超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第十四話 禁断のシャワー

『お風呂に入りたい!』

 

 朝。偶然立て続けに目が覚めた私とネプテューヌは、起きて早々にそう言った。いや…そう声を上げた。

 意味は同じ?ううん、確かに一見意味は同じでも…違う。『言った』だけじゃ表し切れない思いが…今の私達にはあるッ!

 

「んぇ…?」

「んぇ…?…じゃないようずめ!これは由々しき事態だよ!わたし達、何日もお風呂入ってないんだよ!?」

「あー…そういやそうだなぁ…」

「そういやそうだなぁ…でもないよ!?わたしはお風呂に入りたい!わたし達はお風呂に入りたいのっ!うぃーうぉんとお風呂!」

「いやそれだとお風呂が欲しいになるだろ…今日もねぷっちは朝から元気だなぁ…」

 

 わーきゃー騒ぐネプテューヌに対し、寝起きのうずめはのんびりと返答。それから私の方へ視線を向けてくるけど……残念ながら今の私は、ネプテューヌサイド。

 

「ねぇうずめ、私達は連日戦ってるよね?」

「ん?まぁそうだな」

「埃っぽかったり砂煙が舞ったりする事もあったよね?」

「んまぁ、あったな」

「何より私達、女の子だよね?」

「女の子だな」

「だったら……何日もお風呂に入らないなんて、大問題でしょう!?」

「うわぁ!?いりっちがキレた!?」

 

 もう全然ピンときていない様子のうずめに、声を荒げ…はしないものの、大声を上げた私。それにうずめは驚いたみたいだけど…女の子として、こんなの当たり前だよ……!?

 

「うずめ、べたべたしてたり汗臭くなったりするのは嫌だなぁと思うのは女の子にとっての『普通』だし、女の子はお風呂に入るのが普通なんだよ!?」

「そうだようずめ!男勝りな女の子に一定の需要があるのは間違いないけど、それは女の子として最低限のラインを守ってる場合であって、今言ってるのはそういう話なんだからね!?」

「いやいや待て待て待て!お、落ち着けって二人共!てか、俺だってそれ位分かってるからな!?一応これでもそのライン踏み越えちゃいないつもりだからな!?」

 

 鬼気迫る勢いで言葉を重ねると、目を白黒させながらもうずめは強く反論してきた。流石にそれは失礼だろって。

 

『…ほんとに?』

「本当だっての…あー、つまり二人は風呂に入りたいって事か?連日の活動で汚れたり汗をかいたりした身体を、いい加減風呂で洗い流したいと?」

『そう!』

「…なら、シャワーを浴びるとするか」

『えっ……?』

 

 思いが完全に同調してるからか、立て続けに私達の声はハモる。そしてそんな私達を見て、若干気圧された様子のうずめは軽く後頭部を掻き…言った。私達が、想像もしなかった言葉を。

 

「あ、浴びるとするかって…シャワー、あるの…?」

「あぁ、あるぜ?ってか、今日は二人共よく俺の言葉を繰り返すなぁ……」

「それ、ほんとにシャワー?川に飛び込むとか、ど根性シャワーとかじゃなくて…?」

「ほんとだって。まぁ、二人が想像してるのとはちょっと違うだろうけどな」

 

 疑ってる訳じゃないけど、環境が環境だけに俄かには信じられない私達に対し、うずめは普通の調子で返してくる。その表情に嘘を吐いてる様子はない…というかこんな事で嘘を吐く訳がないし、なら本当にあるって事。…でも、騒いどいてアレだけど…ほんとにあるのかな…。

 

「んもう、あるなら言ってくれればいいのに…で、どこにあるの?」

「屋上だ」

「あー、屋上ね。じゃあわたし行ってきまー……え、屋上?」

 

…なんて思ってた私の思考が現実になってしまったのか、またもやうずめの口から発されたのは予想外の言葉。一瞬聞き間違えたのかも…と思ったけど、ネプテューヌも同じ反応をしていたから、やっぱり屋上で間違いないらしい。

 

「あぁ、屋上の貯水槽の水を利用してるんだ。だから冷水だけのシャワーだが…ないよりはマシだろ?」

「あ、そっか…じゃあ、うずめがここまで一度も使わなかったのは……」

「そういうこった。一応、別の理由もあるっちゃあるが……遠慮すんなよ?貯蓄ってのはいつか使う為にしてるもんだし、二人に言われて俺もシャワー浴びたくなったしな」

 

 私の言おうとした事を察して、遠慮しなくていいと言ってくれるうずめ。そう言われた私達は、一度顔を見合わせて……二人でこくんと頷いた。実際、遠慮しようか…って気持ちもあったけど、うずめの方から教えてくれた事をやっぱいい、って遠慮するのも悪いと思ったし……本当に、私達は身体を洗いたい気分だったから。もしこれが、お風呂もシャワーも無理な状況なら諦めもつくけど…あると分かってしまうと、むしろ余計浴びたくなってしまうのが人というもの。

 

「じゃあ、改めてレッツゴー!」

「…あっ、でも朝ご飯……」

「まあ、シャワーの後でもいいんじゃないか?冷水だけな以上、長く浴びるって事もないだろうし」

「それもそっか。〜〜♪」

 

 バスタオルを手に、足取り軽く屋上へと向かう。たかがシャワー、されどシャワー。それ自体は単に身体を洗う…もっと言えば、水を被るだけの行為だけど、それ以上の意味がそこにはある。

 

「とうちゃーく!おぉー、屋上から見ると……やっぱり胸の痛くなる光景だね…」

「うん…でもこれからシャワーなんだしさ、身体も心もこれでリフレッシュしようよ」

 

 屋上に出た私達の目に映るのは、廃墟と化した建造物の数々。その光景につい気落ちしてしまうも、落ち込んでたってしょうがない。そう考えて気持ちを切り替え、シャワー室はどこかな〜と私が視線を走らせる中、うずめはおもむろに服を脱ぎ出し……

 

「って、ちょっ、うううずめ!?な、何やってんの!?」

「うん?何って……え、いりっち達の次元では服を着たままシャワーを浴びるのか?」

「そんな事はしないよ!?いやそうじゃなくて…屋上とはいえここ外だよ!?脱ぐなら更衣室かシャワー室に入ってからでしょ!?」

「いや、ないぞ?」

「…何が……?」

「更衣室もシャワー室も」

『…………』

 

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?』

 

 さも当然かのように脱ぐうずめに目を剥きながらも突っ込むと、返ってきたのは本日三度目の予想外ワード。こ、更衣室もシャワー室も、ない…!?じゃあまさか、ここって……野外シャワー…!?

 

「いやぁ、まぁシャワーつったって、要は貯水槽に穴開けてそれっぽくしただけなんだけどな。ほら」

「わっ、ほんとだ。穴開けた上で普段は蓋してるんだね。正にサバイバルの知恵的な発想…ってそうじゃない!そこじゃないようずめ!?お外でシャワーってサバイバリティ溢れ過ぎてない!?これじゃさっき言ったど根性シャワーが、当たらずとも遠からず状態になっちゃうよ!?」

「おぉ、ねぷっちがノリ突っ込みを…」

「そこ感心しなくていいから……まぁちゃんとしたシャワー室が無いのは仕方ないけど…野外シャワー、かぁ…」

 

 これまで私も色んな経験をしてきたけど、流石にこんな経験はした事がない。シャワーを浴びたいのは山々だけど、流石にこれは躊躇ってしまう。せめて水着があれば…と思うけど、まぁそんな物がある訳もないし。

 

「…どうしよっか、ネプテューヌ…」

「うーん…そうだなぁ……」

「…………」

「…でもなぁ…やっぱりなぁ…だけどなぁ……」

「……ネプテューヌ?」

「……よし、決めた!わたしは浴びるよ!」

「浴びるの!?そして早速脱ぎ出した!?」

 

 がっ、とパーカーワンピのファスナーを一気に下ろし、ほっそりとしたお腹と可愛らしいお臍を露わにするネプテューヌ。どうやらぶつぶつ言っていた間、考えていたみたいだけど…ネプテューヌの決断力は、本当に凄いと思う。

 

「シャワー、シャワー、やっとシャワー!うずめうずめ、蓋取ってもいい?」

「おう、構わないぞ〜」

「じゃあ、オープーン!うっひゃー!冷たくて気持ちーっ!」

 

 私が踏み出せない…というか踏み出して良いものか迷う中、うずめより先に全裸となったネプテューヌは貯水槽の前へ。そして蓋を取ったネプテューヌの元へと貯水槽の水が降り注ぎ……気持ち良さそうなネプテューヌの声が、聞こえてきた。

 

「だろ?…けど、うーん……」

「はー、べたべた感が抜けていく〜…。…って、うずめ?どうしたのさ、インナーに手をかけたまま止まっちゃって」

「いや、それは…その…なんてんだ、えと……」

 

 一方最初に脱ぎ始めていたうずめは、何故か途中で停止状態。同じく気になった様子のネプテューヌが訊くと、さっぱりした性格のうずめには珍しく中々言葉が出てこない。

 

「…あ、もしやうずめ、人前で裸になるのが恥ずかしいとか?」

「ぶ…っ!?ば、ばっか!そ、そんな訳ないだろ!?」

「え、図星?」

「図星じゃねぇよ!だ、断じて今まで一人だったから、他人に自分の裸を見せるのが恥ずかしいとかそんなんじゃないからな!」

(あぁ、全部自分で言っちゃったようずめ……)

 

 その後もうずめは言葉を濁していたけれど、妙に鋭いネプテューヌに言い当てられた結果、思いっ切り暴露してしまっていた。…ネプテューヌも脱いだ事で、その事を意識しちゃったのかな……。

 

「へぇ〜…。…あ、そうだ!わたし、うずめの格好良い裸姿見たいな〜!」

「……!?か、格好良い裸…!?」

(…格好良い裸……?)

「そう、インナーをばさーっと脱いて、シャワーをがーって浴びる、ワイルドで格好良いうずめを見てみたいの!…あっ、でも無理だよね…初めての経験は、二の足を踏んじゃうのが普通だもんね…」

「…言ったな?いいじゃねぇか、だったら見せてやるよ!この俺が、初めての事も臆さない女神なんだって姿をな!」

(乗せられてる!?)

 

 しかも半眼&横目+口元に手を当てて言うという、いっそ清々しい程に「煽ってますよ」感満載のネプテューヌに乗せられて、本当にうずめはばさーっと脱いでしまった。…うん、まぁ…何となくそんな気はしてたけど…うずめって、格好良さに何か拘りがあるよね…。

 

「おぉーっ!よっ、格好良いようずめ!男前…は、女の子に言う言葉として適切じゃないし……女前っ!」

「だろう?そうだろう?へっ、これが俺の……」

「……俺の?」

「…うぅ、やっぱ恥ずかしいし……てか、女前ってなんだよ…」

「えー?やっぱり恥ずかしかったの?」

「うっ……あーもうこうなりゃヤケだ!てかねぷっち、さっきから俺を嵌めてないか!?」

「それはどうかなー?…っていうか、やっぱりうずめもそこそ育ってるよね…いいなぁ……」

 

 うずめもネプテューヌもころころと表情が変わり、シャワーそっちのけで一喜一憂。ただまぁうずめも段々と慣れてきたみたいで、私が眺めてる間にうずめの動揺は沈静化。そうして二人は、シャワーの癒しで気持ち良さそうな顔をするようになって……

 

「…いいなぁ……」

 

……なんて、気付けば私は呟いていた。うぅ、どうしよ…他に人はいないとはいえ外だし、湖とかならまだしもここ完全に屋上だし…でもここで浴びなかったら、次に…というかここ以外で浴びられる保証なんてどこにもない訳で……う、うぅ…うぅぅ…………えぇいっ!

 

「据えシャワー浴びぬは……女神の恥ぃっ!」

「おっ、イリゼもやっと来たね!…でも、据えシャワー?」

「いりっちは時々変になるよなー」

「へ、変って…私は二人と違って、普通に恥じらいのある女の子なの。…はぁぁ、気持ち良い……」

 

 意を決した私は、うずめに負けじとばばーっと……やっちゃうとボタンが取れちゃうから普通に脱いで、シャワーを満喫する二人の下に。二人からは、「失礼な……」みたいな視線で見られたけど、私は別に気にしない。だって現に、脱ぎっ放しの二人と違って私はちゃんと畳んでるもーん。

 

「…やっぱりさ、どんな時でも女の子らしさは失っちゃ駄目だよね……」

「だよね…モンスターと戦っても、過酷な環境に置かれても、心はいつでも女の子!」

「なんか標語みたいだな。俺からすれば、無縁な話だけどよ」

「えー、そんな事ないと思うよ?うずめだって可愛いもんね?」

「うんうん、ボーイッシュな可愛さがあるよね」

「んな……ッ!?へ、変な事言うなよ二人共っ!」

「ほら〜、照れてる姿も可愛いぞ〜?」

「ふふっ、髪も下ろしてボーイッシュ要素が減ってるから、普段とは違う可愛さがある…って感じかな」

「だ、だから変な事言うんじゃねぇよ!…うぅ……」

 

 べたべたから解放された私達は、解き放った心でガールズトーク。本人は格好良さに拘りがあるみたいで、実際格好良いところも沢山あるけれど、それに負けない位に可愛いところもあるのがうずめ。実際可愛いと言われて恥ずかしがってるうずめはとっても可愛くて、だからついついからかってみたくなってしまう。

 けれどこういう会話が出来るのも、ある意味シャワーを浴びているから…所謂裸の付き合いをしているからなんじゃないかなぁ…と私は思う。服を脱ぐと、心のガードも緩くなっちゃう事ってあるよね。

 

「…にしてもほんと、こんな意外な形で意外な経験をするなんてね」

「信次元にいたら、屋上で貯水槽シャワーなんて絶対浴びる機会ないもんねぇ」

 

 私の言葉に同意してくれるネプテューヌ。ほんとにネプテューヌの言う通りで、ここに来なければこんな経験絶対にしていなかったと思う。いやほんと、見晴らしの良いビルの屋上で全裸になって、周りの事なんか考えず何の仕切りもないシャワーを浴びるなんて……

 

「…ど、どうしよう……なんか私、段々ゾクゾクしてきた…」

「あ、あはは…実はわたしも…。この普通じゃない開放感っていうか、脱いじゃった感は何か、開けちゃいけない扉に手をかけてるような感じがあるよね……」

「や、やっぱり二人もその感覚はあるのか…実を言うと、さっき言った別の理由ってのがこれなんだよな……」

 

 なんかもう、気付いたらまぁまぁヤバかった。変な意味で身体が火照ってきちゃうというか、その火照りがシャワーで冷やされるせいで、気付いた時にはもうゾクゾクを感じ始める段階に至っちゃってるっていうか……これ以上屋上シャワーを楽しんではいけないと、私の心が慌ただしくサイレンを鳴らしていた。

 

「う、うん!そろそろ戻ろっか!もう十分さっぱりは出来たしね!」

「だ、だな!あんまり遅いと海男達が心配するかもしれねぇし、さっさと身体拭いて……」

 

 胸騒ぎから目を逸らすように、私達はこの辺で終わりにする事を決定。わざとらしく声を上げながら軽く髪を掻き上げ、貯水槽に蓋をして、置いといたバスタオルへと手を伸ばした時……うずめが服の隣に置いておいた通信機が、音を上げた。

 

「うん?海男か?もしやほんとに心配して……」

 

 バスタオルで手だけを軽く拭いて、通信機を手にするうずめ。そして通信に出ようとした瞬間……鋭い悲鳴が周囲に響く。

 

「……ッ!?海男!何かあったのか!」

「すまないうずめ、まだシャワーの最中だったかい?」

「いいや問題ねぇ!それより何があった!」

「どうやら昨日の群れは、あの後もオレ達をしつこく狙っていたらしい。今その一部が、ビルの一階に侵入した…!」

「……っ…!分かった、すぐに行く!海男は皆に逃げるように伝えてくれ!」

「勿論だ。それと──」

 

 それまでの楽しかった空気を切り裂くような、海男さんの言葉。それを聞いた私達は息を飲み、その一瞬で意識が戦闘時のそれに切り替わる。

 言うが早いかうずめが走り出した事で、海男さんの最後の言葉は聞けず終い。駆け出したうずめの向かう先は……屋上の端。

 

「ちょっ、うずめ!?まさかそこから飛び降りる気!?」

「あぁ!こっちの方がずっと速い!」

「だったら……うずめ!」

「っと…サンキューいりっち!二人も着替えたらすぐに来てくれ!」

 

 うずめの行動は驚きのものだったけど、既に意識が切り替わっていた私達はそれで狼狽える事はない。実際女神なら、何度かビルの出っ張りに足をかければ怪我する事なく着地するのも無理ではないし。

 とはいえ、流石に全裸で戦いへ…というのは頂けない。だから端に辿り着く直前でネプテューヌの言葉に答えたうずめに向けて、私は丸めたバスタオルを投げ付ける。するとうずめは受け取り、手早く身体に巻いて……ビルの下へと、飛び降りた。

 

「着替えたらすぐに、って…ねぇイリゼ。うずめはああ言ってたけど…どうする?」

「どうもこうも…この状況で、迷う要素なんてある?」

「だよね。じゃ、わたし達も行こっか!」

 

 全裸で戦うなんて、幾ら何でも正気の沙汰じゃない。けれど恥ずかしさを避ける事と天秤にかけられる程、皆の命も軽くない。…その意思を確認し合った私達は、ばっとマントの如くバスタオルを開いて身体に巻き付け、即座に端へ。そうして屋上の柵を乗り越えて、先行するうずめの後を追う。

 

「よっ!」

「ほっ!」

「はっ!」

「とう…ちゃーっくっ!」

 

 横スクロールアクションの操作キャラばりの落下とジャンプで降りていく私達は、すぐに海男さんの言っていたモンスター群を視認。同時にうずめの位置も確認して、うずめより少しだけ道路側へと着地する。……っ…流石に砂利が足の裏に刺さって痛いね…でも、この位なら戦闘するのに支障はない…!

 

「うずめ!まずは強行突破して侵入したモンスターを叩くよッ!」

「……!二人もその格好で来たのか…よし、俺が突っ込むからサポートを頼んだッ!」

「あいさー!わたし達何やってるんだろ感凄いし、一気に片付けちゃうよーっ!」

 

 真上からの強襲に驚くモンスター達をそれぞれの得物で斬り払った私達は、ものの数秒でうずめと合流。端的なやり取りで意思疎通を済ませ、モンスター側の数を再確認。そして武器を構え直し、私達はビルに…そこに群がるモンスター群に突撃を開始した。

 

 

 

 

 当たり前の話だが、俺はうずめ達とは別の(正確には隣の)部屋で寝起きしている。床で寝るのはあまり気持ちの良いものじゃないが、記憶喪失のおかげか「普通の寝具からの落差」を感じる事はなく、あー硬いなぁ…位で済んでいるのは幸いなところ。

 で、俺は朝早いタイプでもないらしく、昨日俺より遅いのはネプテューヌだけだった。だから今日もそうなるかなぁ…と思っていたら女子三人は誰もおらず、どっか行ったのか?…と思った俺。だがその後すぐに見つけた海男曰く、三人はシャワーを浴びているらしい。

 

「シャワーかぁ…確かに三人共、昨日は激しい戦闘をこなしてたもんな…」

「汚れたままではいたくない、と思うのは女性の常だからね。……覗きはいけないよ?」

「俺そんな意図の発言はしてないんだが!?」

 

 腕…じゃなかった…ヒレを組み、片目を瞑って突如海男が言ってきた忠告。表情からするに、冗談半分なんだろうが……俺をなんだと思ってるんだ、海男は。全く…流石にそんな事は(多分)やらねえっての。

 

「……うぃどっち、今一瞬悪い顔をしていなかったかい?」

「いやいやまさか。…てか、そうか…なら俺はどうすっかな…」

「では、皆と戯れてくるのはどうかな?下の階で、確か比較的若い子達が遊んでいた筈だよ」

「へぇ。じゃ、そうするよ」

 

 特にやりたい事も、やらなきゃいけない事もない。ならモンスター達との親睦を深めるのも良いかもなと思い、俺は海男の提案に首肯。その足で階段へと向かい、賑やかな声が聞こえてくる階まで降りていく。

 

(…つっても、どんな遊びをしてるんだろうな…俺には真似出来ない遊びとかじゃなければいいんだが……)

 

 愛らしい見た目のおかげであまり怖いとは感じていないが、あくまでも俺は人で、皆はモンスター。種族が違えばやる事出来る事も色々違う訳で、下手するとまるで入り込めない可能性もある。…とかなんとか考えてちょっと不安になってた俺だが……

 

「よいしょっ」

「おー、凄〜い!」

「それならぼくも…ていっ!…あっ……」

「駄目だよ〜。持つ時はもっと慎重にならなきゃ」

 

 覗いてみた部屋…てかフロアでは、何体かのスライヌが色々な物を持ち上げて遊んでいた。…これは、遊んでる…のか……?

 

「……あ。…えっ、と…ウィード、さん…」

「…それは、誰が一番頭へ上手く物を乗っけられるかの勝負…なのか?」

「うん。そうだよ」

「やっぱそうなのか…確かに王冠とかナイトとかを乗っけると、しっくりきそうな気がするもんな……」

 

 気付かれた俺が出ていくと、スライヌ達の反応は様々。近寄って来てくれるスライヌもいれば、ちょっと距離を取って不安そうにしているスライヌもいる。…けど、当たり前だよな。俺は経歴不明の人間だし、愛らしい外見でもなきゃうずめ達みたいに可愛い容姿をしてる訳でもないし。

 

「ウィードさんは、ボク達に用事?」

「いいや、用事って訳じゃないんだ。…もし良ければ、俺にもさせてくれないか?」

「…ウィードさんも…?…えっと…うん、いいよ」

「ありがとな。じゃあ……」

 

 変に擦り寄るより、同じ事をして遊ぶ方が、皆との親睦に繋がる筈。そう思って見回した俺が見つけたのは、ボールの様な…というか、ビニールボール。それを手に取った俺は、数秒考え……ボールを頭に。

 

「よっ…と、とっ……」

「わぁ、ウィードさん上手〜!」

「よく載せられたね。ぼく達より頭固いのに…」

「いやその言い方だと違う意味に…っと、やっぱり気が散るとすぐ落ちちまうな……」

「もう一回やる?」

「おう。あ、でもちょっと離れててくれよ?どうも載っけてると足元への注意が散漫になっちゃうからさ」

 

 載っけたボールは、軽く突っ込みを入れた瞬間落ちてしまい、スライヌ達も「あぁー……」と、ちょっと残念そうな表情を浮かべる。けれどそんな表情を浮かべてくれたって事は、きっと少なからず俺に興味を抱いてくれてたんだ。そう思って再挑戦し、失敗したら更に挑戦し、少しずつ持続時間を伸ばしていく。

 やっているのは、なんて事ないただのバランス取り。だがやってやろうという気になった事で、スライヌ達の興味に応えたいという気持ちになった事で、段々と俺は熱中していく。そうして次第にコツが掴め、一回毎に持続時間が伸びるようになった頃……不意に海男が、慌てた様子でやってきた。

 

「……?海男さん、どうしたの?」

「不味い事になった。君達はとにかく上の階に上がってくれ」

「不味い事?何があったんだ?」

「…つい先程、モンスターの群れが見えた。昨日、オレ達を襲ったのと恐らく同じ群れだろう」

「……っ!じゃあまさか、あの後も俺等を尾行して──」

 

 初めは俺もスライヌ達もきょとんとした顔で海男を見た。…が、モンスターの群れと聞いた瞬間、一気に空気へ緊張が走る。ここにいるのも…ってか、この場じゃ俺以外全員モンスターな訳だが、様子からして危険なモンスターである事は間違いない。

 それだけでも驚きだったのに、続く言葉は更に俺を驚かせるもの。しかも、その言葉に俺が反応した次の瞬間……下の階から、身の竦むような悲鳴が響き渡る。

 

「くっ、もう来たか…!とにかく皆は上へ逃げるんだ!すぐにうずめ達も来てくれる!」

「あっ、う、うんっ!」

「さぁ、うぃどっちも早く…!」

「あ、あぁ…でも待ってくれ、海男はどうするんだ…?」

「勿論、オレはこの事を全員に伝える。そして可能なら…いいや、可能な限り時間を稼ぐさ。うずめ達が、来てくれるまでの時間をね」

「……っ…!」

 

 悲鳴と語気を強めた海男に押されるように、上の階へと駆け出すスライヌ達。だが海男本人(本魚…?)に逃げるような素振りはなく、それどころかこのビル内を駆け回って…あのモンスター達相手に、時間を稼いでみせると言う。

 無茶だ、と思った。海男が実はうずめ達並みに戦えるのならともかく、そんな力がないなら自らやられに行くようなもの。そんなの、まともな判断じゃなくて……けれど海男の目は、本気だった。昨日のうずめ達と同じ、戦う者の…立ち向かい、誰かを守ろうとする者の目をしていた。

 

(…けど、そんな目をしてたって無茶なもんは無茶だ…それに避難するよう伝えて回るのと、時間稼ぎとは両立出来る訳がねぇ。海男一人で、そんな事……っ!)

 

 そう、無理だ。危険だとか、勝率が低いとかじゃなくて、不可能なんだ。そして、そんな事は海男だって分かっている筈で……それでも海男は、下の階へと向かおうとした。向かうべく、俺に対して背中を向けた。

 その瞬間、俺は思い出す。昨日見た、うずめの背中を。俺達を守るべく戦ってくれた、三人の背中を。それがよぎった途端に、俺の中で上手く言葉に出来ない衝動が湧き上がり……俺は通路の端に落ちていた鉄筋を手に取って、先を進む海男の前に出る。

 

「……!?うぃどっち…!?」

「…海男は皆に伝えてくれ。時間稼ぎは、俺がやる」

「な……ッ!?む、無理をしないでくれうぃどっち!時間稼ぎは……」

「どう頑張ったって、この二つは同時にやれないだろ?それに……こう見えても俺、洞窟っぽいところでずっと彷徨えてた程度にはしぶといんだぜ?」

 

 当然俺の行為に海男は目を剥き、止めようとする。…けど、昨日と違って的確な制止は出てこない。…当然だよな、今回は自分だってその無理をしようとしてたんだから。

 

「だが……」

「あっ、ああぁ海男さん!おっかないモンスターが!モンスターがっ!」

「っと、逃げてきたんだな。ほら海男、この子も避難させてやってくれ!」

「く……なら、絶対に命を捨てるような真似はしないでくれ!それが約束出来るなら…」

「あぁ、約束するさ。俺だって、実質数日の命なんて御免だからな!」

 

 階段を駆け上ってきたひよこ虫を海男に任せると、海男は表情を歪めた後に俺に言った。犠牲になろうとしないでくれ、と。

 言われるまでもない、と思いながら俺は駆け下りる。だって、方便とかじゃなく……意識がはっきりしてからたった数日で死ぬとか、冗談抜きでほんとに嫌だからな!数日とか成虫になったセミ以下じゃねぇか!

 

(どこだ、どっから侵入して……っと、いた…ッ!)

 

 数段飛ばしで一気に一階まで降りた俺は、正面入り口がある方へと走り、すぐにモンスターを発見する。…必死で逃げるスライヌを追う、数体のモンスターを。

 

「おい、こっちだッ!」

「……っ!た、助け……っ!」

「勿論だ、急げッ!」

 

 スライヌにもモンスターにも聞こえるように声を張ると、スライヌは一瞬ビクついた後こちらへ一目散に走ってきて、モンスター達も追ってこっちに走ってくる。

 一応の武器があるとはいえ、俺は多分普通の人間。その俺が見るからに凶暴そうなモンスター数体を返り討ちに出来るとは思わないし、滅茶苦茶恐怖も感じている。けど、俺は決めたんだ。俺が出来る事をやるって。それに…あんなに怯えて、必死に逃げ惑ってる奴を見て見ぬ振りなんてしたら……後味が悪いんだよ…ッ!

 

「こっ…のぉぉぉぉぉぉッ!」

 

 鉄筋を握り締め、スライヌが俺の脇を抜けていった瞬間、力任せにそれを振り抜く。それは知識も技術もあったもんじゃない、単なる素人のフルスイングだったが、運良く鉄筋はモンスターの鼻面に直撃。モンスターは悲鳴を上げながら後ろへ吹っ飛び、残りの奴も一度大きく後方へ飛び退く。

 

(……あれ…?…俺って、もしや…割と、戦えるのか…?)

 

 死にたくはないが、空振りからの反撃で即死…なんて事もあり得ると思っていた俺は、内心鉄筋の直撃に驚き…思った。流石にうずめ達程じゃないにしろ、実は俺も戦える人間だったのかも、と。…そう、直撃させた直後は思っていたんだが……

 

「…ってやっぱさっきのは紛れ当たりだよなぁぁぁぁッ!」

 

 その後十秒と持たずに、俺は逃げ回っていた。もう二発目以降は当たらない当たらない。こっちの攻撃は全部避けられるし、逆にモンスターの爪や牙は即当たりかけるし、さっき吹っ飛ばしたモンスターも復活してくるしで、一瞬の栄華もいいところ。複数体相手に逃げ回れてるだけ、まだマシっちゃマシだが…そんな事で喜べるような余裕はない。

 

「……っ…!嘘だろオイ…!」

 

 しかもそこには新たに数体のモンスターがやってきて、俺を狙う奴等と合流。数が増えた事で俺を囲うような追い方に変わり、あっという間に追い詰められていく俺。だがそんな中、俺は気付いた…というより、思い出した。今俺がいるのは広い部屋であり、最初に出たのは廊下であり……その境には、壊れていない扉があると。

 

(このまま逃げてたって、多分一分持たずに包囲される…だったら、一か八かやるしかねぇ…ッ!)

 

 意を決した俺は、その場で反転。その瞬間二体のモンスターが飛び込んできて、「あ、不味い…」と思ったが…急反転が功を奏し、俺はそこで軽くスリップ。その結果モンスターの飛びかかりはタイミングがズレた事により外れ、俺は廊下へと向かって全力で走る。

 実際には、数秒もあれば辿り着く距離。だがいつモンスターに喰い付かれてもおかしくない俺にとっては、全身から嫌な汗が噴き出る程に決死の行動。歯を食い縛り、女神である三人に祈り、二度目のスリップをしてしまわない事を心から願い、飛び込むように走り込んで……間一髪、俺の左手が扉に届く。

 

「あっ…ぶねぇぇ……!」

 

 我ながら驚く程に素早い挙動で、通り抜けると同時に俺は扉を閉めて施錠。鍵のかかった音と、モンスターが扉にぶち当たる音がほぼ同時に聞こえ、俺は崩れ落ちそうな程に安堵して……

 

「うぉぉぉぉおおおおッ!!?」

 

 次の瞬間走った扉を破ろうとする音と衝撃に、ビビりながら扉を押さえた。ヤバいヤバいヤバい!扉べこんべこんなってんじゃん!金具も壊れそうな音立ててんじゃん!破られる破られる押さえてないとすぐに破られる…ッ!

 

「はぁ…っ!はぁ…ッ!はぁ……ッ!」

 

 全身に走る恐怖と焦燥。扉が破られるのは時間の問題。けれど今離れれば、それよりずっと早くぶち破られる。逃げるにしても、今俺に階段を駆け上がるだけの余力はない。

 噴き出し続ける汗。どうすればいいか必死に考え、けれど何も出てこない頭。恐怖ばかりが心を占めて、冷静さが遠くへ離れていく。

 

(どうする…どうすればいい、どうしたらいいんだ、どうしたら切り抜けられるんだ!?考えなきゃ死ぬんだ、考えろ!考えて見つけろ!何か、何かないのか!一つ位、何か……ッ!)

 

 考えて、考えて、焦る自分に言い聞かせて、考えて。それでも出てこなくて、余計焦って、だとしても…と考えて。

 だが見つからない。思い付かない。そしてその間にも扉は軋み、傷付き、遂に一部が欠けて飛び散る。そして、そこを起点に扉へ大きなヒビが入り、次の瞬間…………

 

 

──突如、扉を襲う音と衝撃が消えた。不意に、それまでの事が嘘の様に。

 

「…へ……?」

 

 何が起きたのか分からない。ただ急に収まった攻撃に、呆然とする俺。その内に、扉の向こうからはモンスターの怒り狂う様な唸りと、呻き声が聞こえてきて……更にその後、確かに聞こえた。覇気ある、心強い……うずめ達、三人の声が。

 

「……っ…た、助かったぁぁ…」

 

 今度こそ安堵感で崩れ落ちる俺。戦闘音らしきものはまだ聞こえているが、今は笑ってしまいそうな程の安心感がある。それと同時に、俺は会って数日の三人にここまで信頼を寄せてたのか…と気付いたが、それも当然の事だろう。昨日はあんなに強く、格好良い女神の姿を見せてくれたんだから。

 

(…やっぱ凄いな…もうモンスターの唸りが殆ど聞こえなくなってきた……)

 

 扉の向こうで三人が鮮やかに、且つ強烈にモンスターを薙ぎ倒している姿が目に浮かぶ。昨日と違って俺や海男を守る必要がないなら、より自由に戦えている筈。そしてそれを証明するかのように、次々と消えていったモンスターの声が……遂に一声たりとも聞こえなくなる。

 更にその後聞こえた、ネプテューヌの「よーし、これで終了だね!」…という元気一杯の声。それが聞こえた瞬間、俺は嬉しくて、感謝の気持ちで一杯で、扉を勢い良く開けた。はぁ、結局また助けられちまったな。全く持って情けないこった。…けど、これも生き残ったから、助けられたから思える事なんだ。だったら自虐なんかよりもまず、俺は三人に伝えなくちゃいけない事がある。そうだ、俺は助けてくれた三人へ、感謝の思いを伝える言葉を──

 

「うずめ!ネプテューヌ!イリゼ!助かっ……」

『へっ……?』

「え"……?」

 

 その瞬間、俺は硬直した。扉の向こうにいた三人も、硬直していた。何故って?…それは、三人がバスタオルを身体に巻いていたから。バスタオル一枚の姿で、それもはだけかかったバスタオル姿で、俺の前に立っていたから。肩とか腋とか脚とか……とにかく色んな部分が、俺の目に飛び込んできたから。

 

「あっ…ぇっ、ぁ……」

 

 全員が硬直し、空気すらも凍り付く状況。そして、混乱する頭で俺が何かを…自分でもよく分からないが、とにかく何かを言おうとした時、はらりとうずめのバスタオルが落ち……

 

「…ぁ、うぁ……うぁあぁぁぁぁああああああっっ!!?」

「ぐふぅううううううぅッ!!」

 

──一瞬で顔が真っ赤になったうずめの右ストレートが、俺の顔面にクリーンヒットをするのだった。…は、は……最後に良いもん、見せてもらった…ぜ……ガクッ。




今回のパロディ解説

・ど根性シャワー
ど根性小学生 ボン・ビー太の主人公、ボン・ビー太のど根性行為の一つの事。もし貯水槽の水が雨水の転用なら、ほんとにど根性シャワーに近いですね。

・「〜〜王冠とかナイトとか〜〜」
ドラクエシリーズに登場するモンスターの一つ、キングスライムやナイトスライムの事。正確にはそれ系のモンスターですね。後は、スラもりパロとも言えるかもです。

・後味が悪い
<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム-の主人公、レイ・スターリング(椋鳥玲二)の代名詞的な台詞のパロディ。…エンブリオの覚醒はありませんよ?
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