超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第三話 あの子もこの子もモンスター

 イストワールさんは、二人の次元と世界を探し、そこと接続出来るように調べてみると言ってくれた。暇でもない筈なのに、二つ返事で引き受けてくれたイストワールさんには、感謝しかない。

 そのイストワールさんに「これからどうするのか」と訊かれ、一先ず街を出歩いてみようという事になった。とはいえ、考えてみれば愛月君は生活圏外から教会まで歩いてきている訳だし、イリスちゃんだって不安からくる精神的な疲労がある筈。だから街に出るのは、明日にして……まずは、ご飯にする事にした。

 

「頂きまーす!」

「ん、頂きます」

 

 二人の事を…というか、次元の情報を得る為の手掛かりとして二人をイストワールさんが調べた後、私達はプラネタワーの上層階、居住エリアとして使っている階層へ。リビングルームに該当する部屋でイリスちゃん、愛月君に待っていてもらい、そこと繋がっている台所で私は皆の分の炒飯を作った。

 炒飯にしたのは、そんなに時間がかからない料理且つ、買い出しをせずとも冷蔵庫の中の食べ物だけで作れる料理だったから。もう少し早ければ、食堂を活用する事も出来たんだけど…その時間は過ぎちゃってるから、仕方ない。

 

「どうかな?あり合わせの具材で作った炒飯だけど…」

「大丈夫、凄く美味しいよイリゼ!」

「濃過ぎない味と、パラパラ感が、とても良い。イリゼは、料理が上手」

「そっかそっか。それは良かったよ」

「悪いわね、イリゼ。わたしの分まで作ってもらって…」

「気にしないで。ブランだって急遽来てくれた訳だし、色々説明は任せてた訳だしさ」

 

 見るからに美味しそうな顔をして食べる愛月君と、淡々としているながらも次々炒飯を口に運ぶイリスちゃんの言葉を受けて、私も自然と頬が緩む。…うん、確かに美味しい。

 待っている最中、ブランに任せていたのは信次元の説明。…と、言っても片っ端から話していたらそれだけで一日が終わっちゃうから、取り敢えず生活圏外にはモンスターがいるだとか、今の信次元は平和そのもの…と言える状況ではないとか、そういう話をしてくれていた…んだと思う。

 

「ふふふ…やっぱりイリゼは、お母さんって感じあるよね」

『お母さん…?』

「ちょっ、だから止めてって!今は炒飯作っただけでしょ!?」

 

 ともかく二人が美味しそうに食べてくれるなら、それだけでも私は満足。…と思っていたら、或いはそう思って微笑みが浮かびでもしていたのが悪かったのか、愛月君は半ばからかうように私をお母さんと呼んでくる。何が「だから」なのかは、まぁこの場では置いておくとして…いけない。こういうのは総回数が増えれば増える程そういう印象になっていっちゃうものだから、何としても阻止しないと…!

 そう思い、視線を移した私の目に映ったのは、一定のペースで食べ続けるイリスちゃんの姿。改めてイリスちゃんを見た私は…ある事に、気付く。

 

「…そういえば…イリスちゃん、暑くないの?」

「…言われてみると、少し暑い…かも?」

「まあ、でしょうね。脱いだらどう?」

「そうする」

 

 イリスちゃんの格好は、ロムちゃんやラムちゃんの物と同じデザインのコートに、赤いマフラーという、見ての通りの防寒仕様。でもそれはつまり、ルウィーに合わせた服装な訳で…やっぱりちょっと暑かったらしい。

 という訳で、ブランに言われてイリスちゃんは脱ぎ、再び食事の為にスプーンを持つ。…マフラーはそのままに、コートだけ脱いで。

 

「…イリスちゃん、マフラーは?」

「マフラーは、いい」

「いや、でも…マフラーだって、そのままだと結構暑く……」

「いや」

 

 食事を続ければ、それで更に暑くなるだろうし…そう思って、話を続ける私。けれど次の瞬間、イリスちゃんははっきりと拒否。静かに、無表情に…けれど、拒絶をも感じる雰囲気で、はっきりと取るのは嫌だと返す。

 それにより生まれた、一瞬の静寂。それに気付いてかいまいか、一度食べる手を止めたイリスちゃんは、スプーンを持つのとは逆の手でマフラーの端をきゅっと握り…言う。

 

「これ、ブランのマフラー。ブラン、感じる。…だから、いや。イリス、これ離すの、いや」

「…イリス、貴女……」

 

 それは、ブランへの絶大な信頼。マフラーを介したブランへの信頼であり…イリスちゃんにとっての、愛着の表れ。

 だとしたら、マフラーを外させる訳にはいかない。イリスちゃんにとっては、暑さ云々よりも…ブランを感じられる事の方が、大切だろうから。

 

「…その、ごめんねイリスちゃん。イリスちゃんがそこまでマフラーを大事にしていたなんて思わなくて…」

「問題ない。けど、そういう事だから、イリスは離さな……」

『……?』

「……。……閃いた」

「え?い、イリスちゃん?」

 

 離さない。…そう話すと思いきや、言い切る直前で言葉を止めたイリスちゃん。何だろうと思って私達が見ていると、イリスちゃんはブランの方を向き、それから「閃いた」とおもむろに一言。

 一体何を閃いたのか。余計分からなくなる中、イリスちゃんは炒飯のお皿をブランの炒飯のすぐ隣へ。そして……

 

「これなら、ブランを感じられる。とても妙案。革命的」

「あー……うん、そうね…」

 

 炒飯と共に移動したイリスちゃんは、何食わぬ顔でブランの膝の上へと着席。ご満悦そうな言葉を発し(声音は変わらないけど)、マフラーを自分の膝の上に置いて、再び炒飯を食べ始めるのだった。

 これには、ブランも、私も、愛月君も…苦笑いをするしか、ないのだった。…は、はは……。

 

 

 

 

 食事も終わり、片付けも済み、今はお昼と夜の中間…とでも言うべき時間。そして私は、ある事をする為…二人を私の部屋へと案内していた。

 

「楽しみだなぁ…♪」

「…愛月、イリゼの部屋、楽しみ?」

「あ…ううん。イリゼの部屋がって訳じゃなくて、そこにいる知り合い…いや、知りポケ?…が、楽しみなんだ」

「……?」

 

 後ろから聞こえてくるのは、二人の会話。多分だけど、愛月君は顔を綻ばせていて、イリスちゃんは変わらずの無表情だけど興味は示している感じで、それをブランが穏やかな顔で見ている…って光景なんだと思う。見なくても、十分浮かぶ。

 

「ふふっ、きっと喜んでくれると思うよ。イリスちゃんとも、すぐ仲良くなってくれるんじゃないかな」

「仲良く?…知りポケ、はよく分からない…けど、それは嬉しい」

「うんうん。…あ、でもあんまり大きい声出したりはしないでね?部屋にはもう片方の子…怖がりの子もいるから」

「もう片方の子…それって、もしかして……」

 

 そういえば、愛月君には向こうの世界でお世話になった時、話した事があったな…と思いながら一つ首肯。それから私は足を止め、くるりとその場で反転をする。そうした理由は…勿論、もう私の部屋の前へと着いたから。

 大丈夫だとは思うけど、本当にお願いね?…と私は念押し。それに二人が頷いてくれたところで、私は部屋の扉へ手を掛け…開く。

 

「ライヌちゃん、るーちゃん、ただいま。お客さんだよ〜」

「ぬら〜♪……ぬら…!?」

「ちる〜♪……ちる?」

 

 そう。言うまでもなく、私の部屋にいるのはライヌちゃんとるーちゃん。賢いライヌちゃんとるーちゃんはもう「お客」という言葉が何を指すか理解していて…けれどそのお客さんを見ての反応は対照的。るーちゃんは初対面の相手がいる事に、誰だろう…?と言いそうな表情を浮かべて、逆にライヌちゃんはびくりと震えてその場で固まる。

 

「るーちゃん!るーちゃん久し振り〜!」

「ちるる?……ちるっ!ちるちる〜!」

「…鳥?モンスター…?」

 

 にこっと笑顔を浮かべ、再会への喜びを声に籠らせる愛月君。その愛月君に呼び掛けられたるーちゃんは、じーっと見つめ…るーちゃんもまた愛月君を思い出したのか、彼の周りをくるくると回る。

 それだけでもほっこりとするような、微笑ましい光景。暫し眺めたくなる気持ちもあるけど…イリスちゃんはきょとんとしているし、ライヌちゃんの紹介もまずはしなきゃいけない。

 

「るーちゃーん、ちょっと来て〜」

「ちるちーる…ちる?」

「よいしょ。…イリスちゃん。この子はね、るーちゃんっていうの。今はここに住んでるんだけど、元々は愛月君と同じ世界にいたんだよ」

 

 回っていたるーちゃんを呼び戻して、胸元へ来たところでキャッチ。そういえばこの子は誰だろう…みたいな顔をしているるーちゃんの頭を軽く撫でつつ、るーちゃんの事をイリスちゃんへ伝える。

 その間、イリスちゃんはるーちゃんの事をじっと見ていた。興味…は勿論あるんだろうけど、それだけじゃなさそうというか…あれ?愛月君は当然だけど…イリスちゃんも、モンスターを怖がってない…?

 

(幾らライヌちゃんやるーちゃんが可愛いと言っても、普通は怖がるなら警戒するなりするよね…。まさか、モンスター自体を見た事がないとか…?)

「るーちゃん…触ってみてもいい?」

「あ、僕もいいかな?」

「…っと、勿論。けど、強く引っ張ったりとかはしないでね?」

 

 るーちゃんの両脚の少し外側に手を置いて差し出せば、二人はるーちゃんに左右から触れる。二人共優しく、気遣いながら触ってくれる。

 

「ん〜…やっぱりるーちゃんの翼はふわふわだね

〜♪」

「確かにふわふわ。中々の触り心地」

「ちるっ、ちるるふぅ…!」

「ふふ、くすぐったそうね」

 

 確かにちょっとくすぐったそうなるーちゃんの様子に、私も思わず笑みが溢れる。人懐っこいるーちゃんだから元々心配はなかったけど、この様子ならやっぱりるーちゃんは大丈夫な様子。だから二人が満足したところで、私はるーちゃんを離し…今度は後ろのライヌちゃんを抱っこ。

 

「ぬ、ぬら……」

「それで…こっちはライヌちゃん。ライヌちゃんは怖がりだから、近付いてはくれないかもだけど…悪くも思わないでね?」

「そっか…うん。怖がり屋なら、仕方ないよね」

「…………」

「…イリスちゃん?」

「…ライヌちゃん、おいで」

「うぇ?いやだから、ライヌちゃんは……」

 

 抱っこしてあげてるからか物陰に隠れるような事はしないけど、それでもぷるぷると震えていたライヌちゃん。その様子を見て、愛月君は頷いてくれたけど…何を思ったかイリスちゃんは、暫し見つめた後にライヌちゃんを呼び、招き入れるように両手を広げる。

 いや、分かる。イリスちゃん位の子なら、「近付くのは駄目でも、向こうから来てくれるならいいよね?」…みたいに考えるのかもしれないし。けどその前に怖がりだって伝えた訳で、なのにおいでというのは流石に思いもしなっ……

 

「…ぬらっ」

『え……!?』

 

……そう、私が思っている時だった。ライヌちゃんが、怖がりなライヌちゃんがぴょこんと私の胸元を離れ…イリスちゃんの足下にまで行ったのは。

 

「ちょっ、ら、ライヌちゃん…!?」

「私、イリス」

「ぬら…ぬらぬら」

 

 その怖がり具合を十分に知っている私とブランが唖然とする中、しゃがんだイリスちゃんは自己紹介。対するライヌちゃんは普通に鳴き声を返していて……ま、まさか…ライヌちゃん、イリスちゃんを怖がってない…!?

 

「……?ぬらぬら…?」

「ぬら、ぬーらぬら〜」

「…ぬらぬら」

(しかも喋ってない…!?嘘ぉ…!)

 

 驚きなんてものじゃない。性格…というかそういう性質を持ってるんじゃないかと思う程ライヌちゃんは怖がりで、同じモンスター(種類も世界も違うけど)のるーちゃん相手ですら初めはびくびくしていたライヌちゃんが、初対面でこんな普通に接するなんて…正直言って、信じられないのレベルだった。実は初対面じゃない、昔仲良くしていた…って言われた方がまだ納得出来そうな程、信じられない光景だった。

 

「ぬらっ、ぬらぬらぁ♪」

「…ん。イリゼ、イリゼ」

「…あ……な、何かなイリスちゃん…」

「ライヌちゃん、優しい子。イリスはライヌちゃん好き」

 

 最終的にイリスちゃんはライヌちゃんを両腕で抱え、さっきの私の様に抱っこ。抱えられたライヌちゃんは、のんびりとした…怯えなんか微塵もない顔をしていて…よく分からない。分からないけど…ライヌちゃんは、イリスちゃんの事は怖がらない。それはどうも、紛れもない事実らしかった。

 

「そ、そっか…え、と…イリスちゃん、もしかしてライヌちゃんの言う事が分かるの…?」

「うん」

「な、なんて言ってたの…?」

「ぬらぬら」

「へ…?ぬ、ぬらぬら…?」

「ぬらぬら」

「…ぬらぬら、って……?」

「ぬらぬらは、ぬらぬら」

 

 分かっているのかいないのか。感覚的に理解しているだけなのか。…残念だけど、やっぱり私がライヌちゃんの言葉を理解する事は、叶わないようだった。

 

「良いなぁ…僕も抱っこしたいけど……んぇ?るーちゃん?」

「ちるー?ちるっち、ちる、ちるるーぅ?」

「……?抱っこしてほしいの?」

「ちるう」

(……!出た、るーちゃんの「違う」って言ってる気がする「ちるう」…!)

「え、じゃあ…あ、グレイブの事?」

「るちっ!」

 

 そんな事を思っていたら、るーちゃんも愛月君とやり取りをしていて…確かにその動きは、誰かを探しているような感じ。考えてみれば二人もずっと一緒にいた訳だし、るーちゃんの中ではセットで記憶していた…って事なのかもしれない。

 

「グレイブはねぇ…どうなんだろうね?来てるかもしれないし、来てないかもしれないっていうか……」

「ちるぅ…ちるーる、ちるちる」

「あはは、もしかして慰めてくれてるの?ありがとね、るーちゃん」

「ちるー?……ちる〜」

「うんうん、やっぱりるーちゃんは柔らかいね。…あ、そうだ」

 

 気に掛けてくれてありがとう、と愛月君がるーちゃんを撫でれば、るーちゃんは何か不思議そうな顔に。それは、どうしてこの流れで撫でられるんだろう…と言いたげな表情で…でもまあ撫でられる事は嬉しいのか、るーちゃんもるーちゃんでのんびりとした顔をしていた。

 と、そこで愛月君はある物を取り出す。…あ、これはもしかして……

 

「ほら、出ておいでスター」

「ブーイっ!」

「……!?」

「ぬらら…!?」

 

 取り出されたのは、上が赤で下が白の、シンプルな見た目をしたボール。けどそれは、ただの玉ではなく…愛月君の住む世界、そこに存在する生物である『ポケモン』と密接に関わる道具である、モンスターボール。

 そのボールを放ると、中から一匹のポケモンが出現。その子は見るからにふわふわとした、白銀の毛並みを持つポケモンで、特に首回りの毛が特徴的。見た目は耳の長い、犬や猫、狐や兎の様な…でもどれか一種類に絞るのは難しい感じの、そんなポケモン。

 

「ブラン、今、ボールから出てきた。ロムとラムが好きなゲームと、似てる」

「そ、そうね…イリゼから前に聞いてはいたけど…わたしも少し驚いたわ…」

「ブイ…?」

「るーちゃん、皆、紹介するね。この子はイーブイっていうポケモンで、名前はスター。スター、ここにいるのは僕の友達とかお世話になる人だから、スターも迷惑かけちゃ駄目だよ?」

「ブー…ブイっ!イブイっ!」

 

 片膝を突いてその子…スターを撫でれば、スターはくるりと見回し元気良く返事。その後スターが真っ先に興味を示したのはるーちゃんで、るーちゃんも同じく興味を持ったらしく、ちるちるぶいぶいとポケモン同士で仲良く会話。それをイリスちゃんは、これまたじーっと見つめていて…そういえば、るーちゃんやスターの言葉は分かるのかな…?それとも、ライヌちゃん限定で分かっただけ…?……って、いうのは気になるけど…まあ、別に確認する程の事でもないかな、うん。

 面識がある分最初から良好な仲の愛月君とるーちゃんに、何故かは分からないけど一発で仲良くなれたイリスちゃんとライヌちゃん。折角の機会だし、愛月君も会いたがってるから…って事で紹介してみた私だけど、この結果は想像以上。勿論それは、想像した以上に良いって意味で…会ってもらってよかったな、と素直に思う私だった。

 

「…こういう無垢な姿を見ていると、癒されるわね」

「確かに。でもブランの場合、普段からロムちゃんラムちゃんがこういう姿見せてくれたりするんじゃないの?」

「二人も無垢といえば無垢だけど、悪戯好きだったり騒がしかったりするから…」

「あぁ……」

 

 二組の交流を眺めながら、私はブランと会話を交わす。これまでの不慮の次元移動は大概一悶着あったし、命の危機に瀕した事も何度かあったけど、この調子なら何事もなく終わりそう。勿論うち…信次元が抱えてる問題があるから、のんびり二人に観光してもらう…って訳にはいかなくなるかもしれないけど、取り敢えず今のところは大丈夫……なんて、後から思えばフラグっぽい事を考えていた直後、部屋の扉がノックされる。

 

「はーい。ってあれ?イストワールさん?」

「…イリゼさん、ブランさん。少し、良いですか…?」

 

 来たのがイストワールさんだと分かり、そのまま招き入れる私だけど、何やらイストワールさんは神妙な様子。何かあったんだと分かった私達は、元いた場所に戻った後に表情を変えずに話を聞く。

 

「…緊急事態ですか?」

「いえ…先程調べさせてもらった情報から、早速お二人の元いた次元、元いた世界を探そうとしたのですが…一つ、気になる事がありまして…」

「気になる事…?」

「…単刀直入に言います。イリスさん…彼女は恐らく、人ではありません。もっと言えば…モンスターに、酷似しています」

『……!』

 

 緊張が走る。人ではなくモンスター。人の姿をした…或いは、人に擬態したモンスター。もしそれが本当なら…今ここには、得体の知らないモンスターがいるって事になる。愛月君のスターも、私達からすれば未知の存在な訳だけど…愛月君が連れている以上、イリスちゃんとは全く違う。

 

「…イストワール。それはあくまで……」

「えぇ。あくまで信次元を基準として見た場合です。イリスさんの次元では、イリスさんの様な人が普通なのかもしれませんし、可能性の域を出ない話です。ですが……」

「無視出来る話でもない…という事ですね。私も同感です」

 

 そう。どんな所かも分からない別次元の存在な以上、はっきりとした事は言えない筈。けど、酷似してるのを偶然で済ませるのは些か楽観的過ぎるし…もしイリスちゃんがモンスターだというのなら、ライヌちゃんが怖がらなかった事にも多少の合点がいく。誰に対しても怖がりなライヌちゃんだけど、女神や人と比較すると、別世界とはいえ同じモンスターであるるーちゃんへの怯えは早い内に解消されたし、それだけが理由…って訳じゃなくとも、怯えない理由の一員にイリスちゃんがモンスターだから、というのはあるかもしれない。それに…二度イリスちゃんが言いかけた、「も」で始まる言葉…一度目は「もん」とまで言っていたし、ここも「モンスター」と言おうとしていたのなら、流れとしても納得がいく。可能性の域を出ないけど…可能性は、十分にある。

……なら、どうするか。私とブランは視線を交わし、愛月君達の事も見て…それから私が、前に出る。

 

「…イリスちゃん」

「ん、何?」

 

 一度ライヌちゃんを下ろし、頭の先を撫でていたイリスちゃんの名前を呼ぶ。振り返ったイリスちゃんは、何の曇りもない瞳で私を見る。そんな瞳を、私は見返し……言う。

 

「イリスちゃん……貴女はもしかして、モンスターなの?」

「え……」

 

 私からの問いを聞いた瞬間、表情も身体も固まるイリスちゃん。この言葉に愛月君は目を丸くし、ライヌちゃん達はきょとんとしていて……数秒の間硬直していたイリスちゃんは、視線をブランへ。それから私達の事を見回し……小さな呻き声を上げる。

 

「う……」

 

 どうしよう…とばかりの視線を送り、困ったように呻いたイリスちゃんは、今一度私を見て…それからしゃがみ込む。しゃがんで、両手できゅっと頭を抱える。その小さな手で、自分の頭を守るように。

 

「い…イリスちゃん…?」

「…イリス、モンスターだって事、隠してた。けど、騙そうとした、違う。…イリス、悪いモンスターじゃ…ない…」

 

 まるで敵対しない某有名モンスターみたいな発言も交えながら、怖がるように座り込んだまま、イリスちゃんは言う。騙そうとした訳じゃないと。悪いモンスターではないと。

 それはあまりにも、心の痛む言葉と格好。モンスターといえど、その見た目は小さな女の子そのもので、しかもその言葉通り、今のところ悪い事は何もしていない。悪意も全く感じない。そして何より、イリスちゃんは倒される事を恐れていて……

 

「あ、あのねイリスちゃん。私は別に、責めようとかそういう……」

「…大丈夫だよ、イリスちゃん。大丈夫」

「愛月…?」

 

 そういうつもりで言ったんじゃない。そう言おうとした私より先に、愛月君はイリスちゃんの側に寄り、怖がる肩に手で触れる。穏やかな、優しい声をかけながら。

 

「…愛月は、イリスの事、怖がらない…?」

「勿論だよ。だってイリスちゃんが悪いモンスターじゃない事は、分かってるもん。ライヌちゃんだって、そういうのを感じなかったから、すぐ仲良くなったんじゃないの?」

「…イリスの事、倒さない…?」

「うん。イリスちゃんは悪い事してないし…僕の世界じゃ、ポケモン…ポケットモンスターと一緒に暮らすのは、普通の事だからね。イリゼ達だって、そうでしょ?」

 

 顔を上げたイリスちゃんへ、愛月君はその優しい声音で伝える。何か、特別な事を言っている訳じゃない。だけどそれは、愛月君の正直な気持ち。心からの言葉。声を聞くだけで…愛月君が本当にそう思ってるんだって、伝わってくる。

 それから愛月君は、私達の方を向く。その問いを受けた私は、その振りを受けた私達は…勿論、首肯で返す。

 

「ごめんね、イリスちゃん。私は確認したかっただけで、怖がらせる気なんてなかったの。…大丈夫、私も倒したりなんてしないから。モンスターでも、仲良くなれる子はいるって事は…ライヌちゃんやるーちゃんで、よーく知ってるから」

「…安心なさい、イリス。……別次元の存在だってのに、最初からずっと全幅の信頼を寄せてくるような相手を襲う程、冷たい女神になったつもりはないわ」

「イリゼ、ブラン…」

 

 言葉と共に、微笑みかける。イストワールさんも、うんうんと頷く。それを見たイリスちゃんは、一人一人の目を順番に見て……それから、立ち上がる。ほっとしたように、安心したように。

 

「…愛月、優しい。イリゼもブランも、皆優しい。…イリス、嬉しい」

「うんうん、でもびっくりしちゃったよ。イリスちゃん、全然モンスターに見えなかったから」

「ん、身体の形を変えるのは得意。…はっ、さっきの格好より、身体を固そうなものにした方が、痛いのにも耐えられた…?」

「いやさっきのあれ、防御姿勢だったのかよ…確かにカリスマガードって前例はあるけどよ…」

 

 ご飯の時同様、閃いた風なイリスちゃんの発言に、呆れ気味でブランが突っ込み。それに私達も笑みを漏らし…緊張していた空気も、完全に戻る。

 今イリスちゃんへ伝えた言葉に、嘘はない。モンスターだって事には驚いたけど、モンスターもそれそれだという事は…必ずしも人を害する訳じゃない事は、ずっと前から知っているんだから。今は神次元の方に行っているからすぐ会う事は出来ないけど、海男さん達の様に、ちゃんと会話出来るモンスターだっているんだから。

 だから、私の考えは変わらない。イリスちゃんがモンスターであろうとも…愛月君と同じように、ちゃんと元の居場所に帰れるように全力を尽くす。…と言っても、帰還に直結する事で、私に出来る事があるかどうかもまだ分からないんだけどね。

 

「……あ」

『……?』

「イリス、もう一度、言う。…私、イリス。モンスターだけど、人は襲わない。仲良くなれたら…嬉しい」

「イリスちゃん…うん!こっちこそ、宜しくね!」

「うん。仲良くしようね、イリスちゃん」

 

 改めて発された、イリスちゃんからの自己紹介。それに私達は、笑顔で答え…イリスちゃんがモンスターだったという件は、円満に解決。

 そうしてその日はプラネタワーの中で過ごし、私の部屋で寝る事になった。ブランも今日は泊まっていく事になり……布団を並べて、皆で就寝。驚きの形で始まったイリスちゃんとの出会い、愛月君との再会だけど…二人が帰還する日まで、これまでと同じように多くの楽しい思い出を作りたい…そんな思いが、確かに私の中にはあった。




今回のパロディ解説

・某有名モンスター
ドラクエシリーズのモンスターの一種、スライムの事。悪いモンスターじゃないよ、ですね。イリス的にも、結構これは合っているパロディじゃないかなぁと思います。

・カリスマガード
東方Project系作品に登場するキャラの一人、レミリア・スカーレットの使う、しゃがみガードの通称の事。あんな感じでしゃがんでいるイリス…可愛らしいですね。
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