超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第百七十七話 その思いが繋ぐ過去(ザ・リバースワールド)

 もう一人の私と、並び立つ。原初の女神と、同じ場所に、共に。

 それは本来あり得ない事。現代において、原初の女神は確かに過去の存在で、こうして直接会えた事自体が間違いなくイレギュラーで…ここにいるもう一人の私は、私を創り出した私とは違うのかもしれない。違う次元の、もう一人の私なのかもしれない。…けれど、幻じゃない。確かにここに、もう一人の私は存在している。

 初めは上手くなんかいかなかった。思いが届かなくて、それが辛くて、自分の進む道もよく分からなくなって…でも、皆が支えてくれた。皆が今の女神の…今の信次元の在り方を示す事で、オリゼも考え方…というか、見方を変えてくれて、女神の姿に戻れなくなるという想定外の結果、思いもしない形で沢山触れ合う事も出来て……そういう色んなものが積み重なって、紡いで、その先の今がある。そしてこれは、ゴールじゃない。まだ、私とオリゼの絆は…始まったばかりなんだから。

 

『はぁぁぁぁああああッ!』

 

 息を合わせ、声を重ね、二人でレイへと突撃をかける。言葉は要らない。だって、私同士なんだから。

 

「ちょっとぉ…何力取り戻しちゃってくれてるのよぉッ!」

 

 真っ向から突撃し、肉薄をかけたオリゼのバスタードソードと、迎え撃つレイの杖が激突。ただそれだけで、衝撃が周囲に放たれ…次の瞬間、両者は同時に離れる。同時に離れ、直後に再び接近し、高速で何度も衝突する。その末に、より勢いの乗っていたオリゼがレイを跳ね飛ばし…即座に立て直すレイの背後へ、私が斬り込む。

 

「はんッ!その程度脅威でも何でも……」

「浅いな」

「ち……ッ!」

 

 読めている、とばかりに振り向くレイ。斬りかかる私を返り討ちにしようとして…直後に飛来するのは、オリゼの飛び蹴り。レイは側面からの一撃を咄嗟に杖でガードするも吹き飛び、そこへ私が射出で追撃。迫る武器をレイが魔法で迎撃している間に再度オリゼは接近をかけ、近接格闘を仕掛けていく。

 

「次はこちらだ、キセイジョウ・レイ…ッ!」

 

 先の再現をするようにまた、オリゼとレイは衝突を繰り返し、離れたところでレイは電撃を放つ。オリゼが斬り払えば衝撃波が続き、見切ったオリゼは真上へ回避……するのと同時に、上から回り込んだ私がレイの正面から長剣を振り下ろす。上昇したオリゼが凄まじい勢いで降下と接近をしてきたかのように、大上段からの一太刀を打ち込む。

 今度は防御をされる。杖でしっかりと阻まれ、即座にレイは押し返しにくる。けど、それで良い。押し返してくるなら、素直に押されて退くだけ。そして、私が退けば…入れ替わるようにして、今度は本当に降下接近をかけたオリゼが攻撃。そのタイミングで私は動き、自然と浮かぶ次の位置へと向かっていく。

 

「鬱陶しい…一人でもうざったいのに二人になると倍以上鬱陶しいとか、クソにも程があるんですけどぉ!?」

「旗色が悪くなった途端に泣き言とは、随分と情けないものだ。全く、この程度の出来損ないに遅れを取っていたとは、私もまだまだのようだ…!」

 

 オリゼが本来の姿を取り戻した事で、二対一…二人でレイと戦う形になった。けれど今しているのは、普段私が皆とするような連携とは違う。レイとの攻防の中心は、ずっとオリゼで…私の行動は、殆どが一瞬。オリゼの様に、連続で打ち合ったり、積極的にレイの注意を引いたりはしない。

 それは、私がオリゼの動きについていけないから。普通に連携しようとしても、オリゼの足を引っ張ってしまうだけだから。だけどそれは仕方のない事だし、連携の形は一つじゃない。追従する形での連携が出来ないのなら、出来る事を、やれる連携をするまでの事。私は一瞬を作り、一瞬を埋め、一瞬というアドバンテージをこちら側へ生み続ける。

 

「そうそう、お婆ちゃんはまだまだでちゅよ〜。お婆ちゃんなのにまだまだだなんて、哀れ過ぎて笑っちゃう……」

「…まだまだという事は、更に高みへと至れる可能性があるという事。それを笑うとは……」

「あぁ、全く愚かしいものだ…ッ!」

 

 反撃に転じたレイの電撃が、次々とオリゼに襲い掛かる。オリゼはレイと正対したまま縦横無尽に、回避と斬り払いを織り交ぜる事で凌いでいく。そのオリゼに向けて、唸るように、喰らい付くように電撃が迸り…レイが加速を、距離を詰める行動を取ろうとした瞬間、私が下から割って入った。先程とは逆に、下からレイの前へと割って入り、その接近を強引に止める。

 さっきとは違い、レイ自体も勢いに乗っていた分、止めるだけでかなりの衝撃が走る。けど、別に構わない。一瞬止められた時点で、私の目的は果たされているのであり……一瞬あれば、オリゼにとっては十分なんだから。

 圧縮シェア解放の力を長剣に乗せて、力尽くで押し返す。私も姿勢が崩れ、普通なら反撃の隙を晒してしまう訳だけど…そこに撃ち込まれたのは、巨大な剣。大質量の一撃でレイの動きを止め、レイは逸らす形で巨大剣を弾き……次の瞬間、オリゼはレイへ肉薄した。バスタードソードを振り抜き、その一太刀でレイを吹き飛ばす。

 

「流石オリゼ。これでまずは一撃……」

「…いいや、芯で捉える前に下がられた。あまり深くは入っていないだろうな」

 

 まだ一太刀浴びせられただけだけど、狙った通りに攻撃を通せたその意味は大きい。だから私は小さく笑みを浮かべて…でも、攻撃を与えたオリゼ自身は言った。吹き飛ばせたとはいえ、大きなダメージにはなっていないだろう、と。

 なら、まだ気は抜けない。しっかりと一撃入った場合でも、相手が相手な以上油断は出来ないんだから…これは一撃当てられた事より、ダメージを軽減された事を意識するべきかもしれない。

 

「…あー…面倒臭…ウザいし鬱陶しいし、果てしなく面倒臭いんですけどぉ……?」

 

 吹き飛ばされたレイがぶつかり、砂煙を上げている崖。それを前に私達が構え直す中、砂煙の中から声が聞こえ…次の瞬間、内側からの猛烈な風圧で砂煙は四散。砕けた壁面を背にした状態で、言葉通りに鬱陶しそうな表情を浮かべたレイが現れ…確かにオリゼの言う通り、一目で分かるような傷痕はなかった。

 

(オリゼと私だもん、負ける訳がない。…けど……)

 

 不愉快そうな視線をレイが向け、それをオリゼが冷ややかな瞳で返す。そして私も、同じように目を向けつつ…考える。

 間違いない。見た目だけでも不完全でもなく、本当にオリゼは女神の…原初の女神としての姿を、力を取り戻している。でも私はまだ、どうして取り戻せたのか聞いていない。だから、何も気にせずオリゼが戦えるのか、それとも何か懸念点があるのかって事も分からないし…もっと言えば、オリゼ自身が今の自分の状態を把握し切ってない可能性もある。病み上がり…とは違うだろうけど、万全の状態で戦ってる訳じゃないんだから、長期戦になるのは避けた方が良いかもしれない。

 だとすれば必要になるのは、ここまで以上に畳み掛ける事。余裕を与えず、反撃を許さず、徹底的な攻勢を仕掛け……そう考えていた時だった。

 

「ここまで面倒だと、もうぶっ潰すのもまた今度でいいやって思えるのよねぇ。だからぁ…私、これで帰りま〜す」

「……は…?」

 

 ぱっ、と左手を軽く上げ、戦闘中のものとは思えない程軽い調子で言うレイ。あり得ない態度に、思わず私はぽかんとしてしまい…でもすぐに気付く。レイは、逃げようとしているんだって。

 

「……っ、この状況で逃がす訳が……」

「あはっ、盛っちゃって怖〜い。でも安心して、あんた等の相手をしてくれる代役は、もう準備済みだ・か・ら♪」

『……っ!』

 

 長期戦は避けたいとはいえ、みすみす逃す理由もない。だから当然、私は先手を打とうとし……けれどその直後に、強烈な気配を本能が感じる。これを無視する訳にはいかないと、本能が私を引き留める。

 次の瞬間、上空から巨大な存在が飛来する。一直線に、落ちるようにレイが背にする崖の上へと飛来し…舞い上がった砂煙の中に、人影が浮かぶ。

 

(あれは、ダークメガミ…けど、この気配は……)

 

 空からの飛来と、その巨体からして、ダークメガミである事は間違いない。でも…何か違う。何かおかしい。

 

「じゃ、そういう事で〜。別にここでぶっ潰されてくれても構わないけどぉ、まあ程々に頑張って下さいねぇ〜。バイナラ〜」

「勝手な事を。そう易々と逃がす気は……」

 

 馬鹿にするような声と共に手を振り、レイは上昇。そのまま飛び去っていこうとする。けど当然オリゼがそれを許す筈もなく、即座に追撃をかけようとし…砂煙が、引き裂かれる。その中から伸ばされた、オリゼに向けて突き出された腕によって。

 

「……!オリゼ!」

 

 掌底の如く突き出された手はオリゼに直撃し、オリゼは弾かれる。反射的に私は声を上げ…けれど、オリゼはすぐに立て直す。

 

「想定していたよりも一撃が重いな。これまでに撃破したのとは違う訳か…」

 

 しっかりと防御をしていたようで、オリゼの表情は落ち着いたまま。でも、あのダークメガミを無視してレイを追撃するのは賢明じゃないと判断したようで、その瞳はダークメガミへと向けられる。

 腕に続く形で、現れるダークメガミの姿。だけどやっぱり、現れたのは普通のダークメガミじゃない。サイズこそ普通だけど、その関節からは黒い霧の様な…前にプラネテューヌに現れたダークメガミよりも濃く、はっきりと見えるエネルギーらしきものが漏れ出ていて……

 

「……ぁ、え…?」

 

 その全身を見た瞬間、私の思考は止まった。茫然としてしまった。何故かは、分からない。まだはっきりとは思い出せない。けど、多分…この、感覚は……知っているって、事だ。私は、このダークメガミと…或いは、このダークメガミに酷似した存在と…戦った、事がある。…そうだ、あれは…確か、この敵は──。

 

「…イリゼ?」

「……っ…だ、大丈夫。問題ないから、気にしないで」

「そうか。ならば、あれを討つぞ」

 

 茫然としていたところにかけられる、オリゼの声。その声で我に返った私は一度思考を打ち切り、意識を目の前の敵へと向ける。

 ダークメガミを正面に見据え、構え直す。崖の上に立つダークメガミもまた、顔の向きをこちらへと動かし……次の瞬間、ダークメガミは地面を蹴る。その巨体で崖を崩しながら、弾丸が如く向かってくる。

 

「行け、イリゼッ!」

「うんッ!」

 

 それを迎え討つオリゼ。再び突き出された腕に対し、今度はオリゼもバスタードソードを振るい、真っ向から剣を打ち合わせる。

 そしてその脇をすり抜ける形で、私も突進。殴打を止められたダークメガミの腕に沿うように飛び、すれ違いざまに肘関節へと一撃を浴びせる。

 手に伝わる、確かな感覚。けど、離れながら視線を送れば、黒い霧の…濃密なシェアエナジーの漏れ出す肘関節は、みるみるうちに再生していく。

 

「くッ…オリゼ、このダークメガミは例のタイプだよッ!まずは刃を放ってくる部分を潰して……」

「ふん、そのようだな」

「あ…う、うん……」

 

 ダムを解放したように、凄まじい勢いで放たれ始める迎撃の刃。それを避けつつ私はオリゼに声をかけ……直後、オリゼは受け止めていたダークメガミの手を、前腕部の中程まで一気に斬り裂く。バスタードソードを長大化させ、圧縮シェアの解放も乗せる事で、装甲もろとも斬り裂いていた。それ自体は、斬り落とすではなく横に捌く形だったからか、私が与えた一撃同様あっという間に再生してしまったけど……やっぱり、私とオリゼじゃレベルが違う。…冗談抜きに、もう全部オリゼ一人でいけるんじゃないかな……。

 

(…って、何情けない事考えているんだ私は。私にも、私を信じ、思ってくれる人達がいる。なのに、信仰されている私がそんな思考をしていてどうする…!)

 

 ふっと湧いた情けない思考を振り払い、私は再度の突進をかける。力があるから、勝ち目があるから女神は戦うんじゃないし…オリゼが本当に万全なのか、何か懸念要素があるのかどうかも分からないまま。だったら…任せるなんて選択肢、あるものか…!

 

「私とて、原初の女神…たとえ、我が創造主には遠く及ばずとも……この名は、思いは、偽りではない…ッ!」

 

 オリゼは、迎撃を必死に避けて、一瞬の隙を突いて…なんて戦い方はしていない。その圧倒的な実力で攻撃も迎撃も捩じ伏せ、身の丈よりも遥かに長い剣を振るってダークメガミを斬り裂いている。小細工なしに、斬撃をダークメガミへ叩き付けている。

 私にそんな真似は出来ない。力も、速さも、有するシェアエナジーの量も、大半の面で劣っている私は、動き回り、思考を巡らせ、必死にチャンスを掴んでいかなきゃいけない。でも…それでも私は、オリジンハート。もう一人のイリゼとして生み出された、守るべき人達を持つ女神。能力は遠く及ばなくても……心は、絶対に負けてなんかいない…ッ!

 

「再生能力があろうとも、斬って斬れない相手でもない。ならばその身、両断するまで…!」

 

 ここまで迎撃の射出部位はあまり狙わず、一撃離脱をオリゼは繰り返していた。どうもそれは、このダークメガミの防御力を調べていたようで…小さく吐息を一つ吐くと、一気に肉薄。超高速の機動で迎撃を潜り抜け、頭から一刀両断しようと剣を振り上げ……その、次の瞬間だった。頭部周辺に漂っていたシェアエナジーの霧が変化し…ぐにゃりと歪んだ笑みのようになったのは。

 それと同時に、これまではその場で私達に攻撃をし、あまり動いていなかったダークメガミが後方へ飛ぶ。ギリギリながらも後退によってオリゼの攻撃を避け、飛んだ先の崖、その壁面を蹴って上昇し…飛び回り始める。それも風に吹かれる木の葉の様に、狭い部屋の中で跳ね回るスーパーボールの様に、狂ったように動き回る。

 

「…ほぅ…偽神風情が私達を愚弄するか。性根の腐り果てた出来損ないらしい、不愉快な人形だ」

(…この、動き…それにさっき見えたのも…やっぱり、こいつは……)

 

 攻撃せず、かといって逃げる訳でもなく、ただ私達を馬鹿にするように周囲を飛び続けるダークメガミ。けど、その動きは機敏で、不規則で…本能的に戦っているようだったダークメガミとは、速度も挙動も大きく違う。

 でも…捉え切れない程じゃない。ダークメガミより強いのは間違いないけど、ちゃんと勝機は見えている。…大丈夫。私は複製体の私として、いつもの通りやれる事を全力で……

 

「……だが…ふっ、そうだな…このような悪なら、むしろ丁度良いかもしれない」

「…オリゼ?丁度良いって、何が……」

 

 不愉快そうな顔をしていたオリゼが、不意に浮かべた小さな笑み。その笑みも、続けて聞こえた言葉の意味も私には分からず、警戒しながらも聞こうとし……その直後、オリゼは巨大な剣を、さっきレイに放ったもの以上の剣を作り出し、それをダークメガミへ向けて放つ。それも一本ではなく、次々と…何本も作っては放ち、途中から躱し切れなくなって防御に転じたダークメガミを跳ね飛ばしていく。

 

「…イリゼ」

「へ…?…あ、は、はい」

 

 それを何度も繰り返し、かなりの距離にまで追いやったところで、オリゼは振り向き私を呼ぶ。呼んで、すぐ側にまで来る。

 その声は、表情は、凄く真剣そうなもので…思わず畏まった態度になってしまう私。するとオリゼは肩を竦め…私に、言う。

 

「イリゼ。私は、君を知らない。最早、君の言葉、君の存在を疑う気持ちは微塵もないが…やはり、知らないのだ。私にとって君は、確かにもう一人の自分と言える…されど私ではない、この時代に存在する女神の一人に過ぎなかった。思うところはあれども、特異な存在であっても、特別な存在ではなかった」

「…うん、分かってる。それは凄く…私にとって凄く、辛くて、寂しい事だけど…もう十分、理解してる。その上で、私は……」

「ああ。その上で、尚も私を家族だと思ってくれるのなら…私ではない、されど確かに私である、もう一つの『イリゼ』として、人を思い続けるのなら……私と共に、翔んでほしい」

 

 真っ直ぐな、純粋な、オリゼの瞳。真摯で、真剣な、オリゼの言葉。強く、誇り高く…そして温かい思いを、私はもう一人の私から向けられ……手を、差し出される。

 色々な思いが、込み上げてきた。感情も涙も、溢れ出してしまいそうだった。…けれどオリゼは、ただ家族として言ってるんじゃない。家族であると同時に、もう一人の自分として…女神として、言っているんだ。家族と女神、その両方の存在として、私に手を差し出しているんだ。だったら、答えは……一つ。

 

「…当然だ。私は翔ぶ。守るべき、愛すべき、全ての人々の幸せの為に。私は駆ける。女神の務め、女神の思い、女神の信念……私という女神の在り方、その全てを貫く為に。そして…喜び、悲しみ、希望、決意……私が私として、女神として紡いできた道、その始まりを過去から与えてくれたもう一人の私への感謝を込めて…私は私として、もう一人のイリゼとして、歩み続ける!」

 

 今ここにいるオリゼが、私の思っていたもう一人の私かどうかは、もう関係ない。もう、今ここに、私とオリゼとの…私ともう一人の私との繋がりは、絆はあるから。私がもう一人の私から、期待と願いと希望と愛を目一杯込められて生み出された事は、知っているから。私もまた、女神であり……人を思う気持ちは、オリゼに絶対負けていないから。

 だから私は、オリゼの手を取る。掴み、握り、心を通わせ……そして、力が流れ込む。オリゼからじゃない。私の内側から、奥底から、目覚めた瞬間からずっと在り続けていた、私の中の繋がりから……溢れんばかりの力が、解き放たれる。

 

「……っ…こ、これは…」

「やはり、か。感じた通りだ」

 

 信じられない力の奔流に、理解を超えるシェアエナジーの光に、私は狼狽える。その私を前に、オリゼは不敵な笑みを浮かべて……次の瞬間、私の全身に満ちた力は、私の外へと流れ出す。ダークメガミのそれとは違う、強く優しい光となって、私の翼を、プロセッサユニットを再構築していく。ただの力としてではなく、思いが包んでくれるように、思いが支えてくれるように、私が研ぎ澄まされていく。

 そして最後に、私を包んでも尚有り余るシェアエナジーが、幾つもの帯の様に周囲へ漂い…輝く光は、落ち着いていった。…でも、溢れ出すシェアエナジーはそのまま。漲る力と共に、強く煌めく。

 

「……オリゼ、この力は…オリゼが…」

「いいや、その力は…否、その能力は元からイリゼにあったもの。私はただ、その門を開いただけに過ぎない」

「…そっか、なら……」

 

 ゆっくりと首を横に振り、自分が与えた力ではないと否定するオリゼ。訊きはした私だけど…初めから、そうだと思っていた。感覚として、理解出来ていた。

 これは、元から私の中にあったもの。過去と繋がった、完全開放された、原初の女神の力の源。なら、私は…この姿を、この能力を、こう呼ぼう。──リバースフォーム、と。

 

「イリゼ、何か問題は?」

「いいや、全く。開放されたばかりの力であろうと……あの偽神を打ち滅ぼす事には、何の支障もない」

「そうか。ならば……終わらせるぞ、もう一人の私よッ!」

 

 遠く跳ね飛ばされていたダークメガミは今、こちらへと向かってきている。防御し切ったのか、それとも再生しただけなのか、その巨体に目立つ損傷はなく…やはり今も、その頭部には笑みらしきものが浮かんでいる。

 そのダークメガミを見据え、オリゼは言った。迎え撃つでも、倒すでもなく…終わらせる、と。戦闘再開ではなく、もう決着に至るのだと。けれどそれは、間違いでもなんでもない。間違いなくこの戦いは…すぐに、終わる。

 

「ふ……ッ!」

 

 オリゼと共に、空を蹴るようにして突進する。この姿、リバースフォームとなった事で、女神としての身体能力は向上し…その上で私は、圧縮シェア解放による加速をかける。それも一度ではなく、連続で。瞬間的な加速ではなく、それを途切れさせる事なく、幾度となく繰り返し…永続的な加速へと昇華させる。一瞬で以って、私とオリゼは肉薄し…斬撃一閃。両腕を躱し、左右から腰を深く斬り裂く。

 

「諦めよ。最早その力は、私達には追い付かん」

 

 勢いそのままに、一気に私達は離脱する。一瞬で距離を取り、反転し、次なる攻撃へと入る。

 当然無数の刃が、迎撃が迫る。されどそれも全て、圧縮シェア解放の推進力を用いて回避する。必要に応じて、全身の凡ゆる部位へとその力を受ける事によって、全方位への超機動を成立させる。

 同じ事をこれまでの私がやろうとすれば、シェアエナジーの配給と身体、そのどちらか又は両方が持たなかった。でも今はそれが出来る。これまでは短時間しか引き出せなかった全力を、更に高次元で、尚且つ常時のものとして私は振るえる。

 

(これが、オリゼの戦い…一人で全ての人を、信次元を守り導いた、女神の領域……!)

 

 打撃は避けられ、迎撃もまるで届かない状況を前に、ダークメガミの歪んだ笑みは揺らぐ。不規則だった飛行から、大きく後ろへ下がる動きへと変わり、両の掌底から私達へ向けて光芒を放つ。

 それを正面から捉えた私は、構えた長剣を叩き付ける。真っ向から打ち、通常の剣であれば光芒に灼かれる前に衝撃で砕ける程の圧縮シェア解放を乗せ続け、私自身への力と共に抑え込む。抑え込み、更に込める力を増し……駆け抜ける。両断しながら進んでいき、長剣を振り抜き…もう一方の光芒を相手取るオリゼと共に、光芒諸共腕を肘まで引き裂いた。

 今までは、回避をするしかなかった攻撃。防御しようものなら、押し切られる可能性の方が高かった光芒。それすらも今は…今の私には、届かない。

 

「イリゼッ!」

「オリゼッ!」

 

 腕の中を流れていたエネルギー諸共斬り裂かれ、その爆発でよろめくダークメガミ。ただでさえ劣勢。ただでさえ窮地。その中で、大きな隙を晒してしまえば…それは最早、終わりに等しい。

 終盤は、終幕へ。確定していた勝利は、その通りの決着へ。私はオリゼを、オリゼは私を呼び、視線と心を交錯させ……偽神を、討つ。

 

「全ての人に救済を!」

「在るべき世界へ救世を!」

 

 突進からの、駆け抜ける斬撃。遅れて殺到するのは、無数の武器。再び私達はダークメガミを斬り裂き、放たれた巨大な刃が後に続く。

 縦横無尽、全方位。鏡の様に、私とオリゼは同じ動きを、寸分違わぬ同種の攻撃を、真逆の方向から打ち込み捌き、斬り裂き砕き、ダークメガミを崩していく。前に後ろに、左に右に、上に下にと飛び回り、仕掛け続ける。ダークメガミが再生するのなら、攻撃の結果を消してしまうのなら、それよりも早く、それよりも激しく、攻撃を畳み掛ければ良い。純粋にして圧倒的な、如何なる小細工も通用しない、絶対の差を刻めば良い。

 

「我が道を阻めるものなど一切なく!」

「我が道の跡には人の未来が咲き誇る!」

 

 腕を裂き、肩を砕き、脚を潰し、腰を穿ち、全身を武器が、私達の意思が籠った形あるシェアエナジーが薙ぎ払う。別々の二人による連携ではなく、同じ「イリゼ」としての連撃が、悪なる存在を討ち貫く。

 直下から直上へ、天へと駆け昇る光が如く私とオリゼはダークメガミを斬り上げ、左右に分かれる。負担の観点ではなく、受けられる面積の限界まで圧縮シェアエナジーを展開し、長剣を振り上げる。そして……

 

「────原点にして頂点(ジ・オリジン)

 

 私達は、振り抜いた。原初の女神の全力…邪なる者を討ち、人を救い、導く女神の本懐を果たすべく……交差する斬撃で、闇を祓う。

 ダークメガミを背にする形で、それぞれの方向から袈裟懸けを放った私達は、ゆっくりと刃を降ろす。撃破出来たか否かの確認はしない。する必要はない。それは最早、確実すらも超えた……そうなると、決まっていた事なのだから。

 

「…………キ、ヒッ…」

 

 それは断末魔か、それとも最後の嘲笑か。微かにそんな、声らしい音が聞こえ……次に聞こえたのは、ダークメガミが墜落した音だった。

 

「…ふー、ぅ……」

 

 落ちた音が聞こえたところで、私はゆっくりと息を吐く。その音を終了の合図代わりにして、張り詰めていた緊張と研ぎ澄ませていた神経を緩める。

 本当にこれは、凄い能力。完全にオリゼと同等…とまではいかないのかもしれないけど、それでもこれまでとは比較にならない。…とはいえ流石に、あれだけの動きをすれば疲れるし、湯水の如くシェアエナジーを消費し、圧縮シェアの解放を受け続ければ身体も痛くなる。強力な事は間違いない…というか、強力だからこそ、使いどころには気を付けて……

 

「…あ、れ…?…え……?」

 

 じわり、と鼻を違和感が降りてくる。何だろうと思って触れると、指には血が付いていて…そのすぐ後に、左の視界が赤く染まる。何かおかしい、そう思う中今度は咳き込み…吐血する。口に当てた手に、べったりとした血が張り付く。

 

(う、そ…何が、起きて……)

 

 身体から、力が抜ける。重くなって、飛ぶのもままならなくなり、私は倒れる。一瞬落ちていく感覚が私を包んで…でも、落ちはしなかった。落下する前に、倒れ込んだ時点で、オリゼが私を抱いてくれた。

 

「…オリ、ゼ…私……」

「…それは、反動だ。同じ私とはいえ、イリゼと私は同等ではない。そのイリゼが、私に迫ろうとすれば…私に近い動きをしようとすれば、身体がそうなってしまうのも無理はない事だ」

 

 左腕を膝の裏に、右腕を肩と首筋に通した、所謂お姫様抱っこの体勢で抱えてくれたオリゼは、静かに語る。

 反動。つまりこれは、リバースフォームで私がやった事の…いや、リバースフォームそのものの負担の結果。戦っている最中は、全く感じなかったけど…確かにこれだけの力を、そもそも実力の大半で劣っている私が受けようものなら、何もなしに済む訳がない。

 

「…オリゼは…分かってたの……?」

「…予想は出来ていた。だが、私はそうした。そうしようと思った。…それが事実なのだから、誤魔化しはしない」

「…そっ、か…そう、だよね…女神は、思いだけじゃいけない…強くもなくちゃ、女神はその使命を果たせない…。…ごめん、オリゼ…折角あそこまで、私を信じてくれたのに……」

「いいや、違う。違うよイリゼ。謝るべきは、私の方だ」

「え……?」

 

 あぁ、情けないな。最後の最後でこれなんて。…そう、私は恥ずかしくなった。信じてもらえたからこそ、申し訳なかった。…でも、オリゼは違うと否定する。そうじゃないんだと否定して……言う。

 

「分かっていたのに、そうした。それは、この程度出来て当然だと思っていたからではない。勿論、出来てほしいとは思うが……私がそうしたのは、私がそうしたかったからだ。もう一人の私に、イリゼに…全力の私と、翼を並べてほしかったんだ」

「オリゼ……」

 

 柔らかく、優しく、同時に済まなそうでもあるオリゼの笑み。もう一人の私が、家族が向けてくれる…温かい思い。

 私の視界は、血で片目が赤くなってしまっていて、普段よりもしっかりしていない。でも、今は…溢れてしまった一粒の涙で、更に少しだけ歪んでしまっていた。

 

「…戻るとしよう。あの出来損ないには逃げられたが……目的は、果たされたのだから」

「…うん…その、ごめんね…オリゼに抱えさせちゃって……」

「…何を謝るかと思えば…私を母と呼んだのは、イリゼ自身だろう。ならば、私がこうしようとも、何もおかしな事はないさ」

 

 そうして、私達は浮遊大陸を後にする。今回もまた、驚く程予想外の事が続いた。分からない事、気になる事だってまだある。

 でもオリゼの言う通り、目的は…オリゼの本来の姿は、取り戻せた。それに……今私の胸には、収まり切らない位の幸せな気持ちが詰まっている。だから私は、オリゼと、自然に浮かんだ笑顔と共に…プラネテューヌへ、戻るのだった。

 

「……ありがとね、オリゼ」

「私こそ。ありがとう、イリゼ」




今回のパロディ解説

・バイナラ
お笑いタレント、斉藤清六こと斎藤精陸さんが欽ちゃんのどこまでやるの!?において発した挨拶の事。若者言葉みたいなものと思いきや、芸人発祥だった言葉ですね。

・〜〜もう全部オリゼ一人でいけるんじゃないかな……。
仮面ライダーBLACK RXの漫画版におけるワンシーンを元にした、ネットスラングの一つのパロディ。冗談ではなく、本当にそれ位やるのでオリゼはタチが悪いです。
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