超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
俺は、俺の歩みは、終わった筈だった。あまりにも唐突に、あまりにも一方的に、嵌められ、奪われ…終わってしまった、筈だった。
だが、気が付いた時…いや目が覚めた時、俺は見知らぬ場所にいた。終わった筈の俺は、あの奥深くではなく……全く違う、場所にいた。
(やっぱり、ここは……)
初めは、どこかに瞬間移動でもしたのか、意識が途絶えている間に移送でもさせられたか、或いは…あまり考えたくはないが、環境が大きく変わってしまう程の時間が経ったのかと思った。
けど、調べていく内に…街を見つけ、そこで可能な限りの情報を得ていく内に、俺は気付いた。最初はどうも話が噛み合わない事で、そこからは知らない常識や歴史を聞く事で、俺は気付き、理解していった。ここは、俺の知る世界では…信次元では、ないと。
違う次元が、別次元が存在する。俄かには信じ難いが、そう思わざるを得ない現実がある。そして俺は、そうなった事を一先ずは受け入れ、考えた。恐らくこれは、ここにいるのは、俺の力によるもの。ここにいる事を思い浮かべた訳じゃないが…薄れる意識の中で作用したからか、それとも外部からの影響を受ける中でだったからなのか、正確な理由は分からないにしろ、想定外な作用の仕方をした結果、違う次元に飛ばされた…という事なんだろう。そして、目下の目標は信次元に戻る事だが……
「あ、おねーさんいた。今日も何もしないで、こんな所でのんびりしてるの?」
「…またお前か……」
一体どういう訳か、俺はある少女に懐かれていた。俺が拠点代わりにしている場所に、しょっちゅう訪れるようになっていた。
彼女との出会いは、少し街の事について訊いただけの、それだけのもの。普通なら数日もすれば出会った事自体を忘れてしまうような、浅い出会いで…にも関わらず、何を思ったのか、その後彼女は街を回る俺の後を付いてきて…気が付いたら、もうこれだ。どうせ飽きたらどこかに行くだろう、と付いてくるのを許してしまったのがいけなかった。
「お前こそ、毎日来る程暇なのか?」
「……?暇じゃないよ、おねーさんに会いにきてるんだから」
「…うん…?お前は何を言って…って、あー…そういう事か……」
「うん、そういう事」
「そうかい…そりゃ、光栄だよ…」
どうも彼女にとっては、俺と会う事はれっきとした用事らしい。別に何かする訳でもなく、向こうから話を振ってくればまあ話すし、そうじゃなきゃただ同じ場所にいるってだけの、正直退屈に思ってもおかしくないやり取りしかいつもしていない訳だが…それでもほぼ毎日来る辺り、彼女は余程の物好きなんだろう。
…まあ、良い。彼女には初対面の俺からの問いへ親切に答えてくれた恩があるし、この次元の事も何かと聞いている。その礼代わりに、遊びに付き合っていると思えば良いだけだ。
信次元に戻る事、戻って今度こそ使命を果たす事…思うところは色々とあるが、俺の意思は折れていない。ならば今一度…進むだけだ。
*
この次元に来て、暫くが経った。大分この次元の事は分かったし…俺の現状も、整理がついた。
最初はただ、別次元に飛んでしまったものだと思っていたが、どうもそれだけじゃないらしい。すぐに気付いた事だが、俺は髪の色が変わっていて、瞳の色の彩度も落ちていて……何より、俺はこの姿から変わらなくなっていた。それは俺という存在において、正直致命的とも言える事で、気付いた時にはとても落ち着いてなんていられなかったが…最大の武器は、最大の力は、変わる事なく俺の中にある。ならば何とかなるだろうと、一応は納得出来る結論に行き着く事が出来た。
「じゃん!今日は紅茶を持ってきたんだー。飲む?」
「す、水筒に紅茶…何とも合わない組み合わせをしたもんだな……」
やたら懐いている彼女との関係は、続いている。実際のところ、もう彼女から情報を得る事はあまりないが…だからと言って邪険にする程俺は冷血じゃない。だから、この関係が続いている。
「…ところで、おねーさんは何かやる事…っていうか、やりたい事があるんでしょ?それって進んでる?」
「……どうして、それを?」
「だっておねーさん、前はよく質問してきたし、前から考え事ばっかりしてるでしょ?だから、何か作戦でも立ててるのかなー、って」
最近分かってきたが、この少女は無邪気そうに見えて、中々聡い。実際無邪気なんだろうが…思っていた以上に、周りがよく見えている。
それに、この辺りは時々モンスターが出るのに、一度も怪我をした姿や慌てて逃げてきた様子は見ていない。実は強いのか、隠れるのが得意なのか、それともひょっとしたら凄まじく運が良いのか…何にせよ、結構ポテンシャルが高いのかもしれない。
(…俺が脱出してると気付いているなら、戻った時に備えた対策もしている筈。突然いなくなった事で、期待を裏切られたと思って、俺の味方だった人も減っている可能性が高い。…なら、戻るまでにまず味方を……)
俺は考える。こっちに飛ばされたばかりの頃は、とにかく早く帰る事を目標としていた訳だが、ただ帰れればいい訳じゃない。むしろ存在を知られれば動き辛くなる以上、誰も俺の事を知らないこっちで…信次元の外でじっくりと準備し直す方が賢明かもしれないというのが実際のところ。
そして、俺は思った。例えば彼女はどうだろうか、と。勿論、今のままの彼女を連れて行ったところで、ただの信次元観光にしかならないのかもしれない。だが、もっと長期的な…今の彼女ではなく、将来の彼女に目を向ければ……
「…いや、何考えてんだ俺は…人をなんだと思ってんだ、って話だろうが……」
「……?」
「…独り言だよ、気にするな」
自分の額と右目を覆うように顔へと手を当て、俺は呟く。幾ら何でも、これはない。仮に連れて行くにしても、それは彼女が望んだ場合であって、そうでないならそこに正義なんてものはない。
全く我ながら、禄でもない事を考えた…と結論付けて、俺はその思考を止めにした。…これは単に魔が差したという事ではなく、何も出来ずにただ流れていく日々に、無意識の焦りを覚えて思わず考えてしまった結果かもしれない…なんて事は、この時の俺は考えもしなかった。
*
この次元にも、女神という概念は存在する。…と、いうより…驚くべき事に、この次元じゃ人が女神になるらしい。ある物質により、女神は後天的に生まれるらしい。そんな馬鹿な、とある意味ここが別次元だという可能性を感じた時以上に自分の認識を信じられなかった俺だが…実際それを、実例として見てしまえば、それはもう信じるしかない。
そう、俺自身の目で見たとなれば、信じるしかないのだ。たとえ、それが……
「いやまさか、オレが女神になってしまうとはね」
「ほんとにまさかだよ…なんでこうなった……」
柔らかそうな黄色の髪に、どこか落ち着きを感じられる黒の瞳。薄めの青を基調と水色と黄色をあしらったプロセッサユニット。…お分かりだろうか。こうして俺が話している事からも察せると思うが、この女性…否、この女神は、あの少女である。
俺は、その物質…女神メモリーとやらを手に入れようと思った。それがあれば、失った俺本来の力を何とか出来るかもしれない。そうでなくとも、人を女神に改変するだけの力を持つ物質なら、きっと何かの役に立つ。そう考え、彼女に女神メモリーがある…という噂の場所まで案内してもらい、幸運にもなんと見つける事が出来た。そこまでは、いっそ出来過ぎな位上手くいった。
が、その数分後に事件は起こった。なんと、彼女がそれを服用してしまったのだ。勿論、見た目は結晶な女神メモリーを進んで食べる程彼女は天然じゃないんだが……
1.見せてほしいと言われたので渡す
2.彼女は持ち上げて光にかざし、綺麗だと喜ぶ
3.その時手からメモリーが滑り、それが綺麗だと言っていた彼女の口にすとんと落ちる
4.驚いてそのまま飲み込んでしまう
5.女神メモリーの力により、新たな女神が誕生!
……こんな感じで、彼女は女神になってしまった。…ほんと、なんだこれ…ギャグか?もしや俺が飛ばされたのは、ギャグ漫画の世界だったのか…?
「ふっ、大体そんな感じかもしれないね」
「読むな読むな地の文を読むな…!ギャグ漫画に反応したネタを言うな…!信次元の人間か……!」
陽気な返しに思わず俺は頭を抱える。本当に、本当にどうしてこうなった…後、このキャラは何なんだ…なんでちょっとダンディというか、余裕ある大人みたいな喋り方になったんだ……。…女神ってそういうものだ、って言われたら返す言葉がないが…。
「…まぁ、いい。全っ然良くないが、もう過ぎた事は受け入れる…。……それで、身体は何ともないのか?」
「身体?…あぁ、この通り変化してしまった事を除けば、問題はない…というより、力が漲ってくるね」
「だろうな…。…全く……」
元から女神の俺には分からないが、普通女神という存在に変わってしまったという現実は、それも意図せずなってしまったとなれば、そう簡単には受け入れられない筈。それに彼女自身がよく知らない関係からあやふやな話ではあるが、女神メモリーは使えば必ず女神になれる訳じゃなく、リスクも相応にあるらしい。だから俺は不安だったんだが…ふざけた発言をする彼女を見て、逆にほっとした。
…そう、俺は安心したんだ。彼女が無事でいる事に、元気な事に。初めは物好きなやつもいたもんだな…としか思わなかった、この少女に。
「…ふぅ…良かった、元の姿に戻れて。…それと、ごめんね…?折角見つけた女神メモリーだったのに」
「さっき言っただろ、過ぎた事はもう受け入れる、って。…まぁ、負い目があるって事なら、その内何かをしてもらって、それで良しとするさ」
「分かった、必要になったらいつでも言ってね?じゃあ、その時に備える為に…女神の先輩として、これからご指導お願いします!」
「…女神の先輩?俺が女神だなんて言ったか?」
「うん、割と始めの頃にさらっと言ってたよ。俺はね、女神なんだ…って」
「あぁ、言ったかもな…そんな某魔術師殺しみたいな言い方は絶対してないが」
まだふざけているのか、天然なだけか。何れにせよ、彼女の発言に俺は呆れ…少しだけ、笑う。
彼女は女神になった。だが女神というのは、ただ特別な力を持つ者じゃない。たとえ国の長でなくとも、彼女の人生が大きく変わってしまった事は間違いない。それを考えれば…何かあった時、助言をしてやる位は良いだろう。いやむしろ、そうしなくてどうする。俺の目指す先は…女神すらも守る、傷付かなくて済む世界なんだから。
それにしても、必要になったらいつでも…か。まさかこんな形で、本当に彼女を味方に付けられるとは、ね。
*
この次元に来て少しした頃から、俺はずっとある事が気になっていた。
シェアエナジー。女神にとって必要不可欠な筈のそれが、恐らく俺には流れていない。恐らく、というのは信次元にいた頃は一度たりとも供給が切れた事はない、流れてる状態が当たり前だったが故に、流れていない状態…というのがよく分からないからだが、とにかくここは違う次元。物理的にも、概念的にも隔絶している…と思う以上、幾らシェアエナジーでも届きはしない筈。そしてそうだった場合、女神化出来ない事も納得出来るし……俺はシェアエナジーの枯渇でとっくに動けなくなっている筈。にも関わらず、俺の身に何もないのは、ちゃんとシェアエナジーが配給されてるって事なのか、そこにも俺の力の影響があるのか…それとも、そもそも俺は女神でなくなっているのか。…分からない。この次元の事は大方分かったが…はっきりと今ある現実が見えてきた事で、逆に分からない事も浮き彫りになってきたように思う。
(戻れば女神としての力も復活する…根拠もなしに、そう考える事は出来ないな。だとしたら、やはり戦力が必要か…皆と争う前提で考えるのは気が引けるけど、戦いにならなければ骨折り損だと笑えば良い話。備えず後悔するよりは、無駄な備えをする方が……)
一人、俺は考える。何度もこの事を考えている。まず何が必要かとなり、そこから戦力だろうなと発展し、そこで少し迷って……それで、止まる。具体的な戦力の思考になると、行き詰まる。
理由は単純、想定される戦力が強過ぎるからだ。最悪信次元全体に邪魔されかねない以上、こっちも女神級の…最低限、足止めが出来る程度の戦力が複数いなくちゃならない。だが、そんな戦力を今の俺が用意するなど無理に等しく…いつものように行き詰まる中、俺は声をかけられる。
「…最近、難しい顔をしてる事多いね。悩んでるの?」
気付けば彼女が、今日も来ていた。考え込んでいた俺の、すぐ側にまで来ていた。
「あぁ…まあ、そんなところだよ」
「そっか…悩みなら聞くよ?」
そう言って、彼女は俺の事をじっと見てくる。対して俺は、少し後悔。発言こそ、俺に気を遣ってるようなものだが…この少女は、割と気になった事に対してはぐいぐいいくタイプでもある。今の関係となった切っ掛けもそれな訳で…正直、適当にあしらっても納得してくれる気がしない。
ならば、話してみてはどうだろうか?…いや、話してもぽかんとされるだけだろう。…だけだろう、が……どうせ行き詰まってはいるんだ。良い案は出なくても、話せば気分転換位にはなるかもしれない。
「…俺には、必要なものがあるんだよ。それも一つ二つじゃなく、出来るだけ沢山。けど、用意する方法がない。出来たとしても、恐らく必要な水準には届かない。…どうしたらいいと思う?」
「え、ごめん。全然分からない…」
「だろうな…」
目をぱちくりとさせた後、困惑気味に肩を落とす。彼女の反応は全くもって予想した通りで、俺は内心苦笑い。今のに関しては、俺の方も少々漠然とした発言にし過ぎた部分もあるが…やはり、彼女には荷の重い話だったようだ。
「うぅんと…沢山必要だけど、一個作るのも難しいんだよね…ちょっと位その水準?…に、届かなくてもOK、とかには……」
「出来ないな。これだけあれば嬉しい、じゃなくてこの位はなきゃ困る…の水準だからね」
「むむ…えっと、うーんと……」
腕を組んで、うんうん唸りながら考え込む彼女。こうも真剣に考え込まれると、気分転換感覚で話した事が少し申し訳なくなる。…さて、どうしたものか。疲れさせてしまう前にもういいと言うべきか、それとも折角考えてくれてるんだから、もう少し待ってみるか……と考えていると、突然彼女は女神化。女神の姿に変わり…再び腕を組む。
「…何をしてるんだ?」
「いや何、こっちの姿の方が頭が回るような気がしてね」
「あぁ…(その発想自体が賢くなさそうなのは黙っておこう…)」
行為の是非はともかく、本人がその気だしやっぱり…と待つ事数分。やはり女神化前後で思考中の雰囲気も変わるものだな…なんて思っていたところで、ぴっと彼女は右手の人差し指を立たせた。
「…そうだ。足りないなら、別のもので補えばいいんじゃないかな?料理が薄味の時は、砂糖や塩を足すだろう?」
「ふむ…調味料で味を調整する要領で、か……」
彼女の口から発されたのは、結構真っ当な意見。流石に女神化したからといって、知能自体も変化するとは思えないが…こっちの方が頭が回りそう、という認識が自己暗示になったのかもしれない。…と、いうのはさておき、別のもので補えば、か……。
「…確かに、それも一理ある。が、正直難しいだろうな」
「…そうなのかい?」
「その料理の例で話すなら、多少調整する位なら良いのかもしれない。けれど、濃過ぎる味を調整する為に水を加えた結果、今度は薄くなり過ぎたり、しゃばしゃばした料理になってしまう事もあるだろう?それに、多くの調味料を使った事で、一応美味しい料理にはなったものの、本来の味とは離れてしまった…なんて事も起きるかもしれない。最初に言った通り、最後の微調整位なら使える手だとしても、元々ある程度の質があるものを、更に大きく引き上げる為の方法としては、些か以上に難があるような気がするね」
中々上手い例えだと思った俺は、それに乗って見解を返す。俺は料理なんてあまりしないから、イメージでの話になるが…多分、間違ってはいないだろう。そして、彼女の案は悪くはない…が、俺の問題の解決には至らない。
「そうか…すまないね、良い意見を出せなくて」
「いいや、さっきの説明じゃどの程度水準に足りていないかも分からないんだ。採用出来る案じゃなかったからといって、気にする事はない」
気落ちする彼女に気にするなといい、俺は軽く肩に手を置く。分からないとした上で、それでも出来る限り考えてくれただけでも気持ちとしては嬉しいもの。それに、彼女の案そのものは使えなくても、そういう見方もあるか…という学びにはなった。つまり、俺にとってはプラスの要素があったんだから…それで、十分だ。
「うーん…でもなぁ…やっぱりなんか、もやもやする……」
「お前はその、何かと気になる性格を直した方が良いだろうな。どこぞの特命係の警部や七代目火影ならともかく、そういう気になるタチは苦労するぞ」
「う…一緒に考えてあげたのに説教された……」
「切り出してきたのはそっちだろうに。それに、説教も何もお前は俺に師事してるんだろう?」
「むー……」
口を尖らせる彼女に少し意地の悪い笑みを浮かべ、さらりと言葉を返す俺。気分で読んでるだけなのか、俺は先生になったり師匠になったり安定しないが…まあこう言われて言い返せない辺りは、指導されてる自覚が結構あるんだろう。
まあ何にせよ、気分転換にはなった。頭のすっきりしている今の内に、もう一度考えてみるのも良いかもしれない。…にしても、何かで補う、か…本当に、着眼点としては悪くないんじゃないかと思う。だが問題点も色々とある上、結局のところ「補う」という行為は完成度を上げるだけであって、元の存在を飛躍的に向上させる事は出来ない。かといって補う側を過剰にすれば、元の存在のバランスを大きく崩してしまう訳で、やはり後から補う、付け足すという発想じゃ、問題の解決には繋がらな……
──いや、待てよ…?確かに、一応の完成をしているものに後から付け足すんじゃ、解決にはならない…。けど、そもそもの話……後からじゃなきゃ、いけないのか…?
「…いや、違う…そんな事はない、そんな条件は存在しない……!」
「え、え?急にどうしたの…?」
「そうだ、発想の転換だ…補う、という言葉に囚われる必要はなかったんだ…!は、はは…いける、これならいけるかもしれない…!」
「わ、うわわっ!?えぇ、何!?どういう事!?」
別の目的で穴掘りをしていた最中、突然に地下水脈を掘り当ててしまったように、不意打ちのように俺の頭に浮かんだ発想。それはこれまでの発想とは違う、これまでより格段に可能性を感じるもので…俺は思わず彼女の両肩に手を置き、前後に揺さ振る。思い付く直接の切っ掛けをくれた彼女に感謝の念が湧き上がる。
考えてみると、俺は彼女にかなり助けられている。彼女がいる事は、俺にとってかなり大きいものかもしれない。となれば、彼女に出会えた事…それは間違いなく、俺にとっての幸運だ。…そう思いながら、俺は早速新たな案の実行に向け動き出した。
*
ここに来てから、どれだけの時間が経ったのか。街からは離れて生活している上、俺も彼女も女神故に、月日の流れが実感し辛くなってしまった。
俺は、長い時間がかかっても良いと思っていた。すぐに何とかなる訳がない、焦らずじっくりと準備していこうとも決めていた。だが……いつからか、俺は焦っている。
「…くそっ…駄目か、これでも駄目なのか……!」
すぐ側に立つ木の幹に、拳を打ち付ける。苛立ちを、やり切れない気持ちを、右手でぶつける。
完成したものへ後から補うのではなく、初めから…基本の段階から、強力な力を組み込んでおく。別の何かをサポートではなく、メインの一つに据えて作り上げる。それが、彼女の発想から思い付いた改良案で…俺は女神メモリーに目を付けた。女神メモリーならば、組み込む力としては十分だろうと考えた。そしてそれは、彼女が嘗て服用してしまったのとは別…二つ目の女神メモリーを発見した。
見つけられた時は、歓喜した。これで漸く試す事が出来る。遂にこれで、想定していた水準へ…或いは、理想としたレベルにまで届くかもしれない。その思いで組み込み、試し……けれど、駄目だった。試して分かったのは…俺の力で作った器じゃ、女神メモリーの力を引き出せないという事実だけ。
「これでも駄目なら、どうしろって言うんだ…!時間をかけて、頭を捻って、何度も何度も改良して…なのに……ッ!」
女神メモリーの活用に行き着くまでは、ここまで失敗に心を乱される事なんてなかった。だがなまじ可能性を、いけそうだと感じてしまったが故に、一回一回の失敗が響く。
それに、失敗だけじゃない。この二つ目を見つける為に、相当な時間がかかった。最終的に見つかったとはいえ、その一つを見つける為にかなりの時間を費やしてしまったのは事実で…それだけの消費をしているのに、一向に成功しないのが腹立たしい。焦りばかりが心に募る。
(…何日だ…信次元じゃ、何日経った…今信次元は、どうなっている……)
違う次元という事は、時間の流れも違うのかもしれない。…それに気付いた時から、俺の焦りは加速した。
時間の流れが違う、という根拠はない。違ってもおかしくないというだけで、逆にこっちの方が早い…つまり、戻ったら思ったより月日が経っていなかった、ってなる可能性もあるが、無根拠な楽観視なんて何の安心にもなりはしない。
もし戻れたとしても、信次元は別世界だと思えてしまう程変わっているかもしれない。最悪の場合、こうして俺が足踏みをしている間に、滅んでしまうのかもしれない。そう考えると、とても落ち着いてなんかいられず……
「…え、もしかしてまだやってたの…?お菓子持ってきたし、ちょっと休憩でも……」
「五月蝿いッ!」
「……っ!?」
……つい、俺はやってしまった。聞こえた声に対し、苛立ちのままに返してしまった。
「あ……す、すまない…いきなり、こんな言葉を出して……」
「う、ううん…こっちこそ、ごめん…急に声をかけて……」
はっとした俺は、彼女に謝る。だが謝ったところで、怒鳴ってしまった事実は消えず…気不味さだけが、ここに残る。
「…その…お前の言う通り、少し休憩した方が良いのかもしれない…。……もし、嫌じゃなきゃ…それを、貰えるか…?」
「あ…う、うん。今日も紅茶、持ってきたよ…!」
落ち着こう。頭を冷やそう。そう思い、俺は頼み込む。彼女はすぐに頷いてくれて…俺は彼女のくれたビスケットを口に。
「…何を、してるんだろうな俺は……」
「え……?」
「俺には、やらなきゃいけない事がある…果たさなきゃいけない、俺になら出来る、俺にしか出来ない事があるんだ。…なのに今は、失敗ばかり…俺は、間違っていたのか…?所詮俺は、一人になったらこの程度の存在だったのか……?」
甘いビスケットと香りの良い紅茶で、少しは落ち着く…が、落ち着いた結果俺の口から零れたのは、泣き言の様な言葉。自分でも言ってから驚いた。自分はこんな事を考えていたのかと、言ってから茫然とした。
…けど…実際、そうだったのかもしれない。分かり易い喪失こそ、女神化出来ない…って事だけだが、ここじゃ俺は国の長ではなく、何の立場もない存在。そして、今の俺が行き詰まっているという事は…俺は俺が思っていた程の存在じゃなかったのかもしれない。凡庸な存在ではないにしろ、立場に、環境に助けられていた部分も大きかったのかもしれない。…もし、そうだったとしたら…俺一人の力は、この程度だったんだとしたら、これから俺は……
「そんな事…そんな事ないよっ!師匠は凄いよ、凄い人…じゃなくて、女神だよっ!」
「……っ…!」
……そんな思考に嵌まりつつあった俺に届いたのは、違うという強い否定…それに、俺は凄いんだという強い肯定の言葉だった。彼女からの、言葉だった。
思いもしなかった言葉に、目を瞬かせる俺。そんな俺に向けて、彼女は続ける。
「だってこれまでも、一杯頑張ってたもん!一人なのに、凄く沢山頑張ってたもん!それに色々教えてくれたし、面白い話もしてくれた!それなのに、間違ってたなんて…そんな事、絶対ないよっ!」
「…お前……」
「…ねぇ、あの時の約束、覚えてる…?」
論理的な理由のない、感情だけの否定と肯定。赤の他人の話なら、説得力がない、と一蹴出来てしまいそうな言葉で……けれどそれが、俺の心に突き刺さる。それが彼女の、無邪気な彼女の言葉だからこそ…この次元で、唯一俺が「友」と呼べる相手からの言葉だからこそ……俺の心は、救われる。
それから彼女は一度口を閉じ、それから俺を見つめ、訊く。それはあの時の、彼女が女神となった日の事で……心に生まれる、ほんのりとした安心。確かに俺は失敗ばかりだ。自分の実力だって、不安になる。けど…今の俺にも、力になってくれる存在はいる。そういう存在と、俺は関係を築けている。そう考えれば、まだ俺は絶望なんてする必要が……
(…………ぁ……)
──だと、いうのに…これは彼女の優しさで、善意で、温かいものの筈なのに…俺は思ってしまった。思い付いてしまった。…彼女を利用すれば、成功するんじゃないか、って。
俺が作り出しているのは、謂わば器。女神メモリーをメインに据える為、器であり側である存在を作り出し、女神メモリーを核にしようと考えている。だが、女神メモリーはただのエネルギー…ただの、規格外なエネルギーというだけであり、それだけでは意味がない。規格外故に、器の方で制御し活用するという事も出来ない。……それを彼女なら…女神メモリーに込められていた力を宿す女神なら、制御する核となり、俺の『兵器』は完成するのかもしれない。
「……帰って、くれ…」
「…え……?」
「…すまない…本当に、すまない…けど、今日は帰ってくれ…。でないと、俺は…きっと、自分で自分に絶望する……」
「で、でも……」
「頼む…」
困惑する彼女に頭を下げる事で帰らせ、それから俺は項垂れる。
最悪だ。最低だ。こんなのは、許される事じゃない。俺がすべき事じゃない。そうだ、止めろ。もうこんな事は考えるな、それに可能性を見出すな。でないと、でないと俺は──。
*
「……あ、あぁ…はは、はははっ…ぁあ…ははははっ…」
目の前に鎮座する、虚ろな巨体。強大な力を持ち…しかし動く事はない、空の存在。
その巨体を前に、俺は笑う。……自分に、俺という存在に、絶望しながら。
(…これが、これが俺の本心なのか…俺は彼女を、道具としか…思って、いなかったのか……)
俺は、作り上げた。作り上げてしまった。…彼女を用いた、最大の兵器。
初めはまだ、彼女の身を第一に考える方向でやっていた。彼女を利用している時点で第一も何もないが…それでもその方向で考えていた。だが、それでは安定しない。やはり、望むレベルには至らない。そう気付いた俺は…選んでしまった。彼女を使い潰す、それで以って兵器を完成に至らせる事を。
「どう、したの……?」
「……っ!」
声が聞こえ、肩が震える。…俺は彼女を呼んでいた。何故?……利用する為だ。
信次元の為だ。皆を幸せにする為だ。…そんな声が、心の中から聞こえる。そうだ、皆の為だ。ここで俺が止まれば、世界は何も変わらないままだ。…それで、良いのか?彼女も力になってくれると言っていただろう?…そう、俺の心が囁いてくる。
「ねぇ、それって…?…もしかして、これが……」
「……!駄目だ!それに近付いちゃ…!」
振り向けないでいると、彼女は俺の前の存在に興味を示す。カモフラージュし、大部分は見えないようになっている為に、彼女の興味が引かれたんだろう。
咄嗟に俺は、彼女を止める。万が一、彼女が中に入ってしまったら。核として、成立してしまったら。そんな思いで、反射的に俺は彼女を止め…振り向いた彼女と、向かい合う。
「……泣い、てるの…?」
言われて初めて気が付いた。自分が涙を流している事に。…これは、何に対する涙だ?こんな事をしてしまう、俺に対してか?こうでもしなければ大望を果たせない事に対してか?…分からない。俺は…自分の心が分からない。
「…そんなに、悩んでたんだね…そんなに重いものを、抱えてたんだね……」
「…………」
「…うん、分かった。それじゃあ…やるよ。力になるって、約束したもん」
何も言えない。何も言葉を返せない。…そんな俺の前で、彼女は再び巨体へと向かう。あの時の約束を…今、果たそうとする。
再び、俺の心が囁く。これで良いんだ、と。別の声も聞こえる。そんな訳があるか、話もせずにさせて良い訳がない、と。…また、響く。話しても協力してくれるだろう、何故なら彼女は優しいから。恐怖に震え、未来に怯え…それでも俺の為にと、受け入れてくれるだろう。…そんな絶望を抱かせたまま、協力させるのか。何も言わない方が、むしろ彼女の為じゃないか、と。
そうだ。彼女は言ったじゃないか。俺は凄い女神だと。凄い女神の俺が、次元全てを救える、女神すら傷付かずに済む道を、選ばなくてどうする。それにこれは終わりか?…まさか。俺はもっともっと、俺の力なら更に、その先へと進める筈だ。ならば、全て上手くいった後に、彼女を戻せば良いだけじゃないか。そう考えれば、何も問題は、何一つ問題は……
「(駄目だ…そんなの、そんなのっ…ああぁ…待て、待って、待ってくれ…!待って、待って、待って…)待って…ッ!」
漸く俺の口から出た言葉。言葉と共に、俺は駆ける。駆け出し、彼女の手を掴む。
俺を見つめる、彼女の瞳。純粋で、俺の事を信頼してくれている、そんな感情が伝わってくる瞳。…俺は、そんな彼女を利用しようとしたのか。犠牲にしようとしたのか。…あぁ、やっぱり俺の心は狂っていた。だが、間違えてはいけない。俺が進むべき道は、とっくに決まってるんだ。それははっきりしたものなんだ。ならば、言う事は一つだろう。
彼女を見つめ、深呼吸をした俺。そして俺は、彼女を見つめて……言った。
「
──言った。言ってしまった。言ってしまったんだ。俺の、彼女の……俺達の未来を、決める言葉を。
(……あ、れ…?…俺は、今…どっちの言葉を、言ったんだ……?)
また、言葉が出なくなる。茫然として、力が抜ける。そして、彼女は……ミオは、頷いた。優しく微笑み…俺を信じたままの瞳で、俺に笑った。
女神化を、する。俺の目の前で、彼女は女神の姿となり……その身を、器へと降ろす。
「…うん。これからも…オレはうずめの、側にいるよ」
そうして、開いていた巨体の一部が閉じていく。俺の目の前で、俺への信頼と共に。そして、巨体に光が灯もり……ミオと器は、一つになる。
「……あぁ…そうだね、ミオ」
今ならまだ、間に合うかもしれない。止められるかもしれない。…けれど、俺の身体は動かなかった。俺の心は…それで良いと、認めてしまっていた。
急激に冷えていく俺の心。それで良いんだと、これで正解なんだと、俺は思ってしまっていた。
(……もう、止まれない…か…)
気が付けば、かなりの時間が経っていた。完全に起動した巨体が、俺を見下ろしていた。…何故気付かなかったのか。きっと…完全に、引き返せなくなる為だろう。
元々、止まる事なんか考えていない。でもこれで、本当に…本当に、立ち止まる事も止める事も出来なくなった。ならば……
「…ミオ。共に、世界を救おうじゃないか。俺と、君で……
オレは見上げ、言う。もう何の返事もない、巨体に…ダークメガミとなった、ミオに向けて。
そう……オレの道は、もう一つだ。オレはこの道を突き進む。それが……正しい事なんだから。
今回のパロディ解説
・「〜〜大体そんな感じ〜〜」、「ギャグ漫画に反応したネタ〜〜」
ギャグマンガ日和及び、そのアニメにおけるOPのフレーズの一つのパロディ。…伝わり辛かったような気がします。もうちょっと伝わり易くないと駄目ですね。
・「〜〜俺はね、女神なんだ…って」、某魔術師殺し
Fateシリーズに登場するキャラの一人、衛宮切嗣及び彼の台詞の一つのパロディ。しかし勿論、それを言われた彼女は拾われた訳でも災害から救われた訳でもありません。
・どこぞの特命係の警部
相棒シリーズの主人公、杉下右京の事。細かい事が気になってしまう…といえばまず彼ですね。こちらは分かり易いネタになったと思います。
・七代目火影
NARUTOシリーズの主人公、うずまきナルトの事。これはBORUTOでのある戦闘シーンで「気になるタチ」言ったからこそのパロですが…こちらは難しかったですよね…。