超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
決戦は、終わった。暗黒星くろめ…全ての元凶である、黒幕の一人であるくろめとの決戦は、私達の勝利で決着した。ただそれは、これまでの…マジェコンヌさんや犯罪神との最終決戦の様な、ギリギリの勝利じゃなくて、私達の完全勝利。くろめがプロトダークと一体化する前に決着を付ける…それを狙うだけの余裕がある程の、優位性を持ったままの勝利であり…対してくろめは、レイに裏切られ、切り捨てられるような形で決戦に臨む事となった。その挙句、完膚無きまでに倒されたとなれば、心が折れてしまったとしても無理はないし…全てを諦めてしまったようにぶつふつと呟くその姿には、同情の様なものすら私は感じた。
そんなくろめに対し、うずめは近付き、胸ぐらを掴んで引っ張り上げ…そして、殴り付けた。怒りだけじゃない、もっと色んな感情の籠った怒号と共に…右の拳を、振り抜いた。
「……ッ、ぐ…ッ!」
殴打特有の鈍い音が響き、くろめの身体が宙に浮く。吹っ飛び、地面に落ち、小さく砂埃が舞う。
その殴打に、殴り飛ばしたうずめに、私は…私達は、唖然としていた。うずめがくろめに対し、並々ならぬ思いがある事は理解してる。もう一人の自分…それも別次元の同一人物ではなく、片割れとでも言うべき相手が、自分にない記憶を持っていて、しかも三つの次元を窮地に陥らせていたなんて背景があれば、抑え切れない思いがあっても無理はない。
だとしても、このタイミングで殴り飛ばした事は、意外以外の何物でもなく…私達が茫然とする中、殴り飛ばした体勢のままだったうずめは、その拳をゆっくりと下ろす。
「…お、前…何を……」
「何を…?…はっ、ほんっとにテメェは、人の事なんか…自分以外の事なんざ、微塵も見えてねぇんだな。あいつの肩を持つ気なんかねぇが…そりゃああいつも、テメェを独善主義だって言う訳だ」
「……っ…何、だと…?」
上体を起こし、殴られた頬を押さえながらもうずめを見やるくろめに対し、うずめは吐き捨てるように言う。怒りを孕んだ声で、くろめへと悪態を吐く。
偽者のマジェコンヌ…というか、敵に対して煽ったり悪態を吐いたりする姿は、前にも見た事がある。でも今の悪態は、そのどれよりも強い感情が…ふざけるなって思いが籠っていて……だからかなのかは分からない。分からないけど、くろめはぴくりと肩を揺らした。
「分からねぇか?分からねぇなら言ってやる。やれ皆の為だの守るだの、自分以外の事を思ってるみたいな事を言ってたが…結局テメェは、自分の事しか考えてない、テメェの言う『皆』の事なんざ微塵も考えちゃいねぇって事だよ」
「…オレが、自分の事しか考えてない…?…勝手な事を、言うな…オレのどこが、自分の事しか考えていないって……」
「だから、裏切られたんだろ?だから、離れてったんだろ?レイも、これまでのやつも、全部」
拳を振り抜いた瞬間の、その時のうずめの声は、燃え盛る炎のようだった。けれど今は対照的に、氷のよう。凍てつく氷の刃を向けているかのような声で…でもどちらにも、深い怒りが籠っている。その点は、全くもって変わらない。
淡々と言葉を叩き付けられたくろめは立ち上がる。その顔は、気付けばさっきまでの抜け殻のような状態から変わっていて…静かな怒りが、少しずつ沸き立つ怒りが浮かび始めているように、私には見える。
「…お前に、何が分かる…何も覚えていない、何も知らない【俺】が、一体何が分かる……」
「あぁそうだな、分からねぇよ。俺はテメェみたいに考える事が…【オレ】の思考が、ちっとも分からねぇ。勝手な事言って、一方的に正しいと言い張って、挙句上手くいかなきゃ周りのせいにするやつの気持ちなんか、分かりたくもないね」
「…黙れ……」
「俺はこれまで、記憶を取り戻したくて仕方なかった。自分の過去を、自分が築いてきたものを、ずっとずっと知りたかった。けど…こんなんじゃ、記憶はむしろなくて正解かもな。お前みたいなやつの記憶なんか、過去なんか、どうせお前と同じで禄でもない──」
「黙れッ!!」
「ぐぅ……ッ!」
ゆらゆらと、一歩一歩うずめへと近付いていくくろめ。そのくろめを前に、更にうずめは突き刺すような、いっそ怒りの感情をそのままナイフにしたような言葉を浴びせ……次の、瞬間だった。さっきのうずめの再現のように、爆ぜるような怒りを露わにしたくろめが、一気に距離を詰めてうずめを殴り返したのは。
「……っ!うず──」
反射的に、私は割って入ろうとした。もう決戦としての勝敗は決してるとはいえ、味方が敵に殴られた訳だから。でも殴られ、一瞬こちらを向いたうずめの目は言っていた。…手を出すな、と。
軽く飛び、半回転して倒れたうずめを、くろめは仰向けにさせる。そこからまたうずめと同じように、胸ぐらを掴んで引っ張り上げる。
「禄でもない…?なくて正解…?空虚なだけのお前が、何も知らない、何も思い出せないでっち上げが、オレの過去を……」
「空虚…?…誰が空虚だってんだよッ!」
「あぐ…ッ!?」
うずめを睨め付け、怒りに憎しみも孕ませたくろめの言葉。くろめはうずめを更に引き付け、締め上げて…けどその最中に発した言葉が、うずめの心にも再度火を点ける。
おもむろにくろめの両肩を掴んだうずめは、突っ込むようにヘッドバット。初めの殴打よりも鈍い、骨と骨が直接ぶつかるような音が響き、諸に受けたくろめはふらつく。うずめを離し…うずめもまた、その反動で後退る。
片目を覆うようにして、くろめは右手で額を押さえる。その表情は痛みで歪み…でも、その目に宿る敵意は、これっぽっちも消えていない。
「テメェは知らねぇみたいだけどな、どうせ俺の日々なんて気にもしてやかったんだろうけどな、向こうでの日々は…いいや、俺が目覚めたあの日から今に至るまでずっと、俺にとっちゃ毎日が刺激的だったんだよ。上手くいかねぇ事も、辛い事も沢山あったが…それもひっくるめて、空虚とは真逆だってんだよッ!」
「はっ、オレが言っているのはお前の…【俺】自身の事さ。記憶がなく、ただ置かれた状況と、女神としての使命感だけを理由に、そうしなきゃいけない、そうするしかない…そう思って毎日を過ごしてきた、違うかよ【俺】…!」
「あぁ、そうさ…初めはそうだった。そうするしかなかった。けどな、今なら分かる。もし俺が、そういう後ろ向きな思いしか持ってなかったら…きっと、今みたいに皆との繋がりを作る事なんか出来なかったってなッ!テメェにはない、俺だけの繋がりがよッ!」
真っ向からくろめの言葉を跳ね除け、言い返し、ずんずんとうずめは進む。今一度くろめの胸ぐらを掴み、殴り付け…されどくろめは、踏み留まる。大きく仰け反りながらも耐えて、地面を踏み締めて、うずめの腹部を殴り返す。
「が、ふ…っ!」
「それがお前だけのものだと思うなよ…ッ!オレにはお前にはない、オレが守護女神だった頃の繋がりがある…ッ!人間のねぷっちも、女神のねぷっちも、先に知り合ったのはオレの方だ…ッ!オレが何もしなきゃ、どっちのねぷっちとも出会えなかったお前が、偉そうな口を利くなッ!」
「そっちこそ何偉そうな事抜かしてんだよッ!知り合ったのは自分が先?…友情ってのは、順番なんざ関係ねぇだろうがッ!」
「いいやあるね…ッ!先な分、オレは人間のねぷっちと多くの時間を過ごしてる!一緒に色んな事もやってきた!だから、オレの方が…上、なんだよッ!」
動きの止まったうずめへ、もう一発。後ろへ大きくよろけたうずめをくろめは追って…だけど、寸前で三発目は避ける。避けて、横蹴りをくろめの脇腹にぶつける。
言い合いながら、二人は殴り合う。それも知略を尽くした攻防戦ではなく、感情剥き出しの喧嘩の様に。
「……ッ、そういうところなんじゃねぇのかよッ!これが正しい、自分が正しい…そう言って決め付けて、押し付けるからテメェは理解されねぇんだよッ!」
「ぁぐッ…イメージで語るなよ、でっち上げ風情が…ッ!オレは、何度も話したッ!強要はしなかったし、いつだって話し合うスタンスだったッ!何より、オレを支持する人の数が、オレが間違っていない事の証明だッ!」
「ならその時、テメェは訊いたのかよッ!自分の考えをどう思うかじゃねぇ、自分の考えに賛同するかどうかでもねぇ…相手の思いを、願いを、ちゃんと聞いて考えたのかよ、【オレ】ッ!」
フックの要領で振り出されたくろめの左手が、くろめの右肩を打つ。くろめはよろけながらも、左側へ押された力を利用して左脚を振り抜き、うずめの腰を蹴り付ける。軸となる腰を打たれたうずめはふらつき、けれど両脚で踏ん張り無理矢理のアッパーカットを放って…それは、躱された。一歩下がる事でくろめは避け、がら空きの胴を狙おうとし……その瞬間に、アッパーによって上がった腕を、そこからの肘鉄を、うずめはくろめに向かって叩き込んだ。打撃に言葉を…或いは言葉に打撃を乗せるように。
攻撃態勢に入っていたくろめは避けられず、脳天を打つ攻撃に身体が曲がり…そこへ更に、くろめは膝蹴りで追撃をかける。胸元に入った膝蹴りで、一瞬くろめの身体が浮き……
「……だったら…お前は、【俺】は、納得出来るのかよ…仲間や友達が傷付くのが…それが使命だからって、当たり前のように戦わなきゃいけないのが……それを変えられる、覆せる力が自分にはあるのに…【俺】だったら、何もしないってのかよッ!!」
「なッ……!?」
……だけど、倒れない。胸に膝を入れられても尚、くろめは両の脚で地を踏み締め、屈んだ状態の身体をバネの様に伸ばして突っ込む。近距離からのタックルをかけ、今度こそ本当に無防備だったくろめを自分諸共押し倒す。
ここまでも、二人は感情のままにぶつかっていた。でも、この瞬間…くろめが身体ごと突っ込んだ瞬間に放った声は、違っていた。怒りよりも、もっと深い……本質の、願いとでも言うべき叫びのように、私には聞こえた。
──あぁ、そうだ。確かにそれは、きっとそれは、本心なんだろう。何かと理由を付けて、これまでくろめは何度も戦闘をせずに事を進めようとしていたんだから。それが次第に薄れていったのも、少しずつ自分の思い通りにいかなくなり始めて、焦ったからとも考えられる。…だから、それを疑うつもりはない。疑いはしないけど…正しくはない。くろめの言う事が、正しいなんて思わない。私も……うずめも。
「知った事か、知った事か、知った事かッ!オレは、皆が傷付かないで済むなら、オレが全部守れるなら、なんだってするッ!オレには出来るんだ、出来るからやるんだッ!それの何が悪い、それのどこが間違ってるってんだよ…ッ!」
「…ああ、そうだな…何もしない訳、あるかよ…俺だって、皆に傷付いてほしくないし、守りたいに決まってる……」
「それならッ!」
「…だけど、なんでだよ…そんなに、皆の事を思ってるのに…そんだけの思いがあるのに……どうして皆を、信じてねぇんだよ…ッ!どうして、傷付く事や守れない事の方を信じるんだよッ!」
「……っ!?」
倒れたうずめへ馬乗りになり、くろめは連続して上から殴る。一発毎に、うずめへ言葉をぶつけながら。
それにうずめは、腕で顔を覆って耐える。拳も、言葉も受けて、殴られながらもくろめの思いを理解して、同じだと言って……だけど、幾度目かの振り下ろしの瞬間、うずめは腕を交差させ、振り抜き、その拳を跳ね返す。直後に開いた両腕でくろめを突き飛ばし、ハンドスプリングで一気に立ち上が……いや、違う。地面に手を突いた状態から、うずめはくろめへ向けて、斜めに跳び上がり…くろめの頭を、自分の太腿で挟み込む。そこから身体を振って、自身を飛び越えさせるような形でくろめを地面へ叩き付ける。
「あ、あれは……!」
「【オレ】…【オレ】だって、女神だろ?なら、前向けよ…だから…じゃなきゃ、分かってもらえる訳がねぇんだよッ!」
放った技にネプテューヌが目を見開く。着地したうずめは、ゆっくりと立ち上がり…振り返りざまに、捻りを加えて拳を突き出す。気配で感じ取っていたかのように、遅れてふらふらとくろめが立ち上がった、その瞬間へとタイミングを合わせて。
防御出来ず、諸に殴られるくろめ。衝撃でよろめき下がるくろめをうずめは追い、うずめもまた思いを…怒りよりも強い、信念と言うべき思いを乗せて、拳を振るう。
「お前の目には、誰の事も見えてねぇッ!お前には、誰の思いも届かねぇッ!皆を信じてないやつが…ッ!信じてもらえてない皆の言葉が…ッ!伝わる訳、届く訳…ねぇだろうがぁぁぁぁッ!」
「が、ふっ……!」
叫びと共に打ち込まれるのは、突進の勢いも乗せたボディーブロー。打ち込み、そのまま身体がくの字になったくろめを突き飛ばして、尚もうずめは猛攻を続ける。
「俺には記憶がねぇッ!記憶がないから、信じられる『自分』ってもんもなかった!だがな、だから分かるんだよッ!手を貸してくれる、力になってくれる…そういう存在は、どんな自分の力よりも強くて頼もしいって事を!」
「勝手を、言うな…ッ!オレだって、皆の事を……」
「信じちゃいねぇよッ!テメェのそれは、理想を、都合の良い幻想を向けてるだけだッ!信じるってのは、自分がどうこうするんじゃなくて…相手の思いを、受け入れるって事なんだよッ!お前も俺だってんなら、仲間や友達を大事に思ってんなら…その位、分かりやがれッ!」
一切下がる事のない、怒涛の連撃。言葉も力勢いも、全てがくろめを押していて、くろめは捌くので精一杯。それでも凌ぎ切れず、逸らし切れなかった拳が何度も肩や腕にぶつかる。
ふざけるな。初めにうずめは、その言葉と共にくろめを殴り飛ばした。今もきっと、同じ思いで猛攻を続けていて…けど今は、その思いの根源が違う気がする。初めは世捨て人の様になった、散々災厄を振り撒いた挙句何もかも放り出したくろめの精神に対する怒りを爆発させていて…でも今は、くろめの価値観、繋がりに対するくろめの見方、そういうものに対する否定…繋がりは、そんなものじゃないんだって気持ちをぶつけている…そんな風に、私には見えた。
思いという熱の籠った、真っ直ぐな拳がくろめの顔面を捉える。その一撃でうずめの連撃は止まり、くろめも止まる。うずめが腕を下ろすと、支えを失ったかのようにくろめはぐらつく。そして前へと倒れ込んだ瞬間、これで終わったと私達皆が思い……
「……裏切られても、言えるのかよ…仲間に、友達に、大切な相手に…皆に裏切られてもまだ、お前は…【俺】は…同じ事が言えるのかよ…ッ!」
『……っっ!』
だけどまだ、くろめも折れていなかった。確かにその瞬間、くろめは倒れ込んではいて…でも完全に倒れる前に右脚を踏み出し、滑り込むようにしてうずめの右側から背後を取り、うずめに飛び付く。再起したようなくろめの動きに驚いたうずめは反応が遅れ…後ろから太腿で両側頭部を掴まれると、ひっくり返されるようにして頭から地面へ打ち付けられる。
リバース・フランケンシュタイナー。先のうずめが放ったフランケンシュタイナーの意趣返しのように行われた反撃に、私達は息を呑み…続けて目にする。強い意思の光を持つ一方で、今にも押し潰されてしまいそうな感情を灯す、くろめの瞳を。
「分かるものか…あぁ、お前なんかに分かってくれだなんて思っちゃいない…ッ!だがな【俺】…だったら、そんなにオレが悪いのか?全部オレが悪くて、オレが間違ってて、だから裏切られたのも、オレの自業自得だって言いたいのかよッ!」
「そ、れは……ッ!」
「だったら、何故オレに賛同してくれる人がいたんだ、どうして多くの人がオレに賛同したって言うんだ…ッ!オレの力に、感謝してくれる人がいた!支持してくれる人がいた!期待してくれる人がいた!だからオレも、オレの力を信じていたんだッ!オレだけじゃない…オレの力を信じてくれた人全部が、間違ってたって…そう言うのか、【俺】はッ!」
叩き付けたのはくろめとはいえ、直前の猛攻は響いているようで、立ち上がる速度は大差ない。されど今度は自分の番だとばかりに、くろめがうずめを激しく攻める。
くろめの言葉は、うずめへの否定じゃない。反論であり、うずめの否定に対する否定。それはつまり、自分に対する肯定で…なのに、痛ましい。裏切られた…それを軸にした肯定だからこそ、あまりに酷く、痛々しい。
「お前が何と言おうと、誰がどう思おうと、オレに賛同してくれた人がいて…そんなオレが、そんなオレを、仲間だと…友達だと思ってた皆が裏切った事実は変わらない、変わらないんだ…ッ!」
「本当に、そう思うのかよ…何がどうなったかは、知らねぇけどよ…それは、本当に……」
「裏切り以外のなんだって言うんだッ!皆、皆…オレは皆と…うずめは皆に、笑顔でいてほしかっただけなのに…ッ!なのに、皆…ウィードだって……ッ!」
互いに何度も殴られ、蹴られ、数多くのダメージを負っているからか、初めに比べて動き一つ一つのキレがない。技術がもう追い付かない、力任せの打撃の応酬が繰り広げられ…でも、どっちも引かない。拳を突き出し、蹴りを繰り出すくろめも、打ち落とし、払い除けるようにして攻撃を凌ぎ、反撃のチャンスを伺ううずめも、次の動きの為に避けたり下がったりする事はあっても、逃げる為の後退なんか一瞬たりとも行いはしない。
気付けばもう、完全にくろめの態度は…自分こそが正しいのだと振る舞っていたくろめの面影はどこにもなくて、それも痛ましさを加速させている。そして遂に、凡ゆる建前、表層の思いとでも言うべきものが剥がれ落ちた、心の奥底から出た思いそのもののように聞こえる声が、振りかぶられた拳と共に言葉となり……
「そんな訳…ねぇだろうがッ!!」
「……──ッッ!?」
うずめの拳と、くろめの拳。一瞬遅れ、けれどくろめよりもほんの僅かに素早くうずめの拳も振り出され…二人の拳が、激突する。
肉弾戦の距離で拳同士がぶつかるとなれば、どちらも勢いには乗り切っていない状態での激突となる。恐らく威力は、ほぼ互角で…されど、うずめが打ち勝つ。うずめの思いが、くろめの拳を押し返す。
「……っ…分かったよ…【オレ】が、本当に…本当に悲しくて、絶望したってのは分かった…けどな…だからって、思い込みまでして…悲劇のヒロインぶってんじゃねぇよッ!」
「……ッ…悲劇の、ヒロイン…?どこが、思い込みだって…それこそ、【俺】に…何が、分かるんだよッ!」
跳ね返される形になったくろめは二歩、押し返したうずめも一歩反動で下がる。けどやはり立ち上がりはうずめの方が早く、左手…ぶつけ合った右手とは逆の拳でくろめを打つ。
交差させた両腕でそれを受けつつも、更によろけたくろめ。ただ、今はもうこれまでのような追撃がなく、一発一発必死に打ち出している状態で、くろめは踏み留まりからの前蹴りで反撃に移る。
普通は得てして手での殴打より、蹴りの方が強いもので、二人の状態や身体能力もほぼ同等なんだから、そこから考えればうずめの方がダメージはでかくなる筈。…だけど、同じ方法で防御したうずめは、一歩も下がらず踏み留まる。大きく身体をぐらつかせながらも、その場で耐え切り……叫ぶ。考えるまでもない…心からの、叫びを。
「分かるに、決まってんだろうがッ!俺は、見てきたんだよ…ずっとずっと、側でウィードを見てきたんだよッ!一緒に次元を回って、一緒に飯食って、協力して、笑い合って……だから、分かるんだよ…ッ!今もウィードは、お前を…『うずめ』の事を、想ってるんだってッ!」
「……──ッ!!…何を、言って……」
「【オレ】だって、分かってるんだろ!?あいつは、ウィードは、本物だッ!少なくとも、ウィードの思いは…心は、本物なんだよッ!信じられないってなら、訊いてみやがれッ!ちゃんと、面と向かって、相手の思いを聞いてみやがれッ!出来ないだなんて言わせねぇぞ…ッ!お前には、【オレ】には、ちゃんとあるだろうが…ッ!記憶が、過去が…ウィードと紡いだ時間も、思いもッ!」
それは、心の叫び。相手がどうこうじゃない、勝ち負けなんて存在しない…抱いた、築かれた思いそのもの。その言葉に、思いに当てられたように、くろめは足を止め…うずめもまた、振るっていた腕を止めて思いを叫ぶ。喜びも、悲しみも、願いも、希望も…自分、くろめ、それにウィード君。きっと三人に対する、全部の思いを込めて。
ぶつけられた、届けられたその言葉で、完全にくろめは動きを止めた。…あぁ、でも、…だけど……
「…だったら…オレの、してきた事は…やってきた事は、やってしまった事は…どうなるんだよ…なら、オレの…オレが犠牲にした、人達の事は…ミオの事は……ッ!」
「……っ、それは…それをッ!自分が生み出した犠牲を、言い訳にするんじゃねぇぇッ!」
一度は止まったくろめの足が、再び動き出す。震える声で、今にも泣き出してしまいそうな瞳で。
もうそれは、もうそこに、信念や貫かんとする意思はない。あるのはただ、自分は止まれない、止まってはいけない…自らを縛る、自らを決め付けるような思いで……うずめはもう一度だけ、怒りを燃やした。何もかもに向き合おうとしない、くろめへと。
二人は地を蹴る。うずめは右の拳を、くろめは左の拳を振り上げ、突き出し、そして──。
「オレは…俺は…うずめは……ッッ!」
「こ、のッ…馬鹿野郎がぁぁぁぁああああああッ!!」
紙一重で触れる事なく、交錯する二人の腕。二人の拳。そのまま伸び、振り抜かれた拳は互いの頬へ深く食い込み……止まった。うずめも、くろめも。
訪れたのは、完全な静寂。まるで時が止まったかのように、うずめもくろめも動かす、されど時間が進み……完全に、掻き集めた力の全てを使い果たした。…そんな風に、くろめが、倒れた。──二人の戦いが、自分との戦いが…終わる。
「…………」
「…もう、俺が【オレ】に言う事はねぇよ。だから……」
倒れたまま、くろめは何も言わない。そのくろめを、うずめは見下ろし、呟き、背を向ける。
「──後は任せたぜ、ウィード」
そうして歩いていった先…そこにいたのは、ウィード君だった。ウィード君は、うずめとすれ違い……頷く。…彼の、願いを、望みを…やるべき事を、果たす為に。
今回のパロディ解説
・「お前の目には〜〜届かねぇッ!〜〜」
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズに登場するキャラの一人、ガエリオ・ボードウィンの名台詞の一つのパロディ。ずっと前から考えてたパロディを漸く書けました。
・「〜〜あぁ、お前なんかに〜〜オレが悪いのか?〜〜」
ギザギザハートの子守歌の、歌詞の一部のパロディ。出来るだけ歌詞に近付けてはみましたが…難しいですね。伝わり辛い感じになっちゃったような気がします。
・「こ、のッ…馬鹿野郎がぁぁぁぁああああああッ!!」
機動戦士ガンダムSEED destinyに登場するキャラの一人、アスラン・ザラの名台詞の一つのパロディ。鉄血パロもですが、最終決戦っぽいネタを入れられて良かったです。