超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
空から現れたのは、くろめとダークメガミ。今信次元で起きている…他の次元も巻き込んだ事態の元凶と、くろめが護衛の様に連れている、他の個体とは気配の違う存在。
それを見上げるのは、わたしと、ぷるるんと…それに、うずめ。わたしこと信次元プラネテューヌの女神と、神次元プラネテューヌの女神と…自分しか戦える存在がいない中で、逃げ出す事なく戦い続けてきた女神。
考えてみれば、二人が直接会う事はこれまでなかった。違う次元にいたんだから、それは当然といえば当然で…だけどその二人が、遂に正対した。うずめとくろめが。二人の、うずめが。
「……はっ、確かに俺そっくりだな。髪といい服といい、2Pカラー感あるけどな」
「同じオレ同士とはいえ、初対面の相手を2Pカラー呼ばわりとは…全く酷いものだね」
【俺】と呼ばれたうずめは、皮肉を込めた言葉を返す。それに対して、くろめは肩を竦めて、やれやれと首を横に振る。
「…いーすん」
「分かっています。各国の皆さんにも、既にお伝えしました」
見上げたまま、インカム越しにわたしは小声でいーすんを呼ぶ。でも既にいーすんはわたしが頼もうとしていた事をやってくれてるみたいで…流石いーすん。次元の繋がりの事を調べながらの筈なのに、こんなすぐ対応してくれてるし…ほんと、いーすんはいつもいつでも頼れるよ。
「…ねぷちゃん、あの人が……」
「うん、そうだよぷるるん。…暗黒星くろめ。うずめとは違う…もう一人のうずめ、だよ」
「君は……あぁ、そうか。オレに、【俺】、現プラネテューヌの守護女神であるねぷっちに、神次元のプラネテューヌの女神…後はぎあっちがいれば、勢揃いという訳だ」
そういえば、ぷるるんも直接見るのは初めてだったんだ…と思いながらわたしが話すと、くろめもぷるるんの方を見て、凄く意味深な言葉を口に。
「勢揃い…?…くろめ。勢揃いって、何が?」
「女神が、だよ」
「女神が…?何言ってんだ、お前は。女神なら、信次元だけでももっと沢山……」
「早計だね、【俺】。オレが言っているのは、そういう事じゃない。オレは……プラネテューヌの女神が、って意味で言ったんだよ」
『……え…?』
怪訝な顔で、うずめは言い返す。わたしもくろめの言葉には、どういう事…?って思っていた。…そんな中で、くろめは言う。勢揃いになるのは、プラネテューヌの女神が、と。
一瞬、訳が分からなかった。ううん、一瞬じゃなくて、今も分からない。わたしはそう。ネプギアもそうで、ぷるるんもそう。だけどうずめは、うずめとくろめは……
「……っ…!…まさか、うずめ達のいた次元には元々プラネテューヌがあって、そのプラネテューヌの女神が……」
「いいや、違うよねぷっち。あれは元々、ああいう次元なのさ。そしてオレは、別次元の女神じゃない。ここ、信次元の……
『……──ッ!』
思い付いたのは、ぷるるんと同じ、別次元のプラネテューヌって可能性。でもそれを、くろめは否定する。否定して、更に言う。別次元じゃ、ないんだって。信次元の…わたしより前の、女神なんだって。
そんな事、想像もしなかった。わたしより前の代の女神がいる事は当たり前だけど、そっちを想像する事なんてこれまで一度もなくて……次の瞬間、聞こえてきたのはいーすんの声。
「あ…あり得ません!あり得る筈がありません…!」
「え、い、いーすん…?」
「惑わされないで下さい、皆さん…!わたしは記録者として、歴史も詳細に記録しています…!そしてわたしが知る限り、わたしが調べ得る限り、プラネテューヌの女神が彼女であった時代はないんです…!手元にはありませんが、歴史に纏わる本でも答えは同じになる筈です…!」
いーすんは、くろめの言葉を強く否定する。おかしい、って疑問を投げかけるんじゃなくて、絶対ないって言い切る位の、それ位に語気が強い声で。…いーすん…?…なんだろう…言い切るのは分かるけど…なんかいーすん、普通じゃないような……。
「…俺が、過去のプラネテューヌの女神…?…馬鹿言え、だったらなんで違う次元に居たってんだ…それにそもそも、俺の女神としての名前は……」
「オレンジハート…あれは自称であって、女神としての正式名称はあくまでパープルハートさ。全く…その立場にいた頃より、今の方がその名前らしい姿となっているんだから、皮肉なものだよ」
「ふーん…それよりぃ、あたし貴女の話、変だと思うな〜。だってその話の通りならぁ、守護女神が二人だったって事になるでしょー?それともろむちゃんらむちゃんと同じで、そういうものなのぉ?」
当然いーすんの声が聞こえていないくろめは、うずめの言葉に軽く肩を竦めて答える。その回答に言葉を返したのはぷるるんで…のんびりした声なのに、その声からは鋭さを感じる。
確かにぷるるんの言う通り。もしうずめとくろめが信次元の、過去のプラネテューヌの守護女神っていう事なら、その時のプラネテューヌには守護女神が二人いたって事になる。普通に考えれば、「オレは」であって「オレ達は」って事じゃない…くろめが過去の信次元の女神で、うずめは別次元の…って事だと思うけど、くろめの言葉からは、そういう意図は感じない。
じゃあ、やっぱり二人で守護女神をしてた?ロムちゃんラムちゃんと同じように?…ううん、やっぱりそれもおかしい。だって、くろめ…っていうのはおっきいわたしが付けた渾名であって、くろめも「天王星うずめ」なんだから。
「話は最後まで聞くものだよ。…まあ、然程複雑な話でもないけどね」
「話は最後まで聞く、だぁ?だったらなんだ、お前は…【オレ】は、そのデカい友達を連れてお喋りにでも来たってか?」
「……っ…まさか、君達に会ったのは偶々さ。だから、聞きたくないなら昼寝でもしていればいい。…自分が何故、記憶がないのかを知りたくないのなら、ね」
「…何だと……?」
(…あれ…くろめ、さっき一瞬表情が……)
最初の驚き以降は普段通りなくろめと違って、うずめは剥き出し…って程じゃないけど、ずっと敵対心を向けている。…けど、その気持ちは分かる。ずっと話に聞いていた、自分と同じ姿の元凶と、遂に直接あったのが今なんだから。
そのうずめの言葉に、一瞬表情が歪んだ…気がしたくろめ。でも、よく見ようとした時にはもう元の表情になっていて…くろめはうずめを煽り返す。
「そもそも、だ。過去の女神が現代にいるというのはおかしな話だろう?勿論、次代に守護女神の座を譲った後、ずっと隠居していた…なんて線もあるのかもしれないけど、まさかそんな話だと思うかい?」
『…………』
「そう、何もそういう事じゃない。…オレは嘗て、信じていた仲間や友に裏切られ、身体の自由を奪われた。オレは今も昔も、ずっとこの次元の、皆の事を考えていたというのに、それを理解してくれなかった者達に、ね」
無言のわたし達に頷いて、くろめは語り出す。遠くを見るような目で…過去を思い出しているような目で。
「けど別に、オレは彼女達を恨んでなんかいない。むしろ今となっては、仕方ないとすら思っているよ。何せオレ自身、原初の女神の力は初め信じられなかったし、その力が本物だと分かった事で、そういう存在を認めるのは中々心の負担になるって知ったからね。それを踏まえて考えれば、オレの説得の仕方も完璧じゃなかったって事だったんだろう。力が無い者より、なまじ力がある者の方が、理解を超える力を飲み込み辛い…そういう事さ」
「…よく言うぜ。仮に恨んでなかったとしても、その仲間や友を見下してるのがありありと分かる言いようじゃねぇか」
「見下している?…ふん、皆の事を知らない…いや、覚えてない【俺】が偉そうに言うじゃないか」
「……っ…」
冷ややかに言葉を返したうずめだけど、不愉快そうに鼻を鳴らしたくろめの返しに、表情を歪めて歯噛みする。…でも、そんなの当然の事。記憶がない事、思い出せない事、分からない事……それはどんなに明るく振る舞ってたって、心にくるものだから。思い出したいって思う程、辛く感じるものだから。
「…話が逸れてしまったね。とにかく俺は、一度守護女神としての道を閉ざされた。普通なら、どうにもならない…諦めるしかない状態だった。けど、オレは今ここにいる。こうして、自由に動く事が出来る。理由は…言わなくても分かるだろう?」
薄く笑いながら言うくろめの言葉で、すぐにわたしは思い浮かべる。
妄想能力。ある程度条件や欠点はあるけど、妄想した事を実現させられる…意図的に妄想した事でも現実に反映出来る、わたし達女神からしても「あり得ない」と思う程の力。その力があれば、確かにどんな窮地から脱する事が出来てもおかしくはない。
けど、それを知っているのはわたしとぷるるんだけで、うずめは知らない。だからうずめは怪訝な顔をしていて…それを見たくろめは、今浮かべていたのとは別の…それよりも含みのある笑みを口元に浮かべた。その理由は…分からない。
「とはいえ、万事上手くいった訳じゃない。今に至るまで、多くの障害や問題もあったし、想定外の事も一つや二つじゃなかった。特に、オレじゃないオレがいると知った時は、【俺】の存在を認識した時には、驚いたよ。別次元のオレという訳でもない、片割れとでも言うべき自分がいたんだからね」
「片割れ、だと?はっ、じゃあなんだ。どこぞの風の精霊や大魔王みたいに、俺とお前は元々一人の『天王星うずめ』だったとでも言うのかよ」
うずめもくろめも、相手に向ける態度は変わらない。その態度のままで、またうずめは食ってかかるように言って…だけど、くろめはそれに答えなかった。答えず、じっと見つめ返すだけだった。…まるで、うずめの言葉を肯定するみたいに。
「…何、黙ってるんだよ…まさか……」
「ふっ…おっと、勘違いしないでもらおうか。確かにオレと【俺】は、本来のオレから分かれたような存在。だけど別に、均等に分かれた訳じゃない」
「テメェ…何を根拠にそんな……」
「だって、そうだろう?オレは記憶を、過去の歩みもオレがオレである為の意思だって有している。昔の状態に戻っている【俺】と違って、オレの力は変わらないままだ。むしろ、逆に問おうか。未だ自分の力にも気付いていない、女神化出来るとは言ってもシェアクリスタル頼りでとても女神らしい事なんて出来ていない…何より記憶のない、思い出も過去の繋がりもない【俺】が、オレと対等だとでも思うのかい?」
「…そ、れは……」
「オレが一部のパーツの抜け落ちた天王星うずめとするのなら、【俺】はさしずめ、その抜け落ちたパーツ同士が寄り集まって、一応形になっただけの、天王星うずめらしきものだろうさ。勿論、そのパーツは本物な以上、【俺】もまた天王星うずめである事には変わりないけど…オレと【俺】なら、どっちがより本来の姿に近いうずめで、どっちがでっち上げのうずめかだなんて、明白だろう?」
そして、くろめは言う。自分こそが、より本物に…元々の自分に近いうずめなんだと。うずめは、自分から外れた「それ以外」の部分で出来た存在に過ぎないんだ、と。
……そんな訳ない。うずめがでっち上げだなんて、わたしはそんな事ちっとも思わない。だけど…すぐにうずめに、声をかけてあげる事は出来なかった。わたし自身、くろめの話は衝撃的で…まだ飲み込み切れていなかったから。
「全く…あのまま向こうで粛々と暮らしていたのなら、捨て置いたものを。…いや、こう言うのは流石に酷かな。ねぷっち達との出会いは、【俺】がどうこう出来る事じゃなかったんだから」
「粛々と、って…だったらなんで、ダークメガミでうずめ達を……」
「記憶がなくとも【俺】はオレ。万が一の事考えれば、分かり易い脅威を用意しておいて、それ以外の事に意識が向かないようにするのは当然さ。それに、ねぷっち達…今の時代の女神を試す以上は、どっちにしろ敵となる存在が必要だったからね」
飄々と、くろめは話を続ける。いつも通りの、柔らかな口調で。なのにどこか冷たい感じのする…いつもと変わらない、その喋り方で。
「…それに、少し期待もしていたんだけどね。オレが二人に分かれた事、これにはちゃんと意味が…二人になった事で変わるもの、得られるものがあるのかもと思っていたけど、結果はこれだ。結局のところ、オレの一部があぶれた事も、【俺】が生まれた事も、いつものアレに過ぎないんだろうね」
そう言って、くろめはわたしの方を見た。わたしを見て、肩を竦めた。その理由は…分かる。
妄想能力の欠点の一つ、実現した妄想の『ズレ』。それがうずめの存在なんだって、くろめはそう言っているんだ。
「…さて、分かってもらえたかな、【俺】。それとも理解し切れないかい?まあ、分からなくても仕方ないさ。【俺】はオレの本来の力を知らない、欠けた破片側なんだから」
「……だから、なんだってんだよ…俺がでっち上げの存在だから、【オレ】の邪魔をするなってか…」
「確かに邪魔はしないでほしいね。けど…【俺】だって、哀れなものだよ。生まれた理由も分からず、記憶もなく、おまけにその正体は抜け落ちたパーツの寄せ集め。…だから、どうだろう【俺】。オレと共に、この信次元を変える気はないかな?」
「は……?」
うずめは言葉を返す。返すけど、その声はこれまでと違っていて…ショックを受けている事が、考えなくても分かる程に伝わってきた。
そんなうずめに向けて、くろめは言う。自分の側につく気はないか、って。
「寄せ集めであっても、その力は本物だ。この力が二つあるなら、この上なく鬼に金棒というものさ。それに、元々は一人のオレな以上、再び一つに戻る事も出来るとは思わないかい?…今こそ戻ろうじゃないか、あるべき姿に」
「…そんなの願い下げだ。なんで俺が、お前なんかと……」
「おや、薄情だね。…一つに戻るという事はつまり、君の失った記憶も取り戻せるという事だよ?気心の知れた友、信頼の置ける仲間、関わってきた多くの人…そんな者達の事を全て忘れたままでいようなんて、そんな薄情をする気かい?【俺】だって、人を守る『女神』だろう?」
「……ッ…!」
もう一人の自分の、もう一つの妄想能力を目的に、くろめはうずめに語りかける。うずめはそれを突っ撥ねるけど、くろめは肩を竦めて、うずめを揺さ振る。記憶を、過去を、あった筈の繋がりを持ち出して、誘いの糸を絡み付かせる。
本当に、くろめはこういう話をするのが上手い。心を揺さぶるその言葉を聞くと、やっぱりくろめも『女神』なんだなと思わされる。そしてうずめが言葉に詰まる中、くろめが…くろめの乗るダークメガミが、差し出すように右腕を伸ばしてきて……その直後、斜めに飛来したのは光芒。
「お姉ちゃん!皆さん!」
「……!ネプギア…!」
「…漸く来たね、ぎあっち」
伸ばされた手を遮るようにビームが駆け抜けて、次の瞬間女神化したネプギアがわたし達の前に立つ。
立ちはだかるようなネプギアと、わたし達を見て笑うくろめ。わたしの名前を呼ぶネプギアの言葉で、いつの間にかくろめの放つ雰囲気に流されていたわたしは我に返り…ばっと右手を、うずめの前に出す。
「…くろめ、悪いけどうずめは渡さないよ。それに、言いたい事は色々あるけど…特に言いたい事が、一個ある」
「なんだい、ねぷっち」
「確かに記憶は、過去との…出会ってきた人との繋がりだよ。だけど、繋がりは記憶だけで作られるものじゃないし……記憶がなくたって、繋がりが切れたりする事はないわ」
言い放つ言葉と共に、わたしは女神化。右手はうずめの前に出したまま、左手で持った大太刀の斬っ先をくろめに向ける。
これは、これだけは、絶対に言っておかなくちゃいけなかった。だって…これは、わたしの答えだもの。わたしはあの日、記憶を取り戻す事より、記憶を失った事で開いた道を、掴めた絆を選んだ。けどそれは、過去を切り捨てたって事じゃなくて……わたしが記憶を失う前から教祖として支えてくれたいーすんは、わたしの選択を受け入れてくれた。教会の皆の中にも、わたしが記憶喪失だって知ってる人はいて…だけどその人達は皆、今も変わらずわたしを支えてくれている。今のわたしは、記憶喪失になって以降の記憶しかないけど…国民の皆は、わたしを女神として信じてくれている。だからわたしは、あの時記憶を取り戻さない選択をした事を、今も間違ってなんかいなかったんだって、胸を張って言える。
これは、くろめに向けて言った言葉。だけどこれが、うずめにも届いてくれていたら…そうなっていれば、わたしは嬉しい。
「ねぷっち…」
「おぉ〜、ねぷちゃん格好良い〜。じゃあ、あたしも〜!…貴女、色々知ってるみたいだけどぉ……くろめちゃんって、典型的な人の事を勝手に決め付けるタイプよねぇ。そういう子って、嫌われ易いのよぉ?」
わたしに続くように、ぷるるんも女神化。あたしも、って言いつつ、言ってる内容がわたしとは全然違うけど…このマイペースさこそ、ぷるるんって感じ。
「…嫌われ易い、ね…それをまさか、そんなもたもたした喋り方をする相手に言われるとは…。…まあ、いいさ。オレが訊いているのは、【俺】だよ。どうだい?記憶は取り戻したいだろ?」
「…あぁ、そうさ。記憶は取り戻したい、取り戻したいに決まってる…。……けど、お前と…これまで海男達を散々苦しめて、皆にも迷惑をかけて、どうしようもねぇ事ばっかりしてる【オレ】と手を組むなんざ…真っ平御免だ…!」
「…そうか。まあ、期待はしていなかったさ。もう理解されないのは、慣れっこだからね」
記憶は取り戻したい、だけど…と、うずめはくろめの誘いを跳ね除ける。それはいつもの、自信に満ちた声じゃなくて、どこか必死な響きだったけど…それでもうずめは、くろめの手を取る事はなかった。
その言葉を受けたくろめは、然程気にもしていない様子。その様子が、理解されない事にも慣れた…と普通に言ってしまう状態なのが、わたしには少し悲しくて…でも、気を抜く気はない。
「くろめさん。今回貴女に、戦う気があるのかどうかは分かりません。ですが……」
「逃がす気はない?女神四人とダークメガミ一体じゃ、勝てる訳がない?…甘いね、ぎあっち。このダークメガミが…プロトダークが、他のダークメガミと同じだとは思わない事だ」
『プロト、ダーク…?』
「君達も、感覚的に違いは感じているだろう?それに、後から来たぎあっちは分からなくても仕方ないかもしれないけど…オレが何も考えず、ただのんびり話をしていたとでも?」
初めて訊いた、初めて知った、この何か違うダークメガミの名前。けれどくろめは、それだけじゃないと言う。その言葉と共に、くろめは余裕を含んだ笑みを浮かべて…直後に感じる、新たな気配。
(……っ!まさか……!)
反射的に、空を…くろめよりも更に高くを見上げる。見上げた先には、青空が広がっていて…その空から、何かが迫ってくる。猛烈な速度で、それは飛来し……降り立つ。前に一度倒したのと同じ…負のシェアエナジーを全身に纏った、再生能力を持ったダークメガミが。
しまった、時間稼ぎだったのか。そう気付いたのとほぼ同時に、更にわたしの目には映る。同じように負のシェアエナジーを纏った、何体もの猛争モンスターの姿が。
「ここに来たのは元々、必須の理由があっての事じゃないからね。ここで変に手傷を負わされても困るし、追えない程度に消耗してもらうよ」
「……っ!ネプギアとぷるるんはあっちのダークメガミを、うずめは猛争モンスターをお願い!プロトダークは、わたしが相手をするわ!」
「え…お姉ちゃん、実力が未知の相手に一人だなんて……」
「だからこそよ。わたしがプロトダークを引き付けておくから、二人は無理をしない程度で、出来るだけ素早くダークメガミを倒して頂戴」
「そういう事ね。じゃあ、行くわよねぷぎあちゃん!」
「あ、は、はいっ!」
言うが早いか、蛇腹剣を展開しつつ飛び上がるぷるるん。ネプギアも追って飛び立ち、二人は盾を備えたダークメガミに向かっていく。
「…うずめ、戦える?最悪うずめは下がっててくれても……」
「馬鹿言え、俺だって女神なんだ。一人下がって見てるなんて…そんな事、出来っかよ……!」
そう言って、うずめは地面を蹴る。跳びながら手にしたシェアクリスタルで女神化して、猛争モンスターへ突進していく。…その声には、どこか自分に言い聞かせるみたいな響きがあって…けど、今わたしに気を遣うだけの時間はない。
「さぁ、頼んだよ。君の力を、存分に見せてやれ」
(来る……ッ!)
飛翔し、真っ直ぐプロトダークへ向かっていく中、くろめはプロトダークに指示。それを受けたプロトダークは、僅かに頭部を動かして……次の瞬間、一気にその姿が目の前に迫る。
「……ッ!?」
反射的にわたしは大太刀を掲げてガード。そこにプロトダークの拳が叩き付けられ、わたしは吹き飛ばされる。
防御は出来た。身構える事も出来たから、わたしは衝撃を逃がしつつも姿勢を立て直し、先制攻撃のダメージをやり過ごす。…けど、今の速さは想像以上。
「武器はない、ようだけど…ッ!」
そのわたしへ向けて放たれる、両掌底部からの照射砲。両方を避けてわたしが最接近をかければ、プロトダークはわたしの進路を塞ぐように砲撃を続けてくる。
更に近付いた事で、始まる迎撃の砲火。無数のエネルギー刃が弾幕を作り、わたしの接近を阻もうとする。
「けど、もうこの攻撃も慣れっこ……んな…っ!?」
プロトダークそのものの動きは速くても、迎撃の刃の速度や密度はそこまで変わらない。つまり接近さえすれば対処はこれまでと同じな訳で、一人でも十分引き付けられる筈。そう思いながら、わたしは見つけた迎撃の穴へ滑り込み……その直後、さっきまでの穴が嘘の様な迎撃の猛威に襲われる。堪らず一度後退した瞬間、プロトダークは逆に距離を詰めてきて、わたしを迎撃範囲から逃がしまいとする。同時に掌底部を向けて、迎撃の刃との集中砲火をかけようとする。何とかわたしは無理に下がらず、渦潮とは逆の要領で旋回しつつ少しずつ離れる事で脱したけど…今のは少し、危なかった。
(今の動き…もしかして、プロトダークは……)
迎撃の射程圏外に出た後も、わたしは高速でプロトダークの周囲を飛び立つエクスブレイドを精製。くろめは今、プロトダークから離れて単独の状態だけど…今はプロトダークの対応が優先。
気を見てわたしはエクスブレイドを射出。防御するか、撃ち落とすか…この二択を考えていたけど、プロトダークが選んだのは回避。それも身を屈め、地面を踏み締め、膝部をバネの様にして回避と同時に前方へ跳躍。流れるような動きで、回避からの反撃に転じる。その動きを見て…わたしは確信する。
「やっぱり…違うのは、スピードだけじゃないみたいね……ッ!」
迫る刃を斬り払い、優位に立ち回る事よりもっとプロトダークの動きや力を見る事を優先しながら、わたしは認識を改める。
間違いない。プロトダークは、明らかに他のダークメガミよりも頭が回っている。わざと隙を見せて誘い込んだり、行動を一つ一つで完結させずに流れとしたり、そういう戦闘の思考が出来ている。
他よりも高いスペックに、他のとは違う戦術的思考。まだ全容は見えていないけど、もしかしたらこのプロトダークは…マジェコンヌが融合したダークメガミと同等か、それ以上かもしれない。
「プルルートさん、大丈夫ですか!?」
「えぇ、けど…ダークメガミって、何だか気持ち悪いやつね…!…この感覚って……」
ちらりと横を見れば、ネプギアとぷるるんもダークメガミと奮戦中。ネプギアが援護し、ぷるるんが蛇腹剣をリングの様に周囲へ展開する事で迎撃を弾きながら接近と攻撃をしているみたいだけど…当然あっちも、まだすぐには終わりそうにない。というか、前の戦闘で編み出した対策だと、どうしても倒すまでに時間がかかる。
「巨体の割に、よく動くわね……ッ!」
頭部へ向けて突進…と見せかけて急降下し、高度を下げての突撃を狙ったわたし。対するプロトダークはサマーソルトキックという、巨体でやるにはダイナミックにも程がある行動でわたしを迎え撃ちにかかる。
下がった事を踏まえての蹴りなら、やっぱり判断力も中々ある。けど思考力がそれなりにあったとしても、サイズ差はどうにもならない訳で…わたしは回避すると共に、すれ違いざまに大太刀を振って脚部にあった迎撃の射出部位の一つを叩き斬る。そして、わたしは視認する。向こうのダークメガミと違って、こっちは再生をしない事を。
(…ネプギアとぷるるんなら、負ける事はないだろうけど…やっぱり、まだ暫く時間がかかる筈。こっちのプロトダークは、これまでのダークメガミより数段強い。余裕を持って時間稼ぎを…なんて悠長な事を考えてたら、痛い目を見る可能性もある。…なら……)
もう一度エクスブレイドを放ち、それを盾にする事でわたしは一気に離脱。向き直り、構え直し、小さく一つ深呼吸。正対する形のプロトダークをはっきりと見据え……ネクストフォームを、解放する。
「…ほぅ、その姿になるか」
「くろめ、貴女は頃合いを見計らって逃げるつもりかもしれないけど…こっちは本気でいかせてもらうわッ!」
前のダークメガミの時は第二波や別働隊の可能性もあったから、活動時間が大きく限られるネクストフォームは使わなかったけど…ここまでの事を思えば、この戦闘はくろめだって想定していたものじゃない筈。それにこれはもうただの予想だけど、このダークメガミの名前が『プロト』ダークで、前から現れてた割に同型の姿はこれまで確認出来てない事を考えれば、量産はしてないか出来ないのかもしれない。だったらここで倒せれば、わたし達にとって大きな利になる。ネクストフォームを使うだけの理由は、十分にある。
だからわたしはこの姿となり、全身に神経を張り巡らせる。まだ力の全てが分かった訳じゃないけど、そんなのは戦う上で当然の事。どんな力があろうと、それを引き出す前に…或いはそれ以上の力でねじ伏せてしまえば同じ事。そしてそれを現実のものとすべく、わたしは再び突進をしようとし──その時、空に一つの声が響く。
「──うずめぇええええええええええええッ!!」
それはお腹の、身体の奥底から力の限りで振り絞ったような、そんな叫び。その声にわたしも、プロトダークも一瞬止まり……わたしは振り向く。振り向いて、見る。その声を叫んだ、その名前を呼んだ、一人の人物を。
「はぁ…はぁ…ぅ、ぁッ…はぁ、はぁ……っ!」
(…ウィード、くん……?)
そこにいたのはウィードくんと、こんぱにあいちゃんの三人。余裕の感じられるあいちゃんと、肩で息をしているこんぱと……膝に手を突いて、もう見るからにへとへとな程息が上がっている、ウィードくん。聞こえた声は、男の人のものだったから…誰が叫んだかは、すぐに分かった。
「うぃ、ウィード…?」
「はーっ…はーっ…うずめ…ッ!…うずめ、だよな…うずめ、なんだよな……ッ!」
当然その声にうずめは反応する。呼ばれたんだから、反応するに決まってる。
でも、ウィードくんが見ているのはうずめじゃない。ウィードくんが見ているのは、呼んでいるのはくろめで……
「……ぁ、ぇ…?…な、んで……?」
そのくろめは、呼ばれたくろめは…動揺していた。それも、これまでのどんな時よりも強く、激しく…後退り、脚が震える程に、愕然としていた。…それはまるで、信じられないものを…あり得ないものを、見たかのように。
「うずめ、なんだよな…!…どうして、だよ…どうして、お前がこんな事を…どうして、女神のうずめが…人を傷付けて、次元を滅茶苦茶にしようとするんだよ……ッ!」
「……ッ!ち、違っ…そうじゃ、ない…オレは、
「……!ウィードくん、上ッ!」
切れた息で、途切れ途切れにウィードくんは言葉を紡ぐ。思いの詰まった言葉を、くろめに向けてぶつける。
それにくろめは動揺したまま。さっきまでの余裕なんて欠片もない、何かに怯えているようですらある様子で、ふるふると首を横に振って……次の瞬間、翼を持つ猛争モンスターの内の一体が、三人に向けて急降下をかけた。
直感的に狙いがウィードくんだと感じたわたしは、声を上げる。こんぱが、あいちゃんがわたしの声に反応して動こうとする。…でも、対処をしたのはうずめ。二人の武器の間合いに入るよりも一瞬早く、飛び込んだうずめが猛争モンスターを殴り飛ばす。
「……っ…うずめ……」
「大丈夫、ウィード…!?」
すぐに着地したうずめは、ウィードくんの前に。はっとした様子のウィードくんは、うずめの言葉に頷いて…わたしの位置からだと、ウィードくんの方を見ているうずめの顔は、頷きに対する表情は分からない。とにかくその後、振り返ったうずめはウィードくんを…三人を守るように立って、うずめとウィードくん、二人の視線がくろめへと向けられて……
「……あ、ぁ…ああ…ああああ、ああああああああああああああああ…ッ!」
──その、次の瞬間だった。目を見開き、両手で目元を覆い、ぐちゃぐちゃした感情がそのまま流れ出ているような声をくろめが上げたのは。
明らかに何かおかしい、くろめの声。目元を覆ったまま、くろめはふらふらとよろめき…プロトダークは、完全にそのくろめの方を見ている。大きな隙を晒している。けどくろめの異常な状態から、チャンスである事よりも不気味さを感じたわたしはそのまま見つめ…不意に、くろめが止まる。
「…ぁあ、ああ、嗚呼そうか…お前か、【俺】か、【俺】なのか…何も知らないから、何も知らない癖に、お前が、【俺】が…オレはあの日からずっとそうなのに、あの日だってそうだったのに、ずっとずっとオレは裏切られてばかりなのに……あの時はああだったのに、来てくれなかったのに、なのになんで記憶も何もない【俺】の方に…なんで、なんで…なんでなんでなんでなんで……ッ!!」
「…う、うずめ──」
「…………やれ、プロトダーク」
だらりと手を下ろし、俯いたまま呟くくろめ。呪詛の様な、真っ黒い感情そのもののような言葉を並べていき、淡白だった声は段々と変質していき……くろめは言う。呼びかけたウィードくんの声を遮るように、顔を上げてプロトダークに言う。
プロトダークは、すぐには動かなかった。理由は分からない。でも、何となく…プロトダークからはどこか、その命令を…くろめが望んだ内容に対する躊躇いを抱いているような気配を感じて……だけどそれは、霧散する。次なるくろめの、次の言葉で。
「潰せッ、プロトダークッ!【俺】も、ウィードも…全部全部、ぶっ潰しやがれッ!!」
それはまるで、憎悪そのもの。業火の様な怒りが、獄炎の様な憎しみが……空に、轟く。
今回のパロディ解説
・風の精霊
デート・ア・ライブのヒロインの一人(二人)、八舞耶倶矢と八舞夕弦の事。一人が二つに分かれた存在…というと色々いますが、初めに思い付いたのはこの二人です。
・大魔王
ドラゴンクエスト ダイの大冒険に登場するキャラの一人、大魔王バーンの事。こちらも二人に分かれていますが、分かれた経緯の性質上、結構差が大きい二人ですね。
・「〜〜今こそ戻ろうじゃないか、あるべき姿に」
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズに登場するキャラの一人、ガエリオ・ボードウィンの台詞の一つのパロディ。原作的には、ヴィダールの名前も合ってますよね。