超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
特装機動要塞艦・ヘブンズゲート。強力を超え、凶悪を凌駕し、最早常軌を逸しているとしか言いようがない程の極大砲撃と共に現れたのは、空を行く一隻の艦。しかしその姿を見た者は、皆が目を疑った事だろう。
広い飛行甲板を持つ船体上部と、先の光芒を放ったのだと一瞬で分かる、超巨大な砲口を露出させた船体下部。その本体を挟むような形で左右にも船体を持つ三胴型の外見、という時点でもやや特殊ではあるが…何よりも目を引くのは、絶句させるのは、その巨体。単艦で小規模艦隊と戦えるだけの性能を、というコンセプトで開発された各国の戦闘艦はどれも400mを超えており、その時点で十分に巨大なのだが…ヘブンズゲートは、それを遥かに超えていた。他の艦が全て小型に見える程の巨体を持つヘブンズゲートの全長は、1000m…即ち1㎞を優に上回る、正に要塞の名に相応しい存在だった。
「圧巻の火力、ですわね」
「えぇ。まさかこれ程とは…危うく腰を抜かしてしまうところでしたわい」
どこを向いても視界から廃する事は出来ない、空を埋め尽くさんばかりの猛威であった負常モンスターの濁流に空いた、巨大な穴。負常モンスターの津波を二つに分断したと評しても過言ではない程の砲撃を目にした事で、インカム越しにベールがヘブンズゲートのブリッジへと通信をかけ…それに答えたのは、乗組員の一人として搭乗しているイヴォワール。
「首尾は上々、だな。これより本艦は艦隊に合流後、防衛ラインの強化に当たる。機動要塞の名を持つ本艦の力、負常モンスター共に見せてやれ!」
ブリッジより指示を飛ばす、ヘブンズゲート艦長。オペレーターや操舵手からの返答を受けた艦長はイヴォワールを見やり、イヴォワールはそれに頷きを返す。
極大の砲撃を放った地点から、ヘブンズゲートは前進を開始。船体上部の広大な飛行甲板を中心に、船体各部からカタパルトに射出されてルイースフィーラが出撃していき、同時に各砲門が、主砲に副砲、その他多くの砲台が稼動し、砲撃が続く。
しかしそれも、ただの砲撃ではない。放たれる砲撃の数々は、大艦隊の一斉掃射を思わせる程。威力も同じ主砲、副砲ならば主力艦のそれと比較して数倍はあるのではないかと、誇張抜きに倍以上はあるのだろうと見た者に言わしめる程で……規格外。そう呼ぶ他ない強さが、現れたヘブンズゲートにはあった。
「よし、負常モンスターの勢いが落ちている内に再編を進めるぞ!各員、続け!」
「補給を急いで!どんなにパイロットにやる気があっても、機体の側にエネルギーも弾薬もないんじゃ戦えないわ!」
負常モンスターの接近を許さないどころか、射線上に入ってしまった負常モンスターは例外なく全て消し飛ばされる事が確定しているような超火力に戦場は沸き立ち、この気を逃すまいと各部隊の隊長や艦長が部下達へ指示。それを受けて艦内では人が、戦場ではMGが動き回り、飛び回る。
空を舞い、圧倒的な力で切り開く女神の姿は、羨望と共に人々の勇気を、活力を呼び覚ます。その姿、その存在が、ここまでの戦闘を支えていた要因の一つである事は間違いなく…しかし今、ヘブンズゲートの存在もまた、同様の力となっていた。どれだけの負常モンスターが押し寄せようと沈む事はないだろう。実際の真偽はともかく、そう思わせる程の巨体が、火力が、女神という超常そのものの力ではなく、人類の積み重ねてきた技術で以って存在し、その力を遺憾無く振るっている光景は、人々の心に希望を持たせるには、十分過ぎる程のものだったのだ。
*
ヘブンズゲートの存在は、間違いなく空気を一変させた。数々の人の心を震わせ、士気の向上に繋がった。
だけど、良い事ばかりとは言えない。何故なら単純な話として、その存在を三ヶ国どころか、同じリーンボックス所属の軍人も、多くは知らなかったんだから。聞こえてくる通信の声からして、少なくとも皆が知ってた訳じゃないのは間違いない。
隠し球、切り札だと言えば聞こえは良いけど…これ程の存在を秘密裏に開発していたんだから、全ての人が手放しに喜べる訳じゃないのも道理。
「心強い、けど…流石にこれは、『こんな事もあろうかと』の域を超えてるわね……」
現れた超巨大空中艦、ヘブンズゲートの圧倒的火力は、プラネテューヌにいるわたしにも分かる。艦そのものは見えなくても…戦場を斬り裂いた閃光の元を辿れば、そこでは無数の闇色の点が、遥か遠くの負常モンスターの大群が、他の場所とは明らかに違う速度で見えなくなっていってるんだから。
「ベールさん…ううん、リーンボックスがもう完成させてたなんて……!」
「…ネプギア、貴女まさか……」
まるで楽しみにしていたゲームをプレイし始めた瞬間のような、それ位に目を輝かせているネプギア。感動しつつも飛び回り、射撃と斬撃を組み合わせて負常モンスターを迎撃するさまは頼もしいけど…わたしの中に浮かんだのは、ある疑念。
わたしすら知らなかった事を、ネプギアが知っている。性能はともかく、存在そのものを…というのはおかしな話で、幾らベールでも、ネプギアが可愛いからってこんなレベルの…どう考えても条約に喧嘩を売るような規模の兵器の事を、こっそり教えたりなんてしない筈。…と、いう事は…ネプギアはただ知ってるんじゃなくて、どっかのタイミングで教えてもらったって事じゃなくて……関わってる、って事かもしれない。
(……いや、でもそれは後で…全部終わってから気にすれば良い事よね。それより、今は…)
軽く頭を振る事で意識を切り替え、わたしは通信。まずはあの艦の存在に困惑している人達へ向けて、あれは味方だと、共に戦う仲間なんだと伝えた後に、いーすんへ艦隊の再編がどれだけ進んでいるかを確認。それで後少しだと分かった事で、次にするべき事を決める。
「ネプギア、貴女は移動中の艦と部隊の援護に回って。わたしはこれから、飛び回るわ」
「飛び回る…?」
「突入の段階になったら、もう皆を助ける事も、見える場所で戦う事も出来なくなるでしょ?だから、ね?」
一から十まで言わずとも理解してくれたネプギアは頷き、再編中の後方へと飛んでいく。わたしは振り向きざまに背後へ迫っていた負常モンスターを斬り裂いて、とにかく戦いながら飛び回る。突入の前に、声だけじゃなくて…同じ場で一人でも多くの人と共に戦う事で、皆の気持ちを少しでも高める。
ビームが、実体弾が、ミサイルが飛んで、四方八方でMGが空を疾駆する。撃って、変形して、また撃って、前腕部からのビームサーベルを振り抜いて、負常モンスターを迎撃する。もうとっくに乱戦状態で、きっと皆目の前の事で精一杯。
「大丈夫、貴方の戦いは誰かを助けているわ!貴方達の目の前勝利が、皆の勝利に繋がっているわ!だって、わたし達が目指す先は…皆、同じなんだもの!」
連なって、集まって、大蛇の様な束となった負常モンスター群の突進を真っ向から斬り裂きながら、刃の触れていない個体も風圧で蹴散らしながら、わたしは声を響かせる。
皆必死に戦っているからこそ…わたしが届けるのは、肯定と応援。先が見えなくても、その戦いは無駄じゃないんだって、一人じゃないんだって、声に乗せて思いを届ける。
「気張りなさいッ!もっと貴方達の力を見せて頂戴!ラステイションの…私の誇りである、貴方達の実力を!」
「道が荒れているのなら、舗装をするまで。道がないのなら、自ら切り開くまで。そして、その為の先陣が必要なのだというのなら…わたくしが、貫き切り開いてみせますわ!」
「相手は吹雪でも吹き飛んじまいそうな程、脆い奴等だ!だったら負ける訳がねぇよな?その吹雪を押し退けられるのが、わたし達ルウィーの女神と人間なんだからよッ!」
様々な通信、色々な声に混じって、皆の声も聞こえる。やっぱり皆、考えている事は同じみたいで…それに、それぞれの言葉に性格が表れているような気もする。
そして同時に、わたしは思い出す。わたし達がオリゼに示したのは、皆との力。人を守り、助けるのが女神の務めだけど、わたし達も皆に、人に支えられていて…だから今、戦えている。わたし達と皆、どちらかだけだったらにっと、もうとっくに押し切られている。勿論、皆は戦い以外でも色んな面でわたし達を支えてくれているし、わたし達だけで守れるに越した事はないけど…これが今の、信次元の『強さ』なんだとわたしは思う。
(この戦いに、撤退の選択肢はない。この戦いの負けは、終わりそのもの。なのに、気負いがないのは…やっぱりそれが、女神ってものなのかしらね)
万が一の事よりも、こんなにも多くの人と力を重ねられている事への自信が上回っている。良いとか悪いとかじゃなくて…それが今の、わたしの心。
意図的に、過剰に翼へとシェアエナジーを送る。そうすれば当然プロセッサの翼は形を維持し切れなくなって、外側にシェアエナジーが溢れ出す。その状態で、わたしは突進をかけ…溢れ出したシェアエナジーの奔流で、負常モンスターを切り裂いていく。放出するシェアエナジーの領域、それが全て攻撃範囲となって、押し退けるようにして薙ぎ払う。
過剰に流せばその分消費も激しくなるし、形が崩れてる訳だから機動力も落ちるし、おまけに長い時間やり続けると、完全に翼が崩壊する。だから多用は出来ないけど…攻撃能力は、十分。
「これぞシェアエナジー・ドライブ…なんてね。…もう少しの間、示させてもらうわよ…!プラネテューヌの守護女神、パープルハートの力を…ッ!」
真正面の相手は斬って、左右は全て吹き飛ばして、わたしは空を疾駆する。駆け、飛び、示す。わたしがここにいるという事を、負常モンスターと…共に戦う、皆に。
*
「ふッ……でぇいッ!」
突撃槍を作り出し、身体を捻るようにして投げ放つ。続けて左右で四本、合わせて八本のナイフを精製し、両手でそれ等を別々の方向に、大体の位置に向けて投擲。更に突撃槍が深々とめり込んだ超大型負常モンスターに肉薄し、突撃槍を掴み、そのまま一気に貫通させる。
「ふ、ぅぅ……次…ッ!」
数秒だけ、息を吐く時間だけ止まり、すぐにまた動き出す。のんびりしている余裕はない。戦況的にもそうだし…何もしなくたって、負常モンスターはシェアエナジーの塊である女神に殺到してくるんだから。
交戦開始から、どれ程時間が経ったかも分からない。中型までは勿論、大型すらある程度は流れで撃破出来るレベルな事と、無限という物量の前じゃ、時間の感覚なんてすぐに麻痺をしてしまう。
(長期的に考えれば女神だって半永久的に戦えるとはいえ、もう消費を抑えていられる状況じゃない。人の皆は、弾薬にエネルギー、それに何より身体の限界が私達よりずっと早い。後少しで再編が完了するとはいえ、先の事を考えれば……)
普通戦いは、攻撃が全く効かないだとか全く当たらないだとかでない限り、時間が経てば経つ程互いに消耗していく。やられる場合は勿論、攻撃し倒すのだって消耗はあるんだから、戦況に関わらず本来戦いでは消耗を完全に避ける事なんて出来ない。
でも…そんな当たり前すら通用しないのが、負常モンスター。戦えば戦う程不利になるという、あり得ない戦いで…今はまだ良いけど、その内何かが底を尽き、そこまでの戦いを維持出来なくなる人や部隊が出てくる。そうなれば、それが広がれば……もう、終わり。考えれば考える程、本当にこの戦いは綱渡りで……
「皆さん!各国艦隊の再編率、90%を超えました!(`・ω・´)」
『……!』
突撃槍に用いたシェアエナジーを流用して作り出した鎖鎌を振り回し、鎌でも鎖でも薙ぎ払う中で届いた、イストワールさんからの声。それは朗報であり…同時に、合図。
再編後…即ち準備が整ったところで行うのは、連合エース部隊の支援を受けての電撃作戦。その為には、当然私達も再集合をしなくてはならない。
「オリジンハート様、行って下さい!」
「大丈夫です、我々はベール様の…女神様の力になりたくて軍人となった身。そう簡単に膝を突いたりはしませんとも!」
プラネテューヌからリーンボックスに移動していた私。その私の離脱を援護するように、複数のルイースフィーラが胸部のビームブラスターを同時斉射。照射ビームで私に迫る負常モンスターを焼き払い、続けて各機から分離した無人機が、一方的に負常モンスターの壁を破る。
ベール様の、と言いつつも躊躇いなく私の援護をしてくれる皆に感謝の言葉を返し、私は身を翻す。少しでも負担を減らせるよう、圧縮シェアエナジーを用いた加速を連続で使用し、一気に前線を離れていく。
向かう先は、プラネテューヌ。速度を維持したまま、武器の射出で可能な限り道中の負常モンスターを撃破しつつ、トップスピードで合流地点へ。
「ネプテューヌ!ネプギア!プルルート!」
決めていた合流地点は、最前線からは離れた場所。初めからプラネテューヌにいた三人はもう集まっていて、女神三人がいる為か、負常モンスターはそこに集中している。けど、更にその後方にいる戦闘艦からすれば、狙い易い場所に相手の方から集まってきてくれているようなもので…各種艦砲、ビームキャノンとレールキャノンの砲撃で以って、悉く負常モンスターは片付けられていた。それを逃れた個体も、機銃の迎撃とネプテューヌ達の攻撃によって、一体足りとも迎撃を抜ける個体は現れていない。
「あらイリゼちゃん。…そういえばイリゼちゃん、いつの間にかいなくなってたわねぇ」
「い、いつの間にかって……まあ私自身、気付いたらかなりリーンボックス寄りになってて、そのままリーンボックスに移ったからその通りだけども……」
今まで気付いていなかった、とばかりに言うプルルートにショックを受ける私…といきたいところだったけど、実際いつの間にかリーンボックス付近まで行っていた訳だから、ご尤も…としか言えない現実。
まあでも、今それはいい。近・中距離の負常モンスターは完全に迎撃されているから、更に遠く、まだこちらに引き寄せられていない負常モンスターを狙い、長距離射出で攻撃をかける。精密攻撃に向かない私の射出も、今となっては大雑把な方向さえ合ってればどれかしらには当たるというもの。
「おっまたせー!」
「ぴぃもおまたせー!」
「お、おまたせー…!」
同じ国にいたとしても、違う場所で戦っていれば、当然到着のタイミングもズレるというもの。ブランより先にロムちゃんとラムちゃんが来て、ほぼ同じタイミングでピーシェも来て、少しずつ皆が集まってくる。
それと同時に、援護を担う各国エースの準備状況も、逐一伝わってくる。色々気にせず動き回れる私達と違い、簡単な整備ならともかく本格的な補給や装備換装は自国の艦じゃないと出来ないエース達は、現地集合…というか、役目ごとの場所で展開し援護してくれるという事になっているから、今はまだここにはいない。
「ごめんなさい、遅くなったわ…!」
「大丈夫よ、セイツ。いーすん、状況は?」
「まもなく再編の方は終了します。ただ、ここまでの観測データからして、次の出現も……」
「次の出現…接近と負常モンスターの出現が重なってしまうのは危険ですよね。タイミングをズラしますか?それとも……」
負常モンスターは私達を比較的優先して狙ってくる以上、タイミングがかち合ってしまえばそれだけでかなりの足止めを喰らいかねない。悠長に構えていられる戦いじゃないとはいえ、急がば回れの思考も大切。数分から十数分程度で次の波が来るなら、どっちにしろその前に城内突入なんて困難だし、突入作戦の開始は次の出現が起こるのを待って……
「……いえ、待って下さい。これは…これまでと、反応が違う…?」
「…イストワールさん…?」
そんな思考をしていた最中、ふっと変わるイストワールさんの声音。私達へ向けての声から、独り言…驚きにより、思っている事がそのまま口を衝いてしまっているような声へと変わり……次の瞬間、私も…私達も、感じる。これまでと反応が違う…イストワールさんが口にした言葉の、その意味を。
(……っ…この、感覚は……)
遥か遠くの、天空に聳える負のシェアの城。そこから感じる。遥か遠くの距離だというのに、そこに集まるシェアエナジーの脈動とでも言うべき何かが、肌に、心に伝わってくる。
何かが起きる。何がかは分からないけど…大きな、何かが。それはきっと、恐ろしいもので……初めにそれに気付いたのは、うずめだった。
「……!皆、あれ…!」
うずめが指差すのは、負のシェアの城…ではなく、その下。凄く朧げで、はっきりとした形は見えない。ちゃんとした形があるのかも謎の、影の様な光が地上へと伸びていき……その朧げな光が伸びる先にあるのは、ギョウカイ墓場。墓場もここから正確に見える訳じゃないけど、方向からして…それに直感からして、間違いない。
超膨大な負のシェアの塊である城と、負のシェアに満ちる空間であるギョウカイ墓場。その二つを結ぶように影の光が伸び、繋がり……次の瞬間、波動が放たれる。どこか咆哮の様でもある、波紋の如く広がる闇色の波動が、一番初めの異変を思い出させるような力の放出が、四大陸全土に広がり駆け抜ける。
「不味い…分からないけど、不味いよこれは…ッ!もう間に合わないかもしれないけど、一刻も早く……」
あの時とは違い、物理的な力も…吹き飛ばされこそしないものの、衝撃と共に闇色の波紋は広がり…でも、これで終わる訳がない。間違いなくこれは、何かの余波、副次的に生まれたもので……起こった『何か』が、これでお終いな筈がない。
だから私は声を上げた。今からじゃ後の祭りだとしても、これを黙って見ていられるものか、と。けどこの言葉は、止められる。言い切る前に、次に見えた光景によって……止まってしまう。
「……う、そ…」
その言葉を口にしたのは、私か、それとも誰か。確かに、誰かしらは口にしていて…でも、分からなかった。自分が言ったかどうかも、分からなかった。遥か先で見える光景に……絶望的な現象に、思考の全てを奪われて。
これまで負常モンスターは、負のシェアの城の周囲、そのどこかから突然現れて…それこそ私が圧縮したシェアエナジーで武器を精製するように形となり、それが何千、何万、何億、何兆、何京、何垓……回数を重ねる事で、戦っている身からすれば既に無限と大差ない程にまで膨れ上がって、四ヶ国へと迫ってきた。その発生が、その出現が…今は、城の上から下まで、至るところで起こっている。生まれ、数を増やし、大群となり、薄い雲の様に城の周囲を渦巻き……尚も数を増やしている。増やし続けている。──これまで私達が、全ての戦力が懸命に倒してきた負常モンスターの数に匹敵する、或いは凌駕するんじゃないかと思わせる程に。
「は、はは…流石にこれは、アレだろ…?合体して、城諸共一つの超々巨大負常モンスターか何かになるって事だろ…?」
「…そう、信じたいですわ…そうであって、ほしいですわ……」
渇いた笑い声を漏らすブランと、感情の籠らない声で続くベール。…多分、あれを目にした全員が思っていた。ここまでの戦いは、ここまでに襲ってきた物量は…暴走状態の負のシェアの城からすれば、全力には程遠いレベルに過ぎなかったのか、と。
更に広がる、更に膨れ上がる、負常モンスターの巨大な積乱雲。そして、その一部が…流れ出す。
「……っ…冗談じゃないわよ、こんなの…ッ!よりにもよって、なんでこんな時に…ッ!」
「へぇ、ノワールちゃんは凄いわねぇ。あたしだったら、どんな時でもこんなの遠慮願いたいわ。…それで、どうするの?あんまり後ろ向きな事は言いたくないけど……予定通りに突撃なんて、無茶も良いところにしか見えないわよ…?」
いつも通りの余裕というか、さらっと黒い部分を見せるプルルートの言葉。でも見れば、顔には冷や汗が浮かんでいる。
誰も、余裕なんて持てる訳がない。きっとオリゼだって…これを正面突破するなんて事は、考えない。
「ふぇぇ…ど、どうするの…?」
「ど、どんどん来てるわよおねえちゃん!わたしたちも、行かないと……」
「ちょっ、待った二人共!確かに気持ちは分かるけど、そもそも負常モンスター自体はどんなに倒したって尽きないのよ?それにこうやって集合するのだって広がれば広がる程時間がかかるんだから、今また迎撃に戻ったら……」
「でも、突撃するのも…行けるのかな……」
慌てて動こうとしたラムちゃんをユニが止めて、そのユニの言葉にうずめが難しそうな表情を見せる。
解決する事を考えれば、ユニの発言は筋が通っている。でも、うずめの返しもまた真実。だったらこの状況で、このまま突撃をするのか。さっきプルルートが言った通り…そんなの無茶な事でしかない。
今必要なのは、変化した、激変した状況に対する答え。心のどこかに浮かぶ、「そんなものがあるのか」という恐れを押し殺して、見つけなきゃいけない答えの模索。
「何か、何か…そうよいーすん、一回負のシェアの城とギョウカイ墓場が繋がっていたわよね?もしかして、墓場の方で何かをすれば……」
「かもしれませんが、不確定要素が多過ぎます…!それに何より、ここから墓場に一度行くのは、城を目指すのと距離的に大差ありません…!」
「ベールさん、ヘブンズゲートで突破は出来ませんか…?火力は勿論、防御力だってヘブンズゲートは……」
「何隻も同型艦がいて、艦隊として一斉に仕掛けられるならまだしも、単独ではヘブンズゲートと言えど飲み込まれかねませんわ…!それに今艦船を動かせば、迎撃の方も綻びが……」
「…こうなったらもう、皆に頼んで、皆だけじゃなく神次元各国の軍や戦力にも力を貸してもらうしか……」
案は上がる。上がるけどどれも現実的なものじゃなくて、とても実行には移せない。私も私で、もうなりふり構っていられない、オリゼに戻ってきてもらって…という事を考えていた。でも思い返せば、オリゼも別の形で人を守ると言っていて…という事はつまり、オリゼも今は、戦いではない戦いをしている。違う方法で人を守っている。そしてそのオリゼを呼ぶという事は、今オリゼが守っている、これから先守られる人が救われなくなる訳で……これも、出来ない。呼び戻せる筈がない。
可能性があるとすれば、セイツが今言った、神次元の戦力に頼るという方法。でも向こうの女神の皆だけならまだしも、それ以外の人にも…っていうのは、よく知らない、何が起こっているのかも分からない『別次元』に、出兵を求めるという事。負のシェアの城を何とかしなきゃ次元衝突が待ち受けている以上、神次元からしても他人事じゃないんだとしても、今からじゃかなり無理があるお願いになるのは必至。
それでも今は、頼るしかない。打てる手は全て打たなきゃ、今は……
「…………え…?」
……そんな思考すら、そんな思いすら、負のシェアの城…負のシェアの暴走は、飲み込みにかかる。思考を続ける私の目には、映ってしまう。負常モンスターの積乱雲を纏う城、そこから再び闇色の波動が放たれ…周囲の空間が、歪む光景を。歪んだ空間は、幾つもの渦となり……門へと変貌していく一部始終を。
「……イスト、ワールさん…あれ、は……」
「…まさか、そんな……、……ッ…!」
「い、イストワール…あれって、もしや……」
もう隠せない狼狽えのままに私は呟き、イストワールさんも声を詰まらせ、私に変わるようにしてセイツが訊く。訊いてから数秒後……受け止めきれない現実を伝えるように、イストワールさんは言う。
「…次元同士を繋ぐ、別次元への門です。恐らく、一つ一つが別の次元、異なる世界に繋がっており……内二つは、うずめさん達がいた次元と…神次元です」
『……ッ!!』
全員の声が止まる。全員が戦慄し、想像する。次に起こる事を、行われる事を。そしてそれは、すぐに現実となる。十以上開いた門、そこへ向けて負常モンスターの一部が、一部と言っても常識的な数値を遥かに超えた大群が、本流から離れる支流が如く流れ込んでいく。
「……っ…プルルート、ピーシェ…!」
「せーつ…ぴ、ぴぃよくわかんない。わかんないけど、これって……」
「…ねぷちゃん、ネプギアちゃん…皆……」
さっきの私…再集結地点に辿り着いた時の私の様に、セイツが二人を呼ぶ。分からないと言いながらも、ピーシェは理解をしている様子で……プルルートは、表情を歪ませていた。したくない決断があって…それでも選ばなきゃいけない、そんな苦しさを浮かべた表情を。
分かってる。誰かが言うまでもなく…三人は、神次元に戻らなきゃいけない。負常モンスターが神次元にも侵攻するというのなら、神次元の女神である二人は勿論、生まれは神次元でなくても、神次元の女神として歩んできたセイツだって、ここに残る事は出来ない。
そしてそれは、ただでさえ絶望的な状況の中で、女神三人の戦力がなくなるという事。神次元からの増援も、完全になくなったという事。…だから、過ぎってしまう。絶望的な、という評価ではなく…絶望の感情、そのものが。
(……終わり、なの…?まだ皆戦えるのに…人の皆は、きっとまだ諦めてないのに…なのに……)
まだ戦える。抗える。だけど、その先にあるのは何?一旦退くという事も、どこかに逃げるという事も出来ず、このままではどれだけ頑張っても勝てない状況で…どこへと向かって走ればいい?
女神は奇跡の体現者。《女神化》の存在もある。だけどそれはもう、対策じゃない。ただの期待で、何とかなってほしいと思うだけと変わらない事で現実を見るならもう、私達は……
「────諦めないでッ!まだ、何も…終わってなんか、ないよッ!」
諦観の思い。無理だと思ってしまいかけた心。私の心は、多分皆の心も、そんな暗闇に飲まれかけて……包み込まれそうになった、その時だった。──まだ諦めていない声が、まだ光を失っていない声が……今ここにいるネプテューヌとは違う、もう一人の
今回のパロディ解説
・『こんな事もあろうかと』
創作における、メカニックキャラのお約束的定型文の事。とはいえ、実際に言ってるキャラや場面は少ない…というか、ネタ的発言として使われる事の方が多いですね。
・シェアエナジー・ドライブ
ガンダムシリーズ(宇宙世紀シリーズ)における推進システム、ミノフスキー・ドライブのパロディ。特にV2の光の翼ですね。似たような事を、OPでネプギアもやりましたが。