超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第三十二話 悲しみなんて似合わない

 思った通りに、これまでのオバさんとは段違いに、気持ち悪い姿になったオバさんは強かった。うずめ一人だったら、負けてたかもって思う位に、本当に本当に強かった。

 でも、きっと勝てるって気持ちもあった。だって、うずめ達はダークメガミだって倒しちゃったんだもん。オバさんを倒せばまた一歩平和に、皆が笑顔で暮らせる次元に近付くって思えば、負ける気なんてしなかったもん。

 そして、そう思った通りに、うずめ達は追い詰めていた。今だってねぷっちとぎあっちが開いてくれた場所へ、オバさんの攻撃を避けて、思いっ切りパンチをする事が出来た。きっと後少しって位にまで、うずめ達はいっていた。なのに…後少しで勝てて、皆でやったねって言って、笑顔で帰れる筈、だったのに……っ!

 

「…ぁ…あぁ……ああああああああああああああああぁッ!!?」

 

 パンチの直前、もううずめ自身も動きを変えられないって位の時に、ウィードの声が聞こえた。見えてないのに、今はオバさんへの攻撃に全力を尽くさなきゃいけないのに、胸の中がざわっとして、なんだか凄く怖くなった。

 見なくちゃいけない。ウィードに何かあったんだから。でも怖い。ウィードに何かあったんだったら。怖くて怖くて、でも見ずにはいられなくて、パンチを打ち込んだ後のうずめはオバさんの目の前なのにすぐ振り返って……うずめは見た。見えた。見えて、しまった。ぽっかりとお腹に穴の空いた、ウィードの背中が。

 

「ウィードッ!ウィードぉぉぉぉおおおおッ!!」

 

 頭が真っ白になる。周りの音がなんにも聞こえなくなって、自分でも気付かないうちにうずめは飛ぶ。地面を蹴って、飛んで、ゆっくりと倒れるウィードの背中を受け止める。

 

「……ぁ…うず、め……」

「ウィード!ウィードっ!ど、どうして…どうしてこんな……」

「…は、は…間に合った、みたい…だな……」

「……っ!」

 

 うずめの事に気付いたウィードは、うずめの顔を見て力なく笑う。その顔は、凄く辛そうで、凄く苦しそうで……なのに安心したように笑ってる。まるで、これで良かったって思ってるみたいに。

 最初は分からなかった。どうしてウィードがこんな事になったのかが。でも、うずめの目は自然にウィードが倒れたのとは逆側を見ていて……その先にあったのは、わんわん達やダークメガミと同じように消えていくオバさんの腕。

 

「…まさか…ウィード……」

「…気付いちまった、から…さ……気付いちまったら…目を逸らす、事なんて…出来ない、だろ……?」

「…バカ…ウィードのバカぁ!だからって、だからってウィードが当たったら意味ないでしょ!?うずめは女神だから、ちょっと位のダメージなら平気なんだよっ!?」

「そう、言うなよ…そんな事、言われたら……俺、ほんとに馬鹿みたいじゃ…ごほッ…!」

「だからバカって言ったのっ!……っ…無理、しないでよぉ…っ!」

 

 困ったように笑うウィードの口から、咳き込みと共に吐き出される血。お腹からもどんどん血が流れていて、ウィードの顔が青くなっていく。

 左側からお腹にぽっかりと空いた穴。それはあんまりにも広くて、深くて……まるでそこだけ、消しゴムで消してしまったみたいに、空いた穴には何もない。

 

「ネプギアッ!治癒を!早くッ!」

「む、無理だよ…こんな深い怪我、わたしの魔法じゃどうにもならないよッ!こんな、こんな……くり抜かれたような状態じゃ…ッ!」

「……っ…マジェコンヌ…ッ!」

 

 じわりとうずめの目から涙が溢れる。ねぷっちはうずめ達の前に立って、ぎあっちはうずめの反対側に降りて、ウィードを見る。

 ぎあっちが回復魔法を使えるなんて…ううん、そもそも魔法を使える事だって知らなかった。でも今はそんなのどうでもいい。ぎあっちは無理だって言っていて…顔は悔しそうに歪んでる。…それが、現実。それが、事実。

 

「…まさか、こんな事になるとはな……」

「…こんな、事に…?オバさんが、やったのに…そんなびっくり〜、みたいに言うの…?」

「あぁ、言って何が悪い。これでも少々見直したのだぞ?逃げるだけの雑魚かと思いきや、こんな真似が出来るとはとな。…そいつが邪魔しなければ貴様を葬れたというのに、忌々しい……」

「……ッ!忌々しいのは…憎いのは、こっちの方だよッ!よくも、よくもウィードをッ!」

「よくも?…ふん、抜かせ小娘が」

 

 冷たい目で、ウィードをこんな目に遭わせた事をなんとも思ってないように言うオバさん。それが許せなくて、自分でも訳分かんない位に黒い気持ちが湧き上がってきて……だけどその思いを口に出した次の瞬間、オバさんは鼻を鳴らしてうずめを見る。

 

「恨むのはいい。憎むのも勝手にしろ。何故なら私は貴様等を叩き潰すのだからな。だが、私はその小僧を狙った訳ではない。その傷は我が攻撃に自ら姿を晒した小僧自身の自業自得であり……引いては気付かなかった貴様等の責任だろう?」

「……っ…そ、れは……」

 

 うずめの心に刺さる、オバさんの言葉。どうせオバさんは正しさなんてどうでもよくて、うずめ達を傷付けようと思って言ってるってのは分かってる。…だけど、オバさんの言う通り…うずめが、うずめ達が気付いてれば、ウィードもこんな事はしなかった。うずめ達が気付かなかったから、危なくなったから、普通の人の筈のウィードに無茶な事をさせちゃった。だから…ウィードがこうなったのは、うずめ達の…うずめの……

 

「…違ぇ、よ……俺の、責任ではあっても…うずめ達の、せいなんかじゃ…絶対に、ねぇ……」

「ウィード……」

「ウィード、さん……」

「それ、に…俺は別に…後悔なんか、してないからな…。そりゃ、勿論…こんな事になるのが…本望だとは…っ…思、って……」

「もう話さないで…っ!これ以上無理したら、貴方は……ッ!」

 

…そう、思っていたうずめの心が伝わったみたいに、掠れる声でウィードは言う。本当に苦しそうなのに、今にもどっかにいっちゃいそうなのに、それでもこれは譲れない…って顔をして。

 

「…とにかく、早くウィードさんを治療出来る場所に運ばないとっ!ちゃんと施設さえあれば、まだ……っ!」

「はっ、誰がさせるものか。貴様等は全員、ここで死するのだからなぁッ!」

「く……ッ!退いて下さい…ッ!今は、貴女の相手をしてる場合じゃ……!」

「…ネプギア、もう対話の段階なんて終わってるわ。退かないのなら…斬り伏せるだけよッ!」

「……っ!?お、お姉ちゃん…」

 

 吠えるような声と共に、オバさんの口から放たれる光芒。それをねぷっちとぎあっちが防いで、ぎあっちが歯噛みをして……次の瞬間、聞こえたのは今まで聞いた事もないようなねぷっちの冷たい声。それからねぷっちは声を荒げて、乱暴に光弾を斬り払いながら飛んでいく。

 分かってる。抱えてたって、ウィードが良くなる訳はないって。ウィードの事を考えるなら、全員で一秒でも早くオバさんを倒さなきゃいけないって。でも…でも、離せないよ…こんな辛そうなウィードを、一人にするなんて……っ!

 

「……な、ぁ…うずめ…」

「ウィード…待ってて、待っててウィード…!うずめが、皆が、すぐにでもウィードを連れて……」

「…俺、さ…皆の、力に…なりたかったんだ…直接戦う、とか…守る、事だけが…そうじゃ、ないってのは…分かって、る…けど…やっぱり……俺も、皆を…助けられる、ように…なり、たかったんだ……」

「そんな…そんな、事……」

「…なれた、かな…?俺…うずめの…皆の……」

「なれたよ…うん、うん…っ!なれたに、決まってるよ…!だって、うずめは…ウィードが助けてくれたおかげで、こうして元気なんだもん…っ!」

「そ、っか…なら、良かった……一回、でも…格好良くて、可愛い…女神、の…力に、なれて……」

「一回なんて…そんな事言わないでよウィード!まだ記憶も取り戻してないでしょ!?まだしてない事、沢山あるでしょ!?ウィードっ、ウィードってばぁ!」

 

 ウィードは笑う。良かったって、力になれたって。こんなに酷い怪我をしてるのに、うずめに笑顔を見せてくれる。

 だけど違う。そうじゃない。ウィードが良かったって思ってたって、笑顔になってくれたって、うずめは全然嬉しくない。全然楽しくないし、良かったなんて思えない。だからうずめはウィードを呼ぶ。嫌だから。ウィードがいなくなっちゃうなんて、絶対絶対嫌だから。

 

「…俺、は…誰、だったん…だろう、な…。でも、きっと……うずめを、信仰…してたん、じゃ…ない、かな……」

「だ、ダメっ!目を閉じないでウィードっ!ねぇっ!」

「…もし、そうなら…信仰してた、女神を…記憶を失った、後も…守れた、なら……悪くない…終わり、方…かも、な…。……けど、うずめから…女神から、したら…こんなの、辛い…よな……」

「そ、そうだよっ!だから、だからウィード……っ!」

「…だから……ごめん、な…うず…め……」

「……ウィー、ド…?」

 

 涙で前が見えなくなる。心の中がぐちゃぐちゃで、どうしたらいいか分からなくなる。そうしている内にも、どんどんウィードの声は弱くなっていって、目もぼんやりとしていって、胸が張り裂けそうな位に怖い気持ちが膨れ上がる。

 その中で、ウィードが上げた震える手。その手は、うずめに伸ばしてるみたいで、それをちゃんと掴めればまだ死なないでいてくれるような気がして、うずめもその手を握ろうとする。

 そして、うずめは手に触れて、まだある温かさを感じて、握ろうとして……

 

 

 

 

──だけど、握れなかった。うずめの目の前で、握ろうとしていた手の中で……ウィードの手が、溢れ落ちる。

 

「あ、あぁぁ……ウィードっ…ウィードぉぉ…っ!」

 

 名前を呼ぶ。肩を抱く。だけどウィードの閉じた目は開かない。まだ温かいのに、ウィードの腕は上がらない。

 嘘だ。違う。そんな訳ない。だってウィードは、さっきまで元気で、普通にうずめとお喋りしてたんだもん。昨日だって今日だって、頑張って強くなろうねって一緒に訓練したんだもん。ちょっとずつ強くなって、もしかしたらいつかは一緒に戦う事があるかもって、そういうのも悪くないかもって、うずめ思ってたもん。こんなの…こんなの望んでないもん!嫌だもんっ!違う、違うよ!こんなのって、こんなのって……!

 

「目を…開けてよぉ、ウィード……っ!」

 

──ああ、でも、だけど……どんなに否定しても、違うって思っても、ウィードは目を開けてくれない。うずめの声は…届かない。

 

「マジェコンヌぅぅううッ!!」

「はははそうだッ!憎めッ!怒れッ!復讐心に身を焦がすがいいッ!」

「はッ、舐めないで頂戴ッ!憎しみ?復讐心?そんなものに囚われる程、女神は温くないのよッ!」

 

 聞こえてくるのは、ねぷっちとオバさんの声に、岩や地面が砕ける音。それは、今のうずめには遠い出来事みたいで……でも、違う。

 

「……うずめ、さん…あの…その……」

「……うん。うずめも行くよ、ぎあっち。…ウィードを、こんな冷たい場所で寝かせたくなんかないもん…」

 

 ウィードを地面に降ろして、立ち上がる。…うずめは、女神。皆を守らなくちゃいけなくて、皆を助けなくちゃいけない。どんなに悲しくたって、海男達の事を放ってなんていられないし、ウィードもきっと…ただ泣いてるだけのうずめなんて、望んでない。

 

「…ごめんね、ぎあっち…二人に、戦い任せてて……」

「い、いえ…大丈夫、です……」

「…倒すよ、オバさんを」

「…はい。ウィードさんの為にも、ここは何としても……」

 

 ぐしぐしって涙を拭いて、うずめはオバさんの方を向く。しっかりしなきゃ、辛いのはねぷっち達もなんだから。

 そう思って、ぐしゃぐしゃなままの心をぎゅっと固めて、全身に力を込める。そうして、うずめが地面を蹴ろうとした……その時だった。

 

「……ぇ…?」

 

 隣から不意に聞こえてきた、ぎあっちの変な声。反射的に振り向いたうずめが見たのは、さっきオバさんが変身した時と同じような…ううん、もしかしたらそれ以上に、「あり得ないもの」を見ている目。

 そのぎあっちが見てるのは、うずめの足元。でもヘン。だって、そこにあるものなんて…そこに、いるのなんて…ウィード、しか…………

 

 

 

 

 

 

「……ウィー…ド…?」

 

 つられるように、引っ張られるように、振り向きながら視線を落としたうずめ。

 やっぱり、そこにはウィードがいた。確かに、そこにはウィードが倒れていた。だけど、そこにいたウィードは…ぽっかりと開いていた筈の穴は……塞がり、始めていた。

 

 

 

 

 わたしはウィードさんを、普通の人だと思っていた。コンパさんやアイエフさんと同じ……いや、パーティーの皆さんや教祖の皆さんよりも普通の、ただの人だと思っていた。根拠がある訳じゃないけど、感覚的に。

 普通の人は対象との距離を一瞬で詰めたり、ビームを見てから避けたりなんて出来ないし、一度斬られたり撃たれたりするだけでも簡単に重傷を負ってしまう。それが普通で、それが普通の生命で、異常なのはわたし達女神の方。だから、マジェコンヌの一撃を受けたウィードさんが致命傷を負うのは、当然といえば当然の事で、それが普通なんだって……わたしは心のどこかで、思ってた。これまで皆無事でいられたのは、周りにいたのが皆普通じゃない人達ばっかりだったからだって、そう…思っていたのに……

 

「……ウィード、さん…?」

 

──目の前で起きている光景は、普通じゃなかった。普通の人じゃあり得ない……女神でもそう簡単には起こせないような事が、確かにそこで起きていた。

 

(何が…起きてるの……?)

 

 うずめさんに抱えられていたウィードさんのお腹には、酷く大きな穴が開いていた。そこにある筈のものが何もなくなっていて、抱えるうずめさんの肌やプロセッサが真っ赤になる程に、血が流れ出していた。

 見間違いとかじゃない。確かに腹部が抉れていたし、今も地面には血溜まりが出来ている。けど、だけど…その傷が、穴が、今は塞がり始めている。傷口が淡く光って、そこから元に戻っていってる。

 そう。治ってるじゃない。わたしは医療に関して少ししか知らないけど、これは明らかに治癒とは違う。…例えるなら、これは復元。穴が塞がっていくと同時に、地面やうずめさんに付いていた血も同じ光になって、ウィードさんの傷口へと戻っていく。……まるで、動画を巻き戻しているかのように。

 

「……──ッ!げほっ、げほっ…!」

『……!?ウィード(さん)!?』

 

 みるみる内に元通りの、攻撃を受ける前の身体に戻っていくウィードさん。そして完全に傷が塞がって、顔色すらも元通りになった数秒後……ウィードさんは、咳き込みながら目を開ける。

 

「う、ぐっ……。……え、あれ…?…ここは…。…俺…生きてる…?」

「…ウィード……?」

「…うずめ…ってはぁッ!?無傷!?俺胴体貫かれてなかったっけ!?」

 

 驚き過ぎてわたし達が絶句する中、目を開けたウィードさんも驚いた面持ちで起き上がって、暫くぼんやりとしていて…自分の腹部に目がいった瞬間、目を剥いてぶんぶんと周囲を見回す。

 

「え、ちょっ…あの、ウィードさん……?」

「…うっそぉ…何これマジで無傷じゃん…ならさっきのは何…?幻覚?幻肢痛?或いは……あ、まさかネプギアが治してくれたのか!?治癒がどうのこうのって言ってたよな!?」

「へ…?た、確かにそういう話はしましたけど、わたしは……」

「そっか…ありがとう、ありがとうネプギア!ネプギアは俺の命の恩人だ…ッ!」

「わ、わわっ!?」

 

 まだ混乱してるみたいで(当たり前だけど)、ウィードさんは早とちりして両手でわたしの左手を握ってくる。

 そんな事をされたら、わたしだって大慌て。これまでにもわたしは小さな男の子の手を握ったり、経済界や軍部のトップクラスの方と握手する機会はあったし、そもそも今はプロセッサに覆われてるんだけど…それでも見た目的には同世代っぽい男の人に、両手で握られちゃったらわたわたしない訳がない。

 

「ちょ、ちょっとウィード!?それはセクハラだよセクハラ〜!」

「え"!?あ…す、すまんネプギア!」

「あ、い、いえ…お元気で、何よりです……」

「もー…!……でも、どうして…?ウィード、実は魂が壊れないゾンビだったの…?それとも、人魚を食べちゃったり…?」

「それは……」

 

 ぷんぷん、なんて効果音が出てきそうな感じにうずめさんが怒ると、はっとした顔になったウィードさんはわたしの左手を話してくれる。それからうずめさんに訊かれると、ウィードさんはまたわたしを見て……わたしは首を横に振る。わたしが治したんじゃない、って答えるように。

 それを目にして、ウィードさんは軽く上げた右手を見つめる。見つめて、何度か握って開いてを繰り返して……言う。

 

「…分からない。ネプギアが治してくれたんじゃないなら、どうして俺が生きてるのかは。…でも、これだけは言える。嘘じゃない。幻覚でもない。……俺はちゃんと、生きてるようずめ」

「……っ…!…ぁ…ぅあっ…ウィー、ド…っ!」

「待った。心配かけた俺が言うべきじゃないかもしれないが…今はそれより、やる事があるだろ?」

 

 すっとうずめさんに向き直った、ウィードさんの言葉。瞳と同じく真っ直ぐな、思いの籠った暖かい声。それを聞いた瞬間、うずめさんの目にはまた涙が浮かんで……それをウィードさんが右手で制す。左手で軽く頬を掻いて、ちょっと照れ臭そうな顔をしながら。

 

「……そう、だね…うん!ぎあっち!」

「はい!今度こそ…いきますッ!」

 

 そうだ。忘れてた…訳じゃないけど、今はまだ戦闘中。倒さなきゃいけない相手が、守らなきゃいけない人達がいる。ましてや、お姉ちゃんを一人で戦わせ続けるなんて…そんなのわたしらしくないよっ!

 ぐっと両足で地面を踏み締めて、エネルギーを急速チャージ。振り上げて、狙いを定めて……一撃、照射。

 

「……!遅いわよネプギア!気持ちは分かるけど、もう立てる位に回復してるんだから早く……って、えぇぇッ!?立ってる!?」

「な、何…ッ!?小僧、何故……!?」

 

 狙い通りに真っ直ぐ走る光芒は、後退するお姉ちゃんの前を駆け抜け、追おうとしていたマジェコンヌを妨害。この射撃で気付いた二人は、殆ど同時にこっちを見て……二人共目を大きく見開く。

 

「へへーん!どーだオバさん!ウィードは、オバさんのへなちょこ攻撃なんかじゃやられないんだもんねー!」

「あ、お、おい止めろようずめ!俺普通にやられてたから!死ぬ程痛かったからな!?てかほんと一回死んだんじゃねって思ってるからな!?」

「……ほらね!」

「いやうずめさん!?ウィードさん戦々恐々としてますよ!?『えーーッ!?』って顔してますよ!?」

 

 ウィードさんの声が聞こえていないのか、びしっとそのまま言葉を貫くうずめさん。そのコントみたいなやり取りに、流石のマジェコンヌも「は……?」みたいな目をしていて…それから、ふふっと小さな笑い声が聞こえてくる。

 

「全く…なんだかよく分からないけど、二人の内どっちかはわたしと同じ系統なのかもしれないわね」

(同じ系統…?…あっ、空気の破壊者(シリアスブレイカー)……)

「…けどまぁ、何にせよ…これで今度こそ、心置きなく貴女を倒せるわ」

 

 一度わたし達の側まで戻ってきて、お姉ちゃんは構え直す。思いを一回リセットして、改めて意思を固めるみたいに。

 そのお姉ちゃんの隣に、わたしとうずめさんも並ぶ。理由は分からないけど、ウィードさんは助かった。わたし達も疲労してるけど、負っている傷の多さ深さなら間違いなくマジェコンヌの方が上。なら…臆する事は、なにもない。

 

「……ぐッ…ふざけるな…ふざけるなよ…ッ!我が必殺の策を邪魔したばかりか、胴を貫かれておきながら無傷だと…ッ!?冗談も大概にしろ…ッ!」

「冗談じゃないもんねー。…もううずめ達に隙はないよ。さっきみたいな事を、また起こせるだなんて思わないで」

 

 自信満々な表情を浮かべた後、ふっと冷静な顔になったうずめさんはマジェコンヌの目を見やって言う。確実に、一切の油断なく…ここで貴女を、倒すって。

 憎々しげな、マジェコンヌの視線。だけどそんなの怖くない。それ位で怖がるようなら、そもそもわたしはここにいない。だからわたしも、お姉ちゃん達も真っ向から視線を跳ね返して……聞こえてくるのは、腰の巨大な口からの歯噛み。…だけど次の瞬間、マジェコンヌは笑い出す。

 

「…く、くくっ…ハーッハッハッハッハ!我が先導する滅びへの道が、この姿まで晒した私が、こんな女神と餓鬼に潰されるだと!?随分と、随分とふざけた話があったものじゃないかッ!!」

「…そんな態度を取ったって無駄よ。わたし達がやる事は変わらないわ」

「ふんッ!貴様等に訴えかけようなどとは思っていないッ!…ぐっ、ぁぁぁぁああああ…ッ!」

 

 笑い声を上げて、怒りを迸らせ、それから唸り声を上げ始めるマジェコンヌ。何かしてくると察したわたし達が警戒する中、それまで何も動かなかった中央の身体が…犯罪神なら、真の本体とでも言うべき部分が奇妙に脈打ち蠢き始める。そして……

 

「ああああぁぁぁぁぁぁッ!!……ぁッ、がッ…!」

「……っ!?(分離、した…!?)

「はぁ…はぁ……案外、出来るもの…だな…うぐッ……」

 

 ぼとり、と落下するもう一つの身体。それが地面に落ちると、少しずつ変化していって、元のマジェコンヌの姿に戻る。

 そうして、マジェコンヌは立ち上がる。よろよろと、苦しそうに息を荒げて。

 

「…いいだろう、認めてやる…勝負は貴様等の勝ちだ…。だが、戦いの勝利は私のものだ……この屈辱は、貴様等の死で贖わせてやろう…ッ!」

「な……ッ!?まさか、貴女…ッ!」

「今更気付いてももう遅い…!生き埋めとなり、無念のままに潰えるがいい…ッ!」

 

 次の瞬間、暴れ出すマジェコンヌだったもの。目から、口から、手から光芒を一斉に放ち、やたらめったらに周囲を攻撃し始める。

 その攻撃で、マジェコンヌの言葉で、わたし達は理解した。マジェコンヌは、この洞窟を崩落させようとしているんだって。

 

「……!オバさん逃げるつもり!?」

「……っ…!追いたい、ところだけど…!」

「これじゃ追えないどころか、ほんとに生き埋めになりかねないわ…ッ!」

 

 逃げていくマジェコンヌを視界の端に捉えながら、わたしとお姉ちゃんは飛翔。ウィードさんの事をうずめさんに任せて、すぐにマジェコンヌだったものへ攻撃を再開するけど、撃っても全然止まらない。それに無差別攻撃だからこそ動きが読めなくて、中々距離を詰められない。

 

「不味いわね…!ネプギア!あいつを丸ごと飲み込めるような射撃は出来る!?」

「時間があれば出来るけど…そんな攻撃したら、結局ここは崩れちゃうよ!」

「やっぱり、そうなのね…だったら、多少危険を冒してでも接近するしか……ッ!」

 

 攻めあぐねている間も、攻撃は続いている。光芒が天井や壁を斬り裂いて、四方八方で砂煙が上がる。

 お姉ちゃんの言う通り、今は危険でも接近するしかない。近接格闘で、一気に両断するなりばらばらにするなりして、マジェコンヌだったものを行動不能にするしかない。

 これは時間と、判断力の勝負。ちょっとでも躊躇えば、間に合わなくなるかもしれない。少しでも焦れば、撃ち抜かれるかもしれない。だけど、やるしかない。このまま迷っていたら、生き埋めになってしまうだけだから。……そう、思った時だった。

 

「……ーーぁ…!」

「……へ…?」

 

 どこからか、わたしの耳に聞こえてきた声。ほんとにどこからしているのか分からない…でも何故か、馴染み深く感じる声。そして……

 

『……ーーッ!!?』

 

 声を上げようとした次の瞬間、爆発したかのように天井の一部が崩落。わたし達が愕然とする中、崩れた瓦礫はマジェコンヌだったものの上へ。そうして砂塵が舞い上がって……その中で、再び声が聞こえてくる。

 

「痛たたた…うぅ、これは酷い…不時着にも程があるって……」

 

 ゆらり、と砂煙の中で立ち上がる一つの影。それはちょっと外に跳ねた長髪をしていて、はっきり見えなくてもスタイルが良いって分かる女の人。

 シルエットだけを見る限り、その人はわたしの知り合いじゃない。知り合いじゃない、筈だけど……わたしは目を見開いていた。言葉を失っていた。だって、そこにいたのは…そこから現れたのは……

 

「…お姉、ちゃん……?」

 

 見間違える筈のない、見間違えようのない……ネプテューヌ(お姉ちゃん)だったんだから。




今回のパロディ解説

・魂が壊れないゾンビ
これはゾンビですかの主人公、相川歩(又は夜の王)の事。不死身だったり超回復だったりする場合、基本この作品をパロってますね、私。今後もパロらせて頂きますよ?

・人魚の肉を食べちゃった
虚構推理に登場するキャラの一人、桜川九郎(又は桜川六花)の事。上のネタもそうですが、別にウィードはネクロマンサーに会った訳でも人魚食べた訳でもありません。

・「〜〜死ぬ程痛かった〜〜」
新機動戦記ガンダムWの主人公、ヒイロ・ユイの代名詞的な台詞の一つのパロディ。そりゃ腹部を貫かれたら痛いですよね。痛いどころの騒ぎじゃないですよね。
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