超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
消失した床…その下には、何もなかった。私達がいたホール、その下にあったのであろう部分全てが消滅し、完全な穴となっていた。
私達は落ちていく。異常な程の加重、それから逃れ切る事が出来ずに、負のシェアの城から真下に向けて落下していく。…レイに嵌められた、くろめと共に。
「……っ!軽くなった…!」
穴は広く、どこかに手や足を引っ掛ける事は出来ない。圧縮シェアエナジーの解放を用いれば留まる事は出来るかもしれない…けど、それはシェアエナジーの消費も身体の負担も大き過ぎる。そして、留まる為の現実的な手段を思い付く事が出来ないまま、私は城から投げ出され…更に城から少し離れたところで、ふっと身体の重みが消えた。
即座に翼を広げ、減速。続けて周囲に視線を走らせ、皆の無事を確認する。
「くっ…まんまと強制退去させられるなんて……!」
「どうする、戻るか?」
「いえ、ただ戻ったところで同じ事をされるだけですわ。まずは対処なり対策なりを講じるべきではないかしら」
比較的近くにいたノワール、ベール、ブランと私は顔を見合わせる。幸い私も皆も外に出されただけで、ダメージらしいダメージは負っておらず……って、あれ…?…オリゼ……?
「……っ!皆、オリゼは!?オリゼを知らない!?」
「わ、分かりません…でも、どこにもいないって事は…まだ、城の中……?」
全方位どこを探しても、オリゼはいない。ただそれだけで、私の心はきゅっとなり…ユニの言葉で、城を見上げる。
確かに、そうだ。幾らあの加重があったとしても、オリゼがやられる訳がない。それどころか、城内に留まっている可能性も十分ある。
(…うん、そうだよ…オリゼなら間違いなく……)
「皆さん!くろめさんが……!」
私の中にある信頼で心が落ち着いていく中、聞こえたのはネプギアの声。その声で、私達だけでなくくろめも落とされた事を思い出し、私はネプギアの視線が向いている先を見やる。
まだ離れた距離にある地上。そこにくろめはいた。女神化出来ないらしいくろめは、出来ない筈にも関わらず五体満足の状態で地上にいて……分からない、分からないけど推測はつく。…妄想能力で、減速なり衝撃吸収なりを行い、それで着地したんだろう。
「…………」
「…うずめ、さん…?」
「…何でもないよ、ろむっち。それより……」
「えぇ!今ならたおすチャンス、よね!」
言うが早いか、ラムちゃんは降下を開始する。それをブランは止めるような素振りを見せ…けど止める事なく、ラムちゃんの後を追う。
止めようとしたのは、恐らく安易に近付くな、って事だと思う。けど、仲間割れを起こしていたとはいえ、くろめは元凶の一人であり、このまま見過ごせる相手じゃない。それに、今のくろめはホームグラウンド外に落ちた訳で…ラムちゃんの言う通り、今が攻め時であるのは事実。
「…くろめ」
警戒は一切解かないようにしながら、私も皆と共に降下。降り立ったところで、ネプテューヌが呼び掛け…俯いていたくろめが、その言葉にぴくりと肩を揺らす。
「…ふ、ふふ…だろうね、分かっていたさ…あんな人格破綻者は、どこかで裏切るに決まってるじゃないか…端から分かっていた事が起きた、想定通りの行動をした…ただ、それだけさ……」
「…くろめ、さん…?」
「それに…どうやらレイは、原初の女神を引き受けてくれたみたいじゃないか…。一番厄介な相手を、裏切り者が相手してくれているんだ…むしろ僥倖、降って湧いた幸運とすら言えるというもの…」
声は聞こえているようだけど、くろめからの反応、返答はない。俯いたまま、ぶつぶつと呟き続け…ふっ、と止まった。口を閉ざし、完全に動きを止め……次の瞬間、くろめは前髪を搔き上げた。顔を上げながら髪の毛を払い、漸く私達へ向き直る。
「君達も、まんまとやられたものだね。いや、不利な状況から脱したんだから、君達にとっても幸運だったかな?」
「…案外余裕そうね。少し聞こえたけど、裏切られるのも想定内だったって訳?それとも、この状況でもまだ慌てる必要はないとでも思ってるのかしら?」
平常心を取り戻した様子のくろめに対し、ユニが若干の皮肉を込めて言葉を返す。私達も、それを…特に後者の可能性を考慮し、臨戦体制を崩さず…けどそこで、うずめが不意に一歩前へ。
「…強がるのは、止めなよ」
「…強がる……?」
仕掛けるでも、挑発するでもなく、女神の姿のうずめらしからぬ静かな声で、うずめが言う。くろめに向けて、止めなよ…と。
その瞬間、ぴたりと固まるくろめの表情。余裕たっぷりだったくろめの顔が固まり、一瞬の間の後くろめはうずめの言葉をそのままに訊き返す。
「ほんとは今、凄く嫌な気持ちでしょ?裏切られたんだもん、嫌な気持ちになるのが普通だよ」
「…何を言い出すかと思えば…裏切られるのは、分かっていた事さ。想定していた事が起きた、それのどこに嫌な気持ちとなる要素が……」
「でも、裏切られた時は驚いてたよね?それに…同じ『うずめ』なのに、分からないと思うの?」
「……っ…」
返すくろめの言葉を遮り、落ち着いた雰囲気で畳み掛けるうずめ。対してくろめは、その指摘を受けて言葉に詰まる。
前に二人が対面した時、途中からうずめはまともに言い返せなくなっていたという。…今は、その逆。くろめの心情を見透かした…或いは感じ取ったうずめが、くろめの思考の先を行った。
「…くろめ」
「…何かな、ねぷっち」
一度途切れたやり取り。次に声を上げたのはネプテューヌであり、ネプテューヌは呼び掛けると同時に前へ…うずめの隣へ。ネプテューヌとくろめ、二人の視線が交錯する中、ネプテューヌは続ける。
「断言するわ。さっきまでならともかく、今貴女に勝ち目はない。貴女にだって、これがどれだけの戦力差なのかは分かるでしょう?…だから、投降しなさい」
「…投降?…ははっ、やっぱりねぷっちは冗談が好きだね。けど、それは笑えない冗談と言うものさ。…馬鹿馬鹿しい、誰が投降なんてするものか」
「だったら、どうする気?うずめも言ってたけど…仮に裏切りそのものは想定していても、あのタイミングでやられるとは思ってなかった、そうなんでしょ?」
「まあ、まともな思考をしてりゃ、あのタイミングで裏切ったりはしねぇもんな。そこに関しちゃ誰も予想なんか出来ねぇし、誤魔化す必要もないだろうよ」
ネプテューヌからの投降要求を、くろめは突っ撥ねる。投降を馬鹿馬鹿しいという言葉で切り捨て…けれどノワールとブランがそれに返す。
当然、投降要求は話し合った上で出した、私達全体の考えって訳じゃない。でも同時に、即座に否定されるような考えでもない。少なくとも、それを今すぐ止めようとする人はここにいない。
「…誤魔化す必要はない、か…同情だなんて、余裕綽々じゃないかぶらっち…」
「それだけの状況にあるのは事実ですわ。…尤も、貴女がこれまで何度も窮地を脱してきた事もまた事実。わたくし達が油断する事を期待しているのなら、それは叶わぬ話ですわよ?」
「…くろめ、もう一度言うわ。投降して頂戴。これまで貴女には、貴女達には、ずっとしてやられてきたけど…それももう、終わりよ」
譲歩や下手に出るような事はなく、あくまで敵としてのスタンスで、今一度ネプテューヌは言う。こうしてまず投降を求めているのは、きっとそれがネプテューヌの思う、ネプテューヌの望む決着に向かう為に必要な事だから。
…いや、違う。たとえこれが決着に繋がらなかったとしても、多少言い方は違ったとしても、ネプテューヌは同じ事を言ったと思う。何故なら、それがネプテューヌだから。誰であっても、どんな状況でも、手を伸ばす…それがネプテューヌの、女神パープルハートの在り方なんだから。
「くろめさん。貴女がしてきた事は、簡単に許される事じゃ…いえ、許されていい事かどうかも分かりません。けど、誰もがくろめさんに怒りだけを抱いている訳じゃないんです。大きいお姉ちゃん、ウィードさん、それにミラお姉ちゃん…くろめさんをただ倒す、それ以外の道を思う人だっているんです。だから…もう、終わりにしませんか…?たとえくろめさんに、くろめさんなりの譲れない思いがあったのだとしても、わたしは……」
そしてそれは、ネプギアも同じ事。ネプギアの向ける思いは、ネプテューヌとは少し違って…でも、誰かの為って部分は同じ。
敵であるくろめ自身を思うネプテューヌと、そのくろめを思う人達を思うネプギア。嘘も偽りもない、真っ直ぐな思いで二人はくろめに手を差し出して……
「…終わり?終わりにしませんか…?…ふ、ふふ…はは、ははははははっ……」
「うっ…な、何よいきなり笑いだして!何がおもしろいの──」
「図に乗るなよ、後輩風情が…ッ!!」
「ぴぇ……っ!?」
……けれど、その手は跳ね除けられる。それも、剥き出しの敵意で。心の中から噴出したような怒りと悪意で。
「やってくれる…本当にやってくれる…!君達は何度追い詰められようとも諦めず、持てる力を駆使し、自らの限界を超え、幾度となく勝利を重ねてきた。大した力だ、大した精神だ、力ばかりで精神が破綻している彼女とは大違いだ。だが…忘れるなよ、後輩共。君達は、信次元は、オレがその気になれば最初の時点で終わらせる事が出来たんだ。けど、オレはそうしなかった。その理由が分かるかい?」
「…それは、ただ信次元を滅ぼす事が…終わらせる事がくろめの望みじゃないから、でしょう?」
「ああ、そうさ!オレは自分の事しか考えていないレイや、快楽主義のクロワールとは違う!オレが目指すのは、この信次元の人を、女神を守る事…オレが望むのは、オレが皆を守る世界だ!……君達だって、この戦いの中で痛感しただろう?ただの強さじゃ、自分が、誰かが傷付く。勝てたとしても、守れたとしても、得られるのは綱渡りの平和だけだ。原初の女神ですら、完全無欠ではないのだから」
原初の女神…もう一人の私ですら、完全無欠ではない。…それは確かに、正しい言葉であると思う。オリゼが完全無欠なんかじゃない事は、私がよく知っているから。
そのオリゼを引き合いに出し、くろめは言葉を続ける。相対する私達だけでなく、他の誰かにも…もっと多くの人に向けて、自分の意思をぶつけるように。
「だから、ただの力を超えた強さが必要なのさ。真の力が、女神すらも守れる強さが。…いい加減、分かるだろう…オレこそが、守れる存在だと…オレこそが、正しい女神だと…!確かにオレは、信次元の…幾つもの次元を窮地に陥れた。けどこれが、何よりの証拠だろう!オレの持つ、絶対的な力の!オレには力がある、思いもある、何より果たすべき理由がある!そのオレに終わりだと?終わりにしようだと?ただ守っているだけのお前達が、分かったような事を……」
「──驕るなよ?正義を語り、人に仇なす悪神が」
『……っ!?』
剥き出しの感情を向けるくろめ。その声からは、感じる。くろめの胸中にある、くろめにとっての譲れない思いが。絶対に曲げるものかとする、激しい感情の発露が。それは深く、きっと軽んじる事など出来ないもので……あぁ、でも、だけど…私はそれを、くろめの思いを、許容出来ない。それを信念だと言うのなら…否定をせずには、いられない。
私の言葉に、くろめよりも先に皆が反応した。私の怒気を孕んだ声に、目を見開いていた。
その皆の、前に出る。左手を斜め下に出し、邪魔しないでほしいという意図を伝え…くろめを、見据える。
「…悪神、だと?」
「ここまでの行いを悪と言わずして、何と言う。後輩風情?…女神を評するのであれば、それは時代ではなく、成してきた事で評するべきだ。それすらも分からぬ、自らの事しか見えぬ曇った瞳の女神に、人の生を、幸福を守れるものか」
「…言ってくれるじゃないか、いりっち……いや、原初の女神の複製体と言おうか。オレの瞳が曇っている?まさか、そんな抽象的な観点で、オレの瞳を曇っていると……」
「ならば、その瞳で見ているのはなんだ。…断じて今を、今の時を生きる人々を見ているとは言わせないぞ。そしてもし、今を生きる人々を見た上で行いを続けていたのだとしたら…失われた命に、目覚めぬ家族や友に涙する人々を見ても尚正しさを疑わないのなら……貴様は、悪以外の何物でもない」
心の中から湧き上がるのは、怒り。これで正しさを、人の為を語るだなんて許せないという、怒りの感情。
何が許せない?…それはくろめが、自分の思う人の為しか見ていない事だ。私は知っている。見てきている。あの昏睡によって生まれた悲しみを、多くの人が負った心の傷を。今は社会も回復している。オリゼの《女神化》は死すらも否定し、悲しみも亡失も過去のものとなりつつある。……だけどそれは、過ぎただけ。失われたものが戻っただけで…事実は、その時負った悲しみは、無かった事になったりはしない。
どんな理由があろうとも、その先にあるのが平和であったとしても、故意に無数の人を悲しませ、傷付ける行いが正しいものか。…いいや、女神であるのなら、それは間違いなく悪だ。悪と断じ、忌み嫌い、そうでない道を選ぶべきだ。女神ならば、悲しみ俯く人々の顔を、心を見て、平気でいられる筈がない。それを見て、知っても尚、自らの行いを正しいと語るなら……断言しよう。それは最早、そのような存在は最早、女神ですらないと。
「…なら、何が正しい事だと言うんだい?そうも一方的に言い切るんだ、さぞや大層な考えが……」
「女神が守る。全力を尽くし、力を合わせ、時には人にも力を借り、人も国も次元も全て守る。ただ、それだけの事だ」
「ふん、馬鹿馬鹿しい。何を言うかと思えば、そんな具体性のない言葉で納得する人間なんてどこにも……」
「あら、そんな事はないわよ?」
そんな事も分からないのか。同じうずめ、同じ女神である筈なのに。それをいっそ悲しいとすら思いながら、私は言い切った。力を尽くし、友や仲間と協力し、望む未来を諦めなければ、守る事は出来るのだと。
返ってきたのは、否定の言葉。私の答えを、くろめは一蹴し…けれどその否定は、言い切る前に掻き消される。空から降り立った声が、セイツの声が、否定を搔き消す。
「…皆……」
「いきなり皆落ちてきたんだから、びっくりしたわ。でも、無事で良かった。……暗黒星くろめ。碌に話した事もないわたしの言葉を、素直に受け止めてくれるとは思えないから…事実だけを、言わせてもらうわ。──どんな言葉、思想を語ろうと、結局は今一人の貴女と、次元すら超えて集まっている、共に戦いたいと思わせてくれる、信次元の女神の皆……それが、答えじゃないのかしら」
セイツ、プルルート、ピーシェの三人…それにウィード君と大きいネプテューヌまでもがこの場に降り立ち、私達と同じ場所に立つ。私達と、思いを重ねてくれる。
…いや、違う。何も今、ここに来てくれたセイツ達だけじゃない。今もそれぞれの次元でパーティーメンバーの皆が協力をしてくれていて、他にももっと…普段からずっと多くの人が、私達に力を貸してくれている。それはどれだけ語るよりも、どれだけ思想を誇るよりも、ずっとずっと確かな事実で、真実で……これは私が、私達がしてきた事、歩んできた道の結果なんだ。…だからこそ、私は言える。私達なら、守れると。
「くろめ…」
「うずめ…!」
口を閉ざしたくろめに向けられる、二つの声。くろめ、という渾名を考え、ずっとくろめを何とかしてあげたいと思っていた大きいネプテューヌと、くろめをくろめではなく、うずめと…本来の名前で呼ぶ、ウィード君の声。二人共きっと、くろめが女神だとか関係なく、ただくろめと繋がりを持った…その繋がりを心から大切に思う一人の人としてくろめを呼んでいて、その思いもまた女神にとっては大事なもので……私は、思った。この気持ちが、届いてほしいと。…でも……
「…なら…どうして裏切った…だったら、どうしてオレの下から離れていくんだ…散々否定して、オレを理解しようとしないで……オレを一人にしておきながら、何が答えだって言うんだッ!」
「……っ!【オレ】、それは……」
「あぁ分かっているさ、それが答えだ!それが今の…昔からずっと変わらない、信次元の答えだ!だがオレは認めない、そんな世界を認めはしない!そんなにもオレを否定するというなら…オレも世界を否定する!否定し、作り変える!もう誰にも、邪魔なんてさせるものかッ!」
「これは…大きいねぷちゃん、ウィードくん、下がっててくれるかしら?そういう約束よね?」
再び上がる、くろめの怒号。けれど今のくろめには、その声には、深い悲しみ、悲愴の思いが混ざっていて……されどもう、止まらない。
大地を踏み締めるくろめの周囲へと、風が吹き込むようにして集まるのは暗い橙色の光。プルルートから下がって、と言われた二人は悔しそうな顔をしながらも、言われた通りに下がってくれて…同時にネプテューヌ達守護女神の四人も、監視中だった軍に後退の指示を出す。
「ネプギアちゃん、これって……」
「うずめさんといっしょに戦った、あの時と同じ…」
より強く、より濃くなっていく光の中で、浮かび上がるくろめ。収束していく光は鎧へ、巨躯へと変わっていき、くろめは光に包まれる。そして……
「見るがいい、オレを、オレの正しさを否定した、全ての存在よ!──我が全てを以って、再世せよッ!
天に響くような声と共に、暗い輝きを持つ橙色の巨体が、闇の道を行くダークメガミが顕現する。これまで現れてきたどのダークメガミよりも強い…あのプロトダークと同等、いやそれ以上の威圧感を、プレッシャーを放つダークメガミが。
「……っ…くろめ、さん…」
「ふぇ、すごいピリピリする…。…でも、あれをたおせばいいんだよね?」
「へ?あ、は、はい。あれを倒せば、暗黒星くろめは……」
臨戦態勢のピーシェの問いに対し、ユニもまたX.M.B.を構えながら返答。
向こうが完全に対話を拒絶した以上、残された道は戦い、倒す事のみ。信次元を、三つの次元を守る為、私達はダークメガミを見据え…けれどそこで、ネプテューヌが言う。
「…待って。あのダークメガミ…くろめが纏ったダークメガミを倒した時…くろめは、どうなるの?」
「どうって、そりゃ……」
ぼそりと呟くように言ったネプテューヌに、ブランが返し…かけて、言葉に詰まる。私も頭の中で、無意識的にMGの様に…恐らく胸部にくろめがいて、倒して装甲を剥がせば引き摺り出せると思っていたけど、よく考えてみればそんな確証はない。
「…これまでのダークメガミは、どれも倒されると消滅していましたわね…直接は戦っていませんけれど、マジェコンヌが融合したダークメガミも、撃破の後は……」
「けど、マジェコンヌが融合したのは、元々あったダークメガミよね?他のダークメガミやプロトダークの事だって、まだ分からない事が多い。だったら……」
ベールとノワール、二人の見解は違う。けど、ベールははっきりと一つの可能性を示しているのに対し、ノワールが口にしたのは「分からない」という事だけ。
そして、四人は黙り込む。ベールの口にした可能性をはっきりと理解した私達もまた…今の時点でもう、道が一つしか残っていないのかと思うとやり切れない思いが湧き出して……そんな時だった。インカムから、予想外の声が聞こえてきたのは。
「皆、確認だ。くろめは、ダークメガミと一体化したのかい?」
「……!?え、う、海男…?どうして、今……」
「今はそれよりも重要な事がある。…結論から言おう。ダークメガミは乗り込むものではなく、一体化するものだ。一体化してしまえば、もう後には戻れない」
『……っ!』
驚くうずめを制止して、海男は静かな声で言い始める。それはベールが口にしたのと合致する内容で…けれど海男の話は続く。
「だが、一体化はすぐに成される事ではない。当然の話として、ね」
「…って、事は…すぐにあのダークメガミを倒せば……!」
「…オレは、皆を信じている。皆なら、どんな困難も覆せると」
「海男…って、ちょっと待って!海男はどうしてそれを……」
はっとした顔で返すネプギアには、柔らかな声音で信じてると言い…そうして海男は、通信を切った。ネプテューヌの言いかけた言葉に対する答えはないままで……でも確かに、私達の空気を変えるものをここに残して。
「…海男さん…何か、知ってるのかな。いや…知らなきゃ、今の言葉は……」
「そうね。海男が知ってる…っぽい事の理由は、全く分からないわ。でも……」
「…言ったのは、海男だもん。どうして知ってるのかは分からなくても、海男の言葉なら…信じられるよっ!」
知っているから、言ったんだ。そう思う私や、思案の表情を見せるネプテューヌに向けて…皆に向けて、うずめが言う。理由は分からなくても、信じられると。だって、海男なんだからと。
それは、ある意味危うい思考。何故、の部分を完全に廃した考えなんだから。…でも、信じられるのは、それだけの信頼を、海男さんが得ているから。海男さんは、信じられる相手だから。…そう思うのは、そう感じるのは、私も皆も同じ事で……だから、決まる。私達の、する事が。
「短期決戦が、必要な事なら……!」
「ははははははッ!あぁ、漸く力が満ちた!だから…これでぇッ!」
ネプギアが声を上げた直後、ダークメガミとなったくろめの声もまた響く。響いた直後、二つの刃が…両腕とは違う、第三第四の腕に構えた武器が振り下ろされる。
それは、二振りの巨大な攻撃。二振りの武器が、唸りを上げて振り下ろされ……されどそれを、セイツ達三人が阻む。
「そうは……」
「あたし達が……」
「させないわッ!」
弾かれるように飛び上がったプルルートとピーシェが、それぞれの得物で二振りを受け止める。一瞬くろめからの攻撃が止まり…そこへ飛翔したセイツが、分割状態の連結剣を叩き付ける。加速したまま叩き付けられた刃は、シェアエナジーの解放によって更に加速し……弾き返す。
「甘いなぁッ!」
三人の連携で返した攻撃。けどその時にはもう、次の攻撃が…両腕部の拳が迫っていた。
二対四本の腕を持つ、このダークメガミだからこそ出来る芸当。…けど、もう……遅い。
「──甘いのは……貴様だッ!」
左手に、長大な剣を生成。右手の長剣も、圧縮シェアエナジーを纏わせる事で伸長し…左右からくる拳に対し、その両方を打ち付ける。打ち付け…何十もの圧縮シェアエナジーの解放、その爆発の力を以って、押し返し弾く。
「……っ…たった一度、押し返した程度で…ッ!」
二段攻撃、その両方を凌がれ後ろに跳ぶくろめ。そのくろめを見やりながら、私は左手の剣と、長剣に纏わせたシェアエナジーを霧散させる。
ネクストフォーム。ビヨンドフォーム。短期決戦を果たす為、皆はそれぞれの新たな姿となっていた。そしてそれは、私も同じ事。リバースフォーム…私の中にあった、オリゼが解き放ってくれた、私の新たな力を纏い……
(…う、ん…?…少し、違う……?)
私は、気付く。初めてリバースフォームとなった時は、溢れ出すシェアエナジーが、帯の様になって漂っていた。けど、今はそれがない。帯の代わりに、二つの円環がクロスを描くように広がっていて……いや。今必要なのは、それを考える事じゃない。今すべき事は…目の前に、ある。
「私達の向かう先、女神が貫く信念は変わらない。全てを守り、全てを救うまで。…これが、貴様の答えならば──その再世を、塗り替える…ッ!」
得物を構え、相手を見据える。決戦の、火蓋を切る。それは偏に、未来を掴む為に。皆が、それぞれが守りたいものを……守る為に。
今回のパロディ解説
・「〜〜我が全てを以って〜〜オレンジッ!」
ヴァンガードシリーズのアニメにおける、ゼロスドラゴンへの究極超越時の口上のパロディ。このネタ、覚えていますでしょうか?大分前にもやったネタですよ。
・「〜〜その再世を、塗り替える…ッ!」
機動戦士ガンダム00のセカンドシーズンにおける、キャッチフレーズのパロディ。ずっと前から考えていたネタなのですが…驚く事に、タイムリーなネタになりました。