超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
突如として、大きいネプテューヌが消えた。指定された時間になり、何かは起こると思っていた中、大きいネプテューヌが慌て始めたのも束の間…消えてしまった。
その直前に見てたのは、次元の扉らしき歪み。それが大きいネプテューヌを飲み込んだ次の瞬間には消えて…今も、通信は繋がらない。
「自らは姿を現さず、一方的に自陣へ引き込む……ふん、出来損ない共らしい、卑劣にして醜悪な手段だ」
空間の歪みによって侵入を阻む浮遊大陸を見上げ、吐き捨てるようにしてもう一人の私が言う。
今私達がいるのは、ついさっきまで大きいネプテューヌが居た地点。でも当然、ここに来たところで何かが分かったり、何かが残っていたりするような事はない。だって、あの時見えたのが本当に次元の扉なら、大きいネプテューヌは完全に転移してしまっている筈なんだから。
「ネプギア、駄目?」
「…うん。やっぱり、通信も浮遊大陸の内側とは出来ないみたい…」
ネプテューヌからの問いに、手持ちの機器で出来る限り調べていたネプギアがふるふると首を横に振る。
「じゃあ、もう一人のわたしを信じるしかないわね。…元々、そのつもりではあったけど…」
「…………」
回答に小さく頷いて、ネプテューヌもまた浮遊大陸を見上げる。そのネプテューヌとは対照的に、もう一人の私は視線を落とし、何か言いたげな表情をネプテューヌへと送って…だけどそれが言葉になるよりも先に、何となく察した私が言う。
「大丈夫…大丈夫だよ、もう一人の私。大きいネプテューヌは、くろめを信じてるんだから…くろめを信じて、こうする事を選んだんだから、その気持ちを私達も信じないと」
「見縊るな。信じている、信じているに決まっているだろう。女神が人を信じなくて、何を信じると言うのだ」
「それなら、良いけど……」
実質連れ去られるような形となった大きいネプテューヌの事を、心配するのは分かる。分かるというか、私自身心配している。でも心配する事と信じる事は、決して両立出来ない事なんかじゃなくて…ネプテューヌが心配してない訳じゃないと分かってほしかったから、私は言った。そして、もう一人の私の反応は何ともいつも通りのものだったけど…ちゃんと言いたい事は伝わっていると、そう信じたい。
「わたしもイリゼさんに同感です。それに、もう一人のネプテューヌさんは様々な経験をお持ちの方のようですが、あくまで人間。女神の皆さんや、それこそイリゼ様を差し置いて、真っ先にもう一人のネプテューヌさんを罠にかける…という事は、しないのではないかと思います( ̄^ ̄)」
「…何れにせよ、何であろうと私は気に食わん。こんな手段など……」
そう言ってもう一人の私は鼻を鳴らし、宙に上がる。けど飛び去る訳じゃなく…空中で、浮遊大陸への警戒を続ける。そして…その後を追うように、ネプテューヌも宙へ。
「…ネプテューヌ?」
「女神じゃなくても、別次元でも、わたしはわたしよ。だから……」
舞い上がったネプテューヌは、そうしてゆっくりと目を閉じる。それが大きいネプテューヌの事を考えているのか、それとも感じようとしているのかは分からないけど…ネプテューヌなら、もしかしたら…そう思わせてくれる力が、ネプテューヌにはある。
一方私は通信が繋がらない以上、浮遊大陸の中で何が起こっているか知る術はない。待つしかない。…でも、だからこそ…信じるんだ。大きいネプテューヌを…思いを果たし、意思を貫く事を選んだ、私達の友達を。
*
女神にだって、どんなに強くたって、限界はある。出来ない事が、届かないものがある。今は良くても、いつかはそんな瞬間が訪れるかもしれない…その可能性は、いつだってゼロじゃない。
でもそれを、仕方ない事だと諦め、受け入れるのは嫌だ。諦めるのも、妥協するのも、真っ平御免だ。そしてその為には、そんな可能性を覆すには、世界を変えてしまえるだけの力が必要で…その力が、自分にはある。世界を変え、揺るがない平和を作り出す事だって出来る。
その為に、ここまで行動してきたんだと、これまでやってきたのは全て必要な事で…これが自分の意思だと、くろめは言った。嘘なんて微塵も感じない…心からの言葉だと分かる声で、わたしに対して言ってくれた。
(…やっぱり、うずめはうずめなんだね)
その言葉の中に、色々な事を感じた。沢山の事を思った。それに、雰囲気は全然違うけど…この真っ直ぐさは、うずめと同じ。本心を聞いて、本心を話すくろめを見て…やっとわたしは、それを感じられた。
くろめはわたしを、じっと見つめている。ねぷっちなら分かってくれるよね、と思っているようにも、分かってほしい…と願っているようにも見える目で。…そんなくろめに対して、今もわたしは力になりたいって、支えてあげたいって気持ちがある。くろめは落ち着いてて、余裕もある口調で…なのに、何となく見ていると不安になるから。どこか、折れてしまいそうな感じもあるから。
それに…本当に、本当に、くろめから悪意は感じない。こういう感じの事を言っておいて本当は私利私欲が…っていうパターンはよくあるけど、くろめはそんなんじゃないって断言出来る。ほんとに、平和にしたいんだって伝わってくる。…だから、わたしは…だからこそ、わたしは……
「……ごめんね。やっぱり、それは…くろめの手は、取れないよ」
向けられて視線へ、くろめからの思いへ真っ直ぐに見つめ返して、わたしは言う。ゆっくりと首を横に振って…もうくろめには、今のくろめがしている事には、力を貸せないって言葉を返す。
「…………」
「…くろめ。わたしね、くろめの事好きだよ。お喋りするのも、一緒にご飯食べたりするのも楽しいし、どっかへ一緒にお出掛け行けたらなー、って前から思ってたもん。わたしはくろめが優しくて気さくな事、ちゃんと知ってるもん」
「…オレもだよ、ねぷっち。オレもねぷっちと話すのは楽しいと思っているし…ねぷっちの事は、ずっと信頼してきた。いや…今だってまだ、信頼したいと思ってる」
「そっか。…ありがとね、くろめ。くろめがそう言ってくれて…わたし凄く、嬉しいよ」
「…なのに、駄目なのかい?それなのに、ねぷっちは……」
今のくろめからの言葉を聞いて、わたしはほっとした。オレもだとくろめが言ってくれて、わたしがくろめに思ってる気持ちが、わたしの一方的な感情じゃなかったんだと分かって…本当に、嬉しかった。
だけどそれでも、わたしはくろめの手を取れない。取れないんだ。こんなくろめだからこそ…今くろめがしている事を、応援は出来ない。しちゃ、いけない。
「くろめの言ってる事は分かるよ。誰だって、どこかには限界がある筈だし、だからってそれを『仕方ない』って諦めるのはわたしも嫌だもん。それを何とか出来る方法があるなら、それに全力を尽くしたいもん。わたしは、女神の皆みたいな凄い考え方は、中々出来ないけど…それでも、皆には笑顔でいてほしいもん」
手は取れないって言ったけど、首を横に振ったけど、わたしはくろめの思いを否定なんてしていない。それは何にもおかしくないって思うから。でも……
「だけど、だけどねくろめ。限界はあるのかもしれないけど…誰だって、どこかでその限界にぶつかる瞬間があるものだと思うけど…限界は、超える事だって出来るんだよ。諦めなければ…辛くても苦しくても、心が前に進もうと、限界を超えようとし続ければ…出来ないなんて事、ないんだよ。それをね、ちっちゃいわたし達が、ネプギア達が、教えてくれたよ?くろめは女神だって、って言ったけど…その女神の皆が、示してくれたんだよ?」
「…それは、ねぷっちとぎあっち達の、新たな力の事かい?それなら、それだとしても……」
「うん。新しい力を手に入れたって、そこには新しい限界があると思うよ。ちっちゃいわたしも、そんな感じに言ってたもん。…だけどさ、くろめ。皆なら、その時はまた限界を…新しい限界も、その先の限界も、超えようとするんじゃないかな。頑張って、力を振り絞って、それでも足りないなら皆と力を合わせて…限界はあっても、そこが終わりなんかじゃないって、手を伸ばし続けるんじゃないかな」
わたしは見てきた、教えてもらってきた。限界は、諦めるものじゃないって。限界は、超えられるものだって。そうして大切なものを取り戻した、大切なものを貫いた皆の事を…わたしは、知っている。
「くろめは、後ろ向き過ぎだよ。ネガティヴ過ぎだよ。それに…どんなにちゃんとした事でも、それで誰かを悲しませるのは…そういう事を、一人で勝手に決めて進めるのは…やっぱり、違うよ。絶対に…良くない事だよ」
「…後ろ向き過ぎ、か…ねぷっちらしい言葉だね。…けど、オレはそうは思わない。それにねぷっちの言う事は、全て希望的観測だよ。確かに女神のねぷっち達は限界を超えてきた。でも、次もまた超えられる確証があるかい?頑張って、力を振り絞って、自分も仲間も信じて…それでも届かなかったとしたら、そんなに辛い事はない。全力を尽くしたんだから、後悔はないなんてのは、女神だったらきっと思いはしないさ。女神にとって届かないというのは…多くのものを、大切なものを、失うって事なんだから」
「くろめ…だから、それが……」
「ネガティヴな考え方、かい?…なら、視点を変えよう。限界を超えるにしろ超えないにしろ、そこまでには多くの苦しみがある。守る為の戦いには、必ず傷が付き纏う。…あんまりじゃないか、そんなのは。そうするしかないのならまだしも…そうあらずに済む方法があるなら、その力があるなら、オレはそうしたい。…いや、違うね。これは使命なんだよ、ねぷっち。力ある者の、それが出来る力を持つ者の…使命だ」
これまでくろめが話してくれた思いは、全部「上手くいかなかった」が前提になっている。勿論、いつでも都合良く上手くいくなんて事はないんだろうけど…それでもくろめからは、そう決め付けてるように感じる。そういうものなんだって、絶対そうなんだって。
それからくろめが言った、『使命』って言葉。…それからも、わたしは感じた。くろめの中の、決め付けを。自信の籠った…どこか、自分自身を満たしているようにも聞こえる声を。
「…その使命の為なら、くろめは沢山の人を傷付けていいって…苦しめてもいいって、そう言うの?」
「それは勿論、オレも悪いと思っているさ。犠牲になった多くの人の事を、蔑ろにするつもりもない。…だからこそ、犠牲になった人々の為にも、必要なんだ。世界を変え、過去すら書き換え、オレの力で以って完璧な次元を作り上げる……オレはねぷっちに何を言われようとも、それで止める気なんかないよ」
止める気なんかない。…最後にくろめは、そう言い切った。これまで以上に意思の籠った声で、強い意思を灯した目で。
本当に…本当に、くろめの言葉に悪意はない。…だからやっぱり、わたしはくろめの手を取れない、悪意がないからこそ…こんなのは、駄目だ。くろめもきっと、誰かを…何かを思って突き進んでいるのに、なのにその方法がこれなんて…絶対に、嫌だ。
「…わたしも、今のくろめの手は握れないよ。くろめが今のまま進もうとするなら…絶対に」
「…そう、か…ねぷっち、それが君の…答え、なんだね」
「…うん」
静かに、だけどしっかりと頷く。くろめの悲しそうな、残念そうなその言葉に。わたし自身の為にも、くろめの為にも…これは、譲れない事だから。
ふっと顔を伏せるくろめ。わたしが見つめる中、くろめはゆっくりと息を吐いて……それから、言う。
「それなら、仕方がないね。もう、こうして説得する事は諦めるよ」
「くろめ…でも、でもねくろめ。わたしは諦めてなんかいないよ。わたしはくろめに手を貸す事は出来ないけど、見捨てる事も絶対に……」
「ああ、分かっているよねぷっち。ねぷっちは……オレの味方、なんだもんね」
「……──ッ!?」
にこり、とくろめが浮かべる不自然な笑み。それは深い沼みたいな、不気味な穏やかさのある微笑みで…次の瞬間、わたしの背中に走る怖気。反射的に振り返ってみれば…そこにあったのは、何本もの触手。前の太いコードみたいなものとは違う…もっとずっと生々しい何か。
「くろめ…!?これは、どういう……」
「…女神のねぷっち達の時もそうだった。皆は分かってくれると思ったのに、女神のねぷっち達もオレを裏切った。…いつもそうだ。オレはずっと信じていたというのに。だから…悪いのは、ねぷっちの方なんだよ」
「い、いつもって、くろめは一体何の……」
わたしを捉えようと迫ってくる触手からわたしが逃げる中、わたしに答えずくろめは呟く。その声は、色々な感情が混ざっているような、本当に複雑そうな声で…でもそう呟くくろめの表情を見る余裕は、わたしにはない。
見つからない出口。あるのはわたしが入ってきたところだけで、でもそこから離れるようにして逃げちゃった今は、一回何とかして触手を躱さないと辿り着けない。
速くはないけど数が多くて、的確に私を追い掛けてくる触手。その触手は、壁の方から伸びてきて……いや、違う。部屋が暗いせいで、今までは気付かなかったけど、これは……
(ダーク、メガミ……ッ!?)
そこにあったのは、存在していたのは、間違いなくダークメガミ。触手は開いた胸の所から伸びてきていて…わたしは思い出す。マジェコンヌが、ダークメガミと融合したあの光景を。
「まさか、くろめ…!」
「こうしてしまえば、もう裏切られる事はなくなる。レイにはああ言ったけど…こうなる位なら、あの時のように、女神のねぷっち達もこうすれば良かったのかもしれないね。…まあ、後からなら何とでも言えるものだけど」
迫る触手を斬り落とすけど、ちょっと斬っただけじゃどうにもならない。それでもわたしが何とか凌ぎ続けていると、くろめはクロちゃんに何かを話して…次の瞬間、あの痛みがまたわたしを襲う。
「……っ、ぅ…!」
「悪ぃなネプテューヌ。けどお前も散々俺を封印してきたんだ。これも因果応報、ってやつさ」
「それは、クロちゃんが…悪い事、するからで……!」
内側から湧き出るような痛みに蹲るわたしと、そのわたしを見て肩を竦めるクロちゃん。クロちゃんの手にあるのは…ねぷのーとの、切ったページ。そしてわたしが動けないでいる内に…触手はわたしの身体を掴む。腕に、胸に、腰に巻き付いて、わたしを宙へと浮き上がらせる。
「安心すると良いよ、ねぷっち。ねぷっちがどうなろうと、オレは君を大切にする。…とは言っても、ねぷっちだってダークメガミとの融合は嫌だろう?だから……」
「だから、自分の所に戻ってこいって…そう、言うの…?…それは、そんなのは……」
「…うん、脅迫だね。だけど選択権はねぷっちにある。どっちが本当に良い選択かなんて…分かり切っているだろう?…さあ、ねぷっち」
ゆっくりとダークメガミの方へ引っ張られる中、くろめはそう言ってまた手を差し出す。隣のクロちゃんもわたしを「意地張ってないでそうしちまえよ」…って言ってるみたいな目で見ていて、邪魔するような感じはない。
このままだとわたしは、ダークメガミに取り込まれる。融合したら…きっと、わたしもあの時のマジェコンヌみたいになる。…そんなのは、嫌。嫌だし、怖いに決まってる。あんな風になるのも…そうなった事で、皆や街を襲うようになってしまうのも、想像するだけで怖くて怖くて堪らない。
(…今のわたしに、これを振り解ける訳なんてない…このままいたって、何にもならない…だったら、一先ずはこの場を乗り切る為に……)
意地を張ってるつもりなんてないけど、このまま拒否して得られるものなんて何もない。今も胸の痛みは続いていて、凄く苦しい。だから…他に手がないんなら、嘘でも考えを変えたフリして、取り敢えずこの場を乗り切った方が良いんじゃないか…そんな思いが、わたしの頭の中を過ぎる。
一度考え始めると、どんどんそっちに頭が回る。それを正しいと思えるような理由が、次々と頭に浮かぶ。皆はここで拒否して取り込まれる事を、望んでなんかいないって。嘘を吐いてでも今を乗り切れば、いつかくろめを止めるチャンスが来るかもしれないけど、乗り切れなかったらきっと絶対に来ないって。そういう考えが、そういう思いばっかりが浮かんできて、その度そっちの方へ心が傾いていく。…そうだよ、命あっての物種だよ。意思を示す事、曲げない事も大事だけど、その為に何もかもを犠牲にしたんじゃ、意味ないもん。こんなの、くろめの為にもならないし…誰も幸せになんて、なれないもん。だったら、今は…一旦は、わたしの思いを、信念を……
「……違う…」
──だけど、心のどこかで声が生まれる。違うって、そうじゃないって言葉が生まれて…その言葉は、わたしの口からも静かに漏れる。
違う?違うって、何が?……そんなの、決まってる。わたしの考え方だ…わたしの、思いだ。
わたしはこれまで、何を見てきた?皆の姿から、何を感じてきた?…諦めない、思いじゃん。辛くても、苦しくても、それでもって踏ん張って、頑張って、力も思いも振り絞って…それで限界を超えてきた、思いを貫いてきた、そんな皆の強さじゃん。わたしがくろめに伝えたかった、分かってほしかった、真っ直ぐな信念じゃん。なのに、それを言ったわたしが、こんな風に諦めて、思いも曲げようとするなんて……そんなのは、絶対に…違う…ッ!
「…それでも、だよ…くろめ……」
「…ねぷっち?」
「それでも、わたしは諦めない…くろめが、超えられない限界を信じるなら…わたしは、限界は超えられるんだって事を、信じる……!」
「…ねぷっち、何を言って……」
胸は痛い、だけどわたしは拳を握る。上手くいく保証はない、それでもわたしは心を決める。ごちゃごちゃと色々考えたけど…わたしは、諦めたくなんかない。
顔を上げて、怪訝な顔をするくろめを見つめる。力を溜める。全身の力を、搔き集める。そして、ダークメガミに取り込まれる寸前…多分中へ上手く取り込む為に、ほんの一瞬拘束が緩んだその瞬間……わたしは、叫ぶ。
「これが、その…限界は超えられるって事の、証明だよッ!!」
『な、ぁ……ッ!?』
滑り落ちるように拘束から逃れ、床に降り立つわたし。そのわたしの姿に、二人共目を見開いて、絶句する。固まる。その上で…かぁっと顔が赤くなる。…だろうね。そういう反応をすると思ったよ。だって、わたしは今……パーカーワンピを、脱いだんだから。服をすぽんと脱ぐみたいにして、パーカーワンピ越しの拘束から逃れたんだもん。
「ね、ねぷっち…っ!?な、なな……っ!?」
「お、おまっ…パーカーワンピの下……っ!」
「隙有りだよ、クロちゃん…!ぬすっと、チャージ…!」
目を白黒させたままの二人に、力を振り絞って一気に接近。手が届く直前で床を蹴って…クロちゃんの手から、破かれたページを掠め取る。
その瞬間、ページの端っこ…クロちゃんが持っていた部分が千切れて、さっきまでとは違う痛みが胸に走った…ような気もするけど、すぐに痛みが消えていく。これで歯を食い縛って、力を振り絞ったりしなくても…普通に、動ける。
「……っ!クロワール…!」
「お、俺のせいか!?いや、確かに取られたのは俺だが…今のはお前も普通に面食らってただろ!?」
足を突くと同時にわたしは反転して、扉の方に向かってダッシュ。前から来た触手を前転で避けて、全力疾走で扉の前まで辿り着いて…そのまま部屋から、廊下に出る。
何とか最大のピンチからは脱出出来た。だけどまだ、ここは浮遊大陸の中。くろめならすぐにわたしの場所を発見出来るだろうし、「馬鹿馬鹿しい、なんで私が手伝わなきゃいけないのよ」とか言ってそうだけど…もしもレイまで確保に来たら、今度こそアウト。だからとにかく今は、走るしかない。
(……っ…この辺りは、多分わたしが知らない場所…どっちにしろ、突っ走らないと…!)
勘を頼りに、とにかく走る。考えたって分からないんだから、意識は全部走る事に注ぐ。
真っ直ぐ走って、左に曲がって、真っ直ぐ走って、今度は右に行って。その内に、周りの景色が変わって…電子的な感じから、ほんとにただの地下洞窟へ。
「やった…これなら、きっと……!」
この変化は、地下空間…というか、浮遊大陸の外側に向かえてるって証拠。これだったら上手く出られるかもしれないし、地上だったら隠れる場所も沢山ある。それだけじゃ結局逃げられないし、空間の歪みの解除も出来ないけど…一度振り切る事が出来れば、そこからまた動き出せる。次のチャンスを望む事が出来る。
そんな思いを抱く中、進む先に見えた光。多分だけど、それは外の光。行ける、逃げ切れる…!そう思って、その期待が胸の中に膨らんで、だからわたしはラストスパートをかけて……
「……ッ!…そんな……」
……だけど、その先に道はなかった。広がっているのは、上下左右全部空で…歩ける場所なんて、どこにもない。…けど、考えてみればそれも当然の事。だって、わたしがいたのは「地下」なんだから。
一か八かと思って、外の壁面を登る事も試してみようとしたけど…外側へ角度が付いているせいで、登るのは困難。出来なくはないと思うけど…こんな所を登っていたら、地上部分に辿り着く前に、絶対追い付かれる。
近くに他の抜け道がないかって探してみるけど、それもない。ロッククライムに使えそうな道具が落ちてたりもする訳がなくて……そうしている内に、わたしは追い付かれてしまう。くろめに、クロちゃんに。
「…逃げる方向を間違えたね、ねぷっち。まあ、どちらにせよ逃がす気なんてなかったけどね」
「……っ…まだだよ、まだわたしは…」
「まだ?確かに同じねぷっちでも、女神のねぷっちなら飛べばいいだけの話だけど、流石にねぷっちは飛べないだろう?…もう、逃げ場はない」
肩を竦め…それからくろめは、鋭い視線でわたしを見る。逃げ場はないと言いつつも、まだ何かをしてくるかもしれないと警戒する…そんな風に、わたしを見据える。
…悔しいけど、確かにそう。わたしは飛べないし、二人を倒せるとも思えない。他に道なんてない以上、本当に逃げ場は……
「…いいや、違うよくろめ。まだ、方法はある」
「…へぇ、どこにだい?」
「どこにって、ここにだよ」
「……ねぷっち、狂言でオレの気を逸らそうとしてもそうはいかな……」
「…ところでさ、くろめ。精霊をデレさせて救う主人公さんと、人類の為に百年の旅をするアンドロイドさんって、ある共通点があるんだよね」
「ねぷっち、だからそんな手は…って、待て…まさか、ねぷっち……ッ!」
にやり、と言葉と共に笑うわたし。それを狂言だと思ったくろめは、諦めの悪いわたしに苛立つような声を漏らして…だけど、それからすぐに気付いたみたい。わたしの言う、方法が。わたしの、やろうとしている事が。
「あぁ?共通点って、そりゃ……」
「…待て…冷静になるんだ、ねぷっち。そんなのは、無謀にも程がある…!それ等とは違って、今ここにいるのはオレ達だけだ…なのに、そんなのは……」
そうして初めてくろめが見せた、焦りの顔。もしかするとこれは、わたしに逃げられるというより、わたしの身を案じての焦りなのかもしれない。もしそうなら嬉しいし…それでもやっぱり、ここで捕まる訳にはいかない。だから……
「…くろめ。わたしは何度だって言うよ。わたしは諦めないし…信じてる。限界は、超えられるんだって事を」
そう言って、わたしは跳ぶ。後ろに跳んで……そして、落ちる。
一瞬見えた、くろめがこっちに走り出そうとする姿。でもすぐに見えなくなり…落ちていく。下に、外に。
(心配させちゃってごめんね、くろめ。それに…こんな無茶、しちゃってごめん。だけど……)
心の中で呟く言葉。その前半は、くろめに向けて言ったもの。その後半は…今わたしが信じてる、ある人へと送った言葉。
落ちていく。どんどんどんどん、大陸の下へ。内側から空間の歪みに触れたら、どうなるかなんて分からない。無事で済む保証もない。
だけど、わたしは信じてる。信じられると、心から思ってる。だって……
「……ぇぇぇぇええええええッッ!!」
後ろで、下で感じた、なんて言ったらいいのか分からない程の気配。直後に聞こえた、強く、凛々しい一つの声。
ふわり、と受け止められたわたしの身体。わたしを受け止めてくれたのは、紫の髪と、青く澄んだ瞳をした、見るからに大人っぽい…だけど心から親近感を感じる女神。その人に受け止められて…わたしは、思った。
──あぁ、やっぱりだ。やっぱり本当に……凄いなぁ、女神のわたしって。
今回のパロディ解説
・精霊をデレさせて救う主人公さん
デート・ア・ライブの主人公、五河士道の事。原作の三巻、狂三とのやり取りの中でやった行動ですね。勿論ネプテューヌを助けたのは、味方である彼女ですが。
・人類の為に百年の旅をするアンドロイド
Vivy -Fluorite Eye's Song-の主人公、ヴィヴィ(ディーヴァ)の事。こちらは味方(相棒)が助けた訳なので、どちらかといえばこちらの方が近いかもですね。