微々たる差。けれど、それ以上であれば……」
僅かに、僅かに、されども確かに押されていく。一つ一つは無意味な差。されどもそれが積み重なる事で、明確な差へと変わっていき……遂に一本の槍が戦線を抜け、原初の女神の眼前へと迫る。
無論、たかだか一本の槍が原初の女神の脅威となる筈がなく、バスタードソードの一振りで叩き落とされ槍は消滅。だが、激突を抜けた事、射出ではなく直接の攻撃で対処した事…この勝負においてそれは、ベールが彼女を上回ったという紛れもない事実だった。
「…まさか、この私が押されるとは…少々、侮り過ぎていたようだな…」
先のブランと違い、不可解な何かが起きた訳ではない。この想定外は、単純に原初の女神がベールの能力を読み違えた事による結果。そしてそれを理解した原初の女神は、ぽつりと呟き…次の瞬間、爆ぜるような勢いで以ってベールへと突進。迫り来る槍の雨の中を異様な速度と機動によって駆け抜けた彼女は、勢いそのままに斬撃を仕掛け、防御諸共ベールをそこから弾き飛ばす。
離れていくベールを追撃しようとする原初の女神だが、そこへネプテューヌ達三人が強襲。進路へ神速のノワールが割り込み、打ち払ったと思えば後手からでも間に合わせ、確実に攻撃へ対応するブランが押し留め、そのブランが下がると同時にネプテューヌが下方から原初の女神の背後へ迫る。
「もう、分かってるんでしょう?今のわたしの前で、生半可な防御に意味はないわッ!」
「確かにそのようだ…だが、たったそれだけで私に勝てるとでも?」
「あら、一体誰がたったそれだけなんて言ったのかしらッ!」
空中を疾駆しながら、幾度となく激突する双方の刃。振るわれる大太刀は、その度に原初の女神の剣を斬り裂く。しかし如何に防御を無に帰す今のネプテューヌの攻撃だとしても、そもそも躱されてしまえば、振るえなければその力は発揮されない。だからこそ原初の女神は苛烈な攻撃でネプテューヌに対して防御を強いり、尚且つ周囲へ刃を放つ事によってノワール達の連携を牽制。幾ら防御が意味を成さないとはいえ、力も速度も未だ原初の女神の方が上回っており、一対一の接近戦となれば優位となるのは彼女の方。
されどネプテューヌに焦りはない。物理的な余裕はないが、精神にはまだ余裕がある。まだ自分の限界はここではない、更に自分は前へ、高みへと進む事が出来る。内側から漲る力を、その力を与えてくれる人々の思いを信じる事でネプテューヌは得物の大太刀を踊らせ…少しずつ、少しずつだが更にその斬撃は変化していく。より滑らかに、より容赦無く、触れる刃を二つに斬り裂く。
(斬れ味が…いや、断ち切る力が増大している…?…まさか、これは……)
幾度目かの攻防の末、一瞬距離の開いた二人。次の瞬間ネプテューヌは踏み込むような挙動から刺突を掛け、原初の女神はその刺突の下を潜り抜けるようにして避けつつ、振るったバスタードソードで浅いながらも一太刀浴びせてネプテューヌの横をすり抜ける。そうして互いにまともなダメージは与えられなかった両者は、振り被る動作と共に素早く振り向き……そして次の瞬間、原初の女神の「まさか」は的中する。
「断ち切ってみせるわ…どんな物質だろうと、どんな存在だろうと、わたしは斬り裂くッ!」
「……ッ!(やはりか…斬るというより、もっと先の……)」
原初の女神は右手でバスタードソードを振り出しつつ、切断された瞬間のカウンターを狙っていた。だが、そんな原初の女神の目の前で起こったのは、刀身の消滅。これまでの、ただ斬られるとは話の違う……『あった筈のものが無くなる』という現象が、目の前の空間で引き起こされる。
「はああああぁッ!」
大太刀の刀身に揺らめく、仄かな黒紫の光。その光が、その力が触れた部分ではなくその周辺…対象そのものを斬り裂き消滅させたのだと直感的に理解した原初の女神は次なる斬撃を確実に躱す為大きく後退。その先へ挟み込むように仕掛けるノワールとブランをまた新たに精製した二本のバスタードソードと身体を回すような受け流しで凌ぎ、直上から急降下をかけ、その勢いを乗せ振り下ろされたベールの大槍を、交差させた二本の剣で受け止め阻む。
そのまま腕を交差させ、剣を縦にする事で左右から大槍を挟み、行動を封じた原初の女神。先の意趣返しをするように自身の周囲へ剣を展開する原初の女神だが、次の瞬間彼女はその全てを投棄し再び後退。下がる彼女の正面、数瞬前までいた空間には『そのままいれば彼女を貫く形で』槍が現れ、その槍も当然だと言わんばかりに原初の女神へと突撃する。
如何なる状況、状態からでも隙あらば飛来するベールの槍と、依然捉え切る事の出来ないノワールの機動。対応どころか、最早先を読んだかの如き動きすら見せ始めるブランの迎撃と、消滅そのものが強力な牽制として注意を引き続けるネプテューヌの刃。単なる基礎能力の向上に留まらないその力を幾度となく凌ぎ、躱しながら原初の女神は考えていた。自身を襲う現象そのものではなく…その本質を。
(緑の女神の力は分かり易い。あれは恐らく、見たままの力。紫の女神の力も、まだ本質は読めないにしても、方向性は見えてきた。だが、黒の女神と白の女神…彼女等の力は、単に私が認識出来ない程速いと言うだけか…?黒の女神のそれと、白の女神のそれは何かが違う…つまり、速さとは違う何かがあるという事か……?)
原初の女神の思考は回る。四人の連携攻撃と正面から斬り結び、その圧倒的な実力で以って何度もその連携を捩じ伏せながらも、五感全てで情報を取り入れ、分析し、推測する。
大概の相手ならば、ネクストフォームに至る以前のネプテューヌ達ですら、基本的に原初の女神は分析するような事などなかった。そんな事をせずとも、殆どの戦いにおいては純粋にして相手からすれば絶望的な程の力量差で完封する事が出来たのだから。
故に、原初の女神は失望していた。同じ女神でありながら、人の思いにより生まれ、人を守り導く使命を持つ筈の四人が、たったこの程度なのかと。だからこそ、イリゼにはささやかながらも感謝の念を抱いていた。結果的にとはいえ、もしも浮遊大陸であのまま討伐していれば、今目の前で広がり続ける可能性を見る事が出来なかったのかもしれないと。
「…いや、待て…そんな単純なものか…?…いいや、違う…人の思いに応えて限界を超えた女神が、たったそれだけであるものか…!」
「急に何を…な……っ!?」
「まだだ、まだ手緩い…今見せたものが限度か、受けた思いはその程度かッ!」
出かけた答えを否定する。もっと高度な、もっと超常の域でなければ人々の思いに見合わないと、答えを振り切り空を駆ける。勢いそのままにブランへバスタードソードを叩き付け、ぐらつきながらも受け止めたブランの防御へ連撃を打ち込む事によって強引に防御を突破する。追い討ちを阻まんと飛び込んできたネプテューヌも射出剣の乱射で退け、縦横無尽に怒涛の攻撃を仕掛け続ける。
少しの間、原初の女神は見極める為過剰な攻撃を控えていた。だがそれでは引き出し切れないと、限界を超えた四人の女神がどこまで進めるのか見てみたいと、原初の女神は持てる力を次々と振るう。
「ちっ、向こうもギアを上げてきたわね…!」
「だったらこっちももっと、もっともっと思いを力に変えるだけよ。更に向こうへ、ってね」
「向こうへ、だとビヨンドフォーム寄りの発言っぽくなりますけど…えぇ、同意ですわ」
「あくまでわたし達を倒そうとするスタンスは変わってない…っと、のんびり話す時間はくれないらしいな…!」
迫り来る剣撃を無理に押し返さず、弾かれるのを利用して一度集まった四人は言葉を交わす。そして四人はその言葉通り…更に力を、自身と人の織り成す可能性をその身で引き出す。
「その程度か、っつったな原初の女神。だったら、要望通り見せてやるよ…!」
「まだまだ私達の限界は、こんなものじゃないって事をッ!」
下から上へ、その法則が通用しない黒雷が如く宙を駆け、何度も肉薄をかけるノワールと、機動性こそノワールのそれに劣るものの、僅かな動きの無駄すらない、正に風に乗るが如き飛翔で入れ替わり立ち代わり攻めるブラン。打ち払われようとも即座に次なる攻撃に転じ、攻められれば互いに援護し合う事で連撃を阻み、真っ向から原初の女神に喰らい付く二人。そしてブランが前を、ノワールが背後を取った瞬間二人は同時に翼を最大まで広げ、最高速度で以って突進。対する原初の女神は視界で正面を、感覚で後方を捉え、それぞれの攻撃を叩き潰すべく神経全てを研ぎ澄まし……だが次の瞬間、迫る二人が入れ替わる。比喩ではなく、誤認でもなく…ノワールが正面、ブランが後方、それぞれの位置へと変貌する。
備えていた筈の動きが狂い、原初の女神は姿勢を崩す。それでも彼女は追い討ちを振り切り、しかしそこにもまた槍が強襲。
「感謝しますわ、原初の女神…貴女という壁がなければ、わたくし達はここに至れなかったんですもの…ッ!」
迫り来る槍全てを蹴散らした原初の女神が仕掛ける、反撃の一太刀。それを寸前で躱したベールも大槍を振るい、数度打ち合う二つの刃。
だが原初の女神が上回る。上回り、ほんの一瞬の隙間を掴んだ彼女は右手でベールの首を狙う。防げる筈のない距離、躱せる筈のない速度で首を狩るべく横薙ぎを放ち……だがそれは、空振りに終わる。首に触れる、ほんの僅か前…首の寸前に現れた何本もの刃、ナイフよりも小さな槍が割って入り、砕けるのと引き換えに到達の瞬間を遅らせる。
一見すれば刹那の間でも、ベールからすれば十分な時間。振り抜かれたバスタードソードはベールの薄皮一枚を裂くに留まり…更に次の瞬間、原初の女神を覆うように何十もの槍が現れた。その全ての穂先が原初の女神へと向いた、緑槍の檻……だがそれが持つ真の狙いは、攻撃ではない。
「ふふっ、まるでどこぞの瞳術ね…だったら、わたしは……ッ!」
原初の女神の正面上方、そこでネプテューヌが見せる大上段の構え。柔らかな笑みは次の瞬間、信念の…自身が受け取った思いもまた負けてはいないという意思の籠った表情へと変わり、光揺らめく大太刀を振り抜く。
その軌跡が形を得たように、刀身より放たれる黒紫の斬撃。超常を超え、光を飲み込むような異質さすら感じさせるその斬撃は真っ直ぐ原初の女神へ迫る。
当たらない。ベールの展開した槍が邪魔になる。…そんな危惧は、ネプテューヌの中に一切無かった。そして、その確信は現実となる。飛来する黒紫の斬撃は阻む槍へと触れた瞬間、消し去り、抹消し……原初の女神がいた場所、その空間すらも完全に消し去る。
「ふ、ふふ…そうか、漸く見えてきた…それが今の…高みへと届く力の本質か……!」
だが、黒紫の斬撃がその空間を切り取った時、原初の女神はそこにいなかった。圧縮シェアエナジーの爆発を加算した斬撃で槍の一部を弾き飛ばし、既に回避を終えていた。
されども、ネプテューヌ達は表情を歪ませる事なく戦闘を続ける。分かっていたのだから。原初の女神は、この程度で終わる存在ではないと。今も感じているのだから。自分達はまだ高みへ、まだ『次』へと進めるのだと。
四人の守護女神が持つ力の本質を朧げながらも捉え、薄く笑みを浮かべる原初の女神と、揺るぎない意思の籠った瞳を浮かべる守護女神達。願うところは全くの同じ。されど目指す先は、近いようで異なる世界。互いに人を思い、人の未来を願う女神同士による決戦は、より一層の熾烈さを以って……続く。
今回のパロディ解説
・「〜〜原初の女神、シェアの貯蔵は十分かしら?!
Fateシリーズの主人公の一人、衛宮士郎の名台詞の一つのパロディ。展開そのものもパロディっぽくなってますね、どちらかといえば投影は原初の女神側ですが。
・「〜〜更に向こうへ、ってね」
僕のヒーローアカデミアにおける、代名詞的なフレーズのパロディ。ウルトラではなくネクストですが。そして作中でも突っ込まれた通り、ビヨンドの方が合いますが。
・どこぞの瞳術
NARUTOシリーズにおける、輪廻(写輪)眼の事。ノワールとブランがやったのは千手力、ベールがやったのは少名碑古那…を彷彿としてもらえたら嬉しいものです。