超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第百五十二話 もう一人の私は

 漸く目を覚ましたもう一人の自分であり創造主でもある存在が、目を覚ましたと聞いてすぐに戻ってきたら、いきなりぷるぷるびくびく震え出した。しかもベットの上で後退ったかと思えばそのまま後ろに転落し、しかもしかも大丈夫かと思って覗き込めば…もう一人の私は、泣き出してしまった。……なんで…?え、何?どういう事…?今私の目の前にいるのは、もう一人の私の影武者…?私以外にも、複製体がいたとかなの…?

 

「大丈夫です、大丈夫ですからね〜イリゼ様(。´・ω・)ノ゙」

「は、はいぃ…ぐすっ…ご、ごめんなさい、イストワールぅぅ……」

 

 ひっくり返って頭をぶつけたからなのか、それともびっくりしたせいか、とにかく大声で泣き出してしまったもう一人の私。思いもよらぬ…なんてレベルじゃない、想定外にも程がある展開に私達がわたわたする中、入ってきたイストワールさんは「あー…やっぱりですか…」みたいな顔をした後、もう一人の私を慰め始めて早数分。手乗りサイズのイストワールさんが、もう一人の私を…私と同じ背格好をした相手を慰めているというのは、何ともシュールな光景だった。そして私からすれば、姉が母親を慰めている光景を見ているようなもので……私は今、一体何を見せられてるの…?

 

「…えー、っと…あの子、もう一人のイリゼ…で、良いんだよね…?」

「え、えぇ。どう見ても、見た目的にはもう一人のイリゼ…原初の女神でしょ…。…多分……」

「ネプテューヌの様に、人によっては女神化前後で性格の差異が激しいとはいえ……」

「ここまでの差とは、凄まじいわね…というか、それだけの話なのかしら……」

 

 小さな子供…それもロムちゃんみたいなもう一人の私の様子(しかも見た目とのギャップ大)に、ネプテューヌ達も絶賛唖然中。…大丈夫だよ、皆…私も正直、ここまで見てきたもう一人の私とは別人なのかも、って思ってる部分あるから…。

 

「落ち着きましたか?イリゼ様。…皆さんと、話せそうですか?(・ω・`)」

「…ぅ…い、イストワール…一緒にいて、くれます…か…?」

「あ、はい。…あはは……( ̄▽ ̄;)」

 

 イストワールさんによる慰めの甲斐あってか、なんとかもう一人の私は落ち着いた様子。そうしてもう一人の私は、私達と話す気になってくれたみたいだけど…そのスタイルは何故か、先程落っこちたベットと壁の隙間に身体を隠し、顔…というか、目から上だけをベットから出して、しかも顔の前に出てもらったイストワールさんの服を不安そうに指先で摘んでいるという、これまたこれまでのイメージとは真逆のもの。これにはイストワールさんも苦笑いで…私達も、流石に理解する。あぁ、これは怖がられてるんだな…って。

 

「あ、あの…もう一人の私…」

「ぴゃ、ぴゃい!」

「……そ、の…もしかして、話したく…ない…?」

 

 びくっ、と話し掛けただけで肩を震わせるもう一人の私に対し、私の心の中で渦巻くのは不安。

 さっきベールやブランが触れたように、これがもう一人の私の、人の姿の際の性格なのかもしれない。でも、そういう性格だろうとなんだろうと、もしも話したくないというのなら、話したくない相手なのだとしたら…それは、悲しい。凄く凄く…悲しい。

 そんな思いが籠った…というか、確認だけの筈が、自分でも思ってもみない程に籠ってしまった、私の言葉。それを聞いたもう一人の私は、目を見開いて…それからぶんぶんと、強めに首を横に振る。

 

「ぁ、そ、そういう事じゃない…ん、です…!で、でもそのっ…あの……」

「…もう一人の私……?」

「…わ、私…皆さん、に…一杯、痛い事して…酷い事、も言って…あ、も、勿論…それは、女神として必要な事で…でも、言ったりやったりしたのは事実、ですから……」

「ですから……?」

「…い、虐められると…思、って…ふぇ……」

 

 虐められると思ったから。…なんと、それが私達を怖がっていた理由らしかった。…い、虐められる、って……。

 

「うーん、これは…いーすんの存在もあって、腹話術で話し始めそう感が……」

「いやそんな、女神であって精霊さんじゃないから…い、虐めたりしません。しませんから、ね…?」

「そーよ、もう一人のイリゼちゃん。いじめるなんて、しつれーしちゃうわ!」

「わたしたち、もう一人のイリゼさんのこと…おこって、ないよ…?(うんうん)」

 

 そんな事はない、虐めないと返答する三人。勿論他の皆もその発言に頷いているし、そもそも私に至っては恨む理由がない。そして、虐めはしないという姿勢を示した私達の事を、もう一人の私は暫く、イストワールさんに隠れるようにしながら(当然隠れられてはいないけど)見つめ…それからこくんと、小さくだけど頷いてくれた。

 

「…こほん。では、改めて…わたくし達、色々と貴女に訊きたい事がありますの。…答えて、くれまして?」

「は…はい……」

 

 咳払いをし、ベールが当初の目的へと流れを乗せる。もう一人の私も、まだ少しびくびくしながらも再び首肯。…ベットの裏からは出てきてくれないみたいだけど…これは、時間をかけるしかないんだろうね…。

 

「じゃ、じゃあ私からまず良いかな…?…えと、もう一人の私…まず、なんだけど…具合は、大丈夫…?どこか痛かったり、苦しかったりしない…?」

 

 皆から頷いてもらえた私が最初の質問として選んだのは、もう一人の私の体調に関する質問。ここに至るまでイストワールさんが何も言ってないって事は、まあ大丈夫なんだとは思うけど、それでも気になって私は訊いた。そして質問を受けたもう一人の私は、すぐに私を見て答えてくれる。

 

「だ、大丈夫…です。で、でも…その……」

「…何か、あるの…?」

「…あ…頭が、痛い…です…」

『あー……』

 

…うん、まぁ…それはそうだよね…頭からひっくり返って床に打ち付けたら、そりゃすぐには痛みも引かないよ…。

 

「えと、じゃあ次はアタシから。…もう一人のイリゼさんが眠っている間、《女神化》の事と、どうしてあの時途切れてしまったのかの推測を、イストワールさんから聞きました。…そこまでの力を、リスクを背負ってまであの時使ったのは、やっぱり……」

「も…勿論、人の為…人の世界の、為…です。リスク、なんて…か、関係…ありま、せん。女神は人の平和、と…し、幸せの為に…存在、して…いるんですから」

(もう一人の私…やっぱり、こっちの姿でも……)

「…そ、それに…今の信次元、には…皆さん、も…います、から。わ、私は、ずっと一人でオデッセフィアを守ってきました…し、間違ってるなんて…ちっとも、思ってないですけど…思ったん、です。信頼出来る仲間と、い…一緒に守るのも…良いな、って…」

 

 気を取り直した二つ目の質問。何故あそこまでという問いに、口調や態度は違えどこれまでと同じ、どこまでも人の為を思っての答えを返すもう一人の私。でも…付け加える形で、もう一人の私は言ってくれた。同じ女神として、人の守護者として、共に戦える事への喜びを。

 私達が大切にしている、仲間や友達との繋がり、絆をもう一人の私も感じてくれていた。それは凄く嬉しい事で、しかもかなり幼さを感じさせる今のもう一人の私がこんな発言をするっていうのも、何だかぐっとくるものがあって……

 

「…こう、撫でたくなるものがあるわね……」

「分かりますわ。やはり別の存在といえど、イリゼはイリゼですわね……」

「うん…って、ちょっと…!?今のはどういう事…!?」

 

 ぼそりと呟いたノワールに同意したベールの発言。ノワールの方は大いに同感だったが為に、危うく私はベールの発言にまで同意をしてしまうところだった。というか、そのベールの言葉に皆はうんうんと頷いていた。…む、むぅぅ…!

 

「まあ、それはさておき…私からも一つ訊かせて頂戴。貴女は今、大丈夫なの?」

「……?…あ、あの…それは……」

「えぇ、苦痛や生命の危機的な意味での問題はない事は分かってるわ。だから私が訊いているのは…女神として、よ」

「…………」

 

 ユニに続くノワールの質問と、含みを感じるその問い方。どういう事だろうと考えていると、ふっと口を閉ざすもう一人の私。

 あぁ、何かあるんだ。…すぐに私は…いや、多分全員が、そう感じた。だって、見るからに表情が変わったから。そして、こういうところも私と同じなのか…と何とも言えない気持ちになる中、もう一人の私は少しだけ伏し目がちになりながら、一度閉じた口を開く。

 

「…戻れないん、です……」

「戻れない、って…まさか……」

 

 その言葉の意味が頭に浮かんだ私が声を漏らすと、もう一人の私は無言で首肯。戻れない…今の流れでその言葉が指すものなんて、一つしかない。

 部屋内に広がり始める、重い空気。それに比例するように、もう一人の私の表情も曇っていき…再びもう一人の私の瞳に涙が溜まる。

 

「ふぇ…こ、こんなんじゃ…私、私…ふぇぇ……」

「わぁぁ!?だ、大丈夫!大丈夫だから、もう一人の私!あれだけ凄い事をして、四大陸全土の危機も防ぎ切って、それでいて人の姿とはいえ健在なんだから、何も悲観する事なんてないよ!だ、だよね皆!」

「あ、そ、そうね。今の貴女に文句を言う人なんて誰もいないわよ、あそこまでの事を成したんだから。それに、私がしたのはあくまで確認よ。貴女頼りの守護をしようなんて思ってないから、安心なさい」

「…イリゼ様、お気持ちは分かります。今のイリゼ様の状態は、確かに今後どうなるか、本調子に戻るにしてもそれまでにどれ程かかるか、全く分からないのが現状です。…ですが、この通り…ここには、今の信次元には、イリゼ様の認めた女神の皆さんがいるのですから、わたしも思い詰める必要はないと思いますよ(⌒▽⌒)」

 

 慌てて私がフォローをすれば、ノワールやイストワールさんが続いてくれる。他の皆も、うんうんと頷く。

 分かる。私だって、一度そうなったから。守る為の力を、強さを失った事も、その辛さも経験をした事があるから。それでも私が前を向いていられたのは、心から信頼出来る皆がいたからで…それは、今のもう一人の私も同じ。今度は私だって、安心を与えてあげる番。

 そうして、そんな皆の姿を見て、もう一人の私はこくりと小さく首を動かす。頷いて、また私達を見て…それから、ちょっぴりだけど笑ってくれた。

 

「うんうん、新しい時代を作るのは〜って大尉も言ってるしね!だからもう一人のイリゼは……」

「お、お姉ちゃん…それはどっちかっていうと否定的な意味に…って、お姉ちゃん?」

「…あのさ、確認なんだけど…貴女もイリゼなんだよね?」

 

 話す最中、不意に止まったネプテューヌ。突っ込みを入れていたネプギアがきょとんとした顔で尋ねると、何やらネプテューヌは不思議な質問をもう一人の私へ。それにもう一人の私がそうだと答えると、ネプテューヌはくるりとこちらへ振り向く。

 

「だったら、何か呼び方を考えなくちゃだよね!これまで何となく、原初の女神とかもう一人のイリゼって呼んでたけど、それって何だか他人行儀でしょ?かと言ってそのまんまイリゼって呼んだら紛らわしいし、呼び方が必要だと私は思うなっ!」

「確かにそうですわね。ふー、む…どんな名前が良いかしら……」

 

 ネプテューヌが口にしたのは、凄く素敵な提案。だって、呼び方は…名前は大切だから。どんな名前を付けるか、どう呼ぶか…たったそれだけでも、思いは籠るものだから。だから私は、皆と一緒に考える。どんな呼び方が、もう一人の私に似合うかなって。

 

「んと…もう一人のイリゼさんは、イリゼさんとイストワールさんの、お母さん…?…だから……」

「…ママイリゼちゃん?」

「そ、それはどうなのよ…名前にママって付けただけだし…」

「じゃあ、どんなのなら良さそう…かな…?」

「え?う、うーん…イーちゃん…だと、某黒の世界の冒険家になっちゃうわね…」

「ゆ、ユニちゃーん…?さらっとラムちゃんの『ちゃん』に引っ張られるよー…?」

 

 顔を付き合わせて、意見を出し合う女神候補生組。それを見ているネプテューヌ達守護女神組の四人は、皆揃ってほっこり顔。…けど、イーちゃんかぁ…イーちゃんは良いと思うけどなぁ。私だって、ぜーちゃんって渾名があるんだもん。

 

「そういえば、ネプテューヌは渾名を付けるのが得意よね。貴女は何か思い付いた?」

「そうだねぇ…ここは敢えて、オリジンハートって方から取るのはどう?あ、いや、でももう一人のイリゼ的に、オリジンハートって名前は馴染みがないんだっけ?」

 

 袖に隠れた手を顎に当ててブランが訊き、ネプテューヌが答える。馴染みはともかくとして、確かに「イリゼ」って名前に拘る必要はないと思う。うーん…イリゼ…オリジンハート……もう一人の私…オリジナルの私……オリジン、オリジナル…イリゼ…オリ……

 

「……オリゼ…?」

『オリゼ?』

「あ…う、うん。オリジナルの私って事と、オリジンから、『オリ』ゼ…なんてのは、安直…かな…?」

 

 気付いたら口にしていた、私なりの案。練りに練ったものじゃなく、うっかり言っちゃっただけの案だったけど…皆の感触は、結構悪くない。

 

「良いのではないですか?三分の二が本来の名前と同じですから、呼び方としての違和感も少ないでしょうし(´・∀・`)」

「イリゼ、オリゼ…うんっ、わたしも良いと思うわ!わたしとロムちゃんの名前みたいににてるもん!」

「そ、そう?じゃあさ、もう一人の私は……って…あ、だ、駄目だ…うん、駄目だよこれは…」

「え?どうしてですか、イリゼさん。わたしも良いと思うんですが…」

「いや、だって…元々『イリゼ』はもう一人の私の名前でしょ?なら、呼び方を変えるべきは複製体の私っていうか、本来の『イリゼ』である、もう一人の私が変えるのはおかしいっていうか……」

 

 皆に良い、と言ってもらえて一度は嬉しいと思った私だけど、よく考えたらこんなのはおかしな話。本来イリゼっていうのはもう一人の私の名前な訳で、この話で言うならもう一人の私の方がイリゼって呼ばれて、後から生まれた私は、それこそ…コピゼ?…みたいな呼び方に変わるって方が真っ当な筈。…そう思って、駄目だって言った私だったけど……そこで私を呼ぶ、一つの声。

 

「…イリゼさん、イリゼさん(・ω・`)」

「な、なんですか?イストワールさん」

「イリゼ様ご本人は…渾名を付けてもらえる事に、喜んでいるご様子ですよ?( ̄∇ ̄)」

「あ……」

 

 呼び掛けられ、イストワールさんの方を見る私。するとそこ…イストワールさんの後ろにいるもう一人の私は…目を、きらっきらと輝かせていた。まるで誕生日やクリスマスプレゼントの入った箱を前にした子供の様な、わくわくが止まらないって感じの表情で、私達をじっと見つめていた。

 この様子だと、楽しみ過ぎて私達の話してる内容までは聞こえていないらしい。そしてもしそうなら、私の気遣いはむしろもう一人の私を残念がらせる可能性が高い訳で……

 

「あ、あのさ、もう一人の私。呼び方、なんだけど…オリゼ、っていうのは…どう…?」

「オリゼ…わぁ、わぁぁ……!」

 

 呼び方を聞いたもう一人の私が上げる、喜びと興奮に満ちた声。それからもう一人の私は、うんうんっ、うんうんっ、と何度も嬉しそうに頷いて……原初の女神、もう一人の私は、もう一人の私改め、オリゼとなるのだった。

 

「えへ、えへへぇ……」

「イリ…オリゼさん、うれしそう…(にこにこ)」

「オリゼさん、きびしー人かと思ってたけど、けっこうかわいいのねっ!」

 

 にへら〜、とベット裏でご機嫌になるオリゼの様子に、ロムちゃんラムちゃんも揃って笑顔に。私としても、勿論嬉しい。オリゼが笑顔になってくれたのもそうだし、それが自分の考えた呼び方のおかげだっていうなら、そんなの嬉しくない筈がない。

 

「ふふ、思ったより取っ付き易そうな性格で安心したわ。…まあ、ある意味苦労も多そうだけど。……で、それはそれとして…わたしからも一つ、良いかしら」

 

 オリゼの気持ちが大きく好転した事で、部屋内の雰囲気も明るいものに。楽しげな妹の様子に、ブランも小さく微笑んで…けれどそれから、ブランはふっと真面目な表情を顔に浮かべる。

 それを見て、何となく察する私達。オリゼもそれが重要な問いだと分かったようで、首肯の後にブランの事をじっと見つめる。そして皆の視線が集まる中……ブランは、言った。

 

「オリゼ…いや、今は原初の女神と呼ばせてもらうわ。貴女の力は、《女神化》は……死者を蘇らせる事すら、可能なの?」

 

 

 

 

 今日の探索じゃ、浮遊大陸で有力な情報を得る事は出来なかった。だけどオリゼが目覚めてくれて、色々あったけど笑顔にもなってくれて、それが凄く嬉しかった。

 

「ふー、ぅ……」

 

 自分の部屋、自分のベットに、ごろーんと寝転がる。まだすぐに寝入っちゃう程は眠くなくて…頭の中を過ぎるのは、今日一日の事。今日一日の中で知った…もう一人の私、オリゼの事。

 

「…人が、人々が望む世界を創る、か……」

 

 それは、私がオリゼと行動していた時に聞いた、多くの悲しむ人達に向けてオリゼが発した、最後の言葉。あの時私は、それがどこまでの意味を持った言葉なのか分からなかったけど…本当に言葉通りの意味だったんだって、今なら分かる。

 ブランは訊いた。《女神化》を以ってすれば、人を蘇らせる事すら可能なのかと。何故、そんな事を訊いたのか。…その答えは、声だった。各国で噂となっている、私達も既に実例を確認している…確かにあの時、最初の災厄で命を落とし死者となってしまった筈の人が、目を覚ましたのだという声。あの戦いの直後から、まだ昏睡から目覚めていなかった人達も瞬く間に意識を取り戻し、それと共に蘇りの噂や実例も確認され始めたこの現象…そんな事を引き起こせるなんて、オリゼの行った《女神化》しかない。

 そして、オリゼは答えた。そうだと。シェアの力を以って、その奇跡を以って……あるべき幸福を、あるべき世界を、取り戻したのだと。

 

「…………」

 

 死んだ人間は蘇らない、戻らない。そんな現実、生命の…いや世界のルールとでも言うべきものを、オリゼは創り変えてしまった。人が死ななくなった訳じゃない、ただ間違った死を正しただけだとオリゼは言っていたから、本当に世界の在り方そのものを変えてしまった訳じゃないのだとしても…だとしても、本当に凄まじい。オリゼの…原初の女神の力は。《女神化》という力は。

 

(…凄い。本当に凄い。…だけど……)

 

 ここまでなら、それだけなら、完全無欠の、絶対にして究極の女神なんだって事で終わった。《女神化》に途方もない条件とコストがあるんだとしても、本来の状態ならまともに使えるんだとすれば、それは許容範囲内って事なんだから。

 だけど、私達は聞いた。オリゼがいる部屋を出てから、イストワールさんに聞かされた。あの幼い…ロムちゃんやラムちゃんよりも精神年齢が低いように感じる人間状態の性格は、単に女神化前後の差異…って訳じゃないんだと。

 これまでオリゼは、自発的に女神化を解く事はなかった。それは本来の時代…国を起こし、オデッセフィアを守っていた時から、かなりの間そうだったらしい。オリゼが、人間状態の自分は女神の務めを果たす上で必要ないと考えていたから。そしてその結果、人間状態で物事に触れたり何かを経験したりする事は殆どなく、国民も人間としての姿を知る事なく…ずーっとそんな状態が続いてしまったせいで、オリゼの人間状態の性格は、成長する機会がないまま完成してしまった。…そう、イストワールさんは言っていた。つまり、それは…既に完成してしまっている、オリゼの人間状態の性格は、きっとこれからもずっと……

 

「……?」

 

 そこまで考えたところで、不意に聞こえたノックの音。なんだろう、と思って起き上がるけど、ノックだけで声はない。…なんだろう。

 

「(ライヌちゃんとるーちゃんは向こうの部屋にいるし、ライヌちゃんるーちゃんだったとしても鳴く事は普通に出来るし…)はーい…」

 

 妙だなと思いつつも、私はベットから降りて扉の前へ。誰なのか、或いは何なのか。それを考えながら扉を開けると…そこにいたのは、今にも泣きそうな女の子だった。というか…オリゼだった。

 

「う、うぇ…イリゼぇぇ……!」

「えぇぇッ!?お、オリゼどうしたの!?」

「ね、眠れないんです…私、一人じゃ…一人じゃ…うぇぇぇぇ……」

(え、えぇー……?)

 

 一体何があったのか。びっくりしながら私が訊けば、その理由は何とも意外な…凡そ想像なんて付かなかった事。流石にこれは私も対応に困り…一先ず部屋内に招き入れる。

 

「ひ、一人じゃ眠れないって…それはつまり、私に……」

「……あ…わぁぁ…っ!」

 

 もしもこれがただのちっちゃい子なら微笑ましさもあるけど、もう一人の自分となると微妙な心境。可愛くはあるけども、そっか〜とにこにこ笑顔で撫でたりは出来ない。

 とはいえ、一人で寝られないなら、誰かと一緒の状況を作るしかない。そう思って私が言おうとすると…その瞬間、ここまで少し私にも距離を開けていた感じのオリゼの表情が、ぱぁっと一転して明るくなる。

 直後、たたっと部屋の一角へと移動するオリゼ。その視線の先にあるのは…私が飾っている、沢山のぬいぐるみ。

 

「い、イリゼ…!やっぱり、イリゼにも…お、お友達…いたん、ですね…!」

「え?」

「わわぁ……ぁ、こ、こんばんは…!私、イリ…お、オリゼって言うん、です…!」

「え?ええ?」

 

 きゃっきゃと嬉しそうな声を出すオリゼだけど…その姿に、私は困惑。え、お友達って…ぬ、ぬいぐるみの事…?

 

「あ、あのイリゼっ。イリゼの、お友達…今日だけ、私の所に…つ、連れて行っても良い、ですか…?」

「あ、や、えと…その子達、だよね…?…まぁ、良い…けど……」

「ほんとですか…!?じゃ、じゃあ…あのあのっ、皆さん…!も、もし良かったら、誰か私と……え、い、良いんですか…!?ほぇ?貴方もですか…?わぁっ、ありがとうございます…!…ぁ、はい、えへへ…そ、そう…なんです……」

「え"……?」

 

 ちょっと…いやかなり付いていけない状態で訊かれ、困惑そのままに回答すると、オリゼは尋ねる。私ではなく、ぬいぐるみに対して質問し…しかも何か、言葉を返している。幾つかに言葉を返した後、気恥ずかしそうに頬を掻いている。

 

…………。

 

………………。

 

……………………。

 

(……待って、話せるの…!?オリゼはぬいぐるみと会話出来る…っていうか、ぬいぐるみは喋れるの…!?)

「んふぅ……うぇ?い、イリゼ…あの子達は、どうして別の所で…ね、寝て…いるんですか…?」

「ふぇっ!?…あ、あー…あの子はライヌちゃんで、あの子はるーちゃん。ライヌちゃんとるーちゃんはぬいぐるみじゃなくて、モンスターなんだよ?…あ、いや、厳密に言うと、るーちゃんはまた違うモンスターなんだけど……」

「も、モンスター…!?」

「うん……あ、だ、大丈夫だよ!?大丈夫っていうか、絶対討伐しないでね…!?どっちも私の大切な子なんだから…!」

「あ、そ、そう…なんですか…分かり、ました…」

 

 不安になって私が釘を指すと、オリゼはすぐに分かってくれた。…まあ、それは安心だし良かったんだけど…「オリゼ、ぬいぐるみと話せるの!?」…問題は、全くもって解決していない。しかも私の動揺を知る由もないとばかりに、オリゼは選出した(来てくれる事になった?)ぬいぐるみ達をぎゅっと抱いて、嬉しそうに扉の方へ。

 

「い、イリゼ…ありがとう、ごさいます…!イリゼ、は…い、良い子、です…っ!」

「…オリゼ……って、あ…」

 

 ぺこんっ、と私に頭を下げて、オリゼは私の部屋を出ていく。オリゼに何かあってもすぐ対応出来るように、って事で一先ずオリゼが使う部屋は私の隣の場所って事になったから、出ていくって言っても隣の部屋へ移動するだけなんだけど……なんかもう、このたった数分で凄まじい動揺が私の心へと襲いかかってきていて、私は追おうって気持ちになれない。

 一人じゃ寝られないオリゼ。ぬいぐるみを友達と呼び、しかも明らかに会話をしていたオリゼ。何だか私への評価が良い方に転がった様子のオリゼ。…まぁ、その…なんというか……

 

「……個性的、じゃ収まり切らない事って…あるよね…」

 

 複雑過ぎて、ほんとに色々と複雑過ぎて…私は今の気持ちを、こう表現する事しか出来なかった…。




今回のパロディ解説

・「〜〜腹話術で話し始めそう〜〜」、精霊さん
デート・ア・ライブに登場するヒロインの一人、四糸乃の事。よしのんではなく、イストワールに代わりに話してもらうオリゼ…可愛いですが、これはシュールですね。

・「〜〜新しい時代を作るのは〜って大尉も〜〜」
機動戦士Zガンダムに登場するキャラの一人、クアトロ・バジーナ及び彼の名台詞の一つのパロディ。オリゼは紀元前に生まれてますからね。そりゃ若者ではないです。

・某黒の世界の冒険家
アンジュ・ヴィエルジュに登場するキャラの一人、イーディンの事。もう少し細かく書くと、イーちゃんは同じトレハン部の久道すがさからの呼び方ですね。


 次回は先日投稿されました、『大人ピーシェが頑張る話。合同コラボ』のエピローグを投稿しようと思います。
 また、更にその後はこれまた新たなコラボストーリーを投稿する予定となっております。本編は一旦中断となってしまいますが、これまで通りコラボを熱を込めて書きますので、是非読んでみて下さい。
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