超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第百六十一話 盲点の技術

 空中艦の製造元がはっきりして、アノネデス…というか、セブンスジーニアとしての協力を取り付ける事が出来た。不可視の空中艦を見つけ出すという目標へ大きく一歩近付いた反面、信次元の問題に神次元が関わっていたと思うと、わたしだって申し訳なさが湧いてくるけど…セブンスジーニアだってしてやられた側な訳で、そう考えるとレイやくろめ、その協力者にしてやられた分を返せる機会が生まれたんだから、結果的には分かって良かったと言えるかもしれない。

 とはいえ本当に良かったと言えるのは、無事にその「お返し」が…空中艦の発見ないし、それに繋がる何かが出来た場合の話。そしてそれが、相当難しいという事は…機械工学や電子工学に明るくないわたしでも、はっきりと分かる。

 

「そっか…うん、分かった。またぴぃ達の力が必要になったら、いつでも呼んで」

 

 時刻は夜。今しているのは、信次元との定期交信。あの後わたしとピーシェは神次元に残ったから、今日もこうして神次元側として向こうの様子を聞いていた。

 

「…再生能力持ちのダークメガミ、か…また悩みの種が増えたわね……」

 

 交信が切れたところで、腕を組んでわたしは言う。わたし自身は、ダークメガミとの交戦経験なんて殆どない…というか、偽者だったらしいマジェコンヌと融合したダークメガミを相手に、多少立ち回った程度だけど、それだけでもダークメガミの厄介さはよく知っている。そこに再生能力、それも中々強力なものが加わったと考えると…うん、戦いたくないって思うわね…。

 

「…てか、これでかれこれ何体目だよ…なんだ、ダークメガミって実は終盤雑魚敵位の感覚で現れる、序盤のボスみたいな存在なのか?」

「いや、それを俺等に訊かれても……けど、これまでダークメガミが一度に現れるのは基本一体か二体で、それ以上が現れるのって、くろめ達が大規模な事をする時だけだったんだよな?って事は、ある程度数を揃える事は出来ても、そう易々と準備出来る存在でもない…って事だと、俺は思う」

 

 もういい加減にしろ、とばかりにうずめが呆れた声を出して、ウィードがそれに肩を竦め…た後、自分の見解を口にする。

 確かにその通り、うずめ含めて皆は何度もダークメガミと戦っているらしいけど、一度に何体も現れた…って話は、そう何回も聞いていない。

 

「…でも、そうなると今回の件は目的がよく分からないわね。幾ら再生能力を新たに得ているとはいえ、ダークメガミ一体じゃ返り討ちになるだけ…って事位、向こうだって分かってる筈。なのにどうして、ただただ一体出してきたのかしら……」

「囮…じゃ、ねぇよな。もしそうなら、ねぷっち達が戦ってる間に別の動きがある筈だし…」

 

 うーん、と考え込むわたし達。よく分からない事がある場合、偶に「そもそも前提条件が間違ってた」ってパターンもあるけど…流石に一体で勝てると思っていた、なんて事はないと思う。思うというか、そんな相手ならここまで苦労もしていない筈。

 

「…ううん、ごめんなさい皆。わたしから言い出しておいてあれだけど、これはその場にいた訳でもないわたし達が考えて分かるような話じゃないわね」

「そうか?…いや、そうかもな。けど別に、謝る事でもねぇよ。セイツは気になる事を言っただけで、俺達も気になって考えただけ。そうだろ?」

「ウィード…ふふっ、わたし貴方のその飾らない優しさ、気取らない心の在り方、大好きよ」

「えっ?あ、お、おう…」

 

 軽い気持ちで言った…と表現すると語弊があるけど、別に深刻に思って謝った訳じゃない。でも、ウィードは誠実な言葉を返してくれて…そこにある彼の真っ直ぐな心の在り方に、ついついわたしは心が躍る。大好き、と返されたウィードは少し目を逸らしつつ頬を掻いていて、その照れ臭そうな様子を見て更にわたしは盛り上がる。

……と、言いたいところだけど、同時に感じたのはうずめからのむーっとした視線。…そこにある感情も、結構見ていたいものだけど…だからと言って、友達を不愉快な気持ちにはさせたくない。自分の楽しみの為に不快な思いをさせるなんて、考えるまでもなく間違っているもの。

 

「…こほん。それにダークメガミが歪みの壁を通過してきたなら…解除せず、そのまま出てきたとしたら、こっちも…ううん、場合によってはこっちの方が厄介かもね。有り体に言えば、向こうは一方的に仕掛けてこられるって事だもの」

「…あのねです……」

 

 咳払いを一つして、話を戻す。そしてわたしがもう一つの気になる事を口にすると、ほんの少しピーシェが眉間に皺を寄せる。

 ピーシェの言いたい言葉分かる。うーん…まぁ、あれ以降報告もないし……

 

「…明日、またセブンスジーニアを訪ねてみる?」

「…うん、そうする」

 

 急かすつもりはないけど、わたしだって今どの程度進んでいるのか…いや、そもそも進んでいるのかどうか気になるのは事実。という訳でわたしが提案すると、ピーシェはこくりと頷いて…明日また行ってみる事が、決定した。

 

 

 

 

「お、おぉぉぉぉっ!これが空中艦か、カッケェ…!」

 

 降下する中、聞こえてくるのは興奮に満ちたウィードの声。あ、良い…その男の子男の子してる興奮の感情、良いわウィード…っ!普段から気取ってる訳じゃないけど、今の心の揺らめきは特に素敵……っ!

 

「とうちゃーく!おろすよー?」

「っと、おう。助かったよ」

「…セイツ、大丈夫か?なんか急に息上がってないか…?」

「うぇっ?あ、だ、大丈夫よ大丈夫!むしろ元気は出てる位だものっ!」

「そ、そうか…よく分からないが、そりゃ良かった…」

 

 訝しげな表情で見られたわたしは、一先ず誤魔化してビル前に着地。

 今回は、うずめとウィードの二人も一緒。別に二人がセブンスジーニアに直接用事がある、って訳じゃないけど、二人からの行ってみたいという要望と、一応本社の場所は知っておいてもらっても損はなさそうだっていう判断から、わたしとピーシェは二人もここに連れてきた。

 

「そういや、前回はカチコミスタイルだったんだよな?今回は連絡してあるのか?」

「か、カチコミって…ぴぃ達女神だよ…?」

「はは、まぁでも押し入りみたいな形ではあったわね…流石に今回は連絡済みよ」

 

 女神化を解いて、そんなやり取りをしながらわたし達は中へ。受付で話を通して、それからエレベーターへ。前回はアクダイジーンの所に向かったけど…今回行くのはアノネデスの方。

 

「…アノネデス、って確か開発方面の天才で、いつもパワードスーツを着てる人なんだよな?……CEOじゃないのか…?」

「ウィード、それはアイアンなパワードスーツ着てる方ね。ここにいるのはダンディな人じゃなくて、乙女よ」

『…乙女?』

「うん、乙女だね…ある意味で、ほんとに……」

 

 二人揃って『?』って顔をするうずめとウィードに、わたし達は肩を竦める。アノネデスはほんと、説明も出来るけど…それより見てもらった方が分かり易い人物だものね…。

 と、いう事でわたし達が向かうのは、アノネデスの仕事部屋。そこの前に来て呼び掛けると、すぐにアノネデスから返事が来て、わたし達は部屋の中に。

 

「お邪魔しま…って、おぉ……」

「こりゃ凄いな……」

 

 初めに声を上げたのはウィードで、続けてうずめも同じ声音の呟きを上げる。

 部屋の中にあるのは、大量の機材。幾つものモニターに、コンソールにと、正に電子系に強い人物の部屋…って感じ。…まあ多分、この中には会社の設備じゃなくて私物もあるんだろうし、というか会社の設備すら私物化してるんだろうけど…ある意味ネプテューヌ並みにゴーイングマイウェイなアノネデスに統制を敷こうとする事自体、困難なんでしょうね…仮に出来ても、その中じゃやる気なんて出さないでしょうし…。

 

「いらっしゃーい。お茶なら自分で淹れてくれて大丈夫よぉ〜」

「あ、セルフサービスなんだ…」

 

 そのモニター群の前にいたアノネデスは、くるり、と椅子を回してこちらを見る。開口一番の「らしい」発言に、ピーシェが突っ込み…というか、呟きを漏らす。

 

「あら?そっちの二人は…あぁ、貴女達が別次元から来たっていう…」

「天王星うずめだ」

「ウィードです」

「アノネデスよ、宜しくね。…で、わざわざ訪ねてきたって事は……」

 

 頬(と言ってもヘルメットだけど)に手を当てて訊いてくるアノネデスに、わたし達は首肯。するとアノネデスは頬から手を離し、やれやれとジェスチャー。

 

「んもう、せっかちねぇ。伝えられる程の進展があったら連絡位するし、そうしてない以上はまだ大きな進展はなし、って事に決まってるじゃない」

「それをよく堂々と言えるわね…わたし達にはからっきしな事だから、こっちも強くは言えないけど……」

「言えるわよぉ、堂々と。だってそのステルス自体、アタシの英知が色々と組み込まれて今の形になってるんだもの。自分自身でもそう簡単には超えられない技術…ふふ、それって中々気分が良いものよ?」

「いや、それじゃ困るんだが…ってか、それならそのステルスの弱点とかも分かるもんじゃないのか?」

 

 腕を組んだうずめの、釈然としない…という風な問い。それを受けたアノネデスは、肩を竦めて否定する。

 

「そんな甘い話じゃないのよ、うずめちゃん。例えばだけど、普及してる鎧を難無く斬れる剣が作られたとするでしょ?じゃあその剣の製作者は、すぐにその剣の攻撃を防げる鎧を作り出せると思う?」

「そりゃ…難しいだろうな」

「ね?まあ、武器と防具、ステルスと対ステルスじゃ色々違うけど、対抗となる技術っていうのはそう簡単にいかないのよ。それにそもそも、探知っていうのは基本的に『範囲内にいるかどうか』を探るもので、最初から特定の何かを見つけ出したくて使うものじゃないの。根本的な部分だけでも問題が大有りなのに、そこに加えて他にも色々条件があるんだから、実際には難しいどころの話じゃないのよ?」

 

 両の掌を上に向けた仕草をするアノネデス。…その話は、分かる。剣と鎧の剣は成る程と思うし、これが相当難しい事は、前に来た時も聞いていた。

 それと同時に、思う。こう言うという事は、進捗状況もあまり芳しくない可能性が高い。…まぁ、アノネデスの性格からすれば「…と、見せかけて」…のパターンも微妙にありそうだけど…これはもう、半分希望的観測ね。

 

「…じゃあやっぱり、まだ暫くはかかりそうって事?」

「残念だけど、そうかもしれないわ。…けど、そんな『○○だから仕方ない』で終わらせるのもスマートじゃないし……あぁそうだ、何か適当に話してみて頂戴。案外、素人故の視点に突破口があるかもしれないわ」

『えぇぇ……?』

 

 同じように思っていたらしいピーシェの、少し憂鬱そうな言葉。それに返すアノネデスは、途中から何か考え込むような様子を見せ…数秒後、凄まじく漠然とした無茶振りをこっちに振ってきた。

 

「な、何か適当にって…レーダーとか、それ関係でです…?」

「ううん。適当に、は適当によ。ほら、アタシは作業してるから進めて進めて〜」

「いやいやいや…ある意味で嘗てなく困難な要求が来たぞおい……」

 

 そう言って、がっくりとうずめは肩を落とす。…これ多分、アノネデスはふざけ半分で言ってるっていうか、わたし達の反応を楽しんでる部分あるわね…そういう自分の欲求にどこまでも素直なところはアノネデスの魅力だけど、やっぱり困ったものだわ…。

…と、思うわたしではあるけど、だからって黙っていても仕方ない。という訳で、取り敢えずわたし達は全員が全員微妙な表情をしながらも、話をするだけしてみる事に。

 

「話、話か……」

「うずめ天王星のすべらない話でも良いわよ〜?」

「余計難易度上がってんじゃねぇか!……あ、なぁなぁ。空中艦って金属だよな?なら、馬鹿デカい磁石を用意して……」

『…………』

「…ごめん、我ながら今のはないわ…忘れてくれ……」

 

 何を言いだすんだろう…と思って見つめていたら、うずめは自分から意見を撤回。それからうずめは、「何言ってんだ俺…」と言うかのように、ちょっぴり頬を染めていて…あ、どうしよう可愛いわ。その表情も心の動きも二重に可愛い。

 

「せーつ、ステイ」

「あ、うん。……いやわたし犬じゃないわよ!?」

「けど顔が少し変態モードになりかけてた」

「わたしの表情に変な名前も付けないで!?……あ」

 

 淡々と言の葉で刺してくるピーシェに思わず声が裏返ってしまうわたし。ウィードには「なんだこのやり取り…」って感じで見られているし、よく見たら肩の動き的にアノネデスには笑われてるし、流石にこれは酷いわよピーシェ!……と、思ったわたしだけど…何故かこのタイミングで、ある事を思い付いた。

 

「…ねぇ、うずめ。折り入って頼みたい事があるんだけど、いいかしら」

「うん?何だよ改まって」

「…お茶を、淹れてくれない?」

「……へっ?お、お茶?」

 

 唐突なわたしのお願いに、うずめは勿論二人も目をぱちくり。けどわたしはあくまで真面目な雰囲気のまま、言葉を続ける。

 

「えぇ、お茶よ。これはうずめに頼みたい…うずめじゃなきゃ駄目なお願いなの」

「うぇぇ…?…よ、よく分からないが…まぁ、そう言うなら……」

 

 そうしてわたしのお願いを聞き入れてくれたうずめは、後頭部を掻きつつも部屋の一角にあるウォーターサーバーの方へ。それをわたしは見送って…顔を近付けるよう、二人を手招き。

 

「…せーつ。もしかして、わざとうずめを離れさせた?」

「まぁ、ね。一つ、思い付いた事があって」

『思い付いた事?』

「…うずめには、くろめと同じ…ではないのかもしれないけど、妄想を現実にする能力があるんでしょ?なら、それで空中艦を見つけるなり、ステルス機能に弱点を付与するなり出来るんじゃないか、と思ったの」

「あ…そっか、そういえば……」

 

 実際に見た事はないから半ば忘れていたけど、うずめ達が神次元に来た日、ウィードや海男からうずめのその力に関する話を聞いた。

 その時海男は、狙って使えるかどうかの違いはあるといっても、うずめの能力だって現実を改変する程の力があると言っていた。だから、もしかしてとわたしは言い、ピーシェと共にウィードを見て…けれどウィードは、首を横に振る。

 

「…いや、それは駄目だ」

「駄目?駄目っていうのは、出来ないって事?それとも、問題があるって事?」

「あー……後者、だな。前にも言ったが、うずめの能力は想像した事を現実にするんじゃなくて、妄想した事を現実にするんだ。だからそりゃ、ある程度は会話の流れで誘導する事も出来るんだろうけど…そこから先は、狙った通りいくとは限らない。妄想が違う方向にいく可能性もあるし、うずめが無意識に『無理だろうな』と思ってたら、弱点付与どころか余計発見が困難になるかもしれないんだよ」

「確かにそれは困るわね…今でさえ苦労してるんだし…」

「あぁ。それに……」

「…うぃーど?」

「……や、何でもない。とにかく俺は、反対だ」

 

 確実性のない選択、リスクを背負ってでも何かを選ぶという事も、時には必要。だけど、上手くいくか分からないに加えて、何が起こるかも分からないとなると、流石にそれは今考えるべき選択じゃない。

 そうわたしが考え直す中、ふっと陰が差すウィードの表情。でもピーシェが呼び掛けると、ウィードは元の表情に戻り…けど声音は真剣なまま、反対の意思をわたし達に示した。

 

「…うん、そうね。この案は取り下げるわ」

「おーい、淹れてきたぞー」

 

 こくり、とそれにわたしが頷いたところで、丁度良く戻ってくるうずめ。人数分のお茶を淹れてくれたうずめにわたしは感謝を伝えて、それから一口。

 

「ふぅ…けど考えてみると、これと同じ問題は過去にも起こってた可能性がある訳よね…」

「……?どういう事だ?」

「セブンスジーニアの空中艦って、七賢人の拠点としても使われてたのよ。あ、七賢人っていうのはね…」

 

 そういえば説明していなかった、と首を傾げたうずめ、それにウィードへ軽く話し、過去の経験で何か役に立ちそうな事がないか考えてみる。…けどまぁ、やっぱり参考になりそうな経験は思い付かない。

 

「…あ、今思ったんだけど、光学迷彩…って別に、実体がなくなってなる訳じゃないよね?透明なだけだよね?…なら、雪とかが降ったら積もって一目瞭然なんじゃ…」

「その可能性は大いにあるわね。けどピーシェ、それで探そうとする場合、まず信次元中に、一斉に雪を降らせる方法が必要になるわよ?」

「だよね…だから、火山灰も駄目で…というかそもそも、自然現象系は大概駄目で……はぁぁ、ほんとなんでこんな厄介なの造った訳…?」

 

 深く溜め息を吐くピーシェに、わたし達は苦笑い。何もステルスはアノネデスが一人で作った訳じゃない…というか、昔から色んな人が研究開発していった結果の今なんだから、そこに文句を付ける気はないけど…うん、気持ちは分かるわ。

 

「はは…まあでもピーシェの言う『雪で判別』、っていうのも全く使えない事はないと思うわよ?次元全体は無理でも、狭い範囲なら魔法で再現する事が出来るかもしれないし、それならレーダーなり何なりがある程度の場所を見つけて、そこからは雪で、ってみたいに……」

「……それよ…それよセイツちゃんっ!」

「えぇぇっ!?」

 

 肩を落とすピーシェを少しでも元気付けようと、わたしは雪を使う方面での方法を一つ提案。これ自体は「大体の位置までは掴めるレーダー」が完成した場合にしか活用出来ないけど、これで少しでも前向きになってくれれば御の字。それに自然現象を活用するという発想はこれまでなかったし、そっち方面で考えるのも……と、そこまで思っていた時だった。突如、アノネデスがこちらを向き、凄い勢いでこちらへと駆け寄ってきたのは。

 まあまあ奇抜なカラーリングをしたパワードスーツの乙女(それもわたしより大分背が高い)に迫られるというのは、中々の恐怖。しかもガシィ!…と力強く肩を掴まれてしまったものだから、危うく悲鳴まで出しそうになったわたし。……あ、で、でも待って…アノネデス、興奮…してる…?

 

「盲点だった、盲点だったわ!凄く単純な話なのに、全く頭に浮かばなかった!素人故の視点…とは言ったけど、これは有識故の視野狭窄と言うべきかもしれないわっ!」

「…あ、ぁ…良い、あのアノネデスがノワール以外でこんなに興奮してるなんて…こんなにも心が揺れ動いてるなんて……!」

「うっわ、何このカオス……あのねですは何を思い付いた訳…?」

「魔法よ魔法。電子的なステルスと光学的なステルス、二重の欺瞞で発見を出来ないようにしてるうちの空中艦のステルスだけど、それはあくまで科学技術方面でのアプローチ。つまりぃ…魔法技術方面に関しては、全くのノーガードって事よ」

「って、事は…探知魔法?…的なやつがあるなら、それで探し出せるって事か…?」

「残念、そこまで単純じゃあないわよ。けど、間違いなく突破口は魔法にあるわ…!」

 

 ウィードの問いに言葉を返すアノネデスの語気は、普段より強め。けれど正直、わたしはその話がイマイチ聞こえてこなかった。だってアノネデスが、普段から感情の起伏はあっても基本軽めに揺れる程度で、ノワール絡みじゃないとまず感情の爆発なんて見せなかったあのアノネデスが、こんなにも興奮してるのよ…!しかも、それにわたしが大いに関わっているのよ…!こ、こんなの…こんなの……

 

「はぁ…はぁ…あ、アノネデス…ちょ、ちょっと抱き着いても良い…?」

「あらぁ、セイツちゃん完全に変態モード入ってるわねぇ。その気持ちは嬉しいけど、アタシはノワールちゃん一筋だからダーメ」

「くっ…でも今の心の輝きは素敵だった!ほんとにほんとに素敵だったわよ、アノネデス……!」

「はいはいありがとー。それより皆、ちょーっとお願いがあるんだけど良いかしら?」

 

 あぅ、アノネデス素っ気ない…けどこういう淡白なところも嫌いじゃないわ…!

……とか何とか思っていたら、いつの間にか引っ張られているわたしのコートの襟。何だろうと思って振り返れば、襟を掴んで心底呆れた顔をしているピーシェと、軽く引いてるうずめとウィードの顔があって…そのまま暫くの間、わたしは掴まれ引っ張られたままだった。

 

 

 

 

 アノネデスさんからのお願いを受けてから数時間後。その内容を満たした俺達は、セブンスジーニア本社ビルに戻ってきていた。

 

「…あ、ここからはわたし視点じゃないのね」

「いやだって、あのまませーつに任せるとか嫌だし…」

 

……なんかいきなりメタ発言が出てきたが、一先ずこれは置いておく。…セイツ、最初はしっかりした女神だと思ってたけど、時々テンションがおかしくなるんだよな…イリゼはしっかりしてるようでしっかりしてない、なんて言われてるらしいが、セイツも別方面でそのタイプなんじゃ…。

 

「邪魔するぞー」

「邪魔するなら帰ってちょうだーい」

「なら帰る……って、新喜劇か!…てかうわはっや!」

 

 扉を開けたところでの、うずめとアノネデスさんの謎のやり取り。その直後にうずめが驚いたのは…アノネデスさんの凄まじいタイピング速度。

 

「ふふっ、凄いでしょ?某ネットマフィアの首領である少年に匹敵する速度だって自負してるのよ?」

「わー、ほんとに速い…」

「ハイスピード…(びゅんびゅん)」

 

 自慢げに話すアノネデスさんの左右に回って目をぱちくりとさせるのは…信次元から来たロムとラム。そしてモニターの反射で俺達を見たアノネデスさんは、もう一人の人物を認識したようで…言う。

 

「…驚いた。まさか貴女が来てくれるなんてね」

「ふん、女神共があまりにもしつこいから来てやっただけだ。我が農園に女神が居座っては、どんな悪影響が出るか分からん」

「いや、女神なのに悪影響って…来てくれた事は、普通に感謝してるけど……」

 

 鼻を鳴らしたもう一人の人物…マジェコンヌ…さんの発言に、ピーシェは突っ込み気味の声で返す。

 信次元からはロムとラム、ここではこの次元に元からあるマジェコンヌさん…俺達四人は、この三人に来てもらった。アノネデスさんからの、「一流の魔法使いを連れてきて」というお願いに従って。

 

「取り敢えず、三人で大丈夫だったかしら?もっと人数が必要なら、また呼んでくるけど…」

「ううん、大丈夫よ。必要なのは量より質だし…ルウィーの双子女神ちゃんに我らがマジェちゃんの三人となれば、十分にデータの収集が出来そうだもの」

「ねね、何するの?っていうか、ロボットさん?」

「うふふ、中身は人間よ。まあでもちょっと待ちなさいな。後ちょっとで…よし、出来たわ!」

 

 そう言ってアノネデスさんは伸びをし、椅子から降りて立ち上がる。…伸びをするパワードスーツって、滅茶苦茶シュールだなぁ…。

 

「じゃ、今から実験用の部屋に行くから、皆付いてきて頂戴」

「じっけん、するの…?」

「そうよぉ。頑張ったら後でブランちゃん辺りがご褒美くれるでしょうし、頑張りなさいな」

「ほんと…?(きらきら)」

「よーしっ、それじゃあがんばろうね、ロムちゃん!」

((あ、ご褒美は他人任せ(なのか・なんだ)……))

 

 説明は行ってからする、という事でアノネデスさんが歩き出し、ご褒美という言葉に目を輝かせたロムとラムがそれに続く。それから各々も歩いていき、特に理由はないが俺とうずめが最後尾に。

 

「にしても、ほんと驚いたわ。やっぱマジェちゃん、最近少し優しくなった?」

「抜かせ。百歩…いやどれだけ譲ろうとも、私が女神に対し優しくなる事などない。あくまで理由は先に挙げたもの…それに後は、あのくろめとか言う女神が心底気に食わんだけだ。それこそ、ネプテューヌに追い縋る程にな」

「貴女も筋金入りね…だけど、その信念の強さはいつ見ても惚れ惚れするわ……」

「…………。…おい、お前」

「え、な、何?」

「……お前はよく、普段からこいつと一緒にいられるな…ここに来るまでに、もう何度も似たような事を聞いてるぞ…?」

「…うん、まぁ…それはほんと、うん……」

 

 ほんのり染まった頬に右手を当てるセイツに、呆れ顔でそれを見るマジェコンヌさんに、何とも言えない風な表情を浮かべるピーシェ。目の前で繰り広げられるのは、ちょっとネジが緩んでる感じのやり取りで、思わず俺は苦笑い。そこでふと横を見ると、うずめも同じように苦笑していて…俺達は二人、肩を竦める。

 

「…こっちの人達も、皆個性的だよな」

「あぁ。こっちにいると、ねぷっち達と過ごした日々を思い出すよ。…なんかもう、それが大分前みたいに感じるな……」

「あの頃も、その後も、一日一日が濃密だったもんな……」

 

 うずめと二人、心を交わす…って程じゃないが、俺達はこれまでの事に思いを馳せる。

 本当に、大分前の事に思える。しかも俺は少し前に記憶を取り戻したから、それまでの記憶に上乗せされるようにして思い出したから、遥か前の事のように思えてしまう時もある。

 けどそれは、そう感じるというだけの事。実際には、最近…ではなくとも、少し前の出来事で…昔なんかじゃない。ずっと前に起きた事なんかじゃ…決してない。

 

(…そうだ。何も終わった事なんかじゃ、過ぎ去った事なんかじゃない。だから俺は、今度こそ……)

「…何をどうするのか分からねぇけど、上手くいくといいよな」

「…だな。そうすればまた一歩、近付くんだからさ」

「……それは、平和に…だよな?」

 

 じっと見つめて尋ねてくるうずめに、俺は「色々な事にだよ」…と少しはぐらかすような言葉を返す。

 実際、色々な事にだと思う。一言でざっくり言うなら、そりゃ平和だけど…俺にとっても、きっと他の皆にとっても、平和以外で表せるような事がある。だから俺は、そのままそうだとは返さなかった。

…そういう事を考えていたから、俺はうずめの瞳に、複雑そうな感情が浮かんでいた事に気付かなかった。そしてそれに気が付く前に、実験用の部屋へと着き、データ収集が始まったから……結局俺は、最後までうずめがその時抱いていた気持ちを知る事はなかった。




今回のパロディ解説

・アイアンなパワードスーツを着てる方
アイアンマンシリーズの主人公、トニー・スタークの事。アノネデスはかなりのイケメンとの事ですが、個人的にはダンディではなく爽やか系のイケメンだと思ってます。

・うずめ天王星のすべらない話
人志松本のすべらない話のパロディ。いきなり適当な話をしろと言われるだけでも大変なのに、しかもすべらない話となったら、もう無茶振り中の無茶振りですね。

・新喜劇
よしもと新喜劇の事。「邪魔する」→「邪魔するなら帰って」→「なら帰る」は定番のパターンですね。個人的には入ってくる側と答える側、両方やってみたいです。

・某ネットマフィアの首領である少年
ロックマンエグゼシリーズに登場するキャラの一人、帯広ジュンの事。彼のタイピング速度は速いとの事ですが…個人的には、百裂拳に見えてしまった私です。
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