超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
一先ずモンスターの群れを凌ぐ事には成功。思った以上に消費しちゃったけど、大怪我は誰も負ってないし、群れの方にも軽々しく襲っていいような獲物じゃないと認識させられた筈。だからまぁ…結果としては、まずまずな筈。
問題はここからどうするか。このままもう少し進んでみるか、この辺りで偵察は止めておくかの二択。これがかなり微妙なところで、私達はまだ戦えるし、女神化もしていない。だから別のモンスターに遭遇するとか、さっきの群れの内足の速いモンスターに追い付かれるとかの、容易に想定出来る程度の事態なら、十分対応も出来ると思う。
けれど、想定外の事態ならどうだろうか。まぁそもそもの話、想定外に限界なんてない以上、想定外の事でも絶対対応出来る…なんて事はあり得ないから、実際には想定外の事への対応力をどこまで残せるかなんだけど…その観点において、本当に微妙なのが今の状態。だから、皆と話しつつどうしたものかと考えていて……その瞬間、奴が…この次元最大の脅威と言っても過言じゃない、黒の巨人が現れた。
「嘘、でしょ……!?」
轟音と共に地面へと降り立った黒の巨人。その距離は、前に一度見た時よりも明らかに近い。
「え、ちょっ…えぇぇっ!?今来る!?やっと一息吐けたって時に、まさかの大ボスクラスが登場する!?」
「お、大ボス…?」
「…あぁ。奴が…あのデカブツが、この次元をこんな状態にした張本人だ。そしてあのデカブツをぶっ倒す事が、俺の果たさなきゃいけねぇ目的の一つだ」
ただ立っているだけでもプレッシャーを放つ巨人を前に、うずめがウィード君へと端的に説明。その声に籠るのは…激しい敵意と燃えるような闘志。…って、闘志…!?うずめ、まさか……!
「…ふん、まさかこのタイミングで出てくるとは思わなかったぜ。俺等は未知への開拓なんてせず、静かに暮らしてろってか?もしそういう意図で出てきたんなら…舐めてくれるじゃねぇか……!」
「う、うずめ!?何を言ってるの!?それは被害妄想的なやつじゃない!?」
「かもな。けど、朝でもシェアクリスタルの配置中でもなく、こっちに足を踏み入れてから奴は現れたんだ。それに偶々であろうと、俺達は奴を倒さなきゃいけねぇ事に違いはねぇよ」
「そ、それはその通りだけど…実質連戦だよ?こっちは万全の状態じゃないんだよ…?」
思った通り、うずめは巨人と戦うつもりの様子。ネプテューヌと私の言葉を受けても一切表情が変わらないところからして、その意思が硬いのは間違いない。
でも私達は、よしやろう!…なんて事は言えない。だって奴は…巨人の襲来は、想定外且つ最悪レベルの事態なんだから。
「…落ち着くんだ、うずめ。君の言う通り、この次元の未来の為に、奴の撃破は避けては通れない道だ。だが今のオレ達の目的はそれではないし、君も二人も疲労している。そうだろう?」
「…そうだな。そりゃ何も間違っちゃいねぇ。だがよ海男。だったら……俺にあれを見過ごして、奴が通り過ぎてくれるのを祈ってろって言うのか?」
そう言って、指を差すうずめ。その先にあるのは、雄叫びのような音を上げた巨人と……壊され始める、周囲の街並み。既に傷付き、酷い有り様となっていた建物が、更に酷い状態に……建物から瓦礫へと虚しく変わっていく。
それは、胸の痛くなる光景だった。別次元でも、恐らく廃虚になっている街でも、建物が…人の作り上げてきたものが呆気なく壊されていくさまは、私だって見ていたくはない。…でも……
「…そうだ、うずめ。オレは奴を倒す事、街を守る事より…うずめ達が無事でいる事の方が、ずっと大事だと思っている」
「……っ…それは聞けねぇよ、海男。例え今は正しい形でなくとも、仮にこの先に誰もいなくても…それでも俺は女神で、国と次元を守るのが女神である俺の役目だ!それを我が身可愛さに放棄なんて出来るかよッ!」
『…うずめ……』
腕を振って言い切るうずめに、ウィード君と海男が呟く。私とネプテューヌは…何も言えなかった。私は勿論、ネプテューヌも恐らくは海男に同意していると思うけど……うずめの気持ちも分かるから。もしここがプラネテューヌや、私にとっての国と言えるオデッセフィアだったら、どこまで冷静にいられたかなんて分からないから。
けれど分かってる。うずめを止めなきゃいけない事も…ここで戦闘を避けるのは、決して我が身可愛さで選ぶ選択肢じゃないって事も。
「…俺は一人でも戦う。いや、この次元を守る事はこの次元の女神である、俺がやらなきゃいけねぇ事だ。……それに、万が一の事もあるしな。ねぷっちといりっちは、海男とウィードを退避させてくれ」
「…うずめ、本気?それは引っ込みがつかなくなったからとかじゃなく、本気の意思で言ってるの?」
「……あぁ、本気だ」
トーンダウンしたうずめの、どこか落ち着いたようにも聞こえる声。でも声が落ち着いてるからって、頭や心も冷静であるとは限らない。表面は冷えていても、中身はまだ熱いまま…なんて事が料理じゃよくあるように、まだうずめの心の中では怒りが煮え滾っているのかもしれない。
そう思ったから、私は訊いた。その問いに対して、うずめは一度黙って…私に背を向けながら答える。…背を向けたうずめの目に写っているのは、きっとあの巨人だけ。
「…そっか。なら…ネプテューヌ」
「え?……あぁ、そういう事」
「うん。いける?」
「勿論」
うずめの意思は分かった。胸中で燃える思いも、その意思はそう簡単には止まらない事も。
それが分かった事で、私の…私達のするべき事も決まった。ネプテューヌの名前を呼んだ私はネプテューヌを見つめ、それだけでネプテューヌは私の意思を理解してくれて……私達は二人、前を向く。
「そんじゃ、頼むぞ二人共。奴とのタイマンは……」
「タイマン?何言ってるのさうずめ」
「は…?…いや、ねぷっちこそ何を言って……」
「いくよネプテューヌッ!」
「なぁ……ッ!?」
言葉を途中で遮り訊き返すネプテューヌ。そしてそれが予想外だった様子のうずめが振り向いた瞬間……私とネプテューヌは、うずめの左右を駆け抜けた。女神化し、路面を蹴って、高架橋から空へと飛び上がる。
「あのサイズ…グランディザストスライヌを思い出すわね…」
「あぁ。私は戦ってないけど、もし奴の攻撃や出現に確固たる意思がないなら…災害みたいなものだって意味でも、近いかもね…ッ!」
唖然とするうずめ達の前で飛翔した私達は、ある程度の距離まで接近。ここだ、と思う距離で止まると、二人揃って右手を上げ……その場で私はシェアエナジー圧縮で巨大な剣を、ネプテューヌは同じくシェアエナジーで構成するエクスブレイドを精製する。
それだけなら、普通の戦闘でも行う事。けれど違うのはそのサイズ。私達が作ろうとしているのは、身の丈程もあるとか、身の丈の倍とか、そんな程度の剣じゃない。
「は、はぁ…ッ!?二人共、何を……!」
聞こえてくるのはうずめの声。声音からして、まだ女神化はしていない。
私達は、剣の精製を続ける。大きく、大きく、まだ大きく。これまでやった事がない程巨大に、どう考えたって普通なら振るえない程のサイズになってもまだ、巨大化を進める。そうして大型モンスターどころか、各国の戦闘艦にすら一撃で甚大な被害を与えられる程の大きさとなった時……私達は、その超巨大剣を同時に振り抜く。
『はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』
幾ら女神と言えど、その規模の剣となると瞬時に振り抜く事は出来ない。けれど私は圧縮シェアエナジーの爆発で加速させる事で、ネプテューヌの方は半実体というエクスブレイドの性質によって最初からある程度の速度を確保している事で、二本の剣は破壊を続ける巨人へと迫っていく。
色々と未知数の巨人でも、これを諸に喰らえば無事じゃ済まない筈。そう私達が思う中、巨人は攻撃に気付いた様子でこちらを向き、次の瞬間回避する。……私達の想像より、数段機敏な動きを見せて。
「……ッ!まだまだぁッ!」
「次は挟み込むわよ、イリゼッ!」
想像以上の動きに私もネプテューヌも驚くけど、それで狼狽えるような私達じゃない。ならばとすぐに身を翻し、避けた巨人を剣で追撃。それも後方へ避けられると、巨大剣を携えたまま私達は前進し、鋏の如く二本の剣で挟撃をかける。
「たぁぁぁぁッ!」
「そこよッ!」
「薙ぎ払う…ッ!」
「もう一度…ッ!」
「お、おい…おい待てって二人共!そりゃデカい奴にデカい武器ってのは分かるが、幾ら何でもそれは無理だ!明らかに捉え切れてねぇじゃねぇか!…あーもう!だったら俺が奴の気を引き付けて……」
「……!…いや待てうずめ、二人には何か策があるんだ!だから女神化はもう少し待った方がいい!」
「さ、策?あれのどこに策が……」
力もシェアエナジーも惜しみなく注いで、強引に巨大剣を振り回して巨人を追う私達。当たらなくても振るって、うずめの制止が聞こえても振るって、勘付いた様子の海男さんの声が聞こえた時には小さく笑みを浮かべて、また振るう。
五回、十回、十五回。振って、振って、振り抜いて。上空から放つ規格外の斬撃は、同じく規格外の巨躯を持つ巨人に全て見切られ、未だ一太刀たりとも巨人の身体を捉えていない。そして、何度目かの攻撃で、再び挟み込みを狙った時……身を屈めた巨人は、次の瞬間飛び上がった。飛び上がり、避け…翼を広げてこちらへと迫ってくる。
「来るわよ、イリゼッ!」
「……っ!この程度で…ッ!」
猛然と迫る巨人が左手をこちらに掲げた瞬間、放たれる闇色の光芒。それぞれ巨大剣を手放した私達が長剣と大太刀で斬り裂くと、光芒を凌ぎ切った時点で私達の眼前には巨人の姿。流石に私達も脅威を感じる中、巨人は右手に持つ薙刀らしき武器を振り被り……
(……あ、れ…?)
──その瞬間、巨人の顔を、巨人の全体像をはっきりと目にした瞬間……私は何かに、似ていると思った。頭の中で、何かに引っかかった。けれど、それが何かは分からない。分からないし…待ってもくれない。
『……ッ…!』
刃が届く直前、私は幾つもの盾を、ネプテューヌは小型のエクスブレイド数本を精製する事で防御。けれど巨人からの一撃をそれだけで防げる筈もなく、防御諸共高架橋まで吹き飛ばされる。
「ねぷっち!いりっち!」
「ふ、二人共大丈夫か!?」
勢いよく落下した私達へかけられる声。そこから十数秒して、砂煙が晴れ……視界が確保出来た時、二人と海男さんの前に姿を現した私とネプテューヌは、女神ではなく人間の姿。そして……
『…うぅ、やられた〜……』
『へ……?』
皆に視線を向けられる中、私達はふら〜っとよろけて……その場に倒れ込んだ。
「ね、ねぷっち…?いりっち…?」
「あぅ〜、あの巨人パワー強過ぎる〜…」
「それに、シェアエナジーも消費し過ぎた…これじゃ暫くは戦えないかも…」
「た、戦えないかもって…そりゃあんな戦い方するからだろ!それにさっきのだって、避けられない程じゃ……」
「う〜…とにかくわたし達はもう無理〜…今巨人に追い討ちかけられたら、二人揃ってぺしゃんこだね……」
「うん…けどうずめは私達の事なんて気にせず戦って…それがうずめの意思でしょ……?」
「……っ…それは…ってか、まさか二人共…!」
わざとらしく情けない声を出し、もう終わりだ…みたいな雰囲気を出す私とネプテューヌ。その流れのままうずめに戦うんでしょ?…と訊くと、うずめはまず躊躇って……気付く。私達の、真の狙いに。
「…だ、そうだ。どうする?うずめ。このまま二人を見捨てて戦うか、それとも……」
「…そんなの…そんなの、二人を見捨てられる訳ねぇじゃねぇかよ…ッ!くそっ…!」
「なら、やる事は決まったな。…っと、早く逃げなくては不味そうだね…!」
「みたいだな…二人共、立てるか?」
『勿論!』
「お前等…あーもうウィード!もっかい走る事になっちまったから気張れよなッ!」
「あ、お、おう!ってうぉぉっ!?これあんま余裕なくね!?」
駄目押しとばかりに海男さんから問い掛けられて、遂に意思を変えてくれるうずめ。上手くいって一安心の私達はぴょこんと立ち上がり、うずめに半眼で見られ……そこからの私達は、距離の近くなってしまった(というか近付けてしまった)巨人の破壊行動から一目散に逃げ、拠点へと帰還するのだった。
*
拠点となっている廃ビルは、ここ周辺の建物の中じゃ比較的状態が良い。けれどそれは他の建物と比較した場合であって、穴の空いている壁やヒビの入っている部位が幾つもあるし、壁も天井も崩れて空がよく見える状態になっている部屋もある。今、俺がいるのもその部屋の一つで……丁度良いサイズの瓦礫に腰掛け、俺は空を見上げていた。
「…はー……」
ぼんやりと亀裂の入った空を見上げながら、今日あった事を思い出す。夢遊状態から意識が戻ったのが昨日で、まだ自分の中での『普段』を構築出来る程の時間を過ごしてはいないが…それでも今日は、凄い一日だったと思う。…少なくとも、俺にとっては。
(…うずめは、あんなのと戦ってたのか…ネプテューヌとイリゼは、あんなのと戦えるのか……)
色々あったが、やっぱり印象として抜きん出ている事は二つ。一つはあの巨人の事で、見た目もパワーもスピードも、何もかもが理解不能の領域だった。それに、あんな巨人とうずめは長く戦ってきたんだと思うと、あんな巨人を相手に怯まないどころか、うずめを退かせる為に一芝居打った二人の度胸を思うと、ほんとに女神は凄いんだなぁと思う。…まぁ、俺を抱えたまま軽快に駆け上がるとか、あり得ない位巨大な剣を作って、しかもそれを振り回すとか、凄い事を挙げだしたらキリがないんだが。
そして、もう一つは…あの時の、うずめの怒り。声を荒げ、敵意を剥き出しにしたうずめの姿が…強く印象に残っていた。
「…てか、あの巨人は何なんだろうな…女神?…いや、そんな訳ないか…ってか、なんで俺はあれを『女神?』…だなんて……」
「…なんだ、こんな所にいたのか」
「…うずめ……」
思考だだ漏れの独り言を呟く中、不意に後ろから聞こえた声。軽く驚きつつ振り返ると、そこにはコップを二つ持ったうずめの姿が。
「今日はお疲れさん。大変だったろ?ここに来て二日目でこれだけの事があったんだから」
「そりゃ、まぁ……」
「だよな。ほら、すっごく熱いぞ。気を付けろよ?」
そう言って俺にコップを片方渡してくるうずめ。それを受け取った俺は、何も考えず数回息をかけて冷ました後、うずめが隣に座るのを横目で見つつ飲み物を口に……
「…って冷たぁッ!?ちょっ、うずめ!?これ熱いどころか、キンキンに冷えてるんだけど!?」
「はははははっ!やっぱり引っかかったなウィード!キンキンに冷えてやがる、ってか?」
「ってか?じゃねぇよ!冷えてる飲み物にふーふーするとか、俺傍から見たら凄ぇ間抜けな奴じゃん!…くそう、騙しやがって……」
……罠だった。タチの悪い悪戯だった。うずめはもう片方のコップを置き、腹を抱えて笑っていた。…凄く恥ずい……。
「いやぁ悪ぃ悪ぃ。見るからにぼんやりとした顔をしてたから、つい……」
「そんな理由で人を嵌めるなよ…まぁ確かに湯気出てないのに気付かない辺り、俺もほんとにぼんやりしてたんだろうけど……」
ひとしきり笑った後、うずめは俺に謝ってくるが、出来心というのがまた酷い。何が酷いって、瞬時に思い付いた程度の悪戯にまんまと嵌まってしまったという事実が、とにかく俺には悲し過ぎる。……これは、あれだな。もう考えないほうがいいな。
「…で、うずめはどうしたんだよ。俺に用か?」
「いいや、姿が見えねぇから探してただけだ。ねぷっちやいりっちならともかく、ウィードの場合不用意に出歩くのは危ないしな」
「そっか……俺ってそんな弱そうに見える?」
「さぁ?けど、戦えそうな気はしないんだろ?」
「少なくとも、うずめと喧嘩したら一方的にボコされそうな気はするな」
「お、じゃあ試してみるか?」
「勘弁して下さい…」
意識を切り替える事も兼ねて、うずめと軽く雑談。どうも俺は初心だったり引っ込み思案だったりな性格じゃないらしく、ここまで三人の異性の誰とも普通に話せている。…だから何だって話だが。
「…ま、仮に戦えたとしても、あんまり不用意にどっか行ったりすんなよ?今だって偶に限界がきた建物が崩れたりしてるし、そうでなくても皆心配するからな」
「…おう。ありがとな、気に掛けてくれて」
「気にすんな。国民…かは分からねぇが、自分の守る次元の人を気に掛けるのも、女神の務めなんだからよ」
そう言ってうずめは空を見上げる。巨人を前にした時とは違う、穏やかな表情と声音で。そして、十数秒程の時間が流れ……
「……なんて、何を偉そうに言ってんだ…って話だよな、ははっ…」
「…うずめ…?」
不意にうずめは、小さく肩を竦めながら言った。乾いた笑い声を漏らして、呆れたような笑みを浮かべて。
「見たろ?あのデカブツを前に、俺が感情的になってた姿を」
「…そら…まぁ、見たけど……」
「…良くねぇよ、あれは。あの時俺はちゃんと理解してたんだ。海男の主張の正しさも、自分が冷静じゃないって事も。けど俺は、感情を優先させちまった。あの時するべき判断より、したい判断を優先させちまったんだ」
視線を落とし、言葉を溢すように語り出すうずめ。さっきまでの明るさが搔き消え、覇気も完全に霧散してしまった様子のうずめ。一瞬、うずめにはこういう一面もあるのかと思ったが…違う。上手くは言えないが、そういう事じゃないのは分かる。
「それに、そうまでして優先させた気持ちだって、結局は怒りだ。皆を守りたいとか、一日でも早くこの次元を平和にしたいとかじゃなくて、好き勝手に街を、次元を壊していくあのデカブツが許せなかっただけなんだ。…情けねぇよな…守る事より怒りをぶつける事を優先しちまって、挙句ねぷっちといりっちに『退かざるを得ない理由』を用意してもらうなんて……」
「…それは…いやでも、街を壊されて怒るのは……」
「当然だってか?…でもな、俺は昨日も感情的になっちまって、それを二人に諌められたんだ。昨日と同じミスを犯して、二回共二人に助けられて、海男も感情に任せず俺に窘めてくれていて……そんな皆に比べて、だぜ?…差、感じちまうっての…女神としての格っつーか、積み上げてきた事柄のレベルっつーか……」
「…うずめ……」
「…なぁ、ウィード…これが在るべき姿の女神と、形だけの女神の違い…なのかな……」
自嘲するような、自分の事を嘆くような、うずめの声音。悔しさと情けなさを滲ませる、うずめの表情。そして、俯いていたうずめは、俺の方へと向き直って…言う。自分は駄目なのかって。劣っているのかって。
分からない。ネプテューヌ達が普段自分の次元でどういう風に生活しているのかも、『在るべき姿』ってものも。けれど、だけど…だとしても、俺は……
「……格好良かった…って、思うけどな」
「え……?」
さっきまでのうずめのように、見上げながら俺は言う。視界の端で見えるのは、目を丸くしたうずめの顔。
「格好良かったって…俺が、か……?」
「この流れで、うずめ以外の事を言うと思うか?」
「い、いやでも…俺は……」
「確かにうずめの…ってか、皆の言った事や行動も分かる。どっちが正しいかっつったら、そりゃ皆の方だ。実際海男の冷静さは俺も見習いたいなと思うし、ネプテューヌとイリゼに対しては凄ぇなと思ったしさ」
そう。あの時俺は、何も言えなかったが…俺でも冷静に判断出来ているのは皆の方だと思った。うずめが感情的に…有り体に言えば、カッとなってる事は分かっていた。…けど、あの時俺が感じたのは…思ったのは、それだけじゃない。
「けどな、俺はあの時巨人と戦おうとするうずめが、はっきりと言い切るうずめの後ろ姿が、格好良いって思ったんだ。だって、あんなに巨大で、あんなに強そうな巨人に対して、臆する事なく戦おうとしてたんだぜ?そんなの、格好良いに決まってるじゃねぇか」
「…本当、か…?それは、本当に思ってくれてる…のか……?」
「あぁ。勿論それは、記憶喪失な俺の…女神の在るべき姿なんて知らない、俺個人の感想だけど……俺は確かに、そう思ったんだ。それは、何も知らなくたって…嘘や間違いなんかじゃ、ないだろ?」
俺は知らない。女神の在るべき姿を。だからうずめの言う通り、あの時のうずめは女神としては、間違っていたのかもしれない。だけど俺はうずめを格好良いと思ったんだ。この思いは、間違いなんかじゃないんだ。だから俺は、はっきりと言える。うずめは、格好良かったって。
振り向いて、俺は言った。振り向いてから、言い切った。躊躇う事なんてない。だってこれは、俺の本心なんだから。
「…ウィード……」
「だから、うずめは……」
「…………」
「…えぇと、その…あー、だから……」
「……?」
「……すまん、結論…出てこないわ…」
「んなっ…何だよそれ……」
俺の名を呟き、ほんの少しだけ見上げるうずめ。そんなうずめへ、俺は続く言葉を言いかけて……結果、上手く言葉が出なかった。…と、言うより…流れで締めの言葉を言おうとしたが、実際には何にも出てこなかった。上手く言葉に出来ないとかじゃなくて、そもそも行き当たりばったりだった。
当然、これでもかって位に尻切れ蜻蛉になった俺の言葉を受けて、うずめはがくっと肩を落とす。俺も俺で情けないってかまた恥ずかしい気持ちになり、頬が熱くなるのを感じながら目を逸らそうとして……
「…けど、そっか…ウィードはそう思って…俺を格好良いって、思ってくれてたんだな…ははっ」
「…え…あの、うずめ……?」
「ん?何だよ、結論が出てきたか?」
「い、いやそれはまだ出てきてないんだが…元気、出たのか…?」
「おう、そんなところだ」
「そんなところだ、って…えぇー……」
からり、通り雨が過ぎた後のように、さっきまでの沈んだ様子が嘘だったかのように、うずめはけろっとした表情で俺に言ってくる。…いや、ほんとに何だったんださっきまでのは……。
「てか、そもそもこんな話するのは俺らしくねぇよな。しかもその相手が、昨日会ったばかりのお前って……」
「う…悪かったな、昨日会ったばかりの相手で……」
「あ、いや文句を言ってるんじゃねぇんだよ。むしろそんな関係の俺がこんな話をするなんて、中々ある事じゃねぇぜ?案外ウィードも、女神だったりするんじゃないのか?だったら多少は納得いくしよ」
「多少も何も、俺男だっての…その場合別の面で滅茶苦茶納得いかなくなるじゃねぇか…」
「はっ、確かにな。…まぁでも、一応言っとくか」
「……?」
ウィード女神説という、とんでもない事を言ってくるうずめに、思わず俺も呆れてしまう。でも流石にそれは冗談だったらしく、俺の返しに頷いたうずめは勢い良く立ち上がって……言った。
「……ありがとな、ウィード。お前のおかげで、元気が出たぜ」
「…それなら、良かった」
俺の方を向いて、にっと笑いかけてくるうずめ。陰りも自嘲もない、うずめの笑顔。そしてそれを見た俺は、思うのだった。今日は色々あったが、印象深い事も多くあったが……一番は、今うずめが見せてくれた、この明るさに満ちた笑顔だって。
今回のパロディ解説
・「〜〜すっごく熱いぞ。気を付けろよ?」
グレッグのダメ日記シリーズに登場するキャラの一人、ロドリック・ヘフリーの台詞の一つのパロディ。台詞というか、弟に向けた悪戯のシーンですね。
・「〜〜キンキンに冷えてやがる〜〜」
賭博破戒録カイジの主人公、伊藤開司の代名詞的な台詞の一つのパロディ。ほんとにこれは有名なネタですね。モノマネ芸人さんもやっていますし。