超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第一話 一人ではなく二人

 終わったと思った物語。だけどそれには、続きがあった。一つの物語としては確かに幕を引き、けれど続編ではなく、正当な『続き』ではなく、『派生』として…もう一つの物語が、そこにはあった。

 そこにもまた、出会いがあった。その表現を使うにはあまりにも早過ぎるけど、再会もあった。これまで何度も紡いできた、本来ならば交差する事のない物語が…繋がり、そして紡がれた。私達の、絆と共に。

 激動の物語。悲恋の物語。歓喜の物語。物語には色々とあって、私達が迎えた新たな物語は、それ等程激しく誰かの心を震わせられる物語じゃないのかもしれない。だけど私にとっては、これもまた大切な物語、大切な日々。だって……これは、友達との穏やかな時間という物語だから。

 

 

 

 

 目を開ける。

 目を瞑ってた覚えはない…けど、目を瞑ったままじゃ周りの事が分からない。

 だから、目を開ける。

 

「……?」

 

 右を見て、左を見て、もう一度右を見て。

 周りにあるのは、雪と、木と、家。

 知ってる景色、いつもの景色。

 

「…?……??」

 

 首を傾げる。さっき不思議な穴の中に入ったのに、右も左も同じ。

 何も変わらない?穴に見えた何か?

…分からない。

 

「ロム、ラム、不思議な穴が……」

 

 振り返る。ロムとラムに、訊いてみる為に。

 でも、ロムもラムもいない。

 先に帰った?置いてけぼり?

 

「…う、置いてけぼりはいや……」

 

 置いてけぼりは、悲しい。

 もしかすると、ロムとラムの方が置いていかれたと思ったのかもしれない。

 穴、目立たないところにあった。

 だから、先に教会に帰ったと思っても、変じゃない。

 

「…教会、こっち」

 

 ここに来るまでの道を思い出して、歩き出す。

 覚えるのは得意。知らない事が多いから、その分沢山覚えられる。

 最後に曲がったのは左だから、ここは右。次は左。その次は真っ直ぐで……

 

「…ここ、通ってない……」

 

 でも、途中で知らない場所に出た。

 覚えている通りに歩いていたのに、知らない場所。

 これは、迷子?犬のおまわりさんに訊くしかない?…けど、犬のおまわりさん、いない。

 

(迷子、困った。帰れない…)

 

 帰れない、困る。

 皆、心配する。美味しいご飯も、暖かい毛布も、このままだとなしのまま。

 

……非常に困る。

 

「……あ」

 

 だけど、その時道の向こうにブランを発見。

 白い帽子に、茶色の髪に、ふわふわの毛の付いた服を着ているから、間違いない。

 これは、幸運。

 

「ブラン、ブラン」

「え?」

 

 急いでブランの所まで行って、右の手を掴む。

 暖かい、これはブランの手の暖かさ。

 撫でられた時と同じ、好きな感じ。

 

「ブラン、ロムとラム、先に帰った?」

「…ロムと、ラム?」

「そう。気が付いたら、いなくなってた」

 

 二人の事を、訊いてみる。

 分からない事はすぐに訊く。これが、賢くなる秘訣。

 

「…え、っと……」

「ブラン…?」

 

 けれど、何か変。

 いつもなら、ブランはすぐに答えてくれるのに、今は困ったような顔をしている。

 ブランにも難しい事を訊いた?

 

…分からない。これは、初めて見る表情。

 その内に、ブランはじっと見るような顔になって…言う。

 

「──貴女は、誰?」

 

 …………。

 

 ブラン、変な事を訊く。

 だけど、そう訊くって事は、分からないって事。

 だから、答える。

 

「イリス」

「イリス…?」

「そう、イリス。ブラン、忘れた?」

 

 そう。イリスは、イリス。

 ロムとラムと、ブランと皆の家族の、イリス。

 撫でる事、デコピンというもの、戦い方…イリスはブランから、沢山の事を教わった。

 

 なのに、ブランはもっと変な顔をする。

 分からない、そう言ってるみたいな顔を。

 

「…もしかして、何かのイベントの時に話したりしたかしら?それとも、別の機会?……わたしが忘れていただけなら、謝るわ」

「イベント?…イベント、違う。イリス、ミナに保護された。それから、ブランと出会った」

「…それ、って…。…確認だけど、貴女はわたしと、何度も接した事がある。わたしも貴女の事を、ちゃんと知っている。…そうなの?」

 

 イリスは頷く。

 ブランも理解したらしい。流石ブラン、賢いブランは理解も早い。

 

「…………」

「…ブラン?考え事?」

「…イリス…だったわね。貴女、これからやらなくちゃいけない事があったりする?」

「ん、ない。イリス今、迷子。教会まで連れて行ってくれると、とても助かる」

「…そう。なら、案内するわ」

 

 そう言って、ブランはイリスの手を引いてくれる。

 良かった、これなら教会に行ける。

 イリス、迷子の子猫じゃなくなった。

 

「……?イリスが子猫なら、ブランが犬のお巡りさん?」

「犬のお巡りさん…?…残念だけど、わたしは種族も務めも女神よ」

 

 もしかしてと思って訊いたけど、ブランは否定。

 そういえばそうだった、イリスは勘違いを自分の中で訂正する。

 ブランは女神。ロムとラムも、女神。ミナは人間で、イリスは……

 

「…はぐれないように、ちゃんと握っているのよ?」

「分かった。イリス、ちゃんと握ってる」

 

 言われた通りに、ブランの手を強く握る。

 これからイリスは、教会に行く。

 ロムとラムも、きっといる。これで、安心。

 

 教会へ向けて、イリスを連れて行ってくれるブラン。

 ブランの手…温かい。

 

 

 

 

「…と、いうのが教会に連れてくるまでの経緯よ。貴女が来るまでに訊いたんだけど、イリスはロムとラムと遊んでいて、その時見つけた穴の中に入ったら、いつの間にか二人がいなくなっていたんだとか」

 

 電話で聞いた、見知らぬ…けれど相手は自分の事を知っている様子の、まるで親しい間柄であるかのように接してきた、一人の女の子。イリス、と名乗った、ロムちゃんラムちゃんと同じ位の少女。

 その子と会う為に、私はルウィーへと急行した。女神化状態で教会の敷地に降りて、中に入って……そうして今は、ブランから詳しい話を聞いたところ。

 

「穴、いつの間にか二人が…。…ロムちゃんとラムちゃんは?」

「勿論、二人も知らないって言っていたわ。そもそも今日は、二人共外に遊びに行っていないし」

「となると、やっぱり別の次元から…って可能性が高いね。…会わせてもらっても?」

「えぇ、待ってて」

 

 穴、というのは次元の扉かもしれない。まだ確定は出来ないけど…証言からして、やっぱり別次元の…別のゲイムギョウ界から来たんじゃないかと思う。

 ただまあ何にせよ、私も自分で…イリスちゃん?…の話は聞いてみたいと思うし、そもそもここに来たのも直接会う為。そしてそれを分かっているブランは、一度執務室を出て行って…応接室で待ってもらっていた少女、イリスちゃんを連れてくる(待ってる間はミナさんが見ていてくれたんだとか)。

 

「待たせたわね。イリゼ、この子よ」

 

 開かれた扉、ブランに続いて入ってきたのは、薄い赤色の髪に、綺麗な金の瞳を持った、聞いていた通りの小さな子。

 その子は私を見ると、まずこちらをじーっと見つめて、次にブランを見て、それからまた視線を私に移し……

 

「お前、誰?」

「お、お前?……こほん。私はイリゼ。原初の女神の複製体、オリジンハート…っていう女神だよ。宜しくね」

「原初…最初の女神?」

「そう、ここ…信次元の、最初の女神の複製体が私なんだよ。…って、それをいきなり話されても困るよね、はは…」

 

 まあまあキツめの言い方で、誰なんだと訊いてきた。…ま、まぁ初対面の人にはどちら様か訊くのが普通だもんね!見たところほんとにロムちゃんやラムちゃんと同じ位だろうし、言葉遣いに関しても仕方ない部分が多いよね…!

 

「…ん、理解した。私はイリス。ここで保護されているモン……」

『……?』

 

…と、私が私の中で納得しようとしている中、イリスちゃんも自己紹介を開始。でもその途中、不意にイリスちゃんの言葉が途切れる…というか、イリスちゃんは自分で自分の口を塞ぐ。重ねた両手を、口に当てて。

 

「…イリスちゃん?どうかしたの?」

「……なんでもない。イリスはイリス、よろしく」

「う、うん。宜しく…(わー、あからさま……)」

 

 自分で自分の口を塞いだままのイリスちゃんにどうしたのかと訊いてみれば、イリスちゃんは目を逸らす。それも顔全体で横を向いて、思いっ切り。

 明らかに何かを隠した…というか、言っちゃいけない事を言いかけたっぽいイリスちゃんだけど、流石にその内容までは分からない。そして誤魔化したイリスちゃんはといえば、ブランの方を見て一つこくり。それはまるで、「ちゃんと隠せた」と伝えているようで…でも当然その内容を知らないブランは、どうしたものか言わんばかりの微妙な顔。…ほんと、何を誤魔化したんだろうね…。

 

「…ブラン、また変な顔。調子悪い?」

「そういう訳じゃなくて……イリゼ」

「…うん」

 

 何か変だと思った様子のイリスちゃんから視線を受ける中、ブランは私の方を見る。それに私も、頷きを返す。

 

「…イリスちゃん。今からイリスちゃんにね、大事な話があるの」

「イリスに?」

「そう。聞いてくれる?」

 

 私の様子から真面目な話だと察したのか、イリスちゃんは私がいるのとは向かいの席へ。自己紹介の為に一度立っていた私は、イリスちゃんと共に座り直し…そして、言う。

 

「…イリスちゃん。いきなりこんな事を言われても、訳が分からないかも知れないけど…ここはね、イリスちゃんの知ってる…イリスちゃんのいた次元じゃ、ないの」

「…………」

「…イリスちゃん?」

「…次元、知らない言葉。次元、場所の名前?」

 

 驚くか、困惑するか、はてまた冗談だと思うか。色々想像していた私だけど、返ってきたのは「次元」という言葉、そのものへの問い。一瞬、その返しに私はぽかんとし…でも、考えてみれば当然の事。別次元に何度も飛ばされてる私がおかしいのであって、普通の人はそういう経験なんかしないし、そもそも『別次元』という概念自体知る事なんてないだろうから。

 

「えぇ、っと…別次元っていうのは、別の世界…じゃ、結局同じか…似てるけど違う世界というか、別のルールや歴史を持つ世界というか……」

「…イリス、ゲームはした事ある?」

「ん、ある。ロムとラムと、一緒にやってる」

「なら、次元っていうのはゲームみたいなものよ。ゲームは同じ物が沢山あって、内容も基本的には同じだけど、どうやって進めるかによって、一人一人ちょっとずつ違いが出てくるでしょ?次元も、そんな感じなのよ」

 

 一体どう説明したものか。よく似た次元でも細々とした違いは幾つもある筈で、でもブラン曰く、イリスちゃんはその違いにすら現状殆ど気が付いていない様子。だからそこを起点にした説明が出来ず、私は苦心し…だけどそこで、ブランが助け舟を出してくれる。

 

「次元は、ゲームみたいなもの…じゃあ、イリス達も、誰かに操作されている?」

「そういう訳じゃないわ。強いて言うなら、ゲームのキャラ全員が、それぞれプレイヤーみたいなもの…かしらね」

「全員、プレイヤー…?…む、む…次元、難しい…」

「確かに難しいわね。…そうだ、通信交換は分かるかしら?」

「それは分かる。通信すると、進化する事もある。持っている物や腕が増える。だけどその原理、ロムとラムも知らない。解明が望まれる」

「そ、それはまあ、通信交換の際の独特な電気信号やエネルギーが…こほん。…次元はゲームみたいなもので、貴女は事故で通信交換の様に、こちらの次元へ来てしまった。例え話だから、少し間違ってる点もあると思うけど…わたし達は、そう見ているわ」

 

 そうして私から引き継いだブランは、ゲームを用いて最後まで説明。ブランも少し苦労していたようだけど、私の煩雑な説明よりもずっと分かり易く…見たところ、イリスちゃんもそれで理解してくれたようだった。…まあ、正しく認識したというより、例えは取り敢えず理解した…って感じだけど。

 ともかく、ざっくりとでもこれでイリスちゃんに次元の事は分かってもらえた。だから、ここからが…本題の話。

 

「…だから、ねイリスちゃん。ここは、イリスちゃんの知っている人達がいる場所でも、イリスちゃんがいたのとは違う次元だから…ブランはイリスちゃんの事を、知らないの」

「……ブランは、イリス、知らない…。…ミナは?ロムとラムも、イリス、知らない?」

 

 言われた言葉を反芻するように、イリスちゃんは呟く。それから「だったら」と思考を繋げるように、ミナさん達はどうなのか、と私達に尋ねてくる。

 これを言うべきか、それとも言わないべきか、私は迷っていた。小さいイリスちゃんに、この真実を伝えるのは酷じゃないかと思ったから。…だけど恐らく、すぐには帰れない。何より、根本的な齟齬がある中で、無理に「知っているフリ」をするなんて…きっとすぐに、瓦解する。そうなれば、その時イリスちゃんは激しく混乱してしまうと思う。…だから先に話した方が良いと、私は思った。

 皆、自分の事を知らないのか。その問いに黙って、ただ一つ頷いた私。するとイリスちゃんは、またブランを一度見て……呟く。

 

「…ブラン、知らない。ミナもロムもラムも知らない。…イリス、独りぼっち」

「……っ…それは…そんな事ないよ、イリスちゃん…!」

 

 まるで変わらない、ずっと変わらない、無表情なままのイリスちゃんの顔。声だって、感情が希薄なのかと思う程抑揚が少ない。

 だけどなら、イリスちゃんは何も感じていない?今の発言は、ただ事実を口にしただけ?…そんな訳がない、そんな筈がない。私にはほんの少しだけど、その声から悲しさ寂しさを感じた。それは私が、そう感じたように思っただけかもしれないけど…だとしても、そんなの関係ない。関係なんてあるものか。

 私は立ち上がり、イリスちゃんの側へとよって両手を握る。自分の両手で、イリスちゃんの両手を包み込むように。

 

「…イリゼ?」

「大丈夫、イリスちゃんは独りじゃない。ブランがこうして連れてきてくれたのは、イリスちゃんの事を『知らないからどうでもいい』なんて思わなかったからだし、それは私も同じ。…だよね?」

「えぇ。貴女を独りにする気はないわ」

「…イリス、独りじゃない?」

「うん、イリスちゃんは独りじゃない」

 

 今度は私がイリスちゃんの言葉を、真っ直ぐに返す。両手を握ったまま、見つめ返して、思いを込めて。

 今、多くを語る必要はない。今大切なのは、思いを届ける事。独りじゃない、独りにしないと伝える事。そうだ、独りになんてするもんか。私はこれまで、色んな次元、色んな場所で、色んな人に助けられ、手を取り合ってきたんだから。何も分からない場所に一人でいる事の辛さも、誰かがいてくれる事の心強さも、よく知っているんだから。

 手を握り、瞳を見つめ、数秒が経った。イリスちゃんは依然、無表情で……

 

「…ブランの手、いつもと同じで、温かかった。イリゼの手も、温かい。……イリス、独りじゃない」

 

 きっとまだ、不安はあるんだと、よく分かってない部分も多いんだと思う。それでもイリスちゃんの心には、不安や孤独感とは違う…温かい気持ちが灯ったんだと、私達の気持ちが届いたんだと…今の言葉で、そう思った。そう、感じた。

 

「…ありがとね、イリスちゃん」

「……?イリス、何もしてない。ありがとう、何故?」

「ふふっ、そうだね。確かに今『ありがとう』は変かも。でも…うん、言いたくなったんだ」

「ん、理解した。ありがとうは、言いたくなった時にも言う」

「あ…う、うん。間違ってはいない…か、な…?」

 

 感謝の気持ちは、伝えたいと思った時に伝えるもの。確かにそれはそうなんだけど、この調子だと全然関係ない時にも言ってしまう…ような、気がしないでもない。でも、じゃあ「言いたくなった時にも言う」、という認識が間違っているかといえば微妙な訳で…これは今後、間違ったタイミングで言っていたら、その都度訂正していこう…と心に決める私だった。

 

「…さて、と…イリスちゃん。それじゃあ次なんだけど…帰れるようにする為に、イストワールさんのところへ…プラネテューヌに一緒に来てくれる?ここにいたいなら、逆にイストワールさんに来てもらうけど…」

「……!プラネテューヌ、尖っている国。イリス、行ってみたい」

((尖っている国…?))

 

 え、尖っている国?何が?…ぷ、プラネタワーが…?……と、顔を見合わせる私とブラン。イリスちゃんの次元のプラネテューヌは、何かトゲトゲとした国なのだろうか。…うん、さっぱり分からない。

 ただまあともかく、イリスちゃんはプラネテューヌへ行く事へ意欲的。これならイストワールさんに協力してもらって、イリスちゃんの次元のイストワールさん(…いる、よね…?)と何とか交信する事が出来れば……

 

「…っと、そうだ。その前に…イリスちゃん、お腹空いてたりしない?」

「問題ない。さっきミナに、おまんじゅうという物を貰った。あれは甘くて、とても美味しい。イリゼも一度、食べてみるといい」

「そ、そうなんだ。お饅頭、美味しいよね」

 

 食べてみるといい、と勧められてしまった私は軽く苦笑いしつつ、それなら良いねとこの話を終わらせる。

 ブランからも一旦プラネテューヌへ連れて行く事に同意を貰って、それからイストワールさんに電話で連絡。事情を話すとイストワールさんは快諾してくれて、イリスちゃんも不安だろうからあまり急がなくても大丈夫だと返してくれた。

 確かにそうかもしれない。イリスちゃんがもう少し大きいなら、少しでも早く帰還の目処を立てたいと、むしろ急ぐ事を求めるかもしれないけど…まだイリスちゃんはきっと、少しずつ理解を進めている状態。なら別次元といえど、知り合いのいる場所にいる方が、落ち着いて理解を進められるだろうから。

 

「…イリスちゃん、今すぐでも大丈夫?もう少し、ここでゆっくりしたい?」

「大丈夫。イリス、尖ってる国、気になる」

「そ、そっか(流石子供、好奇心が強い…)」

 

…と、思ったけど杞憂な様子。という訳でイリスちゃんを連れ、私執務室から廊下へと出て外へと向かう。そして外までは、ブランも付いてきてくれるんだとか。

 

「…知人ではないとはいえ、似た経験をした人がいる。この子にとって、それは不幸中の幸いかもね」

「うん。専門家じゃないから出来る事は限られるけど、それでもやれる限りの事はしてみるよ」

「わたしも協力するわ。…に、しても…ロムラムと同じ位の背格好で、ロムラムと同じデザインの服を着ていて、ルウィーの教会に普段はいるらしい、別次元の子、ね……」

「は、はは…多分、違うとは思うけど……」

 

 そう言って肩を竦めるブランの、言わんとしてる事は分かる。背格好は似ていても、容姿は違うから、そういう事ではないと思うんだけど…もしそうなら嬉しいような、色々と因果が絡み過ぎているような。何れにせよそれも、イストワールさんに調べてもらえれば分かる…筈。

 というかほんとに、私…というか、ルウィーと別次元とは、関わる頻度がやたら多い気がする。某星の門みたいに、ルウィーは特殊な重力場が点在してたりするのかな…。…いや、ないと思うけど。

 

「イリスちゃん、外に出たら飛んでプラネテューヌに行くつもりだけど、それも大丈夫?」

「飛ぶ?…イリス、飛べない…ださく歩いていくしかない……」

「いや、何故マジプシー的な発想に…私が抱えていくから飛べなくても問題ないよ」

 

 別次元に行くと大概女神化出来ないか出来ても本来の力は出せなくなる私だけど、今回はその問題も一切無し。…やっぱりシェアがあるって、シェアエナジーの配給を得られるって、ありがたい。

 という訳で、教会の外へと出た私達。イリスちゃんを預かるね、と言うように私はブランに頷いて、ブランもそれに頷きを返して、私は女神化を…と、思ったその時。

 

「へ?…今度はベールから…?」

 

 正に女神化する寸前で鳴った、私の携帯端末。…なんか今日は、行動を起こそうとした瞬間に電話がかかってくる事多いなぁ。多いっていっても、まだ二度目だけど。

 

「ベール、どうしたの?」

「…イリゼ、唐突なのですけど…わたくし、貴女に訊きたい事があるんですの。ある人物を、知っているか…という話でして……」

「……え?」

 

 電話をかけてきたベールの声音は、どことなく神妙。どうもこれは真面目な話らしく……だけど、その内容を聞く前から、私は半ば茫然としていた。

 だって、このやり取りには覚えがあるから。覚えがあるというか…ここに来る前、ブランとやったばかりだから。それも内容は尋ね人。作戦行動中の状況確認とか、最近話題の作品の話とかならまだしも、同日中に、尋ね人の質問がそう都合良く被る訳がない。けど現に、ベールは私に訊いてきている。電話を受けた時、私は私の部屋にいたんだから…冗談って可能性も、極めて低い。

 私の思考に浮かび上がるのは、一つの可能性。普通なら「いやいやそんな偶然ある訳……」と思うけど、今は既に普通あり得ないような偶然が起こったところ。普通じゃない事が起きてる以上、あり得ない…とも限らない。そして、私が「まさか…」と思う中……ベールは、言う。

 

「愛月君、という少年の事を、知っていまして?」

「……おおぅ…」

 

 耳に届いたのは、知っている子の名前。知っているというか…体感的には、少し前まで会っていた気すらする子の名前。

 偶然というのは、確かにあり得ないようであり得るもの。でも、今起こっている偶然…それも色々と複雑過ぎる偶然には、「おおぅ…」という声しか出ない私だった。




今回のパロディ解説

・子猫、犬のお巡りさん
童謡である犬のおまわりさんにおける、登場人物(動物)の事。イリスであれば冗談ではなく、結構本気でそう考えていたりもしそうですね。

・「〜〜通信すると〜〜腕が増える。〜〜」
ポケモンシリーズにおける通信交換での進化、特にフーディン、カイリキー、ドデッコツの事。イリスも通信交換すると進化…は、しないと思います。恐らくですが。

・某星の門
ヴァンガードシリーズに登場する国家の一つ、スターゲートの事。要はエトランジェの話ですね。勿論ルウィーにそんな特殊な性質があるとかではありませんが。

・マジプシー
MOTHER3に登場する、種族の一つの事。ださく歩いて云々は、その内の一人のイオニアの発言ですね。…勿論、ぺらぺらになって飛ぶイリス…というのもあれですが。

 本話のラストシーンで描いた通り、今回のコラボは『イリスちゃんは知りたい(ロザミアさん作)』ともう一作、『ガラルのワイルド散歩(愛月 花屋敷さん作)』とのコラボともなっております。
 イリスちゃんは知りたい、とは初めての、ガラルのワイルド散歩とは二度目のコラボ。信次元を舞台としたこのコラボ、読んで下さると幸いです。
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