超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第百五十話 蘇り、取り戻し

 神次元のいーすんから掛かってきた交信。何だろうと思って応じたわたし達に神次元のいーすんが言ったのは……思いもしない事だった。

 うずめとウィードくんのピンチ。それを神次元のいーすんが知る事が出来たのは、本当に偶然。偶々その時、神次元のいーすんはうずめ達に頼まれていた調べ物の結果を伝えようと、向こうに交信を試みて…その最中に、急に交信が切れた。繋がらなかったとか、向こうから切っちゃったとかじゃなくて、呼び出しの途中で突然切れたんだって、神次元のいーすんが言っていた。だから、何かあったんだと考えた神次元のいーすんは、ぷるるん達にその事を話して、確かめる為にぷるるんとセイツが向こうに向かって…そして分かったのは、うずめ達の次元がどうしようもない程に、もう原型すらない程に崩壊してしまっていたという事。交信が途絶えたのも、施設が壊れてしまったからだという事。

 そこまで聞いて、わたし達も向こうに行く事を決めた。でももう一人のイリゼは眠ったままだし、レイが重傷を負っているとはいえ、くろめ達が何かしてくる可能性もあったから、行くのは向こうの地形を知ってるメンバーの内、わたしとネプギアだけって事になって、すぐにいーすんに開いてもらった次元の扉から向こうの次元へ。少し振りに、わたし達はこっちに来て…すぐに、理解した。神次元のいーすんが、あんなにも慌てちゃっていた理由を。

 

「うずめさーん!ウィードさーん!」

「いたら返事をして頂戴!」

 

 女神化した状態で空を…ううん、宙を飛んで、わたしとネプギアは二人を探す。声を上げて呼び掛けながら、周囲に視線を走らせる。

 

(……っ…なんで、こんな……)

 

 今わたしの心の中にあるのは、強い焦り。不安と、心配と、悪い想像。そういうマイナスな気持ちや考えが浮かんでしまうのは……それ程までに、今のこの次元の状態が酷いから。

 前からずっと、この次元の崩壊は進んでいた。そろそろうずめ達も踏ん切りを付けて離れないと、崩壊のせいで交信も出来なくなるって状態にはなっていた。

 けど…今はもう、今見えている景色はもう、崩壊が進んでる…なんてレベルじゃない。どこまでが地上で、どこからが空なのか分からない位…地形の知識なんて、これっぽっちも役に立ちそうにない位…世界として、もう完全に崩壊してしまっていた。ひび割れた空に、大陸や街だったものの残骸が、大小様々な形で浮いている…本当に、そんな状態だった。

 

「ねぷちゃん、ねぷぎあちゃん、何か見つかった?」

「ううん、手掛かりもなしよ。そっちは?」

「こっちも同じで、何も見つけられてないわ。くっ…こんな次元でもまだ、最後までいるかもしれない人を探し続けようとする彼女の意思と、それを人として最後まで支えようとする彼の思い…そんな光溢れる心を持つ二人が近くにいたなら、わたしが気付けない筈がないのに…!」

 

 数分後、二手に分かれようって事で別行動していたぷるるんとセイツ(二人も女神化状態)と合流したわたし達は、ここまでの結果を話して共有。…って言ってもどっちも有益な手掛かりは見つけられていなくて、分かったのは精々「この辺りにはいそうにない」って事位。…で、セイツは本当にそういう探知能力があるのかしら…それとも単に、そんな気がしてるだけかしら……。

 

「もしかして、もっと離れた場所にいるのでしょうか…街じゃなくて、山を越えた先の拠点とか……」

「確かに、向こうに行っている可能性もあるわね…。二人共、わたし達はそっちを探してみるわ。二人はどうする?」

「そうねぇ…あたし達も、そっちをって言いたいところだけど……」

「地理を全く知らないわたし達がそうしようとすると、逆に迷子になる危険もあるわよね。だからわたし達はもう少し、この街と周辺を探してみるわ」

 

 そうしてわたし達は頷き合い、わたしはネプギアと一緒に街の地域から離れていく。

 地形の知識をが役に立たないとは言っても、別にごちゃ混ぜになっちゃってる訳じゃないから、周りにあるものから方角の判断位はする事が出来る。だからわたし達はそれを頼りに飛んでいって、前は洞窟内を抜けた山に到達。そこも越えて、あの広い拠点だった場所にまで辿り着くけど…そこにもうずめ達の姿はない。

 

「…うずめさん…ウィードさん……」

 

 初めての時は苦労してここまで来て、皆でドラム缶風呂に入ったり、最後は遊んでバーベキューもした…今となっては思い出深いここも、今やその拠点も見る影もない。

 そんなここにも二人の姿はなく、ネプギアは不安そうな声で呟く。…分かる。思い出深い場所すらこんな有り様になっているのを見てしまったら、一層の不安を駆り立てられない訳がないんだから。

 

「…大丈夫よ、ネプギア。うずめは女神なんだから勿論だし、ウィードくんだって…あのマジェコンヌの攻撃を受けても、速攻回復しちゃったでしょ?」

「う、うん…でもウィードさんの場合、まだあれが結局何なのか分かってない訳だし…。…って、ううん。悪い方にばっかり考えても仕方ないよね…!」

 

 ふるふる、と首を横に振って気持ちを切り替えるネプギア。それにわたしも頷いて、拠点周辺の捜索を再開。崩壊の中で気絶して声を出せない…って事もあり得るから、耳だけじゃなく視覚的にも二人を、その手掛かりを見逃さないようわたし達は飛び回り……この拠点周辺には本当にいないのかもしれない。そう思ってまた山岳地帯を越え、街の側に戻り、他にいそうな場所があるとすればどこか…そう思い始めた時だった。

 

「ねぷっちー!ぎあっちー!」

『……っ!うずめ(さん)!?』

 

 不意に、下方から聞こえたのは馴染みのある声。わたしもネプギアも、はっとしてその声に振り向き…振り向いた先で、わたし達は目にする。こちらへと飛んでくる、女神化状態のうずめの姿を。

 

「二人共ー!よ、良かった…良かったよぉぉ……!」

「うずめ…それはこっちの台詞よ……」

「そうですようずめさん…よくぞご無事で……」

 

 飛び込んできたうずめを受け止めると、うずめは心から安堵したような表情を浮かべる。でもそれは、わたし達だって同じ。全く手掛かりのない中で、何が起きたのかも分からないこの状況下で再会する事が出来て、ほっとしない筈ないんだもの。

 だけど、再会出来たからこれで万事解決!…とはならない。流石にそこまで緩い状況じゃない。

 

「…うずめ、こっちで何があったの?これ、進んでた崩壊が遂に次元全土を…ってだけじゃないわよね?」

「う、うん…うずめもよくは分からないんだけど……って、ち、違うの二人共!ウィード!二人共、ウィードを知らない!?」

「へ?い、いや見ていませんが…一緒じゃないんですか……?」

 

 ただ話を聞くなら信次元に戻ってからでも出来るけど、今も何かが…例えばダークメガミの大群がこの惨状を作り出し、今も破壊活動を続けてるって事なら、対処せず戻る訳にはいかない。そう思ってわたしは訊き、うずめもそれに答えようとしてくれて…だけど次の瞬間、うずめは言った。ウィードを知らないか、って。

 まさか。…わたしの心に再び不安が広がる中、ネプギアはうずめに対して訊き…それをうずめは、否定する。

 

「ウィード、こうなった時に逸れちゃって…うずめ、ずっと探してるのに、見つからなくて……」

「そんな…幾ら何でも、ウィードさん一人でこの状況は……」

「そうね…うずめ、ウィードくんと逸れたのはこの辺りなの?」

「う、うん…」

「なら、飛べないウィードくんが遠い場所まで行っている可能性は低いわ。ネプギア、貴女は一度戻ってぷるるん達を呼んできてくれる?」

「確かに…うん、任せてお姉ちゃん!」

 

 そう言ってわたしはネプギアと頷き合い、飛んでいくネプギアを見送る。それからまたうずめを見て、肩に手を置いて、言う。

 

「うずめ、落ち着いて探しましょ。ネプギアがぷるるん達を連れてきてくれれば、女神五人がかりで探せるんだもの。それならきっと、見つかる筈よ」

「ねぷっち…だよね…うん、そうだよね…!」

 

 うずめが焦っている事は、分かっていた。だって、泣きそうな顔になっていたから。わたしもウィードくんが一人だって聞いた瞬間は焦ったけど、うずめのそんな顔を見て逆に冷静になる事が出来た。だから、わたしは両手をうずめの肩に置いて、うずめの目を見て言葉をかけて…うずめもそれで、落ち着きを取り戻してくれた。

 

「ウィード!ウィードー!どこなのー!?」

「もし聞こえていたら、その場から動かないで!すれ違いは避けたいし、何より危な過ぎるわ!」

 

 メガホンを本来の形で使って、うずめは声を周囲に響かせる。同じようにわたしも声を上げて、目を凝らして、ウィードくんを探すけど…その姿も、声も、何も見えないし返ってこない。

 その内にネプギアが二人を連れてきてくれて、捜索体制は五人掛かりに。崩れた大地も、宙に浮く岩も、ウィードくんが乗れる場所、しがみ付けそうな物は片っ端から確かめていって…だけどそれでも、見つからない。

 

「ウィード…うぅ、どこに行っちゃったのウィードぉ……」

「大丈夫、大丈夫よぉうずめちゃん。だから泣かないで、ね?」

「うん…って、な、泣いてないよ!?」

 

 また不安そうになるうずめの頭を、ぽふぽふと撫でてあげるぷるるん。一瞬の後はっとしたうずめはわたわたと離れるけど、そのうずめを見てぷるるんは楽しそうにしていて…って、違う違う。あの微妙に緩いやり取りを眺めてる場合じゃないわ。

 

「ここまで探しても見つからないなんて…もしかして、もっと遠いところまで行っちゃってるって事なのかな……」

「そうじゃない、とは思うけど…この近くにいるなら、流石に声が聞こえていてもおかしくない筈よね…」

「ここ周辺にはいないのか、聞こえなかったり声を返せなかったりする状況なのか……っと、そうだ。うずめ、貴女は女神化に時間制限があるんでしょ?まだ大丈夫なの?不味いなら一度あそこに降りた方が良いんじゃない?」

「そうね。あそこなら比較的しっかりと大地が残ってるし、降りても安全そう……」

 

 話し合いの最中、セイツが指差したのは草木が豊かに生える大地。ここ周辺じゃかなり土地の形が残っている場所で、着陸した際の危険もあまり感じない。だからセイツの言葉に、わたしも同意を示し……その次の瞬間、気付く。

 

「…って、あれ?ここって……」

 

 かなり残ってるって言っても、それは他と比較したらの話。そのせいでさっき見た時は気付かなかったけど…間違いない。これは、あの時の場所だ。皆で一緒にシェアクリスタルを探した、あの時の場所なんだ。

…って、待って。もし、ここがあそこなら…あの時の場所だったなら……

 

「…そう、そうよ…うずめ!ここの地下は!?中は探した!?」

「ほぇ?ねぷっち、それはどういう…、……っ!」

 

 もしかして。…頭の中に浮かんだその可能性を伝えると、目を見開いた次の瞬間にはうずめは土地へと突進していく。猪突猛進、ほんの僅かにでもウィードくんがいるかもしれないと分かるや否や、全速力で飛んでいくうずめの姿にわたし達は驚いて…勿論すぐに、その後を追う。

 

「ちょっ、早まらないでうずめ!ここまでの崩壊が起こってるんだもの、地下もどうなってるか分からないわ!」

「だからだよねぷっち!もしウィードがいるなら…ウィードがいる時に、ここも崩れちゃったら…!」

 

 崩壊の衝撃で中が崩れたのか、遠目に見た時は塞がっているように見えたあの時の穴。けれど近付いてみれば、小さいながらもまだ降りられる位の空間はあって…迷いもなく、うずめはそこに降下していく。

 先行するうずめに呼び掛けながらも、当然わたし達も続こうとする。崩れた場合、危ないのはうずめも同じ事なんだから。でも……

 

『な……ッ!?』

 

 下への穴をうずめが通り、わたし達も入ろうとしたその瞬間、滑り落ちるようにして崩れ始める陥没の跡。反射的にわたし達は止まってしまい、すぐに不味いと思って突破する事を考えたけど…その一瞬で崩壊が進み、わたし達の目の前で小さかった穴すらも埋まってしまう。

 

「そんな……」

 

 声を震わせ、埋まってしまった跡を見つめるネプギア。激しく崩落した訳じゃないし、うずめはまだ女神の状態だったから、命の危機はないと思う。…だけど、もう追えない。下手に地面に穴を開けようとすれば、地下にあるうずめやいるかもしれないウィードくんが危ないし、安全に掘り進める手段も今は……

 

(…ううん、まだよ。こんな状況だからこそ、きっとまだ……!)

 

 いつの間にか固く握り締めていた拳を緩めて、わたしは見回す。どこもかしこも崩壊している今だからこそ、どこか他にも地下へ入れる場所が、崩壊で出来ているかもしれないと思って。

 その事を皆にも話して、わたし達は探し回る。そんな都合良くある保証はない。だけど、保証がない程度の事…諦める理由には、ならないもの。

 

 

 

 

 あの時以来の、二度目の次元の大崩壊。一度目以上に酷い、もう完全にどうにもならないと思わせる…次元の、終わり。

 どうして二回も起きたのか、何も分からない。分かったのは、崩壊の直後、色々なものが空へと吸い上げられるように飛んでいった事位で…しかも、そのすぐ後にうずめは、ウィードと逸れちゃった。ウィードの事はうずめが守らなきゃいけないのに、あれからずっとウィードはうずめを支えてくれたのに…なのにうずめは、崩壊の中でウィードの手を掴む事が出来なかった。

 

「……っ…こんな、時に…!」

 

 シェアエナジー切れで、解ける女神化。けどそんな事は気にしていられない。どっちにしろ地下じゃ飛び回れない場所もあるだろうし、穴も塞がれちまった。ならもうこのまま、進むしかない。幸い小さな穴がどこかにあるのか、最低限の視界は確保出来てるんだから。

 

(くそっ、なんなんだ…なんで、こんなに……)

 

 胸がざわつき、苦しくなる。ウィードの事を思うと、不安で不安で仕方ない。

 勿論こんな状況なんだから、不安になるに決まってる。でも、状況のせいだけじゃない気がする。この不安は、この感覚は…そう、あの時と同じ。ウィードが俺を庇ってくれた時、そのせいで死んじゃうんじゃないかと思った時と、同じ感覚で…あの時よりも、強い。あの時以上に……俺はウィードを、失いたくない。

 

「落ち着け…大丈夫、大丈夫だ…あぁ見えてウィードは根性があるし、底力もあるんだから…!」

 

 握った拳で軽く胸を叩き、自分で自分に言い聞かせながら俺は進む。さっきねぷっちにも言われたが、探してる側の俺が焦っちゃそれこそ見つかるものも見つからない。

……なんて事も、分かってる。頭では理解してる。けど、それでも不安で、胸の奥がぎゅっとなって…後悔して、しまいそうになる。俺のしてきた事、ウィードを頼りにした事を。

 

(…違う…そんな訳あるか…ウィードは俺を信じて、俺を支えたくて付いてきてくれたんだ…だったら、後悔なんてするもんかよ…ウィードの信じたものが、間違ってたなんて言うもんかよ……ッ!)

 

 これまでの自分とウィードを否定するような考えを振り払い、俺は進む。きっとウィードは無事だと信じて、絶対に見つけ出すんだと心に抱いて、俺は暗い地下を歩み続ける。そして…ある時ふと、足を止める。

 

「……?…ここって、確か……」

 

 暗い上、次元全体での崩壊の影響で多少中の作りも変わっていたからか、初めは気付かなかった。けど……そうだ、間違いない。ここは…ウィードがいた場所だ。初めて、ウィードと会った場所だ。

 偶々そっちに行ったのか、無意識に選んだのかは分からないが、俺はウィードを見つけ、追い掛けた場所まで来ていた。あの時と同じように、あの時を再現するように。そして……

 

「……うずめ…?」

「……ッ!ウィード…ッ!」

 

 聞こえた、響いた、一人の声。大きくはない…けど、はっきりと俺の耳に聞こえた、俺を呼ぶ言葉。

 その声が聞こえた瞬間、俺は振り向いた。弾かれるように、引き付けられるように。振り向いて、見て、俺の目に探していたあいつの姿が…ウィードの姿が、はっきりと映って…気付けば俺は、駆け出していた。駆け出し、駆け寄り……ウィードの肩を、掴んでいた。

 

「うぉわっ!?う、うずめ…?」

「お、おまっ、ウィードだよな!?幽霊とか、コピーロボットとか、サーフィスとかじゃないよな!?」

「お、おう本物だ本物…後、一つ目と三つ目なら触ってる時点で分かるだろ…」

「馬鹿言え!幽霊が触れられるか!」

「え、あ、うん…なんで今俺怒られたの…?」

 

 がっと肩を掴み、揺さぶりながら問い詰める俺。どう見たってウィードだが、俺がウィードを見間違える訳がないが、万が一って事もある。後そうだ、ドールの場合もあるしな!ちゃんと確かめて、確実にウィードだって事を確かめなきゃ……

 

(…って、見間違える訳ないって、な、なな何を考えてるんだ俺ぇぇぇぇ……!)

「……うずめ…?あの、うずめさん…?」

「…はっ!…ご、ごほん。とにかく無事で良かったよ、うん。…ほんとに、無事で良かった……」

 

 ここまで支えてきてくれた相手の事を、今更見間違えるもんか。…っていう普通の事の筈なのに、何故か恥ずかしくなって頭を抱えてしまった俺だが、ウィードの呼び掛けで我に返る。

 馬鹿野郎、なんで逸れた場所から移動してんだ、とか、なんでこんな所にまで来てんだ、とか、言いたい言葉は色々あった。でも、今は…会えて、無事だって分かった今は、それだけで良かった。もう文句なんてどうでも良い位、心の底からほっとしていた。

 

「…ごめん、うずめ。また、心配を掛けて……」

「気にすんな、ウィード。今回の事は、誰だってどうしようもないんだからよ」

 

 そう。逸れた事自体は不可抗力ってやつだし、ウィードだって今に至るまでで自分の身を守ろうと頑張っていた筈。ならウィードが謝る必要なんかないだろ、と俺は笑い…だが、気付く。さっきまでは気付かなかった…というか、俺がテンパってたせいでよく分からなかったが…何となく、ウィードの纏う雰囲気が違う事に。

 

「…ウィード…?」

「…ありがと、うずめ。俺も、安心したよ。うずめが無事で、うずめが元気で」

 

 そう言って、ウィードは穏やかに笑う。その笑みは優しく、温かく…でも、やっぱり何かが違う。ウィードなのに、ウィードじゃない…そんな風に、思えてくる。

 

「…そ、そっか。まあ俺は女神だからな。それに…そうだ、俺達の為にねぷっち達が来てくれたんだぜ?皆心配してるだろうし、まずは合流しねぇと…なんだが、穴は埋まっちまったんだよな……」

「そういう事なら、向こうにも穴が空いてるんだ。少し登るのは大変だと思うが、そっちからなら出られると思うぞ」

「そ、そうなのか。なら早速……」

「…なあ、うずめ。一つ、頼みがあるんだが…いいか?」

 

 さっきまでとは違う、上手く言葉に出来ない心のざわつきを感じながらも、俺は話を進める。それを聞いていたウィードは、俺の発言が途切れたタイミングで言葉を返し…その次は、俺を遮るようにして言う。

 モンスターに襲われた後、移動した方の拠点に行きたい。…ウィードはそう言った。静かに、落ち着いて…けど凄く、真剣さを感じさせる声で。

 その理由は、聞かなかった。聞けば答えてくれるだろうが…聞かずとも、それが心からの頼みだって事は分かっていたから。だから俺達は、ウィードの言う穴を通って外へと戻り…ねぷっち達と、合流。

 

「あぁ良かった!二人共、無事だったのね!…もう、うずめ…貴女まで心配させないで頂戴…」

「わ、悪かったな皆…けどこの通り、俺もウィードもピンピンしてる。皆が、協力してくれたおかげだ」

「ふふっ、お礼なんて言わないわ。貴女の感謝の気持ち…それだけで、わたしにとっては十分だもの…!」

「はいはい、セイツちゃんは落ち着いてね。…さて、後はいーすんにもう一度開いてもらって……」

「あー…その事なんだが…少しだけ、待ってもらっていいか…?」

 

 今思えば軽率だったと反省しつつ、俺は皆に感謝を伝える。それから俺は、この次元からの離脱…って話になったところで待ったをかけて、ちらりとウィードの方を見やる。

 俺からの視線を受けたウィードは、皆に対しても改めて言う。さっきと同じように、言った内容は簡単なものだったが…数秒の沈黙の後、皆頷いてくれた。…きっと、ウィードの真剣さが、皆にも伝わったんだと思う。

 

「…でも、あまり長居は出来ないと思います。出来ないというか、危ないというか……」

「分かってる。確かめたい事が、あるだけなんだ」

 

 そうして俺は改めて女神化し、ウィードを連れてあの拠点がある…というか、あった筈の方向へ。今も拠点として分かる程度に形が残っているかは分からないが…それは、行ってみるしかない。

 

(確かめたいって、なんだ…?一体、何を……)

 

 疑問を抱きながら、街の方へ。目を凝らしながら、大小様々な形で宙に浮く『街だった』ものを確かめていき…発見。ビルの上部、大体三分の一がどっかに行っちまった状態だが…それでも一応、拠点としていた場所はあった。

 皆は待っている間に次元の扉を開く準備をする、という事となり、ウィードと二人で改めて頼んだ後に俺達は中へ。取り敢えず形は残っているが、中も最後に来た時よりボロボロになっていて…辛くなる。次元全体も勿論だが、よく使っていた場所も(元々廃ビルだったとはいえ)ボロボロになってしまっているのを見ると…どうしても、切なく思う気持ちを止められない。

 

「…で、何を確かめたいんだ?」

「それは……これだよ、うずめ」

 

 迷いなく、歩みを進めるウィード。その歩みに何かを探している、って感じはなくて…どうも、どこにあるのかは分かっている様子。

 なら、本当にウィードは何を確かめに来たのか。そう思いながら俺が付いていくと、ウィードはある場所に入ったところで足を止めた。そして、そこに…ウィードが立ち止まった先にあったのは、あの時の巨大シェアクリスタル。

 

「……へ?ウィード、確かめたかったものって……」

 

 思いもしなかったその存在に、思わず俺は目を瞬かせる。確かにシェアクリスタル…それもここまで大きなものは貴重だ。状況が状況なせいで半ば忘れていたが、もしこれを持っていけるのなら持っていきたい。

 けどそう思うのは、俺が女神だからな訳で、ウィードにとってシェアクリスタルはただの結晶に過ぎない筈。なのに何故、と俺は尋ねる…というか、尋ねようとしたが…ウィードからの、反応がない。

 

「…ウィード?おい、ウィードー?」

 

 左手でシェアクリスタルに触れたまま、ウィードは動かない。何も言わない。聞こえてないのかって位、微動だにしないウィードに何度か俺は声を掛け、それでも反応がないからと今度はウィードの肩へと手を置いて……

 

「……っ!?…ウィード、お前……」

 

……その、次の瞬間だった。斜め後ろから見える、ウィードの横顔。そこに、頬に…一筋の涙が、零れ落ちたのは。

 

「…うずめ。俺達はさ、色んな場所を回ったよな。街も、森も、色んなとこを」

「え、あ……そ、そう…だな…」

「その中でさ、俺は何度か、何故か分からないのに何となく分かる…とか、上手く説明出来ないのに懐かしく感じる…とか、そういう事があったんだ。…うずめも、そうじゃないのか?」

「それは……」

 

 シェアクリスタルに触れたまま、ウィードは語り出す。酷く静かな、酷く落ち着いた声で。

 そうじゃないのか、と訊かれれば、勿論ある。それが何か、はっきりとは分からないものの、ふっと頭に浮かぶ…そんな瞬間が、何度もあった。記憶喪失なんだし、過去の何かを思い出しそうになってるとか、頭は忘れていても身体は覚えているとか、そんな感じの事だと思っていた。

 だが、何か違う。今ここにいるウィードは、何かが違うんだ。ウィードなのにウィードじゃない、同じなのに違う、そんな感じがさっきからあって、今はそれが強くなっていて、それはまるで……

 

「…まさか…ウィード……」

 

 ゆっくりと、振り向くウィード。その手には、クリスタルに触れていたのとは逆の右手には、何かが握られていた。壊さないよう包むように、優しく握られていて…そうだ、これはずっとウィードが持っていた。地下で再会してから、ずっと。

 そこから顔を上げれば、そこには俺を見ているウィードの目がある。だけど、違う。だけど、分かる。その目は俺を見ていても、俺を見てはいないんだって。俺を見て、別の何かを思ってるんだって。そして、俺を見て…俺を見ないまま俺を見て、ウィードは…言う。

 

「…これで、分かった。これで、確かめられた。…うずめ。俺には、あったんだよ。過去が、日々が、思い出が……大切な、ものが」

「……──っっ!」

 

 それは、表明。ウィードからの……記憶を取り戻したんだという、紛れもない答え。ウィードが目的としていた、俺も探していた…過去の、証明。

 

「…は、は…そっ、か…良かったじゃねぇか、ウィード…漸く、思い出せたんだな…」

「…ああ。良かったよ、ちゃんと思い出せて。ちゃんと、記憶を……自分を、取り戻せて」

 

 記憶を取り戻せたウィードに、祝いの言葉をかける。そりゃそうだ。頑張って探してたもんなんだから。記憶喪失の辛さは、記憶を渇望する気持ちは、俺もよーく分かるから。

 なのに、何故か、俺は心から喜べない。素直な笑顔を浮かべられない。

 

「…うん、良かった。本当に良かった。忘れたままじゃ…後悔すら、置き去りにしちまうところだったからな」

「…後悔…?」

「俺には、やらなきゃいけない事があったんだ。やれなかった事が、出来なかった事があったんだ。それは絶対に、諦めちゃいけない事で…なのに、忘れてたんだな…()()()()()()は」

(あ……)

 

 物憂げに、情けなそうに、ウィードは言う。その儚い、どこか遠くを見るような顔は、これまで俺が見た事のない顔で……だから、気付く。

 記憶を取り戻す。それはつまり、『記憶を失ってからの存在』に、『記憶を失うまでの存在』が入り込んでくる…いや、蘇るって事だ。思い出っていう積み重ねがリセットされた状態からの人格に、強引に本来あった積み重ねが突っ込まれるようなものだ。勿論、記憶を取り戻したってやつの体験談なんか知らないし、俺は医者や学者でもねぇから、絶対そうだなんて言えやしないが…全体からすれば、一部に過ぎないんだろう『記憶喪失になってからのウィード』に、きっとその何倍もの積み重ねがある『記憶喪失になる前のウィード』が組み込まれたのなら……それはもう、俺の知るウィードじゃないんじゃないのかもしれない。

 もしそうなら、納得がいく。何か違うと思ったのも、ウィードなのにウィードじゃないように感じたのも、俺じゃない何かを見ているようだったのも。全部全部納得がいくし、記憶喪失後のウィードなんて、言ってしまえばイレギュラーな状態なんだから、あるべき形に戻ったって事なのかもしれない。…けど、だけど……

 

「…嫌だ……」

「…うずめ……?」

「ウィード…お前は、ウィードだよな…俺の知ってる、ウィード…なんだよな……?」

 

 声が震える。手も震える。不安で、不安で、仕方なくて…縋るように、俺は訊く。祈るように、俺は求める。

 そんな俺が、ウィードにどう映ったのかは分からない。でも、ウィードは……笑う。俺の知らない、ウィードの笑みで。

 

「……ッ!…やだ、嫌だ…何でだよ、何でだよウィードぉぉ…!」

「……っ…うずめ……」

 

 無意識に、衝動的に、俺はウィードへと抱き着く。離さないように、消えてしまわないように、抱き締める。

 これが、俺の身勝手だって事は分かってる。何でだも何も、自分自身で理由は思い付いている。だけど…俺は俺を、心を抑えられなかった。飲み込めなかった。ウィードがウィードじゃなくなる、俺の知ってる…ずっと俺の側にいてくれた、一緒に歩んで、一緒に思い出を作ってしてくれた、ウィードが消えてしまうのが、嫌で嫌でどうしようもなかった。

 

「ウィード、俺は…俺は…っ!ウィードの、事を…ウィードの、事が……っ!」

 

 涙が頬を伝う。声が上擦る。心がぐちゃぐちゃで、自分でも何を言っているのか、何を言いたいのかが分からない。ただ、怖くて怖くて、辛くて辛くて、現実を認められない。飲み込める、筈がない。

 今なら分かる。こうなって漸く、何となく理解が出来る。ここまで俺が抱いていた、色んな気持ちが。色んな思いが。ウィードへの…ウィードだけへの、俺の想いが。

 だけど今更だ、今更なんだ。ウィードは記憶を取り戻したんだから。自分を、取り戻したんだから。もう遅い。もう、届かない。……そう思っていた俺の頭に乗せられたのは、ウィードの左手。その手が優しく俺に触れ、温かい手が俺の頭を撫でて…そして、言った。ウィードは俺を……天王星うずめを見て。

 

「──泣かないでくれ、うずめ。大丈夫、俺は俺だから。…うずめ。俺には、大切な人がいるんだ。大切な人が……いたんだ」




今回のパロディ解説

・コピーロボット
パーマン及びドラえもん、又はロックマンシリーズに登場するアイテム(ロボット)の事。この中では、やはりパーマンでのコピーロボットが一番知名度高そうな気がしますね。

・サーフィス
ジョジョの奇妙な冒険第4部 ダイアモンドは砕けないに登場する幽波紋(スタンド)の一つの事。4部の作中でも触れてますし、元ネタはコピーロボットなのでしょう。

・ドール
ゲキドルに登場するキャラ(?)の一人(一つ)、アクトドールの事。ドールの場合は単に見た目が変わってる訳じゃないですし、コピーロボット同様触れても分かりませんね。
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