超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
分からない。どうしてそこにいたのかも、どうやってそこに来たのかも、何一つとして分からない。
気付いたらそこにいた。引っ張られるような衝撃で気が付いて、声で意識がはっきりとして……けれどそれまで。あぁそうだ、何をしてるんだった。これから何をするんだった。…そういう事が、一切合切出てこなかった。
多分…いや間違いなく、これは異常な事だろう。だがそれすら異常だな、としか思えない程、ぽっかりと穴が空いている。空白が、虚空があるというより、それしかないのが今の俺。……やはり、何も分からない。何も、これっぽっちも、俺は……。
「ちょっとー!?男の子のパーティーインだけでもOriginsシリーズにおいての大事件なのに、第五話前半以降やってないわたしやまだ一度もしてないうずめを差し置いて、その男の子が地の文担当ってどういう事!?」
…という感じのモノローグをしていたら、あの場で会った三人の一人…小さくて元気一杯な女の子に、意味不明な猛抗議を叩き付けられた。…えぇー……。
「どういう事って…ネプテューヌの発言の方がよっぽどどういう事だよ……」
「むーっ!ばりばり主人公やってるイリゼの意見は聞いてないもん!」
「いや発言を中心に主人公らしい事はしっかりネプテューヌも…ってそうじゃなくてだね……」
「取り敢えず落ち着こうぜねぷっち。発言が斜め上過ぎて既に俺じゃ処理出来ない域に到達してるぞ…」
ぷんすか、と怒る小さな女の子へ呆れ気味に突っ込む普通そうな女の子と、肩を竦める男口調の女の子。……えぇと、順にネプテューヌ、イリゼ、うずめ…だったよ、な…?
「いいや、諦めちゃ駄目だようずめ!諦めたらそこで本作終了だよ!」
「終了も何も俺は試合してな……本作終了!?え、俺が諦めたら終了すんのか!?ま、まだ何も解決してねーのに!?」
「うん、うずめも落ち着こうか…。…ごめんね、騒がしくて」
「あ、いや…まぁ……」
何やらネプテューヌに乗せられたうずめも冷静さを失い、うずめにも突っ込んだイリゼは申し訳なさそうに言ってくる。
対する俺は、曖昧な反応。だがこれは、我ながら仕方ないと思う。ここまで濃いやり取りを見せられて、即座に対応出来る奴は世の中に一体どれだけいるだろうか。
「ねぷっち、うずめ、あまり騒ぐと彼に妙な印象を抱かれてしまうよ。それは二人としても本望じゃないだろう?」
「うっ…それは確かに……」
「そ、そうだな…ってか今の、俺も悪いのか…?」
「悪いとは言わないさ。…さて、拠点まで戻れたんだ。ここで改めてもう一度、自己紹介をするというのはどうだい?」
そんな中、落ち着いた声で上手く二人を落ち着けたのは海男という人面魚。……正直、今俺にとって一番妙に写ってるのは彼なんだが…三人はこの段階を乗り越えて今は普通に接してるんだよな…?俺にだけ人面魚に見えてるとかじゃないよな…?
とまぁ海男が提案をしたところで、皆の拠点の一つらしい廃ビルの一室へ到着。中に入り、腰を下ろしたところで…四者全員の視線がこちらに向いた。
「じゃあ、私から。私はイリゼ。遠い場所…信じられないかもしれないけど、別次元にあるゲイムギョウ界の女神の一人で、皆とはある目的の為に協力してるんだ」
「わたしはネプテューヌ!わたしもイリゼと同じ次元から来た、守護女神の一人なんだ。出来ればちゃんと呼んでほしいけど、言い辛かったらねぷねぷとかねぷ子とかでもOKだからねっ!」
「俺は天王星うずめだ。二人と違って俺はこの次元の女神なんだが、色々あってな。まぁ、それはおいおい話すとして…宜しく頼むぜ」
「最後はオレか。オレは見ての通りの魚、海男さ。一応先程までいた彼等…モンスター達の纏め役ではあるが、あまり気にせず気軽に接してくれると助かる」
順に自己紹介を…最初に聞いた名前に加え、簡単な情報も混ぜた自己紹介をしてくれる四人。
だが当然の事として、それでお終い…とはならない。そりゃあそうだ。だってまだ、この場には自己紹介をしていない奴がいるんだから。
「…………」
「次は君の番だよ?」
「…あ、おう……」
沈黙が訪れる中、ネプテューヌが俺に言う。……多分、出会った直後に俺が言った言葉で、薄々気付いてはいるんだろうが…やっぱ、言うしかねぇよな…。……よし。
「……すまん。俺は、俺が誰でどこから来たのか分からない。何にも、何一つ……名前すら、分からないんだ」
そう言った瞬間、皆の顔が一斉に曇った。その理由は分かってる。これはつまり、今の俺はつまり『記憶喪失』って訳で、そんなの普通の事じゃない。個性とか、ちょっとした持病…なんて域の話じゃない。
けれど俺には、俺って記憶喪失なんだなぁ…という感想しか出てこない。記憶がなさ過ぎて逆にショックがゼロなのか、それとも俺が物凄く心の強い奴なのかは分からないが、正直自分がヤバい状態なんだって実感がなかった。
とはいえ、そんな俺でも一つ嫌だな…と思う事がある。それは、この空気。
「…あ、けど気にしないでくれ…ってのは無理か…えぇ、と……俺は何にも分からない。けど見ての通り元気だし、初めに会ったのが危険なモンスターでも悪人でもない、優しい皆であってありがたいとも思ってる。…だから、その…なんというか……」
「…気にするな?」
「そうそれだ!気にする必要は……って、それ俺が最初に否定したやつじゃん…」
俺に女の子の顔を曇らせる趣味なんてないし、身元不明の俺をここまで連れてきてくれた皆を申し訳ない気持ちになんてさせたくない。そんな思いで俺は言葉を口にしたんだが、結論部分の言葉が上手く出てこなくて…ドンピシャだと思ったネプテューヌの言葉は、ご覧の通りのものだった。…が、そんなやり取りがどうも功を奏したらしく……
「…まぁ、確かに元気である事は間違いなさそうだな」
「そうだね。今は顔色も良いみたいだし」
「…今は?」
「うん。君、私達が見つけた時は粘土細工みたいな顔してたんだよ?」
「そ、そうなのか…」
浮かんでいた曇り顔が消え、代わりに苦笑を溢すうずめとイリゼ。粘土細工みたいな顔、ってのにはちょっと「おおぅ…」となったが、重い空気を払拭出来たのならそれでいい。後は、皆の話を聞いてこの空っぽの記憶に少しでも情報を……
──そう、俺が思っている時だった。
「にしても、びっくりだぜ。まさか俺以外にも、記憶喪失の奴がいるなんてな」
「え?」
『え?』
恐らくは何の気なしに、軽い調子でうずめが言った驚きの言葉。驚愕の真実。
俺以外『にも』?偶然会った奴が…とかじゃなく、にも?…って事は、つまり……
「…うずめも…記憶喪失、なのか…?」
「実はな。っていうか、これもねぷっち達には言ってなかったんだっけ?」
「は、初耳だようずめ……」
「はは、またやっちまったか…悪ぃ、二人共」
さっき曇り顔してたのは何だったのか。そう言いたくなる位、あっさり言ってのけるうずめ。それ自体も驚きだが、ネプテューヌの返答通り、これは二人も知らなかったらしい。…つか、それに関して言えば、さっきの二人の反応は俺とちょっと違ったような…?
などと俺が思っていると、そのネプテューヌとイリゼは何やら顔を見合わせる。
「…これはびっくりだね、ネプテューヌ……」
「うん…海王星のわたしとしては、センチメンタルな運命を感じずにはいられないよ……」
「……?何か含みのある言い方だね、いりっち、ねぷっち」
「あー…うん。…さっきの自己紹介、ちょっと付け加えてもいいかな…?」
『……?』
頬を掻きつつ、気になる事をネプテューヌは口に。それに俺達が頷くと……二人は、言った。
「…こほん。実を言うと…わたしも、記憶喪失なんだ…」
『え…!?』
「そして私も、記憶喪失だったり……」
『え……!?』
いやいや何を、一体何の冗談を。若干自分の事を棚に上げつつも驚く俺達だが、二人が嘘や冗談を言っているようには見えない。…って事はつまり、俺もうずめもネプテューヌもイリゼも記憶喪失な訳か。ふむふむ、ふむ……。
「……もしや、記憶喪失って…割と普通の事だったのか…?」
『いやいやいやいや……』
そんな訳ないでしょう、と手を振る三人と一匹。だが現に、ここにいる人(女神を人って言うのならだが)は全員記憶喪失な訳で……何だかとんでもない事になっちまったなぁ…と、この事実で漸く実感が湧き始めた俺だった。
*
「取り敢えずさ、君をなんて呼ぶかは決めなきゃだよね」
まさかの事実が判明してから数分後。ネプテューヌはそんな事を言い出した。
「俺の?…ってあぁ、そうか…俺、名前も思い出せないんだったな…」
「だったなって…えらい他人事みたいな言い方だな…」
「はは…でも実際、何にもなさ過ぎて自分の事だって実感がないんだよ。こう、勉強で言う『何が分からないか分からない』みたいな……」
「あー、よくあるよねその感覚」
「…よくあるのはどうかと思うよ、ねぷっち……」
なんかもう複数回表現してる気がするが、ほんとに俺は頭で状況を理解していても、感情がそこに追い付いていない。ただまぁうずめの返しはご尤もな訳で、それに関して苦笑いをしていると……酷く心配そうな視線が一つ。
「…大丈夫?ここには記憶喪失が沢山いるし、気を遣う必要はないよ…?」
「いや、本当に大丈夫だから、イリゼこそそんな気を遣わないでくれ」
「ほんとに…?」
「ほんとに」
他の皆は心配していない…なんて事はないと思うが、イリゼはそのレベルが違う。
聞けばイリゼは、記憶を失ったのではなく最初からなかったらしい。この通りショックをイマイチ感じていない俺だが、こんな俺でもその辛さは容易に想像出来るし、だから人一倍心配してしまうんだろうって事も理解出来る。…にしても、良識的だしイリゼは優しいなぁ…。……女の子から覗き込むように澄んだ目で見つめられて、悪い気はしない…とかは思ってないゾ-。
「なら、良いけど…不安な事があったら言ってね?これでも私、自分とこの場含めてかれこれ六人の記憶喪失者に会ってきたから」
「ろ、六人って…この場以外でも二人会ったのか…?」
「うん」
(…やっぱ、記憶喪失って割とありふれてる事なんじゃ……)
心強いようなとんでもないような、とにかく反応に困る声をかけられて取り敢えずその話は終了。という事で、話題は本題(?)である俺の名前の事に戻る。
「じゃあまずさ、君はなんて呼ばれたい…とかある?」
「…いや、ないな」
「そっか。じゃあ……」
「……?何してんだ?ねぷっち」
特にないよな、と思いつつ返答すると、何やらごそごそし始めるネプテューヌ。それを俺達が見ていると……
「第一回!新キャラの男の子の仮称を決めよう大喜利〜!」
『大喜利!?』
振り向いたネプテューヌは、大量のフリップボードを手に無茶苦茶な事を言い放った。…俺の仮称、お題扱い……!?
「よーし、じゃあまずはわたしから!君の名前は……」
「いやいや待て待て待て!」
「へ?うずめが一番手やりたかった?」
「違ぇ!お、大喜利って…ねぷっち、仮とはいえ人の名前なんだから、そこは真面目に考えようぜ…?」
「うん、真面目に大喜利する!」
「そっちじゃねぇよ…」
俺の代わりに突っ込んでくれたうずめだったが、ネプテューヌは純真無垢みたいな表情で返答。その瞬間の表情は、本当に素敵な笑顔だったが……うーむ…。
「ネプテューヌ、名前は大事だよ?それは分かってる?」
「だからこその大喜利だよ?明るい雰囲気の方が色んな案が出るだろうし、特にどういう名前がいい…っていうのがないなら、沢山の選択肢の中から選べる方が良いでしょ?」
「…そ、それは確かに…普通に筋が通ってるな……」
「…ねぷっちは、適当な事を言っているようでその実よく考えている節があるね…」
「ふふーん、これがねぷねぷクオリティなのさ!」
びしぃっ!…と、どこぞのマフィアの部隊みたいな事を言ってキメ顔をするネプテューヌだが、確かに選択肢は多い方がありがたい。そして実を言うと、大喜利のお題にされた事にはビビったが…正直、不愉快かって言われるとそうでもない。…と、言う事で……俺の仮称を決める大喜利が、始まった。
「じゃあ改めてわたしから!今日から君は、富士山だっ!」
「初っ端からパロネタ!?さっきの尤もな発言はどこ言ったの!?」
……上がった株をネプテューヌは即座に落としていたが…ま、まぁ始まったばかりだもんな。きっと良い意見が出てくる…よ、な…?
「全くもう…私だって書くんだから、突っ込みで手間取らせないでよね……」
「口頭じゃなくてちゃんと書く辺り、いりっちもノリ良いよな…よし、出来た」
「お、じゃあうずめいく?」
「おう!こんなのどうだ!?」
そう言ってフリップを出すうずめ。そこに書いてあったのは……『陸男』と言う名前。
「……それは…海男の俺ver…って事か…?」
「最高…とまでは言わずとも、中々悪くない名前だろ?」
「……ひ、一先ず色んな意見を聞こうかな…」
一瞬冗談かな?…と思ったが、どうもうずめは本気な様子。…因みに海男の方を見てみたら、「はは…うずめがすまないね…」みたいな顔をしていた。
「だったら、次はイリゼだね。書けた?まだならどんどんいっちゃうよ?」
「大喜利って基本そういうものじゃ…?…まぁいいや。じゃあ…出すね?」
「あ、おう…」
一度俺に目配せしてから、イリゼも一枚目のフリップをオープン。恐らく一番まともな名前を書いてくれるだろうなぁ、と思っていた彼女のそれに書いてあったのは…『クリス・アンダー』。
「へぇ、ちょっと洒落た名前だな。何か由来はあるのか?」
「由来っていうか、そのままだけど…地『下』の、シェア『クリス』タルの近くにいたから…みたいな…?」
「ふむふむ、確かにそのままだが…名前は捻ればいいというものでもない。選択肢の一つとしては、十分にありなんじゃないのかい?」
「…だよな。クリス・アンダーか……」
出された名前は、決して悪い感じじゃない。少なくとも、仮の名前としては十分なような気もしてくる。うずめや海男からの評価もまずまずだし、取り敢えずはこれが最有力候補で間違いな……
「あ、なーんだそういう由来だったんだね。わたしはてっきり、真の平和主義者にも殺戮者にもなれるゲームの事かと思っちゃったよ〜」
「いやそんな訳……あぁっ!?確かにそれっぽい!?」
……と思った次の瞬間、まさかの可能性がぶち込まれた。おおぅ…言われてみると確かにそうだ……。
「…ええ、っと……」
「あ、ち、違うよ!?偶々だから!偶々だからね!?」
当人も気付いていなかった様子で、凄い慌てて釈明してくるイリゼ。俺も気付いてなかったし、そこに目を瞑ればほんとに悪くない名前なんだが……クリス・アンダーは、俺の中で最有力候補からは少し後退するのだった。
「よーしそれじゃあ次はわたしいくよー!……あ、海男はどうする?」
「そうだね…では、オレは皆が詰まる事があれば、その時出そう。どうもこの調子だと、個性の強い案が出過ぎて配給過多になりそうな気もするからね」
「そう?じゃ、改めてはいっ!『ミスター』!」
「うん、一見悪くなさそうだけど、それだと多分かなりの人が某バラエティの企画や構成もしてる出演者さんを連想するんじゃないかな…こほん。さっきのクリスから一文字目を取って、『くー君』なんてどう?」
「それ愛称ってか、名前があった上での呼び方じゃね?だったらもっと格好良く、『アッパー』とか『ボディブロー』とかどうよ?」
「アッパーはともかく、人を呼ぶ名前としてボディーブローはどうだろう……あっ、そうだ!ふんふんふ〜ん」
「……?やけに筆が乗ってるねネプテューヌ。何か良いパターンでも思い付いたの?……ってこれ、全部コラボした作品に出てくる男主人公さんの名前じゃん!ちょ、だ、出さないでよ!?何人かはセーフだけど、私が会った事ない人まで出されたらパロなのかなんなのかややこしくなるから止めて!?」
「…………」
俺は、ここにいる皆…特に俺を見つけてくれた三人には、ほんとに感謝してる。こうして気さくに接してくれてる事も、助かってる。…けど、これ位は言ってもいいよな、うん…。…これ……俺の仮称、ちゃんと決まんの…?
「某作品のヒロインに習って、九日に初登場した男の子だからココノカ!ちょっと駄菓子漫画の主人公感もあるけど!」
「俺が触れた瞬間…一瞬…刹那…あ、刹那っていいんじゃね!?ほら、丁度字は違うが記憶喪失繋がりもあるし!」
「むむむ……な、なら私もブランク!記憶喪失の男の子だから!怪しい組織には多分入ってないと思うけど!」
「……三人共。彼が死んだ魚の様な目になっているよ」
『あっ……』
そうして気付けば張り合う三人。もう口頭で良さそうなのに、わざわざちゃんとフリップに書いて見せる三人。……海男が言ってくれなきゃ、これほんとにただの大喜利大会になってたんじゃねぇかな…。
「…その、すまん……」
「あー、いや…まぁ、名前を考えるのは大変だもんな……」
謝ってくる三人に対し、軽く頬を掻きつつ返答。そこで大喜利はペースダウンし、暫く首を捻っていたうずめがこっちを向いてくる。
「…なぁ。さっきは特に呼ばれたい名前はないって言ってたが…こういう感じが良いとか、この文字を入れてほしいとかもないのか?」
「それも…うん、ないな。覚えられない位長過ぎたり、名前として成り立ってなかったりするのは流石に嫌だが」
「むぅ…記憶がないんだからしょうがない事だが、やっぱそれだと決めるのも難しいんだよな…うーん……」
初めはペンとフリップを持っていたうずめだったが、途中からは両方置き、腕を組んで熟考状態に。…実を言えば、てか身も蓋もない事を言えば、仮称なんだからそこまで凝った名前にしなくてもいいんだが…こうも真剣に悩まれると、こっちもそうは言い辛い。
(…てか、考え込んでるとちょっと印象変わるなぁ……)
一人称が俺と同じで、口調もそんなに変わらない、見るからに男勝りなうずめ。勿論容姿は普通の…どころか、普通以上に可愛い女の子な訳だが、ここまでの雰囲気に女の子らしさは殆どなかった。
けれど腕を組み、目を閉じて考えている姿はどうだろうか。黙っているから当たり前っちゃ当たり前だが、今のうずめからはどこか落ち着きのある、穏やかな女の子っぽい雰囲気も感じられて……
…………。
………………。
…………………………。
「…………ウィード…」
『へ?』
「え?…あ……」
──気付けば俺は、何か言葉を口にしていた。うずめを見つめていた俺の口から、半ば無意識に言葉が湧き出していた。…ウィード?ウィードって一体……いや、違う…これは…この、単語は……。
「…ウィード、って…もしかして……」
「…あぁ、何故かは分からないが…思い出した。それが……俺の、名前だ」
目を丸くするイリゼに頷き、ゆっくりと答える。間違いない、これは俺の名前で…俺はウィードだ。
「そ、っか…うんうん、名前だけでも思い出せたなら大きい進歩だよ。良かったね、ウィード君」
「ああ。ありがとな」
「ちょっとー、そこは仮称を考えてたわたし達全員に感謝を言うべきじゃないの?」
「それもそうだな。ありがとうネプテューヌ、うずめ、海男」
「…あ、あれー?今のは『あのラインナップで礼を言えと?』っていう突っ込み狙いだったんだけど…まぁ、いっか。これ位お安い御用だよ!」
「オレは何もしていないさ。だから礼は不要だよ」
何一つ分からないからショックもない。…そう感じてた俺だが、そんな俺でも名前が分かった瞬間、俺がウィードだって気付いた瞬間、ちょっと気分が高揚した。バラバラになったパズルのピースが、一つでも埋まった事への喜びのようなものが、俺の心に浮かんできた。だからその思いも込めて、俺が皆に感謝を伝えると、イリゼ、ネプテューヌ、海男は笑みを返してくれて……
「…ウィード、ウィード…か。…へへっ、何だかよく分からねぇが…良い名前だと思うぜ、俺は」
一人うずめはしみじみと、噛み締めるように頷きながら何度か俺の名前を呟き……それからにっ、と歯を見せて笑ってくれた。……俺の名前なんて、分かったところで何も得する事なんかないのに…ほんと皆、優しいな…。
「…さてと。それじゃあ名前も分かったところで、一つ確認しておこうか……ウィー…うぃーっち?うぃっち?」
「海男さん、それだと魔法使いです…確認というと?」
「…こほん。彼がこれからどうするかだよ」
「……?どうも何も、俺達で保護…ってか、一緒に活動するんじゃねぇのか?まさか海男、記憶喪失のこいつに一人で暮らせ…なんて言うんじゃねぇだろうな?」
「まさか。けれどこれは、オレ達で勝手に決めていい事じゃない。だから確認なんだよ、うずめ」
「…それは、そうか…確かにその通りだな……」
俺がどうするかの決定は、俺自身がするべきだ。海男が言っているのはそういう事で、それは筋の通った話。
このまま皆に着いていくか、俺一人で生活するか。この環境から見てうずめ達は余裕のある暮らしをしている訳じゃないようだし、イリゼとネプテューヌも何か目的があると言う。言い換えればそれは、俺の存在が少なからず負担になるって事。
だが、ならば俺一人で生活するかと言われれば…そんなの、出来る訳がない。見るからに荒れたこの世界で、俺一人が…名前以外分からないという、普通の人以下の状態である俺が生活なんて、間違いなく不可能だ。…それに俺は、見つけてくれた恩を返す事もまだしていない。だから、もし良いのなら…皆が、受け入れてくれるのなら……
「…俺は、自分が誰なのかもまだよく分からないし、何が出来るかも分からない。けど、そんな俺でも良いのなら……皆、これから宜しく頼む」
決意…なんて大層なものじゃないが、俺にも出来る事を探そう。それを見つけたら、それで力になれるよう頑張ろう。…そう心に決めて、皆へと頭を下げる俺。そして俺が頭を上げた時、皆は力強く頷いていてくれて……これが、この日が…記憶を失っていた事で真っ白だった俺の記憶の、一ページ目になるのだった。
「……ところで、この大量のフリップはどうするんだ?」
「え?そうだねぇ……うん、君の仮称案だったし、これは全部君にあげるねっ!」
「……要らねぇ…」
「おおっ、初めての突っ込みだね!これからねぷねぷ一行ver別次元の一員になるんだから、その調子で頑張るんだよ?」
「…お、おう……」
……なんて良い話風に締めようとしたが…俺は同時に思うのだった。…とんでもねぇ一行に入っちゃったかもしれないなぁ……と。
今回のパロディ解説
・「〜〜諦めたらそこで本作終了〜〜」
SLAM DUNKの登場キャラの一人、安西光義の代名詞的な台詞の一つのパロディ。最後まで書き切るまで、本作は終了しません…しませんとも……!
・「〜〜海王星の〜〜いられないよ〜〜」
起動戦士ガンダム00の登場キャラの一人、グラハム・エーカーの名台詞の一つのパロディ。このパロは原作にもありますね。タイミングは違いますが。
・どこぞのマフィアの部隊
家庭教師ヒットマンREBORN!に登場する組織、ボンゴレファミリーの部隊の一つ、ヴァリアーの事。ねぷねぷクオリティだけだと、パロディとして伝わり辛いですね…。
・「〜〜今日から君は、富士山だっ!」
元プロテニス選手のタレント、松岡修造さんの名言の一つの事。シリーズ初の男メインキャラの名前が富士山……流石にそこまでの冒険は出来ないです…。
・真の平和主義者にも殺戮者にもなれるゲーム
UNDERTALEの事。…ですが、クリスの方はそのスピンオフ、DELTARUNEの主人公ですね。言うまでもないと思いますが、そういうストーリーにはなりませんよ?
・ミスター
タレントや映画監督を務める、鈴木貴之さんの事。Origins Wednesday……ちょっと面白そうですね。もし時間が幾らでもあるなら、書いてみたい気もします。
・某作品のヒロイン
デート・ア・ライブ及びそのヒロインの一人、夜刀神十香の事。どうでも良いと思いますが、投稿日にするか話数にするかで、このシーンはちょっと悩みました。
・駄菓子漫画の主人公
だがしかしの主人公、鹿田ココノツの事。これは完全に偶然のパロディです。(定期投稿ではありますが)日付を狙って投稿している訳ではないですからね。
・記憶喪失繋がり
ISLANDの主人公、三千界切那の事。刹那、であれば主人公だけでもそこそこいますが、『切』の方だと基本彼がまず連想されますね。
・ブランク
STAR DRIVER 輝きのタクト 銀河美少年伝説の主人公が、綺羅星十字団に所属した場合の名前の事。割と便利な設定な分、記憶喪失の主人公って多いですよね。