超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
人に仇成す悪を、レイを滅する。その為の最後の一撃を振り下ろそうとした時、オリゼに電撃が飛来した。
後方へ飛ぶ事で避け、目をやったオリゼが見たのは…奇妙な集団。若いように見える女性から、長身の女性、恰幅の良い老人までいる…だけでなく、一見ロボットの様な存在から、間違いなくロボットの存在、果てはネズミの姿をしたモンスターまでいるという、見ただけでは何の集まりなのか一切分からないような者達。その者が、空から現れ……降り立つ。
「ふん、避けたか。勘のいい女神──」
「ぬぉっ!?ちゃ、着地の際は特に慎重にと言ったじゃろう…!おおぉ、腰を打ってしまった…」
「あーららぁ、大丈夫?アーさん。アーさんはもう歳で無理が出来ないんだから、マジェちゃんも気を付けてあげなきゃ駄目よぉ」
「いやいや、ガサツなオバハンにそんな細かい作業を期待したって無駄っちゅよ」
「…私の言葉を遮っておいて、そんな下らない話をするなぁッ!特にネズミ、貴様は踏み潰されたいか!」
(…なんだ、これは……)
難なく降り立ち、オリゼを見ながら鼻を鳴らしたのは彼女達…七賢人の一人であるマジェコンヌ。敵意と言うべき視線をオリゼに向けるマジェコンヌだったが、直後に同じ七賢人の仲間達がごちゃごちゃと話し出し、それを怒りのままにマジェコンヌが一喝。どうやらマジェコンヌの何らかの魔法によって、七賢人の者達は降りてきたらしいが…彼女の性格からすれば、手を貸すだけでも譲歩というのに、そこへ文句を言われてしまえば怒りを覚えるのも当然の事。
そしてそのやり取りを、オリゼは茫然とした顔で見ていた。いきなり現れた、見ず知らずの奇妙な集団が、訳の分からないやり取りをし始めたのだから…オリゼが茫然とするのも、当然の事。
「ちょっと!?何下らないやり取りしてるのよ!?今はそれどころじゃない…っていうか、本当にそれどころじゃないんだけど…!?…嘘…これを、女神がやったって言うの…?」
「くっ…確かにレイのしてきた事は、買ってきた恨みは、どんな仕返しをされても無理のない事だ…だが、だとしても、これはあんまりじゃないか…ッ!」
「……!…お嬢さん、それには近付かない方が良い。どの道捨て置いても消える命とはいえ、何をするか分からない存在だ。愚かしくも君を襲い、生き長らえようとするかもしれない」
ある意味気の抜けたやり取りだったが、一喝したマジェコンヌ諸共アブネスは突っ込み、それから動かないレイへと駆け寄る。同じように、コピリーエースも嘆きの声を上げ…そこで、オリゼが声を上げる。駆け寄るアブネスを、危険だからと制止する。
止めるのもまた、オリゼからすれば当然の事。レイの行いと実力を考えれば、たとえ虫の息だろうと警戒して然るべきであり…だかそれを、アブネスは拒絶する。
「そうはいかないわよ!今はもう、こいつ自身はちっともそうは思ってないでしょうけど…ワタシ達は、元々仲間だったんだから!」
「…仲間……?」
「そういう事よぉ。レイちゃんをここまでボロボロにしてるって事は、貴女オリゼちゃんの方よね?…許せとは言わないわ、けどこの位にしてあげてくれないかしら?」
相手が人という事で、柔らかな声音での投げかけをしていたオリゼだったが、返された言葉にぴたりと表情が固まる。
一方七賢人側は、同じようにレイへと駆け寄り…彼女の前に立つ。前に立ち、オリゼとの間に割って入り、六人全員が立ちはだかった。
「…すまない。普通ならば、人の願いに応える事が女神の務めであり使命であるが…これに関しては、君の頼みを聞き届ける事は出来ないのだ。私は女神として、人を守るものとして…その出来損ないを、見逃す訳にはいかない」
「まあ、当然の反応じゃな。しかし我々とて、そう言われてすぐに明け渡すつもりはない。その程度であれば、そもそも次元を渡ってこちらにまで来はしない」
「…何故、擁護しようとする。今し方、そちらのお嬢さんが仲間と言ったが…それはその出来損ないに、利用されていただけではないのか?」
「利用?ふん、抜かせ。あんな気弱な女に、誰が利用されるというのだ」
ゆっくりと首を横に振り、オリゼもアノネデスの…七賢人側の頼みに拒否を返す。
別段おかしな事ではない。人の事を至上且つ最優先とするオリゼ、原初の女神だが…そんな彼女だからこそ、人の為にならない、相手の…或いは人々の害となる事には、出来ないという言葉を返すのだ。
討たんとするオリゼと、それを阻まんとする七賢人。双方の目的に妥協点はなく…次にオリゼが浮かべたのは、怪訝な表情。
「…気弱?その出来損ないが、か?」
「人としての、元々のレイちゃんは、ね。だから利用される事はあっても利用なんて出来る訳ないし…まあでも、今思うと何だかんだで七賢人を纏められていたのは、力を失っていても女神だったから…かもしれないわねぇ。間違いなく纏めてたじゃなくて、結果的に纏まってただけだけど」
「お主の事は、多少聞いた程度だが…人の為を何よりの信条としているのだろう?ならば、元は人である…見ようによっては、女神の性質や力を得た『人間』であるこやつを、女神メモリーによる後天的な女神の命を奪う事は、その信念に反する事ではないのか?」
「…ご老体、貴方は聡明なお方だな。解釈は勿論、少ない情報の中から私に有効たり得る論理を構築するとは、余程優秀な人物なのだろう」
どんな事情や背景があろうとも、レイを擁護するのは極めて困難。そう判断したアクダイジーンはレイの肯定ではなく、オリゼの行動の否定で矛を収めさせる事を図る…が、なんと返ってきたのは称賛の言葉。まさかそんな事を言われるなどとは思っていなかったアクダイジーンは呆気に取られ…されど平然とした様子のオリゼは、言葉を続ける。
「この出来損ないの身を真っ先に案じたお嬢さんの優しさ、飄々としながらも冷静に、気取られぬよう何か利用出来るものは何か周囲の把握を進める貴方の胆力、どちらも強く美しい。それに…君は、マジェコンヌ君だね。私の知る彼女もそうだが…君もまた、見ただけで分かる。人でありながら、女神と同等かそれ以上の力を、何かを持つ君という人間は…もしかすると、私達女神以上に超常の存在なのかもしれないと、私は思う」
「……え、待って。なんでいきなり大絶賛されてる訳…?」
「さぁ?にしても、ヘルメットで見えない筈なのに見抜かれるなんて、恐ろしいわぁ。後、貴方じゃなくて貴女よ貴女。そこは間違えないで頂戴」
「オバハンにそんな事を言うなんて、理解出来ないっちゅ…ところでオイラは?オイラには何かないっちゅか?」
「その出来損ないが纏められていたとの事だが、間違いなくそれは、君達一人一人の能力や人格あってのものだろう。…君達の情も尊敬に値するものだが…だからこそ、もうその出来損ないとの繋がりは過去のものとするべきだ。その女神は、存在してはならないのだ」
一人一人に賛辞を送り、その上で自らの主張を改めて示すオリゼ。送られた賛辞の内容より、突然送られた事自体に七賢人の内四人は困惑していたが、示された主張を聞いて、彼女達の表情は引き締まる。……そして同時に、「はっはっはー、無視されてしまったなワレチュー」「五月蝿いっちゅ!というか、同じように何も言われてないお前に言われたくはないっちゅ!」…というやり取りもあったのだが…状況が状況だからか、そちらについてはそれ以上発展する事はなかった。
「…まあ、そっちの主張は分かったわよ。分かったけど…ワタシは子供の味方なの、子供の味方が…仲間だった相手を見殺しには、出来ないのよ…!」
「俺にそんな感じの理由はない!ただ、友達を守るだけだ!ワレチューもそうだろう!?」
「お、オイラをお前と一緒にするなっちゅ!オイラは……いや、そうっちゅね。友達では断じてないっちゅけど…仲間だった相手を見て見ぬ振りするのは、ネズミの誇りが許さないっちゅ」
「熱いわねぇ、皆。アタシはそんな立派なんてないけど……ま、レイちゃんの事は、個人的には結構好きだったもの」
レイの存在の正当性を主張する訳ではない、先のアクダイジーンの様にオリゼの主張の穴を探すでもない…純粋な、情故に守りたいのだという言葉。当然これが論戦ならば、一蹴されるような言葉だが…オリゼにとっては、切り捨てる事など出来ない思い。
しかしそれでも、オリゼも「分かった」とは言わない。それ程までに、オリゼはレイの存在を許容する事が出来ず……次の瞬間、声が響く。
「そう、だよ…いまのおねーさんは、ほんとにわるい人だけど…ほんとうは、すごく…すごく、やさしいんだもんッ!」
『……!』
強い思いの籠った、放たれた矢の様な言葉と共に降り立ったのは、黄色の髪をなびかせる女神。彼女…ピーシェは減速なしで着地し、砂煙を上げながら滑走すると、そのまま倒れたレイに駆け寄る。駆け寄り、惨状を見て肩を震わせ…その上で立ち上がり、オリゼと向き合う。七賢人側に、彼女達の味方として立つように。
「…その様子だと、もう片方も片付いたようだな。……が、何故君までその出来損ないの側に立つ。どこにその価値がある」
「あるもん!おねーさんは、ぴぃがおなかすいたっていったらレストランにつれていってくれて、そのあとはあそんでくれて、へんな人だけどおもしろくて…ぴぃ、おねーさんのことすきだもん!元のおねーさんに、もどってほしいんだもん…!」
「話にならないな。…退け、人の思いを無下にする事は出来ないが、そうではない者の主張などどうでも良い。邪魔をするというのなら、力尽くで退かすまでだ」
一瞬、僅かながら表情を緩めたオリゼは元の顔付きへと戻り、ピーシェに問う。それに対し、ピーシェは七賢人達と同じように…或いはそれ以上に純粋な思いをオリゼへ向けて返すが、オリゼは先程とは打って変わって一言で一蹴。しかしピーシェは退かず、オリゼも脅すだけの雰囲気ではなく、更に一触即発の空気をマジェコンヌが加速させる。
「はっ、初めから平行線の話をうだうだと続けて何になる。相容れぬのなら、やる事は一つだろうが」
「そうは言っても、丸腰でまともに戦えるのなんてマジェちゃんとコピリーちゃんだけだし、この子を足しても…というか、この子がいると余計に連携なんか無理でしょう?貴女達二人は、スタンドプレーの筆頭なんだから」
「や、止めろよ!そんな事を言われたら、照れるじゃないか!」
「…こいつは相変わらず馬鹿だな…。…で、それが何だと言うのだ。そもそも私は、仲良しごっこをしにきた訳ではない。私は……」
「いいわよあんたのスタンスはもう皆知ってるから…!けど、ほんとにどうする訳…!?勢いで来ちゃったけど、どうにかなる気しないわよ…!?」
臨戦態勢…どころか、自分から仕掛けるのではと思わせるような雰囲気を纏うマジェコンヌ。しかし、元から女神への敵意を持つ彼女や、交渉を苦手とするコピリーエースはともかく、他の面々は戦闘に積極的ではなく、加えて七賢人には仲間意識こそあれども仲が良いという訳ではない為、どうにも足並みが揃わない。当然オリゼとしては、人を傷付ける気など毛頭ないが…彼女の事をよく知らない七賢人達は、それを念頭に動く事も出来はしない。
何よりオリゼに、彼女達の足並みが揃うのを待つ理由もない。既に…いや初めから、オリゼの意思は決まっているのだから。アブネスやアクダイジーン等、戦闘に長けている訳ではない面々は気付いていないが、ピーシェやマジェコンヌはオリゼがいつ動いてもおかしくない事を感じ取っており、そして……
「──だったら要は、レイの力が無くなれば…人間に戻りゃ、万事解決だろ?」
一触即発の空気の中、オリゼが自らの意思を貫かんとしたその時……その場にいる、誰のものでもない声が、不遜な声が周囲に響き渡った。
反射的に、全員が視線を声の聞こえた方向へと、空へと向ける。見上げ、目にする。空中を漂うクロワール…それに、彼女の座る本の下へと展開された、複雑な紋様を描く魔法陣を。
「貴様は……いや待て。人間に戻る、だと?」
「あぁ。レイとお前にも、くろめとあいつ等にも、俺の想像の遥か斜め上をいくものを見せてもらったからな。だから、愉快なもんを見せてもらった礼として…貰ってってやるよ、その厄介極まりない力をよ」
『な……ッ!?』
にぃ、と見下ろすクロワールが笑みを浮かべた瞬間、本の下に展開されたものと同様の魔法陣が、地面に…倒れ伏すレイを中心にするようにして浮かび上がる。
そして、光を帯びるレイの身体。一見それは、幻想的ながらも不可解な光景であり…しかし、クロワールの発言で全員が理解していた。その魔法陣が、光が意味するものを。
「貰う…?女神の力をだなんて、そんな……」
「次元は無数に存在するんだ、どこにどんな技術があったって不思議じゃねぇだろ?…ま、普通は準備に時間がかかり過ぎてとても掠め取るなんざ出来やしねぇが…都合良く戦闘不能にしてくれて、更に都合良くのんびりと会話もしていてくれたんだ。ここまでお膳立てされたら、俺だって精一杯の事をして、問題解決に一役買わねぇと、なぁ?」
出来る事なのか。そう言いかけたアノネデスに、クロワールはより笑みを深めながら返す。全ての状況が味方した、故にこれは成り立ったのだと皮肉めいた声音で以って。
強まっていくレイと魔法陣の光。その光が一際強くなった瞬間、レイの胸元から結晶の如き光が浮かび上がり……消失。同時にレイの身体も大きく一つ痙攣し…魔法陣が、消える。それを皮切りに、レイの帯びていた光もゆっくりと消え始める。
「……ぁ…ぅ…」
「お、おねーさん!?だいじょうぶ!?おねーさんっ!」
「うぉっ…おいおいマジか、こんなにも膨大な力になってたのかよ…。…だが、これがあれば……」
側にいても聞こえるかどうか怪しい程の、レイの微かな声。それに反応したピーシェが膝を突き、顔を寄せて呼び掛ける中、彼女の言葉の通りなら女神の力を奪い取ったクロワールが、驚愕と感嘆の混ざり合った声を上げ……次の瞬間、彼女の背後に現れたのはオリゼ。オリゼは何も言わず、現れると同時に剣を突き出し…だがクロワールは、その場から消える。…否、消えたのではなく…別次元へ繋がる空間の歪み、彼女が通れる程度の小さな扉の中へと逃げ込む事によって躱す。
「っと、こっちの準備もしておいて正解だったぜ。折角こんな可能性のある力を手に入れたのに、直後にやられちまうなんて詰まんねー終わりは御免だからな」
「ち…貴様……」
「まあ安心しろって。この力を使って、早速信次元で何か悪事を…なんて事は考えてねーからよ。一先ず俺は退散するし…あぁそうだ、あいつ等に伝えといてくれ。陳腐だが悪くねぇものを見せてくれて、ありがとうってよ」
歪みの扉の中から聞こえる、クロワールの勝ち誇ったような声。不愉快そうな表情をオリゼが浮かべる中でも話は続き…もう一つの戦場で戦っていた女神達への伝言を最後に、どこか純粋な感謝を伝えているようにも思える声を終いに、別次元への扉は消失。
「不味いわね、どんどん呼吸が弱くなってる…いやそもそも、虫の息だろうとこれだけの重傷で死んでない時点で信じられないタフさだけど……」
「お、オバハン回復魔法は使えないんっちゅか!?」
「そんなもの使えるか。貴様等こそ戦えず、状況に対応出来る何かを持ち合わせている訳でもないなら、何をしにきたと言うのだ」
「皆、こんな時に仲間割れをしてどうするんだ!こういう時は、皆で担いで……」
溶けるようにレイの身体から離れていく光。プロセッサユニットも同様に消えていき、その身は人間の姿に戻っていく。
このままではオリゼの存在関係なく、レイが助からない。そんな中でのワレチューとマジェコンヌの言い合いに対し、コピリーエースがややズレてはいるものの仲裁を行い……レイの身体が、レイが、完全に人へと戻ったその時、オリゼがレイの側へと降り立つ。
((しまっ……ッ!))
想定外の事態が起こった事で、失念していたオリゼへの警戒。不味い、そう思った時にはもう触れられる距離にいたのであり……だが、次にオリゼが発した言葉は、全員を驚愕させるものだった。
「──大丈夫、彼女はまだ死んではいない。その命が消えていない限り、人の可能性は潰えない」
「……は?な、何を言って…というか、何を……」
「この者を、人を助ける。それが女神として成すべき、当然の事だ」
唖然とするピーシェや七賢人達の目の前で、オリゼはレイを抱き上げる。優しく、慈しむように両腕で抱える。そしてアブネスの言葉に対する返答は…更に彼女達を、茫然とさせる。
訳が分からなかった。何を言っているのだと、大丈夫も何も、レイを瀕死の状態にしたのはオリゼ自身ではないか、と。にも関わらず、まるで別人かのように助けようとするオリゼの行動は…当然、すぐに理解出来る訳がない。
「…何を言っているんだ、こいつは。複製体がいるらしいが、どこぞの
「困惑するのも無理はない。だが今は、私に任せてほしい。最高速で、必ずや彼女の治療が出来る場所へと連れていく。彼女の命を終わらせたりなどしないと、女神として約束する」
真摯な表情と声でそう伝えるオリゼだが、それが逆に…一層七賢人達を困惑させる。何の躊躇いもなく、これまでと全く同じ調子でこれまでと真逆の言動を見せるオリゼは、誇張なしに別人、或いは精神の障害を思わせるものであり……しかし黙っていたアクダイジーンは、ゆっくりと息を吐いた後に言う。
「…ならば、イストワールに話し神次元へと行ってくれ。向こうの教会の近くに、我々の空中艦が待機している。そこならばすぐに、治療に取り掛かる事も可能じゃ」
「理解してくれた事、感謝する。…だが、そうなると念の為、案内役と空中艦で即話を通せる者がほしい。誰か、力を貸してはくれないだろうか」
「…そういう事なら、小柄な貴女達二人のどっちかがいいんじゃないかしら?」
「ぢゅっ!?お、オイラの場合、雑に連れて行かれるような気が…い、いやだとしても、ここまで来たらオイラも腹を括って……」
「…いや、ワタシが行くわ。あんたもそれで良いわよね?」
「ありがとう。協力してくれる君の為にも、私は力を尽くす」
一刻を争う中で、背に腹は変えられないという事なのか、オリゼの瞳を真っ直ぐに見て信じる事を伝えるアクダイジーン。ならばとアノネデスがそれに続き、アブネスが同行する事に。オリゼは七賢人達へ頭を下げると、アブネスが乗れるよう片膝を突き…アブネスが背中に乗った直後、飛翔。
「ワタシの事は気にせず、ほんと最高速で……って速ぁ!?ちょっ、これレイの方は大丈夫な訳ぇぇぇぇ……ッ!?」
「……っ!ぴぃも…ッ!」
あっという間に小さくなっていくアブネスの声と、追って飛び上がるピーシェの姿。残りの七賢人達は見送る形となり…彼女達の姿も、じきに見えなくなる。
「…何だかよく分からない内に話が進んでしまったが…俺は、信じているぞ…!」
「……レイちゃんの歪みっぷりもそうだけど…あれだけ態度が変わっておきながら、内面は一切変わってないなら…オリゼちゃんの方も、完全に常軌を逸してるわね…」
「改めて、女神の超常さを感じさせるものじゃな…」
原初の女神という障害が何とかなったとはいえ、想定とは大幅に違う事態となった状況。それでも、仮にそうなっても仕方ないとはしても、仲間だったレイの死を避けられた時点で急遽集まり訪れただけの価値はあると…想定外とはいえ、最大のネックであった女神の力が失われたのだとしたら、起こった想定外の全てが悪いものではないと、そう思っていた。
それから、この場に留まっても意味はない、と同じく神次元へ戻ろうとする七賢人達。しかし…そこで、七賢人達は目にするのだった。五人には知る由もない事だが、レイだけでなくくろめも破れ、もう活用する者がいない筈の負のシェアの城が、ぼんやりと光を灯している光景を。
*
オリゼが負ける筈がない。信じているし、私の心は負けるどころか絶対勝っていると、そう断言している部分すらある。…これに関しては根拠のない、半ば期待ではあるけど…とにかく、それ位私は信じてる。信じてるけど…やっぱり、不安な気持ちだってある。
だから、私は視線を上げ、負のシェアの城を見た。中なんて見えないし、城外に出ているのなら城を見たって意味ない訳だけど…それでも、少しでもオリゼの状況を知りたくて。その思いで見上げて……見た事で、気付いた。上空に浮かぶ城が、何かおかしい事に。
「あれって…お姉ちゃん、皆さん……」
「えぇ。…くろめ、どういう事?」
具体的に何が起きているのかまでは分からない。けど、城が光を、活性化しているかのような闇色の光を灯している。それは明らかに、これまでの負のシェアの城とは違う状態で…問い詰めるネプテューヌと共に、私達くろめを見る。
「…………」
「…くろめ?」
「……分から、ない…」
「は…?お前、この期に及んでまだ何か…」
「違う、本当に分からないんだ…!…レイが何かしたのか…?それともまさか…暴走…?」
反応のないくろめにもう一度ネプテューヌが呼び掛けると、くろめは呟くような小声で言う。その発言に裏が…有り体に言えば嘘があるんじゃないかと思った様子のうずめが食ってかかろうとすると、くろめは首を大きく横に振り、否定した後考え始める。
状況的に言えば、何か企んでる事も考えられる。敗北と、自分自身とのぶつかり合い、それにウィード君の…ウィード君との想いで何かが変わった、或いは昔に戻った(といってもその昔を私達は知らないけど)ようにも見えるくろめだけど、そもそもあれはくろめ達が造り出したものなんだから。…でも、一方で…今のくろめが、嘘を吐いているように見えない。
「…百聞は一見にしかず、とはまた違いますけれど…であれば、実際にもう一度城に行き、直接確かめる方が迅速且つ正確かもしれませんわね」
「あたしもそれに賛成よ。何か起きてるなぁ、でも分からないなぁ…なーんて言ってただ見てるだけなんて、お馬鹿さんのする事でしょう?」
今のくろめの言葉通り、くろめも分からないのだとしたらどうする。そんな雰囲気になった時、意見を口にしたベールとプルルート。分からないからこそ慎重に動くのも大事だけど…確かに、ここで見ているだけじゃ埒があかないのも事実。
「…うん、そうだね。でも大きいネプテューヌ達は、ここで待ってて。それと、うずめは……」
「大丈夫だ。まぁぶっちゃけ、殴り合ったせいで全身痛いが…まだ、行ける」
凛とした意思の籠った、うずめの瞳。それに訊いた私も、他の皆も頷いて、何が起きているか確認する為に飛び上がる。
幸いな事に、くろめとの決戦では皆ダメージを最小限に抑えられたし、自分でもよく分からないけど、今回はリバースフォームの負担がぐっと減っていた。これなら、戦闘になったとしても問題ない。
「…あ…なんかさらっとくろめも一緒に置いてきちゃったけど、大丈夫かしら……」
「大丈夫よ、きっと。あんなにも想いの響きを、輝きを見せてくれたくろめがまだ悪事を考えてるなんて、絶対ないもの。…絶対ないもの……ッ!」
「じ、自信満々ですねセイツさん…重要な事だから、二回言ったのか……──ッ!?皆さん、待って下さい!」
懸念を口にするノワールに対し、凄い熱意で大丈夫だと言い切るセイツ。そのセイツらしさ全開の返しに、私達は苦笑い…した、次の瞬間だった。ユニが警戒の声を上げ、反射的に臨戦態勢を取り……その状態で、何かか…無数の何かが、城からこちらへ飛んできているのを目にしたのは。
「…なにかしらあれ…モンスター、なの…?」
「いえ…モンスターの様にも見えますけれど…それにしては、やけに見た目が単純というか、ただの塊の様にしか見えないというか……」
「感覚的にも、ただの負のシェアの塊…って感じよね…だったら……」
ブランを、除く守護女神三人のやり取りの末、私達が選んだのは迎撃の判断。念の為、まずユニに牽制の長距離射撃をしてもらって…でも、止まらない。止まらずにこちらへ向かってくる。
ならばとユニが狙うのは集団の中央。そこへ向けて、ユニは大出力のビームを放ち……
「…えっ?い、一気に消え去った…?」
「なーんだ、すっごく弱いんじゃない。だったら…ロムちゃん!」
「うん…!」
無数に確認されていた、モンスター…の様な何か。その内の、ユニの射撃の射線上にいた存在が…ほぼ全て、消え去った。汚れを高圧洗浄機で掃除するように、あっさりと。
続けて動いたロムちゃんとラムちゃんも、二人揃って魔法を放つ。その魔法は、球の形で飛んでいき…何かの側まで到達したところで、同時に爆裂。それによって、再び大量に消滅し……この時点で、一つ分かった。こちらへと来た何かは、とにかく脆いと。
依然として迫ってくる何かに対し、候補生四人の遠隔攻撃が迎撃をかける。まともに避ける事もしない何かは、それによって次々と減っていき…私達が動く頃には、大半が消滅。残った一部も、私達が斬って…というか最早、本当に掃除をするかのような勢いで片付けて……微塵も脅威を感じないまま、掃討が済んでしまう。
「…な、何だったんだありゃ…スタッフロールのお遊びシューティングかなんかかよ……」
「そんな馬鹿な、と言いたいところですけど…それ位に、全然敵って感じがしませんでしたね……」
「じゃあ、実は敵じゃなかったのかしらねぇ。だとしたら……と、思ったけど…」
処理出来たのに、困惑はむしろ広がるという謎の事態。私達が首を傾げる中、プルルートが敵ではない可能性を上げ……た直後、再び同じものが、同じ何かが現れる。
最初に現れたものは、全く脅威に感じなかった。なら今度は、一度待ってみる?それとも……そう思った次の瞬間、空から多数の武器が飛来し、斬り裂き砕いていく。…これって……
「オリゼッ!無事だったの!?…じゃなくて、無事だったみたいだね!」
「あぁ。遅くなって申し訳ない……が、今は…!」
見覚えのある、馴染みのある攻撃。見上げればそこにはオリゼが、ピーシェと共にいて…一気に心の中に、安堵の気持ちが広がっていく。その上で、「やっぱりね」って気持ちすら芽生えていく。
一体何があったのか、レイに勝った…という事で良いのだろうか。そう訊きたい私だったけど、オリゼは大量の武器を放ちながら何かへと突っ込んでいき、瞬く間に殲滅していく。元から脆い何かな訳だけど、それにしても本当にオリゼは凄まじく…やはりすぐに、二度目の集団も全てなくなる。
「むー?ぷるると、せーつ、あれはなに?」
「それがまだ分からなくて、ね…オリゼは、貴女にはあれが何か分かるの?」
「さてな。だが、間違いなくあれは人にとって害となるものだ。君達も、薄っすらとだろうがそれは感じて……」
戻ってきたオリゼにセイツが声をかける。それに対して、オリゼが答える。あれは危険なものだと。皆も感じているだろうと。
でも正しくは、言い切ろうとしただけで言い切ってはいない。言い切る前に……三度、現れる。一度目よりも多く…二度目よりも多く、謎の何かが。
「…何が、起きているの……?」
自然に、心から直接漏れ出た言葉。何なのか、どういう事なのか、さっぱり分からない。そして恐らく…この思いは、皆も同じように感じている。
あぁ…でも、分かる。頭では分からないけど、感覚で分かる。女神としての本能が、直感が感じている。これは絶対に……止めなくては、ならないと。
今回のパロディ解説
・どこぞの
僕のヒーローアカデミアに登場するキャラの一人、トゥワイスこと分倍河原仁の事。全く違う事を言う、複製体がいる…となると、彼の事を連想するのでは、と思います。
・「〜〜重要な事だから、二回言った〜〜」
ネットスラングの一つ。元ネタとしては、タレントであるみのもんたこと、御法川法男さんが出演したCMでのナレーション…と言われていますね。
・「〜〜スタッフロールのお遊びシューティング〜〜」
スマブラシリーズにおける、スタッフロールが流れている際のミニゲームの事。…いえ、まだエピローグは先ですよ?これから最後の山場を迎えるのです。