超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
空より飛来した黒い巨人、ダークメガミを前にうずめ達が舞い上がる。ネプテューヌは濃い紫の髪をした、一目で凛々しさが伝わってくる女神となって、イリゼは真っ白の髪をした、慈愛を感じさせる女神となって…そしてうずめは、鮮やかな橙の髪をした、大輪の花のような雰囲気の女神となって、ダークメガミを迎え撃つ。
「まずは奴をここから引き離すよッ!」
「えぇッ!」
「りょーかーいっ!」
多分普通の人間な俺には、目で追う事も容易じゃない速度で三人はダークメガミへと突進していく。対するダークメガミは全身(…機体各部?…ロボットなのかどうかは知らないが…)からエネルギーの刃の様なものを放ち迎撃するが、うずめ達はその全てを避けていく。
考えてみれば、三人が女神の姿で戦うのを見るのはこれが初めて。というか、うずめに関しては女神の姿を見る事自体が初。ネプテューヌとうずめの性格が激変している事も、イリゼの口調が威風堂々としたものに変わった事も驚いたが…やっぱり一番は、圧倒的なその動き。なんというかもう、次元が違うとしか言いようがない。
「うぃどっち、安全な場所…なんて、ないか…。…最低限、三人が流れ弾を気にしなくていい程度の距離までは離れておこう。三人には戦闘に集中してほしい」
「そ、そうだな…」
戦いに心を奪われていた俺の耳に届く、海男の声。流石は経験が違うと言うべきか、海男は俺達が今すべき事を冷静に判断していた。
その言葉に頷き、走り出そうとした俺。だがその瞬間……ふっ、と頭の中に何かが走る。
(……っ…なん、だ…?…俺はうずめを…知って、いる……?)
突然頭の中に浮かび上がるのは、女神化したうずめの姿。だが、女神化した時うずめは俺に背を向けていたし、交戦開始してからは遠いし速いしで全然顔が分からない。なのにぼんやりとだが、俺の頭の中では女神化したうずめの顔が浮かび上がっていた。
それだけじゃない。うずめだけじゃなく、幾つかの光景が、情景のようなものもまた、不意に俺の中で……
「……っ、ぅ…!」
「…うぃどっち?どうかしたのかい?」
「…い、や…何でも、ない……」
次の瞬間、浮かんだものについて考えようとした俺の頭に鈍痛が走る。…いや、鈍痛と言っていいのかは分からない。ただ、そんな感じの…これだ、と言えるような言葉が上手く出てこないような感覚が走り、反射的に頭を押さえる。
それを見て、海男が声をかけてくる。そりゃあそうだ。急にすぐ側にいた奴が頭を押さえたら、何かあったのかと誰だって思う。
何でもないなんて、勿論嘘だ。けどこれは俺自身もよく分かっていない事だし、何より今はゆっくり出来るような状況じゃない。だから気にはなるし思うところもあるが、一度俺は頭に浮かんだ事を保留し、今いる場所から離れていく。うずめ達の邪魔にならないように、うずめ達の勝利を願いながら。
*
巨人…ダークメガミを見るのはこれが三度目で、戦うのは二度目。けれど前回は殆ど精製した超巨大剣を振り回していただけだし、まともに戦うのは今回が初の事。
「うわわ…ッ!」
「ち……ッ!」
今は私達は電波塔からダークメガミを離すべく、三人分かれて飛んでいる。自分が戦うまでもないと思っているのか、それとも私達の実力を見極めようとしているのかは分からないけど、幸いマジェコンヌは静観しているだけで仕掛けてこない。
けれど、対マジェコンヌと違ってこっちは決して優勢じゃない。聞こえてくる声からして、ネプテューヌとうずめも状況としては恐らく同じ。
(こんな攻撃があったとは……ッ!)
攻撃をかけようとする私達へと襲ってくるのは、無数の刃。一つや二つじゃない、何十もの…もしかしたら百を超える数のエネルギー刃が、私達の接近を阻む。
初め私は、油断さえしなければ勝てると思っていた。ダークメガミは破壊力こそ凄まじいけど、その体躯故に打撃も斬撃も私達からすれば全てが大振りになるし、それは砲撃に関しても同じ。だからサイズや外観こそ違えど、対キラーマシンと同じ要領で戦えばいいんじゃないかと。
けれど違った。例えるならダークメガミは、キラーマシンじゃなくて戦闘艦。接近する者を拒む全方位への迎撃手段が、ダークメガミにはある。それに、こうしてまともに戦う事で分かったけど……速度も、無視出来ない…ッ!
「くっ……なら…ッ!」
接近をかけ、エネルギー刃の猛威で追い返され、けどすぐに仕掛けて…を何度か繰り返したところで、私は大型のブーメラン…それも鋭利な翼面を持つ物を精製。迎撃の回避が出来る距離と難しくなる距離の境目辺りを滑るように飛びながら、横回転して投げ放つ。
曲線を描きながら、ダークメガミへと向かっていくブーメラン。途中で一度エネルギー刃とぶつかるも、それを切り裂き目標へと肉薄。そしてブーメランはダークメガミの左上腕部分に当たり……弾かれた。
(…やっぱり、硬い…か……)
今の攻撃は、何も必殺の意思を込めた訳じゃない。勿論ダメージを与えられれば御の字とは思っていたけど、あくまで狙いは防御力と対応の確認。エネルギー刃との衝突で少なからず勢いが削がれてしまったから、当たった時点でどれだけの威力があったかは今の時点じゃ分からなくなってしまったけど…少なくともこれで、普通の斬撃や打撃で装甲らしき部位を貫くのは困難だって事は分かった。
で、もう一つの対応だけど…これは微妙なところ。奴はブーメランを気にも留めていなかったけれど、まだこの一発じゃブーメランを脅威とも思わなかったのか、それとも私達の対応で手一杯だったのかは分からない。
「ねぷっち、いりっち、だいじょーぶ!?」
「当然よ!この程度でやられるわたしじゃないわ!」
「私もだよ!それにある程度は引き離せ……」
『(イリゼ・いりっち)ッ!?』
「……大振りでも、面制圧と組み合わせられると厳しいね…ッ!」
うずめの声に答えようとした瞬間、私へ向けて振り下ろされた薙刀。踏み込んでいた私の周囲にはエネルギー刃も飛んでいて、二つの斬撃に挟まれた私。薙刀は勿論の事、エネルギー刃もまともに当たるのは不味い威力(だから迎撃武装の機銃一門一門がMGの機関砲並みの火力を持つ、戦闘艦に例えた訳で)だから、薙刀は絶対避けなきゃいけないし、エネルギー刃も回避か防御をせざるを得ない。
だから私は両方回避。身体を逸らし、薙刀の風に煽られながらエネルギー刃を紙一重で避ける。そうして回避後、上昇する二人を追って私も上空へ。
「…思った以上に強いわね、あのダークメガミって奴…。…MAやクォーター級を相手にしてる気分だわ…」
「でしょー?…まさか、オバさんが呼び出せるなんて……」
「…取り敢えず、分かった事の共有をしておこうか。皆も色々試してたんでしょ?」
二人が合流場所に上空を選んだのは、電波塔を視界から外しつつ、仮に電波塔へ向かおうとしてもすぐに間へ滑り込める位置だから。それに私と同じように、二人も動きや攻撃でダークメガミの能力や反応を図っていた。…当然だよね。ごり押しで、こっちの能力の押し付けだけで勝てるような相手じゃないんだから。
圧倒的な威力を持つ近接攻撃と砲撃。巨体故に小回りは利かずとも、それなり以上を誇る速度。猛攻の合間を縫って…という程度じゃとても攻撃を通せないであろう防御力と、攻防一体で無視の出来ない全方位攻撃。…さて、こう表現すると隙がないようにも思えるけど…どこから、どう崩したものか……。
「…っと、そうだうずめ。貴女、女神化はどれ位持ちそう?」
「ふふーん、それなら心配ないよー!今日持ってきた中で一番おっきなのを使ったし、まだまだよゆー!」
「なら、ある程度は時間をかけられる訳ね…普段の力が出せれば、一撃離脱の繰り返しで何とか削り切れそうな気もするけど……」
翼を広げ、こちらへ向かってくるダークメガミを見て呟くネプテューヌ。それは私も思っていた事で、ダークメガミの迎撃は全身にその発射部位があるけれど、何も身体の全てから放てる訳じゃないみたいだし…感覚的には、肉薄と離脱を何度も出来そうな気がしている。
だけどそれは、普段ならの話。今の私達は本領発揮が出来ない状態だから、全力基準で作戦を立てる訳にはいかない。
(ともかくまずは、もう少し見極めないと…ッ!)
下方から放たれた光芒を散開して避けた私達は、アイコンタクトでタイミングを合わせて同時に突撃。鋭い機動とスピンを組み合わせる事でエネルギー刃の迎撃を掻い潜り、上昇してくるダークメガミとの距離を一気に詰めていく。
そうして後一歩の距離にまで近付いたところで、ダークメガミは私達との激突を避けるように左へ逸れた。…と思いきや、その速度そのままに上昇を続ける事で私達の上を取り、下へとエネルギー刃での攻撃を集中しつつ再び光芒を撃ち込んできた。
「わ、わ…ッ!?こんなに高く飛べたの!?」
「毎回空高くから来てるんだから、あり得ない事ではないけど……」
「高高度にも対応してくるとなると一層厄介ね…ッ!」
降り注ぐ攻撃に対し、私とネプテューヌは即座にシールドを展開したうずめの下へと滑り込み、続けて再散開で光芒も回避。さっきと同じようにもう一度ダークメガミへ攻め込んで行くと、今度は私達三人を纏めて打ち払うべく手にした薙刀で薙ぎ払ってくる。
でもその攻撃は好都合。三人を線の攻撃で叩き落とそうとするなら、当然三人目への到達はかなり遅くなるんだから。それを見切った私とネプテューヌはギリギリまで引き付けた上で間合いから離脱し、三人目だったうずめはその間にフルスピードでダークメガミの懐へと飛び込む。
「ほにゃーっ!」
肉薄をかけたうずめは、腹部に向けて手の甲を下にした打撃を一発。続けて迫るダークメガミの左手を、指の間を通る事で回避しつつ音波攻撃でもう一発。音波攻撃は前腕にあったエネルギー刃の発射部位を強かに捉え、破壊する。
「まずひとーつ!でもやっぱり、他の所は硬いよ二人共ーっ!」
「ダークメガミの方も動きに変化はないし、ほんとに普通の攻撃はやっても殆ど意味がなさそうね…!」
ダメージは与えられずとも、衝撃で一瞬でも動きが鈍るのなら、攻撃を当てる意味はある。けどそれすらないなら、無駄どころか自分を危険に晒すだけ。
更に言えば、私達とダークメガミには何十倍ものサイズ差がある。だから仮に攻撃を通せたとしても、長剣が深々と刺さるレベルじゃなきゃダークメガミにとってはダメージにならない。…ほんとに、分析すればする程戦闘艦を相手にしてる気分になるね…。
(…でも、攻撃力に関してはどうとでもなる。相手の強みも大方は分かった。だったら……)
急旋回をかけた私は、一直線にダークメガミへ突進。右手の長剣と精製した左手の短剣でエネルギー刃を斬り払い、出来る限り回避はせずに突き進む。
私が強行突破しようとしているのを認識したダークメガミは、下段から薙刀を振り上げてくる。けれどその腕に横槍を入れたのは、注意が私一人に向いていた事で余裕の出来たネプテューヌのエクスブレイドとうずめの音波。二人の攻撃で薙刀の軌道は僅かに逸れ、そのまま真っ直ぐ私は肉薄。すれ違いざまに短剣を脇腹に突き立て、シェアエナジーの爆発で強引に突き刺す。
「やっぱり、それが一番無難よね…ッ!」
即座に離脱していく私と入れ違うように、今度はネプテューヌが接近開始。ある程度近付いたところで私は突撃槍を精製し、シェアエナジー爆発も乗せて思い切りダークメガミの顔へと投げ放つ。
これが、私達の選んだ戦い方。本領発揮出来ない状態で一人での一撃離脱をする事に不安があるなら、三人で目まぐるしく役割を変えながら一撃離脱とその援護をすれば良いだけの事。読みや連携のタイミングを一度でも間違えれば致命傷に繋がる可能性も低くないけど…そんな危険は、もう何度だって経験してきた。
「いりっちッ!」
「うんッ!ネプテューヌ、上ッ!」
「分かってるわッ!」
功を焦らず、けれどチャンスは全て見逃さず、一撃離脱で一発一発与えていく。時には陽動だけで攻撃まではせず次の動きに移ったり、パターンを崩すように攻撃役と援護役の人数を変えてみたりと、こちらの動きは読ませないようにしながら攻め続ける。
向こうの攻撃は一発でも当たったら危険だけど、集中力を切らさない限りは避けられる。こっちの攻撃は積み重ねる必要があるけど、着実に当てられている。ダークメガミがどれだけの知性を持っているのかは知らないけど……もしそれなり以上の知性があるならむしろ都合が良い。だってこの状況、ダークメガミにとっては相当なストレスになる筈だから。
「■ッ……■■■■ーーッ!!」
そして予想通り、何度も一撃離脱を行う中で次第にダークメガミは苛ついた様な声を上げ始め、攻撃がより苛烈になっていく。そうしてその分、思考が攻撃へと、視野が攻撃ばかりへと向かっていく。
こうなれば、もっと大きなチャンスが転がり込んでくる可能性も出てくるし、自分達で作り出す事も出来る。焦りは禁物だけど…うずめの時間制限と、静観しているマジェコンヌの事を考えれば、ここで動くだけの意味はある…ッ!
「二人共ッ!ここは……」
「一気に、だねっ!」
こういう時、本当に女神の感覚はありがたいというかとにかく優秀で、私と同じ事をネプテューヌもうずめも考えていた。だからこんな身近なやり取りで私達は意思疎通を完了させ、注意を引くようある程度の間合いに踏み込みながら集結する。
狙うのは、三人同時攻撃。集まってからの攻撃はリスクもあるけど、向こうも一網打尽にしようと重い攻撃を放ってくれる可能性が上がるし、そうしてくれれば重い一撃故の隙を突ける。避けられるかどうかなんて…心配するまでもない。
((来た……ッ!))
集合し、揃ってダークメガミを見やった瞬間、薙刀を手放したダークメガミは両の掌から同時に光芒を放ってきた。
大出力で、大口径の、長距離砲撃。だけどそれを避け切るだけの…それも最小限の軌道で避けるだけの自信が私達にはある。だから私達は策の成功に口角を上げ、回避の軌道を思い浮かべ……そこで漸く、気が付いた。私達が……電波塔を背にしてしまっている事に。
『……──ッッ!?』
唖然とした。愕然とした。そして……一瞬で極限まで私達は焦る。
それは、サイズ差による感覚の麻痺。あまりにも相手とのスケールが違うせいで、私達は自分達がどこにいて、自分から見てどの方角の、どの距離に何があるか…という、普段なら意識せずとも正確に認識出来ている事柄を、無意識故に麻痺させたまま戦ってしまっていた。
電波塔までは、結構な距離がある。でもこの砲撃は、間違いなく電波塔にまで届く。即ち、私達に……回避するという、選択肢はない。
『……っ…こッ、のぉおおおおぉぉぉぉッ!!』
咄嗟に、というか反射的に、私とネプテューヌはそれぞれ光芒に刃を叩き付ける。真正面から長剣と大太刀の刃を打ち付け、力の限りでぶつかり合う。
轟音と閃光で聴覚も視覚も殆ど効かなくなる中、私達は踏ん張って二条の光芒を斬り裂き破る。激突し、裂かれて減衰した光の束は、うずめが広範囲展開したシェアエナジーのシールドで受け止めていく。
「もう、少…しぃぃ……ッ!」
僅かに聞こえるうずめの声。その声に応じるように私も翼に力を込め、ブレそうになる刃を立て、襲い掛かる光を見据えて……何とか防ぎ切った私達。でも……防ぎ切ったと思った次の瞬間には、ダークメガミが眼前にまで迫っていた。
「ぐぅ……ッ!」
「きゃ……ッ!」
「わぷ……ッ!」
エネルギーの集中砲火を辛うじて避けたと思った先に待つ、拾い上げられたダークメガミの薙刀。もう殆ど本能的な判断で下がろうとする身体を押し留めた結果、頭から刃で斬り潰される(大きさが違い過ぎてもう斬撃も打撃も変わらない)事は回避出来たけど、私もネプテューヌも防御諸共薙刀の柄で吹き飛ばされ、うずめも巻き込んで地上へと墜落。前に戦った時も同じような事に……と一瞬思い出したものの、そんな事を考えていられるような余裕はない。
「げほっ、げほっ…うずめ、無事……?」
「だ、だいじょーぶ…うぅ、でもちょっとくらくらする……」
「…状況としては…ちょっと、不味いね……」
痺れるような痛みが走った後、私達は跳ね起きようとして…ストップ。墜落の影響で舞い上がった砂煙が煙幕となってくれていたから、心を落ち着かせつつ立ち上がる。
防御自体は間に合ったし、受け身も取れたから、身体へのダメージは軽傷で済んだ。けれど普段よりシェアエナジーの配給が減っているプロセッサはもうかなりの部位が欠損していて、浮遊ユニットもほぼ全損。翼も発生器となるユニットに損傷があるから……戦闘継続は出来ても、もう今までと同じ動きは難しい。
さっき私は、強いけど中々当たらないダークメガミと、何度も当てる必要があるけど当てられる私達…と表現した。その時は、その点における私達の有利を語ったけど…逆に言えばこれは、たった一発で形勢逆転もあり得るって事。…正に、今この瞬間のように。
「…どう、する……?」
少しずつ砂煙が晴れ始める中、ぽつりと呟くように言ううずめ。それが私達に向けて発された言葉だった事は分かってるけど…一瞬私もネプテューヌも、言葉が出なかった。
怖気付いたとか、絶望したとかじゃない。この程度、まだまだ諦めるような状況じゃない。でも、電波塔を背にしてしまったと気付いたあの瞬間から、私達の中にあった『流れ』が切れてしまった。ここまでは余力があったからこそ、積み重ねるって選択肢も取れたけれど…今から、プロセッサに損害のある状態からもう一度同じ流れを作る事は……多分出来ない。…そんな判断を、頭の中ではしっかりと出来ていたからこそ…一度言葉に、詰まってしまった。
「…出来れば、プロセッサの修復にシェアエナジーを回したいところだけど…そんな時間も、余裕もないわね……」
「…うずめ、後どれ位戦える?」
「まだいけるよー。…でも、もうあんまり長い時間は無理かも……」
「…となると、もう時間をかけて戦う事は出来ないわね…せめて、シェアエナジーを確保出来れば強引にでも速度を出せるのに……」
まだ戦う事は出来る。時間をかけられるなら勝機もある。でも私達は全員シェアエナジー量に問題を抱えているから、時間はかけられない。
最終的な勝ちの為に、戦術的撤退をする…って選択も出来る。だけどそれをした場合、私達は持ってきた機材諸共電波塔を失う事になる。
それが、今の状況。手詰まりじゃないけど、これがあれば勝てるってものも見えてはいるけど、実現には一歩届かないか被害も大きくなってしまうという歯痒さ。…でも、どんな選択肢にするにしろ…もう考えていられる時間は、あまりない。
「…ごめんね、二人共……」
「へ…?…ごめんね、って……?」
「だって…うずめがシェアリングサークルをちゃんと使えてたら、ここからでも勝てるかもしれないんだもん…でも、うずめは……」
「そんな…こうなったのは私達全員のミスだし、うずめが気にする事じゃないよ!それにシェアリングサークルは……」
責任を感じてしゅんとするうずめにネプテューヌも私もまず驚いて、それからそんな事はないと否定する。本当に、こうなってしまったのは私達の不注意で、シェアリングサークルに関して言うならそもそも私とネプテューヌは使う事すら出来やしない。それに前にも言った通り、今のままでもシェアリングサークルには使いようが……使いよう、が…?
(……う、ん…?…シェアリングサークルって、問題は効果範囲の狭さと、うずめ自身は動けなくなるって事の二点だよね…?発生させられるシェアエナジー量は、今のままでも十分にあった筈だよね……?)
その瞬間、不意に私の思考が待ったをかける。頭の中ではっきりとしない『何か』が生まれて、思考がそれを凄まじい勢いではっきりとした形へと変えていく。
シェアリングサークルの欠点は二つ。でもこれを逆に言うと、うずめの近くで、私とネプテューヌだけで戦うのなら、それを実現出来るなら、二つの欠点は無視出来る。そんなの、普通に考えたら現実的じゃないし、そんな事をするならサークルを使わず三人で戦った方が普通は強いけど……私達は普通なんていう範疇に収まる存在じゃないし、この戦闘も普通からはかけ離れている。だから、だからこそ…シェアエナジーを必要とする状況で、相手は小回りの効かないダークメガミで、本領発揮出来れば一人での一撃離脱も不可能じゃないって感覚を信じるのなら……
『……あ』
「へ?」
「…あった…あったよネプテューヌ…!」
「えぇ、この勝負…シェアリングサークルが、決め手になるわ…!」
「え、え?…どういう、事…?」
頭の中で『何か』が明確な『答え』に変わった瞬間、私とネプテューヌは目を合わせる。それから、目を瞬かせているうずめへと手早く説明し……私達は、見えた勝ち筋を実現させる為の体勢を取る。そうして消えかけていた砂煙が完全に晴れ、互いの姿が露わになった。
「…ほぅ?やけに長い間伸びているかと思えば、そんな事をしていたのか。随分と余裕があるじゃないか」
「あら、これでもわたし達は大真面目よ?」
「それでか?はっ、どうやら先の墜落で貴様等は頭を強く打ったようだなぁ」
私達が砂煙の中にいる間に、ダークメガミの近くへと来ていたマジェコンヌ。マジェコンヌは私達の姿を見ると…呆れたように嘲笑う。
けどこれに関しては、そう思われてもおかしくはない。だって、私の前に立って大太刀を構えているネプテューヌはともかく……私はうずめをお姫様抱っこしてるんだから。
「…ふん、まあいい。やれ、ダークメガミ」
鼻で笑ったマジェコンヌは、目線と声でダークメガミに指示。それを受けたダークメガミは掌をこちらに向け、砲撃でトドメを刺そうとしてくる。だから、私達も小さく息を吐き……行動を、開始する。
『頼んだ(わ)よ、うずめッ!』
「うんっ!シェアリングサークル、てんかーいっ!」
上空を見据えながら言い放った私達の声に応え、うずめがシェアリングサークルを…シェアエナジーの溢れる空間を展開。それを肌で感じた私達は…二人同時に、地面を蹴る。
その瞬間、ダークメガミもビームを発射。飛び上がった私達へと、濃密な光の柱が迫り…されど私は素早く、且つ滑らかにそれを避けた。
「な……ッ!?」
爆発的な加速を見せる私達に、マジェコンヌは絶句。その表情は言っている。まさか、この状態からそんな速度を出せたのか、と。
「ネプテューヌ!私の事は気にせず、思いっ切り飛んでくれていいからねッ!」
「勿論よ!貴女ならそれでも、着いてきてくれるでしょ?」
「ふふっ…当然だッ!」
光芒の縁を沿うように避けた私達は、速度を落とさずダークメガミへ猛進。ダークメガミは即座にエネルギー刃での迎撃を開始するけど、エネルギー刃は撃ち落とすどころか接近を阻む事すら叶わない。
ネプテューヌは突き進む。その背後を、うずめを抱えた私が追い掛ける。…これが、私達の思い付いた作戦。効果範囲が狭いなら、うずめが動かないなら…誰かがうずめを抱えて、攻撃役の側を飛び続ければ良いだけの事。
「はぁぁぁぁッ!」
一気に至近距離まで接近した後、ネプテューヌが腰椎部に向けて一撃。膨大なシェアエナジーを武器にフルスピードを乗せた一太刀は、防御力なんてないかの如く腰を斬り裂く。勿論、ダークメガミからすればそれは重傷ではないけれど……ここまでの攻撃の中じゃ、最も深い。
「続けていくわよッ!」
「うんッ!」
腰椎部を斬り裂き背後を取ったネプテューヌは、そこから上昇をかけて背にも一撃。振り抜くと同時にネプテューヌは離脱をかけ、私はその傷口に踵落としをぶつける事で更にダメージを与えつつ、蹴りによる加速でネプテューヌを追う。
「■■■■■■ーッ!!」
『遅いッ!』
離れる私達へ、ダークメガミは薙刀を振るってくる。二度目を受ければ本当に不味い、けれどもう…恐らくは、私達の誰も捉える事が出来ない大振りの一撃を。
背後に迫る巨大な刃を、私達はインメルマンターンで回避と同時に再接近。一手でも、一瞬でも私がネプテューヌの動きを読み違えたら、その瞬間にネプテューヌはサークルの範囲外から出てしまうけど、それに対する不安は欠片もない。私には女神の直感があるし、見切るだけの目もあるし……何より、こういう状況で、相手が心から信頼する相手なら、考えなくたって次の動きは分かるから。
「…いりっち、調子はどう…?」
「絶好調だよ、シェアリングサークルのおかげでねッ!」
「ふふっ、それなら…最後まで、やっちゃえー…!」
うずめからの「やっちゃえ」も受けて、更に私達は加速し連撃。光芒を避け、エネルギー刃を捌き、薙刀を凌いで何度も攻撃を叩き込む。巨体であるダークメガミからすれば、私達は小鳥が纏わり付いてつついているようなものだろうけど…私達の刃は、巨獣の牙すら凌駕する。そしてそれを証明するように……ネプテューヌが裏から膝を斬り裂いた瞬間、ダークメガミはぐらついた。
「……っ…調子に乗るなよ、小娘風情がぁッ!」
遂に焦りが「負ける訳がない」という自信を凌駕したのか、怒号と共に電撃を放ってきたマジェコンヌ。けれどもう遅い。数手前ならまだしも、ダークメガミの動きが鈍り、エネルギー刃の発射部位を幾つも潰された後になってからじゃ、同時攻撃だったとしても私達を止められない。
電撃をバレルロールで、エネルギー刃を身体を逸らすという限りなく最小限の動きで避け切った私達は、ダークメガミの右肩へと肉薄。その寸前に、私は前作った程じゃない…でも普通の人間にはとても振れないようなサイズの巨大剣を作り出し、ネプテューヌの脇へと射出する。
「ネプテューヌッ!これでッ!」
「えぇッ!」
巨大剣が届く直前、ネプテューヌは左手で巨大剣の柄を掴み、射出の力と合わせてダークメガミの肩口へ突き立てる。更に私は柄の尻を蹴り付け、ネプテューヌは大太刀を離して右手でも掴み…全力を込めて、突き刺した。
「これで、終わりよッ!」
がくん、と持ち上がりかけていた右腕が下がっていく中、反転しつつネプテューヌは両手を掲げる。その両手の先にはエクスブレイドが顕現し、身体を捻りながら首と肩の間へ振るう。
刃が触れ、激しい光の拡散を見せながらぶつかるシェアエナジーの刃。一度は止まるも、ネプテューヌは声を上げ、全力を込めて、ダークメガミの身体に喰い込んでいく。肩から少しずつ、少しずつ胸元へ、その下へ。そして……
『いけぇぇぇぇええええええッ!!』
振り抜くネプテューヌと、その背を信じる私達の声が響いた瞬間──青く輝く光の剣は、首元から胸までを完全に斬り裂いた。
今回のパロディ解説
・MA
ガンダムシリーズに登場する兵器の一つ。一部例外もありますが、基本的には超大型兵器ですね。倒し方も割とガンダムシリーズっぽいかなぁとは思います。
・クォーター級
マクロスシリーズに登場する艦船の一つ。イリゼは戦闘艦に例えてましたが、ネプテューヌも同じように感じてた訳です。バトル級ではなくクォーター級なのがミソですよ。