超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第九話 激戦・イリゼVSグレイブ

 片や流れるように宙を舞い、片や力強く地を駆け、機敏に激突を繰り返す。ぶつかり、離れ、技を放ち、攻撃を避け、何度も何度もせめぎ合う。

 緊張が走り、心湧き立つ、鮮烈な戦い。それを繰り広げるのは……私達がそれぞれ信じる、二匹のポケモン。

 

「獄炎、アームハンマー!」

「るーちゃん、コットンガード!」

 

 跳び上がった獄炎が振り下ろす、鉄槌の如き一撃。それをるーちゃんは厚みのある綿で自らを包み込む事によって受け止め、更に力の流れに身を任せる事でダメージを完全にゼロにする。

 バトルが始まって十分弱。まだどちらも体力に余裕があり、大きなダメージも受けておらず…激しい戦闘が続いている。

 

「やっぱり反応が良いな、流石女神ッ!」

「そっちこそ、タイミングが的確だね…ッ!」

 

 ぶつかり合っているのは、るーちゃんと獄炎。だけどこれは、二匹だけの戦いじゃない。二匹の激突であると同時に、私とグレイブ君の激突でもある。

 トレーナーの務めは、戦況を逐一判断し、バトルを優位に進められるよう指示を出し、頑張ってくれているポケモンを励ます事。それはトレーナーと呼べるかどうか微妙な私でも同じ事で…ポケモンの真の実力は、トレーナー次第でどれだけ発揮出来るかが決まると言っても過言じゃない。……らしい。

 

(スピードと、遠距離での攻撃能力ならこっちが有利。パワーと、近距離での攻撃能力だったら向こうが有利。ポケモンバトルの経験は、比べるのも馬鹿らしくなる程グレイブ君が上で…だけど戦闘経験そのものは、私だって負けてない…ッ!)

 

 フィールドを広く使い、獄炎に背を向けないよう後ろ向きに飛ぶるーちゃんを追い、獄炎は素早いステップの連続で肉薄を仕掛ける。遠距離なら有利になるるーちゃんに距離を開けるよう言わないのは、ただ遠くから攻撃するだけじゃ全て凌がれてしまうから。ポケモンバトルの経験じゃ何をやったって向こうに勝てない以上、何の捻りもない戦い方で有効打を与えられる訳がない。

 だけど、代わりに私には女神としての経験がある。私自身の戦闘経験も、戦った戦術眼も、常人にはない反射神経や何度も私の命を救ってきた直感だって備えている。だからこの勝負…それをどれだけ活かせるかが、勝敗に直結する…ッ!

 

「るーちゃんエアカッター!続けて竜の波動!短く切って連続でお願い!」

「ち、ちるっ!ちるちるぅ…!」

「大丈夫、当たらなくても良いから続けてッ!」

「つまり、何か企んでるって訳か…いいぜ、付き合ってやろうじゃねぇか!獄炎、竜の波動は元々そんなに連射が効く技じゃねぇ。落ち着いて動けば躱せるぞ!」

「ルオォォッ!」

 

 距離を離さず次々と放つ竜の波動を、反復横跳びの如く巧みに避ける獄炎。グレイブ君の指示通り、何とか連射の形にしているだけの竜の波動じゃ、獄炎の対応力を超えられない。

 でも、それで良い。狙いは竜の波動回避に集中させる事、そしてしっかりと回避させ、『十分対応出来てる』と思わせる事なんだから。

 

「……!今だよるーちゃん、横回転して右脚で蹴って!」

「ち、ちるっ!?……ちるぅううぅッ!」

「こっちが本命だったか…けどなイリゼ、この距離じゃ避けるまでも……」

「いいや、当たるよッ!」

『……ッ!』

 

 連続攻撃しながら少しずつ少しずつ距離を詰め、ここだと思ったところで私はるーちゃんに回し蹴りの指示。実際回し蹴りって技がポケモンにはあるらしいけど、勿論これは技じゃない。

 迫るるーちゃんの蹴りに対し、グレイブ君は回避の指示を獄炎に出さない。獄炎も、口元に小さく笑みを浮かべてる。多分両方、遠隔攻撃を連射していたところで不意打ちの様に蹴りを入れる事が目的だと、でも当たるには距離が足りないと、そう思っているんだろう。だけど、それは間違いだ。確かにこの距離じゃ蹴りは当たらないけど……攻撃は、当たる。

 

「尾羽…!?くっ、だから回し蹴りを……いや待て、それにしては…獄炎、防御だ!」

「ブ…ルフゥッ!」

「……!るーちゃん上昇!出来るなら竜の波動を叩き付けてッ!(対応が早い…!ここで二周目の回し蹴りを入れるつもりだったのに…!)」

 

 回し蹴りが空振った次の瞬間、獄炎の頬を打ち付けたのはるーちゃんの尾羽。脚より長い尾羽が、遠心力によって獄炎を叩き…けれど私の真の狙いを悟られた事で有効打を望めなくなり、私は離脱へ切り替えた。

 一応当たったとはいえ、二週目の回し蹴り、そして更なる攻撃への布石が目的だった尾羽の一発は、殆どダメージになっていない。結果だけなら私の方が成果を上げられているけど…その為に費やした過程には全くもって見合ってない。

 

(…でも、一度思い込みを崩す事には成功した。女神ですら陥る思考の罠、君はどこまで躱せるかな?)

 

 割りに合わない結果に終わったのは残念。だけど所詮作戦の一つ、戦闘の一場面で上手くいかなかったというだけの事。作戦の、場面の積み重ねこそが勝敗という結果をもたらすもので…さて、次はどんな策を仕掛けようか。

 

「今度はこっちに付き合ってもらうぜ…!獄炎、ニトロチャージ!」

「フッ…ブォオオッ!」

「……!今の助走…やっぱり、ニトロチャージは……!」

「そういうこったッ!」

 

 元々配置されている石像に加え、風化や老朽化によってこの祭壇場には幾つもの障害物や穴が出来ている。その内の一つに駆け上がり、獄炎は宙のるーちゃんへ急接近。直前の助走は、バトル開始直後より明らかに早く…私は確信した。ニトロチャージという技は、使う度に使い手の速度を上げるんだと。

 この勢いは、攻撃を当てても止まらない。そう判断した私はるーちゃんに急降下を指示し、すれすれまで降下した事により舞い上がる砂煙。それでるーちゃんの身体を隠し…そこからるーちゃんはエアカッターを放つ。

 

「っと、当たらねぇよッ!獄炎、火炎放射!着地と同時にニトロチャージだ!」

 

 その名の通りの火炎で迎撃に穴を開けた獄炎は、着地と同時に再度突進。迎え撃つるーちゃんの竜の波動を減速無しの斜めステップで避け、地を踏み締めてからの飛び膝蹴り(獄炎は覚えてないらしいけど、飛び膝蹴りって技もあるんだとか)がるーちゃんへ迫る。

 そこで私はコットンガードでの防御を選び、今度はるーちゃんに後転をするよう言う。すると当然勢いは後ろに流れ、その勢いを利用する事で即座の綿毛パージに成功。身体が半ば綿に刺さってる獄炎は間違いなく周囲が見えておらず、そこを狙って攻撃……

 

「獄炎!俺が言うタイミングで足を突き出せ!……今だッ!」

「そう来たか…!それならるーちゃん、ここは引き付けて……」

 

 回りながら飛んでいく獄炎の先にあるのは障害物。このままならそれに激突し、大きな隙が生まれる。そう思った私だけど、グレイブ君が獄炎の目の代わりとなる事で激突を回避し、炎で綿を焼き払う。

 寸分の狂いなくタイミングを見極める力と、双方の信頼がなければ成功しなかった連携。それによって持ち直した獄炎に対し私はカウンターを選び、障害物を蹴って再加速した獄炎は真っ直ぐに突っ込む。

 

「見せてやるよイリゼ!いくぞ獄炎…大地、創造ッ!」

「ォォオオオオオオッ!」

「……──ッ!るーちゃん、飛んでッ!早くッ!」

「ち、ちるっ!?」

 

 自信満々に口角を上げたグレイブ君の声に応じ、両脚を地へと突き立てた獄炎は雄叫びと共に右腕を地面へ叩き付ける。

 一見それは、ただ拳を叩き付けただけ。けどその位置はるーちゃんより明らかに前で…次の瞬間、本能的に感じたのは危機。その理由を考えるよりも早く、私はるーちゃんへ逃げるように叫び、るーちゃんが戸惑いながらも翼を下へとはためかせた次の瞬間……地響きが轟き、るーちゃんの真下から巨大な岩の槍が突き上がる。

 

「ちるぅうぅぅぅぅッ!!」

「るーちゃんッ!るーちゃん大丈夫!?」

「ちっ……ちるぅううッ!」

「良かった…ならッ!」

 

 強力無比な大地の大槍に襲われ、跳ね飛ばされるるーちゃん。周囲にはるーちゃんの甲高い鳴き声が響き…けれどるーちゃんは私の声に応え、宙返りをして立て直す。

 どうやらギリギリ上昇が間に合ったおかげで、ある程度ダメージを逃がす事が出来た様子。このダメージは無視出来ないレベルだけど…見方を変えれば、私達は今やられる事なく向こうの大技を確認する事が出来た。そして、グレイブ君と獄炎の長所短所、戦いの傾向等も、大体見えてきた。だから、ここからが…真の勝負。

 

 

 

 

 地下で見たるーちゃんの戦闘と、ここまでのイリゼの言動を考えれば、このコンビとのバトルは一筋縄じゃいかない。戦う前からそれは分かっていて…実際それは正しかった。俺の思った以上だった。

 とっておきの隠し球、大地創造を初見から軽傷で凌がれた事が、何よりの証拠。そう、イリゼとるーちゃんは……強い。

 

(獄炎自身が直接出す訳じゃない分、察しが良い相手や飛べるポケモンには、避けるだけの時間があるって事か…技の練習だけじゃ、気付けなかった欠点だなこりゃ……)

 

 立て直し後すぐに反撃へ転じてくるるーちゃんへ対し、俺は獄炎に回避を指示。同時に今の失敗について、少し考える。

 大地創造は、元々俺が独自に編み出した技。ホウエン地方の伝説のポケモン、グラードンの使う『断劾の剣』を参考にした、()()()()の技。威力は十分にあるし、飛んでいても低空なら当てられる位のリーチがあるが…今のままじゃ、当たらない。当てる為の、当たる状況を作り上げなきゃ…きっとまた避けられる。それも今度は、完璧に。

 

「(…けど、それもバトルの醍醐味だよな…!)獄炎、そこの石像にアームハンマー!んでもって、そいつを投げ付けろッ!」

「うん?グレイブ君、そんな軌道じゃ当たらない…って、事は……ッ!」

「最初から狙いはそこじゃないって事さ!獄炎、シュート!」

 

 ここだというタイミングで俺は投擲を指示し、獄炎は鋭くアンダースロー。その手の中に潜ませていたのは、今投げ飛ばした石像の欠片で…破片が直撃した石像は、空で四散。それがるーちゃんへ襲い掛かり、その隙に俺は獄炎に砂煙を巻き起こさせる。

 

「あれをやるぞ、獄炎」

「……!グオゥっ!」

 

 「あれ」の一単語で俺の言いたい事を理解してくれた獄炎は、砂煙の中で「あれ」を開始。獄炎が起こす力強い足音で俺は進行具合を正確に読み……獄炎が何かしてくるんだろうと高い位置で警戒しているるーちゃんを見据えて、俺は言葉と共に腕を振り抜く。

 

「さぁ…飛べッ、獄炎ッ!」

「なぁ……ッ!?」

 

 俺がそう言った次の瞬間、砂煙から飛び出した獄炎はさっきと同じ手段で跳躍。

 その瞬間、砕ける障害物。そして砕けた破片が地面へ落ちるよりも早く…獄炎は、滞空するるーちゃんの眼前へ迫る。

 

「グゥゥルォオオォッ!」

「ちるぅうう……ッ!」

 

 突き出された拳には反応するので手一杯だったようで、るーちゃんはコットンガードを展開せず、腕を交差させるように翼で防御。そのるーちゃんを殴った勢いで叩き落とし、自由落下で獄炎は追う。

 

「くっ…るーちゃん、無理に上がらず一度距離を……」

「いいや、そうはさせねぇよ!」

 

 落下したるーちゃんを踏み付けようとする獄炎と、横に転がり避けるるーちゃん。イリゼからの指示でるーちゃんは離れようとするが…獄炎はそれを許さない。

 再び一気に距離を詰め、胴に向けて右ストレート。今度はコットンガードで防がれるが、即座にるーちゃんの背後に回り、その勢いのまま素早く横蹴り。前後からの打撃で綿が散る中一度獄炎は後ろに跳び、助走するだけの距離を作って再度突進。

 

「この速さ…これもニトロチャージなの…!?でも、それにしたって……」

「速過ぎる、か?…そう、これはニトロチャージだ。けど本来、ニトロチャージは使う度、一段階ずつギアを上げるみたいに加速する技。けど、動かないまま足踏みで何度も何度もチャージを重ねて、熱エネルギーを溜め続ける事で……加速能力は一気に跳ね上がって、限界を超える。…ニトロフルチャージ、これもそうそう使わない切り札の一つなんだぜ?」

 

 防御するので精一杯なるーちゃんを、一撃離脱の突撃で一方的に攻め立てる。ぱっと見ちょっと可哀想な光景でもあるが…容赦はしない。容赦して勝てるような相手じゃないんだから。

 ニトロフルチャージ。これも俺のオリジナル技。オリジナルっていうか、応用技だが…今言った通り、普段はまず使わない。使わなくても勝てる場合が殆どだからな。

 

「警戒して動かなかった間に、そのチャージを終えたって訳ね…。まさか、某麦わら帽子の海賊みたいな事をしてくるなんて……」

「発動する為にやった事は、どっちかっつーと敵サイドの体技風だけどな。で…どうする?イリゼ」

「……っ…るーちゃん、コットンガード!コットンガード!コットンガードっ!今はとにかく、耐えて…ッ!」

「ちっ、るっ…るぅぅ……!」

 

 歯噛みするような沈黙の末、イリゼが選ぶのは防御の連続。それは、その場凌ぎの選択で……けれど実は、あまり間違った選択じゃない。

 綿でも今の獄炎の突進が生み出す衝撃は消し切れず、何度も揺れるるーちゃんの身体。直撃はしていないとしても、着実にダメージは入っている。それに流れも、今は完全に俺のもので…けれどある時、俺は獄炎に制止をかける。

 

「…そろそろ限界、か…獄炎、ストップだ!」

「フッ、ルゥ……!」

「…限界…?……何のつもり、グレイブ君…」

「おっと、勘違いするなよイリゼ。限界ってのは、獄炎の事だ。…言ったろ?これは、限界を超える技だって」

 

 眼鏡を中指で軽く上げながら、俺は「限界」に対する誤解を訂正。制止を受けた獄炎は突撃を止め、ペースを戻すようにして少しずつ速度を落とす。

 圧倒的な、それこそ高機動戦が得意なポケモン相手でも速度で互角以上に立ち回れるようになるニトロフルチャージだが、幾つか弱点も存在する。まずはチャージに時間がかかる…つまりいつでもすぐ使える訳じゃないって事で、二つ目は獄炎も速度の制御で手一杯になる関係から、使用中はほぼ別の技を使えないって事。そして三つ目が…今言った通り、獄炎にかかる負荷。無理矢理普通は出せない速度を出してるんだから、獄炎を苦しませない為にもそう長い間は使っていられない。後はまぁ、その負荷があるから獄炎みたいながっしりしたポケモンじゃなきゃ使わせられないってのも、獄炎には関係ないが一応弱点。

 

「ちるぅ…ちるぅっ……」

「フー…ォォォ……」

 

 息が上がり、厳しそうな表情を浮かべているるーちゃんからは、負ったダメージが見て取れる。獄炎も疲労は溜まってるだろうが…こっちは落ち着いて息を整えるだけの余裕がまだある。

 十分体力を削る事は出来た。イリゼの事だから、まだ何か策があってもおかしくないが、そうはさせない。何かをされる前に、勝負を決める。

 

「(けどその前に、もう一押ししておくか…!)獄炎、突撃…と、見せかけてジャンプからの火炎放射!」

「……っ!るーちゃん、後ろに避けつつ羽ばたいて!」

「また砂煙を上げるつもりか…けど、そうはいくかよ!」

 

 互いに砂煙を利用した戦法を咄嗟に思い付けるのは認識済み。加えて今のるーちゃんに力技で獄炎を押し返すだけの余裕はないと考え、俺は火炎放射で砂煙を薙ぎ払う事を選択。発生した砂煙を即座に火炎放射が吹き飛ばしていき……るーちゃんの姿が見えたと思った次の瞬間、るーちゃんも竜の波動を放射。

 赤い火炎と紫の光芒が激突し、周囲に広がる激しい光。あっという間にその光は直視するのも難しいレベルにまで強くなり…激突場所を基点にして、周囲に爆発を巻き起こす。

 

「……っ…!」

 

 その衝撃波で全方位に砂塵が舞い、俺は腕で顔をガード。どっちもまっすぐ飛ぶ照射系攻撃を持ってるから、どっかで起きるとは思っていたが…このタイミングで、放射と波動が激突するとは思わなかった。

 だけど、問題ない。少し驚いたが、少し驚いただけ。まずは今の爆発で獄炎が想定外のダメージを負っていないか確認し、すぐに視線をるーちゃんへ……

 

「な……っ!?」

 

……向けようとして、気付いた。俺がいると思った場所に、るーちゃんがいなかった事に。そして……幾つもある障害物や穴へ、無数の綿毛が付いている事に。

 

「……ただ、防御してただけじゃなかったのか…」

「…やっと気付いたみたいだね、グレイブ君」

 

 フィールドの各所に点在する綿。その殆どは間違いなくただの綿だが…俺の位置からじゃただの綿毛か、それとも裏に隠れているるーちゃんの翼か分からないものも沢山ある。

 やられた。完全に気付いていなかった。俺がダメージを蓄積させている間に…既に、イリゼは策の仕込みを進めていたんだって。

 

「さあ、どうするグレイブ君。グレイブ君からじゃ、どこにるーちゃんがいるか分からないよね?それはつまり、どこから攻撃されるか分からないって事でもあるし…仕掛けてこないなら、その間にるーちゃんは休めちゃうよ?獄炎よりも、ずっと精神的に楽な状態でね」

 

 その通りだ。見分けが付かない以上は分からないし、分からないって事は全部に警戒をしなきゃいけない。逆にるーちゃんはデコイが沢山ある分、どこから狙われるか分からない獄炎より遥かに心に余裕を持てる。

 謂わばこれは、擬似影分身。身体の一部によく似たコットンガード、コットンガードによく似た身体の一部を持つポケモンだからこそ出来る作戦。…やってくれるじゃねぇか、イリゼ……!

 

「…けど、この状況じゃるーちゃんも迂闊に動けない。下手に動いて綿が揺れたら、それだけで場所が分かっちまうもんな。そうだろ?イリゼ」

「…………」

「それにるーちゃん…いやチルタリスは、速さが持ち味のポケモンじゃない。まあ、速いか遅いで言えば速い方だが…ニトロフルチャージを使った獄炎には対応し切れない以上、打つ手はあるッ!」

 

 正直、もう少し二度目の使用までは時間を開けておきたかったが、今はそうも言っていられない。この状況、迷って尻込みして何もしない事こそ、一番の間違いなんだから。ポケモンバトルは頭を使わなきゃ勝てないが…時には考え過ぎるよりも、シンプルな正面突破に全力を注いだ方が上手くいくって事もあるのが、バトルってもの。

 バレるのを恐れて動かないなら安全にチャージが出来るし、もし動いたらそっちの方が儲けもの。どうするかって言うなら、俺が選ぶのはどっちになっても得になる行動。その思いで俺は警戒心を高めつつも獄炎に指示し…チャージ完了と同時に正面突破開始。

 

「獄炎、左の穴は無視していい!奥の石像を蹴って、その反動で隣のやつに突っ込め!腕を引っ掛ければ、そこで素早くターンが出来る!」

「オオォォッ!」

 

 一つ一つ裏を確認、なんて温い事はしない。すれ違いざまにいるかどうかだけを確認させ、軌道によっては障害物を破壊し、それでいるかどうかを確かめる。

 この行動により、次々と壊れていく障害物。確認すればする程選択肢が減り、心に余裕が生まれていく。対するるーちゃんはどこに隠れているのかまだ分からないが、バレるのを避ける為かイリゼも指示を出す事はせず……そうして遂に、未確認の障害物は残り一つ。

 

「そこか…!さあ、どうするよイリゼッ!」

 

 さっきのお返しを込めて俺はイリゼに投げ掛けるが、目標の障害物からるーちゃんが出てくる気配はない。けれどそれなら、このまま突っ込んで一撃叩き込んでやるだけの事。

 

(もらった…ッ!)

「ルグォオオオオォッ!」

 

 フルチャージの加速で一気に肉薄した獄炎の放つ、右腕のラリアット。打撃は障害物に食い込み砕き、だが獄炎は止まらない。そのまま一息に、一直線に駆け抜け、鉈の様に広げた右腕が障害物の背後の存在を……

 

 

 

 

 捉える事は、なかった。ただ、獄炎のラリアットは空を切り……何もいなかった空間だけが、露わになる。

 

「え……?」

 

 一瞬、見間違いかと思った。だが違う。確かにそこには何もいない。ならばまだ、確認していない場所があったかとも思った。けれどやっぱり、全ての場所を確認済み。

 じゃあ、どういう事なのか。これは一体何が起きていて、るーちゃんはどこに言ったのか。…そう戸惑う俺へ向けて、イリゼは言う。

 

「…自分の思考に騙されたね、グレイブ君。綿のどれかが本物のるーちゃんだ、なんて…私、言った?」

「……ッ!!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺ははっとした。確かにイリゼはそんな事言っていない。どこにいるか分からないとは言ったが…そこを勝手に『どれかの障害物の裏』と読み替えたのは、他ならぬ俺自身。

 そして同時に、気付く。そもそもるーちゃんは、どこを主戦場にしているポケモンなのかに。まさかという思い、鳥肌が立つような感覚の中、俺はばっと宙を見上げて……るーちゃんを見つけた。青白い光をその身に纏った、勝負を終わらせんとするるーちゃんの姿を。

 

 

 

 

 凄い。そうとしか言いようのない戦いだった。獄炎とるーちゃんの動きもそう。グレイブとイリゼの作戦もそう。二組が作り上げる展開もそう。審判(と言ってもやることなんてほぼないけど)の役目を忘れ、見入ってしまいそうな程の、高次元の戦いがそこにはあった。

 

(これが、イリゼの戦い…これが、女神の力……)

 

 いつもいつも、グレイブの発想には驚かされる。アームハンマーを使う時はその前に、或いはその直後にニトロチャージを使う事で素早さの下がるアームハンマーの欠点を補う…なんてのは序の口で、断劾の剣を参考に、同じく重量級のポケモンなら似た事が出来るんじゃないかって考えから本当にオリジナル技を作っちゃったり、纏った炎と走る事で身体に籠る熱を利用して素早さを上げるっていうニトロチャージの常識を覆し、その場で足踏みからの連続使用をする事で一気に速度を跳ね上げるニトロフルチャージなんて技を編み出す辺り、本当にグレイブは天才だ。その発想を現実に出来るだけのセンスと経験のある奴だ。

 だけどそんなグレイブを、イリゼは完全に術中へ嵌めていた。防御に徹していると見せかけてコットンガードの綿を配置し、火炎放射と竜の波動で相手側が見えなくなったタイミングで急上昇を指示し、その上で話術によってグレイブに『思い込み』を与えた。ただ隠れるんじゃなく、綿という偽の手掛かりを敢えて用意する事によって、グレイブと獄炎の意識を完全に地上だけに向けさせ、その間に視界の外、空中で安全に…確実にるーちゃんの持つ最大技のチャージをしていた。

 この戦いを側面から見ている俺には、観ている側である俺には、るーちゃんがどこに行ったか分かっていた。真剣勝負に水を差したくないから、言わなかったけど…だからこそ、余計に分かる。イリゼが行ったのはスペックのごり押しでも、イカサマでもなく…グレイブというトレーナーを相手にした、思考と心理の戦術だと。

 

「この光…そうか、チルタリスはこの技も覚えるんだもんな……!」

 

 見上げるグレイブの声には、焦りが感じられる。あのグレイブが、実は某マフィアのボスみたいにパラレルワールドの自分と意識や知識を共有出来る力がある、と言われても納得出来てしまいそうなグレイブが、これはヤバいという表情を浮かべている。

 でも、確かにその通りだ。今るーちゃんが放とうとしている技を喰らえば…獄炎は、耐え切れない。…けど、じゃあ…グレイブは、負けるのか…?

 

「……ッ…獄炎、まだニトロフルチャージは持つな…?」

「…ウオゥ…ッ!」

「避けるつもり?…外しは、しないよ」

 

 このまま爆発するんじゃないかって位のエネルギーを纏うるーちゃんの下で、イリゼはグレイブに向けて言う。静かに、けれど重みと厚みを感じる声で。

 右手をすっと持ち上げるイリゼ。るーちゃんの光は一層強くなり、獄炎は地面を踏み締め、グレイブは何一つ見逃すもんかとばかりに目を凝らす。

 

「…頑張れ、グレイブ……ッ!」

 

 その時無意識に、誰にも聞こえない程の小声で、俺は呟いていた。グレイブへの応援を。グレイブに、負けてほしくないって思いを。昨日はどうなるかなんて見えてると思っていたのに…今は、心の中の半分位でグレイブが負けるかもしれないって思ってる。

 そうして訪れる、一瞬の沈黙。広がっていた光が、収束するようにるーちゃんの身体表面へと集まり……次の瞬間、腕を振るってイリゼは叫ぶ。

 

「これで終わらせるッ!るーちゃん、ゴッドバードッ!!」

「ちぃぃるぅうぅぅぅぅううううううッ!!」

「……ッ!突っ走れ、獄炎ッ!」

「グッ、ォオオォォオオオオッ!」

 

 爆ぜるように滞空状態から一気に加速し、鳥の姿をした光となって獄炎へと飛来するるーちゃん。それとほぼ同時に獄炎も地を蹴り、その一方で大きく今いた地点から離れる。

 どちらも超スピードの加速。けれど十分なチャージ時間を取れた上、落下の勢いも速度に乗せられたるーちゃんの方が、獄炎より速い。獄炎が近くの砕けた障害物の辺りまで来た時点で、るーちゃんは地表すれすれまで至り…そこからがくんと急カーブ。獄炎を追う形で身体の向きを大きく変え、獄炎が何かに隠れる間もなく迫る。

 

「いけぇええええぇぇぇぇぇぇッ!」

 

 るーちゃんが地表に至った時点で、最初より距離は詰まっている。獄炎が障害物の横を通り過ぎた時、更にその距離は縮まっていて、二つ目の障害物の側に辿り着いた時点で、遂にるーちゃんは獄炎へ肉薄。そしてイリゼが声を響かせ、獄炎が横に跳ぼうと踏み込んだ次の瞬間……半壊していた障害物諸共、ゴッドバードが直撃する。

 

「…ぁ……!」

 

 粉々になって吹き飛ぶ障害物と、斜めに吹き飛ぶ獄炎。俺が呼吸を忘れている間に獄炎は壁まで吹き飛び、その壁もぶつかった周囲が激しい音を立てて瓦解。すぐに砂煙が獄炎の姿を覆う中、視線を戻せばるーちゃんがゆっくりと羽ばたいていて…イリゼは小さく息を吐く。…それが示すのは、一つの結論。

 

「……っ…この、勝負…イリゼと、るーちゃんの……」

「……待てよ、愛月」

 

 決まった。終わった。そう思った、思わざるを得ない俺は、声が震えそうになるのを堪えて言おうとする。審判として、全力のぶつかり合いを見届けた者として、きっちりと。

 だけどそれを、グレイブが止める。その気持ちは分かる。グレイブは負けず嫌いだから。でも、結果は結果だ。それを認めないのは、グレイブらしくないし…そんなグレイブは、見たくない。

 だから俺は、その制止を聞かずに言い切ろうとした。そんな俺に対して、更にはイリゼやるーちゃんに対しても、グレイブはゆっくりと首を横に振り……言う。

 

「──まだ、終わってねぇよ。…だよな?獄炎」

 

 その瞬間、砂煙の中に浮かぶ影。がっしりとした、一つの身体。俺が目を見開く中、その影は一歩、また一歩とこちら側へ近付いてきて……砂煙の奥から現れる。満身創痍で、息も荒く…けれどその両脚でしっかりと立つ、獄炎が。

 

 

 

 

「…そんな……」

 

 終わったと思った。どう考えたって、決まった筈だと思っていた。けれどその思いを覆すように、執念を燃やすかのように、砂煙の中から獄炎が現れた。私の前に。私達の前に。

 

「どういう、事…?ゴッドバードは、獄炎の弱点を突ける飛行タイプの中でも、最高クラスの技だって事なのに…それが、直撃したのに…!幾ら最初の突進を避けて、崩れかけの障害物を間に挟んで、その上で当たる直前斜めに跳ぶ事で威力の一部を受け流したとしても、耐え切れる筈がないのに…ッ!なのに、なんで……!」

「落ち着けよイリゼ、なんか説明口調みたいになってるぜ?」

「……っ…!」

「…あぁ、そうさ。イリゼの言う通り、耐え切れる筈がねぇ。頭と地形と反射神経と根性、全部駆使したって今のるーちゃんのゴッドバードは耐え切れない。…だから…使わせてもらったぜ?るーちゃんの、力をさ」

 

 あり得ない事に、信じられない現実に、思わず心を乱される。一方のグレイブ君は、冷や汗こそかいているけど冷静で、私の言葉に対して認める。確かにこれは、耐え切れない攻撃だったと。

 でも現に、獄炎は耐えている。説明の付かない、噛み合わない事実に混乱しそうになり……そんな、次の瞬間だった。完全に砂煙の中から出てきた、身体全てが露わになった獄炎が両手に持つ──白い綿の存在が、私の目へと映ったのは。

 

「な、ぁ……ッ!?」

「咄嗟によ、思い付いたんだ。コットンガードの綿がまだ消えてないなら、そこにあるなら、獄炎が拾って使う事も出来るんじゃないのか、って」

「…じゃあ、まさか…障害物のある方に、獄炎が走ったのは……」

「そういう事だ。勿論、盾にしてちょっとでもダメージ軽減を…って事も考えてたけどな」

 

 コットンガード。盾や壁といった、攻撃を弾く剛の防御ではなく、攻撃を受け止める事でその衝撃を逃がす柔の防御。私が防御に、攻撃の拡張に、囮や果てはお掃除グッズにすら利用してきた高い汎用性、応用性を持つそれを…グレイブ君も、利用した。咄嗟に、反射的に、障害物へ付着したままだった綿を利用する事を思い付き、しかもさっきの私の様に、その真意を気取られないよう上手く立ち回る事を考えていた。

 策士策に溺れる。グレイブ君は、まだ奥の手を残していた訳じゃなく…その場に残っていた私の策を、るーちゃんの力を利用して、この窮地を乗り切った。…それが、真実。

 

「けど…はー、やっぱほんと凄ぇわ。こうは言ったが、ぶっちゃけ俺も耐え切れるか不安だったんだよ。獄炎の根性と勝負の運に賭けるしかなかったし、見ての通り今の獄炎はギリギリの状態だ。もう、今一つの技だって一発受けたら間違いなくそこで終了だな」

「……なら、なんで…どうしてそんなに、楽しそうなの…?」

「楽しそう?…そりゃ、そうだろ。だって俺は、幾つものリーグを制覇してきたんだぜ?伝説のポケモンだって、仲間にした事あるんだぜ?その俺が、ちょっと前までポケモンの事も知らなかったイリゼと、まともに戦えるのかどうかも怪しいるーちゃんに、追い詰められてる。何か一つが、ちょっとでも欠けてたら負けてた位に追い込まれてる。…そういう事もあるから、楽しいんだよ。そんなミラクルにしか思えない事が、実力で引き起こせるから…ポケモンバトルは、止められないんだよ!」

「グレイブ君…ふふっ、そうだね。こう見えて私も、実は結構戦うのって好きだから、その気持ちは分かるよ。…君が敵じゃなくて、本当に良かった」

「気が合うな。俺もイリゼが敵だったらと思うと、ぞっとするぜ」

 

 まさか、男の子にここまで私が動揺させられるなんて。正直、そんな思いもあった…というか、今もちょっとあるけど…それは、私の心の中では支流。今の私の心にある本流は、やられたなぁっていう清々しさと、やっぱりグレイブ君は凄いなって思いと、そして共感。…ほんっと、愛月君もそうだけど、私が別次元やそれっぽい場所で仲良くなる男の人は、皆例外なく素敵なんだから。皆して私を惚れさせようとするなんて、一体何のつもり?…なんて、ね。

 

「…あぁ、でも、だけど……」

「へっ、だからこそ……」

『この勝負、(私・俺)達が勝つッ!』

 

 弾けるような気合いと共に、私達はそれぞれ素早く指示。それを受け取ったるーちゃんは高く鳴き、獄炎は低く吠え、最後の駆け引きが幕を開ける。

 

「るーちゃん、追い詰めてるのはこっちだよッ!焦る事なんてない、無理をする必要もない、後はたった一撃なんだからッ!」

「るちるぅぅッ!」

「獄炎、向こうは全部出し切ったんだ。全力全てを見せたんだ。だったら後物を言うのは経験。つまり…本当に有利なのはこっちって事だッ!」

「ブルォオオゥッ!」

 

 鋭く、機敏に嘴での刺突や翼での横薙ぎを打ち込み、隙あらば竜の波動を放つ。一撃一撃を巧みに避け、打撃と炎で攻撃バリエーションの幅広さを見せる。万全の状態で、どっちが強いかは分からないけど…互いに消耗してる今は、実力はほぼ互角。攻め、躱し、仕掛け、防ぎ、目まぐるしく位置が変わりながら意地をぶつける。

 楽しい。ドキドキして、もっともっとって気持ちになる。だけど、長引かせようとは思わない。るーちゃんも獄炎も凄く疲れていて、だけど私やグレイブ君の気持ちに応えようと、頑張ってくれているんだから。

 だから私達がする事は一つ。思考を、指揮を駆使して、頑張ってくれている相方へ勝利の喜びをプレゼントする事。

 

「首を引いてるーちゃん!そこからムーンサルトッ!」

「跳べ獄炎!尾羽が来るぞッ!」

 

 アッパーカットの回避挙動を利用した宙返りを仕掛ける中、寸前で獄炎は後方へ跳躍。尾羽は掠めるもダメージにはならず…けれどグレイブ君の側に着地した獄炎は、衝撃に耐え切れず片膝を突く。

 

「獄炎…まだ、いけるか?まだ、負けたくないって気持ちはあるか?」

「グ、ゥ…ウォオオッ!」

「だよな、その心の強さが獄炎の武器の一つだもんな。……次の一発で終わらせるぞ。それが決まればこっちの勝ち、凌がれれば向こうの勝ち…シンプルで分かり易いだろ?」

 

 同じように片膝を突き、声を掛けるグレイブ君。私に聞かせるつもりはなかったようで、上手く聞き取れない部分も多かったけど…これだけは分かる。グレイブ君が、獄炎を心から励ましているって事は。

 

「さぁ…行ってこい獄炎!」

「来るよるーちゃん、向こうがまっすぐ来るなら…こっちも正面から迎え撃つッ!」

 

 ダメージは向こうの方が負っているけど、るーちゃんも相当疲労している。今複雑な事をやろうとすれば、身体が付いていかずに失敗する可能性も十分にある。

 だからこそ、私が選ぶのはカウンター。攻撃を見切る事、避ける事に余力を注ぎ込んで…返しの一撃で、勝負を決める。

 向こうも似たような事を考えているのか、仕掛けてくるのはシンプルな突進。纏う気迫は凄まじく…けれどそれなら、こっちも負けない。

 

「最後の勝負だ、イリゼッ!獄炎、アームハンマーッ!」

「勝ちは譲らないよ、グレイブ君ッ!…………今だッ、るーちゃんッ!」

 

 拳の間合いに入る直前、獄炎は強く地面を踏み締め加速。低く斜めに跳び上がり、拳を振り上げ、るーちゃんの頭に一撃叩き込まんとする。

 その直前、直感と本能、全感覚が叫んだ瞬間、私はるーちゃんの名前を呼ぶ。その意図を完全に理解したるーちゃんは、バックステップの様に後ろ斜め上方へと舞い上がり…獄炎の拳が、るーちゃんを掠める。掠めるけど……当たらない。

 

「(今度こそ、これで終わらせる…ッ!)るーちゃん、エアカッ──」

 

 勝った。私の心の中でそんな呟きが溢れたけど、まだ違う。倒し切るまでは、終わりじゃない。

 最後の一撃に選んだのは、エアカッター。もう威力は必要ないのだから、範囲に長けるこの技こそが最適解。そしてこの技が放たれた瞬間、本当にこの勝負に決着が付く。…そう、思った。思っていた。

 

(……あ、れ…?)

 

 だけど言い切る直前、何かがおかしいと思った。獄炎の技は外れ、拳は地面を叩き、明らかに回避は間に合わないのに…何かおかしいと、私は感じた。

 例えばなんだ?…例えば、技がおかしい。確かアームハンマーは格闘タイプの技で、るーちゃんを倒すには確実性に欠ける。ニトロチャージか火炎放射の方が、確実性は高い。なのにわざわざこれを選んだのは…何か理由があるって事。

 追撃に今上げた技を使うつもりだった?…いや、それならむしろ、アームハンマーを追撃に使った方が良い。距離的な問題は?…それを言うなら、アームハンマーは一番最初に選択肢から外れる技。だったら、何?この状況で、はっきり言えば悪手な、現に避けられて地面を殴る結果となっているアームハンマーを選んだ理由は……

 

 

 

 

 

 

…………って、え…?アームハンマーは…()()()()()()()()

 

「……──ッッ!しまっ……」

 

 その瞬間、実際の時間にすれば一瞬…けれどあまりにも遅過ぎる段階で、漸く気付いた。グレイブ君の狙いに、この攻撃の正体に。

 違う、そうじゃない。これは、アームハンマーなんかじゃない。この技は、アームハンマーに偽装した……

 

「……最高に楽しかったぜ、イリゼ、るーちゃん。…獄炎ッ!大地ッ、創…造ぉおおおおおおおおおおッ!!」

 

 走る地響き。轟く声。残った力、その全てを注ぎ込んだかのように巨大な岩槍が大地から突き上がり……エアカッターを放ちかけていたるーちゃんを、斜め下から鋭く突き飛ばす。

 飛行タイプは、岩タイプの技が弱点。それ抜きにも、創り出される巨岩の槍は威力絶大。一度目は辛うじて軽傷に抑えられたそれが、再びるーちゃんを襲い……直撃。

 吹き飛ぶるーちゃん。反射的にそちらへ走る私。るーちゃんは落ち、役目を終えた岩槍は崩れ……戦いは、終わる。

 

 

 

 

 

 

「……そこまで!この勝負…勝者は、グレイブと獄炎ッ!」




今回のパロディ解説

・某麦わら帽子の海賊
ONE PIECEの主人公、モンキー・D・ルフィーの事。要はギア2ですね。ゲームじゃ出来ないこういう応用技を考えて書くの、かなり楽しいです。

・敵サイドの体技
こちらもONE PIECEに登場する体技の一つ、六式の事。より厳密には、その内の一つである剃です。ニトロフルチャージ、単純ですが悪くないネーミング…ですよね……?

・某マフィアのボス
家庭教師(かてきょー)ヒットマン REBORN!に登場するキャラの一人、白蘭の事。でもグレイブは、マシュマロを好んで食べる…的なイメージはないですね。
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