超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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 今回のサブタイトルは、メガミラクルフォースにおけるあるイベントのタイトルと同じ(読み方は違いますが)ですが、全く関係はありません。ただ、敢えて同じにしている部分も…なくはないです。


第百四十七話 救世の女神(ネオ・メサイア)

 ねぷっちが、去っていく。今度こそと思っていた、浮遊大陸に引き込んだ時点で逃げられる事はないと思っていたねぷっちが……自ら落ちるという形で、俺の下から離れていく。

 そのねぷっちを受け止めたのは、受け止めてくれたのは、もう一人のねぷっち。まさかの方法で脱出したねぷっちを受け止めた瞬間、「きゃあっ!?な、なんて格好してるのよ!?」…なんて、全くご尤もな反応をし…そして、ねぷっちを連れて行った。この大陸の外へ、女神のねぷっち達の下へ。

 

「…すっげぇな、あいつ…ったく、ほんとに予測するのが馬鹿馬鹿しくなる程、いつもいつでもエキセントリックなんだからよ」

 

 小さくなっていく二人の姿をオレが見る中、クロワールがそう呟く。逃げられたのは、クロワールの責任でもあるというのに、一切それを悪びれる様子もなく。

 

「…随分と、楽しそうじゃないか」

「んぁ?…ま、考えもしない方法をこの短時間で二度も見せられた訳だからな。それに振り回されるんじゃ堪ったもんじゃねぇが…見てる分には面白いだろ?」

 

 そう言ってクロワールは軽く口角を上げる。それはまるで、他人事の様に。逃げられてしまった事に対して、どうでもいいと思っているかのように。

 

「……まさか、こういう光景を見たくてわざと奪われたんじゃないだろうな?」

「おいおい、あんなもん見せられたら誰だって呆気に取られるだろ。それに…味方を疑うなんて、ひでー奴だな」

「味方、ね…クロワール、君は自分の興味と愉悦の味方であって、誰かの味方じゃないんだろう?」

「ははっ、そりゃそうだ。オレはおもしれーもんが見れるなら、どっちの側にも付くつもりだからな。…だから、見せてくれるんだよなぁ?これよりももっと凄ぇ、次元の命運を左右する程のもんをよ」

 

 更に広角を上げ、口元を歪めるクロワール。…ああ、分かる。分かっている。この発言は、クロワールのスタンスは、格好付けでも何でもなく、クロワールの本心だと。ねぷっちとは違う、レイと同じ…いや、目的が漠然としている分レイ以上に信用ならない、厄介な存在なんだっていう事は。

 だが…そのつもりだ。クロワールに言われるまでもなく…オレの心は、行動は、決まっている。

 

「…あぁ、勿論だよ。もう気は満ちた、もう十分に理解した。だからこれが…最後の、審判だ」

 

 空へと背を向け、言葉を返し、オレは歩き出す。クロワールが付いてくるのを気配で感じながら、大陸内のレイへと連絡をかける。

 何故今、ねぷっちを呼んだのか。…それは、これからする事の前に、実行する前に、ねぷっちに戻ってきてもらいたかったから。取り返しが付かなくなる前に、ねぷっちの安全を確保したかったから。

 けれど…ねぷっちは選んだ。オレの敵となる事を。理解を拒む事を。…残念だけど、仕方がない。ねぷっちは良い友だったけど…結局、もう一人のねぷっち達と同じだったっていう事だ。…皆と、同じだったっていう事だ。

 

(限界は超えられる…そうだね、それは否定しないさ。けど…そんな『きっと』に頼らなくても良い、もっと完璧で盤石な次元をオレは作る。これこそが正しいんだよ。オレこそが、オレの選択こそが…ね)

 

 漸くここまで来た。入念に準備し、幾つもの障害を越え、そうしてここまで到達した。だから、後少しだ…後、少しで……オレの大望は、果たされる。

 

 

 

 

 空中で、浮遊大陸を視界に収められる位置で、ネプテューヌはずっと目を閉じていた。それは何かを感じようとしているようにも、何かを待っているようにも見える佇まいで…でもそれに、私は可能性を感じていた。ネプギアも多分、同じように思っていたんじゃないかと思う。

 そんな中、状況を各国の皆に連絡し、大きいネプテューヌの無事を願って私達が待つ中、不意にネプテューヌは目を開いた。何の前触れもなく…けれど何かを感じ取ったように、かっと両目を見開いた。

 そうしてネプテューヌはネクストフォームとなり、上昇。空間の歪みに触れる直前まで接近し、大太刀を大上段で構え…刃へ力を集中させる。

 

(ネプテューヌ…もしかして、本当に……)

 

 何も言わず掲げられた大太刀。そこに集まるシェアエナジーと、仄かに灯る黒紫の光。初めは弱く、ちらほら見える程度だった光は、次第に強くなっていき…感じる力もより強く、より深いものへと変わっていく。そして……

 

「これで…斬り開くッ!いっ…けぇえぇぇぇぇええええええッッ!!」

 

 収束した光が一層の輝きを放った次の瞬間、ネプテューヌは大太刀を振り抜く。気合いと共に振るわれた大太刀は、阻まれる事も、止まる事もなく歪みへと伸び……斬り裂く。如何なる攻撃も阻んできた壁を、歪んだ空間そのものを…たったの、一太刀で。

 

「……ッ!皆、何とかして維持してッ!すぐに、戻るからッ!」

「了か……え!?い、維持ってどうやって!?」

 

 言うが早いか斬り裂き開いた歪みの穴へと突入するネプテューヌ。反射的に応じた私だけど…維持する方法なんて、知る訳がない。だってそもそも、開いたネプテューヌの力だって、まだ解明し切れてる訳じゃないんだから。

 ただそれでも、やるしかない。斬り裂かれた瞬間は、目に見える程に歪んでいた空間だけど、すぐにまたこれまでの状態に…侵入を阻む壁になりつつあるんだから。そう思って私が穴の側まで接近すると…そこに落ちてきたのは、ネプテューヌの大太刀。

 

「まだそれには、わたしの力が籠っているわ!それと、シェアエナジーの力があれば、きっと…!」

「きっとって…あーもう、いつもネプテューヌはこうなんだから…!」

「情けない声を出すな。どう感じたのかは分からないが…彼女はネプテューヌ君を助けに行ったのだろう?ならばそのネプテューヌ君の為、全力を尽くす…ただ、それだけだろうに」

「その通りです、イリゼさん…!わたし達皆で、お姉ちゃん達が戻るまで持ち堪えましょう…!」

「…二人共……」

 

 そう言って私の両側に飛び込んできたのは、もう一人の私と、ビヨンドフォームとなったネプギアの二人。迷いのない、二人の凛とした声を聞いた私は…小さく息を吐いて、気持ちを切り替える。

 私に皆の様な力はない。ネプギアは何かアイディアがある様子で、M.P.B.Lに白紫の光を纏わせているけど、私に…それにもう一人の私に出来るのは、シェアエナジーの力を信じ、それを全力で引き出す事だけ。

 

「…合わせろ。理解は出来ずとも、感じる事は出来るな?」

「……!勿論…!」

 

 投げ掛けられたのは、もう一人の私からの言葉。優しくない、一方的な…けれどその裏に、私なら出来るという考えがある、もう一人の私からの意思表示。

 それが私への信頼なのか、それとももう一人の自分を名乗る以上はこの程度出来て当然だという一方的な考えなのかは分からない。でも、どっちだとしても…私には嬉しかった。どっちであっても、多少なりとも…それは私を、認めてくれてるって事だから。

 だから私は受け取った大太刀を両手で持ちながら、目を閉じ感じる。もう一人の私のしようとしている事を。もう一人の私の、シェアエナジーを。そして、上手く言葉には出来ない…だけど直感的に「分かる」その力へと、意識の全てを注ぎ込む。

 

(大きいネプテューヌはきっと、頑張ってきたんだ。だから、ここからは…私達が、頑張る番…!)

 

 神経を張り詰め、もう一人の私のサポートへと意識を集中。上手く出来るか、なんて考えない。出来るに決まってる、だってもう一人の私はそう考えているんだから。

 そうして何とか、私達は穴を維持していく。閉じようとする穴を、全力で維持して、二人が戻ってくるのを待って、そして……

 

「待たせたわね、皆!」

「お姉ちゃん!それに大きいお姉ちゃんも……って、えぇぇっ!?な、なんでそんな格好してるんですか!?」

 

 凛々しい声と共に、ネプテューヌが戻ってくる。もう一人の、ネプテューヌを抱いて。……何故かパーカーワンピを着ていない、あられもない姿のネプテューヌをお姫様抱っこして。

 

「う、そ、それは…こうするしか、なかったというか……」

「わ、わたしも見た瞬間はびっくりしたわよ…それよりイリゼ、お願いがあるの」

「え、な、何?」

「貴女の服、一旦おっきいわたしに貸してあげられない?」

「はい!?」

 

 彼女を安全な場所まで送り届けろ。そう言って警戒を続けるもう一人の私に頷いて、私達は降下を開始。その中で私達からの視線を受け、元々赤くなってた顔が更にかぁっと赤くなる大きいネプテューヌ。そしてその大きいネプテューヌを抱えたネプテューヌがわたしに言ったのは…これまた驚きの発言。

 

「わたしは勿論、ネプギアの服だっておっきいわたしが着るには流石にキツいでしょう?だから……」

「や、まあそれは分かるけども…うぅ…えぇい、仕方ない……!」

 

 それは分かる、理解出来る。でも替えの服なんて持っていない以上、服を貸す=私が上半身、又は上下両方半裸になるという事で、女神化し直せば一先ず何とかなるとはいえ、恥ずかしくない…訳がない。

 けど、恥ずかしいのは大きいネプテューヌも同じ事。しかも今近くには警戒中の軍の機体や艦もいる訳で、いつ大きいネプテューヌの姿が映ってしまってもおかしくない状況。僅かな間恥ずかしい私と、もっと長い間恥ずかしい上映像として残ってしまう可能性もある大きいネプテューヌ。だったら…私が選ぶべきは一つ。

 

「ぶ、ブラウスだけでもいい!?スカートも欲しい!?」

「あ、も、勿論ブラウスだけで良いよ!それだけでも十分嬉しいから!」

「分かった、なら……!」

 

 善は急げ、その考えで私は即座に女神化を解き、落下しながらブラウスを脱ぐ。何だか凄まじくアクロバティックな脱衣をしてる気がするけど、そんな事は頭の隅へと押しやり私はブラウスを大きいネプテューヌへ。渡すと同時に女神化し直し、宙で姿勢も立て直す。

 

「おっきいわたし、降ろすわよ?」

「あ、うん。…はふぅ、ちょっとだけ胸がキツいけど…これでやっと露出狂スタイルから脱せたよ……」

 

……ちょ、ちょっと胸がキツい…?…くっ…分かってはいたけど、やっぱり気持ち的にくるものが…今の姿なら負けてないと思うけど、思うけども…!……ごほん。

 

「は、はは…とにかく無事で何よりです。…いや、そんな格好になっちゃったって事は、何事も無かった訳じゃないと思いますが……」

「…ごめんね、皆。くろめとちゃんと話す事は出来たけど、空間の歪みの方は……」

「…それに関しては、気にする必要もなさそうよ」

「え?…あ……」

 

 申し訳なさそうに謝る大きいネプテューヌへ、ネプテューヌが首を横に振る。その言葉に、私も頷く。

 そう。大きいネプテューヌが気に病む必要はない。だって、理由は分からないけど…浮遊大陸を覆う空間の歪み、それが今…消えつつあるんだから。

 

「…もう一人の私。もしかして、これは……」

「いいや、私は何もしていない」

「…と、いう事は……」

 

 大きいネプテューヌに退避してもらい、私はネクスト、ビヨンドをそれぞれ一度解いた二人と改めて上昇。

 問い掛けに対し否定する、もう一人の私。表情を引き締めるネプギアの言葉に、私達は首肯する。もう一人の私が…私達側の誰かが空間の歪みを消し去った訳じゃないという事は、くろめ達側でこれを維持出来なくなったか、或いは…意図的に、解除をしたかという事。

 

「…ネプテューヌ、ネプギア、二人共大丈夫?」

「えぇ。確かにネクストフォームはこの姿より消耗が激しいけど…」

「あれ位でバテる程、柔な訓練はしてませんからね」

 

 一応、と思って聞いてみれば、返ってきたのはいつも通りの二人の反応。その答えに、私も無粋な質問をしたなと考え直しつつ…浮遊大陸を、見据える。

 

(そもそも、籠城したところで何かが変わる訳じゃない。つまり、もしこれが意図しない解除でないとするのなら……)

 

 心の中に広がるのは、これまでとは違う緊張感。大きいネプテューヌの無事を願う、心配混じりの緊張ではなく…状況が大きく動く可能性、それに対する緊張が広がり…だから一つ、深呼吸。まだ何も起きていない内から(いや、空間の歪みは解けつつあるけど)激しく緊張してたんじゃ、女神として格好が付かない。

 五分か、それとも十分か。光学シールドや魔力障壁が消えるのとは違う、少しずつ歪みが正され、空間が在るべき形に戻っていくようにして実体のない壁は消えていき……そして完全に元通りとなった数十秒後、幾つもの影が浮遊大陸から姿を現す。

 

「…漸く現れたか」

 

 初めにはっきりと見えたのは、巨体であるダークメガミの姿。しかもそれは一体や二体ではなく、十を超える数の部隊。

 そこに加えて、黒幕であるくろめとレイ、それに封印から脱したクロワールの姿も見えてくる。

 

「お姉ちゃん、これって……」

「そうね…ひょっとしたら、今ここで終わらせる気なのかもしれないわ」

 

 今現れたダークメガミの数は、これまでで最大。それだけでも向こうの力の入れ具合が分かるというものだけど…それだけのダークメガミと共にくろめ達が揃って現れたという事は、恐らくもう一切の出し惜しみをしないという事。確実に勝ち……ここまで続いてきた戦いの、決着を付けようとしてるって事。

 

「あっはぁ、久し振りねぇ白髪女神。誰彼構わず噛み付く狂犬だったのに、今は随分と飼い慣らされちゃってるじゃない。…後、シンプルに同じ顔が並んでると分かり辛いんですけど?」

「吠えるな害獣。これ以上女神の品位を貶めるな」

 

 私達よりも上空…こちらからすれば見上げる、向こうからすれば見下ろす位置で、ダークメガミを控えさせるようにしてくろめ達は立つ。展開しているダークメガミの中には、皆の言っていた気配の違う個体もいて…嘲笑うレイと冷徹な言葉を返すもう一人の私の、二人の視線が激突する。

 

「……くろめ…」

「こっちも少し振りだね。…それが君の…君達の答えか、ねぷっち」

 

 もう一つの混じり合う視線。それは、ネプテューヌとくろめのもの。ちらりと一度もう一人の私を見た、くろめの言葉にネプテューヌは頷く。それが、何を意味しているのかは分からないけど…何となく、感じはする。この二人の間にある感情は、もう一人の私とレイの間にある感情より、ずっと複雑なものだって事は。

 

(もう一人の私は、まあまずレイとの戦闘になる筈。ネクストフォームのネプテューヌやビヨンドフォームのネプギアなら、ダークメガミと一対一以上で戦える…けど、足りない…もう少しこっちに引き込めれば、軍の支援を受けられると言っても……)

「皆っ!」

 

 歯痒い。桁違いの力を持つもう一人の私や、新たな力を得て更に強くなった皆と違って、今の私にそれ程の強さはない。勿論、足手纏いになるつもりはないけど…あれだけの戦力を相手にしなきゃいけない中で、この差は重い。この差のせいで、出来ない事…守れないものが生まれてしまうのかもしれない。

 ならどうするか。もう一人の私なら、これだけの戦力相手でも勝てるかもしれない…なんていう他力本願じゃなく、ちゃんと私も一人の女神として勝つ事を考え…始めたその時、インカムからではなく直接の声が聞こえてくる。

 そちらに目を向ければ、そこにはこっちへと飛んできているノワールの姿。その後ろには、ユニも追随していて…二人は私達から少し離れた位置で止まると、くろめ達の方を向いて得物を構える。

 

「こっちに来る途中で、空間の歪みが消え始めたからまさかとは思ったけど……」

「いよいよ向こうも、本気なんですね…」

 

 まずこっちを見た後、二人がくろめ達へ鋭い視線を向けると、見返したくろめは薄く笑う。

 それからノワール達に続くように、ベールやブラン達も来てくれる。皆、大きいネプテューヌが想定外の形で引き込まれたと聞いて、こっちに来る事を判断してくれた。そして…その間、くろめ達は何もしなかった。

 

「随分とまた大所帯で…しかしその割に、攻めては来ないんですのね。その戦力は全て牽制で、目的は時間稼ぎなのかしら?」

「いいや、役者が揃うのを待っていただけだよ。この舞台は、半端なものにしたくなかったからね」

 

 そう言って、ダークメガミの肩に乗るくろめは見回す。レイもレイで、何やらにやついていて…ただ戦おうとしている訳じゃない。そんな気配を、向こうから感じる。

 

「出来損ない風情が、半端を語るか。貴様等の断罪など、私一人で十分だ」

「私一人で十分?ぷぷっ、イキって偉そうな事言ってるけど、それってフラグよねぇ。あ、むしろ言い訳?フラグのせいで負けたんですーって後で言い訳する為に言った訳?何よ、案外頭いいじゃなーい」

「まあまあ、煽るのはそれ位にしてくれないかなレイ。ここから普通に戦うのは、君自身望むところじゃないだろう?」

「え?私褒めてるんですけどー?」

 

 思わず私の方が言い返したくなる、腹立たしいレイの挑発。でも、もう一人の私はそれに怒りを見せるような事はしない。…と、いうより…その表情は、冷え切っていた。侮蔑の境地とでも言うべき表情をしていて、だから私も何も言わなかった。

 その一方、くろめはレイを制止する。制止しつつ…言った。発言の裏に、ただ戦う訳じゃないという意味が籠った言葉を。

 

「…さて、まずは君達に称賛を。ここまでよく持ち堪え、オレ達の策略を挫いてきたものだ。やっぱり君達は大したものだよ」

「はっ、そりゃどーも。散々荒らしてきた側に言われても、全然嬉しくないがな」

「まあ、だろうね。…とはいえ、それは君達だけの力ではない。いや…女神の力は、信仰者の思いに左右される。そしてそれは言い換えれば、今の時代を生きる人々の成果でもある訳だ。現に、各国の社会はかなり復活している。これもやはり、大したものだとオレは思う」

 

 大したものだ、とくろめは言う。思い返せば、くろめの私達を評価するような発言はこれまでにも何度かあり…だけど、いい加減分かってくる。それが単なる「凄い」と言う気持ちではなく…上から目線の言葉である事は。

 

「オレは嬉しいよ。今の信次元が、そんな世界である事が。…だけど、同時に悲しくもある。どれだけ時が進もうと、時代が変わろうと、女神が何度も命を賭けなければ守れないような次元である事が」

「悲しい?…こうして信次元を危機に陥れている最中の者が、何を偉そうに」

「はは、確かにそれもそうだね。だが、こうしてオレ達が危機に陥れる前も、犯罪神という脅威に晒されてきただろう?これが最後の脅威だという保証もないだろう?だからこそ、信次元には……」

「あー、はいはい。そういうのいいから。自分に酔ってる姿を眺めるのも悪くないと思ったけど、長くなるなら要りませーん」

 

 そうだね、と私の言葉を肯定しつつも、くろめは一方的に話を進める。危機に陥れておきながら、信次元を憂うような言葉を続ける。

 だけどそれは、漸くくろめの「目的」が発されようとした寸前に、レイによって遮られる。しっしっ、と追っ払うような手の動きをくろめに向けてやった後…ぐにゃりと表情を歪め、心底性格の悪い笑みを浮かべる。

 

「こいつはご大層な事考えてるみたいだけど、私にとってはどうでも良いのよ。こいつも、あんた達の『人と国を守りたいんです〜』なんていう馬鹿の一つ覚えみたいな思考も、全部全部どうでも良い。だって…私がぶっ潰しちゃえば、みーんな等しくゴミ屑になるんだから」

「ふーんだ!そんなこと言う人に、わたしたちは負けたりしないもんね!」

「負けない、から…!」

「キンキン声は耳に響くから黙っててもらえますぅ?…けどま、いい加減見せてやろうじゃない。まともに戦っても分からない程のお馬鹿さん達に、格の違いってやつをねぇッ!」

 

 高度関係無しに、これ以上ない位にこちらを見下してくるキセイジョウ・レイ。そして格の違いという言葉と共に、レイは空へと右手を挙げる。天へ、右手を掲げる。

 攻撃か、それともモンスターか何かの召喚か。そう思い、何が起きてもいいよう身構える私達。…だけど、すぐに分かる。レイが、レイ達がこれからしようとしている事は…それ等を遥かに超える行為だって。

 

『な……ッ!?』

 

 次の瞬間、レイ達から…いや、浮遊大陸から感じる膨大な力。想像を絶する程の、それこそあの大陸が出現した時を思わせるような力の奔流を肌で感じ…私達が絶句する中、空間が歪む。浮遊大陸より立ち昇る力、シェアエナジーが大陸の上空に集まっていき、先程までの壁よりも強く空間が歪んでいく。

 

(まさか…あれだけのシェアエナジーを、攻撃に……いや、違う…!あれは……!)

 

 収束する闇色の光。その一帯が作り変えられていくかのように、渦を巻きながら歪む空間。そのあまりにも異様な、目を奪われてしまう程の光景は更に濃く、深く変わっていき……私は直感的に理解する。あそこには…何かが、現れると。

 止める事も考えた。だけどあんまりにも異質過ぎて、逆に危険だとすら思えてしまう。半端な状態で止めるのは、より危険なんじゃないかと思考が告げる。実際のところ、どうなのかは分からない。でも、結論から言えば…私達は、誰もここから動かなかった。

 そして、現れる。そして、現出する。歪みが濃縮され、シェアエナジーが一点に集まり、一瞬時が止まったように全てが停止し……次の瞬間、爆ぜるように光が拡大。一気に形を、質量を持ち…『それ』が、その空間で実体となる。

 

「…ふ、ふふ…あははははははははははッ!あぁ、そう、これよこれぇ!忌々しい、ゴミ共を思い出すようなタリじゃない、私の、私の為の城…これこそが私に相応しいってものよ!あははははははッ!」

 

──城。確かにそれは、巨大な城だった。負のシェアエナジーによって形作られた、天に浮かぶ闇の城。

 それを見て、レイは笑う。いっそ無邪気さを感じさせる程に、嬉しそうに、声を上げて。

 

「……っ…何よ、あれ…」

「あんな…あんなものを、造るなんて……」

 

 そのレイとは対照的に、ユニとネプギアが上げたのは茫然とした声。…だけど、それも当然の事。声に出さなかっただけで…抱く気持ちは、私も同じ。

 シェアエナジーそのもので、何かを作る。それ自体は、私達も行っている事。…だけど、規模が違う。確かに私達が普段の行うようなものとは、格が違う。浮遊大陸よりは小さいとはいえ、それでも信次元中の凡ゆる建物よりも遥かに巨大な建造物を、負のシェアで…それも濃密なシェアエナジーで造り上げるなんて、最早正気の沙汰じゃない。

 

「は、はは…確かにこれは、圧巻だ…自分もその一端を担っているとはいえ…ぞくりとするね…」

「全くだな。今更だけどよ、やっぱお前等二人共、色んな意味でやべーよ」

 

 私達やレイだけでなく、くろめやクロワールも城を見上げる。どうやらレイ一人の力で生み出した訳じゃないらしいとはいえ、二人もまた負のシェアの城が放つ形容し難い圧迫感に思うところがある様子で…そこまで来て、私は我に返る。幾らあれが想像を絶するものだとしても、いつまでも茫然としている訳にはいかない。

 城を現出させて終わり…な筈がない。ここから更に何かをする筈。そう思って私は声を上げようとし…だけどそれより一瞬早く、もう一人の私が前に出る。

 

「…そうだな、確かにこれには驚いた。出来損ない風情には過ぎたものだが…これだけのものを形とするだけの力がある事は、認めよう。…だが、それがどうした。この私が、たったこの程度で恐れ慄くとでも思ったか」

 

 凛とした、落ち着き払ったもう一人の私の…原初の女神の声。…こんな事を口にしたら、きっともう一人の私は情けない、って言うだろうけど…この声を聞くだけで、私も落ち着きを取り戻せる。強さ関係なく…私を生み出してくれた、もう一人の私の声だからこそ、私の心には安心が広がる。

…でも、それだけじゃ駄目。もう一人の私がどう思うか関係なしに…一人の女神である私が、ただ安心しているだけで良い訳がない。

 

「…もう一人の私。拠点なら既に、浮遊大陸で十分だった筈。にも関わらず、新たにあんなものを作ったという事は……」

「ああ、分かっている。…備えよ。奴等に負けるなど微塵も思わないが…我等女神にとっては、人を守り抜ける事こそが勝利。それが叶わぬのなら、幾ら勝とうが意味はない」

 

 こちらには向かず、背中越しに言うもう一人の私の言葉へ、私達は頷きを返す。そう、私達女神は守護者。守護者の務めは、勝つ事じゃなくて…守る事。

 

「たったこの程度ぉ?そう思うならあんたもやってみなさいよ。ほら3、2、1、ぜろー。あれあれぇ?出来ないんですぅ?この程度って言ったのに出来ないんですかぁ?」

「…………」

「…なーんて、そりゃ出来る訳ないわよね。むしろそんな簡単にやられたら、もうそんなのギャグよギャグ。…そんな事よりぃ…私、思うんですよねぇ。こんな立派な新居が出来たんだから、古臭い過去の遺物なんて、捨てるに限るわよね…って」

「大陸を捨てる?また意味の分からねぇ事を…って、待てよ…まさか、てめぇ……」

「あ、分かります?分かっちゃいますぅ?そうよねぇ、捨てる時はしっかり感謝を込めて…なんて阿呆らしい事なんてせず、用済みだって分からせる為にぶっ壊す方が気持ち良いものねぇ」

 

 ころころと表情を変えながら言うレイの発言を、ばっさり切り捨てようとしたブラン。だけど言い切る直前、ブランははっとしたような表情となり…そのブランの気付きを肯定するように、レイは続ける。これからする事が、楽しみで楽しみで仕方ないとばかりの声を出して。

 

「だ・か・らぁ…今からこれ、落としまーす☆」

「んな……っ!?落とすって…大陸を、墜落させるっていう訳!?」

「じょ、冗談ではありませんわ!そんな事をすれば、四大陸がどうなるか……!」

「…あぁ、そうだね。一瞬にして、全てが滅ぶ」

 

 あまりにも簡単に、あまりにもふざけた声で、レイは言う。浮遊大陸を、落とすと。この下に、四大陸に。

 言い返したノワールとベールには、くろめが返す。レイとは対照的に…どこか、「ここまで来てしまったのか…」と遠くを見つめるような目で。

 勿論、浮遊大陸と一つになった四大陸なら、四大陸の方が何倍も大きい。だけど、大陸そのものが落ちたとすれば、被害が落ちた地点や周辺で済む訳がない。余波が、余波というには激し過ぎる衝撃が四大陸全土に及び…くろめが言った通り、落ちたその瞬間に四大陸の滅亡が決まってしまう。

 

「ふぇぇ…っ!?ど、どうして…どうして、そんなことするの…!?」

「そ、そーよ!メツボーさせることが、あんたたちのやりたいことなの!?」

「いいや、違うよ。だけど、これも…必要な事だ」

「はっ、なーに格好付けてんのよ。違う?必要な事?…どんな取り繕いをしたって、これからするのは最低で最悪な虐殺、何も残らない全ての破壊…そうでしょ?」

 

 信じられないとばかりに声を上げるロムちゃんとラムちゃんの言葉にも、物憂げな表情でくろめは答える…けど、その態度をレイが否定。ふっと冷静な顔になり、認めたくはないけど『女神』である事を思わせる声音でくろめへと言い…すぐにまた、嗤う。表情には嘲笑を、瞳には悪意を籠らせて。

 

「……止められるのなら、止めてみるがいいさ。だって、そうだろう?君達は皆、女神なんだから。女神というのは…そういう、ものなんだから」

「ああ、ああ、ずっと楽しみにしていたのよ!この日を、この瞬間を、こういう形で次元を滅ぼすのを!そうよ、間違っていたのは女神なんていう存在そのもの、女神が統治する世界そのもの!だから私が滅ぼしてあげるのよ、この次元も、他の次元も、全てッ!だから……愚かな次元に、最後の手向けを。さぁ…落ちろタリッ!忌まわしき記憶と共にぃぃぃぃいいいいいいッ!!」

 

 切望にも似た悪意で瞳を輝かせ、レイは叫ぶ。脈絡のない言葉を、理解し難い絶叫を。そして……浮遊大陸は、動き出す。その巨大さ故にゆっくりと……だけど確かに、落ち始める。

 

「……っ!皆、とにかくまずは軍を下がらせて!どっちにしろ落ちたとしたら焼け石に水だったとしても、何もしない理由にはならないんだから…ッ!」

 

 もしもこのまま浮遊大陸が落ちたら。…その時の光景が頭に浮かんだ私は、皆へと言う。言いながら考える。落ちてくる浮遊大陸を一体どうするべきか、何が出来るかを。

 慌てる訳にはいかない。だけどこれを前に、平常心を保てる訳がない。だから私の声には、その感情が浮かんでしまって…だけど、ネプテューヌ達四人は違った。インカムで、それぞれ軍に引くよう連絡をかけて…それから、四人で向かい合う。

 

「…皆……?」

「…これ、避難して何とかなると思う?」

「まさか。…残念だけど、落ちたら終わりよ。天界や四大陸の外の浮き島に避難するとしても…殆どの人は、間に合わない」

「ですわね。当然、完全に消滅させる事や、被害が最小限に済むまで破壊する事も困難。少なくとも、落ちるまでに間に合う訳がありませんわ」

「普通に考えりゃ、詰んでるな。普通だったら、もうどうしようもねぇ」

 

 四人は静かに言葉を交わす。今この状況を分析し…答えを出す。無理だという、結論を。どうにもならないという、最悪の答えを。

 それは、正しい結論。まともに考えて、まともに出せる答えで、どうにか四大陸を…皆を守る手段なんてどこにもない。……だけど、

 

『…だけど』

「えぇ。無理?不可能?そんなの、知った事じゃないわ。そんなの、諦める理由にはならないわ。出来ないなら、その現実を超えればいい。わたし達の思いを、女神の在り方を、貫けばいい。あの時みたいに、あの時証明したみたいに。そうよ──たかが大陸一つ、押し返してやろうじゃないッ!パープルハートは…守護女神は、伊達じゃないわッ!」

 

 ネプテューヌは、宣言する。断言する。そんな事は知らないと。無理ならばそれを超え、国を…皆を守ると。それが、女神であると。

 凛々しく言い放ったその言葉に、ノワール達もはっきりと頷く。ノワール、ベール、ブランが頷き…そこに、声が続く。

 

「だよね…そうだよね、お姉ちゃん!ユニちゃん、ロムちゃん、ラムちゃん…わたし達もやろう!わたし達に出来る事を…四大陸に住む人達、皆を守る事を!」

「当たり前じゃない!お姉ちゃん、皆さん、アタシ達も全力を尽くします!」

「守りたいのは、わたしたちも同じだから…!」

「うん!ぜったいに守ろうね、ロムちゃん!ぜったいに…皆で守るんだから!」

「…そう、そうだ…その通りだ、我が親愛なる女神達よ!女神に限界などない、女神に不可能などない!この思いに、届かぬ先などある筈がない!故に、私も翼を重ねよう!この次元を、この次元に住む人々を愛する、女神として!」

 

 強く、頼もしく、未熟だなんて誰にも言わせないような、ネプギア達女神候補生の言葉。八人の、皆の言葉を側で聞いて…私もまた、頷く。言葉を、思いを重ね、落ちゆく浮遊大陸を見据える。

 ああ全く、何を慌てる事があるのか。確かに窮地も窮地。失敗すれば、四つの国も、四大陸に住む人々も、全てが終わってしまう。だがそれは、失敗した場合の事。押し返してしまえば、このまま落ちる事を回避してしまえば、何一つとして取り零されない。

 そうだ、出来るかどうかじゃない。そこを考える必要はない。だってここにいるのは、こんなにも強い心の光を持つ女神達なんだから。出来るに決まっているんだから。だから……

 

「ふっ…よく言った、今の世を守る女神達よ!その通りだ、貴君等の言う事は正しく…それこそが、女神の在るべき姿だ!」

 

 その時発された、心に響く声。天にも響くその声は、私達の前に立つもう一人の私のもので…もう一人の私は、振り返る。振り返って…笑う。嬉しそうに、満足そうに。

 それから私達をゆっくりと見回したもう一人の私は、さっきの私達と同じように頷く。頷いて、再び私達に背を向け、浮遊大陸へ向き直り…進む。

 

「…もう一人の、私……?」

「…だがあれは、奴等は、今の世に…この信次元に本来在るべきものではない。故に…この場は、私に任せてもらおう。同じく今の世に、本来在る筈のない…今の世には、相応しくないこの私に」

「……っ!?…もう一人の私…まさか……ッ!」

 

 静かに、でも信念を感じる声を聞いて…そんな声だからこそ、私は不安になる。上手く言葉に出来ない不安が心の中に広がって、胸の中が激しくざわつく。

 また、その感情が籠ってしまった私の声音。だけど次に聞こえたのは…くすりとした笑い。

 

「うん?…勘違いするな、私は私自身を犠牲にするつもりなどない。無論、人の為なら私の存在など、幾らでも犠牲に出来るが…まだ私が守るべき、私を必要としてくれる人々がいる。故に、私が潰える事などない。そして…舐めないでもらおうか。あのような出来損ない共の策略で私が終わるなど……ある筈がないだろう?」

「……っ!」

「…よく見ておけ、今の世を守る女神達…それに、もう一人の私よ。今より見せるのは、今より顕現するは、女神の原点にして真髄。今これより、輝くのは……」

 

 私が、皆が見つめる中、もう一人の私の身体はシェアエナジーの…優しく温かい光に包まれていく。プロセッサユニットが光となって解け、翼が元のシェアエナジーの形へ戻り…光の帯が、幻想的なシェアエナジーのヴェールがその身を包む。

 女神であって、女神でない。そんな姿に、そんな在り方になったもう一人の私。そして……

 

「────混沌の闇を払いし、輝ける調和の光だ

 

──そして、この場に……信次元に、真なる神が降臨する。




今回のパロディ解説

・「〜〜一瞬にして、全てが滅ぶ」
ヴァンガードシリーズにおけるユニットの一つ、終末根絶者(デリバラートデリーター) アヲダヰヱンのフレーバーテキストのパロディ。クランブースターパロその一です。

・「〜〜愚かな次元に、最後の手向けを〜〜」
ヴァンガードシリーズにおけるユニットの一つ、滅星輝兵(デススターベイダー) カオスブレイカー・デリュージのフレーバーテキストのパロディ。クラブパロその二です。

・「〜〜落ちろタリ〜〜いいッ!!」
機動戦士ガンダム 逆襲のシャアに登場するキャラの一人、シャア・アズナブルの名台詞の一つのパロディ。アクシズショックならぬ、これぞ本当のタリ・ショックですね。

・「〜〜たかが大陸一つ〜〜伊達じゃないわッ!」
こちらも機動戦士ガンダム 逆襲のシャアの主人公、アムロ・レイの名台詞の一つのパロディ。今回の話のパロディは、どれもずっと前から考えていたものなのです。

・「────混沌の闇を払いし、輝ける調和の光だ
ヴァンガードシリーズにおけるユニットの一つ、創世竜 ハーモニクス・ネオ・メサイアのフレーバーテキストの一つのパロディ。クランブースターパロその三…満足です!
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