超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
──それは、何の前触れもなく訪れた。不意に、突然に、突如……気付いた時には、それを認識した時には、もう起こった後だった。
「……っ…今のは、何…?」
何と言えばいいのかは、分からない。その瞬間、全てがぐにゃりと歪んで、明らかに空間がおかしくなって、次の瞬間には元に戻っていた。
空間を歪ませる何かが通り過ぎていった。…そう表現するのが、最も簡潔で分かり易いけど……その認識で合っているのかも、分からない。
「…普通、だよね……?」
机を触ってみる。形も固さも、至って普通。続けて置いておいたファイルにも触ってみる。やっぱりこれも、どれも普通。
私自身含め、あらゆるものが一瞬歪んでいたけど、それが気のせいであったかのように、今はおかしな様子はない。…でも、私の感覚が伝えている。今のは明らかに、気のせいなんかじゃないと。
「…まさか、また何かが……?」
この感覚が正しいのなら、今のが気のせいじゃないのなら、これは異常以外の何物でもない。それも一瞬とはいえ空間全体を歪ませるなんて、マジェコンヌさんや犯罪神クラスの何かが関係している可能性もある。勿論、もっと生易しいものの可能性もあるし、ひょっとしたらどこかの技術開発部や偶々プラネテューヌに来ていた魔法使い辺りが失敗した、実験の余波とかかもしれないけど……情報が少ない段階で、楽観視はしない方がいい。
そう思って私は席を立ち、取り敢えずもっと周囲の状態を確認しようと窓の方へ目をやった瞬間……気付いた。窓の外、即ち街から何条もの煙が上がっている事に。
「な……ッ!?」
唖然とした。愕然とした。煙が立ち昇る光景なんて、普段のプラネテューヌじゃあり得ない。そして、弾かれたように視線を落とした私は……絶句する。
煙の発生源。それは、事故を起こした車両だった。車両と建物で、車両と壁で、車両同士で、車両と人で……何台もの車が、至る所で事故を起こしていた。
「……──ッ!!」
はたき落とすように鍵を開け、激しい音を立てながら窓を開き、桟に足をかけて外へと飛び出す。
私の居た執務室は、プラネタワーの中でもかなり上層に位置する。けどそんな事はどうでもいい。女神化すれば飛べるし…こんなのは些末事に思える程の事態が、眼下で起こっているんだから。
(何が、何が起こってるの…ッ!?こんな一遍に、何台も事故を起こすなんて……ッ!)
落下しながら私は女神化し、加速。一気にプラネタワー前の道路にまで下降し、今にも玉突き事故を起こして止まっている車両にぶつかりそうな車両を、力技で強引に引き止める。
「ぐっ……!」
後ろからバンパーを掴み、道路に脚を突き立てる事で間一髪止めた私。そこへ更に突っ込んできたもう一台は逆の手を突き出す事で受け止め、二台を同時に止めながら私は叫ぶ。
「運転手さん!ブレーキをッ!」
女神の力なら、大概の車両は押し留められる。けれど当然、動力がある以上そちらを止めなければ車両は動き続ける。だから私は叫び、ブレーキを踏んでもらおうとしたけど……車両は止まらない。
「…運転手、さん……?」
何度か声を張るけど、タイヤは回転し続けている。まさか故意に踏まないでいるのかと不安になって、私は受け止めている方の車両の運転席へ目を凝らし……そこで漸く気付く。運転席にいる人が、倒れている事に。
背筋に悪寒が走るのを感じながら、周囲へ視線を走らせる私。そんな馬鹿なと思ったけど、思い浮かんだ事を信じたくはなかったけど……事故を起こしている車両の運転手さんは、皆同じように倒れていた。
「……ッ!なら…!」
機能的に止めてもらう事が出来ないのなら、物理的に走行不能にするしかない。そう考えると同時に私はシェアエナジーの圧縮で複数のナイフを精製し、続けて同様の技術によるシェアエナジー爆発でナイフを射出。二台の車両のタイヤを破壊して、走る術を奪い去る。
「運転手さんッ!ブレーキを踏んで下さいッ!乗っている方は何かを掴んでッ!」
叫びながら、私は車両の間を縫うように飛ぶ。その間にもナイフを次から次へと精製し、すれ違いざまに投げていく。無数のナイフを飛ばす今の私は、時間を止める吸血鬼の気分…なんて冗談が一ミリたりとも面白く感じられない程、今は焦って、動揺して、混乱していた。
(一先ず、ここはこれで終わり…!けど、煙が上がってたのはここだけじゃない……!)
視界に映る、止まっていない最後の車両のタイヤを破壊し、私は直上へ飛翔。見回せば煙の数は減るどころかむしろ増えていて、焦燥感ばかりが募っていく。
「……っ、そうだ…!」
ぐるりと見回し、爆発を起こしそうな車両の処理と危険な位置にいる人の救助をする為再下降をかけながら、インカムを耳にし通信をかける。その相手は……ネプテューヌ。
「ネプテューヌ!聞こえる!?」
「うわっ!?急に大声!?で、でも丁度良かったよイリゼ。ちょっと訊きたい事が……」
「何を悠長に言ってんの!?どこに居るの!?状況分かってる!?」
「……!…ごめん、何が起きてるの?急いで戻るから聞かせてもらえる?」
起こっている事態の規模的にも、ここがプラネテューヌである事としても、守護女神であるネプテューヌとの連携は必要不可欠。そう思って連絡したのに、返ってきたのは呑気な声。それに思わず、私は声を荒げてしまって……けれどそのおかげで、非常事態が起きているんだと伝わった。
私はネプテューヌ、それに追加で通信を開いてネプギアにも状況を伝える。多数の事故が起こっている事、それが広範囲で起きている事、私一人じゃ到底対応し切れない事を。そしてそれ等を伝え終わった時、二人は既に女神化していた。
「…さっきの歪みは、気のせいなんかじゃないと思ったけど…まさか、そんな事が起こってるなんて……」
「そう、ね…ごめんなさいイリゼ、プラネテューヌの女神であるわたし達がこのレベルの事態に対応が遅れるなんて、恥ずべき事ね…。イリゼ、わたし達もすぐに着くから、救助活動を続けてもらえる?」
「それは勿論、けど急いで。こうしてる間も、多分……」
想像したくはないけど、考えざるを得ない。これだけの事が起こっていて、死傷者ゼロで済む可能性なんて…と。
言い切らずに打ち切った言葉を最後に、一度二人との通信を終了。次に連絡すべき相手として、私はイストワールさんにも応答を求めたけど……
「……イストワールさん…コンパ、アイエフ……」
…誰も、誰一人として声を返してはくれなかった。そして、その事で……気付く。
(…待った、今私は交通事故の事しか考えてなかったけど……プラネテューヌ中の人が、同じようになっているとしたら…?)
そう気付いた時、ぞっとした。工場、工事現場、発電所、それに各種の交通機関。ぱっと思い付くだけでも、人が倒れたら危険極まりない場所や施設は幾つもあって、その全てを考慮すれば、今危機に陥っている人の人数は…計り知れない。
「…本当に、何が…何が起こってるの……?」
一瞬たりとも余計な事に費やしていられる時間なんてないって事は分かってる。けどあまりにも理不尽に、あまりにも不条理に多くの人が命の危機に晒されているんだって思うと、私はやり切れない思いで、着地と同時に空を見上げて……見上げた視線の先、地上とは裏腹に穏やかな空には──見た事もない何かが、映し出されたどこかの光景のように見える存在が、その一角に浮かんでいた。
*
イリゼからの連絡を受けて、わたしとネプギアが全速力で生活圏へと戻った時……プラネテューヌには、目を疑うような光景が広がっていた。
あれからわたし達三人は、プラネテューヌを駆け回って国民の救助をし続けた。危険な場所で倒れている人を安全な場所に移して、放っておいたら不味い機械は全て止めて、思い付く限りの建物に……それこそ一軒一軒回り続けた。その間、わたし達は…一睡もしていない。
『…………』
重苦しい沈黙。これまでにも困った事、窮地に立たされた事は沢山あったけど……その中でも今は、一二を争う程に空気が重い。
ここ…プラネタワーのリビングルームには今、わたしやイリゼの他に、ノワール達女神の皆が集まっている。皆が無事だった事には安心したけれど、何も嬉しくはなかった。だってラステイション、リーンボックス、ルウィーでも同じ事が起きていたんだから。
(…ううん、四ヶ国だけじゃない…これが起きてるのは、信次元の全土……)
シェアエナジーを追加で消費しちゃうし、精神面はどうにもならないけど、わたし達女神は、睡眠や食事もシェアエナジーで賄う事が出来る。…って言うと間違いで、本当は睡眠による休息や食事によるエネルギー補給をする事によって、シェアエナジーの消費を抑えつつ生命維持が出来る…なんて、今はどうでもいっか…。
とにかく不眠不休でこれまで救助活動をしてきて、何とか今助けられる限りの人を助けてきた。だから一度集まって、さっきまで情報交換をしていて……幾つかの事が分かった。
まず、わたし以外の全ての人の状態。突然、眠るように倒れてしまった人達は、比喩じゃなくて本当に眠っていた。大声で呼んでも、かなり強く揺すっても誰一人起きないから、普通の睡眠状態じゃないのは確かだけど…倒れている人は皆、生きている。……少なくとも、今は。
「…その、ごめんね…皆も、今は自分の国に居たい筈の時に……」
「…気にしないで頂戴。この状況、各国でバラバラに動くよりも連携する方が賢明だもの。…賢明ってより、こんな状況じゃ連携する以外の選択肢がないだけだけど…」
「信次元全域に被害が及んでいるのに対し、動けるのはわたくし達だけ。…人手不足にも程がありますわ…」
「それに、あの歪みの第二波があるかもしれないし、その時はわたし達も昏睡するかもしれない。その事を考えれば、単独行動は控えるべきだもの…」
答えてくれる皆の声に、元気はない。…でも、そんなの当たり前。
倒れた人は、皆寝ているだけ。だけど、理由が分からない。多分あの歪みのせいだけど…それがどう影響して、どういう力で眠っちゃったのかが全く分からない。だから起こす方法も分からないし、予防も出来ない。おまけにブランの言った通り、わたし達だって絶対大丈夫って保証はない。
「…ネプテューヌさん、ネプギアは…プラネテューヌのシェアは、まだ大丈夫ですか…?」
「…うん、暫くは大丈夫だよ」
不安そうに、ユニちゃんがわたしへ訊いてくる。それにわたしは、首肯で答える。出来るだけ、声が暗くならないように努めて。
皆の事は、凄く不安。今は眠っているだけだけど、もし状態が悪化したらって思うだけで、居ても立っても居られなくなる。…でも、命の危機に瀕しているのは……わたし達も、同じ事。
さっきも触れたけど、わたし達女神が生きる上で一番大事なのはシェアエナジー。けど今は、皆が昏睡状態のせいかシェアエナジーをまるで得られていない。今のところは、教会のシェアクリスタルに貯蔵されたシェアで何とかなってるけど、もしこの状態がずっと続いたら……
「…戻ったよ、お姉ちゃん」
「…お帰り、ネプギア」
と、そこで扉が開いて、席を外していたネプギアが戻ってくる。その瞬間、皆がネプギアの方を向いて…だけどネプギアは、浮かない顔。
「…どうだった?」
「うん…行方不明だった最後の飛空艇が見つかったよ。緊急不時着システムが作動したみたいで、湖に着水してて……」
「……!じゃあ、乗っていた人達は…!」
「…………」
「…ネプ、ギア……?」
ネプギアは、さっき受信出来たビーコンを頼りに救助へ行っていた。そしてネプギアが口にしたのは、緊急用のシステムが作動したって言葉。
それを聞いた瞬間、期待の気持ちが募った。だって、自動運転とか非常事態用の緊急停止システムとかのおかげで乗っていた人が無事だった車両や飛空艇は、沢山あったから。だから、もしかしたら今見たかった飛空艇もって、そう思ったわたしだったけど……
「……不時着の時、凄い衝撃がかかったみたいで…多分、衝撃に備える事も出来なかったみたいで……ぜ、全員じゃないんだよ…?助かってた人も、沢山いたよ…?でも、でもっ……!」
「……っ…!」
段々と悔いるように、切なそうになっていくネプギアの言葉。それでもわたしに気を使うように、だけど湧き上がる悲しみと後悔を抑えきれないように、最後には思いを吐き出すような言い方になって……ただただ、わたしは辛かった。今にも泣き出しそうなネプギアを見る事が。大丈夫だよ、と言えない事が。何より…平和に暮らせる筈だった人達の未来が、奪われた事が。
「……ッ!」
次の瞬間、ベールが悔しげな顔で、どうしようもない気持ちをぶつけるように、テーブルを叩いていた。こういう時、いつもは一番落ち着いてて、物に当たるなんて事はわたし達の中で一番しそうにない、あのベールが。
……それ程までに、わたし達の心は締め付けられて、必死に耐えなきゃ爆発しそうだった。何でだって、どうしてって、当たり散らしながら叫びたかった。だけどそんな事をしたって意味はないし、そんな事をしている場合でもない。わたし達は今、一刻も早く、どんな些細な事でもいいから手がかりを探して、解決に向けて全力を尽くさなくちゃいけなくて……そこで不意に、ネプギアが声を上げた。
「……あれ…?…ねぇユニちゃん…ロムちゃんとラムちゃんは…?」
「え?二人なら……って、いない…?」
はっとして、部屋を見回すわたし達。二人は小さいから、何かの裏に行くと姿が見えなくなったりするけど…隠れちゃってるんじゃなくて、本当にいない。
重苦しいばかりだった空気が、変化する。より悪い方に、冷たく落ちる。
「わたしが出る前はいたよね…?…ブランさん知りませんか…?」
「…さっき、何か飲みたいからって出ていった…けど……」
「…ブランさん……?」
「……おかしいわ…具体的な時間は分からないけど、少なくとも二人が出ていってから数十分は経ってるもの…まさ、か……」
まさか。その単語を口にしながら、顔が青くなっていくブラン。その様子に、ブランの言葉に、わたし達の中の不安も膨らんでいって……次の瞬間、悲鳴が聞こえた。ロムちゃんとラムちゃん、二人の悲鳴が。
『……──ッ!』
「──っ!?ロム、ラムッ!」
どこかから聞こえた悲鳴で背筋が凍り付いた次の時には、もうブランは飛び上がっていた。女神化して、扉を壊れそうな勢いで開けて、声のした方へと猛進していく。
わたし達も、それに続く。たった一度の悲鳴を頼りに廊下を飛ぶわたし達の脳裏に浮かぶのは、最悪の可能性。考えたくもないけど、暗い思いばかりが渦巻いていたわたし達には止められない、嫌な想像。それを否定したくて、でも振り払えなくて、そんな気持ちのままわたし達は飛んで……見つけた。煙の様な、白い何かが廊下へと出ている部屋と、そこに飛び込むブランの姿を。
「ロムちゃん!ラムちゃん!無事ッ!?」
「二人共、一体何が……ッ!」
追って飛び込むと同時に声を上げたのは、ネプギアとユニちゃんの二人。中にも煙らしきものは充満していて、けれど視界が効かないって程ではなく、すぐにブランの姿を発見。一足先に入っていたブランは、入って数歩の位置に立っていて……その先に、ロムちゃんとラムちゃんもいた。
見つけた瞬間、わたし達は喜ぶでも絶句するでもなく、全員揃って「え?」…となった。だって、そこに居たロムちゃんとラムちゃんは…破れた小麦粉の袋を手に、涙目でへたり込んでいたんだから。
「ふぇぇ……(わたわた)」
「けほけほ…うぇ…?…みんな……?」
ぺたんと割座で座り込んでいる二人は、ちょっとむせてるけど怪我をした様子はない。もしやと思って、床に落ちている粉に触れてみると……それはやっぱり小麦粉。
「…何やってんだよ、ロム…ラム……」
「あ…そ、それは……」
「……ケーキ、作ろうと…したの…」
「ケーキ…?」
訳が分からない。ブランからそんな声音で訊かれたラムちゃんは口籠って、それからロムちゃんがぼそりと答える。
ケーキ。その言葉で全部納得がいった。二人はケーキを作ろうとして、でも小麦粉を何らかの理由でぶちまけてしまって、その拍子に悲鳴を上げたんだと。だからここに…キッチンにいるんだと。煙みたいなものは、舞っている小麦粉なんだろうと。…でも、なんで……?
「うん、ケーキ…ラムちゃんと、二人で……」
「…食べたかったのか?だったら、わたしに言ってくれれば…」
「ううん、ちがうの…みんなに、食べてほしかったの……」
『え……?』
ふるふると首を振ったラムちゃんの言葉に、わたし達は再びぽかんとする。そしてそんなわたし達へ、二人は言う。何故作りたかったかを。どうして、そう思ったかを。
「…おねえちゃんも、ネプギアちゃんも、ユニちゃんも…みんなみんな、かなしそうだった…すっごく、つらそうだった……」
「だから、作りたかったの…あのときは、ケーキでおねえちゃんたち…元気に、なってくれたから…」
「あの時って…まさか、私がケーキ作りを手伝った時の事……?」
真っ先に気付いたイリゼの言葉で、わたし達も思い出す。犯罪神と四天王に騙されてわたし達が手詰まりになっていた時、あの時も今と似たような空気になって……その時ネプギア達四人は、イリゼの手を借りてケーキを作ってくれた。……わたし達の心を、癒す為に。
「…じゃあ、今も…わたし達の事を、考えて……」
「…わたしたち、おねえちゃんたちみたいに…むずかしいことは、わからないし…みんながつらそうにしてるのは、いやだったから…ちょっとでも、力に…なりたかった、の……」
「でもね…でも、ね…作ろうとして…こむぎこ、出したら…ね…?いつも行ってる、おかしやさんのおばちゃんとか…そこのちかくで、よくマラソンしてるおにいさんとかのことを思い出してね…?そしたら、そしたら…っ…その人たちが、いなくなっちゃったらって…思ったら……ぅ、うぁ…うぇぇぇぇ……!」
「ラム、ちゃん…ふぇ…っ……」
話しながら、どんどん声が震えていくラムちゃん。気付けば、ラムちゃんの目には涙が溜まっていて……ぽろぽろと、その瞳から涙の粒が溢れ出した。
そんなラムちゃんの肩を、ロムちゃんが抱く。けれど、ロムちゃんの瞳にも大粒の涙が浮かんでいて、つ…っと一筋零れ落ちる。
ロムちゃんもラムちゃんも、泣いている。それは、ケーキ作りを早々に失敗したからじゃ、ない。二人はまだまだ小さくて、出来る事も限られていて、きっとわたし以上に普段は女神としての意識が薄くて……だけど二人も、女神なんだ。国民を思い、国民の幸せを望み、国民と共に生きる事を願う、ルウィーの女神候補生、ホワイトシスターなんだ。…そんな二人を目の当たりにして、わたし達は…何も、言えなかった。
「…ありがとう、ロム、ラム…ごめんね、ロム、ラム……」
「…おねえ、ちゃん……」
「ぅ、くっ……おねえちゃぁん…!」
女神化を解いたブランは、膝を突いて二人を抱き寄せる。ありがとうと、ごめんねの、二つの言葉を二人にかけて。
わたしは、情けなかった。まだ候補生の、小さな二人に気を遣わせて、酷い空気だって分かっていながら何もしなかった、そういう事態なんだから仕方ないって心のどこかで思っていた、わたし自身が。あの時はネプギア達四人に空気を変えてもらって、今もまた二人に心配をかけてしまった、姉の自分達が。
(……駄目ね、わたしったら…けど、わたしからも感謝するわ、ロムちゃん、ラムちゃん。貴女達のおかげで、わたしは大切な事を思い出せたんだもの。だから……)
全くもって、わたしはわたしが情けない。もしわたしが『ネプテューヌ』と『パープルハート』で分かれる事が出来るのなら、よくこれで主人公だの何だの言えたものね、と互いに言ってやりたい程に、情けなくて仕方がなかった。
けど、そこで落ち込むようなら、それこそ主人公失格であり、プラネテューヌの守護女神失格というもの。転んだら跳ね起きる、二段ジャンプ辺りは軽くやってのけるのが、わたしパープルハートであり、ネプテューヌ。…それを思い出させてくれた二人には、本当に感謝したいと思う。
小さく吐息を吐き出すわたし。それは、わたしの中に溜まっていたものを吐き出して、気持ちを切り替える為のもの。そしてわたしは、一歩前に出ようとして……
「……皆さん、これは…?」
「あ…イストワール、さん……」
その時、後ろから声が…困惑したような、いーすんの声が聞こえた。
恐らくだけど、あの歪みが原因で、全ての人が眠ってしまった。けどいーすんだけは、わたし達が救助活動をしている最中に目を覚ましてくれた。理由は分からないけど、確かにいーすんは一度昏睡状態に陥ってから目を覚まして、起きて以降は世界の記録者としての能力をフル活用してずっと情報収集をしてくれていた。…そのいーすんが、部屋から出てきたって事は……
「…もしかして、何か分かったの……?」
「はい。まだ不明瞭な点、不明確な点も多いですが……最低限、仮説と呼べるだけのものは導き出す事が出来ました」
その言葉で、わたし達の間に緊張が走る。まだか細いけど、簡単に切れてしまうような糸かもしれないけど、真っ暗だった闇の中に光が射した。たった一筋でも、それがあるのとないのとじゃ……全然違う。
取り敢えず身体にかかった小麦粉は払って、片付けは後回しにして、わたし達は女神化を解除した状態でリビングに戻る。いーすんから話を、今の状況と解決の為の仮説を聞く為に。
「イストワールさん、取り敢えず掻い摘んだ説明をして頂けまして?」
「私もそれに同感よ。焦ったって仕方ない、って事は分かってるけど……」
「大丈夫です、お気持ちは理解しています。ですから……皆さん、心して聞いて下さい」
ベールとノワールの言葉にいーすんは頷いて、わたし達の顔をぐるりと見回す。当たり前だけど、今は顔文字を使わない、真面目モードのいーすんの言動。それにわたし達が更に緊張する中、いーすんは一拍置いて……言う。
「…今、信次元は歴史上でも有数の危機に瀕しています。信次元において、最大級の危機である事は間違いありません。ですが、これは…信次元だけで完結する、話ではないのです」
「え…?…それって……」
「はい。先に申し上げた通り、これは仮説ですが……この事態は、この異常には──複数の次元が、関わっています」
含みのある、続きのありそうな言葉にわたしが思わず口を開くと、いーすんは再び首肯。そしていーすんは、言って……わたし達は、知るのだった。これからわたし達が向かわなくちゃいけない……二つの次元の事を。
今回のパロディ解説
・時間を止める吸血鬼
ジョジョシリーズに登場するキャラの一人、DIO(ディオ)の事。こんなに楽しくなさそうなパロネタは早々ないでしょう。そもそも冗談言ってる場合じゃない訳ですしね。
・「…何やってんだよ、ロム…ラム……」
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズの登場キャラの一人、ライド・マッスの台詞の一つのパロディ。ですが似たような台詞を、一期でオルガも言ってるんですよね。
この通り、前話から文頭に空白を入れるようにしました。暫くは様子見を兼ねてこのままで書きますが、もし何かご意見がある際は、お気軽にお伝え下さい。