超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
有無を言わさない勢いで交代を提案してきたネプギアと入れ替わり、わたしはぷるるんと連携。攻防の末、ぷるるんが捉えたダークメガミの左腕部を、ネクストフォームの力で斬り落とした。大太刀に纏った力で、狙った場所をその周辺ごと消滅させた。
打撃、防御、砲撃、迎撃。両断によって、左腕部を用いて行っていた事や左腕部に搭載されていた武装が全て使えなくなった事で、ダークメガミの戦闘能力は大きく落ちた。わたしの力なら再生は封じられるって事なのか、単に四肢欠損レベルの損傷までは直せないってだけなのかは分からないけど…どちらにせよ、これで一気に畳み掛けられる。ダークメガミを撃破して、プロトダークの方へ向かえる。
そうしてわたしもぷるるんは顔を見合わせ、腕を失った左側から攻め立てていた。少しずつダークメガミを追い込んで…後一歩と言えるまでになった、その時だった。各国から、皆が援軍に来てくれたのは。
「……!皆!いきなりだけど向こうの援護に…きゃっ……!」
頼もしい援軍の姿を見て、思わず頬が緩んだわたし。けど…ありがたいのは間違いないけど、少しだけタイミングが悪かった。皆の存在を認識したのは、ダークメガミに突撃を仕掛けていたタイミングで…気付いた時には、迎撃の刃がわたしの目前にまで迫っていた。
ギリギリで避けられた…と言いたいところだけど、八つに分かれた翼の一つが被弾。まだ十分飛べるとはいえ…今のは反省するべきミスね…。
「ねぷちゃん、無事?」
「無事よ、問題ないわ…!」
一度下がり、ぷるるんの言葉に頷きを返す。そこからわたしは再度の攻撃を考えて…皆も今の状況を察してくれた様子。ノワールとベールはこちらに飛んできて、ブランと女神候補生の皆はプロトダークの方へ向かっていく。
「ノワール、ベール!四人いれば、十分迎撃を突破して……」
「いいえ、その必要はありませんわ!ノワール!」
「えぇッ!」
連携し、翻弄しつつも突破して次々攻撃を叩き込む。そんな戦法を思い浮かべたわたしだけど…次の瞬間、二人もネクストフォームを解放。ベールの呼びかけに応えたノワールは、女神の目でも追えない…文字通りの神速で以ってダークメガミに肉薄を掛け、その勢いのままにサマーソルト。顎を蹴り上げる事で、ダークメガミの視界をずらす。
そこへ殺到するのは、 ベールが精製した数え切れない程の槍。当然その中にはエネルギー刃に相殺されるものや、装甲に弾かれるものも少なからずあったけど、圧倒的物量でベールは押し切り、関節やエネルギー刃の射出部位へ次々と槍を突き刺していく。
集中的な迎撃をさせない為のノワールの一撃と、単純にして強力な飽和攻撃を叩き込むベール。二人の連携攻撃をダークメガミば強かに受け…その迎撃能力が、一気に落ちる。
「…圧倒的ねぇ、これは」
「相性が良い、なんてレベルじゃないわね……」
あっという間に封じられる迎撃を前に、わたしは苦笑いを禁じ得ない。
傷付ける、ではなく完全に消してしまうわたしの能力なら、再生能力へのカウンターになる。相性だって良い筈。…なんて思っていたわたしだけど、対再生能力持ちダークメガミに関しては、ベールの方がずっと有利だった。逆にさっきまで…ネプギアとぷるるんが相手取ってた時は、戦力不足じゃなくても攻めあぐねていた訳で、戦闘における相性の重要をつくづく感じる。…って、のんびり思考に耽ってる場合じゃないわね。
「…ふぅ、これで十分かしら」
「このまま一気に沈めるわよッ!」
通常サイズの槍じゃ迎撃を封じる事は出来ても、致命傷までは与えられない。それが分かってるベールは最後に一つ巨大な槍をダークメガミに放ち、ノワールも再生を間に合わせはしないとばかりに連撃をダークメガミの胴体に打ち込む。ぷるるんは電撃を、わたしはもう一度消滅の力を得物に纏わせ、下がろうとするダークメガミへ接近をかける。
片腕を失い、迎撃能力も大半が止まったダークメガミは最早、タフなだけの巨大な的。勿論まだ攻撃手段がある以上、油断は出来ないけど……ダークメガミの撃破はもう、時間の問題だった。
*
初めから、徹底的に戦うつもりなんてなかった。あれを確認する事なく戻るのは少し癪だけど…確認したいという思いは所詮感傷。感情を処理出来ない女神は不完全であり…オレは違う。実益のない事なら、機会がなかったと諦める事こそが賢明な選択。…分かっていた、分かっていたというのに……気付けば他国の女神が、他国の女神による増援が、到着していた。
(ちっ…時間をかけ過ぎたか……)
狙撃によりよろめいたプロトダーク。迫る女神達の姿を視認し、オレは心の中で舌打ちをする。
「■■■■■■ーッ!」
唸り、全身から迎撃を放ち、女神を…敵を全員確認出来る場所に移動しながら砲撃で薙ぎ払うプロトダークの、言葉としての形を持たない咆哮。その唸りは空に響き…だが当然、それに動じるようなねぷっち達じゃない。
(…だが、まだだ…許すか…許すものか……!)
敵戦力は倍以上に膨れ上がった。逆にこっちはダークパープルが大きなダメージを受けている。普通に考えれば、すぐに退くべきだろう。このままなら押し切れる、そんな状態だからこそダークパープルは囮として有用で、向こうの戦力が跳ね上がったとはいえ、消耗しているねぷっち達の…特に【俺】の隙を突けば、離脱出来ない事はないだろう。
だがそれは、見逃すという事だ。一旦とはいえ、許容するという事だ。【俺】を、ウィードを……記憶もない癖に、オレからあぶれた部分が結果的にもう一人のオレとなっただけの、でっち上げの存在風情で、オレの思い出に土足で踏み入り踏み荒らしたあいつの事を。
出来る訳がない、出来る筈がない。許せない、許さない、許す道理なんてどこにもない。…見逃す?許容する?そんなの…真っ平御免だ…ッ!
「何しに来たか知らねぇが、もうテメェに勝ち目なんざねぇ!とっとと降参しやがれッ!」
「黙れッ!降参だと…?笑わせるな、後輩共が……ッ!」
追撃にけしかけていた猛争モンスター達を呼び戻す。もうどうせ向こうにやっても成果は上がらない。それにあいつさえ…【俺】さえ潰せれば、結果は同じになる。そうだ、そうに決まってる。
「怯むな、止まるなプロトダークッ!お前はその為の存在だ、オレの為に戦う存在としてここにいる、なぁそうだろッ!」
「わわっ、こいつ……!」
「おっかない…っ!」
プロトダークを暴れさせる。余力も負担も二の次だ。勝てば良い、勝てなければ意味がない。
同時にオレは目を向ける。地面に片膝を突いた【俺】を。皆に気遣われる、もう一人のオレに対して。
(ふざけるな…どうしてお前がそうも気にかけられる…!碌に思い出せやしない、力も未熟な頃に戻っている、女神化だって自由には出来ない、オレのなり損ないのような【オレ】が、どうして仲間に恵まれる…!なんで正しいオレが、あれからもずっと…なりふり構わず積み重ね続けてきたオレが失ったものを、当然の様に持っているんだ…!なんで、オレじゃなくて…お前が……ッ!)
憎くて、憎くて、憎くて憎くて仕方ない。あいつが、【俺】が、『それ以外』を寄せ集めて出来ただけの、でっち上げの天王星うずめが。
オレが、その存在を許容してやったんだ。もう一人の自分を、女神化を始めとする一部の「オレから抜け落ちたもの」を何故か持っている、きっといつものズレで生じた、エラーの様な存在を、それでも障害にならない限りは、と許容をしてやっていたんだ。なのに【俺】はオレの邪魔をする。覚えてもいない癖に、どんな存在なのかも分からない癖に、オレの記憶までもを踏み躙る。そして…踏み躙っている事にすら、もう一人のオレは気付いていない。ならばそれは最早、悪以外の何物でもない。
「…あぁ、そうだ…許容してやったのはこのオレだ。なら…破棄する権利も、オレにはある……」
睨め付け、呟く。プロトダークへの指示に変更はない。他の誰が邪魔しようが、【俺】さえ潰せれば、それで良い。
そうだ、これは戦いじゃない。そもそもアレは、オレから抜け落ちた存在。狙った通りにいかない妄想のズレに過ぎない存在。だからこそ、オレはオレの問題を処理するだけ。権利ですらない、当然の事だ。
──だと、いうのに…他人にケチを付けられる謂れはないというのに、なのに…なのに……
『これでッ!』
『終わりよッ!』
響く轟音と、激しい爆発。女神候補生四人の集中攻撃を受けて、プロトダークは崩れ落ちる。守護女神達の連携を前に隙を晒してしまい、そこを狙い澄ませた女神候補生達の飽和攻撃によって…プロトダークは、陥落する。
ダークメガミも、完全に撃破された。猛争モンスター達も、既に全滅。そして……刃がオレに、向けられる。
「……ッ…お前、達…!」
「終わりよ、くろめ。まだ伏兵がいるなら好きに出しなさい。でも、どれだけ出そうと…わたし達が、斬り伏せるだけよ」
空から刃と共に突き付けられる、ねぷっちの言葉。当然、ねぷっち以外も刃を、得物をオレに向けている。この場を乗り切る上で、対処しなきゃいけないのは…ねぷっち一人じゃない。
(くそッ…どうしていつも邪魔をする…毎度毎度、後輩風情が……ッ!)
彼女等は女神だ。故に、この信次元を守ろうとするのは当然だろう。真に世界を正しく、より良く導けるのはこのオレだが、彼女達は自分達の方が正しいと思っているのだから、信次元の未来に関わる部分で邪魔をしてくるのは、仕方のない事だ。
だが、これは違う。オレはオレからあぶれた、でっち上げの【俺】を処理しようとしただけだ。そもそも彼女等が来なければ、オレは戦いを起こす気すらなかった。なのに何故邪魔をし、なのに何故こうなる。何故こうも…上手く、いかないんだ…ッ!
「…なぁ、おい…なんだったんだよ、さっきまでの態度は…それに、お前…どうして、ウィードの事を……」
「その名前を呼ぶな…ッ!よりにもよって、【俺】が…ウィードの事を……ッ!」
突き付けられた現実で一度は逸れていた怒りが、また沸き上がる。心の中が煮え繰り返るような、吐き出さなければ狂ってしまいそうな程の怒りが、憎悪の炎を燃え上がらせる。
やはり、【俺】だけは捨て置く事など出来はしない。されど俺にはもう、この場に動かせる戦力がない。【俺】を始末するどころか…この場を乗り切る算段すらまだ出来ていない。
(どうする…クロワールの力なら何とかなるが、あいつが気付く見込みはない。アフィ魔Xは…駄目だ、戦力として心許ない。…なら、レイか?……論外だ、仮に気付いてもレイが来る筈がない…!)
打つ手なしの、八方塞がり。【俺】は女神化が解けているが、この状況では焼け石に水。普通に考えれば、どうにもならない、どうしようもない。それ以外の結論が思い浮かばない程の状況。
だとしても、オレは諦める訳にはいかない。ここまで来て、ここまで進んで、諦められる訳がない。諦めていい筈がない。諦めてしまえば、何も変わらない。何も証明出来ない。正しい筈のオレの行いが…全て、無に帰す事になる。ましてやその終わりを、あの【俺】の…オレの出来損ないも同然の存在の前で迎えるなんて…絶対に、あってはならない。何かある、ある筈なんだ。オレが終わる筈がないんだ。何か、何か、何か……ッ!
──そう、オレが渇望していた時だった。戦える味方なんていない筈のこの場に、ねぷっち達を遮るように、一条の強大な閃光が駆け抜けたのは…。
『……──ッ!』
反射的に飛び退くねぷっち達。この場にいた全員が、その光芒に息を呑む。ねぷっち達は驚愕で…そしてオレは、歓喜の思いで。
虚を突かれたねぷっち達は、続く全方位攻撃で陣形も崩れる。そしてねぷっち達を退かせ、オレの前に降り立ったのは……プロトダーク。
「まだこんなに動けたなんて…思った以上にタフなのねぇ、こいつは…!」
「くっ…すみません、皆さん…!アタシ達が、仕留め損なったせいで……!」
「気にする必要はないわ、ユニちゃん!あれで倒せてないなんてわたし達からしても想定外だし、撃破の確認を怠ったのはわたし達も同じだもの…!」
無理に攻めれば被弾しかねない。そう判断したのかねぷっち達は立て直しを優先し、オレへの包囲は完全に消滅。
近距離からの集中砲火を受けた頭部だけでなく、胴体も酷い損傷を負ったプロトダーク。各部も傷が目立ち、その姿は満身創痍。…だが、プロトダークはオレの前に立ち、矛として攻撃を続けている。…その姿に、再び昂るオレの感情。
「は、ははっ…そうだ、やれプロトダーク…もっとだ、もっと蹴散らせ、薙ぎ払えッ!お前は他のダークメガミとは違う、唯一にして絶対の、最初で最後の完全な存在だッ!だからこそオレはッ、お前だからこそ……ッ!」
火炎の様に燃え盛る怒り。だがそれだけじゃない。他の熱い思いが、オレの中で込み上がる。
忘れていた訳じゃない。忘れる筈がない。だがそうだ、プロトダークは…こいつだけは、特別なんだ。絶対にオレを裏切らない、今のオレにとって最も信用の出来る存在…それが、こいつなんだ。
やはり、こいつを護衛に選んで正解だった。同じように絶体絶命となった墓場も、こいつがいた。ならば今も、同じように窮地に立たされている今も、逆転の芽があるのかもしれない。そしてもし本当にそうなったのなら…こいつはきっと、いつもずっと、オレの状況を変えてくれる勝利の……
「■■■■■■■■■■ッッ!!」
耳をつんざく、空を切り裂く、プロトダークの必殺の光芒。両の掌底から放つ光で敵を薙ぎ払い、オレは落ちる事のないプロトダークの気迫に笑みを浮かべ、次の指示を出そうとした…その時だった。プロトダークが振り向き、オレを両手で掴み…飛び立ったのは。
「な……ッ!?プロトダーク、何をしている…!まだ、敵は…ッ!」
迎撃を撃ち続けながら、翼を広げたプロトダークは飛ぶ。狙うべき【俺】も、邪魔をする後輩達もいない、敵のいない場所へと向かって離れていく。
当然、それを許す理由はない。すぐにオレはプロトダークにも取らせようとし…だが、聞かない。オレの指示を、受け付けない。
(まさか、暴走しているのか…!?…いや、まだ活動限界じゃない筈だ…!まだこいつは戦える筈だ…!なのに、なんで……!)
言う事を聞けと、オレは拳を叩き付ける。今オレは、こいつへの信頼を再確認したばかりなんだ。こいつだけは裏切らないって、そう思ったばかりなんだ。なのに、その直後に指示を受け付けなくなるだなんて…そんな事が、あって堪るか。
それともあれか、結局こいつもそうだったのか。最後の最後で裏切るのか。ずっとオレを嘲笑っていたのか。こうやって、オレにとっては最悪の、こいつにとっては最高のタイミングで裏切って、オレに、オレに……
……そこまで考えて、漸く気が付いた。こいつは両手でオレを掴んでいる。だがそれは、捕まえるようなものではなく…その手で傷付けないように、その手で守るように…オレを包み込んでいる事に。
「…逃がそうと、しているのか…お前は、オレを……」
そんな命令は、していない。他のダークメガミとはそもそもが違うとはいえ、結局はオレの命令の下、言われた通りに戦う兵器に過ぎないのがダークメガミ。仮にそれが最善の選択肢だとしても、戦闘を放棄し、自分以外を守る為に動くなんて事は、あり得ない。
だというのに、こいつはそうしている。オレの命令よりも、オレを逃がす事を優先し、傷付けないように包んでいる。オレを守ろうとしている。
「逃がす訳…ないでしょうがッ!」
「……っ!(速い…!)」
状況が、その行いが飲み込み切れずにオレがプロトダークの顔を見上げる中、気付けばそこにいたとしか言えない速度でのわっちが肉薄。前に先回りする形を取った彼女は右腕を引き、刃の斬っ先をオレに向け……だが、そこに向けてプロトダークはヘッドバット。勢いそのままの、殆ど突進も同然な頭突きを彼女へ叩き込む。
「んな……ッ!?」
咄嗟に彼女はその場で剣を突き出し、その攻撃で以って頭突きをガード。とはいえ片手剣の刺突でプロトダークの巨体が止まる訳もなく、そのまま弾かれ退かされるのわっち。
だが当然、刺突は直撃している。既に大きく損傷していたプロトダークの頭部は更に砕け、破片が散る。装甲の内側も抉られ、飛行するプロトダークの顔から吹き飛んでいく。
「やるぞ、ロムッ!」
「うん…!」
力技で押し退けたプロトダークは、次の瞬間突然に減速。直後に肌で感じたのは冷気。
凍結系の技か魔法である事も、それで減速させた事も、すぐに分かった。…が、分かったところでそれを即座に解除する手立てはオレになく…次なる衝撃が、プロトダーク越しにオレを襲う。
「容赦しないわッ!」
「かくごーッ!」
爆音と共に巨大が揺らぎ、凍結した翼の一部らしきものが砕け落ちる。更にプロトダークの速度は落ち…だが、直後に速度はある程度回復。
自力で強引に、エナジーを噴出する事で解凍したのか。見えないオレには予想しか出来ない。オレを手離せば、もっとちゃんと反撃も出来るだろうに…こいつはそんな素振りを、微塵も見せない。
「畳み掛けますわよ、ネプテューヌ!ネプギアちゃん!」
「はいッ!これで……ッ!」
「散りなさいッ!虚空の果てへッ!」
次々と、衝撃がプロトダークの身体を叩く。巨大な槍が、光の奔流が何度もプロトダークへ追い縋り…ねぷっちの声が響いた直後、再びプロトダークは蹌踉めく。明らかに動きが変わり…右の脚が、破片を散らして落ちていく。
「…止めろ…無茶だ、こんな無策で逃げても何とかなる訳がない…!そもそもどこに逃げる気なんだ、当てはあるって言うのか…ッ!?」
これまでは何とか姿を保っていたプロトダークから片脚が失われ、依然として攻撃に晒される中で、堪え切れずにオレは叫ぶ。
もうこの際、何故こんな事をするのかはいい。【俺】の事も、今は後回しだ。もしもこれが、当てがあっての逃走ならまだしも…いや、そんな訳がない。間違いなくこいつは当てもなく、上手くいく算段もなく…なのにそれでも逃げている。自分の身を攻撃に晒し、自分を盾にして、見込みなんてない逃走へ全てを懸けている。…そんなの…そんな愚かで、哀れで……あまりにも痛ましい思いを、ただ見ているなんて出来る筈がない。
(なんで、だよ…なんで、そんなになってまで……ッ!)
攻撃は、続く。幾条もの光芒が頭部に突き刺さり、無残に頭が半壊する。抉られ、斬り裂かれ、吹き飛ばされて、左の脇腹に当たる場所が歪な空洞へと変わり果てる。もう碌に迎撃も出来ず、衝撃が響く度にどこかしらの部位が破損し崩れ、装甲も大半が割れ、焼け、剥がれていく。
そうしてもう何度目かも、誰の攻撃かも分からない衝撃がプロトダークを叩き…左腕も、肩口から完全に脱落する。片腕がなくなった事でオレの身体は浮き、宙に投げ出されそうになり…だが、プロトダークはオレを離さない。ギリギリで右手で握り直し、さっきよりも強く…それでもオレを傷付けないよう優しく、オレの事を守り続ける。…それは、あんまりにも懸命で、必死で、抱え切れそうもない程切実で……
「…もういい…もう止めろ、プロトダーク…ッ!無理だ、これ以上は本当にお前が…お前の身体が……ッ!だから、言う事を聞け…ッ!止まれ、止まってくれよプロトダーク……っ!」
気付けば口にしていた、言葉になっていた、こいつへと向けた思い。置き去りにした筈の、振り返らないと決めた筈の……嘗ての思い。それを口にした瞬間、こいつはオレの方を見て、崩れた顔でそれでも何かを伝えようとして……翼が、完全に吹き飛ぶ。腕ごと大きく揺さぶられた事で、破壊され砕け散った両の翼が目に入り……オレも、こいつも、落ちる。地上に落ち、大地に叩き付けられる。
「…ぁ、ぐ……ッ!…なん、で……」
だというのに、オレに怪我はなかった。最後の最後まで、こいつがオレを守ろうとした事で、オレは手から滑り落ちて軽く身体を打っただけ。……こいつの方は、諸に落ちてもう全身が崩れ去ってもおかしくない程傷付きぼろぼろになっているのに。
「…なんで、だよ…お前、オレを…オレの事を、恨んでたっていい筈じゃないか…ッ!恨んでなきゃおかしいじゃないか…ッ!なのに、なんで…どうして、オレの事を…オレなんかの、事を……ッ!」
ねぷっち達もすぐに来る。そんな事は分かっていた。でもそんなのはどうでも良い、どうだって良い。そう思える程に、オレは理解が出来なくて、訳が分からなくて、溢れてくるのは悔しさにも似た気持ちで、それをオレはこいつにぶつけて……
──行って、うずめ。
……そう、聞こえた。聞こえた気がした。喋る事の出来ないこいつから、プロトダークから。
「…あ、あ…あぁぁぁぁ……」
あり得ない、あってはならない…オレに受ける資格なんてない筈の、そんな言葉。そんな思い。オレが後退る中、こいつは身体を起き上がらせ、瞳へ今にも消えそうな…なのにどこまでも強く感じる光を灯し、降下するねぷっち達の方へと振り向く。オレの前に、立ちはだかる。
「……っ、ぅ…馬鹿、野郎…畜生、畜生ぉ……ッ!」
背中をこいつが向ける中、オレもまた背を向ける。偶然か、それともあいつが力を振り絞ったのか、落ちたのは森のすぐ前で…オレは走る。オレは逃げる。あいつが全身全霊で、目一杯の思いで果たそうとした事を……もうないと思っていた、最後の言葉に応える為に。
振り返る事なく、森を走る。戦闘から、そこに残したあいつから離れていく。そして、最後に聞こえたのは……空の彼方にまで響くような、あいつの咆哮の声だった。
(なんで、お前が…オレが未来を奪ったお前が、オレを守ってくれるんだよ──ミオ…ッ!)
今回のパロディ解説
・感情を処理出来ない女神は不完全
機動戦士ガンダムF91に登場するキャラの一人、ザビーネ・シャルの名台詞の一つのパロディ。彼女同様、くろめもそう考えつつも実際には…ですね。
・「容赦しないわッ!」「かくごーッ!」
デュエル・マスターズ プレイスに登場するキャラの一人、チュリンの台詞の一つのパロディ。結構タイムリーなネタになったのではないかな、と思います。
・「散りなさいッ!虚空の果てへッ!」
マクロスFrontierに登場するキャラの一人、ブレラ・スターンの代名詞的な台詞の一つのパロディ。紫繋がりのパロネタです。ネプテューヌなので射撃ではなく斬撃ですが。