超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
プルルートさん。ピーシェさんが寝言で言っていた「ぷるると」というのは、彼女…このプラネテューヌの守護女神であるアイリスハートの事だと、セイツさんは言った。
それにわたし達は驚いた。だってここ、神次元のプラネテューヌの守護女神は、てっきりピーシェさんかセイツさんだと思っていたから。けれど考えてみれば確かに、二人共「自分がプラネテューヌの守護女神だ」とは言っていない。でも自然にわたし達を教会へ案内してくれたから、どっちかがそうなんだろうなぁと勝手に想像しちゃっていた。
「…これもね、話そうとは思っていたのよ。隠し通せることじゃないし…隠す事だって、おかしいから。でも……」
途中まで言って、そこから逸らすように目を伏せるセイツさん。ピーシェさん達も、瞳に浮かんでいるのは辛そうな感情。
お姉ちゃんがプルルートさんについて聞いてから、四人の顔はずっと沈んでいる。それはどう考えたって、普通に紹介する時の顔じゃない。そういう顔をするとすれば、それは……
「…あ、の…もしかして、その…プルルートさんは、もう……」
「あ…ううん、そういう事じゃないの。ぷるるとは、生きてるから」
「そ、そうなんですね…良かった……」
もしやと口にした言葉をピーシェさんが否定してくれて、ほっとわたしは一安心。…でも、それじゃあ…どうして皆さんは、こんなに辛そうな顔を……?
「あ、あのさ。訊いといてあれだけど…話すのが辛い事なら、これ以上は言わなくていいよ…?ぷるるとって何、って部分は解決したし……」
いつもは明るくて、辛い空気も一言で吹き飛ばしちゃうお姉ちゃんも、今は凄く申し訳なさそうな顔。わたしも出来る事なら、この空気を変えたいところだけど…何故こんな暗い顔をしているのかも知らずに呑気な事を言ったら、皆さんを不愉快な気持ちにさせてしまうかもしれない。明るくするなら、どうして暗いのかまず知らなくちゃいけなくて……でも、それを訊けるような雰囲気でもない。
きっとお姉ちゃんもそれを分かっているから、話をここで切り上げようとしたんだと思う。…けど、ピーシェさんは……ゆっくりと、しっかりと首を横に振る。
「…気を遣ってくれてありがと、ねぷてぬ。けど…ぴぃ、それは嫌だ。今はまだ、何もしてあげられてないけど…ぷるるとの事から、目を逸らすなんて事はしたくない」
「ピー子……」
「だからせーつ、ぴぃは……」
「…そうね、ピーシェ。貴女の言う通りよ。コンパとアイエフも、このまま話を続けてもいい?」
言い切ったピーシェさんの言葉にセイツさんは顔を上げて、ピーシェさんを見つめて…それからまた、ピーシェさんの事を話していた時の真剣な表情を浮かべる。
投げ掛けられたコンパさんとアイエフさんの答えは、静かな首肯。それを受け取ったセイツさんは、口を開こうとして……けれど何も言わず、考え込む。
「いや…うん、この際……」
「…せーつ?」
「…ねぇ皆、明日って例の調査をする日よね?」
「あ…はい、そうですね」
「なら…ピーシェ、明日は二人にも来てもらう…ってのはどうかしら?二人がいれば、何かあってもより安全でしょ?」
「それは…うん。ぴぃも、それは悪くないと思う」
わたし達が頭上に疑問符を浮かべる中、皆さんの方では話が進む。取り敢えず、明日どこかの調査に向かうらしいけど…えぇ、っと……。
「じゃあ、後はプルルート次第だけど…ネプテューヌ、ネプギア、一つお願いしてもいい?」
「それは、明日の調査?…ってやつに、一緒に来てほしい…って話?」
「そういう事。それにはプルルートも来るから、一緒に二人の事を紹介も出来るでしょ?」
「へぇ、それなら勿論大丈夫だよ。わたしだって、実際に会ってみたいしね」
「わたしも大丈夫です。各国で皆さんが動いてくれている間、何もせず待っている…なんて訳にはいきませんから」
具体的な事は分からないけど、どういう意図での話なのかは分かった。だからまずお姉ちゃんが反応して、続けてわたしも首肯する。
「じゃあ決まりね。猛争モンスター絡みの調査だから、戦闘になる可能性も高いけど…頼むわよ」
「任せてっ!っていうかわたし達四人がいて、そのプルルートって人も女神なんでしょ?だったら強制敗北戦闘にでもならない限り余裕だって!」
「うわ…ねぷ子、思いっ切りフラグ建ててるわね……」
「あはは…でも、ねぷねぷらしいです」
びしりっ、と自信満々にお姉ちゃんが言って、それにアイエフさんが呆れ気味に突っ込んで、そんなやり取りをコンパさんが優しい顔で穏やかに眺めて。そんな信次元じゃありふれた光景が、こっちでも見られたわたしは思わず少し笑っちゃって……気付けば空気も、回復していた。
それは間違いなく、話が前に進んだから。でもそこで、回復し始めたのを目敏く感じ取ったお姉ちゃんがその空気を後押ししたから、これだけ回復したんだと思う。
わたしにこういう事は出来ない。もしかしたら、自分の気付かないところでしているかもしれないけど…少なくとも、狙ってやるのはきっと無理。
(…なんて、わたしはすぐお姉ちゃんは凄い、に結び付けちゃうなぁ…。…凄いのは事実だけど)
思わず浮かんだ苦笑いは、わたし自身に対するもの。別に嫌とかじゃなくて、ただただわたしはわたしに苦笑しちゃった。本当に、わたしはお姉ちゃんが大好きだなぁ…って。
「…ねぷぎあ?何笑ってるの?」
「あ…いえ、何でもないですよ。何でも」
「ふふっ、でも貴方の心は素敵な弾み方をしてたわよ?」
「…えぇ、っと…ピーシェさん、この場合の反応って……」
「あー、うん。こういう時は適当でいいから」
「ちょっと…わたしは冗談で言ってる訳じゃないんだから、もう少し真面目に返してあげてもいいじゃない……」
そんな感じで、明日の調査へわたし達も同行する事が決定。やる事の詳細を聞いて、ピーシェさんの事から始まった話はそれでお開き。まさかこんな話になるとは思っていなかったけど…多分これも、必要な話だったと思う。
プルルートさんが、どんな人かは分からない。でも、仲良くさせてほしいと思うし…大変な事があるなら、力になりたい。だって、プルルートさんの事を、皆さんが大切に思っているのは…この話の中で、はっきりと伝わってきたから。
*
次の日の朝。ご飯を食べて、出発準備を整えたわたしとネプギアは今、聖堂でピー子達を待っている真っ最中。
「ねぇねぇネプギア、わたし達が隠れてたらピー子達はどんな反応するかな?」
「え?うーん…あれ?…って小首を傾げるんじゃない?」
「ノンノン、そんな普通の回答じゃ駄目だよネプギア。こういう時はまず一度ボケないと」
「えぇ…?じゃあ……碌に探しもせず誰もいないと思って、べらべら秘密を喋っちゃうとか…?」
「おー、新喜劇的な展開になる訳だね!面白さはまずまずだけど、パロディアシストに繋げたのは中々良いよ!」
わたしの冗談発言に対し、ネプギアは真面目に考えて返答。こういう時イリゼやノワールならばっちり突っ込んでくれるし、わたしとしてもどっちかと言えばそれを期待してたんだけど……この素直さがネプギアの魅力の一つだよね。可愛いよ、ネプギアっ!
「えへへ…期待に応えられたなら良かったかな」
「うんうん、求めてたのとは違うけど…っと、噂をすればー、だね」
頬を緩ませるネプギアに頷いたわたしは、そこで教会の奥から出てきたピー子とセイツを発見。その後ろには、見覚えのない女の子もいて……
「……っ…!…ねぷちゃん…ねぷぎあ、ちゃん……」
その子は聖堂に入った瞬間、わたし達を目にした瞬間……わたしとネプギアの名前を、呟いた。その声に籠っているのは、二人から聞いていたとかじゃない…前からわたし達を知っている人の響き。
「…え、っと…ピー子、もしかして……」
「…うん。この人が、ぷるると…この国の女神、プルルートだよ」
待っていたわたし達の前に立つ三人。ピー子とセイツに寄り添われるようにして現れた女の子…プルルートはぱっと見わたしと同じ位の背格好で、三つ編みにした髪は今のわたしと女神化したわたしの中間みたいな色をしていて……だけどそんな事より目を引くのは、その整った顔立ちを覆い隠すような暗い表情。
別に歪んでるとか泣いてるとか、そういう事じゃない。だから表情、って表現は少し違うんだけど……日の当たらない、光の届かない陰の様な雰囲気が、プルルートの顔にはあった。
「…あ、あの…プルルート、さん…は、知ってると思いますが、わたしは……」
「…うん。ねぷぎあちゃんと、ねぷちゃん…だよね…。…あ、あたしは……」
「…プルルート…?」
「ちょ…ちょっと、待って……!」
不安そうなセイツに呼ばれて、くるりと背を向けるプルルート。わたし達が見つめる中、プルルートは背を向けたまま何か手を動かして……
「……っ…あたしは、プルルート。プラネテューヌの、女神なんだ〜…っ!」
それからまた振り返った時、プルルートはふわっとした笑みを浮かべて、わたし達に自己紹介をしてくれた。のんびりとした……見てるこっちが切なくなる位、無理をしている表情で。
「…そっか…なら、お返ししないとね!わたしは信次元のプラネテューヌの守護女神、ネプテューヌだよ!同じプラネテューヌの女神として、宜しくねプルルート!……いや、プルルートはプルルートっていうより、ぷるるんかなっ!」
「…わたしはお姉ちゃん…守護女神パープルハートの妹、ネプギアです。宜しくお願いしますね、プルルートさん」
だからわたしは、笑顔で自己紹介を返す。だって無理までして笑顔を作ったって事は、心配しないでほしい、気を使わせたくないって気持ちの表れだから。
「ねぷちゃん、ねぷぎあちゃん……」
「うん、っていうかこの短い間にわたし達の名前を連続で呼ぶの三回目だよ?もしやぷるるん、ねぷって言葉が好きだったりするのかな?」
「ほぇ…?…そういえば、三回目だね……」
「あ、気付いてなかったんだ…まあいっか。それより人数揃ったし、早速行こうよ!」
意外な返しにちょっと驚きつつも、わたしは出入り口の方へと歩き出す。当然皆も付いてきてくれて、わたし達は扉の前へ。
「…大丈夫、大丈夫……」
「……?プルルートさん?」
「あ…な、何でもないよ〜…?」
教会正面の扉から出る直前、ぽつりと何かを呟いたぷるるん。でもそれを訊いたネプギアは誤魔化されちゃって、そのままぷるるんはピー子達と外へ……
「…ってちょっと待った!ね、ねぇぷるるん、ぷるるんが履いてるのってスリッパじゃない?そのまま外出ちゃって大丈夫なの?」
「スリッパ…?…あー…またやっちゃった…えへへ……」
「ま、またって……」
さも当然のようにスリッパで出ていくぷるるんに、思わずわたしは軽く呆然。しかもそのまま行く感じだし……うん、これはあれだね。ぷるるん、こんぱと同じかそれ以上の天然だね?
「…お姉ちゃん、プルルートさんは……」
「うーん…様子からして、体調が悪いってより何か悩みとか問題を抱えてる…って感じだよね…対人恐怖症とかかな…?」
道中、三人の後に続きながらわたし達は小声で会話。気は遣わずに接しようとは思ってるけど、やっぱりあれだけ無理する裏には何があるのかな…って思っちゃう。まぁ、調査に出られる時点で体調が悪いって線はないんだけどさ。
(…流石にまだ、踏み込んだ事は訊けないよね。それよりも今は、調査の方を頑張らないと)
暗い空気も余計な建前も吹っ飛ばすのがわたしだけど、踏み込むべき時とそうじゃない時はしっかり区別をしてるつもり。鈍感は主人公のデフォルトスキルだけど、わたしはそこら辺の節度を持ってる系主人公だからね!
という事で、わたし達が移動した先は街の中心から離れた森。ここは自然の中のレクリエーションを楽しめるよう整備してる最中で、でも今は猛争モンスターの形跡らしきものがあったから一時整備を中止してるんだとか。
「もうすぐ落ち合う地点ね…プルルート」
「う、うん…」
道中多少のぎこちなさはありながらも雑談に加わっていたぷるるんだけど、今は少し緊張した顔。やっぱり対人恐怖症なのかな…とわたしが思っていると、そこでぷるるんは立ち止まって、深呼吸して……女神化。
『おぉー……』
ぷるるんを包んだ光が消えた時、そこにいたのは大人の女性。女神化したわたしより若干青みが強い紫の髪をロングヘアーにした、スタイルも女神化したわたしと同じ位かそれ以上の、ほんとにもう大人としか言いようのない女の人。
「…行きましょ、皆」
外見的には女神化したベールと同じ、美少女じゃなくて美女ってタイプになったぷるるん。だけど顔付きはまだ緊張していて…ううん、緊張はむしろ増してる感じ。しかも気付けばピー子とセイツの二人も心なしか緊張していて……けれどわたしには、何でそんな顔をするのかが分からない。
「…んん?おぉ、女神様方!」
「…こんにちは。貴方がここの統括者かしら?」
「えぇはい。女神様自らご足労頂き、誠に感謝致します」
更にそこから数分位したところで、プレハブの建物の前に立つ、一人の男の人と遭遇。どうもぷるるんはこの人…っていうか、ここにいる人達と会うから女神化をしたみたいで、今は直近の情報を聞き取り中。
「…あれ……?」
「…どしたの?ネプギア」
「う、うん…ほら、あの人…プルルートさんを見て、ちょっとびくびくしてるような……」
「あ、ほんとだ…何かあるのかな……」
言われてわたしも見てみると、確かに建物から出てきた人達の中に一人、挙動不審…とまでは言わずとも、何か落ち着かない感じの人がいる。他の人はそんな事なくて、ぷるるんに尊敬の視線を向けていたり、やっと来てくれたと安堵の表情を浮かべてる人が殆どだから、相対的にその人の様子のおかしさが目立つ。…うーん…まさか不正を働いてるとか?いやでも、様子だけでそんな疑いを向けるのは良くないよね。
「…ですのでどうか、モンスターを排除して頂きたく……」
「えぇ、そのつもりよ。国、国民の安全を守るのが…女神の、務めだもの…」
「ありがとうございます女神様…!ご武運をお祈りします…!」
深々と頭を下げる男の人達ににこりと微笑み軽く手を振って、ぷるるんは移動開始。わたし達も会釈して、ぷるるんの後に続いていく。
「武運を祈られちゃったね。あの人達も、わたし達の事知ってるのかな?」
「女神としての姿は知ってると思うわよ。こっちでの二人は、こっちのプラネテューヌの新たな女神…って風に認識されてたし」
「え…それ、超次元のプラネテューヌは大丈夫だったんですか…?女神が鞍替えした、って混乱が起きてたりしたんじゃ……」
「それ以前に、二人がこっちに『飛ばされた』立場で、暫くは連絡も取れなかったらしいから、その時はそれどころじゃない…って感じだったらしいわよ。でしょ?プルルート」
「そ…そうね。ねぷちゃんもねぷぎあちゃんも、ノワールちゃんの上に落っこちてきたわ」
「あ、そういえばブランもそんな事言ってたね。女神の下ののわる持ち、ってところかな」
「いや、全然意味分かんないから」
「わぉ、キビシー!…ケドソノトオリダネッ!」
『今小声で何か言わなかった!?』
思ったより良い反応が貰えてちょっと満足のわたし。その内の一人、さっきから半眼で訊いてたピー子は携帯端末を取り出して、その画面に地図みたいなのを表示させる。
「ピーシェさん、それは…?」
「ここの地図。で、ここが多分猛争モンスターが巣にしてる場所」
「へ?調査って…その猛争モンスターを探す事じゃなかったの…?」
「それをぴぃ達がしてたら時間がかかるから、それは別の人達に予め頼んでおいたの。だから、探すのはモンスターじゃなくて…猛争化の、原因の方。これは何があるか分からないし、戦力は多いに越した事はないでしょ?」
中々知的っぽい事を言うピー子の説明に、わたしは感心。っていうか、ちょっと驚き。なーんだ…ピー子って、こういう頭良さそうな事も話せるんだね。
「…ねぷてぬ、今凄く失礼な事考えてない?」
「考えてない考えてない。これが失礼な事考えてる顔に見える?(*´ω`*)」
「うわっ、いすとわるの真似してる…まぁ、それならいいけど……」
「皆、雑談はこの位にして…一気に猛争モンスターを叩くわよ。あまり長期戦にはしたくないし」
聡いのか、それとも地の文を読んできたのか。とにかく半眼から更にジト目になったピー子に冗談で返すと、そこでセイツが真面目な顔をして声を上げる。
確かに相手がこっちより多数で、まだ気付かれてないなら奇襲からの短期決戦が効果的。セイツが言いたいのはそういう事なんだろうなぁと思って、わたしも意識を切り替える。
「…セイツちゃん、何か考えている戦法はある…?」
「いつも通り、わたしとピーシェが前衛で、プルルートが一歩下がったところから援護…って形で大丈夫だと思うわ。ネプテューヌはわたし達と前衛、ネプギアは……」
「更に後ろから、火力支援…とかですか?」
「そうね、それでお願い。それじゃあプルルート、号令頼むわ」
「あ、あたし…?…けど、そうよね…その為の今日だものね……」
『……?』
セイツから号令を頼まれたぷるるんは、自分に言い聞かせるように呟きながら右手を胸の前できゅっと握る。それの意味もやっぱりわたしには分からないけど、一先ず考えるべきは戦闘の事。だからわたしとネプギアも、ピー子達に続いて女神化をする。
「…じゃあ…いくわよ、皆…!」
その声を合図に、ピーシェとセイツの二人が飛翔。わたしも続く形で地を蹴って、森の中を駆け抜けていく。
「ネプテューヌ、わたし達だけで片付ける位の勢いでいくわよッ!」
「え?あ、そ、そうね!奇襲ならそれ位の気概が必要だものね…ッ!」
会敵の直前、セイツから放たれた言葉。それをわたしなりに解釈し、正面へ意識を戻した次の瞬間視界が開け、数体のモンスターの姿が目に入ってくる。
まず突出したのはピー子。構えも何もない形で突っ込んで行って、一番近くにいたモンスターへ飛び蹴り。更にそこへわたしとセイツが斬り込んで、突如吹っ飛んでいった味方の存在に唖然としているモンスター達を斬り裂いていく。よし…取り敢えず初撃は完璧ね…ッ!
「どーんっ!どーんっ!もいっかいどーんッ!」
「わ、っとと…ほんとにピー子は豪快ね…!」
「ふふっ、あんなに心のまま戦う姿を間近で見せられたら、自然とこっちも昂っちゃうでしょう?」
「…まぁ、分からない事はないわ…ッ!」
打撃で次々と吹き飛ばしていくピー子を横目に見ながら、わたしとセイツで短く会話。実際やろうとは思わないけど…ピー子みたいに豪快に、技術も駆け引きも無視した戦い方が出来たら、それはそれで中々気持ち良いんじゃないかと思う。
奇襲を仕掛けてから十数秒。漸く群れは混乱状態から戦闘状態に移行し、距離の離れていた個体も次々と襲撃者であるわたし達の方へ。けれどその動きの中に群れとしての連携はなく、とにかく排除しようとこちらへ突っ込んでくるばかり。
(…やっぱり、一体一体の強さは汚染モンスター程じゃないわね……!)
飛び込んできた一体を蹴り返し、入れ替わるように突っ込んできた個体は頭部を両断。そこで一度後ろに跳んで、追い掛けてきた数体を大太刀の長さを活かして一気に横薙ぎ。中には倒し切れないモンスターもいるけど…それだって、汚染モンスター程のタフさは感じない。
最初に流れを掴んだ事もあって、戦況はこっちが大いに有利。モンスターもそれを理解したのか、比較的後ろにいる方の個体が集まり出したけど…そこに飛来するのはネプギアの射撃。更に射撃を逃れた個体へ向かって、見覚えのない刃が襲い掛かる。
「……!これって…蛇腹剣……!?」
巻き付きモンスターの身体を引き裂くのは、ワイヤーらしき物で連なった幾つもの刃。まさか、こんな武器を見る事になるなんて…と思いながら振り向けば、その武器の主はやっぱりぷるるん。
「…ふ……ッ!」
捕縛や薙ぎ払いで連携を潰すぷるるんが浮かべているのは、険しい顔。一目で気を張ってる事が分かる表情だけど…っと、余所見は厳禁ね…!
「ぷるるとぷるるとっ!モンスターいっぱいつかまえてッ!」
「あ、え、えぇ……!」
飛び上がると同時に声を上げるピー子。それを受けたぷるるんは前に跳んで、大きく伸ばした蛇腹剣で一気に捕縛。流石に武器の性質もあってか、何十体も纏めて…とはいかないようだったけど、そこへ急降下してきたピー子が鉤爪を叩き付けて…捕縛していたモンスターを、一気に殲滅。この一撃で、流れは完全にわたし達のものになって…ここからはもう、如何に逃がさす倒すかの戦いだった。
「ふ、ふ…これで、最後…よ……ッ!」
刀身を引き戻したぷるるんの、抉るような斬り上げ。それを真正面から受けたモンスターは一回転して地面に落下し、びくんと一つ痙攣してから動かなくなる。
それが、ここにいた最後の猛争モンスター。奇襲からの短期決戦は完全に成功し…こっちは殆ど怪我する事なく、完全勝利で戦闘は終わった。
「あははっ!きょうもぴぃたちのかちだねっ!」
「えぇ。これで彼等にも朗報を聞かせてあげられるわね」
ぴょこんと跳んできたピー子と、微笑んだセイツがハイタッチ。ピー子はそのままこっちにも来て、わたし達全員と手を叩き合う。
「皆もお疲れ様。…あ、そういえば…ごめんなさいネプギア。貴女、昨日シェアエナジーは出来るだけ節約したいって言ってたのに……」
「大丈夫ですよ、セイツさん。節約と出し惜しみは違いますし」
「そう言ってくれると助かるわ。…プルルートも大丈夫?」
「…えぇ、大丈夫よ」
「…そう。なら、ここからは調査ね。取り敢えず二手に分かれるとして、わたしかピーシェがプルルートと……」
一ヶ所に皆で集まったところで、セイツがこれからの事を話し出す。…と、その時。
「……へっ…?」
不意に、セイツの言葉を遮るように声を上げたネプギア。何事かと思ってわたし達が振り向くと…ネプギアの顔に浮かんでいるのは、驚きの表情。そしてそれは、次第に思案の顔へと変わり…ネプギアはぶつぶつと呟き始める。
「…どうしてここに…?…いや、でも…まさか……」
「…ねぷぎあ?どーしたの?」
「…あ…す、すみません皆さん!わたし少し、気になる事が出来ました!すぐに戻ってくるので待っていて下さい!」
「え、ちょっ、ネプギア!?」
何やら呟いていたネプギアは、そこからいきなり説明も無しにその場から飛翔。普段のネプギアらしからぬ行動に、わたしも皆も驚いて…って、そんな事考えてる場合じゃないわね…!
「ネプギアはわたしが追うわ!潜んでたモンスターがいたのかもしれないし、皆はここで警戒してて!」
それだけ言ってわたしも飛び上がり、先を行くネプギアの後を追う。
いつもは考えて動くネプギアだからこそ、こんな行動を取ったって事はきっと重要な何かがある筈。そう思ってわたしはネプギアを追い掛け…数分後、やっとわたしはネプギアに追い付く。
「……っ…見失った…?」
「見失った…?…じゃないわよネプギア」
「あぅ…あ、お姉ちゃん……」
握った拳の付け根で後頭部を軽く小突くと、それでネプギアは気付いた様子。…全く、急に独断専行なんて、一体誰の影響を受けたのかしらね。
「…その、ごめんなさい……」
「反省してるならいいわ。…で、何を見つけたの?」
「…マジェコンヌさん」
「え?」
やった事にこれ以上言及する必要はない。そう感じたわたしがすぐに本題へ入ると、ネプギアが口にしたのは意外過ぎる人物の名前。…マジェコンヌ、って……。
「…見間違いじゃないの?」
「…正直、確証はないの。だから、確かめようと思って……」
「そういう事…確かにマジェコンヌなら、確かめる必要性はあるわね。けど、見失ったって事は……」
「…うん。そもそも木とか影を誤認した…って事もあるかも……」
「ま、そうよね。でもそれなら好都合じゃない。何もないに越した事はないんだから」
もしもネプギアの見間違いなら、これは無駄だったって事になる。でも危険な何かを発見出来るよりは、無駄足だった方がずっといい。そう思ってわたしが言葉を返すと、ネプギアもこくりと一つ頷いて……
「…ここにいたのね、二人共」
わたし達が着地した時、背後から声が聞こえてきた。振り向いてみれば、その声を発したのは追い掛けてきた様子のぷるるん。
「プルルートさん…すみません、勝手に飛び出しちゃって」
「ううん…気にしないで、ねぷぎあちゃん」
「わたしからも謝るわ。…さてと、じゃあ戻るとしましょ」
「…そう、ね」
兎にも角にも、見失ったのなら仕方ない。放置していい事でもないけど、どっちにしろここ周辺はこれから調査をする区域。なら皆…というか二人と合流する方が先決だと思って、わたしは再び浮き上がる。
「…………」
「…プルルートさん?」
同じように、ネプギアも地上から空中へ。けれど何故か、ぷるるんはその場に立ったまま。立ったままで、わたし達に顔が見えない角度で俯いている。
「あの、プルルートさん?どうしました?もしかして、何か具合でも……」
わたしより先に降りて、心配するように近付くネプギア。そこにわたしも続こうとして、そして……
「…あー……」
「…やっぱり、こんなの…静かに、落ち着いてるなんて……」
「──窮屈過ぎて、肩が凝っちゃうわぁ…♪」
次の瞬間、ぷるるんは豹変した。それまでずっと浮かんでいた緊張感が消えて…代わりに浮かんできたのは、妖艶な笑み。
「え、え……?」
「なぁにネプギアちゃん、驚いちゃったの?」
「そ、それは…驚いたというか、動揺してるというか……」
「ふふっ、まぁそうよねぇ。…けど、そんな事はどうでもいいの。そんな事より……今は勝手に飛び出して、しかもすみませんの一言で済ませようとしたネプギアちゃんの事でしょう?」
目を白黒させるネプギアの手首を掴んで、ぷるるんはネプギアを自分の側へ。続けてぷるるんは、まるでネプギアを責めるような言葉を口にして……びくり、と突如ネプギアは身体を震わせる。
「うぁ……ッ!?」
「ネプギア…!?」
「うふふ…実はあたし、少し魔法も使えるのよ?特に得意なのは、電気の魔法なんだけど…女神でも直に流されたら、身体がびりっとするでしょ?」
「ふぇ?で、電気…?ぷ、プルルートさん…何を……」
「何をってぇ、今言ったでしょう?ネプギアちゃんの話だって。あたし、思うのよ。人がお利口さんになるには、身体で覚えるのが一番だって」
「か、身体…!?だから何を…くぁ……ッ!」
わたしが見ている目の前で、ネプギアは再び身体を震わせる。その理由は……電気に、電流以外にあり得ない。
「ねぷぎあちゃん、まずは言ってもらえるかしら?お馬鹿さんのわたしは、皆の事を考えずに勝手な事をしましたって。もうこんな事しないよう、ちゃんとわたしを叱って下さいって」
「な……ッ!?」
「な?『な』から始まる言葉なんて、あたし言ってないわよねぇ?もしかしてねぷぎあちゃん、逆らうのぉ?悪い事した癖に、信次元の女神は反省も出来ないのかしら?」
「そ、そんな事…っ!それに、反省なら……うぁぁぁぁッ!」
「ねぷぎあちゃあん?聞こえてない訳じゃないわよねぇ?あたしは、ちゃんと言うべき事を教えてあげたわよねぇ?もしやねぷぎあちゃん、あたしを小馬鹿にしてるのかしら?それともぉ…この電撃をぉ、もっともっと浴びたいっていうマゾヒス──」
「──止めなさいプルルート。貴女がどんなつもりかは知らないけど…それ以上わたしの妹を、プラネテューヌの女神候補生を侮辱するなら、わたしもそれ相応の態度で返させてもらうわよ」
どんどん大きくなるネプギアの呻き。それに反して頬を紅潮させ、楽しそうに次々と言葉を並べ立てるプルルート。その表情は愉悦に満ちていて、漏れ出る電流の光も強くなっていって……だから、わたしはネプギアの手首を掴む腕を捻り上げた。捻り上げ、わたしの方へと無理矢理向かせて……睨め付ける。
「…お、お姉ちゃん……?」
「…………」
「…なぁに?ねぷちゃん。あたしはねぷぎあちゃんに、自分のした事を理解してもらおうと思っただけよ?それが分からないなんて事……」
交錯するわたしの視線とプルルートの視線。わたしの視線には一切臆する事も、驚愕する事もないプルルートは、そのままネプギアに向けていた言葉を今度はわたしへ向け始めて……
「…………ぁ…」
その瞬間、プルルートは固まった。目を見開いて、愉悦の感情が一瞬の内に消え去って……そしてプルルートの表情は、何かへの恐怖に包まれる。
「あ、あぁ…ああ……ああああああ……」
「…プル、ルート…?貴女、急に何を……」
「……ごめんなさい…」
「え……?」
「ごめんなさい…ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…!あ、あたし…あたし、また……っ!」
狼狽え、怯え、後退るプルルート。訳が分からず手を伸ばすと、プルルートはびくりと大きく肩を震わせ、怯えながら何度も何度も謝罪の言葉を零していく。
さっきと同様の、もしかしたらそれ以上の豹変。それにわたし達が付いていけず、ただ呆然と見つめる中、プルルートは両手で自分の顔を覆い……そのまま飛び去っていってしまう。…それはまるで、わたし達から……自分からも、逃げるように。
今回のパロディ解説
・新喜劇
よしもと新喜劇の事。誰もいないと思い込んだ悪役が、わざわざそれなりの声量で悪事を喋ってしまうのは、新喜劇のお約束の流れの一つですね。
・「わぉ、キビシー!…ケドソノトオリダネッ!」
ID:INVADED イド:インヴェイデッドに登場するキャラの一人、穴井戸こと富久田保津の台詞の一つのパロディ。彼の「わぉ」は中々にインパクト強いですよね。