超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第十話 崩れた地面の先で

 突如現れた敵はマジェコンヌで、地面が崩落して、地中には洞窟の様に広い空間があって、そこには巨大なシェアクリスタルがあった。…こんな事、想像出来る訳がない。もし未来から私が来て、今日はこんな事が起こる…なんて言われても、「いやいやまさか…」と思っちゃう位、驚きの事態が連続した。

 だけどまだ終わっていない。まだ、驚きの一日だったと言うには……早過ぎる。

 

「ねぷっち!いりっち!だいじょーぶ!?」

 

 私とネプテューヌが巨大なシェアクリスタルに唖然とする中、上から聞こえてきたのはうずめの声。はっとして私達が見上げると、滞空していたが故に崩落には巻き込まれなかったうずめもこちらに降りてきていた。

 

「大丈夫よ、うずめは?」

「うずめもだいじょ……えぇぇーっ!?おっきいシェアクリスタル!?」

 

 着地したうずめは、ネプテューヌの返しに返答する最中でクリスタルに気付いた様子。言葉を失った私達とは対照的に分かり易く驚いて、洞窟に声を響かせる。

 

「こ、こんな所にこんなシェアクリスタルがあったなんて…って、事は……」

「えぇ。恐らく疑問の答えはこれよ」

「そっかぁ…じゃあ……!」

「待って。これは大きな発見だけど、まずは……」

 

 顔を輝かせるうずめを制止し振り返る。そうして振り返り、上げた視線の先にいるのは、ゆっくりとこちらへ降りてくるマジェコンヌ。…そう、私達はまず…目の前の戦いを、片付けなきゃいけない。

 

「…驚いたな。まさかここの地下に、こんなものがあったとは」

「…一応礼を言っておくわね、マジェコンヌ。貴女のおかげで、わたし達は探し物を見つける事が出来たわ」

「探し物だと?…そう言えば、貴様等は昨日……」

「…って事は、昨日から私達の存在は認知されてたって訳ね……」

 

 滞空したままのマジェコンヌと、私達は正対。マジェコンヌもこのクリスタルの事は知らなかったらしく、更に今日偶々遭遇した訳でもない事が判明する。

 

「…ふん、まぁそんな事はどうでも良い。そうだ、折角だから貴様等の亡骸はこのクリスタルの前に埋めてやろうじゃないか。貴様等も、これ程立派な結晶の前ならば文句はないだろう?」

「ふーん、そんなのお断りだもんねー!オバさんこそ、ここの近くにいれば少しは顔色が良くなるんじゃない?」

「……随分とここで眠りたいようじゃないか、小娘…」

 

 ギロリ、とうずめを睨み付けるマジェコンヌ。まぁ恐らく、今の発言はうずめも煽ろうとして言ったんだろうけど…そもそも女神化したうずめの話し方は、ある意味煽りとの相性が抜群に良いように感じられる。

 とはいえ、それを抜きにもうずめからこれまで以上の余裕を感じる。そしてその理由を私が考える中、うずめはシェアクリスタルを背に言い放つ。

 

「あれー知らないの?これはうずめ達にとっては力の源。だから〜、これがあるならうずめ達は負けない…ううん、それどころかオバさんに圧勝しちゃってもおかしくないんだよねー!」

「……!…うずめ、このシェアクリスタルを使う気…?」

「そのとーり!勿論、こんなにおっきいのを使っちゃうのは勿体ないけど……オバさんを倒せばこの次元を守れるんだもん、出し惜しみなんてしないよっ!」

「…確かに一理あるわね。デカブツの脅威を無くす事が出来るなら、これを使っても十分お釣りがくる筈よ」

 

 うずめの余裕の源は、このシェアクリスタルの存在。確かにシェアクリスタルは私達女神にとってのシェアエナジー回復アイテムみたいなもので、この規模なら今の状態どころか、信次元にいる状態ですら一時的なシェアエナジー不足に陥りかねないレベルでシェアを湯水の様に消費しても何とかなるし、今のままでも決して劣勢じゃないんだからこれを使えばここで倒せる可能性は十分にある。加えて二人の言う通り、もしマジェコンヌがデカブツを使役しているのなら、ここでの撃破はこの次元を蝕む二大要員の一つを解決する事にも繋がってくれる。つまり、ここでシェアクリスタルを使ってしまったとしても……それは決して、成果と釣り合わない消費にはならない。

 だから私も、クリスタル使用には同意をしようとした。けれど……そこで、意外な言葉が聞こえてくる。

 

「……ふむ…小手調べで不用意に危険を冒すのは得策ではない、か…」

「…何ですって?」

「運動には丁度良い相手だったと言ったのだ。貴様等も誇るがいい。この私相手に、なんと三人がかりでそれなりの勝負になったのだからな」

「…それなりの勝負?オバさん、さっきうずめのぐるぐるシールドに完全防御されて舌打ちとかしてたよねー?」

「まぁ、少なくとも…互角以上では、あったね」

 

 傲慢な態度はそのままに、マジェコンヌが見せたのは退く気配。普段…というか、単にモンスターが仕掛けてきただけなら見逃す事も選択肢に入るところだけど、今回は別。マジェコンヌがデカブツを使役しているのなら、そう簡単には取り逃がせない。

 

「ふん、何とでも言え。今のこの場において、選択権があるのは私なのだからな」

「あら、逃げる選択権なんてものでよく偉そうに出来るわね。案外プライドがないのかしら」

「あははっ、これって『虚勢』って奴じゃないかなー?」

「ふ、二人共……」

 

 私達はマジェコンヌを見上げている。にも関わらずネプテューヌはマジェコンヌを見下ろすような口振りで、うずめもその口調が煽りに拍車をかけている。で、私はと言えば…流石に二人程、そうほいほいとは煽れない。マジェコンヌを逃さない為の策として、挑発が有効だって事は分かっているけど……どうにも上手く出てこない。

 けれど二人のその言葉だけでも煽りとしては十分な効果があったらしく、鋭い睨みがこちらに刺さる。でも……

 

「貴様等……」

「怒ったの?図星?」

「……いいや、貴様等の愚かさに虚を突かれただけさ。いいのか?そんなに煽ると、私はここを更に崩してしまうかもしれないのだぞ?」

 

 一度は確かに怒りを見せていたマジェコンヌ。けどふっとその怒りが引くように表情へ余裕が戻り、槍で崩れた地面…いや、天井を指し示す。

 

「…その程度で、私達を押し潰せるとでも?」

「いいや、貴様等であれば多少の時間で脱出するだろう。或いは出口を見つけるやもしれん」

「なら一体何を……」

「──だが、その多少の時間の間に、愚弄された腹いせとして雑魚共を数十体程血祭りにあげてしまうかもしれないなぁ…?」

『な……ッ!?』

 

 意図が読めない。余裕の理由が見えてこない。そこに私は不可解さを抱き、問い詰めようとして……それに先んじる形で、マジェコンヌは言った。卑怯で、卑劣で、悪辣な……だからこそ、私達にとってはこの上なく有効な言葉を。

 

「マジェコンヌ、貴女……ッ!」

「おっと、いいのか?小娘よ。今一度言うが……選択権は、私にあるのだぞ?」

「く……ッ!」

「お、オバさんひきょーだよ!」

「そうかそうか、卑怯とは言ってくれるなぁ…あぁ、この怒りをどうぶつけてやろうか……」

「貴様……ッ!」

 

 にやりと余裕綽々の、そして悪意に満ちた笑みを浮かべるマジェコンヌに、私達は何も言い返せない。

 分かっている。逃げるつもりなら、そんな事に時間は使っていられないと。あくまで私達の行動を封じ、確実に離脱する為のハッタリだと。…けれど、もし本当にそうなったら…下手に言い返して、本当にその気になってしまったら……そう考えると私達は何も出来ず、苦渋に顔が歪んでいく。

 

「アーッハッハッハッハッハ!言葉一つで何も出来なくさせるというのは、中々に愉快なものだなぁッ!」

『……っ…』

「そうだろう?何も言えないだろう?…さぁて、貴様等が惨めに悔しがる顔も見れたのだ、そろそろ私は行くとしようか。ではな小娘共。次に会う時まで、せいぜい残された時間を楽しむ事だ」

 

 高笑いを飛ばし、私達を見下し、悦に浸り……そうして遂に、マジェコンヌは地上へと上がっていく。天井の穴を通り、その姿が見えなくなった瞬間、私達三人は弾かれるように飛び上がったものの……同じく穴を抜けた時、マジェコンヌの姿はもうなかった。

 

「……クソッ!」

 

 そこでシェアエナジーが切れたのか、女神化が解除されたうずめは着地と同時に吐き捨てる。私とネプテューヌは何も言わなかったけど……後一瞬うずめが遅ければ、私達のどちらかが似たような事を言っていたと思う。…それ程に、私達の中にはふつふつと煮え滾る怒りがあった。

 

「…無事に相手を撃退出来たのに、こんなにも気分が悪いのはいつ以来かしら……」

「私達の知ってるマジェコンヌさんも、負のシェアに汚染されている時は相当酷い性格だったけど…慣れててもやっぱり、不愉快だね……」

 

 無意識に拳を握り締める。こうして怒る事も、マジェコンヌからすればいい気味なんだろうけど……湧き出す感情はそう簡単には止められない。

 けれど、私も取り敢えず着地する為に穴の上から移動しようとした時、視界の端である物が光り…思い出す。

 

「…っと、そうだ…二人共、シェアクリスタルだよシェアクリスタル!」

「あ……そうだった、それがあったんだったな…!」

 

 私の声に二人共はっとした顔になり、私とネプテューヌはそのまま下降して、うずめは段階的に飛び降りる事で地下空洞へと一度戻る。マジェコンヌの件もあるけど……この大きな発見も無視は出来ない。

 

「マジェコンヌには怒りしかないけど…これに関しては助かったわね。彼女が仕掛けてこなければ、恐らく見つけられなかったもの」

「不幸中の幸い、って奴だな…。しかし、まさかこんなに大きなクリスタルがあったとは……」

「驚きだよね…でも、これはどういう事なんだろう…?こんなに大きいんじゃ携帯性なんて皆無だし、ただ溜めておきたいならわざわざクリスタルにしなくても、教会でそのまま溜めておけばいい筈なのに……」

 

 クリスタルに近寄りながら、私達は言葉を交わす。シェアエナジーの塊であるシェアクリスタルが自然発生…というのはやっぱりおかしくて、となると誰かが精製したんじゃないかというのが浮かぶ。でもそうなると今度は、このサイズの説明が付かなくて……私が頭を捻っていると、うずめは少し表情を曇らせていた。

 

「…うずめ?何か気になるの?」

「あ、いや……ここの環境が良いのは、シェアクリスタルのおかげなんだよな?」

「まあ、恐らくはそうだね」

「って事は俺、あのまま戦ってたらこの環境を守る力を無くしちまってたのかもしれないんだよな……」

『あ……』

 

 そう言われて、私達も気付いた。この次元全体を守る事に繋がる、という思考が先行していたけど、このクリスタルを使うって事はそういう事。勿論、クリスタルは地上にもそこそこあったけど……多分加護の大半は、このクリスタルが担っていると見て間違いない。

 

「…結果的に、だけど…ここの環境維持って意味じゃ、マジェコンヌには退いてもらって助かったって訳ね…モヤモヤする気持ちは変わらないけど……」

「そうなるね…チャンスは逃したけど、考えてみればマジェコンヌはまだ力を隠し持っていてもおかしくないし……」

 

 降って湧いたチャンスをものに出来なかったし、かなり不快な思いもした。でも巨大なクリスタルの発見に繋がったし、使わずにも済んだし……コピー能力や負のシェアの女神化(あれは偶然も関わっていたけど)を温存していたのなら、形成逆転されていた可能性もゼロじゃない。本当に結果から見れば、プラスとマイナスの両方があって……

 

「…だーっ!何はともあれ一応俺等は勝ったってのに、なんでこんな辛気臭い雰囲気にならなきゃいけねーんだよ!」

「うわっ……きゅ、急に大声出さないでようずめ…」

「…イリゼ、突然叫ぶ事に関しては貴女も時々……」

「うっ……」

 

 沈んだ表情をしてしまっていたのか、両手で頭をぐしゃぐしゃと掻きつつ叫ぶうずめ。驚いた私が軽く注意すると……思わぬところから反撃が飛んできた。…わ、私はやりたくて叫んでる訳じゃないし……。

 

「…まぁでも、わたしもうずめに同意ね。そろそろ気持ちを切り替えましょ」

 

 そう言ってネプテューヌは女神化解除。今さっきの静かな一撃はまぁ置いておいて…私も同じく女神化を解く。

 

「切り替えないとやってられないよな…で、こいつはどうする?運んじまったらここの加護が消えちまうが……多分、あいつはこれを破壊しに来るよな?」

「だろうね。私達の力を削ぐ為に隙を見て潰しに来るだろうし、それは誘き寄せる餌にもなるって事だけど……」

「ここで何日も待ち伏せするのはねぇ…その間に別の場所でデカブツを出されたり、それで慌ててわたし達がそっちに向かったらその間に破壊を…とかされちゃうかもしれないし…うーん……」

 

 気持ちが切り替わった…かどうかはともかく、話の中心はこれからの事に。クリスタルをこのままにする訳にはいかないけれど、ただ運ぶだけじゃここの加護が無くなってしまう。サイズがサイズだから当然手近な所に隠せる訳もないし、次元全体の為ならここが荒れる事もやむなし……なんて選択肢は、私達にない。

 なら、どうするか。それを二人が考える中…私は一つ、思い付いた事があった。でもそれは、少々リスク…というか、デメリットもある方法で……だからまず、ネプテューヌ一人に声をかける。

 

「…ねぇ、ネプテューヌ。これってさ、それなりのシェアクリスタルをそれなりの数用意出来れば、暫くは環境維持も出来るよね?」

「え、それをわたしに訊く?」

「うん。真面目に意見求めてるから、ちゃんと答えてくれると嬉しいな」

「そ、そっか…そうだね。海男も大きいクリスタルじゃなきゃ環境は守れない、とは言ってなかったし……って、もしかして…」

「そういう事。…ネプテューヌは賛成?反対?」

 

 察した様子のネプテューヌに私は首肯。それからネプテューヌの気持ちを訊くと、返ってきたのは「そんなの、賛成に決まってるよ」という言葉。それを受けた私は、もう一度頷いて…うずめに言う。

 

「…うずめ、相談なんだけど…今うずめが貯蔵してるクリスタルの一部を、これの代わりとして配置する…って事は出来ないかな?」

「貯蔵してるクリスタルをか?…そりゃ、出来るし悪くないアイデアだとは思うが…このサイズの代わりってなると……」

「大丈夫。マジェコンヌとデカブツの件が何とかなるまでの期間持てばいいし……私達も、出せる限りは用意するから」

「へ?それはどういう…って、それは……」

 

 思った通り…というか当然の反応として、うずめは怪訝そうな表情を浮かべる。そんなうずめに対し……私は見せる。この次元に来る際、機材や食糧、救急セットなんかと一緒に持ってきた……私のシェアエナジーによる、私のシェアクリスタルを。

 

「これ一つじゃないよ。ほら」

「……!女神化して戦うのに十分なサイズのクリスタルが、こんなに…」

「信次元じゃ普段、余裕のある時にシェアクリスタルを作って貯めてるからね。精製にもシェアエナジーを使うから、やたらめったらとは作らないんだけど…」

 

 わたしもね、と言ってネプテューヌもクリスタルを取り出す。後はうずめの意思と貯蔵量次第で……断言までは出来ないけど、多分私達全員が出し惜しみさえしなければ、暫くは何とかなるんじゃないかと私は思う。…でも、その前に……私は言わなきゃいけない事がある。

 

「…ごめんね。シェアクリスタルの事、隠してて……」

 

 隠していた訳じゃない。訊かれれば、或いは今みたいに必要になれば話すつもりだったし、貸す(消耗品だけど)事だってうずめの女神化方法を聞いた時点で考えていた。けど何にせよ、うずめにとっての生命線であるシェアクリスタルを、私達は持っていながら伝えていなかった訳で……まずはそれを謝らなきゃ、って私は思った。……だけど、

 

「……うー、ん…?」

「…うずめ…?」

「…そのクリスタルは、こっちじゃシェアの供給が殆どない二人が、万が一に備えて持ち込んだ物…なんだよな?」

「そう、だけど…」

「だったら、その万が一の時まで仕舞ってるのは当然の事なんじゃないのか?それを謝るのは、何か違う気がするんだが……」

「…え、と…そう言われると…まぁ確かにそう…なの、かも…?」

 

 釈然としない。しっくりこない。…うずめの反応は、そんな感じのものだった。私としては、話さなかったんだから…と思っていたんだけど、うずめの言う事も間違っていない……と、思う。

 

「俺はそう思うぜ?ねぷっちはどうなんだ?」

「わたし?わたしは……うずめがそう思うなら、それで良いんじゃないかなー…って」

「お、俺任せかよ…」

「ううん。大事なのはわたし達がどう思うかじゃなくて、うずめがどう思うかだよねって事。…でもわたしとしても、このままじゃ心に引っかかるものがあるから、一回だけ言わせてね。…わたしもごめんね、うずめ」

「…そういう事か…だったらいりっち、俺は別に隠していた事を悪いとは思ってないし、むしろ二人の緊急用を提供してくれるなら、ありがたい限りだって思ってる。…それじゃ駄目か?」

「…駄目じゃ、ない…かな」

「なら、それで決まりだ。ったく、いりっちはいちいち気にし過ぎなんだよな〜」

「わわっ!?き、気にし過ぎって……」

 

 ネプテューヌの言葉を聞いて、落とし所を用意して、それから私が頷くと肩を組む要領で私の首に腕を回してくるうずめ。そういう流れになるとは思わず、私が驚いていると……小さな声で、うずめは呟く。

 

「…凄いよな、ねぷっちって」

「…うん。凄いよ、ネプテューヌは」

 

 わたしの言葉で丸く収まったね!…とばかりに胸を張っているネプテューヌを見ながら、同じく小声で私は返す。

 本当に、ネプテューヌは凄い。私や他の皆が時間をかけてやっと辿り着くところに、一歩目から到達しちゃうのがネプテューヌだから。勿論、他の皆にもそれぞれ凄いところがあるし、一足飛びの結果訳の分からないところに不時着しがちなのもネプテューヌだけど……そういう事も含めて、オンリーワンなのがネプテューヌ。

 

(…それに、気にし過ぎ…か。…私ももう少し、堂々とした方がいいのかな…?)

 

 それからもう一つ。私自身に自覚はないけど、うずめからすれば私は気にし過ぎだった訳で、それはあんまりいい事じゃない。うずめの置かれている状況とか、私達の立場とかで、普段より気にしちゃってるだけかもしれないけど…出来る範囲で、直していきたいと私は思う。だって、気にし過ぎた結果、相手に気を遣わせちゃうなんて、そんなの本末転倒だもんね。

 

 

 

 

 ここを加護しているシェアクリスタルの代わりに私達三人の有するシェアクリスタルを配置する、という事は決まった。でもどれだけあれば、どのように置けばいいかはまだ分からないし、避難した皆と合流もしなきゃいけないって事で、一先ず私達は幾つかシェアクリスタルを置いて、巨大クリスタルを運び出す事にした。

 

「うずめ、あのビルにこれを入れられるような場所あったっけー?」

「一階に壁が崩れて大広間みたいになってる場所があるから、横にすれば置けると思うぞー」

 

 飛ばすようにして声を出しながら、ネプテューヌとうずめがやり取り。現在私達はシェアクリスタルの配置中で、取り敢えずある程度の間隔を開けて地面に半没させている。…なんか畑作業みたい。

 

「じゃあさー、これで戻ってきたらシェアクリスタルのなる木が生えてたらどうするー?」

「そんなベルのなる木みたいな事があったらいいなー」

「不思議なポッケで叶えてあげよっかー?」

「その目立つ二つのポケットでかー?」

「そうそうこの取り外し出来そうなポケットは四次元ならぬ超次元…って、そんな訳あるかーい!」

「……マジで凄いな、ねぷっちは…」

「うずめが軽く乗っただけでこれだからね…」

 

 ボケにパロディに一人ボケ突っ込みにと、今のネプテューヌは絶好調。…多分今回、殆どボケられなかったからフラストレーションが溜まってたんだろうね……。

 

「…ま、こんなもんか。あいつから隠すにゃちょっと見え過ぎてるが……」

「丸く置いたし、罠か何かだと思って接近を躊躇わせる効果はあると思うよ。それに深く埋め過ぎたら、私達も場所分からなくなっちゃうしね」

「よーし、それじゃ次は輸送だね。ねぷねぷ航空、別次元にて営業再開だよっ!」

「また懐かしいネタを……」

 

 運ぶ為の準備は完了。次は輸送と合流で、輸送は私とネプテューヌが女神化して、合流はうずめが担当する。恐らく重量的には一人でも何とかなるけど、モンスターか何かに襲撃されたり、或いは不注意で落としちゃったりすると失うものが大き過ぎるからね。

 

「…にしても、ほんと大きいよな…ねぷっち達の教会にあるクリスタルも、これ位大きいのか?」

「ううん、教会のクリスタルはそんなに大きくないよ。そもそも教会のと自分達で作るのとじゃ、名前は同じでも性質が違うからね」

「そうなのか…まぁ何にせよ、これを見つけられたのが今回最大の収穫……」

 

 配置を終えた私達は、示し合わせた訳じゃないけどクリスタルの前で集合。それからうずめはクリスタルを見上げ、何とも感慨深そうに右手を当てて……その時だった。

 

「……っ…」

「…うずめ?どしたの?」

「…い、いや…今ちょっと、急に目眩ってか、頭に何かが流れたような……」

「…大丈夫?もしかしてさっきの戦闘で、頭を負傷したりした?」

「そんな事は……、──へ…?」

 

 突然頭を押さえ、表情を歪ませたうずめ。私達は心配して、またうずめの頭に視線を走らせたけど、うずめが言いかけた通りに負傷したような形跡はない。

 更にうずめは、そんな事はない…と言いかけて固まった。固まった後、クリスタルを見て目を丸くした。何だろうと思って私達もまた見るけど…やっぱりこっちも何もない。

 

「へ…、…って……?」

「……今、人がいた…」

『人?』

「あ、あぁ…確かに今、このクリスタル……じゃねぇな、このクリスタル越しに人影が見えたんだ…!」

 

 そう言ってうずめはクリスタルの裏へ。一方の私達は、目眩の事もあって余計心配になったんだけど…錯乱しているようにも思えない。

 だから私達も裏側に回って、見回して……次の瞬間、落盤した天井の一部の裏で何かが動く。

 

『……っ!』

 

 息を飲む私達。まさか、いやでもモンスターかもしれない。一瞬でそれだけ考えて、警戒しつつもそちらへ接近。そうして大回りで裏側へと回ると……

 

「…………」

 

……確かにそこには、いた。焦点の定まらない目で、生気のない顔で、ゾンビの様に力無く歩く…一人の、男の子が。

 

「……ほんとに、いた…」

「うん…幾ら遮蔽物が多くて見通しが効かないとはいえ、私達が誰も気配に気付かないなんて……」

「けど、間違いなくあれは人だ。おーい!」

 

 思いもよらない展開に、私達は全員驚いている。でも動き出すのはうずめが一歩早くて、私達はそれを追う形に。

 多分それは、私達に会った事、私達と色々話して…特に、「まだ誰か生きているかも」というやり取りをした事によって、この次元の人と出会う事に私達以上の期待を抱いていたから。実際、多少の警戒はしてるみたいだけど、私達の時みたいに人型モンスター認定はしていないし。

 

「…………」

「お前、人だよなー!いや、もしや俺以外の女神…って、男だからそれはねぇか…。とにかく、なんでこんなところにいるんだよー!」

「…………」

「……?聞こえてねぇのか…?おーい!」

 

 駆け寄りながらうずめは声をかける。けれど反応はない。無視してる…とかじゃなくて、そもそも聞こえてなさそうな位、一切反応が見られない。

 

「そこの君ー!聞こえてるー?」

「すみませーん!」

「…………」

「…聞こえてない、みたいだね…」

 

 元々かなり距離があった訳じゃないから、すぐに私達は声を張らずともやり取りが出来る位の距離まで男の子に近付く。途中からは私とネプテューヌも声をかけたけど、やっぱり男の子からの反応はない。

 何か変だ。その違和感が私の次の行動を躊躇わせる。ネプテューヌはひょこっと男の子の前に出てみたけどそれでも反応はなくて、それどころかそのまま前進する始末。危うくぶつかるところだったネプテューヌは避けるけど…「んんん……?」って顔に変わってしまう。

 

「…何か、精神操作系の魔法とか能力をかけられてるのかな…ほら、時事ネタ的にもメンタルをアウトされてる可能性あるし……」

「いやいやいや……けど…ずっとここにいたから、五感が上手く機能してない、とか…?」

「……何にせよ、放っておけねぇよ。なぁおいって!」

「あ、うずめ……!」

 

 反応も何もない。ただ無機質が人の形をとっているかのように、ゆっくりふらふらと歩くだけの男の子。その人を前に、私もネプテューヌもその理由が気になって……だけどうずめだけは、声をかけ続けたままその男の子の肩を掴んだ。

 この状態で急に触れたら、何がどうなるか分からない。そう無意識に考えていた私は、うずめの行動を止めようとした。けど、触れてから声をかけたって止められる筈がなくて、後ろから肩を掴まれた男の子の身体は揺れ……

 

「……──ッ!……ぁ、え…?」

『へ……?』

 

──次の瞬間、男の子の身体は震えた。びくんっ、と驚いたように震え……声が、聞こえた。私のものでも、ネプテューヌのものでも、うずめのものでもない……男の子の、声が。

 

「…う、うずめ…今何やったの…?」

「い、や…俺はただ、肩に触れただけで……」

「うずめの右手は、幻想殺し(イマジンブレイカー)だった…?」

「だから俺は何も……」

「…あ、あのー……」

 

 茫然とした顔で、男の子はこちらに振り向いてくる。でも驚いてるのはこっちも同じで、私もネプテューヌもうずめが何かしたのかと訊くけど、うずめは首を横に振って否定。そして「じゃあなんで…」と私達が思う中、おずおずと男の子は声を上げ……

 

「…貴女達はどちら様で、ここは一体…?…ってか……」

 

 

 

 

「……俺は、誰…?」

『…………え…?』

 

 驚きが続く今日という日。既に十分過ぎる位驚く事があったけど……この驚きの連続は、まだ終わってはくれないらしい。




今回のパロディ解説

・ベルのなる木
どうぶつの森シリーズにおける、文字通りベル(お金)のなる木の事。金のスコップでシェアクリスタルを埋めると、稀にシェアクリスタルが…!?(生えません)

・不思議なポッケ
ドラえもんシリーズに登場するひみつ道具の一つ、四次元ポケット及びドラえもんのテーマソングのフレーズの一つのパロディ。うずめの台詞に反応した訳ですね。

・メンタルなアウト、幻想殺し(イマジンブレイカー)
とあるシリーズのヒロインの一人、食蜂操祈及び主人公、上条当麻の能力の事。細かい事を言うと、このパターンならば肩ではなく頭に触れなければ意味がないですね。

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