超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
頂上決戦。今の信次元、今の時代においてこの表現をし得る戦いがあるとすれば、間違いなくこれだろう。そう思わせる程の戦いが、繰り広げられていた。原初の女神たるオリゼは、現代の女神達に対し可能性を、尽きる事なく広がり昇り続ける可能性を感じていたが、それでも今の最高峰であり、比肩する戦いなど一切ないだろうと断言出来る程の戦いが、そこにあった。
「ふん…ッ!」
「おおっとぉ、また外れでーっす!」
急上昇したかと思えば、直後に高速の降下をかけてバスタードソードを振るうオリゼ。それをレイは素早く下がる事で避けたかと思えば、即座に再接近をかけてカウンターをかける。反撃をオリゼは左側に回り込む事で避けつつ蹴りを放ち、レイは杖で受けて押し返し、互いに次なる攻撃へ移行。二つの次元における、原初と最古の女神同士の激突は一進一退であり…何者かが介入する余地など、一切ない。
「ほらほら仕掛けてこなくていいのかしらぁ?あ、それともガス欠狙い?もしそうなら、自分が先にガス欠にならないようもーっと地味に動いた方が良いんじゃなーい?」
「減らず口が本当に減らないな、貴様は…!」
「あ?減らず口が減ったらそれはもう減らず口じゃないでしょ。何言っちゃってるんですー?」
数度の激突の後、大きく上方へ飛んだレイが横薙ぎが如く杖を振り抜く。その軌道が色を持つように、弧を描く形でシェアエナジーが集まり、そこから降り注ぐのは無数の光弾。文字通りの弾雨を前に、ほんの一瞬オリゼは止まり……されど光弾がオリゼを撃ち抜く直前、オリゼが振り出したバスタードソードが光弾を斬り裂く。雨さながらの攻撃を、二本のバスタードソードで、一発たりとも抜かせる事なく全て刃で両断していく。
しかしレイとて、それは織り込み済み。軌跡の形を持ったシェアエナジーからの弾雨でオリゼの足を止めている間に杖へ更なるシェアエナジーを集め、闇色の電撃をオリゼへ放つ。電撃は研ぎ澄まされた槍が如く、光弾を捌くオリゼへと迫る。
「……ッ!」
電撃が飛来した時、後僅かながら光弾の攻撃は残っていた。弾雨を切り抜ける前に、電撃は迫っており…だがオリゼは、その場を離れない。電撃が届く直前、バスタードソードの柄を手の中で90度回し、刀身の腹を正面に向け…光弾を打ち返す。打ち返した光弾で残りの、最後の光弾を相殺し、振るった状態で再び本来の持ち方に戻し…迫り来る電撃に対し、翼を広げての斜め十字斬りを叩き込んだ。
二本の剣と闇色の電撃が正面から激突し、激しいスパークが周囲に散る。如何に原初の女神といえど、この一撃は即座に斬り伏せる事が出来ず……それでも無言の気合いと共に、オリゼは二本の剣を振り抜いた。振り抜き、斬り裂き、四条に捌かれた電撃はオリゼの身体を捉える事なく地上を、戦いの中で少しずつ移動し遂に至った生活圏の外れを打つ。
そうして上がるのは、もう何度目かも分からない地上からの爆風。凌ぎこそしたものの、オリゼが手にしたバスタードソードはどちらも刀身の半分以上がなくなっており…そのオリゼを見下ろしながら、レイは笑う。
「あはぁ…あー、全く…こうやって戦ってると、つくづく思うわ。ほんっと人間って馬鹿ばっかりだって」
「…何だと?」
「だってぇ、私何度もやりたい事を邪魔されてる訳だけど、それ全部結局は女神しか邪魔になってないんだもの。せいぜい数が多いから掃除に時間がかかる位で、有象無象ですらないクソ雑魚共が人間な訳。なのに私に逆らって苛つかせたんだから、それはもう馬鹿以外の何物でもないじゃない」
発されたのは、純粋な見下しの言葉。怒りも、憎しみも、嫌悪すらない…心から見下し、下等な存在だと嘲る意思に塗れた言葉。
当然レイは、賛同を得られるなどとは思っていない。オリゼからの共感、同感など端から考えておらず…ただ彼女を煽る為、愚弄する為だけに、わざわざ攻撃の手を止めてまで言っていた。そして彼女の愚弄は、それだけに留まらない。
「それにぃ…あんたも結局、これが現実でしょ?守るとか、助けるとか、ご大層な事を言ったって…高々女神が、何でも出来る訳じゃないのよ」
「…何の話をしている」
「あんただって、気付いてんでしょ?私が上手ーくここに誘導して、あんたの大好きな人間の近くで戦わせてあげた事に」
その言葉と共に、レイは左手の親指を下に向けて地上を指差す。煽る雰囲気はそのままながら、ほんの僅かに静けさ、どこか落ち着いた様子も見せて。
「どんなに頑張ったって、何もかも守るなんて出来っこないってコ・ト。あぁ、可哀想に人々は、あんたが私の攻撃を止め切れなかったせいで命を落としてしまったのです!完全に消し去るだけの力があれば、或いは打ち返せるだけの能力があれば犠牲は生まれなかったというのに、愚かにも四つに裂いてしまった結果、むしろ被害は広がってしまったのかもしれませぇーん!」
「…………」
「まぁ、運良く誰も巻き込まれてない可能性もありますけどぉ、運に助けられてる時点で、ねぇ?……分かったでしょ、これが現実な訳。そういう意味じゃ、あの独善女神が必死になるのも分からなくはないけどね。にしてもほんと哀れだわ。あんたがしょぼいせいで、なーんにも出来ずに死んじゃうなんて……」
一度は仄かに落ち着きのある…女神らしい様子も見せたレイ。だがそれは煽る為の前振りだったとばかりに、悪意に満ちた高い声でオリゼを嘲る。オリゼを、人を、女神の思いを。
彼女が嘲笑の声を上げる中、オリゼは下を…地上を見ていた。生活圏の外れ、街の中心と違って住宅や商業施設はほぼなく、代わりに軍事や研究機関、その他生活圏外を意識した建物の多い……先の電撃による被害、その煙がまだ残る眼下の景色を。レイが有象無象以下だと、哀れだと嘲った景色を、オリゼは見つめ……
「…ふ、ふふ…ふふふふっ……」
「……あ?」
──下を見たまま、レイからすれば俯いたまま、オリゼは笑い出した。楽しげではない、されど嘲るようでもない…ある種不気味さを感じさせる声で。
「急にどうしちゃったんですー?あ、もしかしてショック?守れなかったショックで壊れちゃった?」
「…私はこの時代で、今を生きる人々と、今の人々を守る女神達と出会った事で、知った。女神の在り方に、絶対はないと。力も、思いも、必要不可欠ではあるが…その時代の人々の望みや理想によって、在るべき女神の姿も変わってくるのだと。故に、私は学んだ。女神の在り方は、その時代と…今そこにいる人々と照らし合わせなければ、是非を語る事など出来ないと」
レイの言葉が聞こえているのかいないのか、彼女の問いを無視してオリゼは語り出す。自分の見たもの、聞いたもの、触れたもの…それ等から知り、理解した、一つではない女神の在り方を。それからオリゼは顔を上げ、言葉を続ける。
「…だが、やはり貴様は照らし合わせるまでもない。見極める必要もない。端から可能性など微塵も感じていなかったが……この私を愚弄する為に、人に害を成そうとしただと?命を奪おうとしただと?……如何なる理由があろうとも、その行為は万死に値するが…貴様にはそれすら生温い。存在するべきではなかった出来損ない、それ以外の何者でもない」
「…はっ、突然語り出したかと思えば、結局またそれ?ワンパターンにも程があるってーの。っていうか、そんだけ大口叩く癖に守れないんだから余計に無様……」
「──守れない?よもや貴様…私がその狙いに、その愚劣にして低俗な思惑に、気付いていなかったとでも?貴様程度の存在が、この私の前で…人を傷付ける事が出来たとでも?」
「…は……?」
嘲笑を続けるレイの言葉を遮る、煽りではない…されど心底見下した雰囲気を持つオリゼの声。その声を、言葉を聞いた瞬間、レイの動きは止まり…視線を落とす。オリゼから更に下、地上へと視線を移す。
確かに地上には電撃の跡が残っている。…だが、それだけである。よく見れば、先の電撃以外、一切の攻撃が地上に…否、人工物がある場所には落ちておらず……更によく見れば、女神の並外れた視力で見渡そうとも、見当たらない。人が吹き飛び、その命が断たれた事を思わせる、物体や色が。
そして、代わりにレイは目にする。不安そうにこちらを見上げる……怪我一つない、人々の姿を。
「……なっ…まさか、連中を守りながら戦ってたって言う訳…?」
これまでの嘲笑と余裕に満ちた表情が消え、茫然とした顔でレイはオリゼの事を見やる。
レイも、全身全霊全ての力を尽くして攻撃していた訳ではない。だが、見下しながらも本気で戦っていたのは事実であり…オリゼもまたそうなのだと、加えてオリゼは全力で、それでも尚自分の謀を覆すだけの力はないのだと…そう思っていた。
されどその見立てが、認識が、覆った。もしオリゼの言に、嘘偽りがないのなら…彼女は全力を出しても尚謀を覆せないどころか、むしろその逆…自分以外の事も考えながら戦うだけの余裕があったという事になる。
「何を驚いている。女神は人を守るもの。その本懐を、最も基本の行いを、果たしただけだが?」
言葉の通り、何でもない事のように言ってのけるオリゼ。余裕を見せる事もしない、本当にただ必要な事をしたまでとばかりの表情を見せるオリゼに、レイは無意識の内に表情が歪み…そこで、レイは気付く。自身が放ち、オリゼが斬り裂いた事で分裂した電撃、その内の一つが貫き、酷い有り様となっていたビルが、倒壊した事に。しかもその下には、まだ人がいる事に。
当然レイは考える。気取って人を守ったつもりでいるオリゼが、その直後で守れなかったとしたら、さぞ絶望するだろうと。その時の顔は、間違いなく自分が抱いた不快感を解消してくれるだろうと。その結果犠牲になる人の事など、最早…否、初めから微塵も気にしていないレイは、オリゼが倒壊に気付いた瞬間邪魔へ入ろうと思いながら視線を上げ……しかしその時にはもう、そこにオリゼの姿はなかった。気付けばオリゼの姿は上空ではなく…倒壊するビルの下に、逃げ遅れた人の上にいた。
「……ふ…っ!」
静かなる気迫と共に、振るわれる刃。飛来するビルの上部に対し、先程折れた二本とは違う、刀身が伸長された二振りの刃が目にも留まらぬ速度で振るわれ、乱舞し、斬り刻み……ビルの形が、変わっていく。信じられない程の速度で粉々になり、細切れになり、尚も斬り刻まれ……地上へと到達した時、そこにあったのは無数の破片、雹よりも小さな欠片の数々に過ぎなかった。
そして、オリゼは振り向く。あまりにも非効率な…しかしだからこそ、十分過ぎる程にその実力を見せつけたオリゼは振り向き…微笑む。逃げ遅れ、迫るビルに対し動けずにいた人へ向けて、もう大丈夫だと伝えるように。
「……っ…舐めた真似、してくれるじゃ──」
レイには分かっていた。その非効率な対処が、自分へ見せつける為のものなのだと。故にレイは怒りを露わにし……だが次の瞬間、オリゼは一気に、一瞬でレイの懐にまで近付き飛び込む。
振るわれたバスタードソードに対し、レイは杖で反射的に防御。しかしオリゼの勢いは止まらず、それどころか更に増し、レイをその場から吹き飛ばす。振り抜くのではなく、身体全体でレイを押し出す。…それはまるで、外に出た直後の意趣返しをするかの如く。
再び空に描かれるシェアエナジーの軌跡。その末に、レイはオリゼを振り解き着地するも、そこは既に山岳地帯。人の姿など見渡す限りどこにもない…オリゼにとって、戦い易い戦場。
「ちッ……してやったとでも思ってる訳ぇ?言っとくけど、人なんかの為にマジになってるあんたと違って、私はどこだろうが何だろうが好きなように戦うだけ……」
「戦う?…違うな。これから行うのは、ただの…始末だ」
「……調子乗ってんじゃ…ねぇのよぉおおおおぉぉッ!!」
募る苛つきと不快感。絶対強者の自分に盾突き、単独でやり合うだけでもレイにとっては不愉快でしかない存在。それでもこれまでは、その不愉快な存在を叩き潰すという爽快さを目的に戦ってきたが、それにも限界はある。レイにとってこの戦いは、不快な存在を気持ち良く潰す為のものであり、気持ち良く潰せないのであれば意味がなく……そこに放り込まれたのは、最大の愚弄。勝利は当たり前、そもそも戦闘の形を成すまでもないと言わんばかりのオリゼの発言に、遂に…散々煽っておきながらも、その実内面では冷静な部分もあったレイの、怒りの感情が爆発する。
爆ぜるような勢いで地を蹴り、レイは突進。ただそれだけでも地面に大きな亀裂が走り、踏み締めた場所は捲れ上がるも、突進から突き出された杖をオリゼは左手の剣で難なく受け流す。それと同時に右の剣を振り出し、レイが躱すと、その先で高速の蹴りをお見舞い。寸前でレイは腕を用いて防御するも、直後に再び剣が振るわれ、杖で受けたレイは大きく後ろに飛ばされる。
「逃がしはしない」
「はぁ?誰が逃げるって……」
着地する事なく、浮いた状態のまま立て直しを図るレイだが、オリゼもまた地を蹴り一瞬で接近。左側面に回り込むも、身体を捻りながらレイが蹴りを放った事で攻撃は失敗…に終わると思いきや、それを読んでいたようにそこからオリゼは更に背後へ。レイも蹴りの遠心力で身体を回して反応するも、今度こそ反撃が間に合わず、二振りの同時攻撃を杖で受けるので手一杯。衝撃を諸に受けたレイは地面に叩き付けられ、それだけでも一つのクレーターが出来上がる……が、瞬時にレイは跳ね起き、追撃の刺突を後方へのハンドスプリングで回避。オリゼへ正対しながら睨め付け、より純粋な、より黒い悪意がオリゼへと牙を剥く。
「はいはい大した接近戦能力ですね〜、でもぉ…いつまでも私が、それに付き合うと思わないでくれるかしらぁッ!?」
言葉と共に杖の先から閃光が放たれ、同時に光弾が…大型兵器の砲弾を思わせる程の攻撃が次々と撃ち込まれる。それを平然と、剣舞を披露するかのように流れる動きで斬り裂いていくオリゼだったが、光弾の内数発はレイの周囲の地面を撃つ。それによって砕けた地盤が浮かび上がり、それ等も唸りを上げてオリゼを襲う。
しかしオリゼも引きはしない。光弾を両断しながらも自身の周りへ巨大な杭の様な刃を出現させ、十分に引き付けた上で土塊へと射出。高速で飛翔する刃は土塊へと突き刺さり、その勢いで以って攻撃を完全に相殺する。
「ざーんねぇん!どっちも陽動でぇ、これが本命なのよッ!」
「だからどうした」
巨大な土塊は全て止め、無数の破片は光弾諸共全て叩っ斬ったオリゼだが、そこまで読んでいたレイは杖を振り抜き、光芒を照射。その読みは正確であり、オリゼの真正面…つまり、彼女とレイを直線で結べる空間だけは完全に開いていて、二種類の攻撃を捌き切った直後のオリゼへ闇色の光が迫り来る。
しかし、レイの読みは正確であっても、一手足りなかった。読めた範囲は正確でも、オリゼの狙いを読み切れていなかった。
二振りの片方、左手の剣を手放したオリゼ。その手を突き出したオリゼが握り潰すように掌を閉めると、土塊の周囲に展開しておいた圧縮シェアエナジーが一斉に爆発。解放時の力により土塊は一点へ、開いていた空間へと殺到していき、その壁に光芒は阻まれる。敢えて自身に近い距離で止めた事で圧縮シェアエナジーの展開可能範囲に土塊を入れ、それを用いてレイの攻撃を、その一つ前の攻撃を利用する事によって完全に防御し切っていた。
「大した事もない攻撃だ。質量共に彼女達の方が余程脅威であり、私に迫っていた」
「あぁッ!?雑魚と一緒にするとか、その目は腐ってるんじゃないの!?」
光芒と土塊の激突により一瞬砂塵が舞い上がるも、直後に土塊へ突き刺さっていた刃が半壊した土塊を完全に貫き、砂塵を吹き飛ばしながらレイの周囲を駆け抜ける。だがそれは道を開く為だけのものであり、先行する刃へ追い付くどころか追い越す程の速度でその後方からオリゼが突進。再び両手に構えた二振りのバスタードソードで連撃を仕掛け、レイに対応を、防御を強いる。
彼女からすれば有象無象に過ぎない女神、ネプテューヌ達を引き合いに出された時点でレイにとっては不愉快以外の何物でもない。しかし同時に、業腹ながらも近接戦で優位に立つのは難しいという事も理解している為に距離を取る事を考えるが、それをオリゼが許さない。
(くそ、くそッ…奴が、私より格上…?…はッ、そんな事がある訳……ッ!)
浮遊大陸落としの際に受けた傷は、完全に癒えている。加えて今は、それ自体が超巨大なシェアエナジーの塊である城から、力も引き出している。つまり、今の自分は完全以上の状態、真に絶対強者たる存在。
にも関わらず、オリゼに…心底不愉快で見下している相手に、自分が押されている。しぶとく粘られているのではなく、自分が堪える側に回っている。それはレイにとって、はらわたが煮え繰り返る程の屈辱であり……認めない、認められない。それが真実で、現実である事など。
「こ、の…白髪女神がぁああああああッ!」
上段から振り出された右手の剣を杖で受け、そこから力任せに押し返す。同時に杖から電撃を、拡散させる形で放つ。
それをオリゼが跳躍で避ければ、レイも彼女を追って突進。杖に電撃を纏わせたまま斬り上げるような形で振り抜き、その後も大振りの攻撃を続ける。一見それは隙の大きい攻撃で…だが不規則な放電がカウンターのチャンスを潰す事で、反撃の出来ない攻勢を作る。
「守るぅ?人の為ぇ?虫酸の走る事を言ってんじゃないわよッ!どいつもこいつも、勝手に理想を押し付けてくる人間共を擁護するとか、目どころか頭も腐ってるんじゃないの!?」
「腐っているのは貴様の方だ。人の理想から生まれる女神が、その理想を押し付けと感じるのなら、貴様は根本から壊れている。根がこうも腐り切っているというのに、よくこれだけの力が持てたものだ」
電撃を迸らせながら次々迫る攻撃を、オリゼは巧みに避ける。レイから距離は取らないまま、常にほぼ同じ距離を保ちながら避け、躱し、防御の必要がある際には防いだ瞬間に剣を手放し、直後に再精製する事によって、通電よりも速い速度で感電の危険を回避する。当然、放電自体も全て完璧に避けており…一貫して彼女は無傷のまま。
「貴様なぞにくれてやる同情など微塵もない。だが…あぁ、哀れなものだ。期待される事、理想を抱かれる事、信じられる事…その喜びと充実感を、女神でありながら感じる事が出来ないとは」
「そんなの御免だってーの!そんな下らない、馬鹿みたいなものに価値を感じる位なら、あんたの言う壊れた状態の方がずっとマシ……ぐぁ…ッ!」
オリゼは無表情に、淡々とレイを哀れだと評する。態度表情、押し付けがましい言葉、それ等全てが既に飽和状態であるレイの不快感を更に高め、最早彼女らしい嘲笑などない、怒りのままの罵詈雑言でオリゼに返す。
しかし…期せずしてそれは、オリゼに怒りを抱かせる、普段はその怒りを嘲るレイにとって、狙っていた感情を引き出す言葉となった。レイが人を貶すさまなど既に何度も見ている為、許容こそしないもののある意味「分かっていた」オリゼだったが、そこに加えて思いまでも、信じる気持ちすらも踏み躙った事が、オリゼの怒りを引き出した。
そしてそれは、攻撃に繋がる。ここまでは弾いて剣を手放した直後、即座に再精製していたオリゼだったが、この瞬間は精製をせず…その手でそのまま、レイの脇腹へと掌底を打ち込んでいた。放電と放電の隙間、ここまでは狙う事で与えられるダメージより、失敗し自身が受け得るダメージの方が大きいと判断していた為に行わなかった反撃を、感じた怒りと共にぶつけ…レイを落とす。
「時代遅れの、白髪女神風情が……なーんて、ねッ!あははははッ!こうやって距離を取るチャンスを狙ってたのよッ!」
斜めに落ちていくレイだったが、墜落の直前に立て直し…そこから笑い声を上げる。わざわざそっちから距離を離してくれてありがとう、そう言うように口角を上げ…気付けば杖には、膨大な量のシェアエナジーが収束していた。
一見それ自体が撃破を狙っているような、電撃を杖に纏わせた攻撃。勿論それも狙っていたが、真の狙いは強力な攻撃の為の準備。普通ならば集中し、それに専念しなければいけないような準備でも、攻防と同時に行えてしまうのがレイ。
この時もう、レイに圧倒的な力で叩き潰し、絶望的な差を見せつける…などという事は頭になかった。とにかくオリゼを倒し、この不快極まりない存在を消し飛ばす…それさえ出来ればそれで良かった。それはある意味傲慢さの消えた、戦闘する上での思考としては正しいものだったが……
「あんたの考えも、他の奴の事も、全部どうだっていいのよッ!私は私が気持ち良ければ、それでねぇぇぇぇッ!」
「…ならば、話は終わりだ。であればただ、始末するのみだ。──天舞伍式・葵」
「な……ッ!」
宙を踏み締めるように立ったレイの周囲に現れる、幾つもの球体。凝縮されたシェアエナジーで構築されたそれは、弾か、爆弾か、それとも別の何かなのか。オリゼもそれを見抜く事は出来ず…だが、そんな事はどうでも良かった。オリゼにとってそれは…何であろうと、変わらないのだから。
静かな、されど確かな意思の籠った言葉と共に、オリゼの周囲にもシェアエナジーで編まれた武器が瞬く間に現れる。現れ…次の瞬間には、飛翔していた。刀、剣、槍、斧、槌、棍…多数の武器が、圧縮シェアエナジーの解放を推力とした武器弾が、それぞれ異なる軌道で、尋常ならざる速度で飛来し……レイの展開した球体、その全てを貫き破壊する。それなり以上のシェアエナジーと、卓越した技術や経験を用いた…しかし外見的にはあっさりと行ったような攻撃で以って、レイの攻撃を始まる前に終わらせる。
「……ッ…調、子に…乗るなぁああああああぁッ!!」
ある種無慈悲にすら思える潰し方を前に、レイの怒号が空へと響く。ふざけるな、こんな事があって堪るか…その怒りと共にレイが掲げた杖から収束していたシェアエナジー、その全てが電撃となって放出され、天に昇る。昇った電撃は雲を抜け、ほんの一瞬見えなくなり…次の瞬間、降り注ぐ。シェアエナジーの電撃は、闇色の雷撃となって、直下のオリゼへ襲いかかる。
その光景は、巨大な顎門を開いた黒獣の様でもあった。レイの怒りが具現化した、負のシェアエナジーそのものの獣。間違いなくそれは、大半の女神における全力、力の全てをかけた一撃に匹敵、或いは凌駕するものであり……それでもオリゼには、届かない。
「天舞参式・睡蓮」
雷撃の獣が顎門を開いた時、オリゼの両手に二振りのバスタードソードはなく…代わりにあったのは、一本の…大型兵器やモンスターはおろか、現代の戦闘艦すら悠々と両断し得る程の、想像絶する程の超々巨大剣であった。
さしものオリゼも、それを自身の力だけで振るうのは困難なのか。それとも振る事は出来るが、更に威力を求めた結果か。何れにせよ、規格外にも程がある巨大剣は、オリゼの力と無数の圧縮シェアエナジーの解放による爆発、その両方の力を受けて、低空から天へ、そしてまた地上へと振り抜かれ……闇色の雷撃を、顎門を、その一太刀で以って完全に斬り裂く。
「…な、ぁッ……こッ、のぉぉおおおおぉぉぉぉッ!」
「……天舞陸式・皐月」
今度こそ止められる筈がない、防がれる筈がない。仮に受け止める事が出来たとしても、深手を負うのは間違いない。…そんな自信を、威力から考えれば思って当然の事を抱いて放った一撃が、目の前で、完全に砕かれ斬り伏せられる。それは自信を、プライドを攻撃共々打ち砕かれるのと同義であり……怒りのままにとはいえ、それでも瞬時に次なる攻撃を、行動を起こそうとしたレイは、間違いなく真の実力者だった。
だがレイが動いた時、身体が前に出た時、その時にはもう超加速によりオリゼがレイに肉薄しており…袈裟懸けの一撃、女神化したイリゼが得物とする長剣とほぼ同じ長さを持った剣による斬撃が、レイの身体を強かに抉る。……レイの行動によって、抉るような形となる。
「がッ、ぁッ…ぐぁぁ、ぁ……ッ!」
「…ほぅ。あの距離、あの状態から僅かにでも身体を下げ、両断される事を防いだか。今の動きは驚いた。あそこから即死を免れる事が出来る者など、貴様位のものだろう」
胸元から腹部までを斬られ、傷口からも口からも血を流し、地上へと落ちるレイ。そのレイに対し、オリゼは言葉通り驚いた様子で目を見開き…着地。
「はぁッ…はぁッ…これで、勝ったと…思うなよ…?私は…まだ……」
「何を言っている。貴様を滅するのは…これからだ」
一度は蹲りながらも、レイは膝を突き、身体を起こし、立ち上がる。声を震わせ、足元に血溜まりを作りながらも、剥き出しの敵意と悪意でオリゼを睨み……だがオリゼは、その言葉に…既に重傷であるレイに冷え切った声音で意思を返す。そして次の瞬間、再びオリゼは肉迫し…刃を、振るう。
「────天舞拾式・
斬り裂いたのは、右肘。その一太刀で、肘から先の力が抜け、杖が落ち…しかし間髪入れずに、左肘も斬り裂かれる。左肘が、右膝が、左膝が斬られ潰れる。
それだけに留まらない。オリゼの斬撃は、刃は続く。腕を斬り、脚を斬り、肩を胸を胴を斬り、腰を足を翼を斬り、頬を首を瞳を斬る。斬り、突き、捌き…一撃放たれる度に、一つずつ身体としての、生命における機能が失われていく。
レイも避けようとする。身を捻り、後ろに下がり、躱そうとする。しかし何をしようとも、オリゼの刃からは逃れられない。皐月による重傷で動きが大きく鈍ってしまった時点で、躱す事はほぼ不可能になり…身体の機能が失われていく事で、ほぼ不可能が完全に不可能へと成り果てる。
「まさかこれを、使う日が来ようとはな」
いっそ非道、相手の尊厳を踏み躙り嬲り殺すような攻撃を続けるオリゼが漏らしたのは、感情のない言葉。ただ淡々と、人を守り導く
「…あ…ああ、あ……原初の…めが、みぃぃぃぃ……ッ!……──ぁ…」
もうほぼ斬られた衝撃で揺れているだけのようだったレイが、止まる。止まったが、既に見えているのかどうかも分からない目…或いは目のあるべき場所の穴でオリゼを見やると、潰れた声で掠れた叫びを上げ、前に…オリゼに迫ろうとした。
それを貫く、オリゼの一撃。胸の中心を貫いた刃は、背中を貫通し……引き抜かれると同時に、レイは倒れる。強靭な身体を持つが故か、それともオリゼがそのような斬り方をしただけか、しっかりと人の形を保ったまま全身を斬り裂かれた血みどろのレイは、倒れたまま動かず…オリゼは、見下ろす。その手にレイを斬り裂いた、鮮血に染まった剣を手にしたまま。
「全て貴様が悪い。貴様の行い、貴様の悪逆、そして貴様の様な者が存在してしまった事が、この報いの結果だ。貴様には、何も求めない。反省も、贖罪も、それすら貴様に苦しめられた全ての人々への冒涜となるのだから。故に…ただ美しさもなく、残酷に、この次元から…凡ゆる次元から、消え去れ」
先程人へと見せた穏やかな笑みとは対極な…いや、そもそも比較出来るものかどうかも分からないような、冷たい瞳と感情の抜けた顔。その表情で、オリゼは見下ろし…剣を、持ち上げる。
最後に投げ掛けた言葉は、オリゼの思いか。それともオリゼの信ずる、オリゼにとっての『女神』の審判か。それともその二つは、同一のものなのか。…オリゼ自身にすら、それは分からない。考えてもいない。ただ今は、根絶すべき悪を滅する為だけに剣を振り上げ、振り下ろし……
「そこまでに…するっちゅぅううううううぅぅっ!!」
──電撃が、レイのものとは違う魔力の一撃が、特徴のある声と共に迸った。
反射的に飛び退き、避けるオリゼ。避けると同時にオリゼは顔を上げ、見やる。この瞬間、悪の討滅を邪魔したのが、一体何なのかを確かめる為に見上げ…目にする。自身と倒れ伏すレイ、その前へと降り立つ、六つの影に。
見覚えがあるような存在もいれば、全くない存在もある、六つの影。それは、神次元に存在する国際企業、セブンスジーニア社でそれぞれの立場を持つ者達……否、嘗てレイと『仲間』であった、七賢人の者達であった。
今回のパロディ解説
・「……なっ、まさか〜〜言う訳…?」
とあるシリーズに登場するキャラの一人、垣根帝督の台詞の一つのパロディ。台詞に加えて、展開自体も少しとあるの第一位対第二位のそれをパロディしております。
・「〜〜美しさもなく〜〜消え去れ」
東方Projectに登場するキャラの一人、八雲紫の名台詞の一つのパロディ。どうも私は色々組み込みたくて、パロであろうとなかろうと長くなってしまう傾向が強いですね…。