超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
俺は俺の確かめたいものを、確かめる事が出来なかった。運悪く、もう一人のうずめ…くろめと遭遇してしまった事で。一応、ネプギア達と入った洞窟はある程度調べる事が出来たが…多分、ここじゃない。うずめ達が向かった方か、或いは別の場所か…確信とまでは言えないが、違うんだろうって気がしている。
もう、確かめに行く訳にはいかない。決戦を目前に控えた…その為の、最後の準備と仕掛けをしなくちゃいけない状況で、もう一度確かめに行きたいとは言えない。言えないし…皆の負担だって、増やしたくない。俺は皆と違って戦えないし、教会から何らかの支援を…なんて事も出来ないんだから、せめて皆の負担を増やすような事はしないようにしたい。
……俺は、確かめられなかった。確かめられるとすれば、きっと全部が終わった後だろう。でも、代わりに…彼女が来た事で確かめられなかった代わりに、確かに分かった事もあった。だから、俺は──。
「…入るぞ、うずめ」
ノックをしたが、返事がなかった。呼び掛けたが、やはり無反応。ならばと入る事を伝え、数秒待ち…部屋のドアノブを捻る。
あの戦闘があってから、ずっとうずめは沈んだままだった。話し掛ければ普通に応答してくれるし、部屋に引き込もってるとかでもないが…分かる。俺からすれば、無理に元気を出してるなんてのは一目瞭然だった。
「…うずめ?」
プラネタワーでうずめが使わせてもらっている部屋に入ると、中でうずめはカーペットに座り、ベットにもたれかかる形で顔を埋めていた。
もしや、泣いているのか。返事がなかったのは、それ程までに辛い気持ちなのか。そう思うと居ても立っても居られず、すぐに俺は側に寄り……
「すぅ…すぅ……」
あ、違った。泣き崩れてるとかじゃなくて、普通に寝てるだけだったわ。
「寝るなら普通にベットで寝りゃいいのに…そんな格好で寝たって、身体休まらないだろ……」
拍子抜けして、思わず呆れ笑いをしてしまう俺。…けど、どうすっかな…まぁ、このまま放置して眺めるのもあれだし、ベットに寝かせてやるか…。
なんて事を思って、俺はうずめを抱え上げようとする。その為に、うずめに触れようとして…声が、聞こえる。
「……俺は…俺が、でっち上げの存在なら…俺の、やってきた事は…」
「…うずめ……」
それは、うずめの寝言だった。苦しそうな…身体ではなく、心が苦しんでいるような声。そして、その数秒後…うずめは、目を覚ます。
「…んっ…あ、れ…俺、いつの間に……」
「…おはよう、うずめ」
「あ、おう…おはよ、ウィード……って、うわぁぁっ!?」
ぴくりと肩を揺らして、それからうずめは瞼を開ける。続いて俺と目が合い、取り敢えず俺は声をかけ、うずめもそれに挨拶を返……した直後、跳び退いた。それはもう勢い良く。
「おわっ…い、いきなり跳ばないでくれうずめ、びっくりする……」
「そりゃこっちの台詞だ!な、なんでウィードがここにいるんだよ!?」
「いやだって、ノックしても呼び掛けても反応ないし、鍵も開いてたし」
びっくりしたのはこっちだわ!…とうずめは言い返してくる。まあ、それは普通の反応で、寝起きにいきなり人の顔が見えたら驚くに決まってるが…俺だって別に、悪い事はしていない。実際呼び掛けに気付かなかったのはうずめの方であり、それを俺が言うとうずめは「う…」と言葉に詰まっていた。
「まあでも、結果的にとはいえ驚かせちまった訳だし、それは悪い。…それと…あの城に突入する方法が、分かったみたいだぞ」
「……!…そっか…はは、駄目だなぁ俺は…参加してもただ聞くだけになりそうだからっつって会議から逃げただけでも良くねぇのに、その会議が進んでる最中にのんびり昼寝しちまうなんて……」
ついさっき聞いた話を伝えると、またうずめは肩を揺らして…それから、自虐的な笑みを浮かべる。自虐的で…しかも空元気を出しているような、そんな作りものの笑みを。
「…うずめ。ちょっと、話いいか?」
どう切り出すべきか。先に関係ない話をしてから、自然に切り出した方がいいか。…そんな事も考えていたが、止めた。小細工せず、真っ直ぐ話したいと思った。
見つめる俺に対し、うずめは一瞬目を伏せる。けど、すぐに頷いて、ベットに座る。ぽふぽふと隣を軽く叩く形で俺を呼んで、そのジェスチャー通りに俺は隣へ。
「ネプテューヌから聞いたよ。くろめの言った事、話した事を」
「…まあ、だよな…けど、大丈夫だよ。だって、あいつは敵だぜ?最初はそりゃ、ショックを受けたけどよ…よくよく考えたら、敵の言葉を鵜呑みにするなんて、そんなの初歩的なミスだもんな」
「…それは、本当の話か?本心で言ってるのか?」
「ああ、本心だ」
肩を竦め、苦笑いし、うずめは返しの言葉として言う。大丈夫、もう気にしていないと。
それは本心かと、俺は問う。うずめはそれに、そうだと返す。本心、か……。
「…まぁ、うずめ自身がそう言うなら良いけど……って、なると思うか?」
「う…だよな……」
俺はそんなに鋭いタイプじゃないが、こんな分かり易い嘘に引っ掛かったりはしない。…また、うずめは作り笑いをしていたんだから。
そしてそれを指摘すると、うずめはがっくりと肩を落とす。だよな、と内心分かってたような言葉を呟き…次に浮かべたのは、今度こそ本心に見える苦笑いだった。
「…なぁ、ウィード…俺からも、訊いていいか?」
「なんだ?」
「…ウィードは、あいつを…もう一人の俺を、知っているのか…?」
数秒の沈黙の後、うずめは俺に訊いてくる。訊かれた俺は、まず思った。そりゃ、この話をするなら訊かれるよな…と。
この問いに対し、うずめはどんな答えを求めているのだろうか。肯定と否定、どっちが喜ぶか。…分からない。分からないが……嘘は、吐きたくない。
「…そうだよ、うずめ。俺はくろめを…もう一人のうずめを、知っている」
「……っ…やっぱ、そうなのか…そうだよな、じゃなきゃあんな言葉を言ったり、しないよな…」
そう。俺は、くろめを知っている。知っているから、分かった。くろめは、うずめだと。別次元の同一人物…ってやつじゃなくて、俺の知ってるうずめなんだと。
「…それも、ただの知り合いとか、そういうレベルじゃなかったんだろ?あんなに必死に、呼び掛けるなんて…」
「…あぁ」
「…【オレ】の方も、ウィードの事を知ってたみたいだったよな…ウィードは【オレ】を知ってて、【オレ】もウィードを知ってて、俺だけ何も知らなかったんだ…覚えてないから、何も…。…なら、ウィード…ウィードが俺に、付いてきてくれたのも……」
「…それは、違う」
悲しそうに、切なそうに言葉を続けるうずめ。そんなうずめを見ていると俺も辛くなるが、事実は事実。本当の事は、否定出来ない。
だが、違う事は違うと言える。だから俺は、否定する。うずめが言いかけた、その先の言葉を。
「俺はもう一人のうずめを知っている。確かめたいものは確かめられなかったが、あの時もう一人のうずめに会えて、良かったって思ってる。けどな、うずめ。俺は、もう一人のうずめを知っているから、同じ『うずめ』であるうずめに付いて行った訳じゃない。…分かってるだろ?俺が向こうで、うずめと一緒に残るって決めたのは、記憶を取り戻す前だって」
「でも、覚えてなくたって……」
「心の中で、感じるものはあった…ってか?…まあ、それは否定出来ねぇよ。記憶もないのに、もう一人のうずめの事を知ってるって事も知らないのに、どっちのうずめへの思いなのかなんて、判別出来る訳がない。…だけど今、俺が見ているのは、話しているのはうずめだ。俺はここにいて、うずめもここにいて、俺は今ここにいるうずめと話している。心だって、今見ているのはうずめの事なんだよ」
うずめがそう思うのも、仕方ない事だろう。これまで漠然とした理由で付いてきてくれた相手が、実はもう一人の自分と繋がりがあったなんて知ったら、本当は…と思ってしまうに決まっている。そしてそれを、証拠か何かで否定出来る事じゃない。
だから俺は、言葉を紡ぐ。言葉を、思いを、うずめにぶつける。
「それに、向こうの次元でうずめといたのは、他ならぬ記憶喪失だった俺だ。仮に感じるものがあったとしても、自分でもよく分からないそれだけの為に、あれだけ大変な場所に、碌に戦えない俺が残ろうとすると思うか?…俺なら無理だね。他に理由が…どんだけ大変でも、残りたい、手放したくないって思える確かなものがなきゃ、絶対無理だ」
「…ウィード……」
「うずめ。確かに俺の中には、もう一人のうずめとの記憶がある。もう一人のうずめに対する思いもある。…だけど、記憶を失ってた俺が出会ったのも、毎日を一緒に過ごしたのも、どんだけ危険だろうと支えてやりたい、側にいてやりたいって思ったのも…全部、うずめなんだ。それじゃ、駄目か?」
真っ直ぐ見つめ、真正面から思いを伝える。俺が共に過ごしてきたのは、過去のうずめではなく、今のうずめなんだと。記憶を失ってた俺が、記憶という繋がりを失った状態の俺が思っていたのは、間違いなく共に過ごしたうずめなんだと。
問いかける形で言葉を切った後も、俺はうずめの事を真っ直ぐに見つめる。うずめも俺の事を見返していて、その瞳には様々な表情が浮かんでいるように見えて……
「…そう、だよな…うん、そうだった…ウィードはまともに見せかけた馬鹿で、強くもないのに無茶して、だから訓練しても危なっかしいままで……だけど真っ直ぐで、いつも自分が出来る事に本気で、俺の事を支え続けてくれた…誰でもない、俺の為に頑張ってきてくれたのがウィードなんだもんな…」
「…うずめ…俺の事、馬鹿だって思ってたんだな……」
「思ってたも何も、これまでやってきた事思い出してみろよ。自分が賢い選択をしてきたと思うか?」
「はは、そう言われると確かに馬鹿だな。…あぁ、俺は馬鹿だ。うずめの、次位に…さ」
「はぁ?なんで俺まで……。…いや、そうだな…俺がしてきたのは、女神として当然の事…って言いたいところだけど…ウィードが馬鹿なら、俺も馬鹿かもしれねぇわ」
そうして、うずめは笑った。自分に対して軽く呆れたような、仕方ねぇなぁと言うような、そんな柔らかみのある呆れ笑いで。
思いはちゃんと伝わったんだと、その笑みで分かった。やっぱり、作り笑いと本当に心から出た笑みは違う。たとえそれが、どんな感情からくる笑みだとしても…心の籠らない作り笑いより、ずっと純粋で綺麗だから。
「…ウィード。もう一つ、訊いてもいいか?」
「勿論。気になる事があるなら、幾らでも答えるさ」
「それなら良かった。…なら、さ……」
少しの間浮かべていた呆れ笑いを消して、再び真面目な顔で見つめてくるうずめ。勿論だと、大きく一つ頷く俺。するとうずめは、ほんのり表情を緩め、これまでよりも静かな声となり……
「…俺は…うずめは、本当に本物から抜け落ちた、でっち上げの存在なのかな…だとしたら、うずめのしてきた事は…してきた事も、うずめの中にある思いも…全部、紛い物だったって事なのかな……」
──取り繕っていた表面、張り詰めていた心…皆に心配かけまいと、うずめが必死に保っていたものが、一気に崩れ落ちた。その内側にあった本当の気持ち、不安や恐れが、漸く心の中から溢れる。
「…ごめん、うずめ。そんな事ない、うずめは本物だ…そう言ってやれりゃ、一番だって事は分かってるが…俺には、そう言ってやる事は出来ない」
「……っ…分かっ、てる…うずめにも、分からないもん…でも、うずめは思い出せないから…いつまで経っても、ずっとずっと…記憶が、思い出が、ないままだから…っ!だから、だから…そんな事ないって、思いたくても…思えないの…!【オレ】の言う通りなんじゃないかって…でっち上げだから、思い出せないんだって…思いたくなんかないのに、うずめは、うずめは……っ!」
言葉と共に、ぽたぽたと零れ落ちる涙。堰を切ったように、うずめの秘めていた、堪えていた思いが言葉となって流れていく。
普段の強く、前向きなうずめとはかけ離れた、か弱い姿。女神だって恐れ、傷付き、心が潰れてしまいそうになる事もあるんだと、そう理解させられる。
…いや、違う。もっと前から、俺はそれを知っている。記憶を取り戻した時も、取り戻す前も、そんなうずめの姿は見てきたんだから。うずめだけじゃなくて、ネプテューヌやイリゼ、ネプギア…色んな女神と言葉を交わして、共に過ごして、女神だって人と同じように感じたり思ったりするんだと、俺自身が感じてきたんだから。…だからこそ、俺にも出来る事がある。決めただろ?言っただろ?…俺はうずめを、支えるって。
「でっち上げなんかじゃねぇよ。断じて、でっち上げなんかじゃない」
「…ぇ……?でも、さっき……」
「ああ、確かに言ったさ。俺は、うずめが本物だと言う事は出来ないって。けどそれは、うずめの存在に対してだ。それは本物だなんて言えないが…うずめがしてきた事は、助けてきたものは、進んできた道は、でっち上げでも、紛い物なんかでもねぇよ」
そうだ、と俺は頷いて、その上で言う。存在そのものに確証はなくても、やってきた事は真実だと。そこに嘘なんかありはしないと。
俺は、両手でうずめの肩を掴む。見つめ、掴み、言葉を続ける。
「うずめはさ、ずっと戦ってきたじゃないか。海男達を守る為に。いるかもしれない誰かを助ける為に。そんなうずめがいたから、海男達も俺も元気なんだ。そこには、本物もでっち上げもありはしねぇよ」
「だけど…うずめが本物、だったら……」
「もっと皆を上手く守れた、もっと楽させられたかも…か?…それだって、否定はしない。でも、俺はうずめに不満を感じた事なんて、一度もねぇよ。いつも真っ先に危険な事を引き受けて、傷付いても諦めないで、どんだけ大変でも見返りなんて一度も求めない。…こんなに良い女神に、不満なんてあるもんか。俺は自信を持って言えるね。絶対に、誰一人として、不満なんか持ってないって」
思い返すまでもない。どこまでも誰かの為に頑張るうずめは、立派で、格好良くて、凄い女神だった。うずめのしてきた事、守ってきたものに、本物かでっち上げかなんて関係ない。関係ない位の事を、うずめは貫いてきたんだから。それに……
「…ぶっちゃけさ、楽しかったんだよ。うずめと過ごす、毎日は。勿論大変でもあったし、命の危機もあったけど…うずめと話して、色んなところを回って、知恵を出し合ったり、俺なりに出来る協力をしたり…全部俺にとっては、かけがえのない時間なんだ。記憶がなかったからこそ、うずめと過ごす時間は、新たに積み上げていく時間は大切で、一つ一つが煌めいて…それは、今でも変わらない。記憶が戻った今だって、うずめと紡いだ時間は、色褪せたりはしない思い出なんだ。…うずめからしたら、こっちは大変だったんだぞ、って話かもしれないけどさ」
「…そんな、事ない…うずめ、だって…楽しかった…どんなに辛くても、皆の事を思えば頑張れて、ウィードがずっといてくれたから、大変でも元気が出て…嫌だった事なんて、一つもない…全部、全部…うずめの大切な、思い出だから…」
「…なら、それは本物って言えるんじゃねぇかな。俺がうずめと過ごしてきた時間も、うずめが海男達と紡いできた繋がりも、ネプテューヌ達仲間だって、全部うずめのものだ。もう一人のうずめから抜け落ちたピースで構成された訳じゃない、うずめがうずめの手で、一から積み重ねてきたものだ。何度だって言ってやる、幾らでもそう言える理由を出してやる。たとえうずめが、うずめの始まりがでっち上げだったとしても、今のうずめの中にあるものは、うずめが掴んだ繋がりは、もう一人のうずめのものじゃない。誰でもない、うずめだけの…本物なんだよ」
「ウィード…ぁ…ぅ、あ…あぁ…ああああぁぁぁぁぁぁ…っ!」
強い力も、深い知識も、社会を動かせる立場もない、俺はただの人間だ。…記憶を失う前はなかった筈の再生能力が今はあって、だから完全に普通の人間とは言えないのかもだが…とにかく俺に出来るのは、こうやって話し、思いを伝える事だけ。
だから俺は、言葉を尽くした。一片も残さず、俺の思いを…俺が感じてきた事を、伝える為に。うずめの中にも『本物』はあるって、そう思う俺の心を届ける為に。
そして、俺が思いの全てを伝えた時、うずめの涙は止まっていた。静かに、ただ、俺の事を見つめていて…再び、涙を流す。さっきの溢れ出したような涙とは違う、思いの全てを吐き出すような、激しくとめどない涙を。
「うずめ、怖かった…!うずめがでっち上げならっ、うずめがこれまでしてきた事もっ、感じた事もっ、幸せだって感じた思いもっ、全部全部、嘘になっちゃうんじゃないかって…!でも、でも……っ!」
「嘘になんかならねぇよ。ならないし、させない。不安なら俺が証明する。何回だって言い続ける。ここにいる天王星うずめの歩みに、嘘なんか一つもないって」
ぽろぼろと涙を流し続けるうずめを、抱き寄せる。不安や恐れ、心配な気持ち…そういうのを全部、受け止めるつもりで。女神の不安を、俺が受け止め切れるかどうかなんて分からないけど…出来るかどうかは、関係ない。これは俺の思いであり…俺の、意地だ。俺は『うずめ』の側にいてやる、何があっても支えてやる…絶対にこれは、譲らない。
「ウィード…ウィードぉ…ぐすっ……」
「我慢しなくていいから。ここには俺以外誰もいない。気が済むまで、辛い気持ちを全部吐き出せばいい」
抱き締めたまま、右手でうずめの後頭部を撫でる。ゆっくりと撫で、うずめの言葉に答え、うずめが黙っている間は俺も何も言わずに待って……そうして、時間が過ぎていった。
「……ウィード…やっぱり俺って、でっち上げなのかな…」
「どうなんだろうな。でも、もう一人のうずめの言葉が真実なら、女神化出来るのはうずめだけなんだろ?だったら逆に、うずめの方が本物かもしれないし…半々で分かれてて、偶々女神化はうずめが、記憶はもう一人のうずめが…ってなっただけかもしれないな」
「それは…そうだな…最初に俺が、敵の言葉を鵜呑みにするなんてって言ったのに、一番俺が間に受けてちゃ世話ねぇや……」
ぽつりと呟くように、うずめは言う。そうかもしれないし、逆かもしれない。実際のところは分からないと俺が返せば、うずめは俺の胸に顔を埋めたまま情けなさそうな声を出して…また、うずめの声が聞こえてくる。
「…ごめんな、ウィード…今だから言うけど、ウィードといると、凄く安心するんだ。自分がでっち上げだって思うのも怖かったけど…ウィードが俺じゃなくて、【オレ】の事を見て、【オレ】を思ってるんじゃないかと思うと…同じ位、怖かったんだ…こんな情けない姿見せたら、それこそウィードに呆れられちまうのに……」
「呆れるもんかよ。俺にとってはうずめはずっと、格好良くて、心から凄いって思える女神だ。だからどんな形でも…こういう形でも、うずめの力になれてるなら…俺はそれが、嬉しいし誇りだ」
「…本当に?俺、格好良い?」
「格好良いさ」
「…うずめ、可愛い?」
「滅茶苦茶可愛い」
「…これからも、うずめの…俺の、力になってくれる?」
「うずめが望むなら、幾らでも」
多分これが、今見えているのが、うずめの素なんだろう。普段は虚勢を張ってるとか、無理してるとかじゃなくて…格好良さに憧れる自分と共に、今のうずめも心の中にはいつも存在しているんだ。
そんなうずめを、俺は可愛いと思う。格好良さもあって、可愛さもあるなんて…そんなの、素敵に決まってるじゃないか。
「そっか、そっか…。……ウィード…また、呆れさせちまうかもしれないけど…いいかな?」
「なんだ、うずめ」
「……今のやり取り、滅茶苦茶恥ずかしい」
「…うん、それは流石に呆れるわ…なら何故言ったし……」
…それに、こういうちょっと抜けてるっていうか、しょうもない部分だってある。…本当に…本物とか、でっち上げとか…そんなの瑣末な事に思える位、魅力的だよ、うずめは。
「…すぅ、はぁ……よし。…ありがとな、ウィード。漸くすっきりして…凄く、元気出た」
「…もう、大丈夫か?」
「おう。でっち上げだろうと、なんだろうと…俺は皆を守ってきた、格好良い女神だからな」
顔を上げたうずめは、そう言ってにひっと笑う。それに俺は頷いて、ゆっくりとうずめを離す。
やっと見られた、うずめの明るい笑顔。…これだ。やっぱりうずめは、明るく元気な笑顔が似合う。
「…決めたよ、ウィード。俺はもう一度…いや、違ぇな。今度こそ、くろめと…【オレ】と、ぶつかる。本気で、全力で…全部全部、ぶつけてやる」
「ははっ、うずめらしいな。…出来るさ、うずめなら」
「おうよ!…だからウィードも、諦めんなよ?ちゃんと、最後まで貫けよ?」
「へ……?」
「へ?って…まだお前のやりたい事は、終わってねぇんだろ?まだ、やり残した事が…あるんだろ?」
──それは、見抜かれたのか、それとも感じ取ったのか。真っ直ぐに向けられたうずめの瞳は、俺の心までをも見つめているようで…それに俺は、頷いた。
あぁ、そうだ。俺にはまだやりたい事があって、それはやり残した事でもある。今度こそ絶対に、失敗はしない。今度こそ…届いてみせる、届けてみせる。
「……悔しいなぁ、ほんと…」
「…うずめ?」
「…何でもねぇよ。俺もそれを応援してやるから、力になってやるから…やってみせろよ、ウィード」
「勿論だ、やってやるさ。……あっ…な、何とでもなる筈だ…?」
「いや、乗るなら乗るでもうちょっと雰囲気出せよ…なんで疑問符付けるんだよ……」
半眼で呆れるうずめと、何だか恥ずかしくなってしまった俺。ここまでずっと俺の方が余裕あったのに、ここにきて俺の方が呆れられてしまった。…まあ、仕方ないか…うん……。
「…ほんと、ありがとなウィード」
「うずめが元気になってくるなら、安いもんさ」
「へっ、言うようになったじゃねぇか。…じゃ、暫く一人にさせてくれ」
「…え、何故に?」
「何故に?…って…一応、俺も女だぞ?こんなべったべたになって、多分目元も赤くなってる顔を、いつまでも見られてて平気だと思うか?」
「あ…そ、そうだな。でもまた何かあれば言えよ?」
しまった、確かにそれはそうだ。…と、言われてから気付いた俺は慌てて立ち上がり、部屋の扉の前へ。こういう時、もっと察せる男なら言われる前に、心の中で「ウィードはクールに去るぜ」…とか呟きながら出ていけたんだろうが…そうじゃないんだから、ならもうさっさと出ていくしかない。
それでも最後に、もう一言だけ俺は言った。それにうずめは、さっさと行けよな…と言いつつも少しだけ笑ってくれて、それを受けて俺は扉に手をかける。
(…敵、か……)
うずめの元気を取り戻す事は出来た。良かったし、やっぱりうずめにはうずめらしくいてほしいとも思った。
でも…俺にとってうずめが大切な存在であるのと同じく、もう一人のうずめは敵じゃない。そして…うずめと話して、改めて思った。もう一人のうずめも…このまま、皆にとっての敵で終わらせたくはない、と。
*
「…やるじゃないか、うぃどっち。どうやらオレの出る幕はなかったようだね」
「うぉっ!?う、海男!?」
部屋を出て、扉を閉めた瞬間、視界に入ってきたのは真顔の魚類…っぽい存在。つまりは、海男。いきなり海男が視界に入った事で、俺は驚いてしまった。そりゃあ驚くでしょう。
「おっと、すまないね」
「び、びっくりした…コイのキングかと思った……」
「いや、背びれはともかく他の部分の色は全く違うじゃないか…横になってぴちぴちしていた覚えもないよ、オレは……」
あんまりにもびっくりしたものだから、思わず俺は変な事を口に。確かに何言ってんだ感はあるが…驚いた時って、滅茶苦茶な思考のままでの発言をしてしまうものだ。これは仕方ない。
「…ってか、聞こえてたのか?」
「いいや、けれど君がうずめを慰めに行ったのは知っていたし、今の君はやり切った顔をしている。そこに加えて、このヒレに伝わる感覚を考慮すれば…答えは自ずと見えてくるのさ」
「お、おう…取り敢えず海男は相変わらず察し抜群だって事はよく分かったよ…」
なんか明らかに普通じゃない事を言っているのに、それをさも当然のように言うのが海男スタイル。さっき察し云々の事を考えたが…海男だったら、間違いなく言われる前に出ていただろう。そういう信頼感が、海男にはある。
「…うん?オレの出る幕はって事は……悪い、海男も呼んだ方が良かったか…?」
「いいや、君一人でうずめを元気にさせられたなら、それで良いじゃないか。オレの…いや、オレ達皆の望みはうずめに元気になってもらう事であって、元気付ける事じゃないんだからね」
「海男……」
「…それにしても…本当に君は、罪な男だよ。君がいたのなら、いてくれたのなら……」
「…海男?それは、どういう……」
「…いや、気にしないでくれ。なぁに、君より長い間うずめと接してきたオレの、ちょっとした嫉妬みたいなものさ。…あぁいや、それも違うのか…?」
うずめが元気を取り戻せるのなら、自分は直接関われなくても構わない。さらりとそう言えるから、やっぱり海男は凄いし…他の皆も同じように思ってるんだとしたら、それはうずめが積み重ねてきた事の賜物だろう。それだけうずめは、思われてるって事なんだ。
そんな海男が、不意に言った、何か含みを感じる言葉。何となく違和感を抱いた俺は訊き返すも、海男にはぐらかされる。嫉妬みたいなものと言われたが…そうじゃないような気もしている。…でも、結論から言えば、俺はそれについて追求出来なかった。すぐに、話が流れてしまったから。
「まあ、何にせよ良かった良かった。オレも皆も、うずめが元気でないと調子が狂ってしまうからね」
「はは、確かにな。元気じゃないうずめなんて、うずめらしくねぇもん」
「うんうん。…立派で、しっかりしてて、だけど放っておけない…どこか危ういからこそ、力になってあげたいと思う…それが『うずめ』という女神なんだと、オレは思うよ」
「…だな」
ふっと笑って言う海男に、俺も頷く。全くもってその通りだなと、心から思う。
それが、うずめなんだ。強さと危うさがあって、その両方を引っくるめて魅力にしているのが、うずめって女神なんだ。…なぁ、うずめ。うずめはうずめが思ってる以上に、皆に思われてるんだぜ?だから…頑張れよ、うずめ。俺も、これまで通り…これからも、力になるからさ。
今回のパロディ解説
・「〜〜やってみせろよ、ウィード」「〜〜何とでもなる筈だ…?」
機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイの劇場版における、代名詞的なフレーズ(台詞)の一部のパロディ。これは、ウィードがMG乗りになる伏線…!…とかではないと思います。
・ウィードはクールに去るぜ
ジョジョシリーズに登場するキャラの一人、ロバート・E・O・スピードワゴンの代名詞的な台詞の一つのパロディ。でも今回の話だと、海男の方が合いそうな台詞ですね。
・コイのキング
ポケモンシリーズに登場するポケモン(モンスター)の一匹、コイキングの事。海男とコイキングって、背びれだけは似ていると思います。…ほんと、背びれだけはですが。