超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第百九十九話 全ての思い、希望と共に

 戦場から遠く離れた、生活圏。女神や軍人、それに有志の奮闘により、負常モンスターの生活圏…街への侵入は未だなく、襲われた者もまだいない。しかし、いつ突破されてもおかしくない状況故に、避難は進み、それによる喧騒も少なからず上がっていた。

 まだ遥か遠くとはいえ、現れ続ける負常モンスターの闇色に加え、微かながらも戦火の光が街から見えているのだから、落ち着いて避難をしろというのも難しい話。教会を始めとする、様々な組織やその人間が避難誘導をしているものの、やはりそれだけでは落ち着ける訳もなく…そんな避難の最中に、一人の女神が舞い降りる。

 

「安寧を愛し、価値ある日々を紡ぐ人々よ!君達が、不安に思う必要はない!君達の身に、心に、あの闇が取り憑く事はない!その為に、女神達は…君達が信じる女神達が戦っているのだから!女神と人とが支え合い、災厄を祓わんとしているのだから!」

 

 凛々しく威風に溢れた…それでいて温かみのある声を響かせるのは、原初の女神。そのよく通る声により、喧騒は静まる。その隙に彼女は避難誘導を担う者へと視線を送り、避難を促す。

 勿論、そこにいる者の多くは、彼女の…オリゼの信仰者ではない。しかしオリゼの声は、信仰者でなくとも心に響かせられるだけの力があり……女神からの言葉である、ただそれだけでも強い説得力があるのが、その説得力を生むだけの信頼と実績を女神が積み上げてきたのが、信次元というもの。

 

「無論、私もそうだ!私は君達を、誰一人として見捨てない!君達の為に、君達が明日を迎えられるように、力を尽くすと約束しよう!そして…どうか君達も、君達の信ずる女神に祈ってほしい!それが、女神の力となる!人が信じてくれる限り、女神はどこまでも翔べる!翔び続けられる!」

 

 自分をではなく、人々の信ずる女神を。現代の女神達を。…そうオリゼが称するのも、信用の表れ。ネプテューヌ達なら必ずやと思っているからこそ、彼女達への祈りを頼み……避難の支援と誘導を続ける。

 これが、オリゼの選択。戦いではない形で、戦わずして人々を守る方法。戦うだけが、最前線に立つ事だけが『守る』ではないのだと…そんな思考が思い浮かんだのも、現代の信次元を知り、人や女神達と触れ合ったからこそ。そして、ここはもう大丈夫だと判断したオリゼは高速で空を移動し…ある場所に降り立つ。

 

「あ、お、オリジンハート様!仰られた通り、足腰の弱い方やご高齢の方々にはこちらの車両に乗って頂きましたが…」

「ああ、指示通りに動いてくれた事を感謝しよう。君の協力のおかげで、彼女達を避難させる事が出来る」

「い、いえ。ですが、この状況で車両は……」

「案ずる事はない。彼女達は…私が運ぶ」

 

 言うが早いかオリゼは大型車両内の人々に声をかけ、安心するよう伝え…次の瞬間、人々諸共大型車両を持ち上げる。その状態で飛翔し、殆ど車両は揺らさないままに、避難先へと送り届ける。何とも無茶苦茶な方法だが…それを成し得てしまうのもまた、女神なのだ。

 車両ごと人々を送り届けた後、オリゼは再び空へと上がる。そこで一度止まり、戦場を見やり、そこで戦う…希望を失う事なく、未来へと手を伸ばす全ての者へと思いを馳せて、言う。

 

「──今の世を守りし女神よ。その手で、力で、翼で以って……思いの輝きを、解き放て!」

 

 強き思い…意思と信念が籠った言葉。その言葉を送った後に浮かんだのは、信頼に満ちた柔らかな笑み。それは同じ女神として当代の彼女達…それにもう一人の自分を認め、信じているからこその言葉と表情、思いであり……オリゼは空を駆ける。今いる街、今いる国だけではない。一人でも多くの人に、全ての人に安心も希望を届けるべく、オリゼは信次元中を飛び回り、人を助ける。

 そして、その姿が…自らの発する言葉や人々に見せた行動だけでなく、人の為に次元中を駆け巡る在り方もまた、本人も気付かぬ内に人々にとっての希望となり、人の心に光を灯していたのだった。

 

 

 

 

 他の追随を許さない戦闘能力で以って侵攻を続ける十のダークメガミと、そのダークメガミを食い止めんと展開し、共闘を開始した各国のトップエース達。巨体故の大火力とその巨体には似付かわしくない速度でダークメガミは襲い掛かり、トップエース達は巧みな操縦とMGの高い機動性、それにエース同士だからこそ出来る即応の連携でダークメガミの猛威に応戦する。

 あくまでエース達の目的は時間稼ぎ。しかし繰り広げられていたのは、あまりにも激しい戦闘だった。

 

「そらよッ!」

「てーいっ!」

「よっと!」

 

 エネルギー刃の迎撃を掻い潜り、新素材の実体剣で肘関節を斬り付けるシュゼット機。別方向からは人型形態に変形すると同時に反りの入った特殊ビームサーベル、通称聖剣ネプテューヌでエネルギー刃の射出部位の一つを副会長機が斬り裂き、直上からは一気に急降下をかけた弟機が二又の槍で頭部を一閃。三機の攻撃全てがダークメガミへと直撃し、女神の何倍ものサイズを誇るMGの攻撃は、ダークメガミの巨体に大きな斬撃痕を残す。

…が、それも僅かな間の事。攻撃を受けた場所は早々に再生が始まり、一瞬ではないもののすぐに元通りとなってしまう。

 

「くっ…これだけの戦闘能力に加えて、再生能力って……ッ!」

「ジリ貧どころの騒ぎじゃない、わね…ッ!」

 

 無数の迎撃の刃と、必殺の砲撃。その弾幕をノーレ機は機敏な加減速とロールで回避しつつ、隙を見てフレキシブルスラスターを逆向きにし、搭載された機銃での反撃をかける。更に別方向から違うダークメガミのエネルギー刃が迫れば、割って入るように飛び込んだクラフティ機が高エネルギーシールドで刃を阻み、直後に変形したノーレ機と共にビームマシンガンの連射を叩き込む。

 しかしやはり、それも再生する。斬れども、撃てども、ビームであろうと実体弾であろうと、例外なく全て再生してしまう。だからといって心折れる事などなく、交戦を続けるエース達だが、ただでさえ巨大且つ強大な相手に、攻撃すらも実質通用しないとなれば、焦燥感は拭えない。

 

「ヘブンズゲート!砲撃の準備は…ッ!」

「もう暫く耐えてくれ!チャージもだが、まだ射線上の部隊の離脱問題もある…ッ!」

 

 すぐさま再生してしまうのなら、無策の高出力武装は無駄にエネルギーを消耗するだけだ、とハイドライブロングレンジブラスターの使用を控え、二丁のマギアライフルでの単射を主体に立ち回る朱雀の声に、ヘブンズゲート艦長が答える。

 再生能力すら有するダークメガミに対する希望は、ヘブンズゲートの特装砲。しかしチャージに時間がかかる事は勿論、増え続ける負常モンスターは今や、予め退避する事すら許さず、射線上の部隊はギリギリまでその場に留まらなくてはならない。可能性は潰えていないとはいえ、厳しく過酷な戦いであり…エース達は、本当に一瞬たりとも気を抜く事など許されない。単独でも脅威である筈のダークメガミは…今ここに、十体もの数で存在しているのだから。

 

「……っ、振り切れない…!こう、なれば…ッ!」

 

 今はメギドユニットを装備していないオンニミド・サーガを駆るリヨンは、複数体次々迫る攻撃に表情を歪ませる。変形を駆使し、回避し切れないエネルギー刃は前腕部のビームサーベルと装置を共有するビームシールドを展開する事で凌いでいくが、辛うじて凌いだ瞬間更に別のダークメガミが迫り来る。再生によってダメージを与えられないが為に、他のエースが仕掛けようともダークメガミは止まらない。加えてリヨンのオンニミド・セーガは火力と対多数戦能力を重視した機体であるが故に、持ち味の火力を活かせない点でどうしても不利が付き纏ってしまう。

 突き出されるダークメガミの腕。ここからの回避が困難ならばと、一か八かリヨンは全火器を用いた一斉射により拳を砕く事を考え…だがしかし、その直前、六方向から同時に放たれた光弾が全てダークメガミの肘へと直撃し、リヨン機へ迫った拳が逸れる。

 

「これは…無人機?…いや……」

 

 反射的に展開していた武装を戻し、変形によってリヨン機は離脱。その最中、モニターに映っていたのは六基の小型飛行物体であり…それ等は別々に飛んで数度の砲撃を行った後、編隊を組むようにして下がっていく。そしてその先、戻る先にいたのは……大型のライフルを構えた、重装備の赤い機体。

 

「よぅ、漸く来たか赤い流星!」

「すまない、少々換装に時間がかかってしまったものでな。この遅れの分は、ここから返させてもらう…ッ!」

 

 浮遊させておいた槍剣を掴み、四門の機銃で射撃をかけるシュゼットの声に応え、赤い機体…アズナ=ルブのアザビスが戦線に復帰。装備したライフルの射撃で正面のダークメガミの首元、装甲に覆われていない部分を撃ち抜くと、脚部を前に振り出す事によって急制動をかけ…バックパックのコンテナへ、飛来した六基のユニット、遠隔操作端末であるビットを回収する。

 ここまで不在だったルウィーのトップエースの一人、アズナ=ルブ。彼が現れた事により、エース達の戦力は向上し……同時にある声が、戦線の後方から届く。

 

「…やはりそうか…アロンダイトのパイロット!私に合わせろッ!」

「……っ!?この、声は……ッ!」

 

 尊大な、しかし強い意思の籠った言葉に、アロンダイトのパイロット…朱雀は目を見開く。確かに聞き覚えのあるその声に、思わずコックピット内で振り向きそうになり…しかし次の瞬間、後方からの赤光があるダークメガミの両肩、その付け根を強かに撃ち抜く。

 MGではなく戦闘艦の砲撃かと思う程の、強力な照射。その砲撃は、じわじわとだがダークメガミの肩関節部を上から焼き切っていき…しかし普通ならば、すぐにダークメガミに逃げられてしまう。現にダークメガミは回避行動に移ろうとしており……だがその時にはもう、朱雀は動いていた。直感的に、思考ではなくまるで意思を感じ取ったかのように機体を走らせ、脚部に追加装備されたミサイルを一気に放つ。

 撃ち込まれたミサイルはそれぞれが別の部位に着弾し、ダークメガミの身体を揺らす。ダメージそのものはすぐに再生が始まろうとも、衝撃でのよろめきは発生する。そしてその隙にハイドライブロングレンジランチャーの展開を済ませたアロンダイトは、同じように両肩部を撃つ。下から上へ、後方からの砲撃と挟み込むようにして放ち続ける。

 

「ぐぅっ……い、けぇぇぇぇぇぇッ!」

 

 両肩部の付け根を同時に狙える位置、それは正面か背面のどちらかであり、翼の有無も考えれば、より的確に狙えるのは正面のみ。更に大出力砲撃の照射である以上、飛び回る事で回避運動を取る事も出来ず、幾つものエネルギー刃が迫る。形状を調整したマギア・シールドで何とか数回は防ぐも、それ以上の防御は敵わず…上下からの光芒が完全に交差する直前、エネルギー刃がアロンダイトを直撃。高エネルギーを展開していた事もあってか、激しい爆炎が上がり……だが次の瞬間、その爆炎を切り裂くようにして、アロンダイトが現れる。

 無論、無傷ではない。コンクエスターユニットは消失しており…しかし直撃したユニットをパージし、アロンダイト・コンクエスター状態からエアキャバルリー状態となり、大きく向上した機動性を遺憾なく発揮する事でダークメガミへと肉薄。そして、引き抜いたMVSに上限一杯の魔力を流し……二本を重ねるようにして、右肩部へと叩き付ける。そのままスラスター全開に吹かし……肩を、断ち切った。

 

「…流石だ、朱雀。……次だ、プラネテューヌの狙撃手!」

「はいよ、観測データの共有助かるぜ。俺は女も弾も一発必中…なんて、なッ!」

 

 斬り裂かれ、脱落するダークメガミの右腕。もう片方も、とアロンダイトは駆け抜けた後反転するが、振り向いた瞬間一条の光芒が逆側の肩を撃ち抜く。先の二種類の砲撃に比べれば、一目瞭然な程に細く…されどその光が辛うじて繋がっていた付け根を貫き、もう一方の腕も脱落する。

 他のエースと共に正面からぶつかっていたアロンダイトと、大きく離れた後方で観測を続けていたガラティーンに、ヘブンズゲートの甲板より援護を続けていた狙撃仕様のオンミニド・セーガ。三機の攻撃により一体のダークメガミは両腕を失い……エース達は、目にする。これまでとは違う…明らかな、再生速度の差を。

 

「これまでより再生が遅い…?へっ、そういう事か…!」

「関節、か…ふっ、良いだろう。さあ行くぞ、我が弟よ!」

 

 違いの意味を即座に理解するのもまたエース達。シュゼットはクラフティとの連携て撹乱するように飛び回った後接近をかけ、すれ違いざまにダークメガミの肘関節へと槍剣の大振りを打ち付ける。

 呼び掛けに応じた弟が機体を可変させて突撃をかければ、兄は自機の腹部に搭載された大出力のビーム砲、メガソニックカノンを発射。再生能力があるからか、それともその思考自体ないのか碌に避けないダークメガミの頭部へと照射を放ち、それにより生まれた迎撃の隙を突いて肉薄した弟の機体が人型に戻ると、バックパックのアームとそこに接続された鋏で以ってダークメガミの脚部の付け根を捉え、鋏に内蔵されたビーム砲での接射を付け根へ喰らわせる。

 どちらも完全な切断や破壊には至っていない。しかし深く抉っただけでも再生の遅延は見受けられ、全員が関節部への攻撃、それも深部へ届くようなダメージならば多少なりとも効果があるのだという事を確信し……そこから繰り広げられるのは、一進一退の攻防戦。

 

「皆さん、お願いしますッ!」

「了解したッ!」

「反撃開始、ってねッ!」

 

 複数体のダークメガミを引き付けるアロンダイト。彼が引き付けるダークメガミの背後へメイジンのガエリブルが突進をかけ、背部の大型コンテナ二基より引き出したロングレンジビームライフルとロケットランチャーの同時撃ちで両翼の付け根を攻撃。別のダークメガミへは副会長機がビームマシンガンの高出力単射モードの射撃で横槍を入れ、反対側から突貫を仕掛けたノーレが引き抜いた二本のビームサーベル、前腕部に固定された物とは違う二振りの柄尻を連結させ、双刃刀形態で巨体の腰を左側から一閃。おまけだとばかりに機体での膝蹴りを放ち、膝部に搭載されたアンカーの刃を打ち付けてから、航空形態に変形する事で素早く近距離から離脱していく。アロンダイトを追っていたダークメガミはもう一体いたが、そのダークメガミに対しては後方からの援護射撃と砲撃が連続で襲う事により、仕掛けようとしていた攻撃が徹底的に潰されていく。

 勿論、全機が狙った通りの陽動や攻撃を出来ている訳ではない。逆にダークメガミの猛攻に晒され防御と回避で手一杯となっているエースも当然おり…求められているのは、瞬間瞬間の判断力。今は攻撃に移れるのか否か、どの味方と連携すべきなのか…戦闘においては基本ながらも重要であるそれを、常に最大値まで求められ…ギリギリの戦いが続く。有利な情報が一つ見つかったとはいえ、あくまで遅延に過ぎない以上は、逆転にまでは至れない。

 

「エネルギー充填率、85%を突破!本艦と攻撃目標との位置関係、問題ありません!」

「よし、後少しだ…!各員、全ての確認を怠るなよ!」

 

 エース達が身を呈して、死力を尽くして作る時間で進む砲撃準備。絶対にミスなど出来ない、確実な成功が求められるという状況の中で、85%を超えた充填率は90%に差し掛かり……しかしそこで、ヘブンズゲートとエース部隊に衝撃が走る。

 

「なッ……ポイントC3の戦線にて、多数の負常モンスターが突破!これは…戦線崩壊状態です…ッ!」

『……っ!?』

 

 戦線の崩壊。それは、そこで塞き止められていた相手が一気に流れ込むという事。

 あり得ない話ではなかった。既に戦闘開始からかなりの時間が経っており、尚且つこの戦いは誰も彼もが緊張を張り詰め続け、力を注ぎ続ける事で何とか持ち堪えていたようなもの。であればどこで部隊の総崩れが起きてもおかしくない、誰もそれを責められない状況であり…しかし、タイミングも場所も悪過ぎた。戦線崩壊により流れ込む負常モンスターの進路には、エース部隊もヘブンズゲートもあり……それに対応出来る他の部隊は、どこにもない。

 

「ちぃ…ッ!抜かせなど……」

「するものか…ッ!」

 

 それへ対し真っ先に動いたのは、アズナ=ルブとメイジンの二人。ダークメガミを躱しながら両者は負常モンスターの大群の前へ滑り込み、アズナ=ルブ機はビームライフル、シールド裏のマギア・シューター、そして腰部の拡散ビーム砲で、メイジン機も脚部の中型コンテナから抜き放った二丁のビームガンと二門の頭部機銃それぞれの連射で先頭を蹴散らし、後続もヘブンズゲートに随伴する二隻の艦が砲撃を集中させる事で一旦は凌がれる……が、その隙に二体のダークメガミが突破。エース達は追おうとするも別のダークメガミの猛攻に晒され動けず、二隻の迎撃で一体は押し留める事に成功するも、もう一体は止まらない。何度か砲撃やミサイルを喰らいながらも、再生しながらヘブンズゲートへ…逆転の要へ迫る。

 

「くそっ、駄目だ止まらねぇ…ッ!」

「ダークメガミ接近!機銃でも止まりませんッ!」

「本艦が落とされたら終わりだ…ッ!背に腹は変えられん、全エネルギーを防御に……」

 

 甲板で攻撃を続けるオンミニド・セーガのパイロット…ヴァシュランの狙撃を受け、ヘブンズゲートの機銃迎撃を受け、前面が無残な姿になりつつも、再生という強引な対処でダークメガミは迫り続ける。

 そして遂に、エネルギー刃の射程距離にまでダークメガミは接近。更に両の掌底部のビーム砲も向け、対するヘブンズゲートは一撃で落とされる…事はないにしろ、被弾で少しでも特装砲にダメージが、或いはチャージに問題が起きてしまえば致命的だと防御を選び、艦長が指示を言い切ろうとした……その時だった。後方から放たれた──大型の味方などいない筈の場所から、艦船クラスの砲撃がダークメガミに放たれたのは。

 

「砲、撃…?だが、何故……」

「……ッ!本艦後方に、高熱源体出現!数は2、アンノウン……いえ、これはアフィ魔Xの空中艦です!」

「何だと!?」

 

 間違いなくそれは支援砲撃。しかしオペレーターの声に艦長は目を見開き、イヴォワールもぴくりと眉を震えさせる。

 続けてモニターに映し出されたのは、確かにアフィ魔Xの空中艦。だが、言うまでもなくアフィ魔Xは現体制にとっての敵であり、ブリッジは緊迫に包まれる。

 

「空中艦より、回線の接続を求められています!如何しますか…?」

「回線…向こうからの通信だと?…一体何を考えて……」

「…いや、分からないからこそ確かめる価値はある。わざわざ姿を現し、砲撃をした事実もある。…その接続に応じてもらえますかな?」

 

 何のつもりだ、と艦長が顔を顰める中、イヴォワールはだからこそ、と応じる事に肯定を示す。そして彼が言うのなら、と艦長も頷き……モニターへと表示される、アフィモウジャスの姿。

 

「ほぅ、こうも早く応じてもらえるとは。時は金なり、賢明な者がいて助かるわい」

「時間が惜しいのはこちらも同じでな。…単刀直入に訊こう、何故我々の味方をする?」

 

 映像越しに向かい合う、イヴォワールとアフィモウジャス。鋭い視線を向けながら、イヴォワールは問い…それに対し、アフィモウジャスは笑いながら答える。

 

「ぐわっはっはっはっは!何故?そんなもの、ワシが金儲けを信条にしているからに決まっている!金はあくまで、社会があってこそ…金の価値を保証する場があって、初めて意味を持つもの!その社会の危機を前に傍観など、自分の財を腐らせる事と同義なり!」

「よくもまぁ、堂々とそんな事が言える…というのはさておき、筋は通っておるな。だが、仮に信次元を守れたとして、お主等が自由に経済活動を出来る保証はないのだぞ?」

「なぁに、世の中金があれば何とかなるものじゃ。…それに女神達には、返すべきだと思うものもある。そして、何より……ワシは金髪巨乳道を貫く者ッ!であれば同士が数多くいるであろう、リーンボックスに助太刀するのも吝かではないッ!」

 

 金の価値を守る為、個人として返したいものがあるが故、そして何より色欲から来る行動力。そんな風にアフィモウジャスは言い切り…一方ヘブンズゲートのブリッジは、冷え切っていた。女性のオペレーターなどは、冷たい目でモニターを見てすらいた。

 完全な静寂。一見…いやどう見ても、ここからの関係など拒絶しかないような最悪の雰囲気。……だが、

 

「……いいだろう。その命を張ってでも、貴様達は戦線に加わると言うのだな?」

「おぉ、話が分かるではないか。…そういう事じゃ、そちらが背中から撃ってくるのでなければ、ワシ等も出来る事をするとしよう。それに見たところ、相手はワシ等には興味がないようじゃからな。ステマックスよ、ワシはこのまま巨大艦の直掩に入る!お主は……」

「前線の援護と遊撃で御座るな、御意!」

 

 話は決まった、とばかりにアフィ魔Xの艦は砲撃を再開。更にカタパルトを起動し、ハッチを開き、そこから艦載機を……キラーマシン部隊を展開し、それぞれが負常モンスターへと突撃していく。

 

「……!この機体って……」

「ふふっ、まさかキラーマシンと翼を並べる日が来るなんてね…!」

 

 その内の一機、副会長機とクラフティ機の横をすり抜けていった空戦仕様のキラーマシンは、そのままエース部隊とダークメガミの交戦中域すらも飛び越えていくと、崩壊した戦線より迫り来る負常モンスターの一団に向けて、マルチロックからの全火器を展開。頭部と両下腕部からは光弾を連続で、胸部からは大出力の照射を放ち、更にそこへ背部からせり出した二基のガトリングガンによる実体弾の猛攻が続く。一斉掃射の後は下腕部を、有線ビットアームを展開し、両腕の武装共々突撃戦法で負常モンスターを蹴散らしていく。

──パーフェクト・アヴニング。アヴニールが国営化という形で一新された後も、旧アヴニール派の人間により、犯罪組織やその残党の手によって連綿と続いてきたキラーマシンシリーズの最終到達点とでも言うべき、完成された機体。そして遥か彼方、戦場から遠く離れたラステイションの街中にて、シアンと共に彼の父親の避難を手伝うキラーマシンの生みの親、サンジュはふと見上げていた。見える筈もない遥か遠くの戦場で飛ぶ……友人の怪我を切っ掛けに無人機へと傾倒し、一度は国や女神に銃口を向ける事にすらなってしまった自らの努力が、夢が、今や女神と共に人を、国を守る鉄騎達と、躍進を続ける友人の夢と同じ場所で戦っているのを感じ取ったかのように見上げ…再び友人の手助けを続ける。今、自分に出来る事をやり抜く為に。

 

「…宜しかったのですか?奴等は女神様を騙していた者達。何か企んでいる可能性も……」

「かもしれませんな。…されど、今我々が掴むべき、守るべき可能性へ繋げる為には、賭ける価値のある選択だったと、私は思っております」

「…確かに、そうですね。アフィ魔Xとのデータリンクと、全軍への通達急げ!折角の援軍を情報不行き届きで失うのでは惜しいからな!」

 

 そうしてアフィ魔Xの二隻の空中艦は、敵を表す赤から友軍を表す緑へと表示が変わり、各艦キラーマシンと共に弾幕を形成。アフィモウジャスの乗るアフィベースはヘブンズゲートの援護に徹し、ステマックスの駆るステルスアークは各国の艦より一回り小さい事を活かし、積極的に動いて支援と遊撃に奔走する。

 ある意味で、信用出来るか怪しい存在の協力すら必要とする状況となった今の戦場。しかしイヴォワールは、ほんの少し苦笑染みた表情を浮かべながら…内心こうも思っていた。──金髪巨乳好きならば、その点においては信用に足る存在だろう、と。

 

 

 

 

 負常モンスターとの、負のシェアの城の暴走により始まった戦い全体からすれば一部に過ぎない、されど最も過酷な戦いと言っても過言ではない、再生する十体のダークメガミとの戦い。MGの武装での撃墜はほぼ不可能、巨体の一部を脱落させ、一時的にその部位を使えなくさせる事が精一杯という、あまりにも不利な状況下でも、エース達は戦い続け……そして遂に、その瞬間が訪れる。

 

「充填率、100%!特装砲、いつでも撃てます!」

「漸くか!射線上の部隊の退避はどうなっている!」

「そちらも八割が完了です!一時的に迎撃が届かなくなる負常モンスターに関しても、砲撃での完全撃破が可能との演算結果が出ています!」

「ならば、後は……」

 

 艦体下部前面の装甲が開き、その姿を見せる超巨大砲。発射準備が完了した特装砲は、それだけでも絶大なプレッシャーを放ち……しかしまだ、射線上には部隊が残っている。すぐに離脱が済むであろう、残り二割の他にも…ダークメガミを押し留める、エース達による部隊が。

 

「後は私達が離脱をすれば、いい訳だが……」

「ここから振り切るのは、少し…いや、かなり厳しいですね…ッ!」

 

 それぞれ右腕部に大型ビームサーベルとMVSを構えたアザビスとアロンダイトの機体越しに、アズナ=ルブと朱雀が言葉を交わす。

 彼等だけではない。ダークメガミを相手にするエース全員がその問題を抱えており…彼等はただ離脱すれば良いのではない。ダークメガミを射線に残したまま、離脱しなければいけないという最後の難所がエース達にのし掛かっている。

 そしてそれを、他の者は信じるしかない。援護射撃や艦砲では動きを邪魔するのが精一杯で、完全に押し留める事は出来ないからこそ…内側から何とかするしかない。

 

「アタシ達は、遠隔操縦だから最悪何とかなるけど……」

「僕等は掠めるだけでもお終いだね。兄者、何かいい案はあるかい?」

「いいや、自慢ではないが全くないな。気力と根性で何とかするしかないだろう」

「気力と根性…良い言葉だ。そして逃れられなければヘブンズゲートも撃てない以上、やってみる価値は……」

 

 即席の連携を重ね、もう心許ないエネルギーや弾薬をそれでも使ってエース達は押し留める。何とか射線に全て残したまま離脱出来ないものかと頭を捻り…しかし結局のところ、出てくるのは策も何もない「頑張る」のみ。

 しかしそれを、メイジンは悪くないじゃないかと称する。他のエース達も苦笑い気味ながら同意し、どんなに困難でもやるしかない……死なない為に全身全霊を尽くすしかないと、残る力を掻き集めようとしたその時…一つの提案が、全機に届く。

 

「……ここは、私に任せて下さい。パープルシスター様より託された機能を完全解放し…全てのダークメガミを、私が引き付けます」

 

 突然の提案を口にしたのは、リヨン。作戦を伝えるのではなく、自分一人で引き付けるという言葉に、一瞬全員が「無茶だ」と思い…しかし、考える。そんな事は、普通出来ない。気力や根性ではどうにもならず、どうにもならないのだから無意味に終わるのが関の山。にも関わらず言ったという事は、何か…そう言えるだけの理由があるのではないかと考え、数秒という短い時間ながらも思案を巡らせ……ガラティーンのパイロットの一人、ニルが言う。

 

「…出来る確証がある、と?」

「あります。私なら…私と、この機体なら……ッ!」

 

 返答として発されたのは、出来るという意思。証拠やデータではない、あくまで主観に基づいた言葉であり…しかしそれを発したのは、プラネテューヌのトップエース。それも、プラネテューヌ初のMG部隊において隊長を担い、その後も中核となり続けているパイロット。故にその言葉には、ただの言葉以上の重みと説得力があり……エース達は、言葉ではなく行動を返す。肯定でも否定でもなく…離脱の為の動きを始める。

 

「…ありがとうございます、皆さん」

 

 信用の表れとも言える行動に、小さく感謝の言葉を返したリヨンはシステムの解除を開始。試験的に搭載された機能故に、即時の発動は出来ず…システムのロックを外していく中、彼女が通信をかけたのは一人の女神。

 

「パープルシスター様、聞こえていますか?」

「……ヨンさんですか…?は…聞こえています、大丈夫です…!」

「良かった。では…パープルシスター様、NPドライヴの完全解放の許可を!」

「……!…分かりました。NPドライヴの完全解放を、許可します!」

 

 ノイズが消えていき、はっきり聞こえるようになるネプギアの声。決して許可が解除に必須という訳ではなかったが、リヨンは通信を試み、結果通じたネプギアからの直接の許可を返され……それまで航空形態を取っていたリヨン機は、人型形態へ変形。そしてシステム起動の準備が揃ったリヨン機は、最後のロックを…音声入力で以って解放する。

 

「NPドライヴ、全リミッター完全解除!高濃度圧縮粒子、全面に解放…!──NEPNS-AM、起動ッ!」

 

 その瞬間、機体背部から露出するNPドライヴ。NP粒子精製装置を軍事用に改造したそれを展開すると同時に、機体各部の装甲がスライドし……そこから紫色の粒子が放出される。粒子が機体全体に行き渡るように広がり、リヨンのオンミニド・サーガは紫に輝く光を纏う。

 それは、ノーレ機や副会長機の関節部から時折見えていたのと同じ光。しかしその量は段違いであり…直後に迫ったのはダークメガミの砲撃。必殺の光芒がリヨン機の直前にまで迫り…しかしそれを、リヨン機はほぼ同じ体勢のまま避ける。まるでスライドでもしたかのように、これまでとは違う動きで回避する。

 そこから可変し、ダークメガミ達の中へ突っ込むリヨン機。しかしやはり、その動きは…これまでとは全く以って違うもの。

 

「あれは…まさか、慣性を無視しているのか……!?」

 

 観測していた、支援砲撃と無人機の展開のみをしていた為に初めから離脱の必要がないニルは、その挙動に驚きの声を上げる。そしてその驚愕通り、リヨン機はほぼ直角の方向転換や一瞬での原則による回避を見せ……ダークメガミを、翻弄する。次々とダークメガミの正面に躍り出ては注意を引き、火器を用いて攻撃を仕掛ける。上部にビーム砲、下部にレールガンという連装構成のライフルを分割して両腕部での射撃を行ったかと思えば、迫る打撃を木の葉が舞うような滑らかさで避け、変形で距離を取ったかと思えば即座に再変形して背部から展開した二門のビームカノンを放ち、もう一度航空形態に可変するとマイクロミサイルを左右に撃ち込みながら、ダークメガミとダークメガミの間の空間を駆け抜ける。

 

「…凄いわね…まるで、光の舞じゃない……」

「傾いてやがるじゃねぇか、あいつ…」

 

 圧倒的な空中機動。しかしそれは、戦闘の為のものでありながらどこか美しさを、華麗さを感じさせるものであり、シュゼットとクラフティは感嘆の声を漏らしながら周囲の負常モンスターを撃ち抜いていく。彼女がダークメガミを引き付けてくれるなら、負常モンスターの横槍だけは絶対に入れさせないと、離脱しながら蹴散らしていく。

 無論、完全完璧な動きではない。艦船や超長距離攻撃能力を持つ一部の機体の援護を受けながらも、やはり一対十は無理のある戦いで、少しずつ追い詰められる。その内にまずフレキシブルスラスター内蔵の機銃が、続けてレールマシンガンの弾薬が尽き掛け……それでも、彼女は成功する。自分だけが残り、他の全てのエースを離脱させるという、無茶苦茶にも等しい離れ業を。

 

「後は、これで……ヘブンズゲートッ!」

 

 後方に位置するヘブンズゲートを背にする形で人型へ変形したリヨン機は、全火器展開。分割持ちのビームマシンガンとレールマシンガン、フレキシブルスラスターの機銃が左右合わせて二門、同じく背部から展開するビームカノン二門に、残るマイクロミサイルありったけ……その全てを限界まで放ち、リヨン機最後の砲火を上げる。反撃の様にエネルギー刃も次々と襲い、一発受けた直後に粒子の光が、NEPNS-AMシステムが解けてしまうも撃ち続ける。

 その光景は、その雄姿は、エース達にも、ヘブンズゲートのブリッジにも、周辺の部隊の全てに届いていた。巨大な敵、強大な闇に立ち向かう、自らの意思を貫き続ける人の力、人の強さの光を示すように放ち続け、そして……輝く。轟く。ヘブンズゲートの放つ、極天の光が。

 

「この一撃を以って、偽りの神を討滅するッ!アポカリプスキャノンッ、放てぇええええええええッ!!」

 

 かっ、と目を見開き、重厚感ある声を響かせるイヴォワール。直後に光が…艦体下部、それ自体が全長1㎞を超える超極大砲であるアポカリプスキャノンへと眩いばかりの光が収束し、輝きに満ち……次の瞬間、光芒が放たれる。射線上の凡ゆる存在を飲み込む、空間そのものを切り裂き薙ぎ払うような光が撃ち込まれ、最後まで留まり続けたリヨンのオンミニド・サーガ諸共ダークメガミを消滅させる。巨体も、装甲も、再生能力も…如何なる要素も関係なく、ただ消し飛ばす。遥か先に位置していた負常モンスターも例外なく吹き飛ばし…極光の一撃が消え去った時、射線上に残るものは何一つなかった。

 

「敵ダークメガミ、全機消め……いや、待って下さい!一体残っています!半壊ながらも、未だ存在!」

「ならば逃がすなッ!光学主砲全門、てぇぇッ!」

 

 しかしやはり単独で引き付け続けるのは無理があったのか、僅かに射線から逃れていたらしい一体のダークメガミが、左半身を失いながらも空中に留まっていた。

 されどそれも、ヘブンズゲートからの主砲の連打で撃ち砕かれる。特装砲に比べれば遥かに弱い…だとしても1㎞オーバーの要塞艦に相応しい多数の閃光がダークメガミを蜂の巣にし、粉々になるまで貫き破り……再生不可能だとばかりに、最後の一体も砕け散る。残骸となったダークメガミの破片が霧散していき…湧き上がるのは、割れんばかりの歓声の渦。

 

「諸君!我々の…人の勝利だ!女神様に捧げるに相応しい大勝利だ!だからこそ…後は守り切るのみッ!女神様が戻るその時まで、最後まで力を尽くし…生き残れッ!」

 

 歓喜の中で響くのは、やはりまたイヴォワールの声。その声に応じるように、一人一人が戦いを続ける。

 陰る事はない、負常モンスターの猛威。ダークメガミを倒したとしても、未だ終わらない戦い。それでも人々の心は…そこにある希望は、強く凛々しく輝き続ける。

 

 

 

 

 消え去った、完全に消滅した、リヨンの機体。当然コックピットもブラックアウトし……次の瞬間、ハッチが開く。

 

「…ふ、ぅぅ……」

 

 戦闘を続けるプラネテューヌの空中艦の一つ。その一角にて、設置されたコックピットの一つから姿を現したのは…リヨン。遠隔操作機体故に機体の消滅だけで済んだ彼女は、やり切った感慨から吐息を漏らし…しかしすぐに、管制員へと声を掛ける。

 

「余っている機体はありますか?使える機体があれば、なんであれ私に使わせて下さい…!」

「あ、あれだけの事をしたのにもうですか!?…で、ですがこの状況では、全機完全に出払って……あ」

 

 まさか、もう戦線復帰するつもりなのかと管制員は驚愕。続けて、余っている機体などないと言いかけ…しかし、気付く。

 

「…ふふっ、そういえば一つ、予備機が残っていました。……仕様変更待ちだった、リヨン隊長のルエンクアージェが」

「……!」

 

 それは、彼女の嘗ての機体。最新鋭機、オンミニド・セーガ受領前の愛機であり…今は別のパイロット用にデチューンと調整がなされる事となっていた機体。丁度それがあったという事実に、リヨンは運命的なものを感じ…消滅した今の愛機に挨拶をするように数秒目を閉じると、頷く。ルエンクアージェとの接続を頼み、コックピットへと戻る。

 そうして準備完了の後、戦場に戻るエース。空を飛ぶ事と、大火力を愛する彼女は、いつものようにその気持ちと…他の軍人達と同じ、女神に協力し、共に自分達の居場所を守りたいという気持ちを胸に、戦場を駆けるのだった。

 

 

 

 

 皆が切り開いてくれた道。皆が引き受けてくれた戦場。そこを進み、駆け抜け、飛び続けて…私は今、感じている。負のシェアの城…その核は、もうすぐであると。

 

「ねぇ、いりっち。いりっちは最初、ここまでの事になるなんて思ってた?」

「え?」

 

 うずめが展開するシェアエナジーのシールドを壁にした状態で、私達は今進んでいる。その中で不意に私は訊かれ、目を瞬かせ…それから答える。

 

「…また、色々あるかもって気はしてたけど…ここまでの事は、予想してなかったな」

「だよね〜。うずめなんて、別次元の事も知らなかったし、目の前の状況で手一杯だったから、もう全然想像してなかったよ〜」

 

 もうすぐ核のある場所に辿り着く…ような気がしているのに、やっぱりうずめの声音はほんわか状態。でもそれが、女神化している時のうずめな訳で…ある意味、心を落ち着かせてくれてる。…と、思う。

 

「ほんとに、大変な事が一杯で、嫌な事も辛い事も、苦しい事もあって……だけどうずめ、やっぱり良かったなぁって思うの。だって、皆に出会えて…皆と繋がれたから」

「…だね。私もそう思うし…私も良かったって思ってる。勿論、良くない事や、どうにもならなかった事もあるけど…かけがえのないものも、沢山掴む事が出来たから」

「うんうん。だから…ぜーったい、勝って終わらなきゃだよねっ!」

 

 にぱっと笑ううずめに、私も笑みを浮かべて頷く。…うずめは本当に、色んな辛さや苦しみを経験してきたと思う。思うっていうか、してる。なのにこうして笑えるのは、うずめ自身の強さもあるだろうし……得られた繋がりが、結ばれた絆や想いが、うずめの心にあるからだって、私は確信している。

 そうしてまた、扉を見つける私達。そこを突破する為、私は長剣を構えて……でもそこで、うずめは言った。

 

「それじゃあいりっち、後は頑張って!うずめ、信じてるから!」

「…へ?うずめ、それはどういう……」

「どうも何も…あはは、時間切れみたいで…」

 

 一瞬、不安になった。急に振り返るような事を言い出したのを含めて、まさか知らない内に重傷を…と思ったけど、実際は単なる時間切れ。いや勿論、こんな場所で女神化が解けるのは不味いんだけど…私が想像したような事じゃない。

 

「でも、ここで負常モンスターが現れたりとかしても、全部うずめが何とかするから!それは、信じて!」

「うずめ……ふふっ、分かった。…後は、任せて」

 

 びっ、と突き出された拳に私も拳を当て、にやりと笑い合って、私は扉の前へ。小さく息を吐き、扉を見据え…そして一閃。一刀両断して、中へ入り……

 

「……──ッ!?」

 

……入ろうとした。入るつもりだった。でも…気付いた時にはもう、扉の内側。中の空間に…引き込まれたかのように、気付けばいた。

 中にあったのは、ここまでとは違う、壁も床も天井もない空間。思い出すのは、負のシェアの柱の中で…同じ負のシェアエナジーによるものと考えれば、納得も出来る。

 

(…という事は、きっと……)

 

 あの時の事を思い出しながら、正面を向く。すると…やっぱり、あった。負のシェアの城の…ここに集まる、収束する負のシェアの核と言うべき、朧げに揺らめく『何か』が。

 

「前と同じ方法…しかないよね。本質的な部分が同じなら、解放の仕方だって……」

 

 深呼吸をし、リバースフォームを発動。全身全霊、全ての力と思いを駆けて、負の思いを止める為に…受け止める為に、まずは近付いて…………

 

 

 

 

 

 

──あ、駄目だ。無理だ。これは、絶対…どうやったって、無理だ。

 

「……は、はは…」

 

 一歩…たった一歩近付いただけで、気付いてしまった。分かってしまった。これは私じゃ、どうにもならないと。

 頑張るとか、諦めないとか、そういう次元じゃない。一瞬で、直感的に分かってしまうような……絶対的な、不可能。リバースフォームでも、出来やしない。出来ないどころか、リバースフォームを介して過去に…この溢れんばかりの力の源に、致命的なダメージを与えてしまう気すらする。

 

「……っ…でも、だとしても…!」

 

 だけど、私に諦めるなんて選択肢はない。ここまで皆が、本当に数え切れない人達が繋いでくれた先に私がいるというのに、諦めるなんて事は出来ない。たとえ不可能だとしても……いや、違う。私が諦めるという事こそ、真に不可能な選択肢。

 無理だという気持ちが強くなるのを感じながらも、一歩一歩進む。出来ないという直感的理解が肩にのしかかり、足を取られながらも進んで、近付いて、手を伸ばせば届きそうな距離にまで辿り着く。…辿り着いたけど……力が、入らない。

 

(…駄目だ…諦めるな、挫けるな私…!私自身が、私の思いが潰えてしまえば、シェアの力を…思いの力を振るえる訳がないだろう……ッ!)

 

 自分を鼓舞する、叱咤する。私に諦める道はないんだと、再確認もする。

 だけどやっぱり、力が入らない。シェアエナジーが、思いが身体に籠らない。まだ触れてすらいないのに、触れてすらいないからこそ、その状態でも感じる不可能という壁に、頭でも身体でもなく心が無理だと諦めてしまっていて……

 

「……だけど、私は…一人じゃない…ッ!」

 

 その時、思い出した。皆と繋がれたんだという、うずめの言葉を。それを皮切りに、私は思い出す。家族、友達、仲間…私を信じてくれる人、私と共に戦ってくれる人…知り合った人、触れ合った人……信次元の皆も、別次元の皆も、皆の事を一つ一つ、一人一人。

 同時に、思う。そんな皆がまだ、戦っているんだ。そんな私達を、信じて祈ってくれる人達がいるんだ。だったら私は何をする?私に何が出来る?…嗚呼、そうだ。私は女神、私は原初の女神の複製体たるオリジンハート。ならば私が心に抱くのは、諦観ではない。絶望ではない。光り輝く、全てを照らす……希望の光だ…ッ!

 

 

 

 

────そう思った瞬間、目の前で光が生まれる。思いの光が、シェアの煌めきが生まれ、形を変え……一振りの、剣となる。

 

「…これは…これなら、きっと……」

 

 私の心に希望が蘇った瞬間に現れた、一つの光。この空間に満ちる…いや、この城と負常モンスター、その全てに籠る絶望に匹敵するような、希望の輝き。

 これならいける。この光り輝く希望ならば、闇も絶望も祓える。女神として、思いを持つ者として、それを感じ取った私は剣となった希望に触れ……

 

「…………ぁ…」

 

──薄れ、始めた。触れた瞬間、掴んだ瞬間、意識が、感情が……『私』という、存在そのものが。

 何故か。…そんなの決まっている。これが、希望そのものだからだ。私から生まれたものじゃない……信次元の全ての人が抱く、信次元の希望とでも言うべきものだからだ。そんなものを、そんなにも大きく深いものを…ただの女神である、私一人で担える訳がない。もし振るうのだとしたら、この希望で絶望を貫こうとするのなら…私はイリゼではなく、私ではなく、『信次元の希望の器』とならなければ、出来やしない。

 

(……あぁ、でも…温かい…凄く凄く、温かくて…心地良い。…だったら…これで全てを守り、救えるんだとしたら……)

 

 ゆっくりと、両手で掴んだ剣を持ち上げる。それが私の意思か、それとも私から置き換わり始めている、希望の担い手としての行動なのかは分からない。

 そんな存在に変わる事への恐怖はない。だってこれは希望そのもので…そんなにも希望に溢れる、希望に満ちる信次元である事が、心から嬉しいから。それにきっと、置き換わったとしても、器としての私はそのままいて…だから恐れる必要もないような、そんな気もする。

 そうだ、私は女神なんだ。女神なら…こうする事に、間違いなんてありはしない。もし私ではなくオリゼなら、きっと迷わずそうする。だったら私も…私だって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────いいや、違う。そうじゃない…これは、それは…希望は、そういうものじゃない…ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そう、だ……これは、私の希望じゃない…皆の希望だ…!希望は、誰かに託す事はあっても……心の中で、一人一人が持ち続けるものだ…ッ!」

 

 それに気付いた瞬間、一気に思考がクリアになった。朧げになっていた心が、私が、『イリゼ』へと戻り…『オリジンハート』として、今度こそ私は理解する。真理を掴む。

 自惚れていた。全ての人の、全ての希望を私が担おうだなんて…自惚れ以外の何物でもない。この希望は、私じゃなくて…全ての人が担うものだ。全ての人が担い手であり……私はそれを、形にしているだけなんだ。

 だから、私は器になる必要なんかない。私も担い手の一人として…皆と共に、希望を貫くんだ。

 

「…ありがとう、皆。私と共に歩んでくれて…皆で希望を、描いてくれて。だから……」

 

 改めて、負のシェアの城の核…絶望そのものを見据える。希望を強く握り、持てる力を…リバースフォームを、完全解放する。

 もしかしたら、もう一人の私は違う答えかもしれない。全ての希望の担い手となる事こそが、もう一人の私にとっての答えかもしれない。…でも、それならそれでいい。そうだとしても、そうじゃなかったとしても…私の答えは、変わらない。私ともう一人の私は、同じ私だけど…違う私でもあるから。人と支え合い、共に歩む…当代の女神である皆と同じように、私もまたそんな女神であり……それが私の、信念だから。

 

「──再誕の原初、再臨の救世。心意の光が導き照らすは、人と女神の歩む世界」

 

 私は思い浮かべる。心に描く。これまでの私の、私が掴んできた喜びの全てを。善意の全てを。

 

「全ての者に祝福を、全ての命に暖かな救いを」

 

 私は思う。私は願う。愛と優しさ、喜びと勇気、感謝と信頼…凡ゆる善意に、温かな思いに満ちた希望の未来を。明日を。これから先に続く道を、終わらない道を。

 

「光よ、希望よ、届け!繋がりし全ての次元、全ての世界に!闇に、絶望に!響け、煌めけ!こんなにも、人は、人の思いは……温かな輝きに溢れているとッ!」

 

 ここにあるのは、信次元に住まう全ての人の希望。隣にいる人、共に戦う人、未来を信じる人…次元や世界を超えて繋がる思いに育てられ、支えられ、花開き咲き誇る思いの、何もかもを飛び越えて響く思いの、希望の光。

 きっと届く。きっと守れる、きっと救える。この光が届く全ての場所を、次元を、世界を、人を……全てを。だから……

 

「希望の光よ、闇を祓い、絶望を照らせ!ここは、信次元は……希望の道を、歩み続けるッ!!」

 

 潰すんじゃない、否定するんじゃない。闇にも、絶望にも、届けるんだ。光を、温かさを…悪意を内包する負の感情に、希望という善意の思いを。

 翼を広げる。力の全てをここに懸ける。私の背中を押してくれる、全ての人……思いを介して、希望を介して繋がった、何もかもを超えて紡がれた絆と共に──私は、振り抜く。




今回のパロディ解説

・「──今の世を守りし〜〜解き放てッ!」
カードファイト‼︎ヴァンガードにおけるユニットの一つ、オルターエゴ・ネオ・メサイアのフレーバーテキストの一つのパロディ。久し振りのオリゼのメサイアパロです。

・「〜〜俺は女も弾も一発必中〜〜」
マクロスfrontierに登場するキャラの一人、ミハエル・ブランの代名詞的な台詞の一つのパロディ。可変機の狙撃手といえば、やっぱりこのキャラも出てきますよね。

・「〜〜高濃度圧縮粒子、全面に解放〜〜」
機動戦士ガンダム00に登場するキャラの一人、ティエリア・アーデの台詞の一つのパロディ。ふふ、その直後の単語でも分かると思いますが…完全にパロネタです。

・「〜〜光の舞じゃない……」、「傾いて〜〜あいつ…」
こちらもマクロスfrontierに登場するキャラの一人(二人)、ミハエル・ブランとクラン・クランの名台詞の一つのパロディ。そうです、こっちの作品の機能パロでもあります。
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