超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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エピローグ 少女達の希望

 信次元の関わった、全ての次元と世界を巻き込む戦いは、決戦は、終結した。全てを飲み込まんとする負のシェアに、絶望に正のシェアが、希望が打ち勝ち、人も次元も…未来も救われた。

 それは…信次元での決着は、神次元からでも分かった。イリゼ達が…皆が守れたんだって、次元の門から流れ込む温かな光を見て、わたしは確信した。

 

「…終わった、みたいね」

 

 光の帯が空に、次元に広がっていくと共に、負常モンスターが消えていく。気持ちが緩むように、希望の光に照らされるようにして空へと消える。その光景を前に、わたしは連結剣を下ろし…小さく息を吐く。

 向こうに比べれば数が少なかったとはいえ、それでも過酷な戦いだった。一周半回ってやっぱり洒落にならない程の物量と、一周回って逆に笑える位の物量を比較しているようなものであって、どっちにしろ凄まじく多い事には変わりないんだから。

 だとしても、わたし達は押さえ切り、生活圏への侵入を免れる事が出来た。その事にわたしは安堵をし…皆の声が、返ってくる。

 

「ふぅ…こんなに長時間の戦闘をしたのは久し振りだわぁ。これはもう、明日からはゆーっくり休まないとよねぇ」

「うん!ぴぃ達のだいしょーり、ぶいっ!」

 

 同じように蛇腹剣を下ろして吐息を漏らすプルルートと、右手でVサインを掲げるピーシェ。勿論ノワール、ブラン、ベールもいて、全員無事。信次元からこっちに来ているパーティーの皆だって無事で、確かに文句なしの大勝利。…まぁ、さらっとプルルートはだらける事を考えてるけど…それとピーシェ、普通Vサインは人差し指と中指でするものよ。人差し指と薬指を立てたらVサインじゃなくてぐわし感が凄いし、しかもそのポーズは活字媒体じゃ誰かが言及しなきゃ伝わらないから…。

 

(…まぁ、でも…これだけの大決戦だったんだもの。少し休暇を取ったり、羽を伸ばしたりするのは、別に良いわよね)

 

 女神は体力だって超常の域だけど、大変な事があれば心だって疲れるし、心の癒しが必要なのは人と同じ。だからプルルートの発言には苦笑をするだけに留めて…同時に思う。これまでは小康状態が何度かあったとしても、基本的には動乱の渦中だった訳だけど、これからは違う。戦いの後処理が済めば、そこには平和が戻って…気兼ねなく、出掛けたりのんびりしたりが出来るようになる。…家族皆で、ゆっくり過ごす事もきっと出来る。そう思うと期待に胸が膨らむし、その日を早く迎えられるよう、また信次元に精一杯協力したいと思う。

 

「…それにしても…あぁ、嗚呼、凄い…なんて凄い光なの…!あの光から感じるシェア、希望、信次元中の人達の思い……はぁ、はぁ…あの感情の奔流を、直に受けたらわたし、きっとどうにかなっちゃうわ…♡」

「……ほんと、セイツちゃんは筋金入りの変態よねぇ」

「うん、せーつはへんたい……」

 

 美しいなんてレベルじゃない、心の輝きの極致が如き光の帯にわたしが身体と心を震わせていると、また何か皆から変な視線を向けられる。でも良い、今は気にしない。それより今は、あの希望の光を見つめたい、感じたい。だって……胸の高鳴りが止まらないんだものっ!

 

……とまぁ、そんなこんなで神次元での戦いは終わった。わたしには分からないけど、別次元…次元の門で繋がった各地も、同じような感じになっているんじゃないかと思う。そして…そう思っていたわたしが、オリゼの事を知ったのは、今よりも少し後。それはまた…別の話。

 

 

 

 

「──斯くして闇は祓われ、希望が勝利し、戦いは終わった。悪は消え、正義が生き残り、奇跡が次元を…世界を救いという名の祝福で満たした。…なんて、な」

 

 次元と次元の狭間。それぞれの次元毎に存在するルールからは外れた空間。通常ならば、次元を渡る力があっても行き着く事のないような場所に、彼女は…クロワールはいた。

 

「陳腐でありきたりだが…ま、面子からすりゃお約束の結末ってところかもな。正に総力戦、幾つもの次元や世界を巻き込んだ大バトルって部分じゃ滅茶苦茶楽しませてもらったし…悪かぁねー結末だ。…にしてもいってぇ…後少しでもズレてたら、えらい事になってたぜ…」

 

 悪くはない。そう言いつつも、実際には中々満足そうな表情を浮かべているクロワール。しかしその後、彼女は顔をしかめ、片腕を押さえる。信次元からの離脱の直前、オリゼの最後の一撃が掠めた事による傷を押さえて、もし直撃していたらを考え…止めた。今のクロワールに、まるで面白くもない想像を巡らせるつもりは毛頭ないのだ。

 

「レイといいあいつといい、初代はなんでこうも面倒臭ぇ性格してるんだかなぁ…。…って、過ぎた事を言ったって意味はねぇか。それよりこの力、どう使うのが一番おもしれー事態になるかなぁ…?」

 

 困ったものだ、と自分の事を棚に上げたクロワールは、それから体良く掠め取った力…レイの女神の力の事を考え、笑みを浮かべる。規格外たるこの力で、どれだけの事を、どんな騒動を起こせるものかと胸を躍らせて。

 

「んまぁ、それ含めてまずは色んな次元を見て回るとすっかな。この戦いで、新しい何かが起きてるかもしれねぇし。それと、見て回る前にちょっくらネプテューヌの所にでも……」

 

 善も悪も関係ない。面白そうなら、自分が満足出来るなら、どっちであろうと加担する…そんな快楽主義者たるクロワールは、ぼんやりと今後の行動について考え始め、続けてネプテューヌ…彼女を散々振り回してきた人間のネプテューヌを煽ってやろうかと口角を上げ……

 

「……って、何考えてんだオレは。オレにとってあいつは、女神でもねぇのに疫病神みたいなもんじゃねぇか。そんなネプテューヌに会いに行くとか、ねぇっての…」

 

……数秒後、クロワールは表情を曇らせ、そんな事するものかと言い直した。今は存分に面白いものを見る事が出来て、次なる騒動を起こすのにぴったりな力もある。そんな気分の良い時に、何故そのような事をしなければいけないんだ、と自分の思考に対して否定をし、気分を変えようとするように次元の扉を開く。新たな騒動の種を探そうと、次元の狭間を後にする。

 そうして結局、人間のネプテューヌに会う事はなかったクロワール。彼女に、自分の行いを改めようとする気はなく……しかし人間のネプテューヌへ、ちょっかいを掛けに行こうかと考えていた時のクロワールは、確かに愉快そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 プラネタワーの上層階。リビングに当たる部屋のバルコニーに、わたし達はいた。…おっきいわたしを、見送る為に。

 

「皆、良いの?わたし、格安料金で送るよ?」

「構わないわ。もう少し…というか、普通の信次元を見て回りたいとは思っていたし」

「というか、有料なのね…次元を超えるって考えれば、格安どころか高額料金を要求されても文句は言えないけど…」

 

 くるっと振り返ったおっきいわたしの言葉に、ニトロプラスとチーカマの二人が返す。

 見送りっていうのは、おっきいわたしの事。わたし達としては、もっとゆっくりしていってもらっても構わないし、おっきいわたしの方も信次元は気に入ってくれたみたいだけど…次元移動能力の試運転がてら、幾つかの次元を軽く回ってみたいんだとか。

……って…あ、ごめんね説明してなかった!実はおっきいわたし、ねぷのーと経由で何度もクロワールの次元移動能力を使ったり、その力に触れ続けてた影響なのか、おっきいわたし自身も次元移動が出来るようになったみたいなんだよね。まだ「出来る気がする!」…レベルで、実際に試すのはこれが初らしいけど…何にせよ、ねぷのーとって何かとズルいよね!……代償の事を考えると、使うのは気が引けるけど。

 

「ま、それなら帰りたくなった時に声をかけてね。って言ってもわたしが別次元にいる時は無理だし、そもそもいーすんに頼めば良い話だけどさ」

「ふふ、君こそ一人旅が寂しくなったら、いつでもわたしを頼ると良い!わたしなら、いつでも大歓迎だ!」

「あはは…あの、また来て下さいね?皆も待ってますから」

「んもう、ネプギアってば大袈裟だなぁ。前も言ったけど、試しにちょっと次元超えてみるだけだって。旅行感覚で行って、すぐまた信次元に来るつもりなんだから、そんなお別れみたいな雰囲気出さないでよ〜。ね?」

 

 ばんばん、とネプギアの肩を叩くおっきいわたしは、ほんとに次元を超えるっていうか、ちょっと遠出をしてくる位の雰囲気をしている。見送りの人数が少ないのも、「皆に見送られたら逆にすぐ戻ってき辛いしね〜」っていうおっきいわたしの気持ちを汲んだからで…確かにおっきいわたしがそういうつもりなら、こっちも軽く受け止める位の方が良いよね。

 

「大きいネプテューヌさん、ご飯はちゃんと持ちましたか?何か一種類を沢山、じゃ駄目ですよ?食事は必要不可欠であり、心の楽しみにもなるものなんですから、そこを手抜きしたら……」

「ゴッドイーターはほんと食事に対して余念がないよね…ふふん、でも大丈夫!ねぷのーとがあれば、食料も持って行き放題ですからっ!」

「そ、そのねぷのーとって、虫の標本としても使ってましたよね…?…流石お姉ちゃん、胆力が違う……」

「え、ネプギア…それってわたしも含まれてない…?いや、流石のお姉ちゃんでもプリンとかじゃなきゃそれは躊躇うよ…?」

『あ、プリンなら躊躇わない(んだ・のか・のね)…』

 

 わたしは別に虫好きとかじゃないから…と思って言葉を返したのに、何故か軽く驚かれてしまう結果に。ま、そうだよねぇって顔をしているのはおっきいわたしだけで…あ、おっきいわたしも抵抗感を理解は出来るんだ。って事は、慣れれば気にならなくなるだけとかかな?

 

「ま、とにかく皆、もっと軽い…というか、明るい調子で送り出してあげようよ?じゃなきゃわたし達だけで見送る意味がないしさ。それと、旅行感覚って事なら、お土産頼んだよ!」

「よーし、それならペナント買ってきてあげるよペナント!何の柄もなく、ただただ『ペナント』ってだけ書かれてるやつ!」

「そんなどこのなのかも分からないお土産は要らないよ!?」

 

 ただでさえペナントって貰っても扱いに困る事が多いのに、そんな見所が微塵もなさそうなお土産を貰ってもほんとにどうしたらいいか分からない。だから止めてね、本当に止めてね…!…とわたしは念押しをして…おっきいわたしは、一つ深呼吸。

 

「…じゃ、行ってくるね。もう大丈夫だと思うけど…くろめの事、頼んだよ」

「はい。大きいお姉ちゃんも、お気を付けて」

「行ってらっしゃい、おっきいわたし!」

「うん!それじゃあ新たな次元に向けて、しゅっぱーつ!」

 

 ふっ、と真剣な顔になったおっきいわたしの側に現れる、次元の扉。いーすんやクロワールの力で作ったものに比べると少し小さくて、色も何となく薄い…だけど確かに、ここじゃないどこかに繋がってる扉をおっきいわたしは開いて、それから浮かべた笑顔と共に入っていった。

 そしてわたし達も、おっきいわたしを笑顔で見送った。次元を渡る一人旅って言うと危険そうだけど、それをおっきいわたしはこれまでずっとしてきたって実績があるし…同じわたしだからこそ、きっと大丈夫だって思える。

 すぐ来るって言ってたけど、それがどれ位になるかは分からない。でもきっとまた来るし…遅くなったら遅くなったでもいいと思う。それなら、それはそれでより発展したプラネテューヌ、もっと凄くなったわたしの国を見せる事が出来るから。くろめにレイ、別次元の色んな女神の皆、それにオリゼ…わたしは今回の事でまた色んなものを見て、色んな女神を知って、わたしの中である思いも生まれたからこそ、精一杯わたしに…今のパープルハートに出来る事を……

 

「……あれ?…ねぷぅぅううううぅぅ……!」

『……へ?』

 

……なんてちょっとシリアスな事を考えていたところに聞こえた、おっきいわたしの悲鳴の様な声。遠くに、微かに聞こえた声の方を見たら、そっちの方角で何かが空から降ってきていて……落下した。どこかの建物に、どこかの屋根に。

 

((ま、まさか……))

 

 一抹の不安…落ちた先での怪我人含めた不安を抱きながら、急いで落下先へと向かったわたし達。どうやら落ちたのは、銭湯みたいで…結果から言うと、怪我人はいなかった。誰の上にも落ちずに済んだっぽくて、その点では良かったんだけど……出てきたおっきいわたしはずぶ濡れ且つ、これでもかって位顔が真っ赤になっていた。あぅぅぅぅ…って状態になっていて……おっきいわたしの次元移動能力は、某星の欠片以上にどこに飛ぶか分からない。だから暫く次元移動は止めておこう、という結論に至ったのだった…。

 

 

 

 

「…そっか。だからミラお姉ちゃんは、未来の『時間軸』から来たって言ったんだね」

「うん。未来の時間軸って表現なら、嘘にはならないかな〜って思ったんだけど…誤解させるような言い方ではあるもんね。だからそれは、ごめんねネプギア」

 

 未来の時間軸から来たお姉ちゃん…ミラお姉ちゃんと、姉妹の共用部屋で二人で話す。…最後にちょっとだけ、二人で話したいって言われたから。言ってくれたから。

 

「ううん、大丈夫だよ。そのせいで困った、なんて事はなかったし…ミラお姉ちゃんは、関係無いわたし達の次元に来て、力を貸してくれたんだもん」

「それだって、目的があったからだよ。…わたしは見たかったの。諦めない事、信じ続ける事…その力は、無限大だって。どんな不可能も、超えられるんだって」

 

 そう語るミラお姉ちゃんの顔は、お姉ちゃんとも、大きいお姉ちゃんともちょっとだけ違う。皆同じ「お姉ちゃん」だけど…積み上げてきたものは、経験は違う。その分、ちょこっとだけ違いがあるのかなって、わたしは思う。

 

「…わたし達は、見せられたのかな?ミラお姉ちゃんに…思いの力を」

「勿論だよ。思いの力が起こす奇跡を、ばっちり見せてもらえたし…負けてられないな、とも思ったよ。わたしだって…わたしの次元だって、沢山の可能性が、希望を目指す思いがある筈なんだから」

 

 ぐっ、と拳を握るミラお姉ちゃんの顔は明るい。多分、これからミラお姉ちゃんがしようとしてる事は…信次元で確かめる事の出来た、諦めず信じる思いの力を懸けて目指そうとしているのは、凄く大変な事。なのにミラお姉ちゃんからは不安なんて感じなくて、むしろ楽しみにしてる風ですらあって…やっぱり、思う。何度だって思う。お姉ちゃんは、凄いって。

 

「にしてもほんと凄いよね。イリゼやオリゼの存在もそうだけど、シェアリングフィールド無しでダークメガミを倒しちゃったり、くろめとレイが共謀してたり、そもそも女神の転換期もなかったり…神次元より共通してる部分は多い筈なのに、こんなに色々違うんだもん。…メディアの違いを理解せよ、って事かなぁ…」

「いや多分、メディアの違いは関係ないと思うけど…でもそうなると、もしかしたらわたしやお姉ちゃんは、そっちのわたしやミラお姉ちゃんよりも強いのかな?」

「それはどうかなー?こっちのネプギアはラーニング能力っていう要らない要素ばっかり獲得したり、いつの間にかなくなってたりする特殊能力を持ってるんだよー?わたしだって、いつの間にかレベルが1になってる特異性があったりするんだよー?」

「ど、どっちも要らないし凄くないよ…。……あれ、でも…いつの間にかレベル1になっちゃうなら、その度に鍛え直して次元を救ってるミラお姉ちゃん達の方がやっぱり強い…?」

 

 これを超えられるかなー?…みたいな顔で言ってくるミラお姉ちゃんに何とも言えない気分になった後、やっぱり凄いのかも…?…と思い直すわたし。そんなわたしの反応が面白かったのか、ミラお姉ちゃんはにこにこしていて…それからよし、とソファから立ち上がる。

 

「…じゃあ、そろそろ行くよ。皆も見送りの為に待ってくれてる訳だし…いつまでもわたしが帰ってこないと、向こうのネプギアも、皆も寂しがっちゃうからね」

「…ミラお姉ちゃん…また、こっちに来てくれる?」

「あはは、心配しないでネプギア。折角交流が出来たんだからまた来るつもりだし…逆にネプギアの方こそ、皆と一緒に今度おいで。さっき挙げた事以外でも、うちと信次元じゃ違うところが多いから、ちょっと見て回るだけでも色々楽しめると思うよ」

 

 優しく微笑むお姉ちゃんの言葉に、わたしも頷く。そうだよね。待つばかりじゃなくて、こっちから行っても良いよね、って思いながら。

 後を追うようにわたしも立って、二人で部屋を出る。次元の扉を開いてくれるいーすんさんが、皆が待ってる場所へと向かう。

 

「…ねぇ、ネプギア」

「なぁに、お姉ちゃん」

「これからも大変な事はあると思うし、もう絶対無理だって思いたくなる事もあるかもしれない。だけど……」

「…うん。そんな事があっても、わたしは諦めないよ。諦めないし、信じるのを止めたりもしない。それがわたしの…ううん、わたし達信次元の女神皆の、何よりの強さだから」

「ふふっ、こっちのネプギアもやっぱり頼もしいね。それにネプギアに…皆にとっては、不要なお節介だったかな。……お互いこれからも、頑張ろうね」

 

 二人の時間で最後に交わしたのは、そんなやり取り。別次元のお姉ちゃんと、少し違う戦いや日々を乗り越えてきたお姉ちゃんと、お互いこれからも頑張ろうって笑い合って……そうしてミラお姉ちゃんは、皆の見送りを受けて自分の次元に、超次元に帰っていった。

 ミラお姉ちゃんの言う通り、これからも大変な事、どうしようもない程辛い事はあると思う。だけど諦めないし、信じるのも止めない。きっとわたしは、そうせずに前を向いて、進み続ける事が出来る。だって……信次元には、諦めたくない理由が沢山あるから。信じられる…皆がいるから。

 

 

 

 

「たっだいまー!」

「お帰り、お姉ちゃん」

「…あれ?皆は?」

「お姉ちゃん数日連続で『明日帰るから!』って言って先延ばしにしてたから、皆一旦帰っちゃったよ…」

「そ、そんな…皆の薄情者ー!…と言いたいところだけど、まぁそうだよねぇ…」

「向こうで色々あったのは分かるけど、一旦はまず帰ってきて…ってあれ?これは……え、シェアクリスタル!?なんでこんな大量に!?」

「ふふん、貰ったのだ!…負常モンスター絡みで迷惑かけたお詫びと、わたしが迎撃に参加したお礼、って事でね。それと…伝言も二つ、受け取ってきたよ。『諦めんな、信じ続けろって伝えてやってくれ。…皆から言われりゃ、そう言ってもらえたのなら…きっとそっちの俺だって、手を伸ばせる筈だからよ』『オレは思い込みが激しくて、独り善がりなやつだ。…だから、遠慮なく、容赦なく、ぶつかってくれ。言葉でも、拳でも…きっとそれが、一番だから』…だって。…ほんと、沢山のものを…希望を見せてもらったよ」

「そ、っか…それじゃあ今度は…わたし達の番だね。今度こそ、わたし達も…諦めないで、信じ続ける番だよね」

「そうそう、やっぱりネプギアは分かってるね!…この為の準備は、前からしてきた。皆で一杯考えて、今度こそって決めて、信じ続けた先にあるものを見せてもらった。だから……

 

 

 

 

──もうわたしは、諦めない。復讐に囚われたくろめの事も、自分を犠牲に全部守ろうとしたうずめの事も。…救いに行こう、うずめもくろめも。わたしとネプギアで…わたし達、皆で」

 

 

 

 

 信次元に住まう人、その全ての思いが、希望が一つとなって現れた、奇跡そのもの。想聖器Share、と名付けられたその奇跡の力により、悲しみは、絶望は、如何なる理屈や道理を覆して祓われ、喜びと希望が信次元を包んだとはいえ、翌日から即日常が戻った…って訳じゃない。当然後処理やら、今後の事を考えたあれこれが女神の私達にはある訳で…それも少し落ち着いてきたところで、私はイストワールさんとセイツの三人で、魔窟の奥…私が眠っていた場所に訪れた。

 

「やっぱりここは、何となく落ち着くわね」

「ここはオデッセフィアの時代に、イリゼ様自ら造られた場所ですからね( ̄∇ ̄)」

 

 到着し、足を止めたところで、軽く見回しながらセイツがそう言う。ここは私にとっては眠っていた場所、始まりの場所とも言える訳だけど…確かにイストワールさんの言う意味でも、落ち着きを感じるのは自然だと思う。

 

「…それにしても…ここに初めて来た時、皆が家族なんだって知って、でも二度目に来る時はもう、オリゼはいないなんて…わたしの中でこの場所の印象、上下し過ぎだわ……」

「…その、ほんとにごめんね…私がああだこうだ言わず、速攻で会いに行く事を提案していれば、最後に一目会う位は出来たかもなのに……」

「もう、その事はいいって言ったでしょ。落ち着いて考えられる状況じゃなかったなんて分かってるし、ちゃんとわたし達への言葉はイリゼが届けてくれたんだし。それにわたしだって、もう会えないだなんて事は微塵も考えて……」

 

 辛かったとはいえ、ちゃんと最後まで話せた私と違って、二人は最後の場に立ち会う事も出来なかった。それは絶対に辛い筈で、でもイストワールさんもセイツも、大丈夫だからと言ってくれる。今だって、肩を竦めたセイツは前向きに捉えた言葉を発していて……だけどそこで流れる、一筋の涙。私やイストワールさんは勿論、セイツ自身もすぐに気付いて、流れる涙に触れて…言葉を、詰まらせる。

 

「あ、あれ…?…おかしい、わね…ちゃんとこの事は、自分の中で整理を付けた筈…なのに……っ…」

「…セイツ…わ、私は……っ!」

 

 セイツの顔に浮かぶ、動揺の色。瞳は揺らいで、段々表情は辛そうな、苦しそうなものに変わって…心が、痛む。あの時の私の選択次第で、何か変わってたんじゃないかって…やっぱり一目会えてただけでも、全然違ったんじゃないかって、そう思う。思ってしまう。

 そんな中で、セイツの頬に触れる小さな手。それは私とセイツにとっての姉…イストワールさんの手。

 

「…いいんですよ、セイツさん。辛いなら、悲しいなら、気なんて遣わず泣いていいんです。わたし達は、家族なんですから」

「ち、違う…違うのよ、イストワール…無理してた、訳じゃなくて…そうじゃ、なくて……っ」

「…うん。分かるよ、セイツ。自分の心がどう感じてるか、自分でも分からなくなる時はあるもん。だから…取り繕わないで」

「……っ…!二人、共…っ!」

 

 その小さな手で撫でるイストワールさんに続くように、私もセイツの手を握る。握って、私がセイツに勇気を貰った時の事、イストワールさんに全て吐き出した時の事を思い出して…今度は私の番だと、セイツを抱き締める。

 触れ合う温かさ、温もりの中で、セイツは涙を零す。セイツの気持ちを受け止めている内に、私も涙が零れ落ちて…でも、これで良いと思う。私もセイツも…抱く気持ちは、きっと同じだから。

 

「…ありがとう、二人共…ちょっと、すっきりした…そんな、気がするわ…」

「それなら、安心しました。それに…わたしも、少しだけ心が楽になった気がします(´・∀・`)」

 

 数分後、顔を上げて離れたセイツは確かにさっきより楽になったような顔をしている。答えたイストワールさんも、すっと指で目元を拭っていて…やっぱり吐き出して、気持ちを共有して良かったって、私は感じた。……吐き出したのは、セイツだけどね。

 

「ふふっ、それじゃあ改めて……」

『……?』

「…改めて、何だろうね…えっと、報告…で、良いのかな…?まだしっかり何かを報告する程、変化や進展があった訳じゃないけど……」

「あ、あぁ…普通に、話しに来た位で良いのでは?(・ω・`)」

「そうそう。家族に会うのに、わざわざ大層な理由を用意しなきゃいけない道理はないでしょ?」

「ま、まあそうだよね…普段は私だってそう考えてるんだから、二人がいるからって変に畏る必要もないよね……」

 

 何やってるんだか…と自分で自分に苦笑いした後、私は二人と共に、中央の柱を見る。その柱に触れて、思いを馳せる。

 もう、今の信次元に実体あるオリゼはいない。だけど…オリゼの残したものは、思いは、今もある。それにオリゼの事だから、私達の知らない、分からない形で、今も信次元を守っているのかもしれない。だから、寂しくない…って事はないけど、正直言えば今だって寂しいけど、私の心には未来への思いがある。寂しさはあっても、前に進める理由がある。

 

(…オリゼ。信次元は、ここから更に輝くよ。もっともっとオリゼが誇れるような、人の希望と幸せが尽きない次元になる。私が、私達が…皆が、そうするから)

 

 これまでも信次元は進んできた。未来を望み、未来を願い、その為に踏み出し、歩き続けてきた。困難があっても、絶望的な状況でも、諦めず、信じ続け…だから、今がある。信次元だけに留まらない繋がりすらも結んで、更に進んでいく。

 それは、私も同じ事。私も私で、私なりに出来る事や望まれた事をしてきたけど…ここからは、もっと前に進む。私が女神として、原初の女神の複製体として……私だからこそ出来る事で、私にしか出来ない事で、もっともっと信次元を煌めかせていきたいと思う。

 だから……信じていてね、オリゼ。待っていてね、もう一人の私。オリゼが愛する人達のいる、オリゼが守った先にある信次元の未来を…光溢れる未来を、見せてあげるから。

 

 

 

 

 目を開けた時、私は戻っていた。私の時代に、私を必要とする人々のいる国に…オデッセフィアに。

 私が未来で過ごした時間と、こちらで経過していた時間は恐らく合致していない。故に、私が本当に未来に渡っていたのか、複製されるように私はこの時代に残ったまま、私ではない私が未来に現れ、そこで消えると同時に記憶が上書きされたのか、はてまた別の何かなのかは分からない。

 だが決して、夢や幻ではない。私が未来で過ごした記憶は、そこで抱いた思いは…確かにここに、今ここにいる私にある。

 

「君達、本日もよく頑張ってくれた。イストワールも、ご苦労だったな」

「いえ、日々女神様のお役に立てて光栄です」

 

 色々と、思う事はある。だが私の、女神の本懐は人の為に尽くす事。思考など何かの片手間にやればいいが、人を救い、人を助け、人に笑顔と幸せを届ける事は、二の次になどしてはいけない。その意思の下、いつものように…しかし感覚的には久し振りにも思える私の務めを、今日という日も果たした。四大陸を飛び回り、各地で務めを果たし、平和と安寧がここにはあるのだと示した上で、教会へと戻った。

 そして今いるのは、執務室。職員やイストワールから今日の報告を聞き、労いの言葉を返した。普段ならこれで終わりであり、報告に来た職員達を返し、私はまた務めに戻る。だが、今日は皆に向けて…言った。

 

「…突然だが…少しばかり、身勝手な事を言ってもいいだろうか」

「…身勝手、ですか?」

「あぁ。私は近い内に、一度…休暇を取りたいと、思っている」

 

 訊き返すイストワールに頷き、私は答える。目を丸くしている皆に対して、私は続ける。

 

「無論、それによって支障が起きたりしないよう、調整はする。何かあれば、すぐに駆け付ける。そもそも君達が望まないというのなら、この話は無かった事にするだけだ。だがもし、君達がそれを許してくれるのなら……」

「…女神様。それを私達が、否定する訳ないではありませんか」

「その通りです。我々は、日々女神様が寝食すらも後回しにして我々の為に、人の為に尽くして下さっている事を知っています。ですが…女神様も、休んで下さって構わないのです。我々人は、女神様が現れて下さらなければきっと今の繁栄など得られませんでしたが…この与えられた繁栄の中で、少しずつ散歩をしているのですから」

「君達……」

 

 この話を、この頼みを、どう思うのだろうか。…少しばかり、私は不安だった。だが返ってきたのは、心の広い…懐の深い言葉であり、私は心の中で自分を叱責する。人は皆、果てなく美しい心を持っている。ならばその人々が、優しさを…温情を有しているのは当然であると。そこに僅かでも不安を抱いた自分は、反省しなければならないと。

 

「勿論、わたしも賛成です。それに…前にもお伝えしましたが、あまりに休む姿が見受けられないと、逆に職員にとってはプレッシャーとなります。形だけの休息ではなく、偶にだとしても、きちんとした休暇を取って下さった方が、職員も働き易いのではないかた思いますよ」

「…ふっ、確かにそれはそうだな。ありがとう、皆。それと……これからも、宜しく頼む」

 

 感謝を伝えたい私は、続けてもう一つ…これからも宜しくと、思いを送る。私の経験した事など知らない皆は、不思議そうな顔はしていたが…それはそれというように、皆笑みを浮かべて頷いてくれた。

 そして私は皆を下がらせ、椅子へと座り直す。机に向かい、私がしなくてはならない仕事を行おうとし……その前に、少しだけ思いを馳せる。

 

(……ふふっ。こんな事は、未来での経験がなければ考える事すらしなかっただろう。…本当に、良かった。皆に出会えて…未来の信次元の在り方を知る事が出来て)

 

 これまでも私は、全身全霊をかけて人に尽くしてきた。そこに不備があったとは思わない。今のオデッセフィアが、間違っているとも思っていない。だが…未来に触れ、未来を知り、未来を感じた事で、更に私は人々に安寧の、幸福のある国を作っていけるような気がする。だとすれば、やはり…皆には感謝の思いしかない。

 それに…私は未来で、家族というものを知った。今ここに、もう一人の私もセイツもいない。イストワールも、未来での出来事は知らない。しかしそれでも…今の私は、家族を思う事が出来る。あくまで私の最優先は人々だが…家族というものに抱く思いは……とても、温かい。

 遠く離れた時間の先にある未来。遥か彼方にいる皆。しかし、私がオデッセフィアの…今の時代の人々と繋がりを持っているように、未来で紡いだ繋がりもまた、消えはしない。そして、この繋がりも今や私の力の一つであると、私は信じている。私は、思いに…シェアによって生まれた存在、女神なのだから。

 

 

 

 

 時間は流れていく。日々は進んでいく。それは時に、名残惜しさもあるものだけど…期待や喜びも抱けるものだと、私は思っている。

 

「このような場では、こちらのお召し物が一番かと。女神様に似合う、という意味ではこちらも良いですが…服そのものも、一つ一つ抱かせる印象は違いますから」

「確かにその通りだな。ありがとう、君の言う通りにするとしよう」

 

 今私は、ある式典の為に、準備をしている。と言っても事前準備じゃなくて、登場する上での準備。有り体に言えば、メイク中。

 

(ここまで、長かったような短かったような…でも振り返るといつも、短いように感じるよね)

 

 準備を進めながら、私は戦いが終わった後の事を、これまでの事を色々と思い出す。

 パーティーの皆は、検査の上でやっぱり皆無事だって分かった。皆に頼んだ事は、皆からの協力は、これまでとは違う形で…でもこれまで通り、皆には凄く助けられた。その上で、これからもまた…何回だって力を貸すと言ってくれる皆の事は、心から信頼出来るって思う。

 そんな皆以外でも、私達は助けられていた。教祖の四人や軍の皆、戦場に立って一緒に戦ってくれた多くの人は勿論だけど、シアンやガナッシュさん、フィナンシェさんにイヴォワールさんと、影ながら助けてくれた人だって沢山いる。…まぁ、全員が影ながらかって訊かれると、そうでもない訳だけど…。

 

「やっぱり、女神様は下手に化粧をしない方が映えますね。ただ、観客席やカメラからの映りを考えると……」

 

 ほんの少しだけ受ける、より見栄えを良くする為の、状況に合わせたファンデーションの塗り。その手付きには迷いがなく、自信と経験が伺える。…さっきから目を合わせる事は避けてるっぽいけど、偶に目が泳いでたりもするけど、技術自体は完璧なもの。

 当然、心が温まる事ばかりではなかった。後処理は大変な事も多く…一番大変だったのは、繋がった各次元や世界への対応。局地的な災害程度で済んだ場所は関わった人とのやり取りだけで何とかなったけど、女神だったり国だったりが動いたとなると、次元間外交とでも言うべきやり取りが必要になって…本当に大変だった。当然非はこっちにある訳だけど、そこに付け込まれて厄介な関係性にはならないよう落とし所を見つける為に、私含めて皆で奔走したのは今でも記憶に新しい。

 

(…どうなるか分からない事も、まだ色々多いんだよね)

 

 他にも大変な事、気になる事は数多くある。例えば決戦に現れたアフィ魔Xの二人(二体)は、戦闘終了後姿を眩ましたとの事だし、紆余曲折の末レイ…力を奪われ人となった彼女も一命は取り留めたって事だけど、まだまた完治には程遠い。そしてこれは、問題…というか、どうしよう?…って話だけど、衝突は免れた上で残った、うずめ達のいた次元…くろめ曰く、零次元と呼ばれる次元はまだ存在している。とても今のままじゃ住む事なんて出来ず、海男さん達も別の場所で暮らしていくと決めている以上は、ほんとにどうしよう、このまま取り敢えず放っておくの?…っていう状態。

…更にもう一つ挙げるとすれば、くろめの事。女神という存在を、ただの罪人として処するんじゃ勿体無さ過ぎるという事と、過去とはいえ守護女神が罪人扱いされる事自体が、厄介な火種になり得るって事で、うずめやウィード君共々、ある役目を担ってもらう事になったけど…やっぱり、どうなるかは分からない。分からないけど…信じたいとは、私も思う。

 

「…このような仕上げでどうでしょう?」

「…流石だ、やはり君に頼んで良かった。……君の記事、見させてもらったよ」

「あ、そ、そうですか…それは、どうも……」

 

 スタイリストからの問いに、ばっちりだと私は返す。今回私が依頼したのは、最近有名な…スタイリスト界の、期待の新人とでも言うべき女性。少し前には、彼女の特集記事が雑誌に掲載される程の腕前であり…確かに凄い。凄いからこそ、訊いてみる。

 

「君は、どうしてこの仕事を?…あぁいや勿論、君の技術を疑う訳ではない。もし気分を害したのなら、謝罪しよう」

「え?…えぇと、アタ…ごほん。わたしには、心から尊敬する人がいたんです。碌でなしだったわたしの才能を認めてくれて、信頼してくれた…その人についていけば安心だって思える、そんな人が。…でも、その人はいなくなってしまって…いなくなった原因を、恨んだりもしましたが…最後にその人は、言ってくれたんです。わたしは、輝けるって。わたしの才能で、皆を見返してやれって。……こんなわたしの事を心から思ってくれた…この道を歩む切っ掛けを作ってくれたその人には、感謝しかないんです」

「…であれば、今の君の成功を、立派な姿を見て、その上司も誇らしく思っているだろう」

「だと、良いんですけどね。……あ、あれ?アタイ…じゃない、わたし上司だなんて言いました…?」

 

 困惑する彼女に肩を竦め、私は立ち上がる。立ち上がって、メイク台の鏡の前から、姿見の前へと移り…改めて完璧な仕上がりだと、感心する。

 本当に、数多くの大変な事があった。滅亡の未来も、きっとあった。けど、それを避けられたのは…信次元に住まう人、全ての思いがあったから。ここにも希望を持ち、未来を目指して進む人がいて…それぞれ思いの色は違っても、同じように未来を諦めなかったからこそ、そんな皆が信次元にいたからこそ、未来は守られたんだと思う。そしてそれ故に…私達は、これからも守りたい。人を、信次元を、これからの未来を。

 

「失礼するっち…します。会場の確認、終わった…ぞ」

「…彼は?」

「あ、その…わたしの助手…というか、マネージャー…です、かね…?」

「助手…?メイク方面以外、何も出来ないから全部受け持ってやってる相手に、助手…?…相変わらず、そういうところは捻くれたままだ……」

「う…うっせェ!そっちこそ、体良くアタイの能力に乗っかってるだけじゃねェか!そもそもアタイが変装させなきゃ、普通に街に出る事も……」

「ふっ…やはり言動面は、まだ発展途上のようだね」

『あっ……』

 

 そこへ入ってきたのは、確かにマネージャーっぽい見た目(マネージャーっぽい見た目って何だって言われたら…ふ、雰囲気…?)の人。…より正確に言えば、人(?)…の様な見た目の存在。その存在に対して訊くと、一往復のみの会話のキャッチボールで女性は荒っぽい素が出てきて…思わず私は、笑ってしまった。

 けど二人…いや恐らく、一人と一匹はそれどころじゃやい。ぴしりと固まり、冷や汗をかきながら視線を合わせ……次の瞬間、逃走する。脱兎の如く、凄い速度で。

 

「何やってるんっちゅかー!折角オイラが怪しまれないよう色々頑張ってたのに、全部無駄っちゅよ無駄ー!」

「ハァ!?元はと言えば、こんな依頼を受けようって言ったそっちが悪いんだろうが!くっそ、これで破格の報酬がぱぁじゃねェかよぉぉ……!」

 

 追い掛けた私が部屋を出ると、既に一人と一匹は廊下の角を曲がった後。突然のコメディ的展開に、また私はちょっと笑い…それから声を張って言う。

 

「君の技術は、確かに凄い!大したものだと、心から思う!だからこそ、まだそこにいるのなら…ちゃんと、受け取ってほしい!君の仕事、君の果たした事に対する…正当な報酬を!」

 

 出来れば現金での支払いで…という事で、用意をしておいた小切手。それを床に置き、私も逃げたのとは逆側の廊下の角まで行って隠れると…数十秒後、戻ってきた一人と一匹は小切手を取って、また去っていった。…なんというか…人は変わる部分もあるし、変わらない部分もある。でもそれで良いんだって、それが良いんだって…そう、思わせてくれるよね。

 

「…さて、と……」

 

 部屋に戻った私は、気持ちを切り替える。上手い具合に緊張を解された気もするけど…これからするのは、凄く大事な事。大切な…始まりの式典。その為に私は、最終確認をし、時間を待ち…呼びに来た職員に案内されて、舞台へと出る。

 そこに待っていたのは、数多くの人。多数の取材陣に…この式典に出席してくれた、女神や教祖を始めとする、各国の有力者。これまで私は、参列する側だったけど…今日は、これからは違う。この式典は…私が主役。

 登壇し、舞台の中央へ。演台の前に、マイクの前に立って、私は集まってくれた全ての人をゆっくりと見回す。

 

「──まずは、感謝を伝えたい。今日、この場に、これだけ多くの人が来てくれた事を。祝おうとしてくれている事を。そして…今日という日を、君達と…信次元に住まう者と共に迎えられたという事を」

 

 厳かに、だけど自然に私は語る。前は、意図的にしていたこの口調。だけど今は、意識しなくても出てくる。女神としての私が…自然なものになっている。

 

「此度の厄災は、多くの者に不安を、苦労を、悲しみを与える事となった。こうして今日を、厄災を乗り越えた先の日々を迎えられたとはいえ、その事実は消えない。心の傷も、すぐには癒えない」

 

 語りながら、改めて思い返す。これまであった事を。多くの辛かった事と…同時に得られた、様々なものを。

 

「だが確かに、私達は未来を迎えた。厄災に、絶望に屈する事なく、未来を掴む事が出来た。それは何故か。それは、女神がいたからではない。女神だけでは、今日を迎える事は出来なかった。女神と共に在る人々が…君達がいたからだ」

 

 シェアの力は、何よりも強く、どんなものよりも高みにある。だけど…それを生み出せるのは、思いを持つ人々。女神だって、人がいるからこそ存在出来るのであり…人と女神が共に歩む、そんな在り方だからこそ、今も信次元は続いている。

 

「今この時を迎えられた事を、私は感謝している。心から喜びを抱いている。…だが、この幸せが未来永劫続く保証はない。私も皆も、全身全霊で守るつもりだが、未来の事は分からない。続く可能性も、続かない可能性も、同時に存在する。だからこそ、私達は、私達女神は、君達人と共に手を取り合い、力を合わせたいと思う。人同士も、国同士も、繋がり合って進んでほしいと、そう願っている」

 

 未来は分からないもの。分からないからこそ、期待だった出来るし、その未来を良くする為に、守る為に、皆と力を合わせたいと思うのが、女神であり人であると、私は信じている。

 そう、私は信じている。女神も、人も…皆を。繋がった、思い合った、皆の事を。

 

「そして…今の信次元には、私を信じてくれる者が、私と共に歩みたいと思ってくれる者がいる。厄災の中で私を見て…原初の女神を見て、願ってくれた人がいる。これまでも私は、そんな人々に出来る事をしてきたが……私は更に進みたいと思う。国無き女神…そんな今を超え、過去から進み、未来へと向かいたいと思う。だからこそ……」

 

 そこで私は、一度言葉を切る。もう一度、皆を見回し、これまで私が積み重ねてきたもの、受け取った思いの全てを心に輝かせ、言葉に込めて……告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「人と女神が共に歩む信次元。その新たな在り方の一つとして────この浮遊大陸に、厄災の中で得られた大地に、新たなる国…新生オデッセフィアの建国を、宣言する!」

 

 信次元・ゲイムギョウ界。思いが力に、感情が形に、夢が未来に姿を変える世界。未来は白紙。元々あった世界からは大きく離れ、近くとも確かに違う道を進む信次元の先に何があるのかは、誰にも分からない。だとしても、そこでは今日も様々な人間が、心にそれぞれの光を灯して、一人一人の物語を紡いでいく。




今回のパロディ解説

・ぐわし
まことちゃんに登場する、独特な手のポーズの事。下でギャグマンガ日和のネタをいれていますが、ここでブイ(隋)のネタを入れる事も考えました。

・「〜〜何の柄もなく〜〜ってやつ!」
ギャグマンガ日和に登場する物語の一つ、松尾芭蕉と空のシリーズにて登場したペナントのパロディ。あのペナント、見る分には面白いですね。要りませんけど。

・某星の欠片
キングダムハーツ バースバイスリープに登場するアイテムの一つの事。あんな感じに飛んで行った訳ではありませんが…これ、銭湯の側も大分大変だったのでしょう。

・「〜〜メディアの違いを理解せよ〜〜」
生徒会の一存シリーズのヒロインの一人、桜野くりむの代名詞的な台詞の一つのパロディ。OEもまた、生徒会の一存ネタで締められました。本当に、良かったです。




 このエピローグを以って、OEの本編ストーリーは一先ず終了となります。最終話でも書きましたが、本当にここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。
 物語としては完結しましたが、この後あとがきや設定系の話を書き、これまで通り投稿するつもりですので、そちらも読んで下さると幸いです。

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