超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
陸上艦から放たれた光芒と、被弾を受けて鳴り響くアラート。大丈夫だ、と思考の上では思いつつも、湧き上がる緊張感を拭い切れなかった二体のロボット…アフィモウジャスとステマックスは、艦が被弾した状況でありながらも茫然としてしまってた。
「あ、あれは…まさか、ユニ殿の攻撃……!?」
「くっ…それよりも何故だ、何故艦の位置が分かったのだ…!デボンスコープでも持っておるのか…!?」
如何に女神の攻撃といえど、端から墜とす事を考えていない、ハッチ一つを破壊する程度の射撃となれば、数百メートルもの巨体を持つ空中艦を揺らがせるには至らない。それでもアフィモウジャス達が即座に気が付いたのは、初めから警戒していた為。
別次元の技術を用いた、ステルスによる不可視があるとはいえ、戦闘艦が近付けば、意識するのは当然の事。下手な事をして発見される訳にはいかないと、アフィモウジャス達は進路を変えず…しかしその一方で、見つかる訳がない、見つかる筈がないと、そう考えていた。陸上艦が一切の戦闘態勢に移っていない事も、その認識を補強していた。
そんな中で、放たれた一撃。何の前触れもなく、弾幕を形成するでもない、たった一射のみの射撃が直撃した以上、偶然ではなく狙った上での攻撃である事は明らか。故にアフィモウジャス、ステマックス、どちらも茫然の後激しく動揺し……だがいつまでも慌てるだけの二人ではない。
「これは…そうか、目的は撃沈ではなく突入か…!」
「つまり、先の一撃はその為の穴を作るもので御座ったか…!…将軍、拙者は迎撃に向かうで御座る!」
「……待て、ステマックス」
迫る女神達に対し、一瞬機銃を始めとする火器での迎撃を考えたアフィモウジャスだが、今からでは間に合わない。アフィモウジャス同様ステマックスもその判断に至り、ならばとブリッジを出ようとするも、アフィモウジャスは制止する。
「な、なんで御座るか?将軍」
「見たところ、女神達は全員で仕掛けてきている。艦内に入られた時点で、艦砲は勿論、艦載機もほぼ使えん。…勝ち目など、万に一つもない状況じゃ」
「それは…そうで、御座るな。では、降伏を…?」
「まさか。ワシはまだまだ稼ぎ足りん。サブカルも楽しみ足りんし、金髪巨乳美少女成分も全く足りておらん。故に、ワシの中に降伏などという選択肢は、ない」
怪訝な様子で訊くステマックスへと、堂々たる態度で返すアフィモウジャス。その内容は、とてもロボットの発言とは思えない程俗物的なものだったが、同好の士であるステマックスにとってはわざわざ気にする事でもない。むしろ、明らかなピンチでも変わらないアフィモウジャスの様子に、友としての安心感さえ抱き…返答。
「…ならば、将軍は逃げるで御座る。勝ち目はなくとも、拙者は忍者。逃げるまでの時間稼ぎ程度は果たしてみせるで御座る」
「…勇ましいな、流石は我が友ステマックス。……だが、またか?また、一人で危険を冒すつもりか?」
「……っ…それ、は……」
真っ直ぐ見つめるアフィモウジャスに、ステマックスは言葉を詰まらせる。
一度ステマックスは、独断で危険を冒した。その結果ステマックスは機械としての死に至りかけ、そうなってしまった事、そのような危険を冒させてしまった事を、アフィモウジャスは後悔していた。だからこそ、アフィモウジャスが心から心配していた事をその後知ったからこそ、状況が状況とはいえ、ステマックスは言葉を詰まらせ……そのステマックスへと、アフィモウジャスは言う。
「…のぅ、ステマックスよ。お主はどうしたい」
「拙者、で御座るか…?拙者は勿論、将軍の願いを……」
「ワシは訊いているのは、信頼する従者ステマックスではない。…親愛なる友、ステマックスに訊いている」
「…将軍……」
「言っておくが、お主を捨て石に逃げるつもりなどないぞ?友と語り合う事も、サブカルの楽しみなのじゃからな」
その言葉と共に、アフィモウジャスは笑いかける。にっ、と友人…それも所謂悪友へ対するような、どこか少年の様でもある笑みで。
無論、表情…頭部パーツそのものは何も変わっていない。だが笑っている事は、ステマックスには伝わっていた。伝わったからこそ…ステマックスは、頷く。
「忍者は忍び、影から任務を遂行するもの。しかし…時には正面から、真っ向から、輝かしき相手にも向かい合ってみたいので御座る」
「…それが、お主の望みか」
「そうで御座る。されど、安心召されよ。拙者も漸く、好きな属性が見えてきたような気がするで御座るからな」
「おぉ、それは良かった。ならば…やるぞ、ステマックスよ」
「御意!」
開いたブリッジの扉から、ステマックスが駆けていく。それを見送ったアフィモウジャスは、コンソールを操作。勝ち目などないと分かっているからこそ、勝てやしないと考えた上で、出来る事を…今ある手札を切っていく。
既に女神達は艦内に侵入している。場所を見抜かれた理由は分からず、質も量も状況も、全てにおいて圧倒的不利。それでも今、アフィモウジャスとステマックスの二人は…この窮地を乗り切ってみせるという、強いやる気に満ちていた。
*
ユニが撃ち抜き、ベールが広げた穴を通り、空中艦の艦内へ。入ったところで、まず私は誰かが…或いは何かが待ち構えていないかと見回し、それから全員の安否を確認する。
「…うん。まずは突入成功、だね」
「えぇ。それに、艦内もほぼ無事…ばっちりじゃない、ユニ」
見回してからの私の言葉に、ノワールが続く。よくやった、と笑みを浮かべて、ユニは一瞬嬉しそうな顔をした後「ま、まぁね」…と照れ隠しするように胸を張る。
今ノワールが言った通り、破壊したハッチの破片を除けば、艦内へのダメージは殆どない。これは、対アフィ魔Xにおける選択肢の一つ、説得においてかなりの好都合。極当たり前の話として、空中艦を半壊なり何なりさせた後に説得しようとするのと、最小限の被害で抑えて説得しようとするのじゃ、心象が大きく違うものだから。
「んじゃ、さっさと行こうぜ。通路は…あっちか」
「そうね。おっきいわたし、もう暫く掴まっててもらえる?」
「もっちろん。置いてけぼりは嫌だもんね」
艦内への侵入は成功。だから次の目的は、ブリッジまで向かう事。
敵の施設内、特に通路はあまり広くない(飛び回るには、という事であって、艦船の通路としては普通サイズ)訳だから、私達は飛びつつも速度は出し過ぎないようにして進む。中の作りは得ていた情報の通りだから、現状迷う事はない。
「どこでどのような迎撃を受けるか分かりませんわ。皆、油断しませんように」
「はーい。…あ、なんか前にこーじょーでたたかった時と、似てるかも…」
「うん。にてる(こくこく)」
「あぁ、ルウィーで制圧戦をした時の…って、ベールさんが言った側から脱線した話してどうするのよ…」
二人が言っているのは、前の旅…ギョウカイ墓場からネプテューヌ達を助け出すまでの旅で、ルウィーにて行った作戦の事。確かにあの時も、飛んで通路内を移動したし、何なら飛べないメンバーを抱えてもいた。ユニの突っ込みはその通りだけど、ロムちゃんやラムちゃんの気持ちもまぁ…分かる。
(…に、しても静かだ…艦内に迎撃設備がないのは別におかしい事じゃないし、前にベールとネプギアが突入した時は誰もいなかったって事だから、そもそも搭乗員もあの二人以外いないのかもしれないけど……)
何の障害もなく、何の迎撃も受けず、私達は進めている。それは都合が良い事だけど…敵陣でこうも反応がないというのは、少し不気味。出来る事が何もないから静かなのか、わざと何もしてこないのか…それを確かめる手段だって、こっちにはない。
とはいえ、どちらだろうとやる事は同じ。妨害がないというのなら、最短ルートで進むまで。
「皆さん、こっちです!ここは格納庫を突っ切った方が早く進めます!」
「……!待って、ネプギア!」
指示に従い、通路から格納庫へ。そのままネプギアを先頭に突っ切ろうとして…直後響いた、ネプテューヌの声。
反射的に止まった私達と、ネプギアのすぐ前の床に突き刺さる一本の苦無。そして現れたのは…青い装甲に身を包んだ、アフィ魔Xの忍者。
「…影からの不意打ちにも反応するとは、流石守護女神。ネプギア殿も、その動きからして仮に声をかけられていなくても避けていたので御座ろうな」
「ステマックス…!」
忍者の本領発揮とばかりに、まるで影の中から出てきたかのように姿を現すステマックス。待ち構えていたらしいステマックスに、私達も武器を構える。
「はっ、テメェこそ中々余裕じゃねぇか。…苦無の刺さった位置、これじゃ気付いてなくても当たっちゃいねぇ。端から当てるつもりがなかったな?」
「闇討ち程度でひっくり返る戦力差でない事は明白で御座るからな。だから、やってみたかった事をやっただけで御座る」
「やってみたかったこと…足元に、びゅん…?」
「正解で御座る。やろうと思っても基本やる機会がないで御座るからな」
不思議そうな顔で訊くロムちゃんに、ステマックスは回答しつつ肩を竦める。確かに万全の状態の女神は、闇討ち程度じゃやられたりなんてしないけど…それでもわざわざ「やってみたかった事」で不意打ちのチャンスを消費してしまうというのは、とても賢明な判断とは言えない。劣勢だと分かっているなら、尚更チャンスを有効利用しない手はない。
だというのに、ステマックスはそうしなかった。なら初めから勝負を捨てているのかといえば、そうでもなさそう。今のステマックスは、何か余裕と自信に満ちていて……もしや、何か策があるって事…?
「ステマックス、貴方一人?アフィモウジャスは?」
「将軍に用で御座るか?残念ながら、力尽くで入り込んできた相手をそのまま通す訳にはいかないで御座る」
「…つまり、会いたいのなら自分を倒していけ、と?」
「左様。尤も、何れにせよここは通さないで御座るがな」
ノワールと私の問いに答えた直後、ステマックスの背後…私達が目指していた奥の通路が爆発し、瓦礫によって塞がれる。…隔壁じゃなかったのは、そこに隔壁がないからか、それとも隔壁程度じゃすぐに破壊されてしまうと分かっているからか。
でもどちらにせよ、一つはっきりしている事がある。自ら退路を潰した以上、ステマックスがこの場を乗り切るには私達を突破するか、隙を晒してここのハッチを操作し、それで道を開くしかない。つまり…本気なんだ。本気で戦うつもりなんだ。
「さあ、掛かってくるがいいで御座る。拙者は忍者、どれだけ人数差があろうとそれを卑怯とは言わんで御座る」
「……っ…聞いて頂戴、ステマックス!アタシ達は……」
逆手持ちの刀を横に構え、ステマックスは鋭い視線を向けてくる。その雰囲気は紛れもなく本気で、研ぎ澄まされた刃の様。
そのステマックスに向けて、強い感情の籠った声を上げるユニ。ユニはきっと、戦いに来た訳じゃない事、対話する道もある事を伝えようとしていて……けれどそれを、ステマックスは止める。手裏剣を前腕部に装備した左手…その掌を、こちらに見せて。
「拙者は従者。時に将軍の矛となり、時に将軍の支えとなり、時には共に馬鹿な事をする忍者。故に…話があるなら、それは将軍にするで御座る。将軍が納得する答えならば…拙者にとっても、悪くない話で御座ろうからな」
「…つまり、どちらにせよ戦いを避けるつもりはないという事なんですね…」
待った、のジェスチャーをした後再び構えるステマックスを前に、ネプギアが静かな声で返す。
確かに、ステマックスに戦闘を回避しようとするような気配はない。あくまで私達に喰らい付くんだという意思が見て取れる。…こういう相手は、厄介だ。覚悟が決まっていて、精神に余裕があり…その上で玉砕する気なんかはない相手は、一番油断ならない。
「…良い気概ですわ。であればわたくし達も、生半可な事は出来ませんわね」
「そうね。ここで長い時間足止めされる訳にもいかないし、お望み通り……」
「…待って、お姉ちゃん。ここは…アタシに、任せて」
ここでの対話が叶わないなら、戦い、そして進むまで。そう私達が考える中、待ってとユニが声を上げる。
「任せて…?ユニちゃん、せっとく…するの?」
「できそーなの?」
「ううん、そういう事じゃなくて…ステマックスの相手は、アタシに任せてほしいの」
説得ではなく、戦闘の相手。有り体に言えば、ユニが言っているのは、ここは自分に任せて先に行けという事。
それも、一手ではある。このまま全員で別ルートを行こうとしても妨害はされるだろうし、全員で戦ったとしても何か策を用意されていた場合、想定以上の時間がかかってしまうかもしれない。
けど、今後罠や、人手が必要な妨害を受けるかもしれない。それに備えてここは全員で戦い、戦力の分散を避けるのも判断として一理ある。先に何があるか分からない以上、どちらか一方が正しいという訳ではなくて……
「…うん、いいよ。私はユニに、この場を任せてもいい」
「…ありがとうございます、イリゼさん」
「ううん。私も前に、似たような事をしたからね」
だから私は、ユニの気持ちを、意思を尊重する事を選んだ。嘗て私が、ジャッジとの再戦の約束を果たそうとした時、皆がそれを受け入れてくれたように。
「皆は、どう?ここをユニに任せるか、それとも全員で戦うか」
「…まあ、イリゼが賛成してるのに、姉の私が反対するんじゃ格好が付かないものね。それに、ユニはさっきちゃんと成果を、意見を押し通すだけの結果を残してる。…任せても良いのよね?ユニ」
「勿論。お姉ちゃん達が進む邪魔なんかさせないし、後で追い付くよ」
少し回りくどいというか、理屈っぽい理由を挙げた後に、任せても良いのよね?…と、暗に「任せる」と、ノワールは言う。…相手は妹なんだから、もっと普通に、素直に言えばいいものを、こういう表現する辺りはやっぱりノワールで…でもまあ、それも一つの形だと思う。だって現に、ユニはしっかりと、力強く頷いているんだから。
「…ユニちゃん、ここはお願いね」
「がんばりなさいよね、ユニ!」
「先に、行ってるからね…!(ぐぐっ)」
「えぇ、気持ちは受け取ったから早く行って。じゃなきゃ、ここでアタシが引き受ける意味がなくなるわ」
駄目な理由なんかない。そう伝えるように、同じ女神候補生の三人もユニへとエールを送る。それを受け取ったユニは、小さく笑って…ステマックスに、向き直る。
「行くわよ、皆!」
ネプテューヌ達も、ユニの思いに頷いていた。これ以上の言葉は必要ないとノワールは格納庫から通路に戻り、私達もそれに続く。
聞いている話の通りなら、一対一でも十分ユニに勝機はある筈。でもステマックスの余裕が、秘策や罠によるものなら、どうなるかは分からない。でも、私達はこの場をユニに任せた。ならば、私がすべきは決まっている。ユニなら大丈夫だって…信じるだけだ。
*
「…悪いわね、待たせちゃって。というか、わざわざ待つだなんて義理堅いじゃない」
「正直、あのようなやり取りはぐっとくるものがあるで御座るからな。邪魔はしたくなかったので御座る」
ここを任せてくれたお姉ちゃん達の気配がなくなったところで、アタシはあいつに…ステマックスに投げ掛ける。義理堅い、と言われたステマックスは、割と軽い調子で返す。
「…前よりアンタ、自分を曝け出してる感あるわね。アタシ達全員を前にしても全然テンパってなかったし…もしかして、改良でもした?」
「なぁに、大勝負を前に少し気分が高揚しているだけで御座るよ。拙者はあくまで拙者で御座る」
「そう。普段からそれ位の調子でいた方が、人付き合いも楽だと思うわよ?」
「はは、普段からこの位でいられるのなら、助かるので御座るがな」
正対したまま、戦いには関係のないやり取りを交わす。これがただの敵なら、さっさと戦って倒すところだけど…ステマックスは、そうじゃない。敵ではあるけど、ただ打ち滅ぼすだけの悪じゃないって事は…アタシには、分かる。
言葉から、雰囲気からも、悪意や負の感情は感じない。多分、ほんとにアフィモウジャスへの忠誠心…それに仲間としての思いから、ステマックスは戦おうとしている。…だから、アタシは思い出す。タイプも方向性も全然違うけど…昔同じように戦った、ブレイブの事を。
「ステマックス。アタシはアンタを、何が何でも倒したい訳じゃない。…アンタにその気さえあれば、これはしなくても済む戦いよ」
「優しいで御座るな、ユニ殿は。…されど、丁重にお断りするで御座る。男には、戦わねばならぬ時があるので御座る」
「…男ってのも大変ね。女も女で面倒なものだけど」
「ロボットと女神が男女について語る…何とも奇妙なやり取りで御座るな」
「ま、確かにね」
戦いの前に、変なやり取りをしてるものだ…とアタシ達は互いに肩を竦め合う。
本当に、戦闘前とは思えない会話。…けど、だからこそ分かる。こんな会話が出来るのは、ステマックスに迷いがないから。戦う意思が決まっているからこそ、こういうやり取りが出来るんだと思う。
「…気の抜けた話をするのはここまでよ。貴方に退く気がないのなら、あくまで邪魔をするって言うのなら…アタシは、アンタを倒す」
「ならば拙者は、全身全霊で迎え撃つまで。仮に勝つのが困難だとしても…暫くは付き合ってもらうで御座るよ…ッ!」
アタシは得物の銃口を向ける。ステマックスも真正面からアタシを見据える。お互い意思は決まっているからこそ…それを貫く為に、全力で戦う。
格納庫を包む、静寂。一秒、二秒と沈黙が広がり…アタシの一撃で、戦いは始まる。
「そこ…!」
「ふ……ッ!」
胴を目掛けて放った射撃。それを左に避けたステマックスは、大手裏剣をアタシへ投擲。反撃を回避し撃ち込んだ二発目も、ステマックスには当たらない。
「やっぱり、その俊敏さは厄介……っと…!」
回避した動きのまま、距離を取ろうとするステマックス。更に仕掛けようとしたアタシだけど、その寸前に叫ぶ直感。感じたままに横へと跳べば、一瞬前までアタシがいた場所を大手裏剣が…戻ってきた攻撃が駆け抜けていき、これも厄介だったと思い出す。
「前回の様には、いかないで御座る…ッ!」
前に飛び出し、大手裏剣を回収しながら斬り込んできたステマックスの一太刀。それを後方跳躍で避けつつ引き撃ちをすれば、ステマックスも大きく跳んで射線の外に。
そこから再び放たれる大手裏剣。その軌道はアタシの頭を越えるもので、偏差射撃…じゃなくて偏差投擲だと気付く。投げたステマックスは刀を構え、宙からアタシに向かってきていて、刀と大手裏剣、その二つに挟まれる形。
だからアタシは両足先を床に押し付け、そこから力尽くで前へと跳んだ。止まるでも、下がるでもなく、ステマックスの下を通り抜ける事で二段構えの攻撃を避ける。
「流石はユニ殿、この程度では全く通用しないので御座るな…!」
「当然よ…ッ!」
振り返りざまの一撃は、刀によって斬り払われる。ステマックスは追撃を回避し、回収した大手裏剣と共に格納庫内のコンテナの裏へ。
(やっぱり使ってくる訳ね…なら、次は……)
心を落ち着け相手の出方を伺う中、初めに見えたのはコンテナ裏から弧を描いて飛んでくる大手裏剣。直後、その逆側から苦無もアタシへ飛んできて、二方向からの攻撃に対してアタシは跳躍。交差するであろう攻撃を上に避けて…待っていたとばかりに、ステマックスが現れる。コンテナの上を駆け抜け、真っ直ぐアタシへ飛んでくる。
「貰った…ッ!」
「あげないわよ…ッ!」
逆手持ちの刀が、アタシの首元に振るわれる。それを今度は身体を捻り、姿勢を変えて紙一重で回避したアタシは反撃を一発。けど無理な姿勢から放った攻撃なんて元々期待出来るものじゃなくて、弾丸はステマックスの背中…その装甲を掠めただけ。
着地の直後、またステマックスは別のコンテナの影に隠れる。だけど今度は、アタシも追う。
「みすみす逃したりはしな…、……ッ!」
左側からコンテナ裏へ走ったステマックスの先回りをするべく、飛んで上から回ったアタシ。…けど、コンテナの裏、そこに隠れると踏んだ場所にステマックスはいない。
…と、思った次の瞬間、今アタシのいる左斜め前…さっきの視点でいえば、コンテナの左側からステマックスが強襲。今度は反撃のチャンスもなく、回避に徹する事を強いられる。…くっ…アタシが上から先回りをする事を見越して、左側で一度止まっていた訳ね…ッ!
「言ったで御座ろう?前回の様には、いかないと…ッ!」
「確かに、そうみたいね…ッ!」
一旦は近くのコンテナの裏に隠れたアタシだけど、即座に回り込んできたステマックスに襲われる。お返しの射撃はすぐにステマックスがコンテナや他の遮蔽物に隠れるせいで、殆ど偏差射撃が成り立たない。だから、ここは不味いと比較的開けた場所に移動して…でも、根本的には変わらない。それに、今度は中々ステマックスが仕掛けてこない。…けど、それは当然の事よね。ステマックスの目的は、アタシをここに足止めする事なんだから。
(…地の利は完全に向こうにある。まあまあ広いとは言っても、ここは完全にアタシが不利。被害を無視した攻撃も、説得のチャンスを潰しかねないし…何より、このまま無理に短期決戦を狙ったら、アタシがむしろ負けるかもしれない…)
焦ったさを感じる心を落ち着けて、アタシは考える。遮蔽物が多い場所は、どうやったって射撃が不利。前のドームより天井も低い以上、コンテナの陰なんて関係ない高さから撃つっていうのも難しい。ステマックスだって、遮蔽物が多いとアタシを見失い易い筈だけど…まだ遮蔽物の位置、数、大きさなんかを把握し切れていないアタシと、既によく分かっているだろうステマックスじゃ、そこでもやっぱりあっちが有利。ここが開けた草原とかなら、アタシの方がずっと有利だろうけど…今の環境は、アタシとステマックスの差を埋めるどころか、逆転すらもさせるかもしれない。
そう考えると、ここでアタシが残ったのは失策。環境的には、お姉ちゃん達が残った方が良かったのかも。…だけど、ここは…ステマックスの相手は、アタシがしたかった。ちゃんとアタシが、ステマックスとの決着を付けたかったから、皆に頼んで…それを皆は、受け入れてくれた。…だから、泣き言なんて言わない。不利なら不利でいい。不利だろうと、なんだろうと…アタシは全力で、ステマックスに勝つ。
「…前回の様にはいかない…それはアンタの、決意と覚悟も含めての事かしら?」
「…かも、しれないで御座るな」
「ふぅん…そういう事なら、確かに大違いね。状況とか、場所とか抜きにしても…今のアンタは、前より強く感じるわ」
ふぅ…と一つ息を吐いて、アタシは肩の力を抜く。でもこれは、諦めた訳じゃない。一度抜いて、入れ直しただけ。力を、本気を…アタシの意思を。
「…だけど、前と違うのは状況や場所だけじゃない。アンタだけでもない。…見せてあげるわ、ステマックス。今のアタシの…ブラックシスターの、全力全開を…ッ!」
そう言い切って、アタシは身体の奥から力を引き出す。今のアタシの出せる全力、今のアタシにある全霊…その結晶であるビヨンドフォームを発動させる。
変わっていくプロセッサユニット。漲る力と感じる思い。そしてアタシは目の前を見据え…床を、蹴る。
「……!その姿は……な…ッ!?」
翼を広げて加速しながら、一気にステマックスが隠れているであろう場所へ。数個のコンテナの側面を駆け抜けた後、ステマックスを見つけたアタシは突撃をかける。
今のアタシの姿に驚きながらも、ステマックスが投げる大手裏剣。真っ直ぐアタシへ飛んでくる中、アタシは一切速度を落とさず…身体を前に倒して、上下にすれ違う事で避ける。直後にまた床を蹴って、身体を跳ね上げて、肉薄からのサマーソルトキックを放つ。
「近接、格闘…ッ!?」
「どこぞの弓を使わない弓兵じゃないけど…今のアタシが射撃一辺倒だとは思わない事ねッ!…ま、射撃もするんだけど…ッ!」
驚きながらも防御の姿勢を取ったステマックスを蹴り飛ばし、回転の最中に光弾型ハンドガンを素早く抜く。着地と同時に引き金を抜いて、後退したステマックスに追撃をかける。
ビヨンドフォームになったのは、全力を尽くすって意味でもあるし、近接戦の為でもある。絶対に、確実に…曇りのない本気で、ステマックスを倒すっていう証明でもある。だから……
「勝負はここからよ、ステマックス…ッ!」
アタシは再び距離を詰め、攻撃を仕掛けていく。後悔せず、胸を張って……この作戦を、果たす為に。
今回のパロディ解説
・デボンスコープ
ポケットモンスター ルビー・サファイア・エメラルド及びそのリメイク作品に登場するアイテムの一つ。カクレオンと似たような光学迷彩なら、確かに見えるかもですね。
・どこぞの弓を使わない弓兵
Fateシリーズにおける、アーチャークラスの事。遠距離クラスの筈なのに接近戦ばかり…というやつですね。尤も、それももう過去のものって感じですが。