超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第四十六話 違うけど、それでも

 神次元ゲイムギョウ界。現代では四人の守護女神とその仲間が、二つの次元を跨る戦いを何とか乗り越えて、今の平和な時間を作り上げた。その戦いは、ある意味わたしにとっては宿命とでも言うべきもので…だからわたしも彼女達と、女神として戦った。

 そんなこの神次元に、再び何かが起こりつつある。わたし達が調査に、解決に動き出した最中に、イストワールがずっと連絡を取ろうとしていた次元からの来訪者があった。それはネプテューヌとネプギアの二人で、共に戦った仲間との再会に最初は喜んだけれど…二人は超次元ではなく、信次元という次元の女神だった。

 それは仕方のない事。こっちが勝手に勘違いして期待した事なんだから、二人に責任は微塵もない。とはいえ、それを頭で理解していても、期待した心やあの瞬間の喜びは消えない訳で…すぐに整理が付かなくたって、わたしはそれを悪いとは思わない。思わないけど……そのままでいいとも、思っていない。

 

「…ふぅ。悪いわねピーシェ、強引に連れてきて」

「別に…後、そんな強引でもなかったし……」

「それはピーシェがちゃんと歩いてくれたからでしょ?」

「…………」

 

 二人と共に訪れたゲームセンター、その奥にある休憩スペースでわたしは脚を止める。そこで振り向いた同行人…というか、わたしが押してきたピーシェは何とも複雑そうな顔。ここに来るまで文句は言わなかったし、良い子なのは間違いないけれど……やっぱり、今のピーシェは素敵じゃないわね…。

 

「…ピーシェ、怒ってる?」

「…怒ってはない」

「なら、悲しいの?」

「そういう訳でもない…」

「だったら…あの二人とは、仲良くしたくない?」

「……っ!そんな事…っ!」

 

 一拍置いてから言ったわたしの問いを、ピーシェは強く否定する。その反応を見て、わたしは一安心。ここで肯定されたら、即わたしのしようとしていた事が頓挫するところだったけど……どうやら杞憂だったようね。

 

「…なら、どうして?どうして二人との間に、壁を作ろうとするの?」

「それは……」

「…それは?」

 

 複雑そうな顔のまま、わたしの踏み込んだ質問を聞いたピーシェは小さく俯く。そして一言、呟いて…わたしが彼女を見つめる中、ピーシェはゆっくりと首を横に振り……言う。

 

「…分からない…でも、でも……凄く、もやもや…するから…二人が、ぴぃの知ってるねぷてぬとねぷぎあじゃないって思うと…顔も声もそっくりで、ぴぃの知ってる二人そのまんまで……なのに、ほんのちょっぴり…ほんのちょっぴりだけ違うところが見えると、やっぱり二人は違うんだって…ぴぃを知らない、ぴぃとの思い出もない二人なんだって思うと……」

「…ごめんなさい、ピーシェ。もう、いいわ…もう十分、貴女の思いは伝わってきたから…」

 

 ぽつりぽつりと少しずつ、ピーシェはわたしに語ってくれる。自分の心情を、ここまでずっと抱いていた気持ちを。それは頭の中で整理した言葉ではなく、心の中の思いをそのまま吐露するようで……気付けばわたしは、ピーシェを軽く抱き寄せていた。

 嗚呼、どうして気付かなかったのか。どうしてわたしの抱いた気持ちと、ピーシェの気持ちが同じだなんて思ったのか。…そんな訳、ないじゃないか。皆とは一番最後に知り合ったわたしと、物心がついているかどうかも怪しい時から二人と家族の様に暮らしていて、別れの時もまだ状態が状態だったピーシェが同じだなんて……浅はかにも、程がある。

 わたしは恥じた。そこまで気付いてあげられなかった、思慮に欠けていた自分自身を。同時に悲しみを零した、隠していた寂しさを見せてくれたピーシェの心に少しでも寄り添おうと、ピーシェを抱き締めた腕に力を込め……

 

「……ちょっと。しれっとぴぃの気持ちに心踊らせるのは止めてくれない…?」

「へ…っ?…あ、ご、ごめん…ピーシェの悲しそうな気持ちを見たら、つい……」

「…せーつ、女神が訴訟沙汰とか止めてね…?ぴぃ、身内がそんな問題起こすとか本当に嫌だから……」

「うっ…そこまではしないわよそこまでは……」

 

 女神としては後輩も後輩のピーシェに、呆れられてしまった。……自分で自分が恥ずかしいって、こういう時に使うのね…。

 

「……けど、ぴぃもごめん…さっきのレース中のミス、ぴぃの事を気にしちゃったからでしょ…?」

「…気付いてたのね」

「まぁ、もしかしたら…ってレベルだったけど……」

 

 やってしまったと思いつつわたしが離れると、ピーシェが謝罪の言葉を口に。それは別に怒っていないし、いいけれど…そこで会話が、途切れてしまう。

 わたしはピーシェの背中を押す為にここへ連れてきた。でも、ピーシェの抱えていた思いはわたしが想像していた以上。わたしが考えていた言葉で、ピーシェの背中を押せるなんて保証はなくて……

 

 

……けれど、そんなのは想像していた通りだったとしても同じ事。ましてや、保証がないからって、わたしは今のピーシェのままでもいいなんて思える?…まさか。そんな訳、ないじゃない。

 

「ねぇ、ピーシェ。その気持ち……超次元の、わたし達との思い出があるネプテューヌとネプギアにまた会う日まで、取っておく事は出来ない?」

「…取っておく…?」

「えぇ。ピーシェも分かってるんでしょ?二人はわたし達の知ってる二人じゃないって」

「……うん」

「だから、取っておくの。その気持ちは大事にしまっておいて、二人とはまっさらな気持ちでこれから仲を深めていく。…それならきっと、苦しくなくなるし…違う二人と、思い出の続きじゃない、新しい思い出を作る事も出来るでしょ?」

 

 ピーシェが辛い気持ちになるのは、違う二人だから。会いたかった二人じゃないから。けれど、最初から違う二人として接すれば、抱く思いも変わる筈。再会じゃなくて、出会いだって思えば、きっと悲しみ以外の気持ちだって浮かんでくる筈。…わたしが言いたいのは、そういう事。希望的観測だけど……わたしはその可能性を、信じたい。

 

「…でも、それは……」

「そうね、これは理屈っていうか、自分をそう言い包めるようなものよ。でも…自分を納得させられるのは、他でもない自分自身で、どんなに強引でも…自分がそうだって思えれば何とかなるのが、気持ちってものだとわたしは思うわ」

「…出来る、かな……」

「出来るわよ、今のピーシェは立派な女神なんだもの。…あ、それかいっそ、色々取っ払っちゃうのも手じゃないかしら?今のピーシェはしっかり成長してるけど、あれを……」

「ちょっ…!?し、しないよそんな事っ!そんな方法取る位なら、普通に気持ちを取っておく方が……あ」

「…言ったわね?ピーシェ」

 

 冗談半分、誘導半分である提案をしようとした瞬間、途端にわたわたと慌て出すピーシェ。そして狙い通り、ピーシェは最初にした方の提案を口走って……わたしはにやりと笑みを浮かべる。

 

「…う…今のは、その……」

「…………」

「あくまで比較的っていうか、その二択だったらって話で…だから……」

「…………」

「……あー、もうっ!するよっ、まっさらな気持ちで二人と話せるように努力してみる!それでいいでしょ!?」

「勿論。ピーシェの心が弾んでる様子も見られたし、わたしは大満足よ♪」

 

 半ばヤケクソ気味に、でも意思を込めた言葉で、ピーシェは宣言してくれた。わたしへ対する気持ちと、二人へ対する気持ちの、その両方を心の中に強く浮かべて。

 そう。わたしが見たかったのは、こういうピーシェ。前に比べればちょっと捻くれちゃったけど、素直で真っ直ぐで、感情に溢れているのが本当のピーシェ。そんな姿が、心が見られたから…わたしはまた、にこりと笑う。

 

「うー…ほんと見境ないんだから…この変態……」

「へ、変態!?ちょっ、変態なんて心外……」

「あーはいはい。ほら、そろそろ戻らないと心配させちゃうよ?」

「うぐっ…こういう時だけ瞬時に良識的になるんだから……」

「失礼な、ぴぃはいつも良識的だし…」

 

 最後の最後で手痛い反撃を受けてしまったわたしはすぐに反論しようとするも、ピーシェはずんずん戻っていく。となればわたしも追いかけざるを得ない訳で、何だか最後に丸め込まれた気分のわたし。…でも、まぁ……

 

(ピーシェが前向きになってくれたんだもの。なら十分勝ち越しよね)

 

 そんな思いを抱きながら、わたしも二人の元へと戻るのだった。

 

 

 

 

「くっ、早い…ッ!」

「あははっ、ねぷぎあも凄い反応速度だけど…これはぴぃの圧勝だねっ!」

 

 素早いステップで、画面上を流れてくる指示に合わせて踊るネプギアとピーシェ。二人の元へと戻る直前、ピーシェは気持ちをリセットするかのように自分で両の頬を叩いて、ネプギアに音楽ゲームで挑戦を仕掛けた。

 その結果、今言った通りにピーシェが圧勝。けれど音楽ゲームは流れてくる指示を覚えるのが重要なコツの一つである以上、そもそもこれは初めてやったネプギア側が不利な勝負。それでも圧倒的な反射神経と近接戦さながらの足捌きで善戦していた辺り、ネプギアの実力も伺える。

 

「はぁ…はぁ…完敗です、ピーシェさん…」

「ふぅ……リベンジならいつでも受け付けるよ。ねぷぎあ」

「それなら…ちょ、ちょっとだけ待っていて下さい。このゲームの研究をするので…」

「え、二年位?」

「いやそれじゃライガーさんと鈴木さんの勝負じゃないですか…このネタ伝わるかな……」

 

 負けてしまった、でもやり切った様子のネプギアに対し、ピーシェも結果的には圧勝ながら、熱い勝負が出来たからか爽やかな顔。そこから凡そ女の子同士の会話とは思えないネタを交えた後、すっとネプテューヌが前に出る。

 

「やってくれたねピー子…だったら今度はわたしが勝負……」

「あ、そうだせーつ。せーつはどう?久し振りに勝負する?」

「ちょっ!?何その被せ!?わたしの挑戦キャンセル!?」

「いいわよ。けどいいのかしら?わたし相手に、その消耗した状態で勝負なんて」

「しかもセイツも乗っかるの!?え、何!?こっちの次元じゃわたしって扱い悪い存在なの!?」

「……?それはねぷぎあの担当……」

「わ、わたしの担当…!?そんな不本意なのが、わたしの担当…!?」

 

 わたしとピーシェのコンビネーションで、姉妹は揃ってショック状態。一方ピーシェは愉快そうにしていて……やっぱり本当は遊びたかったんじゃない、ピーシェ。

 

「ふふ、まぁそれは冗談として…実際のところ、消耗してるピーシェと勝負するのはネプテューヌとしても望むところじゃないんじゃない?」

「それは、まぁ…あ、それはもしや雪辱戦を挑みたいっていうアピール?」

「まぁ、そう受け取ってもらっても構わないわ。実際、どこかのタイミングでそれはするつもりだったし」

 

 少しだけ煽るような表情を浮かべたネプテューヌに首肯し、わたしは次なる勝負へ。

 それからもわたし達は代わる代わるゲームで対戦し、大いに楽しみ笑い合った。勝てば当然嬉しいし、負けても基本良い勝負になるから楽しい気持ちは変わらない。それにピーシェへああは言ったけど、わたしとしては「久し振りに会った友達と遊んでいる」という感覚がやっぱりあって、わたしの知ってる二人ではない…なんて気持ちはどこへやら。…いや、勿論超次元でも信次元でもどっちでもいいなんて思ってはいないわよ?わたしだって、「あぁ、ここは違うのね…」と感じる瞬間はあるし、心の輝きだって似ているけれど同じではないもの。

 とにかく、二人に神次元を好きになってもらう為…そして、わたし達がお互いを知り合う為に案内したゲームセンターでの時間は、概ね狙った通りの成果を上げる事に成功した。

 

「はふぅ〜…いやぁ、遊んだ遊んだ〜…」

「遊んだね、たっぷりと…」

 

 ゲームセンターから出て、残りの案内へと戻った道中。満足気に吐息を漏らす二人を見て、二人が楽しんでくれた事が分かる表情を目にして、わたしも小さく笑みを浮かべる。…となれば、後は……

 

「…ピーシェ。ピーシェにへたれ属性は合わないと思うわよ?」

「なぁ…ッ!?へ、へたれじゃないし…!合わなくていいし…!」

「なら、もっとちゃんとネプテューヌと話そうよ」

「…わ、分かってるよ……」

 

 小声で隣のピーシェに声をかけると、ピーシェは口を尖らせながらも目を逸らす。

 あれからピーシェは、積極的になった。でもちゃんと話してたのはネプギアに対してだけで、ネプテューヌに対しては、話してこそいるけど…なんというか、真っ直ぐに向かい合えてない。音楽ゲーム後のやり取りみたいに、上手い事誤魔化してしまう事も何度かあった。

 恐らくそれは、ピーシェが特にネプテューヌへ懐いていたから。わたしへよりもネプギアへよりも、ネプテューヌへ対する思いが強いから。多分それが、どうしても心の中で引っかかりになってしまって、後一歩踏み込めないんだと思う。

 

(…思いが強いが故に…そういう事なら、最後までサポートしてあげるのがわたしの責任よね)

 

 きっと今、またピーシェは苦しんでいる。だってピーシェの表情から、ちゃんとしたいって思いは伝わってくるから。

 それなら、わたしもわたしでやれる事を尽くす。進む道を作り上げる。そう思って、わたしは二人を呼び止めようとして……

 

「…待って」

「え…?」

「…大丈夫…ぴぃが自分で…ぴぃの力で、ちゃんとねぷてぬとも…話すから……!」

 

 そのわたしを制したのは、ピーシェの腕。ピーシェは緊張した顔で…でも話すと言い切って、二人の元へとすぐに駆け寄る。

 

「ふ、二人共!ちょっとここで待ってて!」

『……?』

 

 くるりと振り向いた二人にそれだけ言って、ある方向へと走っていくピーシェ。何をする気かは分からないけど……って、ここは…あぁ、そういう事。

 

「…忘れ物かな?」

「ううん、そうじゃないと思うわ」

 

 きょとんとしながら小首を傾げたネプテューヌにそう答えて、わたしはピーシェが駆けて行った方を見つめる。そうして数分後……ぱたぱたと黄色の髪をなびかせながらピーシェはこちらに戻ってくる。その手に、四つのとある物を抱えて。

 

「せーつ!」

「っと、はいはい」

 

 走ってきたピーシェが持っているのは、四つカップが入った紙のドリンクホルダー。そのホルダーをわたしが受け取ると、ピーシェはそこから二つを取って、再び二人の元へと駆け寄った後……深呼吸。

 

「え、と…ピーシェさん、何を……」

「……プリンシェイク!」

『へっ?』

「…これ、ぴぃの好きな飲み物で…凄く、美味しいから……飲んでみて…」

 

 びしっ、と二人の前へカップを…プリンシェイクを突き出したピーシェは、少し恥ずかしそうな顔をしながらそのシェイクを…自分のお気に入りの飲み物を二人に勧める。…ピーシェ……。

 

「…くれるん、ですか?」

「…うん」

「…そ、っか…はい。ありがとうございますっ、ピーシェさん」

「……ん」

 

 いきなり突き出されて勧められる形となったネプギアは、まず目を丸くして…けどそれからピーシェの思いが伝わったように、表情を綻ばせてピーシェから受け取る。ピーシェもネプギアの言葉に小さくこくりと頷いて、瞳の奥に嬉しそうな光を灯らせる。

 それを横で見ていたネプテューヌは、一度穏やかで優しい笑みを浮かべて、それからネプテューヌもまた手を伸ばす。…けれど何故か、そこでピーシェは手を引っ込める。

 

「うぇ?…え、っと…ピー子……?」

「…ねぷてぬは、ねぷてぬじゃない。ねぷてぬだけど、ねぷてぬと違う」

「う、うん?それはねぷ違いの話…?それともとんち…?」

「…だけど、やっぱりねぷてぬはねぷてぬで…ねぷてぬが、ぴぃと仲良くしようって、仲良くしたいって気持ちは伝わってるから……だから…っ!」

「…………」

「…こ、これから…これから、宜しく……」

「ピー子…もーっ!ほんとに良い子だなぁピー子はっ!」

「うわぁ!?ちょおッ!?ね、ねぷてぬ!?」

 

 少しだけ声のトーンが落ちて、けれどもネプテューヌからは目を逸らさないまま、自分の気持ちを声にするピーシェ。そしてピーシェは、もう一度ネプテューヌの前へとシェイクを差し出して……言った。これから、宜しくと。

 なんともまぁ、最近のピーシェらしいといえばピーシェらしい、成長を見てきたわたしとしては思わず笑ってしまう言葉。仲良くしようでいいのに、きっと心の中ではそう思ってる筈なのに、後一歩のところで少し捻くれた事を言ってしまうのが今のピーシェ。…ってしまった、こっちの次元の過去は今のところ書かれてなかったわね…。……こ、こんな感じかしら、メタ発言って…こ、こほん。

 ともかく、最後で少しだけ捻くれて、また恥ずかしそうな表情をしながら、ピーシェはネプテューヌに歩み寄り……そんなピーシェに対して、ネプテューヌは抱き着いた。いや、抱き着いたというか…飛び込んだ。それはもう、嬉しそうな顔をして。

 

「もっちろんだよピー子!宜しく、宜しく、宜しくぅ〜!」

「なんで三回!?パロディとして言ってるなら、これはちゃんと元ネタの通りに言わなきゃ伝わらないと思うんだけど!?」

「おぉー、返しも上手いねピー子!あ、シェイク頂きまーす!」

「この体勢で!?ちょっ、零れる零れ…あれ零れない!?上手い事飲んでる!?何その器用な飲み方!?」

 

 わちゃわちゃとはしゃぎながら飲むネプテューヌと、エキセントリックな行動及び謎の技術に目を白黒させるピーシェによる、何とも微笑ましい…それとやっぱり笑っちゃう光景。その後すぐネプテューヌは離れたけれど、直前まで思いを振り絞っていた分もあってか、ピーシェは大分疲れていた。…お疲れ様、ピーシェ。

 

「はぁ…濃厚な甘みだけど、ひんやり感が上手く味を引き締めてくれてて美味しい……」

「はー……でしょ?…やっぱり、ねぷぎあと話してる方が色々落ち着くかも…」

「ひっどいなー、もー。…でもありがとね、ピー子。セイツもありがと」

「お礼なんて必要ないわ。楽しかったし、三人の可愛い姿を沢山見る事が出来たんだもの」

『…………』

 

 それから一度近くのベンチに座って、ティータイムならぬシェイクタイム。わたしもプリンシェイクを飲みつつ皆に微笑みかけると、ネプテューヌとネプギアが軽く固まり押し黙ってしまう。

 

「…あのさ、ピー子。セイツって……」

「え……お姉ちゃん、それは言わぬが花なんじゃ…?」

「そ、そう思ったけど…やっぱほら……」

「あー……せーつ、せーつはどんな人が好きなんだっけ?」

「え?……あぁ、そういえば二人には言ってなかったわね。…こほん」

 

 半ば振るようなピーシェの問いに、そういえば…と気付くわたし。

 確かにわたしは、二人にそれを伝えていなかった。これは別に説明しておきたい事って訳じゃないけれど、二人が知ってるつもりでいてしまったのはわたしの落ち度。だからわたしはシェイクを置いて、その場ですくっと立ち上がり……言う。

 

「…わたしは、希望を持っている人が好きよ。だって、希望を胸に歩む人って素敵だもの。でも、希望を持てない人も好きよ。だってそういう人には、希望が持てるように寄り添いたいって思うもの。それに、頑張っている人も好き。頑張る人には、応援したいって感じるから。頑張れない人も好き。そういう人が頑張れるようになったら、きっと心に輝きが灯るもの。喜んでいる人も、嬉しそうにしている人も、辛い思いに挫けそうになっている人も……わたしは強い思いを持っている人が大好きで、そんな人が次元に溢れてくれる事がわたしの幸せ。だから…わたしは、皆が好きなの」

 

 自然と浮かんだ微笑みと共に、わたしはわたしの心を…願いを語る。なんて事ない、わたしにとってはごく普通の……だけど女神として絶対に貫くと決めている、わたしの思いを。

 そうしてわたしが言い終えた時、ネプテューヌとネプギアは超次元の二人に話した時と同じように、目をぱちくりとさせていて……ピーシェは小さく肩を竦めた。

 

「…ね?要はこういう事。なんか格好良い感じに言ってるけど…つまりは見境のない変態って事だから」

「ちょっと!?だからなんで変態になるのよ!?わたしに邪な思いなんてないからね!?」

「見境ない事には変わらないじゃん…まぁ、同じ女神として凄いとも思うけど……」

「あはは…で、でもそういう事だったんですね…ちょっと安心しました…」

「だよねぇ…わたしは『皆好きです、超好きです!』とか言い始めたらどうしようかと思ったよ…」

「それはハーレム王志望の人じゃない!…あ、いやでも好きな人皆を幸せにしたいって思いは女神として共感出来るし、彼の心の輝きは素晴らしく素敵……」

『えぇー……』

 

 何やら最終的に全員から半眼を向けられてしまったわたしだけど、ともかくこれがわたしの思い。わたしの心情。……へ、変態じゃないわよ!ないんだからっ!

…ごほん。そんなこんなで数分後にわたし達は案内を再開し、ぐるりと回る今回の案内コースを完走(いや走ってはいないけど)。元々出発がお昼を過ぎていた事と、途中で色々と寄っていた事もあって、教会へと戻った時にはもう夕飯時となっていた。

 

「ただいま〜、っと。うーん、教会とタワーの違いはあるけど、やっぱりプラネテューヌなだけあってここに来ると落ち着くよね」

「あ、その気持ち分かるかも。…なんかもう、タワーになる前の教会が凄く昔のものみたいな感じがするよ…」

 

 正面の出入り口から教会の中へと入った時には、わたし達全員穏やかなムード。道中…というかゲームセンターの中じゃ不安になる事もあったけど、終わってみれば疑いようのない大成功。これなら明日からも、皆で協力して事に当たれそうね。

 

「あれから色々あったもんねぇ…それでさ二人共。お夕飯は皆で食べるの?」

「うん、いつもはそうして……あ…」

『……?』

「…せーつ、二人を先に案内していてもらえる?ぴぃ…ちょっと、行きたいところがあるから」

「行きたいところ?まぁ、いいけど……」

 

 わたしが頼み事に首肯すると、ピーシェはそれ以上の事を言わず廊下を小走りで去っていく。それを見送った後、わたしは二人を案内するんだけど…ピーシェが何をしに、どこへ行ったのかなんて知る由もない。幾らそれなり以上の付き合いがあったとしても、今の言動だけで推測するなんて……

 

 

……いや、違う。最後の声音、わたしが引き受けた後に見せた、酷く切なそうなあの表情は…あの表情で向かう場所は、きっと……。

 

 

 

 

 教会の一角。嘗てはよく使われていたある部屋の前に、一人の女神…ピーシェは立っていた。

 

「…………」

 

 彼女が浮かべているのは、ネプテューヌ達との道中、特に終盤にて浮かべていた明るい表情ではなく、それとは対照的に切なげな表情。その表情で、ピーシェは扉をノックし……数秒後、扉の奥から小さな声が返ってくる。

 

「……誰…?」

「ぴぃだよ。あのね、今日…今日は……ねぷてぬと、ねぷぎあが来たんだよ」

「……っ…!…ねぷちゃんと、ねぷぎあちゃんが…?」

 

 呼び掛けに対して返ってきたのは、静かな…酷く憔悴したような少女の声。その声に対し、ピーシェは笑って…努めて明るい声で神次元へと訪れた二人の事を口にすると、扉越しに息を呑むような空気が感じられ…返答の声にも、ほんの僅かに生気が籠る。

 

「うん。でもね、二人は信次元…ってところの女神なんだって。だから、ぴぃ達の事は知らないの」

「そ、っか…そう、だよね…ノワールちゃん達みたいに別次元のねぷちゃん達がいても、おかしくないよね……」

「けど、ほんとにぴぃ達の知ってる二人とそっくりなんだ。…今から、皆でご飯を食べるんだけど……どう、かな…?」

 

 ピーシェは不安に思っていた。彼女が自分同様、違う次元の二人だと知って落胆してしまうのではないかと。だがその不安に対し、聞こえてくる声は比較的冷静。その反応を受けた事で、ピーシェは一度安心し……一拍の後、言う。期待と不安、願いと望みをかけた誘いの言葉を。

 五秒、十秒と沈黙の時間が流れる。その間、緊張の面持ちで扉を静かに見つめるピーシェ。そして……

 

「……ごめんね、ピーシェちゃん…あたしは、まだ…やっぱり、あたしは……」

「……っ…そ、そっか…ううん、気にしないで!…大丈夫、だから…」

 

 萎んでいく期待の心。返ってきたのは、彼女にとっては聞くだけで心が締め付けられるような、悲しげな声音。だがピーシェは無理にでも笑って、声も無理矢理トーンを高めて、問題ないとばかりに返答。そうしてピーシェは扉の向こうの少女に申し訳ないという思いをさせないべく、踵を返して歩いていく。

 来訪人の去っていった、無人の廊下。しかし、彼女が去った事にまだ気付いていないのか、それとも抑え切れない思いの吐露なのか……廊下ではピーシェがいなくなった後も、切なげで苦しげな「ごめんね」という言葉が残っていた。




今回のパロディ解説

・ライガーさん、鈴木さん
今年引退した元プロレスラー、獣神サンダー・ライガーこと山田恵一さん及び、同じくプロレスラーの鈴木みのるさんの事。このネタ(勝負)、分かりましたか?

・「〜〜宜しく、宜しく、宜しくぅ〜!」
雑誌編集者、映画解説者等を務める、淀川長治さんの代名詞的な台詞のパロディ。これは本当に分かり辛かったかと思います。音声があれば幾分か分かると思いますが…。

・『好きです、超好きです』、ハーレム王志望の人
生徒会の一存シリーズ主人公、杉崎鍵及び、彼の代名詞的な台詞の一つのフレーズ(の一部)の事。何か、久し振りに生徒会の一存パロをした気がします。……それだけです。
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