超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第百三十九話 進化し続ける可能性

 人の未来をより良くする為、信じる思いに応える為、現代と古代、当代と初代、同じ思いと違う未来を望む双方の女神が激突する中、遠く離れた浮遊大陸でも、一つの動きがあった。

 

「後もう少し、といったところか…ふむ、邪魔されないよう急ぐか、下手に動かず気取られる可能性を減らすべきか……」

 

 浮遊大陸の全体を映し出すモニターの前で、顎に親指と人差し指を当てて思案する人影。一ヶ所一ヶ所に目をやった後、深く考え込むその人影だったが、不意にある反応を発見し…声を上げる。

 

「うん?…レイ、何かする気かい?」

「あ?何、まさか私の事追ってた訳?うっわ、ストーカーとか勘弁なんですけどぉ?」

 

 開口一番、予想通りの辛辣な悪態。もう幾度となく聞き、頭では最早慣れっこの…されどやはり良い気分はしないその発言に対し、人影…くろめは内心で深い溜め息を吐きつつも、表面上は取り繕って言葉を返す。

 

「ストーカーはオレだって勘弁だよ、今は偶々見つけただけさ。…で、何をするんだい?」

「あ、そ。なんかあっちの空間…天界だっけ?…で女神共がイキってドンパチやってるみたいだから、丁度良さげなところで纏めてぶっ潰そうと思ったのよ。ほら、私ってクレバー且つ合理的ですしぃ?楽に倒せるチャンスがあったら、拾いに行くタチなんですよねぇ」

「…天界で?…凄いな、分かるのか…」

「あら、分かんない?ま、有象無象と私じゃ違うのも当然よね。なーんかやってるっぽいわよ?」

 

 遠隔の会話を交わすくろめとレイ。ふざけ半分、遊び感覚としか思えない発言をするレイではあるが、その瞳だけは至って真面目。天界で戦うネプテューヌ達と原初の女神を小馬鹿にしているのは間違いないが…この好機をただ見逃す気などない事は確か。

 

「…ねぷっち達はともかく、原初の女神を排除出来るならありがたい。とはいえ、うっかり余計な事を言ったりしないでくれよ?藪を突いて蛇を出す…じゃないけど、要らぬ行為で作戦が破綻したら堪ったものじゃない」

「はいはい分かってますよー。アンタこそ、そんな事を言うならしょぼいヘマなんか……あん?」

 

 性格はどうあれ、キセイジョウ・レイが規格外の存在である事は事実。故にくろめはレイの言葉を疑わず、釘を刺しつつも上手くいけば儲けものと止める事はしなかったが…今正に飛び立とうとしていたレイは、どういう訳か動きを止める。

 

「…レイ?」

「ちっ…まーたしち面倒臭い奴が現れたわ……」

 

 訝しげに呼ぶくろめに対し、レイが発したのは言葉通りに面倒臭そうな…そして不愉快さの混じった声。

 では何故、そんな声を出したのか。一体何が現れたのか。…それは、当代の守護女神でも、女神候補生でもない存在。されどもレイにとっては、目障りな相手。

 

「はっ、やっぱり邪魔する為に動こうとした訳ね。ねじ切れる位歪んでるから、逆に予想し易かったわ」

 

 舌打ちを漏らすレイの前に舞い降りる、一人の女神。両手に刃を携えた彼女の名は、レジストハートことセイツ。過去、二度に渡ってレイの野望を妨害し、人や同じ女神と共にレイを打ち倒す事を果たした彼女が再び…レイの行く手を、その身で阻む。

 

「…アンタほんっとしつこいわね。暇なの?それともあんたがストーカー?」

「暇?自らの愚行で国民に否定を突き付けられて、最終的に国を追われたも同然の誰かさんの方が、よっぽど暇なんじゃないかしら?」

 

 当然が如く煽るレイだが、セイツもまた平然と煽り返す。レイの発言は相変わらずながら、レイに対するセイツの発言もまた相変わらず。

 だが一つ、大きく違う点もある。セイツの態度、煽り返しは完全に本心からくるものではあるが……今彼女の心を占める思いは、レイへの怒りだけではない。

 

(予想が当たって良かった…ここでわたしが足止め出来れば、皆は邪魔される事なく戦い抜ける…)

 

 一見すれば無防備に、されど意識と神経は完全に臨戦態勢へと移行した状態で、セイツは心の中で呟く。

 ネプテューヌ達守護女神と原初の女神の戦い…その邪魔をしようとする者、障害となる存在が現れた時、それを阻む。…これが、セイツの考え付いた『協力』。守護女神としての意思を貫こうとするネプテューヌ達の思いを踏み躙らないようにしつつも、彼女達の力になりたいと思ったセイツ自身の納得出来る、協力の方法。

 

「あのさぁ、はっきり言って今出てこられてもほんと邪魔なだけなのよ。そんなにやられたきゃ後で幾らでも嬲ってあげるから、すっこんでてくれない?」

「誇り高き女神達の舞う戦場を穢そうとしておきながら、邪魔をするな?…ギャグのセンスもないなんて、もう不愉快を通り越して哀れにすら思えてくるわね」

「…あー、はいはい。そうね、私に突っかかりたくて突っかかりたくてしょうがないのがアンタだったわね。け、どぉ…まさか、アンタ一人で邪魔しようだなんて、まさかそこまでお馬鹿さんじゃないですよねぇ?」

「えぇ、勿論じゃない」

「……あ?」

 

 話にならない、話しても仕方がない。そんな風に呆れた素振りをレイは見せ…嘲笑う。お前一人で勝てる訳がない、自分とお前じゃ格が違う…そんな傲岸不遜な考え方を、隠しもしないで。

 しかしそんなレイの態度を前にしても、セイツの表情は変わらない。涼やかに、さらりとレイの言葉に返し……次の瞬間、レイの身体は横に吹き飛ぶ。そこは高速で飛来した、黄色の閃光が如き一撃によって。

 

「ねぷてぬたちはね、今すっごくいそがしーの!だから、じゃまするのは、めっ!」

 

 跳ね飛ばされたレイへと向けて腕を、装備する鉤爪を向けて、そう言い放つのは攻撃の主…女神の姿となったピーシェ。幼い声音ながらもしっかりと意思の籠ったその言葉に、セイツは大きく深く頷いて、それから二人は並び立つ。そして……

 

「邪魔しちゃ、めっ?あはっ、だったら心配しなくていいわよ?だって私がアンタ等をぶっ潰した後にするのは、邪魔じゃなくて蹂躙なんだもの!」

 

 舞い上がった砂煙の中から何事もなかったかのように現れたレイの、余裕に満ちた声と表情。そのどちらにも、虚勢を張っている様子など微塵もなく…だがセイツにもピーシェにも、彼女を恐れる気持ちはない。

 友として、同じ女神として、信念を貫かんとする四人を応援したい。その助けになりたい。そんな思いを胸に抱いて、二人はレイの前に立ち塞がる。

 

 

 

 

 天界を翔ける、五つの翼。その一つは、原初の女神。尽きる事ない思いの光を輝かせ、全面に広がる天界の空を支配せんばかりに舞い踊る。

 それと交差する四つの翼は、当代の守護女神。昇り続ける願いの光を煌めかせ、その支配を切り裂きそれぞれの色に塗り替えていく。

 

「挟撃か…温いッ!」

 

 加減速、方向転換、急上昇に急降下…それ等全てを変幻自在に行い宙を駆ける原初の女神を、喰らい付くようにしてノワールとベールの二人が追う。そして原初の女神は前方の浮き島へ沿うようにして左へ旋回をかけるが、その先にいるのは逆側から回り込み、挟み撃ちにするべく突撃をかけるネプテューヌとブラン。

 しかし原初の女神は動じない。挟撃狙いだと分かると更なる加速をかける事で一気にネプテューヌ達との距離を詰め、勢いそのままにブランへ飛び蹴り。ブランが反射的に防御をすれば、掲げられた戦斧の側面を踏み台にする事で百八十度方向転換し、二振りのバスタードソードで一瞬前まで追う形だった二人へと強襲。

 

「ちぃ……ッ!けど、想定内なのは…」

「お互い様ですわッ!」

 

 防御される前提での飛び蹴りだったと見抜いた二人は、先んじて互いに得物をぶつけ合い、その反動で左右に分かれて攻撃を回避。駆け抜けたすぐ後をネプテューヌが単独で追い、彼女の背後へエクスブレイド数本を放つ。

 ネクストフォームの恩恵か、これまで以上の速度で以って飛来するエクスブレイド。しかしそれを原初の女神は躱し切る。振り返る事なく、そのままの向きで。

 

「……っ!さらっと種が割れたみたいな事してくるわね…ッ!」

「だったら……ッ!」

 

 全て凌いだ上で、逆に剣を背後へ放つ原初の女神。それを全てネプテューヌが叩き斬ると、その脇をノワールが追い抜き、次の瞬間一瞬で…いや、一瞬すらもかける事なく飛行する原初の女神の前へ。左前方へと躍り出たノワールはそのまま片手剣を真横に振るい、裏拳が如く背後への一撃を浴びせかける。

 目にも留まらぬ…比喩抜きに、ネプテューヌ達にも原初の女神にも視認困難な神速の肉薄。しかし原初の女神は受け止める。着実にとまでは言わないものの、目の前に現れてから攻撃が届くまでの刹那で、防御を間に合わせる。

 

「…ふんッ、これにもう慣れてくるとか、冗談じゃないっての…!」

「力の性質、本質が読めれば、対応のしようもある。それがたとえ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であってもな」

「……ッ、貴女…ッ!」

 

 阻まれたノワールが歯嚙みをする中、原初の女神は薄く笑う。そして原初の女神が力技で押し返せば、ノワールは歯嚙みの表情を更に深めつつも無理せず退き、入れ替わるようにブランが接近…するも、原初の女神は急降下をかけ距離を取る。ブランに接近を許さない。

 

「速さとは相対的なものだ。そうだろう?白の女神」

「…確かに、さっきの言葉はハッタリじゃないみたいだな…よく見てるじゃねぇか……!」

 

 翻弄するように飛び回りながら剣を放ち、原初の女神は言う。ここまでのように、あの一見不可解としか思えない挙動を出来るものならしてみろと言わんばかりに。

 その剣の連射を躱し、或いははたき落として対応するブランだが、確かに原初の女神を驚愕させたあの動きは発揮されない。しかし、その隙にネプテューヌとベールの二人が突撃。近接戦の距離となる直前、ネプテューヌの大太刀には黒紫の光が揺らめき…更にその一瞬前には、無数の槍が襲い掛かる。

 

「…そして、如何に本質が超常の更に先を行くものだとしても、引き起こせるのはあくまで物理的な現象の範疇…故にそれは、我が手の届かない力ではない」

「…ご尤も。観察眼、戦術眼も大したものですわね、貴女は……!」

「けど…一つ、間違っている事があるわよ?」

「……ほう?」

 

 迫る槍全てを躱し切り、ネプテューヌの一太刀もギリギリまで引き付けてから身体を捻るように避け、その流れのまま二人へ同時にバスタードソードを振る。左右二振りの剣で二人を一度に相手取り、真剣そのものな瞳をしつつも余裕を残した表情を見せる。

 分析も推測も、既に大方済んでいる。本質の全てを把握出来なくとも、それが戦闘においてどのような形を取るかさえ分かっていれば、戦う上では何ら問題ない。そして実際、対応は出来つつある。…原初の女神は、そう考えていた。浮かんだ余裕も、だからこそのもの。

 そしてその推測は、間違っていない。……今の、段階においては。

 

「確かに、貴女の言う事はその通りよ。だけど…それはわたし達が、もう限界に行き着いている場合でしょう?」

「…ふっ、その言葉…虚勢でなければいいのだかな…ッ!」

 

 大太刀とバスタードソードで斬り結んだ状態から、不敵に笑うネプテューヌ。その表情を見た原初の女神は、彼女もまた薄く笑い…どこか期待も籠ったような言葉と共に、二人を纏めて弾き飛ばす。

 四方に散った状態から、四人が交わすアイコンタクト。視線を、意思を、四人の守護女神は交わし合い…更に守護女神は、今の先にある未来へと進む。

 

「一つ一つでは対応される、というのであれば…ッ!」

 

 大槍を回すようにして構え直し、ベールがはったと見据えた次の瞬間、その先に…原初の女神がいる空間へと現れる緑槍。直感的な察知で原初の女神がそこから退けば、後を追うように次々と槍が宙に現れ、原初の女神を追い立てる。

 無論原初の女神も、ただ追われるだけではない。放たれる槍、自分のいる場所に現れる槍の双方を置き去りとしながら、再び肉薄をかけようとしていたノワールに対し自ら接近。減速ゼロの突進刺突を真正面からノワールへ仕掛け…しかしやはり、気付けば既に彼女は背後。

 

「視界の外に出たところで……!」

「えぇ、貴女なら直感で対応してくるわよね。けど…注意を引き易いから、その鋭さはむしろ助かるわッ!」

「それが狙いか…だがッ!」

 

 振り向きざまに右のバスタードソードを振るった原初の女神だが、再びノワールの姿が消える。次に原初の女神が視認した時、ノワールは彼女の間合いから大きく離れており…尚且つそこへ、真上からブランが襲撃。大上段に振り被った戦斧を、気迫と共に振り下ろす。

 

「喰らい、やがれ…ッ!」

「こちらが本命か…狙いは悪くないが、その程度で私を取れると思うな……ッ!」

「ちぃ……ッ!」

 

 ブランの力と急降下の勢い、その二つが合わさった一撃を、原初の女神は交差させた二振りで受ける。押し留め、せめぎ合い、しかし次の瞬間二本のバスタードソードは振り抜かれ、激しく飛ばされたブランの身体は上方に浮かぶ浮き島へ激突。加えてブランの防御能力の高さを理解している原初の女神は、何本もの剣を精製し、激突により上がった砂煙の中へそれ等を打ち込む。

 だが、ブランの状態を確認しようとしたところで感じる危険。その場を離れれば再び一瞬前までいた空間へ槍が現れ……されど、この時はそれで終わりではなかった。原初の女神が避けた次の瞬間…その背筋に、槍以上のプレッシャーが走る。

 

「残念だけど、本命は…こっちよッ!」

「……ッ!?(空間が…揺らいだ…!?)」

 

 本能が原初の女神へと叫んだのは、防御でも、迎撃でもなく、全力の回避。その正体を確認すらせず、彼女はその本能に従い圧縮シェアエナジーを加速に用いて急速離脱。その機動の中で、原初の女神は振り返り…そして目にする。より濃く輝く黒紫の光を。気合いと共にその光を纏った刃が振り抜かれた瞬間、大太刀の斬り裂いた空間が異様な変質をしていた事を。

 空間ごと斬る…などというレベルではない。それよりも高度…或いは異常な何かが、その一太刀によって起こされていた。しかし、その現象について深く考える時間は…ない。

 

「逃しませんわッ!」

「逃がさないってのッ!」

 

 即座の追撃に入るノワールとベール。急減速からの再加速による反撃を考えていた原初の女神へ出現と射出、その両方で槍が襲い掛かり、回避先へはノワールが強襲。猛禽類同士を、或いは戦闘機同士の巴戦を思わせる…されどそれ等の遥か先を行く超速度での空中戦が繰り広げられ、純粋な能力で勝る原初の女神へ、視認困難の機動で以って真っ向からノワールが喰らい付く。それでも足りない部分は、底の見えないベールの槍が補い助ける。

 

(…始めよりも、速度…いや、時間が増している…?それに、どういう事だ…?これだけ放っても尚、何らペースが落ちないだと…?)

 

 鋭く苛烈な乱撃を両の刃で巧みに捌き、剣に加えて打撃も駆使して原初の女神はノワールへ反撃。一瞬でも止まれば槍に包囲される。それが分かっているからこそ、原初の女神は動き続ける。

 速度と手数による、激流が如き二面作戦。更に無秩序不規則に飛び回る原初の女神とノワールの先へ、直線機動でネプテューヌとブランが回り込む。

 

「ネプテューヌ!」

「えぇッ!」

「やはり然程ダメージは負っていないか…!」

 

 大太刀と戦斧を重ねるような、左右からの同時横薙ぎ。それを背面跳びの要領で避けた原初の女神は二振りのバスタードソードをベールに向けて投げ放ち、ベールが防御に転じた数瞬の間に大小多数の剣を精製。それ等を一斉に打ち込み、その後を追うように彼女自身も突撃をかける。

 だが剣群が迫った次の瞬間、膨らむように、或いは羽ばたくようにブランの両翼が大きく拡大。純白の翼は自身と二人を包むようにして前方へ展開され、飛来した剣の全てを防御。触れた剣は悉くが力を失ったように勢いを削がれ、抜ける事なく全てが落下。その時点で両翼による防御は解かれ、原初の女神自身の攻撃も飛び出した二人が受け止める事で阻まれる。

 

「まだよ、まだわたし達の進化は…止まらない…ッ!」

 

 また新たに携えた原初の女神のバスタードソードと斬り結ぶ中で、再び光揺らめくネプテューヌの大太刀。不味いと感じた原初の女神が下がれば即座にノワールが距離を詰め、無理矢理ノワールを蹴り飛ばした彼女の側面へベールが強襲。

 

「火力支援も悪くはありませんけれど…やはりわたくしは、こちらの方が性に合いますわッ!」

「そうくるか…!」

 

 暴風を一点に集中させたかのような突進刺突と斜め十字の斬撃が激突。そこから右の剣で横に受け流し、左の剣で袈裟懸けをかける原初の女神だが、それを阻むように槍が現れ、更に彼女の胴を貫く形でこれまた別の槍が出現。身を捩る事で槍を躱し、原初の女神は次なる一撃を放つも、刺突から戻った得物の大槍がその軌道へと割って入る。

 まるで攻撃及び防御の結果、「突き出した」や「掲げた」という行動の終着点だけが発生しているかのように、幾度となく緑の槍が現れては消える。やっている事は、単なる武器の精製。だがそこにベール本人の動きには一切支障をきたさないまま、その空間に先客がいようとも御構い無しに出現する槍という要素が加わった事で、その力は原初の女神をして「隙がない」と思わせる攻防能力を実現していた。

 

「柔軟且つ厄介な力だ…正面突破が出来ないのであったのならな…ッ!」

「なら、こういうのはどうかしらッ!」

 

 だが、隙がないのなら、攻防諸共押し切ってしまえばいい。…単純ながらも出来るのなら強力なその手段で以って一度はベールを押し返す原初の女神だが、先程の仕返しとばかりに斜め上方からノワールが飛び蹴り。それを避けた原初の女神は二本で同時に斬り結び、一気に押してノワールを近くの浮き島へと叩き付けようとするも、そこでノワールの背後に現れたのは四本の剣。それ等は踊るようにノワールの周囲を回転し、四方から同時に斬り掛かる。

 

「貴女の技と同じようなもの…とは思わない事ねッ!」

 

 バックステップの様な動きで四本の斬撃を全て避けた原初の女神は、間髪入れずに距離を詰めて上段斬り。しかしその攻撃にノワールは一切動かず…代わりに四本の剣の内、二本が交差し振るわれた刃を受け止める。更にその直後、残りの二本も向きが変化し左右から挟み込むような挙動で反撃。再び原初の女神が後退で避ければ、ノワールが追撃の刺突を仕掛け、追随するように四本の剣もそれに続く。

 四本。原初の女神やベールが精製した物に比べれば、四というのはあまりにも少ない数。だが、その動きの自在性は完全に別格。二人のものは、あくまで精製と射出に留まる程度だったのに対し、ノワールの剣はそれぞれが腕で保持しているかのように、自由自在に動き回る。そしてそれが神速の機動と組み合わされば、繰り出される攻撃は正に熾烈。

 

「確かに随分と違う技だ…だが、どうやらその技は……ッ!」

「ちッ…ほんっと見極めるのが早いわね…皆ッ!」

 

 それでも、原初の女神は打ち砕く。ノワールの左右へ剣を放ち、同時に二振りのバスタードソードと追加のシェアエナジーで身長の数倍はある大剣を作り出し、大上段から一気にノワールへ振り下ろす。

 それをノワールは手にした剣で、浮遊する四本の剣と合わせて防御。…この攻撃の裏にあるのは、ノワールの剣は自分やベールのそれとは違い、(少なくとも現状では)四本が精製限界であり、長距離へ飛ばす事は出来ないのだという予想と推測。それに基づいた攻撃がこの重量級単発斬撃であり…結論から言えば、その推測は正解。ノワールは防御への専念を強いられ……しかし当然、ノワールは一人で戦っている訳ではない。

 

「わたし達が、お前に見せるのは……」

「個々の、力だけじゃ……」

「ありませんのよッ!」

 

 ブラン、ネプテューヌ、ベールによる三段連撃。追い立てられる形となった原初の女神は一度大きく距離を取り、すぐさまそれをノワール達が分かれて追う。

 戦闘が長引くに連れ、原初の女神は理解を深めていく。強行突破、力尽くによる封殺は、今の四人に対して有効であると。下手に付き合わず、自分の純粋な身体能力を叩き付ける方が、有効となる場面も多い事を。しかし一方で、四人の進化も止まらない。通用しないのなら更に前へ、更に先へと芽生えた力を拡大させ、原初の女神へ何度も何度も喰らい付く。一人ではないからこそ、連携の力も戦いへ組み込む。

 

(この、感覚は…ふふ。どうやらこれは、彼女等に感謝をしなければいけないやもしれないな……)

 

 本当に無尽蔵なのかと思う程、放たれ続ける槍の雨。機動力で振り切る事をノワールが許さず、反撃もブランが的確に対処。その内に何度もノワール達の攻撃が迫り…だが彼女達の攻撃もまた、原初の女神には届かない。

 その中で、圧倒的な速度で空を疾駆するその最中で、原初の女神が浮かべる小さな笑み。嘲笑でも哀れみでもなく…好意的な感情の籠った、僅かな微笑み。しかし次なる一手に入ろうとしたところで…原初の女神は気付く。連携攻撃を仕掛けているのは、四人ではなく三人である事に。

 

「紫の女神がいない…?…まさか……ッ!」

 

 反射的に視線を巡らせる原初の女神。すぐにいなかったもう一人、ネプテューヌの姿を発見するが、その時点で既にネプテューヌは攻撃態勢を…あの攻撃の準備を整えていた。

 収束するように纏われた、黒紫の光。大上段に構えられた大太刀の刀身で輝くその光は、原初の女神が正対したその瞬間に一層強く輝きを放ち……花弁の様に広がる翼から波動が如くシェアエナジーの光が噴出された次の瞬間、ネプテューヌは光を纏った大太刀を振り抜く。

 空を裂き、飛翔する黒紫の斬撃。比喩でも誇張でもなく、本当にその斬撃は空を、空間を斬り裂き猛進する。ネプテューヌが狙う原初の女神へと向かって、一直線に邁進する。対する原初の女神は、その斬撃を確実に避けるべく、ギリギリまで引き付ける姿勢を見せる。両者の中間を超え、黒紫の光はノイズが走るようにブレ……そして、消える。

 

「……は…?」

 

 消失する紫黒の刃。目の前の光景に、原初の女神は愕然とする。だがそれは、刃が消えたからではない。飛翔する刃が消失した時、同時に……形容し難い『ナニカ』が、その空間で起きていた。

 例えるならそれは、世界の抹消。その空間が、根源的な領域から破壊され、根絶され、この世界ではない何かに、無すら存在しない……見ているだけでイシキガオカシクなってしまいそうな…そんな空間が、斬撃によって開かれていた。

 しかも、それだけではない。茫然としかけた原初の女神が我に返った直後、彼女の視界の端でもう一つの『ナニカ』が開き…そこから斬撃が現れる。現れ、明後日の方向へと飛び…光が空に溶けるように、消える。

 

「…何の、つもりだ……?」

「……差し詰め、バグ技で入る裏世界…ってところかしらね。…安心してくれて構わないわ。今のはわたし自身、制御出来てなかっただけだもの。むしろそれより…気にするべきは、あっちだと思うわよ?」

 

 結局自身には当たる事なく、明後日の方向へ向かい消えた斬撃。不可解極まりないその攻撃を前に、原初の女神は半ば無意識的にその問いを口にし…ネプテューヌは肩を竦める。

 その返しに、嘘はなかった。制御出来ていなかった、それは事実であり…続く言葉もまた、真実。

 つられるように、原初の女神が向ける視線。そこにあるのは、一つの浮き島。

 

「…ふん、あれが何だと……、──ッ!?」

 

 一見すれば、何の変哲もないただの浮き島。比較的小さい事を除けば、何も見るべきところのない、ただの大地。一瞬、原初の女神はそう思った。だが…すぐに気付く。それは、その浮き島は、先程自身がブランを打ち付けた浮き島である事に。その際彼女は追撃も打ち込み…にも関わらず、殆ど崩れていない事に。

……否、それは違う。正確には、亀裂自体は入っている。それもよく見れば、過剰な程に。にも関わらず、浮き島は一切崩壊していない。一部すらも、脱落していない。…それは何故か。それは……

 

「大元は自分で招いた崩壊だ。たっぷり喰らいやがれ…ッ!」

 

──そうならないよう、崩れないよう、細工していたからに他ならない。

 ふっと姿を見せたブラン。そのブランが触れた瞬間…浮き島は、崩壊する。凍っていた時間が動き出すように…それも、異常な程の勢いで。

 破片一つ一つが弾丸であるかのような、そんな速度で浮き島は下方に位置する原初の女神へ殺到。小さな欠片も、大岩が如き破片も、揃って下へと降り注ぐ。原初の女神に、襲い掛かる。

 

(これは…黒の女神の力も交えているという事か…ッ!……いや、違うッ…黒の女神に、それに…ッ!)

 

 降り注ぐ浮き島の残骸に対し、原初の女神が選んだのは迎撃。両手のバスタードソードを嵐が如き勢いで振り回し、自身の真上へ落ちる破片全てを叩き斬って崩していく。流石にこれは予想外だが、如何に早いと言えども所詮は残骸。防ぎ切れない道理はないと、そんな確信を抱きながら。

 実際それは、間違っていない。しかしこれは、初撃に過ぎない。ネプテューヌの大仰な足留めから始まった、過剰な程の攻撃の。

 

「防げると言うのなら、防いでみなさいなッ!」

 

 浮き島が完全に崩壊した事で見えたのは、その浮き島を丸々穿てる程に巨大な槍。空の一部が崩落した…真下にいる原初の女神へそう思わせる程の一撃が、迎撃直後の原初の女神へと迫り……一切の思考の余地なく、原初の女神は回避を選択。防御し切れるか否かは別として、本能的に原初の女神は察知していた。既に回避が間に合わないのならともかく、避けられる状況で防御をするのでは、あまりにも割に合わないと。

 そうして槍の範囲から逃れる原初の女神だが、やはりそこへはノワールが強襲。とはいえそうくる事を予想していた原初の女神は、難なく彼女を弾き返し…その直後、それは判断ミスであった事を理解する。

 

「助かるわ、原初の女神……おかげで、巻き込まれずに済むんだものッ!」

「……!」

 

 離れていく彼女への警戒もそこそこに、反射的に振り返った原初の女神。その先、かなり離れた場所で翼を広げているのはブランであり…その左手側には、巨大な砲。既に開放型の砲身が展開され、狙う先を彼女へ定めていたその砲からは、青白く輝く光が溢れ…次の瞬間、照射される。純粋に、単純に…だが圧倒的以外の何物でもない、超火力の光芒が。

 

「ち、ぃぃ……ッ!」

 

 乗せられた。そう気付いた原初の女神は歯噛みしながら腕を振るい、その動きに合わせるように何十もの盾が展開。横に広がり、尚且つ重なり、盾による防御を彼女は図る。

 無論、その盾の裏には圧縮シェアエナジーを用意し、吹き飛ばされないようにもしている。一瞬でも盾で受け止められれば、その間に避けられる。原初の女神はそう考えていた。そうなる、筈だった。だが……

 

「斬り裂くわ…貴女の、その防御をッ!」

「な……ッ!?」

 

 青白い光が迫る中、盾の前へと躍り出たのはネプテューヌの姿。笑みと共に現れたネプテューヌは、大太刀を振るい…そして次の瞬間、盾が消滅。斬られた、触れた盾ではなく…原初の女神の用意した盾全てが、()()()()()()()、その一太刀で消失する。

 狙い通り、とばかりにすぐさま離れるネプテューヌ。彼女が原初の女神の目の前から離れた時、迫る光はもう目前。既に再展開は間に合わず…彼女を守る盾は、どこにもない。

 

「……ッ…舐、めるなぁああああッ!」

 

 そこで初めて、原初の女神は吼える。左のバスタードソードを投げ捨て、右の一本を両手で握り、真正面から光芒を斬り裂く。

 半端な防御どころか、強固な防御すらも無に帰すような、青白い光。しかしそれでも原初の女神は翼を広げ、全身の力を刃へと込め、光の奔流を斬り裂いていく。バスタードソードへシェアエナジーを送り込み続ける事で崩壊を防ぎ、その奔流に耐え続ける。

 数秒か、十数秒か、或いはそれ以上か。蒼白の砲撃は続き、されどもある瞬間から段々と弱まり、遂には消滅。そして完全に止まった時、そこには一歩も引く事のなかった原初の女神が、崩れかけたバスタードソードと共に空へ立ち……

 

「舐めてなんか……」

『(いないのよ・いませんわ・いねぇんだよ)ッ!!』

 

……それすらも、お膳立てだった。根絶の斬撃も、停止と加速の浮き島崩落も、上限無き槍の降下も、神速の追撃も、蒼白の超芒すらも…全てが、この攻撃の為の準備。

 紫、黒、緑、白。四方から迫る、四人の女神。全身全霊、今持てる力の全てを込めた一撃が……原初の女神に、迫る、




今回のパロディ解説

・「〜〜種が割れた〜〜」
ガンダムSEEDシリーズにおける、特殊演出の一つの事。所謂種割れですね。別に原初の女神は瞳のハイライトがオフになってたりはしませんが。

・裏世界
パロディ…というか、ゲームにおけるバグ現象の一つの通称。便宜的に世界とは言っているものの、存在しない空間、あり得ない領域…そんな感じ、ですね。
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