超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
大型シェアクリスタル…空間の歪みの突破に必要なクリスタルの数は三つ。そのうち二つを、ネプテューヌ達守護女神の四人と、ネプギア達女神候補生の四人が精製に当たっている。
残りの一つは、その二つが完成してから作る事になっている。待機とはいえ、うずめやイリゼ達は手が空いている訳だから、改めて作る形なのは勿体無くも思うけど…短気は損気、急がば回れ。俺よりずっと経験豊富な皆がそう判断するなら、そりゃそうだよなと思うまで。
…多分これは、実感の違いなんだろう。次元の危機に正面から向かい合い、それを自分達で乗り越えてきた皆と、そうじゃない俺の、脅威と向かい合うって事への認識の差。
「ふっ、はっ……てぇいッ!」
プラネタワーの中にある、トレーニングルームで身体を動かす。身体を動かすっていうか、もう必要はないけど折角だからと続けている、戦闘訓練を今日もしている。そして、相手をしているのは…勿論、うずめ。
「腕より脚での攻撃の方が、威力は出易い。けど脚で攻撃をすりゃ、当然その間は……ほいっと」
「うぉっ!……片脚で立ってなきゃいけないから、こうやって転び易くもなる、って訳か…」
牽制の様に数度拳を振ってからの、上半身狙いの後ろ回し蹴り。我ながら上手く攻撃を続けられた…と思ったものの、それをしゃがむ事で避けたうずめは、流れるような動きで足払いをかけてくる。
素早く、足首へ放たれた蹴りでの足払いは、あまり痛いものではなかった。軽い攻撃だった。……が、その蹴りで俺はバランスを崩してしまい、そのまま尻餅を付いてしまった。
「大丈夫か?ウィード」
「大丈夫だ、転んだだけだしな」
「ま、だよな。…まだまだ荒いっつっても、ある程度技術や判断力は身に付き始めてる。これからも続けるってなら、攻撃一つ一つの長所短所をよく考えるようにした方がいいぜ?」
「一つ一つの長所短所、か…また難しそうだな…」
「そうでもねぇよ。じゃあ訊くが、なんでさっきの回し蹴りの前に、数回普通に殴ってきたんだ?」
「そりゃ、腕の方が攻撃する時の姿勢が崩れないし、牽制目的の攻撃なら、肩から先だけでもある程度はやれるパンチの方が…って、あ……」
「な?案外難しい事じゃねぇんだよ。だって、普通は無意識にある程度考えてるもんだからな」
差し出された手を握って、立ち上がる。無数にあるんだろう攻撃を一つ一つ分析してくなんて、途方もない事だと思ったが…確かに、意識的にやってないってだけであって、大体の攻撃は無意識に特徴を捉え、その上で状況や目的にあったものを選んでいる……と、思う。そういう意味じゃ、うずめの言う「考える」ってのも、平時に色々考えとくって事じゃなく、戦闘中の瞬時の思考の事を指しているのかもしれない。
「で、どうするよ?まだやるなら、付き合うぜ?」
「いや、まだやるのは流石にどうなんだ?何かあった時、うずめが疲れてたら大変だろ?」
「なーに言ってんだ。この程度、俺からすりゃ柔軟体操レベルだっての」
「あ、そっすか…いやうん、だよな…はは……」
「…まあでも、ウィードは間違いなく強くなってるぜ?相変わらず、一番の基礎になる身体能力のところはあんま変わってない気がするけどな」
にひひ、とからかうように笑ううずめ。前半だけならフォローとして受け取れるのに、後半の内容のせいで前半がただのフリにも思えてしまい…俺はがっくりと肩を落とした。
(うーん、どうすっかな…この調子なら問題ねぇけど、偶にうずめ、エンジンがかかって『こんな事も出来るんだぜ?』…って本気の動き見せてきたりもするからなぁ…)
万が一それでうずめが体力を消耗してしまって、そこで何かが起きたら洒落にならない。であればやっぱり、冷静な内に止めておく方が良いんだろうか。
そんな事を俺が考えている間、手持ち無沙汰だったのかうずめはシェアクリスタルをコインの様に何度も軽く放っていた。…シェアクリスタル、か……。
「…なぁ、うずめ。今思ったんだけど、シェアクリスタルって数揃えて一つ分にする…ってのは無理なのかな?」
「数揃えて?…あぁ、今必要な方の話か」
そうそう、とうずめの返答に俺は首肯。…分かってる。だから俺が焦ったり時間を惜しんだりしても仕方ないってのは分かってるが…やっぱり気になってしまうのだ。
「んー…そうだなぁ、俺もそこはよく分からねぇけど…それ位の事なら、流石に誰かしらが思い付いてるだろ。で、それで解決してないって事は、数揃えて…って方法じゃ駄目なんだろうさ」
「あ…そうか、そりゃそうだよな…」
言われてみれば確かに、この位誰かが先に思い付いている筈。何せ何の捻りもない、ぽっと思い付いただけの発想なんだから。
「むー…なんか、上手い方法ねぇかなぁ…」
「別にこのままじゃ間に合わないって訳じゃねぇんだから、そこまで気にしなくても良いと思うんだけどなぁ…まあでも、数揃えて何とかなるなら、確かに楽だっただろうな」
「だろ?それこそ大きさを問わないなら、向こうにシェアクリスタルって落ちてる訳だし」
「いや確かにそうだが、だからってシェアクリスタルをイガグリ位の感覚で言うなよ…女神にとっては、普通に貴重なものなんだからな…?」
半眼で俺を見てくるうずめの顔に浮かぶのは、何とも複雑そうな表情。…まあ、俺だってシェアクリスタルがただの綺麗な結晶じゃない事は分かってるし、確かに女神からしたらあんまりな表情だったかも、とは思うが…落ちている事もまた事実。
「そもそも、なんでシェアクリスタルが落ちてるんだろうな。自然に出来るものじゃなくて、女神が作るものな筈なのに……」
「それなんだけどよ、ひょっとしたら何かしらの条件が合えば、自然にシェアクリスタルが出来る事もあるんじゃないかって最近俺は思ってるんだよな。だって、神次元じゃ女神メモリーが、自然に出来るって話だし」
「あー、そういやそうだな。だったら、どっかの洞窟とかに巨大なシェアクリスタルが眠ってたりして、な」
いやいや、流石にそれはねーだろと突っ込んでくるうずめに、俺もだよなぁと苦笑い。もしそんな事があったらマジで鉱物みたいになるし、百歩譲ってそれがあり得るとしても、今から探し始めたら絶対見つかるより先に、三つ目の巨大シェアクリスタル精製が済む事だろう。
でもほんと、惜しいよなぁと俺は思う。もし数を揃えれば何とかなるなら、ずっと楽だっただろう。或いはどっかに巨大シェアクリスタルが埋まってたり、それを見つける事が出来たりしたら……
…………。
………………。
……………………うん?
巨大なシェアクリスタル…埋まってる…向こうの、次元……
「あーーーーッ!!」
「うわぁ!?ど、どうした!?どうしたウィード!」
「いやあるじゃん!あるじゃんシェアクリスタル!」
「へ?…いや、あの…へ……?」
「だから、巨大シェアクリスタル!向こうに置きっ放しのやつがあるだろ!?」
「置きっ放し…あーーーーッ!!」
思わず叫んでうずめをぎょっとさせてしまった俺だが、伝わった瞬間うずめも同じように叫んだ。
そう。状況が状況過ぎて、俺的には記憶が戻った直後の出来事だった事もあって、すっかり忘れていたが…俺達はうずめ達が見つけた大きなシェアクリスタルを、そのまま向こうに置き去りにしている。向こうはもう、見る影もない状態かもしれないが…確かめてみなきゃ、分からない。
「…あ、いや…けど、条件に合うかどうかは分からねぇよな…?」
「けど、決戦にかかってるのは信次元が…いや、三つの次元が駄目になるかならないかなんだ。確かめてみる価値はあるだろ?」
うずめの言う通り、使えるものかどうかは分からない。これじゃ駄目だ、ってなったら期待外れもいいところ。
だけどそれは、ここで考えて分かる事じゃない。動かなきゃ、分からない。そんな思いを俺が伝えると、うずめは一度口を閉じ……それからこくりと、深くしっかりと頷いてくれた。
*
マジェコンヌさんとの戦い、犯罪組織との戦い…どちらも、誇張抜きに信次元の未来がかかった戦いだった。強大な相手との決戦は、皆と力を合わせ、出来る事を尽くし、最後まで諦めず…その結果何とか勝利を、未来を掴む事が出来た。
そして今もまた、私達は決戦を目前に控えている。これまでとはまた違う脅威との決戦を、嘗ての脅威を一緒に乗り越えた仲間と、この一連の事態の中で絆を結んだ、皆と共に。
「…お伝えします。今、シェアクリスタルの確認を行ってきましたが…全て、問題ありませんd(^_^o)」
会議室とTV通話、その両方を用いて一堂に会する私達。その私達に向けて、イストワールさんは言った。空間の歪み突破に必要な条件の一つであり、最後のピースとなっていた、シェアクリスタルの準備…それが、完了したと。
「じゃあ、これで…」
「あのおしろの中に入れるってことね!」
元気良く言うラムちゃんの言葉に、イストワールさんは首肯する。
全条件の達成が示すのは、負のシェアの城への突入が可能となった事であり…決戦への、道が開いたという事。
「ふー…ネプテューヌ、頑張りました!」
「一先ずこれで一安心ですわね。…と言っても、正念場はここからなのですけども」
「これで突入が出来るようになったとしても、勝てなきゃ意味がないですもんね…」
「ふっ、心配は無用さ。君には、皆には、わたしが付いている!」
「いや、私達は突入担当じゃないでしょうが」
現実的…というか、少しだけ後ろ向きな視点で呟くユニに対し、自分がいるから大丈夫だとミリアサちゃんが胸を張り、それをチーカマが冷静に突っ込む。元から空気が重かった訳じゃないけど、こうして条件が満たされた今は、やっぱり普段に増して雰囲気が良い。
それもこれも、無事に三つの大型シェアクリスタルが用意出来たから。でも、ネプテューヌ達とネプギア達が作ったのは、それぞれ一つずつ。つまり、作ったクリスタルは二つだけで、にも関わらず三つあるのは…誰もがすっかり忘れていた形で、三つ目となるクリスタルが手に入ったから。
「それにしても…ほんと大手柄だよ、ウィード君」
「ほんとだぜ、ウィード。やっぱ、考え続けてると見えてくるものってのもあるんだな」
「いやいや、運良く思い出せただけだって。それに俺一人で思い出したんじゃなくて、うずめとの会話の中で思い出せた、って感じだしさ」
「何であれ、大手柄な事には変わりないわ。この段階において、時間を短縮出来たって事には大きな意味があるんだもの」
私やうずめ、ノワールからの称賛を次々と受け、初めは謙遜していたウィード君も段々と表情に照れを見せる。でもノワールの言う通り、決戦が…そして次元の衝突が迫っている今、想定していた行程を一つ飛ばせる事の恩恵は、かなり大きい。タイムリミットとしても、精神的にも余裕が出来る訳だし…そのおかげで、シェアクリスタル精製に当たっていた八人がしっかり休めるというのも大きい。
「…こほん。では、確認に入りましょう。まず、空間の歪みを無効化する為に必要な、三つの条件…それは、達成されています。後はそれぞれの場所にシェアクリスタルを配置し、皆さんに向かってもらうだけです( ̄^ ̄)」
「あたし達は、事が済むまでそこで待っていればいい…だったわね?」
「はい。ただ、向こうがこちらの動きを察知し…或いは予め何かあった時を想定して、何かしらの備えをしている可能性もゼロではありません。こちらも常にモニタリングし続けるつもりですが、どうかお気を付けて」
確認の問いを口にしたニトロプラスへとイストワールさんが頷きを返し、イストワールさんの気を付けて、という言葉に何度は別次元組の皆が頷く。
…いや、この表現は正しくない。より正しく言えば…別次元組の皆『も』頷いた。
「にしても、驚きね。REDやケイブ、5pb.や大人のファルコム…元から信次元にいた皆にも、別次元組と同じ適性があったなんて」
「違う次元の皆が、次元を渡る経験をしている。その影響が、次元を超えて皆にも作用している…っていうのが、イストワールの見立てだったわよね。まぁ実際、神次元にも次元を渡って来た皆がいた訳だし、そんなものだと言われたらそんなものか、とも思うけど…」
「でもぉ、こんぱちゃんと、あいえふちゃんは、適性…?…がないんでしょ〜?変なの〜」
「それに関しては、コンパさんアイエフさんが次元を渡る旅をしていない…というより、ネプテューヌさん達と同様、色んな次元に存在しているからだと思われます。信次元、神次元は勿論、イリゼさんの話では更に他の次元にもいるとの事ですし(´・ω・)」
興味深そうな顔で話す、ブランとセイツ。皆『も』というのは、今二人が言った通りの意味で、更にそこから私へと視線を送ってきたイストワールさんに対し、私はそうだと首肯を返す。
この辺りは、よく分からない部分も多い。でも今重要なのは、理由ではなく適性の有無。そして条件に対し、コンパとアイエフ(とマジェコンヌさん)を除くパーティーの全員が合致するという事なら、それは好都合に決まっている。
「イストワールよ、そろそろ確認の続きに戻ってはどうだ?」
「あ…こほん。…黄金の塔があった場所に、シェアクリスタルを配置し、更にその周辺に皆さんが留まる事によって、空間の歪みの元となる力にブレが生じ、無効化に繋がるという事です。ただ、無効化出来るのはあくまで皆さんがそこに留まっている間であり、実際に無効化されるまでも、数十分後から数時間はかかると思われます( ˘ω˘ )」
「だから、無効化してから全員で突入…って事は出来ない訳ね。…まあ、仮に私達も行けたとしても、モンスター程度ならともかくダークメガミレベルになると荷が重いけど…」
「いやいや、時間稼ぎとはいえマジックやデカい方の犯罪神と戦った事ある皆なら、ダークメガミとも戦えるって。…って、言いたいところだけど…決着はわたし達がちゃーんと付けてくるから大丈夫!だから皆は、シェアクリスタル設置の後に『領域展開!ビルドアライズ!』…的な事を言った後は、のんびり待っててよ!」
「はいです!ねぷねぷ、皆さん、頑張るですよっ!」
「あ…う、うん。勿論頑張るけど…出来ればここは、『歪みに干渉するからって、そんな掛け声要らないでしょ…後、無関係なのが融合しちゃってるし…』的な突っ込みが欲しかったかな……」
折角マジェコンヌさんが軌道修正をしたというのに、早速ネプテューヌによってまた脱線。けどマジェコンヌさん当人は、「全く仕方のない女神だ…」と苦笑いしているだけで…これは懐が深い、って表現でいいのかなぁ…。
「は、はは…えぇと、じゃあわたし達は、歪みが消える…というか、通れるだけの穴が出来るまでは監視任務中の艦船の中で待って、出来ると同時に突入…って事になるんですか?」
「そうだね。交代する艦に乗ってまずは近付いて、無効化を視認したところで一気に突入…が最善なんじゃないかな。それなら向こうに落ち着いて対応する時間を与える事にはならないし、可能なら一気に決着を付ける事が、皆の安全にも繋がるだろうしさ」
「まあでも、万が一の時はノワール達神次元の皆が四方八方飛び回ってくれるだろうし、そこは安心しても良いと思うなっ」
「なんでみらてぬがそれ言うの…しかも他人任せみたいな言い方で……」
頬に指を当てて訊いたネプギアに私が返し、今度はミラテューヌが突っ込みどころのある発言をし…そんな感じに決戦前としてはやけに締まらないながらも、確認は進んでいく。
いつもの事だけど、私も皆も気負いはない。今や、こういう雰囲気そのものに突っ込む人もいない。けど、それでも勝利を掴んできた事もまた、確かな事実だと、私は思っている。
「空間の歪みに穴が空いたところで、ネプテューヌさん達が突撃。セイツさん、プルルートさん、ピーシェさんのお三人は、後詰め兼追撃戦力として、状況を見極めた上で動いて頂く…これで、宜しいですか?(´・ω・`)」
「は、はい。こ、これは人の皆さんも…多くの人も、協力してくれる戦い、です…。ですから、頑張りましょう…!失敗は…許され、ません…!」
「いやオリゼ…それはそうだけど、締めを『失敗は許されない』にするのは、あんまり良くないんじゃないかな…」
「ふぇ?…ぁ…ご、ごめんなさい……」
言われてから見回し、それからオリゼはしゅんとした様子に。ただでも、今に限ってはそれがプラスに働いて、「失敗は許されない」という言葉が生み出した緊張を、程良く解きほぐす事に繋がっていた。
本来なら、今は三つ目のシェアクリスタルを精製している段階で、精製完了の翌日には実行に移る予定だった。でもその三つ目のクリスタル精製の時間が浮いた分、実行の日を前倒しにした上で、一日の時間を…決戦前最後の日に、改めて思い思いの事を出来るようになった。たった一日ではあるけど…その一日は、凄く大きい。
「…さて、確認すべき事はこれで済んだ訳ですけど…どうしまして?もう解散致します?」
「あ…それならさ、ちょっといいかな?皆シェアクリスタル精製で疲れただろうと思って、イストワールさんが確認してる間に、ドーナツを作ったんだけど…」
「え、ドーナツ!?いいの!?」
「いやあの、一応頑張ってくれた八人へ向けてのドーナツなんだけどね、大きいネプテューヌ…勿論食べてくれていいんだけどさ。逆に、各国にいる皆にはあげられないし、それは申し訳ないんだけど……」
「えっ…?…あ、い、いやそうですよね…はい、分かってます…」
「ほ、ほんとに貴女は食べるの好きね……」
さっきのオリゼの様にしゅんとするゴッドイーター(現在ラステイション)にノワールが軽く突っ込んで、皆もその反応に苦笑い。…でもまぁ、残念に思ってもらえるのは…少し嬉しい。今度はクッキーとか、もっと保存が効いて冷めても美味しいやつにしようかな…。
「という訳で、わたし達はドーナツが置いてある厨房に来たよっ!そして今喋ってるのは、ミラテューヌだよっ!」
「誰に言ってるのミラお姉ちゃん…」
「ふっふっふ、それは勿論……あ、そういえばミラお姉ちゃんって、某地学部天文班の子っぽさあるよね」
「えぇ…?いやそれはお姉ちゃんじゃなくて妹の方…って、元々の質問の答えは…!?」
ミラテューヌとネプギアの漫才みたいなやり取りを見つつ、私はキッチンペーパーを被せておいた大皿を持ってくる。そしてそのキッチンペーパーを外せば、その下にあるのは…勿論、さっき揚げた一口ドーナツ。
「わぁ、おいしそう…!(うずうず)」
「うん!…あれ?でもこのドーナツ、わっかじゃない…」
「なんだったっけ…あ、そうだ。ドーナツっていうのは、基本的に揚げた甘いお菓子の事なのよ。だから、穴が空いてなくてもドーナツって訳ね」
『へぇー』
「まあまあとにかく食べようよ!という訳で、頂きまーす!」
言うが早いか、ネプテューヌはドーナツを一つ取ってぱくり。もぐもぐと咀嚼し、ごくんと飲み込み、にぱっと笑って私に美味しいと言ってくれる。
やっぱり、そう言ってくれるのは嬉しいもの。という訳で私は、自然と頬が緩むのを感じながら「召し上がれ」と言い…おやつタイムに。
「ん…衣がサクサクしてて美味しいわ。まだ、ほんのり暖かいし」
「うん、確かに美味しい。…ほんとに美味しい……」
「はふぅ…妹謹製のドーナツ…心も温まるわ……」
静かに、けれど美味しそうに食べてくれるブランに、うんうんと頷きながら早速二つ目を手に取るピーシェに、なんかちょっと違う方向で喜んでくれているセイツ。皆それぞれ反応は違うけど、皆が皆喜んでくれて…本当に、嬉しい。
元々一つ一つが小さい事もあり、割と早いペースで減っていくドーナツ。そこで私も一つ食べようと思い、お皿へと手を伸ばして……
「……あれ?私以外にも、誰か何か作ったの?」
視界の端、少し離れた場所…そこに私のドーナツ同様、大皿に乗せられ、キッチンペーパーのかかった何かが置いてある事に私は気付いた。
「ほぇ?あたしは、何も作ってないよぉ?」
「アタシも作ってないですけど……」
「あっ……そ、それはその…」
「…え、オリゼが作ったの?」
誰だろう…と私達が思う中、小さく上がった一つの声。それはオリゼのもので…最初私は驚いた。だって、オリゼに料理のイメージはなかったから。
でも、そもそもオリゼはもう一人の私。そして私は、お菓子作りが好きなんだから、オリゼが料理をしたっておかしくない。
「ぅ…あ、あの…作り、ました…けど…た、食べない方が……」
「えー?でもせっかく作ったんでしょー?…あっ、これおもち?」
「あんこ、入ってる…だいふく…?(きょとん)」
「あ、いやこれはあんこ餅だね。ほほぅ、今年最後であり年末の投稿って事で、お餅を用意してくれたのかな?」
「ぁ、ぅ…そ、そうじゃなくて…」
「……?食べちゃ、駄目?」
続けて訊く大きいネプテューヌに対し、オリゼは首を横に振る。それは相手が人間のネプテューヌだからかもしれないけど、少なくとも本当に食べちゃ不味いものなら、オリゼだってそう言う筈で…さっきのネプテューヌの様に、大きいネプテューヌもその内一つを取ってぱくり。そして……
「んー…うん?オリゼ、これ普通に美味しいよ?確かにちょっと硬くなり始めてるけど、別に不味い味だったりはしないし。ほら、皆も食べてみて?」
「それじゃあ、わたしも…あ、頂きますねオリゼさん。……ほんとだ、ちょっと硬いけど美味しい…」
「そうですね、わたしも美味しいと思いますよ?(о´∀`о)」
次々上がる、好意的な評価。私もイストワールさんと分けて(某ジャージ二人組の饅頭並みの割り当てだけど)食べたけれど、少なくとも不味いって事はない。硬さに関しても、トースターで焼き直せば普通に美味しく食べられる筈。
だというのに、オリゼは嬉しそうな顔をしない。それどころか、どんどん曇っていって…遂には、ぽろぽろと涙を零し始める。
「う、うぅ…ぅぅぅぅ……っ!」
「え、ちょっ…オリゼ……?」
「な、何か悪かったの…?もしかして、わたし達にあげる用じゃなかったとか…?」
「ち、違います…違うん、です…うぁ、ふぇっ……!」
「で、では何が理由で…?(;´д`)」
わたわたと、オリゼを落ち着かせようとする家族三人。そうして私達が声を掛ける中、オリゼは小さく嗚咽を上げながら……言った。
「ほんと、はっ…違うん、です…っ!」
「違う…?それは、一体どういう……」
「ほんとは、ほんとはっ……疲労回復に良いっていう、スープを…作って、たんです…!」
『…………え?』
…………。
………………。
……………………。
………………えっ…?…疲労回復の、スープ…?…ここにあるのは、間違いなくあんこ餅…なのに…?
「材料、も…レシピ、も…ちゃんと、スープのものだったのに……いつの、間にか…こんな感じに、なっちゃって…ふぇぇぇぇ…」
『…………』
((…じゃあ、これは……なに…?))
──さっきまでは楽しかった、おやつタイム。多分、本来ならこの後「よし、それじゃあ頑張ろうね!」…って感じになって、「いや、実行は明後日だけどね」…みたいな返しが来て、皆で笑えてたであろう時間。楽しいと思いつつも、決戦に向けて心を作り始めもしたかもしれない、そんな時間。…けれど、オリゼの口にした衝撃の事実により……全員、それどころではない心境になってしまうのだった。
今回のパロディ解説
・「〜〜駄目になるかならないか〜〜あるだろ?」
機動戦士ガンダム 逆襲のシャアにおける、ネオ・ジオン(残党)のパイロットの一人の台詞のパロディ。モブの台詞も有名になる、っていうのは凄い事ですよね。
・領域展開
呪術廻戦における、術式の一つの事。空間の歪みを無効化するのは、特殊な術を使う…とかではないので、言っても「えぇ…?」…となるだけですね。
・ビルドアライズ
ビルディバイド -♯000000-における、テリトリー(カード)展開時の台詞のパロディ。『領域』ですし、「領域展開、ビルドアライズ」…でも、不自然さはないですね。
・某地学部天文班の子
恋する小惑星の主人公の一人、木ノ幡みらの事。ですがネプギアが突っ込んでいる通り、彼女は妹の方ですね。ミサお姉ちゃんだったらばっちりでしたが…。
・某ジャージ二人組
ギャグマンガ日和シリーズに登場するキャラの一人(二人)、聖徳太子と小野妹子の事。イカダでの饅頭の話ですね。イストワールなら、あのサイズでも不満はない…かもです。