超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
「空間の歪み、三つの次元の繋がり…この二つの調査が、完了しました」
私とオリゼが浮遊大陸へ調査に行き、想定外続きながらも紆余曲折の末にその目的…オリゼの本来の姿を取り戻すという事を果たしていた時、ウィード君の「確かめたい事」に同行していた皆にもまた、想定外の事態が起こっていた。そっちも現れたくろめを退ける(状況的には逃げられたと言うべきかもだけど)事が出来て、更に他の個体とは気配が違うダークメガミ…プロトダークの撃破にも成功したとの事だから、戦果の観点で見れば上々。私も、乱用は出来ないとはいえ新たな力を得て、何よりオリゼが再び女神として戦えるようになった訳だから、流れはかなりこちらに来ているのかもしれない。
でも、全て上手くいった訳じゃない。くろめとの戦いの中で、くろめから告げられた言葉は、うずめの心に大きな影を落とす事になった。ウィード君も、自分の果たすべき事を果たせなかった…そんな風に、気持ちを落としていた。それに、イストワールさんもその際心穏やかではいられない事態があったみたいで…それが不安でもあった。皆、表面的には大丈夫って言うから、あんまりぐいぐいと訊く訳にはいかず…だからこそ、何か出来る事があればしてあげたいと思うけど、それが出来ない歯痒さを感じていた。
そんな中での、イストワールさんからの呼び掛け。日数的に、私達はもしやと思っていて…そしてやっぱり、そうだった。イストワールさんからの呼び掛けは、頼んでいた調査が完了したというものだった。
「お疲れ様、いーすん。…何か、分かったの?」
「はい。かなり重大な事が、二つ」
ネプテューヌからの言葉にイストワールさんはこくりと頷く。重大な事と聞いて、私の心の中には小さいながらも緊張が走る。
「まず、一つ目ですが…結論から言いましょう。負のシェアの城、それを覆う歪みを消す手段が、分かりました」
『……!』
小さかった緊張は、一気に跳ね上がる。私は勿論、集まっている各国女神の皆も、多分同じ感情を抱いている。
それは、一体何なのか。出来る事なのか。気になるし、訊きたい。でも、それをイストワールさんが話す気がなければ、そもそもこの話を切り出さない筈な訳で…だから私も皆も、イストワールさんの次の言葉を待つ。
「調査によりまず分かったのが、あの空間の歪みは、本来ならば隔絶されている次元同士が、『近付いた』とでも言うべき状態になった事で生じた、次元間の歪みを利用して引き起こされているものだ、という事です」
「…え、えっと……」
「お、おねえちゃん…もう、わかんない…(おろおろ)」
「まあ、無理もないわ。これに関してはわたしも、分かり易い説明は出来そうにないし…取り敢えず、空間の歪みは今の信次元と、二つの次元が近くなってる事が原因だって思っておけば問題ない…んじゃないかしら」
確かに説明は始まったばかりだというのに、既に難解。私も一応理解出来ているとはいえ、もっと分かり易く噛み砕いて説明出来るかと言われれば…うん、無理。
「あ、因みに『近付いた』って表現は、理解し易くする為に使ってるだけで、ほんとはもっと複雑な感じなんだよ!」
「OEの最初期に語られた部分だから、忘れちゃってる人も多いかもね!」
「え…ミラお姉ちゃんも大きいお姉ちゃんも、何を言ってるの…?」
『わたしらしいメタ発言!』
ばばーん!…という効果音が出てきそうな感じに胸を張る、ミラテューヌと大きいネプテューヌ。…実際忘れてる人もいるだろうし、フォローする事自体は良いと思うけど…少なくとも、胸を張る事ではないよね…(因みにネプテューヌは、「しまった乗り損ねた…!」…と落ち込んでいた。…気にするのそこなんだ…ネプテューヌらしいけど…)。
「…こほん。あの歪みが何によって発生しているか、それは分かりましたわ。しかしそうなると、次元の距離や位置を本来あるべき状態に戻さなくては、消す事も出来ませんの?」
「いえ、先程も言いましたが、城周辺の歪みは次元同士が近付いた事自体によって起きているものではなく、それを利用した…つまり、人為的に引き起こされているものです。ですので……」
「それを止めれば、或いは対抗出来る何かを用意出来れば、消せるって訳ね」
引き継ぐように言ったノワールの言葉に、イストワールさんが首肯を返す。
今の肯定は、その認識で合っているという返答であると同時に、それは可能な事だという答えでもある。イストワールさんの表情から感じられたのは、そんな雰囲気。
「必要な条件は、三つです。一つ目は、次元の状態にひずみが生じている場所。これに関しては、既に分かっているので問題ありません」
「そこも調べてくれたんですね…ありがとうございます、イストワールさん」
「いえ、これは比較的容易に分かった事ですから。そして、その場所というのが…各次元における、嘗て黄金の塔があった場所です」
私の言葉に対する返答の中で出てきたのは、黄金の塔。それは私達が、最初の目標として捜索し、そして破壊をしてきた存在。再びその名前が出てきた事に、一瞬私は驚き…けれど、すぐに気付く。黄金の塔は、次元同士の接近と激突を引き起こす楔の様なもの。だったらそれがあった場所は、その影響で次元にひずみが生じていてもおかしくはない。
「二つ目に必要なのは、膨大なエネルギーです。これに関しては、シェアクリスタルで良いと思いますが…恐らく、これが一番の難点です」
「難点…っていうのは、どういう事です?アタシ達が作れるシェアクリスタルじゃ駄目、って事ですか?」
「それに関しては、問題ありません。問題は、並々ならぬ…それこそ、大岩の様なサイズのクリスタルが、各次元に一つずつ必要になるという事です」
必要なのは、それぞれの次元…つまり、三つ分の巨大シェアクリスタル。イストワールさんの見立てじゃ、質と量、どちらの面でも四人位で協力すれば十分要求値を満たせるクリスタルを作れるらしくて…けれど問題となるのが、時間。数日もあれば余裕を持って作れるみたいだけど、シェアクリスタルは何かの片手間に作れるものじゃない…つまり、その間に仕掛けられたら万全の対応は出来ないって事。何かあった時に備えて、精製に参加せず、待機する女神も必要となり…とにかく色々考慮すると、同時に作れるクリスタルは二つ。三つ目のクリスタルは、別途また作らなきゃいけない。一度に作れなきゃ困る訳じゃないけど…一度じゃ全然終わらないのと、一度じゃギリギリ終わらないじゃ、感覚として全然違う。
「後一つ…それならぁ、あたし達…えっと、神次元で三つ目を作るのはどうかなぁ?」
「そう、ですね…駄目ではないと思います。ただ、信次元と神次元の女神は生まれ方が違う以上、シェアクリスタルの性質も微妙に違うかもしれません。そして、神次元製のクリスタルでも大丈夫かどうかは、実際に作ってもらってからでないと分からないので……」
「作ってみたけど使えませんでした、じゃ申し訳ないって訳ね。ま、取り敢えずこれは皆と話してからにしましょ?皆にも協力してもらわなきゃいけない事を、わたしとプルルートだけで決める訳にはいかないし」
神次元で作ってもらえるなら助かるけど、それもそれで即決出来る事じゃない。という訳で、三つ目をどう作るかは一旦後回しになり…説明の続き、最後となる三つ目の条件に。
「こほん。そして三つ目ですが…それは、人です。より正確に言えば、それぞれの地点にあるひずみとは別の特異性を有する方々です」
「…えーっと…どうしよう、これはねぷ子さんでも何を言ってるのかさっぱり分からないよ……」
「安心して下さいまし、わたくしもよく分かりませんわ。…イストワール、もう少し具体的な説明は出来まして…?」
「細かい部分の説明は、非常に難しいのですが……誰が条件に合致するかは、簡単です。別次元から訪れた皆さん、所謂別次元組の方々が、条件に該当するんです」
『へ?』
漠然とした表現では理解のしようがなく、「うーん…?」となっていた私達全員。でも、次に発された回答により、一気に明確化し……でも逆に、私達はきょとんとしてしまった。え、そうなの…?…と。
「感覚的に理解して頂けると思いますが、本来別次元との交流はあり得ないもの。つまり、別次元からの来訪者は、次元にとっての異物になるんです。次元同士、世界としての性質…ルールとでも言うべきものがある中で、違うルールを持った存在が混入する訳ですからね。ここの掘り下げは、話が逸れてしまいますし、わたし自身分からない部分があるので割愛させてもらいますが…ともかく、別次元組の皆さんが持つ特異性を、次元の歪みの起点となっている場所で、シェアクリスタルのエネルギーを用いて増幅させる事により、次元の歪みそのものに干渉。それによって、それを利用している負のシェアの城を覆う歪みを機能不全に陥らせる事が出来るというのが、調査の結果…その内の一つです」
理由は複雑。でも、必要な部分は理解出来た。あの歪みを消し、突入出来るようにする事は可能であると…一番大切な部分が、はっきりとした。気になる難易度、別次元組の皆の負担も、求められているのは技術や行動ではなく存在そのものとの事だから、過剰に不安がる必要もない。
そういう事なら、善は急げ。シェアクリスタルの精製は変に時間を短縮しようとすれば、質を落としてしまう結果にもなりかねないし、時間の事を考えるならすぐに精製を始めるのが最善。私は勿論、皆も多分同じように思っていて…でもそこで、思い出したようにロムちゃんが口を開く。
「…あ…もう、いっこ…」
「あ、そうだわ。イストワールさん、もー一つあるのよね?」
そういえばそうだった。漸く突入が現実味を帯びてきた事で失念してしまっていたけど、イストワールさんは『二つ』分かったと言っていた。
同時に分かったもう一つの事とは、一体何だろうか。そう思いながら、私達がイストワールさんを見る中……イストワールさんは、言った。
「黄金の塔破壊により、止まっていた次元同士の接近。それが、再び起きています。負のシェアの城…あれが、新たな楔となる形で」
──やっと、決着がつけられる。そんな、ある種の高揚が籠った雰囲気は、イストワールさんの言葉で凍り付く。
一つ目の情報は、私達にとっての希望。けれど、二つ目は……回避出来た筈の、終わった筈だった、危機。
「…猶予、は…ど、どの程度あるん、ですか…?」
張り詰めた雰囲気の中、初めに声を上げたのはオリゼ。その答え次第では、悠長な思考は一切合切捨てなくてはいけなくなる…そう思って私達は、イストワールさんを見つめ……イストワールさんは、ぴっと制止するように右手を挙げた。
「落ち着いて下さい。余裕があるかどうかで言えばありませんが…空間の歪みを解き、この戦いを終わらせるだけの時間はあります。皆さんご存知の通り、わたしは次元に関する事は本来管轄外なので、若干の計算違いはあるかもしれませんが…」
「それなら良かっ……え、今のフラグじゃないよね…?やれる、やれるよ!くろめ達を倒す事が!…って思ってたところで、次元衝突THE・END!…とかにならないよね…?」
「いや、分割2クールみたいな感じに、バットエンドと見せかけて続きがあるのかもよ?」
「はっ、じゃあもしかすると、2クール目に当たる話はわたしが未来から過去を変える物語になったり…!?」
「三人で立て続けにボケないで頂戴…処理が追い付かないわ……」
ネプテューヌ、大きいネプテューヌ、ミラテューヌによる、流れるようなジェットストリームボケ。それにノワールは額を押さえ、他の皆も「はは…」と乾いた笑いを漏らす。……私もボケてる?さらっとふざけてる?…はは……。
「…真面目に申しますと、そこまでの狂いはない筈です。ただ、仮に歪みを消し、突入に成功しても、撃退されてしまえば彼女達…くろめさん達は、別の方法でまた侵入を阻もうとするでしょう。そして、またそれを攻略し、改めて決戦を…とやれる程余裕があるかどうかと言われると…分かりません」
「つまり、慌てる必要はなくとも、ミスは許されない…という訳ね」
仕切り直すようなイストワールさんの言葉に、袖で隠れた指を顎に当てながらブランは返す。
チャンスは一回だけ。失敗すれば、次元衝突を止められず…恐らくは信次元どころか、神次元も壊滅的な状態となる。最悪の場合に備えて、人を別の次元に避難…なんて事も、絶対に間に合わない。
謂わば、今はチャンスとピンチが混在した状況。…でも……
「……ふふっ」
「……?いきなりどうしたのよ、ネプギア」
「あ、いや…結局、いつも通りなんだなぁ…って思っちゃって…」
「んー、やっぱりネプギアもそう思う?確かにわたし達って、マジェコンヌの時も、犯罪神の時も、何回かリトライ効くような状況で決戦に挑んだ訳じゃないもんね〜」
怪訝な顔で訊くユニに、ネプギアは肩を竦めながら答える。そこにネプテューヌも、あっけらかんとした様子で続く。ネプテューヌはまだしも、ネプギアの方は普通なら「らしくない」発言で…でもそれに呆れる人は、誰もいなかった。
だって、その通りだから。今までだって、最後はいつも余裕はなくて、失敗は出来ない状態で…だけど勝って、守って、私達は未来を掴んできた。なら今回も、これまでと同じだって事。これまでも何とかなったんだから心配は要らない、とまでは言えないけど…そういう中で積み上げ、培ってきたものが、私達の中にはある。
「じゃあ、やる事は決まりだね…というより、これまでと変わらないね。それに…目指す先だって」
だから、私達の心の持ちようは変わらない。私は皆を見回して、皆も私に頷いてくれる。
楽観視は出来ない。でも過剰に気負う必要もない。必要なのは…出来るって、信じる事。
「…あ、あの…ミラテューヌ、さん…」
「え?…う、うん。何かな、オリゼ」
「…貴女、も…それで…こ、これで、良いんですか…?」
後は各種人数割り振りや別次元組の皆へのお願い…となったところで、ぽつりと声を上げたのはオリゼ。訊き返すミラテューヌをじっと見つめて、これで良いのかと彼女へ問う。
それは、一度ギクシャクしてしまった、くろめの事。浮遊大陸で話して以降、決着も結論も付いていない、大切にしている事の違い。あの時はミラテューヌから切り出した話を、今度はオリゼの方から切り出し…それに、ミラテューヌは頷く。
「うん。多分今も、わたしとオリゼの思いは違うんだろうけど…皆を見てれば、大丈夫だって思えてくるもん。敵だって、戦うしかなかった相手だって、だから仕方ないで終わらせたりしない…それがわたし達の、女神の道だから。勝手な話だけど…わたしは全部を、信じてるから」
ミラテューヌが言ったのは、嘗ては敵だったマジェコンヌさんの事なのか。味方…とも少し違う繋がりを築けた、四天王の事なのか。或いは私達がまだ知らない、未来の誰かの事なのか。…分からないけど、感じる事は出来た。その思いが、確信のある「信じる」だと。
そうして、改めて残りの部分を決め、すぐに連絡も行い、全体での話は終わりになった。更に準備の観点や、細々とした確認も必要だから、精製は明日の朝一から。同時にこれは、やりたい事、やっておきたい事を済ませておく為の時間でもあって……私にも、それはある。私はそれを…果たしにいく。
*
会議が終わってから、数十分後。私はプラネタワーを発ち、ある場所へと向かっていた。
「うずめ、大丈夫かな…ウィード君は、大丈夫だって言ってたけど……」
「彼女とて女神だ。積み重ねてきたものが偽りでないのなら、そう簡単に折れはしないだろう。…偽りでないのなら、な」
「オリゼ…相変わらず容赦ないね……」
ぽつりと私が発した言葉に対し、オリゼが平然と答える。それも、偽りでないと信じている…というニュアンスではなく、偽りでないなら良し、そうでないならその程度の存在だったのだ…みたいなニュアンスで。…オリゼ…女神の姿に戻れるようになってからも、これまでみたいに人の姿で生活してたから、心境に結構大きな変化があったのかもって思ってたけど……そういうところは、全然変わってないんだね…。
「まあ、ここは彼を信じましょ?大丈夫って言うのも、うずめは心配要らない…って意味じゃなくて、俺に任せてくれって感じだったもの。…あの時の心の煌めきは、素敵以外の何物でもなかったわ…!煌めきが止まらない男というかなんというか…はぁぁ、思い出しただけでもほんのり惚れちゃいそう……!」
「せ、セイツもセイツで相変わらずだね……」
穏やかに、信頼の感じられる発言をするセイツ。…と、思いきや、後半はその時ウィード君から感じた思いに興奮してるだけだった。…人はそう簡単に変わらないものだけど、女神もそう簡単には変わらないらしい。
と、そんな会話をしながら私達は空を行き、目的地が見えてきたところで降下を開始。初めは速度を維持したまま、でも最後にはふわりと着地し、中に入る。…魔窟と言われる洞窟の奥、私にとっての始まりの場所へ向かう為に。
「こ、ここの奥で、イリゼは眠っていたん、ですか…?」
「なんでこんな場所に……」
「う、うーん…何かしらの意図があったか、長い時の中で地形が変わったりした結果か…その辺り、イストワールさんは分かりますか?」
女神化を解き魔窟内を進む中、二人に疑問を向けられる。でもそれは私に答えられる問いじゃなくて、私から更にもう一人…イストワールさんへと、訊き直す。
今日、私がここに来たのは、最終決戦の前にもう一度ここに来たくて、オリゼとセイツにもここの事を知ってほしかったから。オリゼは勿論だけど、セイツにも知ってほしい…そう、思ったから。
「…………」
「…イストワールさん?」
「あ…すみません。…駄目ですね、どうにもずっと彼女の言葉が引っかかって……」
問いに対する返答が何もなかった事で、「あれ?」と思いながらもう一度呼ぶと、気付いた様子でイストワールさんは表情を曇らせる。
彼女というのは、くろめの事。くろめの語った言葉は、イストワールさんにとってかなりショック…というか、アイデンティティが揺らいでしまうようなものだったみたいで…実際今日も、徹頭徹尾発言に顔文字がない。
(イストワールにとっても、もう一人の私は母親みたいなもの。…だから少しは、ここで気持ちが晴れてくれればって思ったけど……)
もしかしたら、気持ちが晴れてくれるかもしれない。けどいざとなると、思い付きで行動しても良かったんだろうかと思えてしまう。
そして、元気のないイストワールを心配しているのは皆も同じ。オリゼも気にかけていて、何度か声をかけようとする姿を見たけど…結局一度も、何も言っていない。何か、オリゼの中で躊躇いがあるみたいで、その度オリゼも表情を曇らせていた。
「……この、感覚は…」
「…うん。着いたよ、皆」
感じるものがある様子のオリゼ。それに私は頷いて…脚を、止めた。神殿の様に荘厳な作りになっている訳でも、ここまでの道とは全く違う空間になっている訳じゃない、中央の柱以外はただの洞窟にしか見えない……けど、ほんのりと温かさを、温かなシェアエナジーを感じる、私にとってはある種故郷の様な場所で。
「…ここが…ここでイリゼは、眠っていたのね」
「そうだよ。…えと、見ての通り、まあこれだけなんだけど……」
「これだけ、って事はないわ。確かに、豪華な作りとかじゃないけど…感じるものはあるもの」
「…そっか。そう思ってくれるなら、嬉しいな」
ぽふり、と私の肩に置かれる手。セイツは微笑んでいて…安心した。微笑みを、見せてくれたから。私にとって大切な場所であるここを、良いものだと感じてくれたみたいだから。
(…ね、もう一人の私。凄いでしょ、今ここにはもう一人の私が…イリゼが、いるんだよ?それにセイツっていう、なんだか最初から親近感を感じた女神もいるんだよ?……また、色々あったんだ)
それが私は柱に触れ、心の中で話しかける。いつものように、親に経験してきた事を話すように。
伝えるのは、前にここに来て以降起こった事と、思った事。嬉しかった事、辛かった事、喜べた事、大変だった事…一つ一つを話していく。
きっと、これは伝わっている。この言葉は、この思いは。これは一方的に伝えるだけじゃなくて…心を交わす時間だって、そう思っている。
「…………」
(…あ…オリゼ……)
ふと気配を感じて横を見れば、オリゼも柱に触れていた。同じように触れて、同じように目を閉じていた。
私と同じように、何か特別なものを感じてるのかもしれない。複製体ではない、同じオデッセフィアの女神として、私以上のものを感じているかもしれない。同じイリゼだから感じるものが、もしかしたらあって……
「…嗚呼、そうか…だから……」
「え……?」
次の、瞬間だった。何か、納得したような…人間状態のオリゼらしからぬ、落ち着いた声で呟きを漏らして…女神化を、した。
突然の女神化に、私は勿論二人も驚く。一体何事かと、私達はオリゼを見つめ、オリゼも振り向いて……そして、抱き締められる。優しく、柔らかく…包み込むように。
「…オリ、ゼ……?」
「──ここまで、よく頑張った。よく頑張ったね、イリゼ」
「…ぁ……」
温かな抱擁と共にかけられる、オリゼからの言葉。それを聞いた瞬間、聞こえた瞬間、届いた瞬間……頭の中が、真っ白になった。これからの事、ここまでもう一人の私に伝えていた事、今のオリゼに抱いていた疑問…それ等全てが消え去って…その空白に、流れ込んできたのは溢れる思い。心の奥底からの、思いの奔流。
理由は、分からない。何故そう分かったのかも、分からない。だけど…そうだ、間違いない。今、ここにいるのは…今、頑張ったねと言ってくれたのは……もう一人の、私だ。私を生み出してくれた、イリゼなんだ。
「…ど、う…して……」
「私はずっと、ここにいた。記録として、記憶の様に、ずっとここでイリゼの話を聞いていた。だから…今は少しだけ、彼女の身体を借りている。こうして直接、ほんの少しだけ…私の家族と、触れ合う為に」
「…そ、っか…あ、あのね…あのね、
思考を埋め尽くす、一杯にする思いに押し出されるように、涙が溢れ出す。ほんとはもっと落ち着いて話したいのに、直接伝えたい事も沢山あるのに…先に涙が溢れてしまって、思いが止められなくて、抱き着いたまま泣いてしまった。
「分かっている、分かっているよ。…イリゼは、もう一人の私なのだから。何度も話を、してくれたのだから」
「うん、うん…っ!でも、でもっ…まだ、頑張るよ…!だって、まだ終わってないから…人の為に、皆の為に…もっともっと、頑張りたいから……っ!」
「勿論だ。君になら出来るよ、イリゼ。イリゼは、もう一人の私なのだから…出来るに、決まっている」
頭を撫でてくれる、その手の心地良さを感じながら、少しだけ顔を話して何度も頷く。その手から、思い以外のものも伝わってくるような気がしている。子供みたいに泣いてしまっているのは少し恥ずかしいけど…ちゃんと答えて、伝えたかったから。
それからも暫くの間、私は抱き締めてもらっていた。数分か、数十分か分からないけど、私にとってそれは幸せな、満ち足りた時間で……漸く涙が収まったところで、私はもう一人の私から離れる。
「え、えへへ…ごめんね、いきなり泣いちゃって…」
「構わないよ。…もう、大丈夫かな?」
「…うん。私はもう、大丈夫だから。だから、次は……」
「ああ。…イストワール」
「……っ!」
分かっている。そう答えるように、もう一人の私はイストワールさんを見る。イストワールさんへ、手を差し出す。
「イリゼ、様…わたしは……」
「君も、本当によく頑張ってくれている。何代もアップデートを重ね、少しずつ姿を変え…それでも、私が君を生み出したその日からずっと、女神を支える存在で在り続けている。…私にとってイストワールは、誇らしい存在だよ」
「……っ…イリゼ、様…!わたしは、記録者です…歴史、事態、情報…全てを正しく記録する、記録出来る事こそが、イリゼ様に与えられた最大の力です…!…なのに、わたしは…もしかしたら、今のわたしは…その、力が……」
「…かも、しれないな。それに…君自身、薄々気付いているだろう。私の意思で、意図的に、君には自らの意思で把握出来ない事柄がある。だが、それが何だと言うんだ。そうだとしても、君が今に至るまで、私より遥かに長い間、実体ある存在として信次元の為に力を振るい続けてきた事には変わりない。だから…今一度言うよ、イストワール。君は、私の誇りだ」
初めにもう一人の私は、イストワールさんへと触れた。イストワールさんからすれば大きな手で、イストワールさんの頬を撫でるように。
初めは固かった、イストワールさんの表情。それはもう一人の私の言葉を聞く中で、少しずつ崩れていって、自分への情けなさと不安が混じり合った表情に変わっていって…そのイストワールさんも、私の時と同じように、もう一人の私は抱き寄せた。両手で包み込んで、胸に寄せて。
そして溢れる、イストワールさんの涙。私の時と違って、流れた涙は一粒だけ。一筋だけの、本当に小さな涙。だけど…そこには、だった一粒にはとても収まり切らない位の思いがあるんだって、私には伝わってきた。
「ありがとう、ございます…わたしも、わたしにとっても…イリゼ様に生み出された存在である事は、何よりの誇りですよ…っ!(^-^)」
戻ってきた、イストワールさんの語尾の顔文字。至ってシンプルな、捻りなんて何もない…思いそのままなんだって伝わる、そんな笑顔。
誇り。もう一人の私にとっての誇りであり、イストワールさんにとっての誇り。それは凄く素敵で、輝いていて…私も二人にとっての誇りでありたいと、そう思った。私にとっても、二人は誇りだから。
「ふふっ、良かったわねイリゼ。イストワール」
「ありがと、セイツ。…もしかして、また興奮してたり?」
「勿論よ!…って、言いたいところだけど…正直、今は羨ましいわ。三人の事が…三人の、繋がりが」
「セイツ……」
笑い合う二人を見ながら、セイツもまた笑みを浮かべる。でも、私が訊くと、セイツは少し寂しそうな表情をして……あぁ、そうかと思った。セイツの経歴は、私も聞いているから。
私は前に、セイツに勇気を貰った。自分の在り方を取り戻させてもらった。だから今度は、私の番。私がセイツにしてあげなきゃ。そう思って、声をかけようとして……
「…セイツ。君には謝りたい事と、頼みたい事があるんだ」
「……へ?わたしに…?」
その私より早く、もう一人の私の私が言う。もう一人の私が、セイツを呼ぶ。
怪訝な顔をしつつも、セイツはもう一人の私の前へ。入れ替わるように、イストワールさんが離れて…二人が、向かい合う。
「まずは…すまない、セイツ。君にも辛い思いをさせただろう。私はそうした事を後悔していない、それが正しい事だと自信を持っている。それでも、君にはイリゼと同じように…或いはそれ以上に、一方的な使命を与えてしまった事を…謝りたかったんだ」
「…え、と…ごめんなさい、ほんとに何の話か分からないわ…。もしかして、わたしを誰かと間違えて……」
困惑するセイツ。私もイストワールさんも分からなくて、どういう事なのかと見つめて……そしてそんな中で、私達が見つめる中で…もう一人の私は、言った。
「そして…その上で、君には人々を守ると共に、イストワールとイリゼを支えてほしいんだ。──イストワールの、妹として。イリゼの、姉として」
「……ぁ、え…?…いもう、と…?あ、ね……?」
「まだ今は、理由は言えない。まだ今は、知らせられない。だが、それでも…君もまた、私にとってのかけがえのない存在なんだ」
──それは、信じられない言葉だった。一瞬どころか、数秒経ってもまだ、理解が追い付かなかった。
確かに私とセイツは、似ていると思う。初めて会った時から、凄く親しみを感じていた。でもそれは、ネプテューヌに対するプルルートの様に、同一でなくとも近しい存在だって事だと思ってた。…けど、だけど…イストワールさんの妹で、私の姉だという事なら…そうなんだとしたら、セイツは……
「…は、は…い、幾ら何でも、唐突過ぎて飲み込めないわ…。…でも、そうなの?本当に、そうなの…?…ふふっ、だったら…だとしたら、幸せね。凄く幸せで、凄く幸福で…もし、本当に…そうなんだと、したら……」
「……うん」
「…もっと、早く教えてよ…そんな大切な事を教えるのを、ここまで後にしないでよぉぉ……っ!」
私とイストワールさんは、もう一人の私から抱き寄せられた。だけど…セイツは、自分からもう一人の私へと抱き着いていった。私と同じように…ううん。私以上に抱え続けてきた、思い続けてきた気持ちをぶつけるように、吐き出すように…求めるように、もう一人の私の胸へと飛び込んだ。
そのセイツを、もう一人の私は受け止める。優しく受け止めて、私の時と同じように撫でる。…間違いない。間違える、筈がない。それは、その表情は、その微笑みは……お母さんの、ものだから。
「…ぅ、ふ…もう、ほんとに…馬鹿…。……でも、ありがとう…」
「…イストワール、イリゼ。二人も、セイツを支えてほしい。支え合ってほしい」
最後に一度、強く抱き締めて、セイツも離れる。もう一人の私からの言葉を、私もイストワールさんもしっかりと頷く。そして…訪れるのは、最後の時間。
「……もう一人の私」
「あぁ、今の私が君達と話せるのはここまでだ。だが…私は君達を、ずっと見守っているよ。比喩ではなく、本当に見続けている。愛する人々の事と、同じように。だから……」
「うん。…任せて、もう一人の私。言ったでしょ?私は、私達は…頑張るって」
もう一度、私達は頷く。思いを受け止め、思いを返して。互いに思いを伝え合い、交わし合い、笑い合って……そうして、もう一人の私は目を閉じる。目を閉じ、女神化を解き…再び目を開けた時、そこにはオリゼが戻っていた。
「……帰り、ましょうか」
「うん」
「はい」
「えぇ」
無言で振り向き、最後に一度、柱に手を当て…そうしてこちらに向き直ったオリゼの言葉に答えて、私達は帰る。私と、オリゼと、イストワールさんと、セイツで。私達四人で。────家族で、一緒に。
今回のパロディ解説
・「〜〜やれる、やれるよ!くろめ達を倒す事が!〜〜」
コードギアスシリーズの主人公の一人、ルルーシュ・ランペルージ(ヴィ・ブリタニア)の名台詞の一つのパロディ。でもネプテューヌは別に、策略家とかではありませんね。
・ジェットストリームボケ
機動戦士ガンダムに登場するキャラの一人(三人)、ガイア・マッシュ・オルテガの連携のパロディ。まあ確かに、ネプテューヌ三人のボケなんてそうそう止められませんよね。
・「〜〜煌めきが止まらない男〜〜」
僕のヒーローアカデミアに登場するキャラの一人、青山優雅の事(彼に関するコメントの一つのパロディ)。…いや勿論、彼とウィードは全然違いますけどね。