超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第三十一話 俺が守りたいのは

 紫ババァ……マジェコンヌが変身したのは、一目でおぞましいと思わせる化け物。動物は勿論の事、変なところが多くても一応『生物』らしさはあるモンスターともかけ離れた、異形としか言いようのない存在。

 人もモンスターも、見た目で判断なんざ出来ねぇ。ぱっと見強そうな割に打たれ弱いモンスターはよく…って程じゃないがいるし、逆のパターンだってある。だが……

 

「…おいおいおい…マジかよ……」

 

 闇色の光の中から出てきたババァは、見た目通りの強さだと、見た瞬間に俺の全神経が感じ取った。…奴は、間違いなく強い、と。

 

「…ふん、やはりこの姿になるのは気分が悪い……」

 

 ぎょろり、と本来なら胸部に当たりそうな部位にある巨大な一つ目で俺達を見やったババァは、響きのある声でそう呟く。気分が悪いのはそんな姿見せられたこっちの方だ、とでも言ってやりたいが…それよりもまず、やる事がある。

 

「…ねぷっち、ぎあっち。二人の知ってる方も、あの姿になった事はあるのか?」

『…………』

「…ねぷっち?ぎあっち?」

 

 奴が強い事は恐らく間違いない。だが、どんな能力を持っているかまでは分からない。

 けど、ねぷっち達なら知っているかもしれない。そう思ったババァから目を離さずに訊いた俺だが…二人からの返答がない。

 まさか、聞こえていなかったのか?…なんて思ってもう一度呼んでみるが、やっぱり反応がない。だから、ちらりと振り向くと……二人は目を見開き、愕然としていた。

 

「…嘘、でしょ……?」

「そんな…どうして……」

 

 控えめで機械絡みじゃなきゃ落ち着いているぎあっちも、俺以上に元気なねぷっちも、ババァの姿を見て固まっている。…恐怖している?怖気付いている?……いいや、違う。これは…あり得ないものを見た時の反応だ。

 

(…けど、それは何に対してだ?二人の知ってるババァは、こんな能力を持ってなかったって事か?…いや、だとしてもここまでは……)

 

 尋常じゃない二人の反応に、思わず考え込もうとしてしまった俺。だが次の瞬間奴の目からレーザーの様な攻撃が放たれ、俺達は即座に跳躍。俺は女神化しつつウィードを抱えて後退し……ねぷっちとぎあっちは、うずめの前に立ってくれる。

 

「……っ…敵を前に、呆然としてしまうなんて…」

「すみません、うずめさん…」

「う、ううんだいじょーぶ。ウィードもへーき?」

「お、おう。…あれが当たってたら、は考えたくないな……」

 

 うずめ達がさっきまでいた場所は、薙ぎ払われて地面が深々と抉られている。…ウィードの言う通り、あれが当たったらは考えたくないかも……。

 

「…二人共、戦える?そんなにびっくりする相手だったの…?」

「…えぇ。わたしの知ってるマジェコンヌがこの姿になる事はなかったけど…わたしはこれまでに、奴と酷似した存在と、その存在を真似して作られた存在の二体と戦った事があるわ」

「って事は…二回も勝ってるって事だよね?なら……」

「そうよ、二回とも勝ったわ。…真似した存在の方はわたし含めた女神四人がかりで何とかってレベルで、酷似した方は女神九人で相手取ってもかなり厄介だったって位の相手だったけどね…」

「……!?…そうなの…?」

 

 強い、っていうのは分かってた。でも、ねぷっちの言う通りだったら…今のオバさんは、ダークメガミよりも強いって事。しかもきっと、前にねぷっち達が倒した時はもっとシェアエナジーに余裕があった筈。…って、事は……

 

「…同じ強さとは限らないわ。実際その二体は全く同じ強さだったって訳じゃないもの。でも、仮に同じ位の強さだとしたら……」

 

 最後までの部分を、ねぷっちは言わなかった。でも、言わなくったって分かる。何を言おうとしたのかも、どうして言わなかったのかも。

 

「…うずめさん、ここは飛び越えるか横をすり抜けるかして、戦いを避けるのも手だと思います。倒す事を考えるなら、もっと飛び回れる開けた場所で……」

「……それは駄目だよ、ぎあっち。ここで逃げたら、海男達の方に行っちゃうかもしれないもん」

「…ここでやられたら、それこそ海男達を守る術はなくなるわよ?…それでも尚、今ここで戦う?」

 

 二人共真剣な顔で、うずめに言う。ここでこのまま戦うのは、危な過ぎるって。

 それはねぷっち達が、実際に戦って、その強さを身体で感じたから言う言葉。…だけどうずめは、二人の顔を見て頷く。だって、うずめは……女神は、守る為に戦うのが役目だもん。

 

「…うずめは戦う、戦うよ。だけど二人の言う事も分かるから、二人はウィードを連れて……」

「こーら、また悪い癖出てるわようずめ。…わたし達が、うずめを残して逃げる訳ないでしょ?」

「そうです、うずめさん。それに…あれはきっと、全員で全力を尽くさなきゃ勝てません。誰か一人が無理してなんて…絶対に、駄目です」

「…ねぷっち、ぎあっち……」

 

 前に出ようとしたうずめを止めて、二人は言う。ねぷっちは優しい顔で、ぎあっちは信念を感じさせる顔で。それから後ろを見てみれば、ウィードは何も言わずに、でもうずめの方を見てこくんと頷いてくれる。…そっか、皆…そうだよね…。……ならっ!

 

「ぜんげんてっかーい!皆、お願い!うずめは絶対退けないの!だから…手を貸してっ!」

「えぇッ!」

「はいッ!」

「勿論だ!…って言っても、俺は多分応援しか出来ないけどな…」

「あはは、だいじょーぶ!応援も力になるからねっ!」

 

 情けなさそうに苦笑いするウィードにぶいっとピースを見せて、うずめはオバさんに向き直る。今のオバさんはすっごく強いのかもしれないけど…うずめ達は、負けないよ!

 

「…さて、と。何もせずわたし達のやり取りを眺めてたみたいだけど、一体どういう風の吹き回しかしら?正対していても話の邪魔はしないっていう、物語のお約束でも意識してくれたの?」

「知るかそんなもの。…この姿まで晒したのだ、後から一切の言い訳が出来ない程、真正面から完膚無きまでに叩き潰さねば気が済まん」

「…好きじゃないんですね、その姿が」

「当然だ、誰かこんな醜い姿を好きになるか。…だがその点に関してだけは、貴様等が羨ましいものだ。真なる姿を表しても尚、醜く変貌する事なく……そして、そのまま散る事が出来るのだからなぁッ!」

 

 がばり、と腰の辺りにあるおっきな口を開いてそこからビームを放ってくるオバさん。ねぷっちぎあっちは左右に避けて、うずめはぐるぐるシールドで正面から防御。ウィードには下がるように言って、うずめもオバさんに突撃する。

 

「本気を出すにはそんな姿にならなくちゃいけないなら、ちょっとかわいそーだけど…だからってよーしゃはしないよーっ!覚悟ー!」

 

 

 

 

 化け物の様な…というか、化け物そのものの姿に変わったマジェコンヌと、うずめ達が戦う。武器を踊らせ、洞窟内を駆け、激しい音を立てて激突しながら。

 

(…すっ、げぇ……)

 

 考えてみれば、女神化したうずめ達の戦いを間近で、しっかりと見るのはこれが初めて。そして、うずめ達の…女神の戦いを目にした俺は、言葉を失っていた。

 あの時も、戦う姿を初めて見た時も俺は驚いたし、今の感覚はその時と似ている。…けど、今はあの時以上だ。翼をはためかせるうずめ達の、その戦う姿を俺は……綺麗だとすら感じていた。

 

「そらそらぁッ!避けるだけか女神共ッ!」

「そっちこそ、闇雲に攻撃するだけじゃわたし達は落とせないわよッ!」

 

 一本一本が木の幹の様に巨大な四本の腕を広げて、マジェコンヌは光弾を乱射。うずめ達は縦横無尽に飛び回る事でそれを避けて、或いは弾いて……多分、反撃のチャンスを伺っている。俺からすればレベルが違い過ぎて、何を狙っているのか、それとも防戦一方なのかすら分からないが…。

 

「……っ…そ、そうだ…もう少し、安全な場所に…」

 

 気付けば戦いに見惚れていた俺は、はっとして今隠れていた岩の陰から動き出す。

 何の役にも立てないだろう俺だからこそ、せめて邪魔にはならないようにしたい。そう思って一番頑丈そうな岩を探して、その後ろまで全力で走る。

 

(はは…情けないな、ほんと……)

 

 この戦いに割って入れるだけの力がないんだから仕方ない。多くの戦いを経験してきた三人と同じラインに、素人の俺が立てたらそっちの方がずっとおかしい。…そう頭では分かってるが…やっぱり、三人が懸命に戦ってる中一人隠れようとしているのは…情けない。特に今は海男もいないし、その海男も皆を連れて自分の役目を全うしてると考えると……

 

「…っていやいや、暗くなってどうする俺。戦えないなら戦えないなりに、やれる事があるだろ……!」

 

 岩陰まで走り切った俺はぶんぶんと頭を振り、洞窟の中をぐるりと見回す。

 戦えない俺がやれる事は何か。応援…は、悪い形で皆の注意を引いてしまうかもしれないから、心の中でするとして……真面目な話、俺にも周りの警戒は出来る。何も起きなきゃ無駄になるけど、それでも万が一の時、ほんの少しでも危機の察知に役立てるのなら…この行為は、無意味じゃない。

 

「…それ、と……」

 

 壁面、天井、地面と順に見回した後、俺は視線をマジェコンヌに向ける。当然うずめ達だって、マジェコンヌの事は見ているが…より落ち着いて見られるのは間違いなく俺。だったら、何かに気付けるかもしれない。隠し球の予兆だとか、弱点だとかに。

 

「…………」

 

 先を読んで撃ち込まれたビームを背面跳びのようにして避けたネプテューヌが、そこから殆ど直角に曲がってマジェコンヌへ肉薄。普通なら身体がへし折れてしまいそうな機動にマジェコンヌは驚いたのか、反応が一瞬遅れ……すれ違いざまに、大太刀が胴体を斬り付ける。

 

「くッ……浅い…ッ!」

 

 確かに一撃与えたネプテューヌ。だが浮かんでいるのは苦渋の表情で、斬られたマジェコンヌはすぐに振り返って腕をネプテューヌへ振り下ろしてくる。…今の、掠ったなんて程度じゃないように見えたが…あれでも動きは変わらないのかよ……。

 

「はッ!温い、温いわ女神ぃッ!」

「……っ…!やっぱり、正面からのパワー勝負はキツい…!」

「ネプギア、大丈夫!?」

「大丈夫!確かに厳しいけど、あの時の最後の攻撃程じゃないもん…ッ!」

 

 追おうとするマジェコンヌの側面からネプギアが射撃をかけ、双方の光弾が空中を飛び交う。マジェコンヌからの攻撃には光芒も混ざり、それをネプギアは軽やかに、けれど巧みに回避しながら射撃を続け、マジェコンヌの注意を自分に引き付ける。

 そう。ネプギアの今の目的はダメージを与える事じゃない。それは俺にもはっきりと分かる。何故なら……そのマジェコンヌの背後へ、うずめが回り込んでいるんだから。

 

「オバさん、貰ったーッ!」

「ちぃッ、奴は陽動だったのか…ッ!」

 

 背後を取ったうずめは、低空飛行から地面を蹴って更に加速。完全に死角から攻め込まれたマジェコンヌはさっき以上に反応が遅れ、今度こそ深い一撃が……入る、と思った。

 だが、マジェコンヌは素早く振り向く。動揺なんて、一切見せずに。

 

「…とでも言うと思ったか!バレバレだ小娘がッ!」

「え!?きゃあぁぁぁぁッ!」

「……ッ!うずめ…ッ!」

 

 嘲るような声と共に、突き出される右の腕。咄嗟にうずめはブレーキをかけるも、そのうずめを前にマジェコンヌは手を開き、その手でがっちりと摑みかかる。

 

「う、うぅ……なーんてねッ!ねぷっち!」

「ふっ、読みが甘いわよッ!」

「ほーぅ…それは本当かなッ!?」

「……ッ!?そんな…ッ!」

 

 そんな中、にやりとうずめが笑うと同時に天井すれすれからネプテューヌが飛来。そこで俺はネプギアだけじゃなくうずめも陽動だったんだと気付き、二段構えの策に思わずちょっと興奮を覚える。

……けれど…それすらも、マジェコンヌは予測していた。完全に振り返ったマジェコンヌは別の腕二本を左右から振るい、二つの掌でネプテューヌを潰しにかかる。それをネプテューヌは両腕を広げて押さえるも、防いだ時点でネプテューヌからの攻撃も停止。そして…マジェコンヌには、まだ腕が一本残っている。

 

「ぐッ、ぅ……!」

「どうだ小娘ッ!どうだ女神ッ!これが私の、貴様等を超える存在の力だッ!ハーッハッハッハ!」

(うずめ……ッ!くそッ…けど、俺は…俺には……ッ!)

 

 高笑いを上げながら、マジェコンヌは最後の腕を振り被る。うずめは逃れようと抵抗しているが、マジェコンヌの巨腕はそれを許さない。

 ぞっとする。恐ろしくなる。このままうずめがやられたらと思うと…全身が震えて止まらない。…けど、俺に何が出来る?モンスターですら一撃与えるのが精一杯な俺に、三人の策すら打ち砕くマジェコンヌから、どうやってうずめを助けるって言うんだ。……そんなの…無理に、決まってるじゃないか…。俺がもっと強ければ、もっと戦えれば、何とかなったのかもしれない。だけど、だけど今の俺じゃ…何も、出来る事なんて……

 

「──いいえ、超えるのは……わたし達の方ですッ!」

「なッ……ぐぁああぁぁぁぁぁぁッ!!?」

 

 その時、煌めいた紫の刃。強い意思の籠った声と共に、振り抜かれる女神の銃剣。そしてうずめに打ち込まれる筈だった腕は宙を舞い……落ちる。

 

「きッ、貴様…いつの間に……ッ!?」

「貴女が、わたしとはまだ距離があると油断していた間ですッ!」

「……ッ!?まさか、真の本命は……」

『隙有りッ!』

 

 下から上へと強かに、歪みのない半円を描くように振り抜かれたネプギアの一撃によって、マジェコンヌの腕の一つが斬り落とされた。更に唖然としたマジェコンヌが振り向こうとした瞬間、うずめとネプテューヌもマジェコンヌの拘束を振り解き、飛び蹴りと斬撃で素早く追撃。

 そこまできて、遂に俺も気付く。これは二段構えじゃなくて、三段構えの陽動だったんだと。一番分かり易い陽動をしていたネプギアこそが本命で、二人は油断させる為にわざとマジェコンヌに捕まったんだと。

 

(凄ぇ…やっぱり凄ぇ、凄ぇ…ッ!)

 

 読み合いの勝利が起点となって、そこからうずめ達による怒涛の連撃が始まる。これまでは攻め切れないうずめ達と、捉え切れないマジェコンヌという構図だったものが、大きくうずめ達の方へと傾く。

 多分それは、精神的なものもあると思う。けど一番はやっぱり、腕が一本なくなった事。これまでは全員に同時攻撃をされても、それぞれの腕で防御し残りの一本で反撃を…という感じに出来ていたものが防御で手一杯になったんだから、均衡が崩れるのも当然の話。それでもマジェコンヌは弾幕と破格のパワーで迎撃し、時には三人纏めて追い払ったりもしているが……その巨体には、少しずつ傷が増えていく。

 

「ぐぬぅぅううッ!小癪なぁぁ……ッ!」

「ねぷっち!ぎあっち!ジェットでアタックかけちゃうよ!」

「ストリーム、ね。了解ッ!」

「えぇぇッ!?ちょっ、何をするの!?」

「ネプギア、考えなくていいの。感じなさい…女神の直感と本能でッ!」

「なんて無茶苦茶な!?うぅ、えーいッ!」

 

 三人は個々の動きも言うまでもなく凄いが、連携だって素晴らしい。特にうずめとネプギアはまだ何度も共闘した仲じゃないのに、的確に動きを合わせている。そして何より凄いのは、その女神の直感と本能。

 一列に並んだうずめ達は、そのままマジェコンヌに向かって突撃。先頭のうずめが弾幕を防ぎ、迎撃が面の光弾から点の照射になった瞬間中央のネプギアが射撃で相殺し、肉薄と同時に最後尾のネプテューヌが斬撃一閃。攻撃が済むや否や三人は散開する事で反撃を防ぎ、すぐに次の攻撃へと向かっていく。……言ってる事はふざけてる感じなのに、効果は覿面だった。

 

「これならいける…皆なら勝てる…!……って違う違う、だから見惚れててどうすんだ俺…!」

 

 鮮やかな、惚れ惚れするような戦いに心躍らせていた俺は、さっきのようにまた我に返って警戒を再開。あんな連携や判断すら即座に出来る三人なら、何かあっても大丈夫そうな気はするけど…だからって俺が観客してていい理由にはならないし、俺だって何かやりたい。しょぼい動機だけど、少し位は役に立ちたい。

 そんな思いで再び見回す。見回して……ある物が視界に入る。

 

「…うっ…まだあるのか……」

 

 見回す中で見つけたのは、斬り落とされたマジェコンヌの腕。どこぞの剥ぎ取れる部位破壊ばりに吹っ飛んだ筈の腕は、消えずに地面へ残っていた。…って、当たり前か。それこそゲームじゃあるまいし(…ゲームじゃないよな?なんか『ゲイム』って書いてあるけど、ずっと活字で進んでるし…)、斬られた身体の一部が消えるなんて事……

 

(…ん?でも確か、モンスターは倒されると消えるよな…これの違いはなんだ…?)

 

 どうにも気になる。気になるから思考がそっちに移る。どういう原理でモンスターは消えて、消えるか否かは何を基準にして決まるのか。…いやそもそも、マジェコンヌはどっちなのか。消える側の存在なのか、消えない側の存在なのか。考えて、考えて……また、俺は俺に対して突っ込む。だから、今やるべき事は違うだろって。

 

「はー…ほんと駄目だな俺は…。もうこれは、いちいち考えず光景を頭に入れる事だけを考えた方がいいかもしれん……」

 

 額に軽く右手の拳を当てて、もう一度俺は隅々まで見渡す。深く考えたり感動したりは後だって出来る。とにかく今は、危険かどうかだけ判断すればいいんだって。

 そうして視線を一周させると、また視界の中にはマジェコンヌの腕が入ってくる。だが別に意識したとかじゃなく、そこから視界を動かしたんだから、ここに戻ってくるのは当然ってだけの事。相変わらず腕は残っているが、もうそこに対して「何故?」なんて事は考えず、ただただ俺は周囲を見て…見、て……

 

「……え…?」

 

 次の瞬間、固まる俺。まさかと思って、一瞬は見間違いかと思って、でも視界をゆっくりと戻す。そして……もう一度見た事で、確信した。確信してしまった。ほんの僅かにだが……斬り落とされた腕が、さっきとは別の方向を向いている事に。

 

(…まさか…まさかまさか、まさか……ッ!)

 

 全身を走る怖気。背中が凍り付くような感覚。恐ろしくなって、けれど目を離す事は出来ず、俺は岩の出っ張りを握り締めながら腕を見つめる。……あぁ、やっぱりだ…腕が、動いている…。…けど、なんで…?どうして、斬られた腕がまだ…って……

 

「な……ッ!?」

 

 見つめる事で、俺は気付いた。細い、本当に細い…糸のような何かが斬られた腕の断面から伸びていて、それはマジェコンヌ側の断面とも繋がっている事に。

 そんな馬鹿な、と思う。あんな吹けば飛ぶようなもので、何が出来るんだよって思っている。…けど、見間違いじゃない。本当に腕は動いていて、しかも掌はうずめ達の方を向いている。

 

「……っ!」

 

 俺が凝視する中で、砲身を展開するかのように指が開く。開いた中心、掌底部分に輝くのは、闇色の光。光弾や光芒と、同じ色の光。

 

「うず…、……ッ!」

 

 反射的に俺は叫ぼうとした。あの腕はまだ生きてるって。狙われてるって。けど、それはさっき駄目だと判断したじゃないか。俺が叫んだ事でうずめ達が止まって、そこを狙い撃たれたら最悪の展開じゃないかって。

 息が荒くなるのを感じながら、俺は必死になって三人を見る。だって、もしかしたらそれも織り込み済みかもしれないだろ?さっきみたいに俺が気付いていなかっただけで、もう三人の頭の中には対応のプランもあるかもしれないだろ?…そうだよ、きっとそうだ。さっきと同じように、これまでと同じように、女神なら……

 

……女神、なら…………

 

(…違う、だろ…そんな他力本願の為に、俺は強くなろうだなんて考えたんじゃなかっただろ…!あの時、あいつを助けられたのも…こんな事を考えてたからじゃないだろ…!)

 

 心の中から湧き上がる、寒気の走った身体を強引に沸騰させるような思い。怒りじゃない、勇気でもない、自分でも上手く言葉に出来ない熱。

 このままいったらどうなる?もしかしたら、本当に織り込み済みかもしれない。それなら最高だ、本当に本当に女神は凄いって俺は拳を握り締めるだろう。…けどもし、そうじゃなかったら?三人共気付いてなくて、気付いた時にはもう避ける事も防御する事も出来なくて……そのまま撃ち抜かれてしまったら?イリゼみたいに『また会える』じゃなくて、『もう会えない』別れになってしまったら?……嫌だ、そんなのは…そんなのは嫌だ…ッ!

 

『はぁああぁぁぁぁッ!』

「ぐ、ぁ……ッ!」

「今度こそ貰ったよ!オバさんッ!」

 

 三本の腕による防御を、ネプテューヌとネプギアの同時攻撃で正面から突破。開いた胴体へと向かって、左手を握り締めたうずめが弾幕を掻い潜って突撃をかける。そして……斬られた四本目が狙っているのは、うずめとマジェコンヌの間の空間。このままうずめが接近を続けたら、恐らく通るであろう位置。

 

「──ッ!」

 

 それが分かった時、うずめが狙われていると気付いた時、俺はもう駆け出していた。

 どう考えたって、俺がうずめ以上の速度を出せる訳がない。腕も、すぐに触れるような位置にはない。腕の向く先を変えるのは…間に合わない。

 だけど、まだ手はある。うずめ達から見て腕は俺よりも後ろにあって、俺から腕までの距離は開いているが、腕とうずめ達との直線は…射線上は、俺のすぐ側を通っている。だからまだ……手遅れ、なんかじゃない。

 

「…ぅ…ぁぁぁぁああああああああッ!!」

 

 なんて冷静に考えているみたいな俺だが、そんな事はない。俺は、俺自身が何をしようとしているのか全くもって分かってない。分かってないけど、その結果どうなるかも分からないけど……それでも俺は走る。駆ける。だって、うずめを失いたくないから。皆の為に頑張ってるうずめが、凄いところもそうじゃないところもあって、結局やっぱり格好良いうずめが撃ち抜かれる姿なんて、見たくないから。その為なら、俺は、俺はッ、俺は……ッ!

 

「うずめぇぇぇぇええええええッ!!」

 

 声を上げながら、失いたくない女の子の名前を叫びながら、俺は跳ぶ。飛んだ瞬間、掌底部の光が一気に強く輝きを放つ。そして……

 

 

 

 

 

 

 光芒が俺の身体を、射線上に割って入った俺の胴を──貫いた。




今回のパロディ解説

・「〜〜よーしゃはしないよーっ!覚悟ー!」
デュエル・マスターズ プレイスに登場するキャラの一人、チュリンの台詞の一つのパロディ。うずめは火文明使いそうですね。…でも可愛いカードも集めてたりして……。

・「ねぷっち〜〜かけちゃうよ!」「ストリーム、ね。了解ッ!」
機動戦士ガンダムに登場するキャラの一人、ガイアの代名詞的な台詞のパロディ。お分かりの方もいると思いますが、攻撃もジェットストリームアタックのパロディです。

・「〜〜考えなくていいの。感じなさい〜〜」
燃えよドラゴンの主人公、ブルース・リーの代名詞的な台詞の一つのパロディ。実際女神の直感と本能は凄いのです。流石になんだって分かる訳ではありませんが。


・どこぞの剥ぎ取れる部位破壊
モンハンシリーズにおける部位破壊システム(主に尻尾)の事。最近だと…古代樹の森で斬ったらどっかに行って(多分高所のどこか)、そのまま諦めるなんて事がありました。
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