超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
記憶を探している内に、気付いたら身体が動いていた…いや、我を失ったも同然の状態になっていた事は、これまでにもあった。今回もそうで、うずめと逸れた俺は最初、見晴らしが良く多少なりとも安全そうな場所を探そうとしていて…けれど気付けば、何故か俺が最初にいたあの地下に、又何故かいた。
そして俺は、そこである物を見つけた。それは、普通ならこの場所になんてある筈のないもの。他の誰かなら、不思議に思うだけで終わるような…だが俺にとっては、無くしちゃいけない大切なもの。それを見つけ、手に取り…俺は、思い出した。これも、記憶も…本来の、俺自身も。
巨大な、中が空洞なら人なんて余裕で入ってしまいそうなシェアクリスタルに触れた事で、思い出した記憶が、今ここにある感覚と感情が、本当に俺のものなんだと確信する事が出来た。忘れていた事への情けなさと、漸く取り戻せた事への安堵感、それにこれからの俺の「決意」を、俺は心の中で固めていって…あぁ、そんな時だった。うずめが涙を見せたのは。うずめをまた、泣かせてしまったのは。
(…何やってんだ…馬鹿か、俺は……)
俺を強く抱き締め、悲痛な声を、涙を零したうずめ。何故だ、何故うずめはこんなにも悲しそうに、辛そうにしている?…そんなの、俺のせいに決まってるじゃないか。ウィード、お前はウィードだよな…その言葉に込められてる意味なんて、不安なんて、一つしかない。
だから俺は、うずめに答えた。俺は俺だ、と。これは、嘘でも建前でもない。俺は記憶を取り戻したが、だからって今度はこれまでの俺を忘れた訳じゃないんだから。うずめとの、皆との日々もちゃんと覚えているし、抱いてきた思いは今も胸の中にあるし…これも俺の、大切な歩みなんだから。
「……本当、か…?それは、俺を……」
「うずめに気を遣っての言葉なんかじゃないさ。…あんなに濃くて、刺激的で、無茶苦茶な毎日の事を、そう簡単に忘れるもんかよ」
まだ不安の消えない瞳で見上げるうずめに頷き、言葉を返す。
本当に、毎日驚きに溢れている、刺激的な日々だった。命の危機にだって何度も遭った、とんでもない毎日だった。何より…うずめとの時間を、そんなところてんが押し出される位の感覚で忘れてしまう筈がない。
そしてその上で、俺は言った。今俺の中にある…もう一つの気持ちも。
「なら…大切な人、っていうのは……」
「言葉通り、俺にとっての大切な存在だ。かけがえのない、何よりも大切だと思える…なのに守れなかった、大切な人」
「……っ…そ、っか…」
言わなくたって、良かったと思う。うずめにとっては、関係のない…とは言えないが、少なくとも今必要な情報ではなかったんだから。
それでも尚言ったのは、うずめに対して誠実でいたいと思ったから。俺を、記憶喪失で色々と迷惑をかけてきた俺を、それでも心から思ってくれた、今ここにいるうずめには…真っ直ぐに、ありのままの俺でいたい。
「…まだ、諦めてなんかいないんだろ?」
「勿論だ。絶対に、諦めたりなんてしないさ」
「だよな…あぁ、そうだ。ウィードなら、そう言うと思ったぜ…」
その言葉と共に、うずめは俺の背から腕を離す。一歩離れて、服の袖でぐしぐしと顔を拭って…笑う。もう大丈夫だと伝えるように、情けないところを見せたな…と言うように。
…けど、分かる。これは作り笑いだ。これは無理して作ってる顔だ。俺だって…伊達に、うずめの側にいた訳じゃないんだ。
「だったら…ありがとな、ウィード。ここまで支えてきてくれて、本当に助かった。でも、記憶を取り戻して、やらなきゃいけない事も思い出せたんなら…そっちを優先するべきだ。俺の事はもういいからよ、だから……」
「何言ってんだようずめ。記憶を取り戻すまでは力を貸すなんて…そんな最初っから終わりの事を考えた約束をした覚えは、これっぽっちもないんだからな?」
その作り笑いのまま、もう俺を縛っちゃいけないと「終わり」にしようとするうずめを、否定する。否定して、驚くうずめの瞳を見つめる。
「俺が思い出した記憶の中には、俺が取り戻した俺には、大切な相手がいる。どんな事よりも優先したいって思える位の、そんな相手だ」
「なら……」
「だけどなうずめ。うずめだって、もう俺にとっては大切な相手なんだよ。そのうずめをほっぽって、思い出した記憶と相手を優先する?…そんなの、真っ平御免だね」
「…ウィード……」
「だから、さ…もう少し、支えさせてくれ。うずめを、うずめの側で」
今の俺には、思い出した大切な相手の事が、積み重ねてきた沢山の記憶が戻っている。だけど同時に、記憶を失ってから積み直してきた記憶も…今ここにいるうずめという相手の事も、ちゃんと残っている。そして、新たに積み上げてきたこの記憶、この思いは…思い出したものに、なんら劣る事はない。
だからこれは、慰めなんかじゃない。本心だ。これからも支えたいという…俺の、思いだ。
「…そっか…あぁ、そっか…お前が…ウィードがそこまで言ってくれるなら…それに応えなきゃ、俺じゃない…よな」
「ああ。うずめは強くて、責任感もあって、けど優しくもある…俺にとっての、格好良い女神だもんな」
「応よ!…つっても暫くはねぷっち達の次元か、ぷるっちせいっちの次元…神次元にいる他ねぇし、これからやる事のはっきりとした計画も今はないんだけど、な」
元気に、いつものうずめらしく、うずめは俺の言葉に返す。俺から離れ、胸の前で右手を握って、俺へにっと笑ってくれる。
ああ、そうだ。やっぱり、やっぱり…うずめは、こういう笑顔の方が似合ってる。これこそが…俺の守りたい、うずめの笑顔だ。そしてその為に、俺は全力を尽くそう。これからは…これまでのように。
「…けど、思い出した事の方も大切にしろよ?じゃなきゃ、蘇った記憶の方も浮かばれねぇよ」
「あ、それは勿論。ただ俺は……」
「分かってるって。だから…あんま心配すんなよ。もう俺は、大丈夫だから…さ」
当然、思い出した事をおざなりにする気もない。絶対に果たさなきゃいけない、今度こそ守りたいものだって、俺の心の中にはある。
それが、うずめには伝わったのかもしれない。というか、散々言ったんだから、伝わって当然なのかもしれない。改めて「うずめの事も」と言おうとした俺を制止し、大丈夫だと言ったうずめは酷く穏やかな顔をしていて……だけど、それについて触れるのは止めた。そこには何か、うずめなりの思いがあるように感じたから。
──そうして俺は、記憶を取り戻した。きっと最期を迎えるこの次元の中で、記憶を、自分を、大切なものを取り戻した。だけどまだ、終わりじゃない。俺も、うずめも…俺達の進む道は、まだ続いている。
*
うずめとウィード君、二人を無事に救出してから暫く(と、言っても何週間とか何ヶ月のレベルじゃないけど)が経った。あれ以来、向こうの次元の崩壊は緩やかになったらしいけど、それは回復に向かっている…みたいな理由ではなく、既に次元としては崩壊し切ったも同然の状態まで行ったから、という可能性の方が強い。だから当然、戻る訳にもいかず…一先ずうずめ達は、神次元に滞在する事になった。これは時々向こうの次元の状態を確認したい、っていううずめの要望的に、イストワールさんより次元干渉能力の高い向こうのイストワールさんがいる神次元の方が適してる、っていうのもあるし、人目を浴びる事になると不味い海男さん達モンスターの皆は、まだ何が起こるか分からない信次元より、一応落ち着いてる神次元の方が良いんじゃないかって意見が出たからでもある。これまでは直接の知り合いがいない、見知らぬ場所だった神次元も、うずめやウィード君が一緒って事なら安心だろうし。
その神次元で、暫し二人は身体を休め、更にウィード君は思い出した記憶の整理をすると言っていた。勿論これには、私達も大賛成。あの環境でずっと過ごしてたんだから、安全な環境で少し位のんびりしても良い…というか普通に休むべきだし、折角記憶を取り戻したなら…その記憶は、大事にするべきなんだから。
そういう訳で、一先ず二人がピンチ!…の件は解決。大きいネプテューヌも破られたページの奪還に成功したらしくて、こっちも解決。はっきりした見通しの建てられていなかった問題の幾つかが、ここにきて漸く解決を迎え…だけどまだ、最大の問題は形を変えて残ったまま。
「ふー、む…この部屋にも、手掛かりになりそうなものはないね……」
ガサ入れとばかりに家具もインテリアも開けたり外したり剥がしたりして、片っ端から部屋の中を調べていく。今、私達がいるのは浮遊大陸。その目的は…負のシェアの城の、突入方法の調査。
「こ、これは……」
「え、何か見つかった?」
「あ、ごめんなさい…凄く古い曲のレコードが見つかって…」
聞こえてきた、5pb.の声。もしや、と思って振り返る私だけど…見つけたのは、今探しているものとは関係のない物品らしい。
「そ、そっか…でもまあ、うん…音楽に携わる人間としては、そりゃ気になるよね…」
「いや、今はまずないような物が見つかったら、業界関係なく気になるものじゃない?」
「あ、言われてみると確かに……」
カーペットを捲って床を確認している第二期パーティー組ファルコムからの、ご尤もな指摘。それはそうだと思って5pb.にごめんね、って視線を送ると、5pb.からも大丈夫、って感じの視線が返ってきた。
「それにしても、まさかまたここを探索する事になるとは…しかし、うむ。同じ場所でも、違う時期に調べると意外な発見がある…これもまた王道、だな!」
「王道は王道でも、それはRPGの王道でしょうが…」
「あはは、イベントフラグ…ってやつだね」
何故か自信満々に言うミリアサちゃんへ、いつものようにチーカマが突っ込み、コネクトちゃんが苦笑いしつつもうんうんと首肯。
…さて、突入方法を調査してる、と表現したけど、具体的にはどういう事か。…端的に言えば、あの負のシェアの城には、浮遊大陸と同じように突入を阻む空間の歪みが発生していた。イストワールさん曰く、浮遊大陸を覆ったものとはまた少し違うらしいけど…それが障害である事には変わりないし、しかもネプテューヌのネクストフォームの力でも、今回は上手くいかないとの事。勿論、性質を考えれば出来ないって事はないにしても、前だって結構すぐ閉じてしまいそうな程度の切断しか出来なかった事を考えると…やっぱり、別の手段を探しておく方が無難というもの。
だから私達はまた、浮遊大陸を訪れた。これまで拠点として活用されていたここになら、何か突破の糸口があるんじゃないかと考えて。
(元々は落として何もかも吹き飛ばすつもりだったんだろうし、どうせそれで無くなるからって事で有益な手掛かりもそのままになってるかも、って思ってたけど…うーん……)
空中で女神候補生の四人に警戒をしてもらい、教会らしき施設内は私と女神以外のパーティーメンバーの半数、外及び周辺施設は守護女神組の四人と残りのパーティーの皆と、
それは徹底的に、自分達の痕跡を消したという事か。…いや、恐らく違う。だってそもそも、前に来た時とは根本的なレベルで変化しているから。もう一人の私の力が、シェアエナジーが大陸を包んだ後、変化していったのは見えていたけど…まさか建物やその中まで変わっているとは思いもしなかった。流石にまるっと変わってる訳じゃなくて、ある程度は変化前と同じ部分もある…というか、違和感のある場所が軒並み消えて自然な感じになったって印象なんだけど、どちらにせよ変化は変化。
しかも、地下空間に至っては完全に消滅している。ネプテューヌ達が外を探しているのも、元々の担当だった地下空間が無くなっていたからで…お互い小まめに連絡を取り合ってはいるけど、多分皆思ってはいる。…こんな状態じゃ、なにも手掛かりは掴めないって。
「あーーっ!」
「うわっ!?な、何!?ビーシャ何か見つけたの!?」
「うん!ソフトグライダーの箱が山の様に出てきたよ!ここまであると、ちょっと作りたくなるね!」
「おー、確かにこれは凄い量…一個位なら、持って帰ってバレないかな…?なんちゃって…」
『…………』
今一度状況確認をしよう。そう思ってインカムでの通信を繋げた瞬間に聞こえた、ビーシャの大声。今度こそ何か見つけたのか、と思って驚きながらも即座に訊いた私だけど…結果はご覧の通り。どうも近くにいたらしいネプテューヌは、ビーシャと一緒に興味を抱いてるようだけど…うん、やっぱりこれは幾ら探しても手掛かりになりそうなものは見つからないのかも…。
「あー…えっと、わたし達からも一ついいかな…?」
「鉄拳ちゃん?…それは、その…鉄拳ちゃんも、何か面白い物を見つけたとかそういう…?」
「う、ううん!わたし達が見つけたのは、図書館っぽい施設なの」
「図書館?」
「図書館…!?」
「そうだにゅ。今何冊か軽く目を通したけど、中々面白い書物が揃っているにゅ。まあ、そこそこ古風な文体、表現が多いけどにゅ〜」
空振り…というかバットがすっぽ抜けたような展開続きだったところへ表れたのは、図書館というワード。…今一名、個人的な理由(興味)で訊き返していたような気もするけど…まあそれは置いておくにしても、図書館は調べる価値があるかもしれない。たとえ望んでいる情報が手に入る可能性は低くても、図書館っていうのはそもそも情報収集にうってつけの場所だから。
「どうかしら?このまま探していてもあまり成果は上がりそうにありませんし、一度全員で図書館の蔵書を調べてみるのも良いと思いますわ。……ひょっとすると、わたくしの琴線に触れる作品があるかもしれませんし…」
「賛成だ。あの城の攻略には直結しないとしても、この大陸に関する情報が得られる可能性ならば十分にある。……それにこんな得意な場所の図書館なのだ、愉快な魔導書の一つや二つ、あるやもしれん…」
「私も同感です。ずっと同じ事をしていると、集中力は低下してしまうものですし。……本は食べられないけど、お料理本とかがあったら…うぅ、でもそれ見たら、余計にお腹空いちゃうかな…」
「そうね。図書館なんて少人数で調べるんじゃ時間がかかり過ぎるし…って、皆私利私欲凄いわね!……あ、わ、私は違うわよ!?違うし、しれっと本心を言うとかもしないわよ!?」
インカムから次々と聞こえる、賛同の声。図書館は、情報源として有用だという認識は、私達皆が持っているようで…は、あるんだけど……うん、まぁ…なんというか…懐かしいよね、この『ザ・我らがパーティー』的なやり取りと雰囲気は…。
(…パーティー、か……)
それからふと、私は思う。マジェコンヌさんの時、犯罪組織の時と私達は四ヶ国を旅してきて、その中で皆と出会い、仲間になった。でも今回の、この長い一連の事態の中では、やっている事もこれまでとは色々と違って…だから思い返してみれば、プラネタワーや各国教会で皆と話す事はあっても、現場で協力したり、その道中で話す事って、ここ最近はあまりなかったような気もする。
別に、それが惜しいって訳じゃない。上の通り、普段から会ってはいるんだから。ただ過去を振り返ると、前と今とは違うんだなって気持ちにはなって……
「イリゼさん、皆さん。一つ、ご報告があります(´・ω・`)」
「……いーすんさん?何かあったんですか?」
次にインカムから聞こえてきた声は、ここ浮遊大陸ではなくプラネタワーにいるイストワールさんのものだった。
さて、何だろうと思う私。声音は…何というか、少し上擦っているような気はするけど、慌てていたり動揺していたりするような感じはない。という事は、朗報か、上擦ってるってのは気のせいで可もなく不可もなしな報告なのか、そんな風に私は考えていて…その中で、イストワールさんは言った。
「…イリゼ様が、目を覚ましました
(´・∀・`)」
「……──ッッ!?あいったーっ!?」
『えぇッ!?』
その言葉を聞いた直後、珍妙な叫びを上げてしまう私。何故って?それは驚いた拍子に、近くにあった椅子の座席(それも側面の角になっている所)に脛をぶつけてしまったから。突如走った激しい痛みに私はぶつけた脚を抱えつつぴょんぴょんと跳ねて……って、そんな事はどうでもいいよッ!え、今イストワールさん「もう一人の私が目覚めた」って言った!?言ったよねッ!?
「ほ、ほんとですかイストワールさんッ!?目を覚ましたって、目を覚ましたって事ですか!?」
「あ、は、はいそうです。…イリゼさん、先程の…悲鳴?…といい、大丈夫ですか…?(・_・;」
「大丈夫です!もう大丈夫も大丈夫、大丈夫を超えてらいりょうふっすよ!」
「いやむしろそれは大丈夫じゃなかった人の発言では…。…と、ともかくイリゼ様の意識が戻りましたので、皆さんご安心をd( ̄  ̄)」
「わ、分かりました!今すぐ戻りま……あ…」
聞き間違いでも、言い間違いでもない。本当に、もう一人の私が目を覚ましたんだ。目を覚まして、くれたんだ。…そう思うと、そう思うだけで、心の中に安堵と喜びが溢れ返る。会いたい、話したい、そんな思いが身体を動かし…だけど、思い出す。私は今、遊んでいる訳じゃない事に。
今すぐ会いたい、会いに行きたい。だけど、その為に今やっている事を皆に任せて、一人だけ帰るなんて事は…出来ない。それは女神としても、仲間としても、あまりにも無責任というもの。
「…イリゼさん?(・ω・)?」
「…す、すみませんイストワールさん。もう一人の私には、後で会いに行くって伝えて下さい。私もこっちを片付けたら……」
「んー…いや、いいんじゃない?もう結構な時間探したし、一旦終わりにして戻っちゃってもさ」
「え…?」
湧き上がった気持ちをぐっと堪え、私は調査を続行しようとする。でも、そこに異を唱えたのは…戻ってもいいんじゃない?…と言ったのはネプテューヌ。しかも私が目を丸くする中…他の皆も、それに続く。
「あ、それあたしも賛成。いやぁ、実はあたしお腹空いちゃってね。他にもそうらしい人もいるし、腹が減っては何とやら、でしょう?」
「ほぇ?シーシャさんも?じゃあ、わたしもさんせー!」
「…えっと、その…わたしも……(ぺこぺこ)」
「……って事だし、いいんじゃないかしら。まあ、本当に全員がそうなのかは知らないけども」
次々と上がる、「実は私も空いてたんだよね」という申告。それが暫し続いた後、ニトロプラスが締めて…皆の注目が、私に集まる。
本当に、皆お腹空いているのか。…そんな訳ない。何人かはそうだろうし、空く位の時間探してたのも事実だけど…今言ったのは、間違いなく私の為。…皆……。
「…前言撤回です、イストワールさん。今すぐ行くって、伝えて下さい…!」
だったら、選択肢なんて一つしかない。遠慮も美徳ではあるけど、向けられた優しさに、気遣いには応えるのが友達ってもの。勿論甘えるばかりじゃなくて、優しくし合う、気遣い合うのが、大切な事ではあるけれど。
イストワールさんに返答をし、私は外へ。皆も出てきて、女神の皆が人間の皆を連れて浮遊大陸から離脱していく。
(もう一人の私…もう一人の私……!)
気持ちが逸る。緊張もするけど、それより会いたいって気持ちが上。もし私一人だったら、フルスピードで戻っていたんじゃないかと思う。
浮遊大陸から出て、プラネテューヌの領域に入り、生活圏内…プラネタワーへ。降りたところで女神化を解き、すぐに私は中に入る。
「い、イリゼさん。転んだりしないようにして下さいね?」
「んもう、ユニ。それ位分かって…って、あっ…道間違えた…!」
…うん、我ながら今のはかなり情けないって思う。言われた直後にこれだから、本当に情けない。でも分かってほしい。私は、それ位気持ちが昂っているんだって。
そうしてエレベーターに乗り、私達はもう一人の私がいる部屋へ。流石に目覚めたばかりのところへ大人数で行くのは不味いって事で、まず行くのは私達女神だけ。それでも九人な訳だけど…きっと大丈夫。だって、もう一人の私だもん。
「あ…お帰りなさい、皆さん( ・∇・)」
「はいっ!もう一人の私、いますよね!?」
「え、えぇ。…ただ、その…大声を出したり、びっくりさせたりするような事は、しないで下さいね…?( ̄◇ ̄;)」
「……?それは、勿論…」
丁度部屋を出てきたイストワールさんと会い、私達は部屋の前に。私からの問いに対し、少し気になる返しをイストワールさんがしたけど…なんだろう、まだ少し意識が曖昧な部分があるって事なのかな…?
けどまあ、別にびっくりさせるようなつもりもないし、どういう事なのかは入ってみれば分かる事。だから私は、部屋の扉をノックし…中へと、入る。
「は、入るね…もう一人の、私…」
「は、はひっ!…ぴぇっ……?」
(…ぴぇ……?)
急速に高まる緊張を感じながら、私は中へ。するとそこには、ベットから上体を起こした、私と瓜二つの存在…人の姿の、もう一人の私がいて……だけど、直後に聞こえたのは、変な音。何かの鳴き声みたいな…謎の声。
「やっほー。その姿でこうして話すのは初めてだよね。調子はど……」
「……あ…あぁ…あぅ、あぅあぅあぅあぅあぅあぅ!」
『へ?』
もしかして、小動物か何かが入り込んでいるのだろうか。そう思って私が見回す中、ネプテューヌを筆頭に皆も廊下から続々中へと入ってきて……直後、また変な声が聞こえてくる。
でも、二度目且つやたら長い今回は…分かった。それが、何かしらの小動物ではなく…もう一人の私の口から、聞こえてきている事に。
何事かと思ってよく見れば…もう一人の私は、ぷるぷるとしている。ぷるぷると、びくびくと、何故かやたら震えている。
「え、あ、あの…もう一人のイリゼさん…?ど、どうかしまし……」
「ぴぁぁっ!?あぅあぅあぅあぅ……あうぅッ!?」
((ベットから落下した…!?))
明らかに様子のおかしいもう一人の私に対し、ネプギアが心配したような声を掛けながら近付いていく。けどそれに反応するように、もう一人の私は一層びくびくと震え出し、きゅっと両手で毛布を掴んだままベットの上で後退り…そのまま落下。がくんと一瞬で、しかも半回転して頭からベットの向こう側へと消えていく。
分からない。一体何がどうしてこうなっているのか、全然さっぱり分からない。でも、あぅあぅ言いながらもう一人の私がベットの向こう、ベットと壁の間に転落してしまったのは事実。だから私達が慌てて駆け寄ると、そこには上下逆さまとなって半ば挟まっているもう一人の私がいて……
「〜〜〜〜っっ!……ぅ…」
『…う……?』
「…ぅ、うぇ…うぇぇぇぇええぇぇ…っ!」
『…え…ええぇぇぇぇえええええっ!?』
──皆で覗き込む私達と目が合った瞬間、びくっと一際強く震えたもう一人の私は固まり、表情を歪ませ……それから、声を上げて泣き出してしまうのだった…。
今回のパロディ解説
・「〜〜あいったーっ!?」
ヒナまつりのアニメ版における、特徴的な台詞(叫び)のパロディ。女神だって、硬くて角になっているところに脛をぶつけたら、そりゃ痛くてぴょんぴょんもしてしまいます。
・「〜〜らいりょうふっすよ!」
生徒会の一存シリーズの主人公、杉崎鍵の台詞の一つのパロディ。番外編で杉崎鍵が高熱を出した時の台詞ですね。ただの一ネタでも、覚えてるものは覚えているのです。