超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
ネプギアが城壁に穴を穿ち、ユニちゃんが道を切り開き、ベールとロムちゃんとラムちゃんがそれに続いて、突破口が完成した。その道を駆け抜け、わたし達は負のシェアの城へと突入した。
「もう一度いくよッ!」
「えぇッ!」
先頭を飛ぶわたしが壁を斬り付け、続くノワールとイリゼが突進突きで壁を破壊。数秒後、今度はネプギアが天井へと一撃放ち、ブランとうずめがアッパーカットで破壊し上に道を作る。
突入後、わたし達はこれを繰り返している。入った瞬間、ギョウカイ墓場と同じような…いや、墓場より狭い分濃縮されているのか、墓場を超えていそうな位の負のシェアの感覚が身体に纏わり付き…でもその中で感じる、より強くより深い気配を目指して、わたし達は力技での侵攻を続けている。
超再生が出来るのは城壁だけなのか、それともまだ内側にまで超再生能力が反映されていないのかは分からないけど、幸いな事に内部の再生力は変わっていない。おかげでネプギアの能力抜きにも進路を切り開く事が出来て…何度目の破壊の末、わたし達はこれまでよりも広い通路に出る。
「ここは……」
一度止まって、通路を見回す。中に入ってからは負常モンスターの攻撃もなくて、落ち着いて周囲を確認するだけの余裕がある。…まあ、ゆっくりはしていられないけども。
「…こっち、だね」
すっと左側を向くイリゼに、わたし達も頷く。女神の直感が、本能が、こちらであると指し示している。だからそれに従い、わたし達は移動を続け…見えてきたのは、大きな扉。
「このまま突き進むわよ!ネプギア!」
「うんっ!」
突入後、一旦ネクストフォームを解いたネプギアがビームを照射。同時にわたしもエクスブレイドを撃ち込み、扉を破壊し、再生前にわたし達は全員扉の内側へと滑り込む。
飛び込んだ先に広がっていたのは、十分に飛び回れる程の大部屋。これがどんな目的で作られた部屋なのかは分からないし、もしかしたら暴走後に作られた、変化した部屋かもしれないけど…それは別にどうでもいい。それよりむしろ、今気になるのは……
「う…なんかここって、ゲームならイベント戦闘が起きそうな場所だよね……」
『あ……』
多分、感じた事をそのまま口にしたんだと思ううずめ。正直それはわたしも思ったし、皆思った事だと思う。でも、そういうのは所謂『フラグ』な訳で……次の瞬間、壁と天井の境のない、ドーム状となった大部屋の壁面から、滲み出るように負常モンスターが生まれ始める。
「え…えぇぇっ!?こ、これうずめ!?うずめが言ったせいなの!?」
「い、いや落ち着けようずめ。流石にそうは言わ……」
「なんでそこで黙っちゃうの〜!?」
否定の言葉をかけようとしたブランだけど、途中で口を閉ざしたものだから、うずめはがびーんとした顔に。…ま、まあでもブラン、気持ちは分かるわ…だってうずめには、妄想能力があるし…。…って、こんな気の抜けた事を考えてる場合じゃないわね…!
「迎撃するわよ、皆!」
「うぅ…うずめのせいじゃないんだからぁ!タイミングが悪いわんわんめー!」
壁を離れると同時に襲ってくる負常モンスターを、ノワールの声を合図にするように迎撃開始。斬り裂き、薙ぎ払い、隙を見て壁にエクスブレイドを撃つ。壁を離れる前に、可能な限り負常モンスターを叩く。
現れる負常モンスターの性質はこれまでと変わらない。壁中から現れているとはいえ、その量だって外程じゃない。けどその反面、飛び回れるとはいっても屋内は屋内な以上、外に比べると回避にどうしても制限がかかってくるから…結果として、外と脅威度は大差ない。…だから、わたしは思う。変わらないんじゃ、困る…って。
(ここで出てくる負常モンスターが有限なら倒し切るまでだけど、もし外と同じように、幾ら倒しても出てくるんだとしたら……)
回避し、迎撃しながら、わたしは部屋の一角…入ってきたのとは別の扉を見やる。次に向かうべきはあの扉の先で…でも、そこに行くだけじゃ駄目。それじゃあ現れた負常モンスターがどんどん追い掛けてきて、必ずどこかで障害になる。
「ネプギア!さっきみたいに、負常モンスターの発生そのものを無効化するような事は出来ない!?」
「ごめん、それは厳しいかも…!一箇所の穴だけ変化させれば良かったさっきと違って、負常モンスターの発生を止めるってなると城全体を影響下に置かなきゃいけないから…!」
「確かにそれが出来るなら、負常モンスターの発生じゃなくて城自体の無力化をした方が手っ取り早いもん、ね…ッ!」
射線上の相手諸共ネプギアが照射ビームで薙ぎ払い、イリゼは上下に、互い違いに刃の付いた…双刃剣ならぬ双刃鎌?…みたいなのを持ち、ブーメランの様な投擲も織り交ぜ負常モンスターを引き裂いていく。……いや、ほんとに何なのかしらアレ…某太陽少年の兄が使ってたやつ…?…どっちにしろ、ほんとイリゼは珍しい武器もよく使うわね…それ以上というかそれ以前に、そもそも武器じゃないもので戦う仲間もまあまあいるから意外と目立たないけど……。
…じゃないわよ、わたし…!発生を止める事は出来ない、打ち止めがあるかどうか、あってもそれがいつなのかだって分からない以上、ここでの最善手は……
「…皆、先に行って!ここはわたしが押し留めるわ!」
暫く前のように、大太刀とエクスブレイドでの二刀流に切り替えていたわたしは、二本を振らずに左右へ広げ、飛ぶ勢いだけで悉く斬り裂きながら皆に伝える。
殲滅してから進む、という手が現実的じゃない今は、誰かが押し留めるしかない。これもまたフラグみたいな発言だから、あんまり言いたくはなかったんだけど…皆が全力で、わたし達を信じて戦ってくれているんだから、もうそんな事は気にしない。
「…確かに、この状況じゃそれが一番現実的だな……!」
「でしょ?大丈夫、ここはきっちりわたしが……」
「待った。同感だけど…だったらここは私と…そうね、私とブランで受け持つわ」
「え?」
わたしの言葉に、すぐ反応してくれたのはノワールとブランの二人。でもノワールは、自分とブランがここに残ると言って…それにブランも首肯する。
「ま、その方がいいな。この中で機動力なら能力含めてノワールが頭一つ抜けてるし、止める事に関しちゃ、わたしのネクストフォームの力が一番向いている。…だろ?ネプテューヌ」
「…確かにそうね…だったら、ここは二人に任せるわ!」
押し留めるという目的と、追い付く事を考えた機動性。ブランの言う事は筋が通っていて、だからわたしは考えを変える。二人なら、ここを任せる事に不安なんて一つもない。
「のわっち、ぶらっち、お願いねっ!」
「先に行きます、ノワールさん、ブランさん…!」
「応よ!一体たりとも抜かせやしねぇから、安心して先に行けッ!」
「ふふっ、心配はしてないよ。…こちらこそ、任せてもらおうか。ここから先の事を、決着を」
一斉攻撃で道を切り開き、扉へ向けてわたし達は突進。その間、ノワールとブランはペースを上げ、豪快な動きで負常モンスターを蹴散らしていき……
「──行ってらっしゃい、ネプテューヌ」
「…えぇ、行ってくるわノワール」
すれ違う瞬間、交差する一瞬……わたしはノワールと、互いの左手を打ち鳴らした。それ以上の言葉は要らない、これだけで十分だと…お互いに、小さく笑みを浮かべ合って。
「…さて、と。んじゃあもう暫くの間…圧倒するとしようじゃねぇかッ!」
「勿論。まだ相手は分かってないようだから、見せてあげるとしましょ。私達の…次世代の、守護女神の力をッ!」
破壊した扉から更に奥へと向かう直前、聞こえた声に振り返ってみる。するとそこでは、シェアエナジーの輝きと共にネクストフォームとなった二人がいて……直後、ノワールの周囲にいた負常モンスターが全て、完全に同時に斬り裂かれる。ブランの周辺にいた負常モンスターも全て、例外なく完全に停止する。
それは、二人の…ネクストフォームの力を思えば当然の事。だから、わざわざ振り向くまでもなかったかもしれないなんて思いながら…わたしは進む。
*
負のシェアの城の中を、更に進む。段々近付いてきてるって事なのか、初めは何となくだった感覚が、少しずつはっきりしてくる。この奥、この先なんだって確信に変わっていく。
「……ッ!また…ッ!」
「強行突破だよッ!ほにゃーーッ!」
あの大部屋以降、負常モンスターは出てきていない。でもその代わりというように、散発的に壁や天井、床から負のシェアエナジーが広がり、通路を行き止まりの道に変えようとする。
今もまた、壁や天井から杭の様に闇色のシェアエナジーが伸びて、塞がっていく。でもわたしが声を上げた時点で、もううずめさんは攻撃に入っていて…形成途中だった壁は、音波攻撃で粉々に。
(…負常モンスターもだけど、どれも雑というか、原始的というか…ほんとにこれは、シェアエナジーの…負のシェアそのものの暴走なんだ……)
絶望が実体化した、って言っても過言じゃない程の物量で押し寄せ続ける負常モンスターは驚異そのものだったけど、逆に言えば物量以外は何も脅威じゃなかった。強いて言うとしても、超大型が普通の単発攻撃じゃ削り切れないって事位。そして、壁に至っては手間が増えるって位で、正直殆ど妨害にすらなっていない…気がする。先回りして、通路を完全に負のシェアで埋めちゃえばこっちは手間取るのに、今のところは場当たり的に…破壊される度、少し先に一つ作り直す程度の事しかしてこない。
誰かの意思じゃない、知性の関わっていない、凝縮された感情の暴走…だからこそ一つ一つを見ると単純過ぎるし、だからこそきっと…本当に、止まらない。目的も計画も、感情を元に行動を形付ける、始まりから終わりまでを決める部分が欠落しているだろうから、信次元も別次元も、何もかもを飲み込むまで…或いはそうなっても尚、終わる事はないのかもしれない。
だから絶対に、止めなきゃいけない。人や国を守る事は勿論だけど…もうとっくに、信次元や、三つの次元だけに留まる決戦じゃなくなってるんだから。
『せぇぇいッ!』
お姉ちゃんとイリゼさん、二人が左腕を振り抜くような挙動でエクスブレイドと巨大剣を放ち、また新たに現れた壁…それにその先に見えていた扉を、どちらも纏めて吹き飛ばす。
扉の先にあったのは、さっきと同じような部屋。…って、いう事は……!
「やっぱりここも…うわっ!?」
突入の直後から襲ってくる負常モンスター。それを避けつつ迎撃しようとわたしは下がりかけ…けれど直感的に、左へ回避。次の瞬間、一瞬前までわたしのいた場所に後ろから、入ってきた扉の上から負常モンスターの束が突っ込んできて、油断ならない事を再認識。
「この部屋も、さっきと同じって事なら……」
「対処もさっきと同じになるね…ッ!これが何回も続くなら、こっちの人数が足りなくなるけど…ッ!」
「けど、核はきっともうすぐだよ!なんだか、そんな気がするもん!」
聞こえるやり取り、その中のうずめさんの言葉に、わたしは頷く。わたしも、この城の…暴走する負のシェアの核が近いという事を、入った時点で感じていた。
「で、あれば…皆!ここは私が引き受けるよッ!ネプテューヌのネクストフォームの力、さっき見せてくれたネプギアのビヨンドフォームの力…この先何があるか分からない以上、二人の力はきっと有効に働く筈だからッ!」
「それならいりっち、うずめも手伝うよ!ねぷっち、ぎあっち!」
近接攻撃と武器の射出を組み合わせた迎撃をしながらイリゼさんが声を上げて、うずめさんがそれに続く。二人がそう言うなら、とわたしもお姉ちゃんも同意を返す。先に行けば行く程、責任は重大になる訳で、昔のわたしなら
尻込みをしていたかもしれないけど…もう、そんな事はしない。緊張はしても、「自分なんかに任されるなんて」より、「自分に任せてくれるんだ」って気持ちの方が、ずっと強い。
「行こう、お姉ちゃん!」
「そうね、一気に……」
また次の扉に向けて飛ぶわたし達。邪魔になる負常モンスターは躱して、倒して、閉まっている扉へと狙いを定めて、攻撃をしようとしたその時……わたしは、気付く。負常モンスターが、周りの壁が、ぼんやりと闇色の光を灯した事に。
そして次の瞬間、扉へ向けて照射のビームを撃ち込んだ事で…わたしは、理解した。その光の意味を。負常モンスターに生じた、一つの変化を。
(これは、まさか…再生能力…!?そんな、負常モンスターにまで……!?)
照射を止め、一振りで右手側の負常モンスターを薙ぎ払う。斬った手応えは、相変わらずほぼなくて…負常モンスターの中でも特に小さい、近くを飛んだ際の風圧だけで倒せちゃうような個体はこれまで通り消滅したけど、ある程度大きい個体は、斬ってもそこから再生していく。負のシェアを纏ったモンスターやダークメガミ、それにここの壁の様に、斬った側から再生を始めてしまう。
「うぇぇっ!?そんな、これじゃあ……」
「撃破の難度が跳ね上がる…ッ!」
これまでは、物量以外ほぼ怖くない、だけどその物量だけで絶望的な脅威となっていた負常モンスター。そこに再生能力が加わったら…これまでは一瞬で倒せていたものが、一部でもそうはいかなくなるんだとしたら、危険性はこれまでの比じゃない。どうも元が脆過ぎるからか、再生が始まる前に四散し消える個体も少なくないけど、何割かが再生し、そのまま攻撃を続けてくる。それだけで背筋が寒くなって……ぞっとする。
(それに、これじゃ…ここに押し留める事だって……!)
手数より威力と範囲を重視した、大口径のビーム射撃で再生を許さず倒してはいるけど、やっぱり殲滅速度は下がる。撃破のペースが落ちるって事は、抜かれる可能性も高くなるって事。だけど、だからって全員で迎撃を続けていたら本末転倒。ここに負常モンスターが現れ続けるんだとしたら、全員じゃない形で押し留めなくちゃいけなくて……次の瞬間、背後に感じたのはお姉ちゃんの気配。
「…ネプギア。さっきのあれ、負常モンスターに対しても通用する?負常モンスターの発生そのものや、全ての個体の再生無効化なんて大それたものじゃなくて…攻撃した相手の再生だけでも無効化するか、再生能力を鈍らせるか…その位の事なら、出来る?」
「それなら、出来ると思うけど…お姉ちゃん、もしかして……」
背中合わせに得物を振るいながら、わたしはお姉ちゃんと言葉を交わす。言葉を介して、お姉ちゃんの真意も感じ取る。
…確かに、それなら良いかもしれない。後々の可能性にも考慮して、じゃなくて今の最善を考えた選択肢だけど…先に何があるかなんて分からない。そういう時、保険をかけるのは大事だし…分からないからこそ、目の前の事にベストを尽くすのだって、何にも間違ってないと思う。だから……
「…イリゼさん、うずめさん!ここは、わたしとお姉ちゃんで食い止めますッ!再生能力があるのなら、わたしとお姉ちゃんの方が、負常モンスターを押し留められる筈ですッ!」
弾かれるように、わたしとお姉ちゃんは前に出る。直後、わたし達がいた場所へ真上から襲ってきた負常モンスターを、照射ビームで下から上に薙ぎ払って高度を上げる。
今打てる最善手は、イリゼさんとうずめさんじゃなく、わたしとお姉ちゃんで押し留める事。それを聞いたお二人は、わたしの方を見て目を見開いて…でも、続けて二人で顔を見合う。見合って、負常モンスターを回避して……頷く。
「分かったよ、ぎあっち!うずめ、ぎあっちとねぷっちの事…信じてるからっ!」
「私もだよ、ネプテューヌ、ネプギア。信じてるし…信じて。絶対に、この負のシェアの暴走を止めて…また皆で、帰るって」
「そんなの、一度たりとも疑った事なんてないわよ。わたしは皆の事を、心から信頼してるんだから。…でも…あくまで追い付く気で、ここの戦いを制するとするわ。だってわたしは…主人公だもの」
最後にちょっと、冗談めかして言ったお姉ちゃんの言葉に、皆で小さく頬を緩める。でも、そうだよね。押し留められればそれでいい、じゃなくて…追い付くつもりで戦わなくちゃ。わたしだって、主人公なんだから。
意思を固めたわたしは、ビヨンドフォーム化。同じようにネクストフォームとなったお姉ちゃんの、飛翔する斬撃が一気に扉までの道を斬り開き、わたしがM.P.B.Lと装着したままの大型四基、合わせて五門でのビームを撃ち込み風穴を開ける。
そこへ飛び込む、イリゼさんとうずめさん。追い掛ける負常モンスターを、射出したビットで蹴散らしながらも今いる負常モンスターのデータを集めて、さっきの城壁破壊に使った性質変革をベースに新たなプログラムを組み上げる。
「ネプギアは、もしかして先に行きたかった?だとしたら…付き合わせちゃって、悪いわね」
「ううん、わたし達はパーティーだもん。全体で目的を、戦いを終わらせる事が出来ればそれでいいよ。…それに…これはこれで、証明するのに都合良いかもだし」
「都合が良い?」
再生していく扉を背にする形で、わたしとお姉ちゃんは再集合。謝るお姉ちゃんに気にしないでという言葉を返して、飛ばしたビットを浮遊ユニットに装着してから……言う。
「わたしは色んな人を尊敬してるし、自分がまだまだ『完成』してない事も自覚してる。…でも、それでも…最近、ちょっと思うようになったんだ。──結局わたし達プラネテューヌの女神が、一番強くて、凄いんだよねって」
「…ネプギア…ふふっ、ネプギアも言うようになったじゃない。……当然よ。わたしとネプギアが、わたし達が最強に決まってるじゃない」
にっ、と口角を上げた表情を見せ合って、わたし達は左右に飛ぶ。わたしの射撃が負常モンスターの再生を阻害しながら撃ち抜き、お姉ちゃんの斬撃が再生諸共負常モンスターを消滅させる。
我ながら少し、調子に乗った事を言っちゃったけど…そこを目指しているのは、どこまでも昇り続けてみせるんだって気持ちに嘘はない。その為にも…絶対、負けない。絶対お姉ちゃんと…皆と勝って、終わらせるんだから…!
*
ゆっくりと…観測に長けた機器でなければ判別出来ない程の速度でありながら、負のシェアの城は地上に近付きつつある。その結果、同じく空に位置する浮遊大陸との距離が縮まり、膨大なエネルギーがなくては実現し得ない「浮遊」を行う二つの超巨大物体が接近した事により、異常な力場が発生したのだと判明した。
その力場を活用する事によって、機動面での強化を図ったMG部隊により、連合軍の負常モンスターの迎撃能力は向上。城から、空から飛来する負常モンスターをこれまでより少し早く迎撃出来るというだけでも、大きな利となるのであり……各機体、各艦の奮闘は続く。
「シャウナ、超大型二体の撃破に成功!随伴するウルスの援護を受け、ポイントM4A1へ後退を開始します!」
「ヴェルデ中隊β、帰還!補給及び応急処置に入りました!」
「アムニスより入電!推進系に甚大な被害を受けた事により、移動困難!よって乗員退艦後、自動操縦で可能な限り敵を撃破し続けるとの事!」
「エールフリートからも入電です!我、これよりウルテミスと共に、貴艦の護衛に入る!所定ポイントに両艦展開完了したようです!」
「よし、このまま本艦は正面への火力を集中させる!アニムスの乗員を回収出来る艦はいるか?いれば回せ!」
ヘブンズゲートのブリッジで交わされるのは、艦長とオペレーター、それに他艦とヘブンズゲートのオペレーター同時による数多くのやり取り。リーンボックス国防軍だけでなく、各国の戦闘状況がリアルタイムで交わされ、伝えられており、前線とは違う喧騒がブリッジを包む。
「各軍各部隊、大分消耗していますが、この物量を前に健闘している事を思えば十分な状態。このままいけば、或いは……」
「えぇ、そうですな。この奮闘、女神様方が見ればさぞや誇りに思うでしょう」
小さく息を吐いた後、艦長が声をかけたのは隣に座るイヴォワール。彼は味方の士気を落とさないべく、女神が誇りに思うと返したが…内心は二つの事を考えていた。一つは戦闘の規模、相手の物量を考えれば幸運と呼べる程損耗は少ないが…それでも間違いなく、失われた命も多くあると。如何に勝てたとしても、女神達がその結果を前に心から喜べる事はないだろうという思考。そしてもう一つは…右肩上がりに物量は増え続けている以上、最後の一瞬まで気を抜く事は出来ないだろうという、経験豊富な老齢者故の思考。
難攻不落の要塞、防衛ラインの要とばかりに戦線後方に鎮座し、その圧倒的火力で女神に負けず劣らずな…或いは勝るとも劣らない殲滅を見せるヘブンズゲート。規格外そのものの巨体と、そこから放たれる砲火は国を問わず軍人達を勇気付け…そこに響いたのは、新たな報告。
「……!敵拠点周辺に、反応多数!超大型、数……126、大型以下測定不能!第四十八波、来ますッ!」
モニターに表示される、レーダー映像。算出された百を超える超大型…即ち戦闘艦並みの巨体を誇るものと、計測不能という通常の戦闘ではあり得ない表現をされた大型以下の負常モンスターによって、映像の一部が埋め尽くされ…緊迫が走る。
相手の物量が飽和している以上、また新たな負常モンスターが現れたとて対応に変わりはない。そんな余裕は既にない。そして現れる度着実に増えるというのは、軍人達の士気を容赦なく削るもので……しかし軍人達も、それに慣れつつあった。楽観視をするものなど一人たりともいなかったが、「分かってる、どうせそうだと思っていたよ」…と後ろ向きながら飲み込める程度には、戦い続けているのである。
それに今は、女神達が敵拠点…負のシェアの城へと突入している。終わりの見えない戦いから、きっと女神達が終わらせてくれると思える戦いに変わっただけでも、軍人達の心の支えとしては強く──だがそこに、また一つ絶望が襲来した。
「実体副砲、全門発射ぁッ!続けて光学副砲四番から六番、それぞれ超大型に向けて……」
「待って下さい!第四十八波の中に、負常モンスターとは違う反応があります!数は10、これは……だ、ダークメガミ!ダークメガミですッ!」
『……ッ!?』
ダークメガミ。その報告が響いた瞬間、全員が戦慄した。女神の名を持ち、されど人々に仇を成す重装の巨体。女神ですらまともに戦えば手間取る存在が、女神のいない今…それも十体同時に現れたとなれば、息を呑まない筈がない。
「こ、こちらグリューン中隊γ!駄目だ、ダークメガミを止められないッ!ここは一時後退す…ぐぁああぁぁぁぁぁぁッ!!」
「隊長!?中隊長!?…くっ、通信途絶…!中隊機はまだ半数が残っていますが、ダークメガミは若干の散開をしつつ突破!次々と迎撃を打ち破り、侵攻を続けています…ッ!」
「ちっ…通常の部隊では敵わん、ダークメガミ周辺の部隊を下がらせろ!代わりに艦砲で以って迎撃する!ダークメガミを射程に収める、一門でも余裕がある艦はダークメガミを狙うよう伝えろ!本艦も主砲と対艦ミサイルを向ける!」
「……っ、駄目です!第四十八波と同時で、どの艦も余裕がありません!本艦は狙う事が出来ますが、本艦だけでは…ッ!」
真っ先に交戦状態に入ってしまった一個中隊が蹴散らされ、そこからもダークメガミによって戦線が切り崩され始める。どの国の部隊も同様であり、崩れたところへ負常モンスターが押し寄せ、最前線から順に少しずつ戦況が悪化していく。
たった十体。しかしあまりにも重い十体。信次元において往々にあり得る、いとも簡単に数を覆すだけの質を持った存在が、大量ではないとはいえ一気に、尚且つ無限にも等しい数を有する負常モンスターと共に攻め込み始めたとなれば、流れが変わってしまうのも無理はない。殆どの部隊が余裕なく、或いは今正に危機に瀕している為協力しなくては、と頭では分かっていてもそれが出来ず、交わされる言葉の応酬も歯を食い縛るようなものに変わっていく。
人には、心がある。恐怖で身体を縛る事もあれば、怒りで我を忘れる事もあり、絶望に飲み込まれてしまえばどうしようもなくなる。心があるが故に、適切な行動を取れない事もあれば、大量の犠牲と…死体の山と引き換えに勝つ事が出来るとしても、それが手っ取り早い解決手段だったとしても、選ぶ事など出来なくなってしまう。──されど、それは弱みであると同時に、強みでもあるのだ。それを長年、女神を支える形で見てきたある男は……声を、上げる。
「狼狽えるなッ!!」
それは、イヴォワールの声。ここまでは正規軍人達に主導を任せ、乗組員の一人に徹していた、元教祖代行の一喝。とても老人とは思えない、強く響きのある声に、ブリッジは一瞬静寂となり…その合間に全艦全部隊、通信が届く全ての人へ向けた回線の起動をオペレーターの一人に指示した彼は、告げる。
「聞け!国を、人を、信次元を守らんとする者達よ!私の名はイヴォワール!女神様方より承った権限を以って、これより現状を、ダークメガミを打破すべく、立ち消えとなっていた連合エース部隊を流用し、本艦の特装砲が使用可能になるまでのダークメガミ陽動作戦を提案するッ!」
通信越しでも変わらない、褪せる事ない、威風堂々とした彼の声。しかし、殆どの者にとってはいきなりの口上と提案であり、困惑する者も少なからず……しかし数秒後、各地からちらほらと声が上がり始めた。
「イヴォワール…?イヴォワールって…まさかあの、『深緑の猛将』イヴォワールか!?」
「深緑の…え?…どちら様……?」
「知らないのか!?…ってそうか。知らない者もいるか…深緑の猛将は、
「あぁ、何でもほぼ丸腰の状態で、重装備の敵部隊を返り討ちにしたとか……」
「うん?ワタシは戦車隊のみで護衛部隊含む戦闘艦から勝利をもぎ取ったと聞いているぞ?」
「女神様に追い縋る程の武人…もしその指揮官がいる部隊と戦うなら、最低でも二倍、まともに戦う気なら三倍の戦力を用意しろ。話はそこからだ、ってな……」
「
知っている者、知らない者、それぞれの立場から各地でざわつき、イヴォワールという人物についての話も広がっていく。それは本来、戦闘中においては余計な話であり…しかし、空気が変わる。蔓延を始めていた絶望感が、現実味がない程の噂で塗り替えられ……同時に、ある思いが生まれ始める。それだけの強者がいるなら、女神から直々に権限を与えられた程の実力者が指揮を取るのだとしたら、何とかなるのかもしれないという、希望の思いが。
「……っ!プラネテューヌ艦隊旗艦より、入電です!我々は、貴君の作戦を支持すると!」
「ラステイション、ルウィーも同様です!これは……」
「ふっ…諸君、感謝する!ならば私は我が名誉、誇り、命…全てを懸けて、持てる力を尽くすと約束しようッ!これよりヘブンズゲートは前進し、ダークメガミとの激突に入るッ!己が翼に誇りを持つ者よ、我と共に進めッ!」
その声が、嘗ての英傑の存在が勇気を与え、各国部隊から覇気の篭った叫びが上がる。宣言通り、ヘブンズゲートは護衛艦と共に前進を開始し、直掩機が周囲を飛ぶ。彼の言葉に呼応するように、リーンボックスの機体だけでなく、プラネテューヌにラステイション、ルウィーの機体も展開し、翼を並べる。
「…お姉様達からそういう権限を与えられた事は聞いてるし、アタクシ達教祖としても了承済みだけど…そんなに凄い人だったの…?」
「はっはっは、流石に尾びれが付き過ぎた噂じゃ。そうですな?イストワール殿」
「いや、まぁ……ただ、強ち間違いでもないような…( ̄◇ ̄;)」
「脱帽だね…けど何れにせよ、これで空気は持ち直した。後は……」
「えぇ、後はこれが夢物語ではなく、現実になる事が肝心です。…わたし達からも、どうか宜しくお願いします」
各国教祖からの「頼んだ」という意思を受け、イヴォワールは深く頷く。続いて、説明もなしに前進せざるを得ない状況を作った事について、搭乗員に謝ろうとした彼だが…ブリッジの者達の目は、言っていた。その意思を、決意を、支持すると。
「深緑の猛将、か…情報としては聞いていたが、全くこの国には大した人物がいたものだ」
「特務隊各機は、各々の判断で戦闘を継続!私はこれより、ダークメガミの迎撃に参入するッ!」
「ここが戦闘宙域になるのなら、この翼は既に不要か。…アザビス、帰投する!装備換装の準備を頼む!」
彼の声は勿論エースや他の実力者にも届いている。ハイドライブロングレンジ砲による薙ぎ払いを続けるガラティーンのニルは不敵な笑みを浮かべ、メイジンは機体の両脚部を大きく前に振り出す事で急制動をかけ、部下に指示を出しつつヘブンズゲートより送られた、陽動の為の宙域へと向かって機体を走らせる。同様にアズナ=ルブもまた陽動作戦に馳せ参じる為、その準備として反転。バックパックに備えられたミサイルを全て放って穴を作り、推力全開で母艦へと帰投をかける。
それぞれの判断の下、陽動の為に動くエースと、彼等の
戦場を作る為、懸命に機体を操りながら負常モンスターを蹴散らし、ダークメガミの猛攻から逃れるMG乗り達。ヘブンズゲートもまた、機銃とミサイルで近付く負常モンスターを例外無く倒し、各砲で大型以上を吹き飛ばしながらダークメガミへも牽制をかけ……そこに格納庫からの、ある二人組の声が通信で入る。
「先程の演説、聞かせてもらった。同じ男として、惚れ惚れとする程のものだったと言わせてもらおう」
「同感だよ、兄さん。で、今からするのは大一番の戦いでしょ?なら、僕達の力も…必要なんじゃないかな?」
「ふっ…勿論じゃ。艦長」
「はっ、彼等の機体をカタパルトに載せろ!」
モニター越しに映し出されたのは、二人の男の姿。赤い髪をした、それぞれ似た容姿を持つ…彼等を知っている者からすれば、「何故ここに!?」…と言われるような二人組。
兄弟。二人の関係性を示す言葉であり、通称でもある「兄」と「弟」名を持つ彼等こそが、ブリッジに、イヴォワールに声をかけてきたのであり…何故彼等がそこにいるのか、それを知っているイヴォワールは首肯。艦長に声をかけ、その艦長の指示によって、ヘブンズゲートの中央上部に位置するMG用エレベーターが開く。
そうして現れたのは、異形の鉤爪と、胸部ではなく腹部に大型の砲門を持つ、赤と黒が目立つ機体と、まるで甲羅の様な大型バックパックと、そこから伸びる二つの鋏が特徴的な、藍色と灰色を基調とする機体。リーンボックス製MGとしては珍しい、単座且つサイズも他国のMGに近いその機体は、カタパルトに接続すると高速で打ち出され…甲板から空へ。
「オーガスリィブ、我が愛しき女神様の為に!」
「ノラティハース、全ての美しき者の為に!」
その機体に乗るのは、件の二人。一見まともな、しかし彼等の実態を知る者としては相変わらずだなと呆れる他ない言葉と共に、彼等の乗機、オーガスリィブとノラティハースはスラスターを吹かし、目的の場へと向かう。初陣の相手がダークメガミという、凄まじいにも程がある初出撃を、砲火の花道を辿って果たす。
更にそこへ、ヘブンズゲートの周辺へ、また一機の機体が現れる。ビームと実体弾、合わせて二発の弾丸により、二体の大型負常モンスターの中心を撃ち抜いたのは……二丁の大型ライフルを機体の左右に装備する、青と緑がカラーリングの中心となった航空形態のプラネテューヌ機。
「ヴィオレ5よりヘブンズゲートへ、甲板借りるぞ!狙撃により、ダークメガミの迎撃を開始する!」
言うが早いか、ヴィオレ5のコールサインを持つパイロットの機体は人型形態に変形しながら甲板へと着艦。狙撃の言葉通り、なんとその機体は甲板に伏せ、左右前方に設置した二丁の火器、二つのスナイパーライフルの内右のライフルを構え、早速長距離射撃を開始する。
「…なんて、格好を付けて見た訳だが…やっぱ堅苦しいのは苦手だな。んじゃ、いつも通り…狙い撃つぜ…ッ!」
スコープを覗いた狙撃機、オンニミド・セーガの射撃は言葉通りにダークメガミを…まだ通常のMGでは狙えないような超長距離からの狙撃を的確に着弾させ、一先ず着艦を許可したオペレーターを驚かせる。そこからもう一発放ち、再び当て…直後に機体を回転させたかと思えば、その動きで隣の実体弾型スナイパーライフルへと持ち替えて、そちらでもやはり狙撃を当てる。
次々と集まっていく各国のエース。彼等はダークメガミの陽動の為…女神のいない戦場でも、それでも勝利を掴み取る為に、操縦桿を握って戦う。
だが…エースだけではない。空を疾駆するプラネテューヌ機。銃撃を放つラステイション機。砲撃を浴びせるリーンボックス機。魔法で阻むルウィー機。それぞれがその巨体に見合った火力と堅牢さを見せ付ける戦闘艦に…生活圏の間際、本当の意味での最終防衛ラインを死守する人々と、避難しつつも女神の、戦う者の勝利を願い、信じる数え切れない程の者達。幾度となく女神が思いの力を、諦めない強さを示してきた、その姿を見てきた人々は皆未来を信じ……心に希望を、輝かせていた。
今回のパロディ解説
・某太陽少年の兄
ボクらの太陽シリーズに登場するキャラの一人、サバタの事。漫画版において彼が使っていた鎌…使い勝手は悪そうですが、浪漫を感じる形状ですよね。
・「〜〜結局わたし達〜〜だよねって」
ポケモンシリーズに登場するキャラの一人、ツワブキ・ダイゴの代名詞的な台詞のパロディ。ネプギアがこんな事を言うのも、多くの経験やビヨンドによるもの…かもです。
・「〜〜己が翼に誇りを持つ者よ、我と共に進めッ!」
マクロスfrontierに登場するキャラの一人、ジェフリー・ワイルダーの名台詞の一つのパロディ。イヴォワール…また一つ、Originsシリーズの中で凄い事になりました。
・「ヴィオレ5より〜〜借りるぞ!〜〜」
こちらもマクロスfrontierに登場するキャラの一人、カナリア・ベルシュタインの台詞の一つのパロディ。でも、本作でこれを言った人物の機体は爆撃機ではなく狙撃機です。
・「〜〜狙い撃つぜ…ッ!」
機動戦士ガンダム00に登場するキャラの一人、ロックオン・ストラトス(特にニール・ディランディ)の代名詞的な台詞の一つのパロディ。狙撃と言えば、まずは彼ですね。