超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第五十三話 先はまだ見えないけど

 黄金の塔の捜索は、人海戦術で連日実行中。手掛かりがない以上はそういう形で探すしかないし、その手掛かり探しだってやっぱり人数をかけて行うのが最高…ではないにしても現状じゃ無難。

 でも、今は状況が変わった。何かと言えば、それはマジェコンヌの存在。もし嘗ての、或いはうずめ達のいる次元で戦ったのと同様のマジェコンヌがこの次元にいるのなら、捜索をしている各国の軍人に危険が及ぶかもしれない。けれど塔の捜索も重要な以上、マジェコンヌの件が解決するまで人海戦術は中止…という判断も出来ない。

 じゃあ、どうするか。それを話し合う中で、ある意見がふっと出てきた。……マジェコンヌを引き付けるなら、わたしが片っ端から飛び回ってみるのが一番だって。

 

「…という訳で、飛び回っている訳だけど…本当にこんなので上手くいくのかしら……」

 

 地上をちゃんと見える程度の高度で飛行する事数時間。今わたしは、ネプギアと二人で生活圏外を捜索中。

 

「うーん…でもこっちのマジェコンヌさんはお姉ちゃんを見るや否や仕掛けてきたし、全くもってあり得ない話…って訳じゃないと思うよ?」

「確かにそれはそうだけど…そもそもどういう原理なのよ、初対面の相手に強い敵意と憎しみが自然と浮かんできたって……」

 

 聞くところによると、マジェコンヌはわたし…超次元のわたしと初めて会ったその時から、執拗にわたしを狙ってきたんだとか。当然初対面且つ別次元の存在なんだから、超次元のわたしが憎まれる謂れなんてないのに、まるで何度も戦ってきた因縁の相手であるかのように。

 

「それに、マジェコンヌが今どこにいるかも分からないのよ?それなのに、闇雲にただ飛び回ってみるなんて……」

「…お姉ちゃんってさ、意外と突飛な発想を受ける側になると常識的な考え方するよね……」

「う……ま、まさかネプギアにそんな事を言われるなんて…」

「あ…ご、ごめんねお姉ちゃん!別に悪く言うつもりは……」

「え、えぇ。それは分かっているわ。…けど確かに、その指摘はちょっと考えさせるものがあるわ……」

 

 偶然にもマジェコンヌ、そして塔を発見する可能性もゼロではないから、わたしは周囲の警戒を維持しつつも考える。

 確かに、思い返せば…というかわたしが皆の立場なら、真っ先にこれと同じような提案をしている筈。でもだからってこの策に乗り気になれるかと言われればNOな訳で……我ながら、何とも言えない気分ね…。

 

「…でも実際さ、わたし達が連日四方八方飛び回っていれば、マジェコンヌさんがそれを知る可能性は十分あるよね?それにこれは、これまでわたし達の敵だったマジェコンヌさんと同じ性格をしているのならの話だけど…わたし達を倒そうとしてるなら、皆さんと離れてる今みたいなタイミングを狙ってくると思わない?」

「……ねぇ、ネプギア」

「うん、どうしたのお姉ちゃん」

「…妹に返す言葉もない程納得出来る事言われたら、なんて反応すればいいのかしら……」

「え、えーっと…わたし的には、『一理あるわね』とか言ってくれると嬉しいかな……」

 

 わたしがどうにも飲み込み切れていない中、さらりと自分なりの考えを口にするネプギア。…姉として、妹がしっかりしてる姿を見られるのは本当に誇らしいけど…はは、今は姉妹逆転してるって言われても言い返せない気がするわ……。

 

「…こほん。まあでもともかく、他にこれだって案がない以上は、一先ずやってみるべきよね、うん」

「そ、そうだね。そういう事だよね…」

 

 何かネプギアから、「あ、結局そんな強引に丸め込むみたいな結論にするんだ…」みたいな視線を受けたような気もするけど、兎にも角にももう行動はしてるんだからもやもや考えてたって仕方ない。

 そう気持ちを切り替えて、わたし達は飛行を続行。そうして更に数十分程した頃……わたしの視界に、気になるものが入り込んできた。

 

(あれは…煙……?)

 

 山岳地帯へ入ったところで、わたしが発見したのは立ち昇る砂煙。それも結構な量で、少なくとも自然に発生するようなものじゃない。

 

「…ネプギア」

「うん、見えてるよ。…行ってみる?」

「えぇ。ひょっとすると、戦闘が起きているのかもしれないわ」

 

 顔を見合わせ頷き合い、わたし達は砂煙の立ち昇る場所へと向けて下降。警戒度を高めつつ、砂煙とその周囲に目を凝らす。

 

「……っ!あった…ッ!」

 

 高度を下げ、砂煙の中へと突入する直前、わたしは煙の発生源…というか、出てきている場所を視認。そこは洞窟の様になっている場所で、わたしとネプギアはその左右に分かれて着地し壁面を背に。

 大太刀を右手で握って、ネプギアとアイコンタクト。そしてわたし達は呼吸を合わせて、突入する。

 

「……っ…これ、もう少し奥から来てるね…」

「そのようね。ここは慎重に…って、今…何か声が…!」

 

 何が起きているか分からない以上、下手に砂煙を吹き飛ばす訳にはいかない。だから一歩一歩慎重に進んでいると、次第に瓦解音に混じって誰かの声が聞こえてくる。

 その瞬間、確信した。この砂煙の量に、瓦解音に搔き消されない程の声となれば、もう何か只ならぬ事が起きているに違いないと。

 ならもう、悠長な事は言ってられない。一気に発生源まで行くしかない。その判断を同時に下したわたし達は、地を蹴り洞窟内を駆け抜ける。そして洞窟の奥で、わたし達が目にしたのは……

 

「ドララララララララララァァッ!今日も元気に掘削掘削ぅッ!!」

 

──凄まじい勢いで岩壁を破壊し、至極楽しそうな叫びを上げながら洞窟を掘り進める…ロボット?…らしき巨漢だった。

 

 

 

 

「ははははは!そうかそうか、それで戦闘が起きてるんじゃないかと勘違いしてしまったのか!全く、二人共早とちりさんだなぁッ!」

 

 十数分後。砂煙が採掘作業の為の掘削によるものであると知ったわたし達は、掘削を行っていた彼…コピリーエースと名乗るロボットに、思いっ切り笑われていた。…まぁ、笑われているって言っても嘲笑的なものじゃなく、陽気に面白がってるって感じだけど……。

 

「あ、あはははは…すみません、いきなり武器を持って現れちゃって……」

「悪気はなかったんだろう?なら気にする事はないさっ!」

「そ、そう言ってくれると助かるよ…」

 

 爽やか…と言うには暑苦し過ぎる笑顔で水に流してくれるコピリーエース。…危うく仕掛けるところだったわたし達をあっさり許してくれる辺り、良い人(ロボット)なんだろうけど……物凄く頭に響くね、この声…。

 

「気にする事はないさ、じゃないですコピリーエースさん!そもそもこれは、貴方が準備完了前に勝手に作業を始めちゃったからじゃないですか!」

「だが、安全確認は怠らなかったぞ?ちゃんと周囲に人がいないかも見ておいた!」

「いや現に掘削作業中だって分からず女神様に勘違いをさせてしまったんでしょう!?…申し訳ありません女神様、うちの部長が軽率なばかりに……」

 

 そんな彼に対し、部下らしい人が問い詰めた後わたし達に謝罪。実際、今はわたし達が洞窟から出たところで追い付いた作業員さん達が作業の準備を進めていて、洞窟内も何をしているか一目瞭然。で、言われたコピリーエースはといえば、言われた直後は「むぅ…」みたいな顔をしていたものの、すぐにまた「なぁに、なら次からは気を付けるだけさ!」とか言っていて……凄いね、どんどん彼の性格が分かっていくよ…。

 

「えぇと、この通り反省はしてる…と、思いますので…お許しを……」

「あぁ、大丈夫だよ。別に怒ってはいないからさ。…けど、部長って…彼が?」

「はい。確かに事務作業や管理職としての仕事は苦手なコピリーエースさんですが……おーい皆、部長は良いリーダーだよなー?」

「それは勿論!毎回現場に来て、大変な作業を率先してやってくれるんだもんな!」

「しかも、ワタシ達の誰よりも作業早いし、流石コピリーさんよね」

「…このように、人望はあるんです。女神様と同じで、一番前に立ってくれる方ですから」

「お前…それに皆も…よ、よせよ!俺は好きでやってるだけなのに、照れるじゃないかっ!」

 

 そこからふと気になった事を聞いてみると、コピリーエースは本当に部長である事、かなり信頼されている事が判明。コピリーエースもよせよと言ってる割には満更でもなさそうで、ほんとに良いリーダーなんだなぁとわたしは思った。うんうん、やっぱ大事なのはそういう部分だよね!事務作業とかじゃなくてさ!

 

「ふふっ、素敵な職場みたいだね。…さてと、じゃあわたし達の勘違いだった訳だし、そろそろ行く?」

「む、もう行くのか?ならその前に……」

 

 ネプギアの言葉に頷きわたしが用意してもらった椅子から立ち上がろうとしたところで、コピリーエースは急に何やら身体をガチャガチャと鳴らし出す。それをわたしがきょとんと、ネプギアが興味津々な様子で見つめる中、コピリーエースは真剣な顔になり……お腹の辺りが開いて、そこから急須が展開された。

 

「え……急須!?いや、ちょっ…何故に!?何故にロボットのお腹から急須が!?」

「それは勿論、お茶を振る舞う為さ!ささっ、飲んでみてくれ二人共!」

「え、えぇー……」

 

 一緒に出てきた湯飲みをテーブルに置いて、明らかにサイズ間の合ってない両腕部で器用にお茶を注ぐコピリーエース。あんまりにもシュール過ぎる光景にわたしが唖然としている中、注ぎ終わったコピリーエースはその湯飲みをわたし達の前に。…う、うーん…突っ込みどころあり過ぎだし、ロボットとはいえ体内で作られた(?)飲み物っていうのにも抵抗はあるけど…だ、だからって飲まない訳にはいかないよね…。うぅ、仕方ない……って、

 

「…あれ?…美味しい……」

「だろう?そうだろう?何せこれはマジェコンヌが一から育て、俺が淹れた、謂わば七賢…じゃなかった、セブンスジーニア社特製の緑茶だからな!」

「え、マジェコンヌってお茶も作ってるの…?…ほんと、何があったのこの次元のマジェコンヌは…そして、ほんとに美味しいねこのお茶……」

「うん…深みがあって、でも苦さは控えめでさっぱりしてて…っていうか、温かいって事は…コピリーエースさん、これは保温機能の賜物ですか?それとももしや、体内で発生する熱を利用して水を温めているとかですか…!?」

「な、何!?俺の身体の中を気にするなんて…真っ昼間から何の話をしているんだ!?」

「えぇぇ!?い、いやわたしが気になるのはそういう事じゃなくて…と、思いましたがよく考えたらロボットの方にとってはそういう意味になっちゃいますよね!す、すみませんコピリーエースさん!」

「おおぅ…ちょっと待ってよ二人共、突っ込みポイントが飽和起こして溢れかえっちゃってるって……」

 

 急須登場以降多過ぎるシュール&突飛発言に、ボケの申し子たるわたしですら流石に辟易。う、うん…「いやー、こうなると今週のビックリドッキリメカが出てきそうにも見えてくるよね!」…的なボケも温めてたところだけど…これ以上カオスになると目も当てられないし、これはわたしの心の中に留めておこうかな…。

 

「あー、こほんこほん!ネプギアー、わたし達の元々の目的は何だったっけー?」

「え?…あっ…そ、そうだった…」

「全くもー…はふぅ、ごちそー様!それじゃあ今度こそわたし達は行くね。最後になるけど、不審な動きをしてるマジェコンヌがいたら、近くの教会に連絡してね!」

「あぁ、偽者っぽいマジェコンヌがいたら連絡するさ!二人も頑張れよっ!」

「はい、お茶ありがとうございました!皆さんもお仕事頑張って下さいね!」

 

  まさかのわたしがしっかり者ポジになっちゃったけど、とにかくお茶を飲み干したわたし達はセブンスジーニア鉱業部門の皆とお別れ。凄く濃いキャラだったなぁとか、声量が常に間違ってたなぁとか思いながら女神化をして、またわたし達は空を飛び回るのだった。

 

 

 

 

 女神メモリーに込められた、女神としての自分を受け入れる事が、前へと進む唯一の方法。けれど心が絶望に沈んでいる、自分自身を恐れている今のプルルートに、受け入れろなんて言うのは酷以外の何者でもない。

 だからまずは、少しでもプルルートの心を癒すのが第一歩。それが例え一時的な癒しにしかならなくても、その間に受け入れて、これも自分なんだって思えるようになれば、きっとプルルートなら立ち直れる。前に進める。その為に、わたし達が出来るのは……

 

「……やっぱり、最高のお昼寝環境を用意してあげるとか…?」

『いや、それは……』

 

 プラネテューヌ教会の一角。そこでおずおずとピーシェが口にした案を、わたし、コンパ、アイエフの三人はやんわりと否定。ピーシェも取り敢えず言ってみただけらしく、だよね…と軽く苦笑いを浮かべる。

 今、わたし達はプルルートの心を癒す方法を模索中。この話し合いはこれまでにも何度もしていて…でもこんな案が出てきてしまう位には、毎回良い結論が出てくる事なく終わっている。

 

「いつもこうして詰まっちゃうけど…これ以外だと、何がぷるるとを楽しい…っていうか、楽な気持ちにさせてあげられるかな……」

「友達とのお喋り…は今の心境じゃ楽しめないでしょうし、ぬいぐるみ…は、多分自分で作るのが好きなんだものね……」

「むむ…こんぱ、医学の面から何か良い方法あったりしない?こう、気持ちが楽しくなる療法とか……」

「た、楽しくなるですか?…えと、ない事もないですけど……」

「けど……?」

「…使いたいですか?使うだけで楽しい気分になるお薬……」

「あ、あー…うん、これはなしにしよう……」

 

 他に何かないものか、と頭を捻るわたし達。途中ピーシェがコンパに話を振るも、訊き返す形での返答を聞いて医学的アプローチを早々に断念。…いやまあ、そもそもそれをコンパが用意出来るのかって問題もあるでしょうけどね…自生している植物を利用するとかなら出来るのかもしれないけど……。

 ともかく、毎回毎回こうして行き詰まり、日を改めてまた…としてきたのがこれまでの結果で、今回もまたそうなってしまいそうな雰囲気。そんな事をわたしが考えていると、少しの間沈黙していたアイエフが腕を組みつつ口を開く。

 

「…これを言っても仕方ないのかもしれないけど…そもそも、プルルートの心を曇らせてる要因が過去の事柄じゃなくて、現在進行形で続いている事柄な以上、そこに触れる事なく好転させる…って事自体が無理筋なんじゃないかしら……」

「…そうね、その通りだと思うわ。けどその方面で考えるにしても、やっぱり『ならどうする』って事に当たるのよね……」

「…ねぷねぷなら、ぷるちゃんの心の曇りを晴らしてくれたりしないですかね…?」

「…幾らねぷてぬでも、今すぐには無理だよ…ぴぃ達とずっと一緒にいたねぷてぬなら、出来るかもしれないけど…今いるねぷてぬは、まだぷるるとと知り合ったばっかり…だもん……」

 

 自分の見解を話す中で、段々とピーシェは悲しそうな表情に。それは言ってしまえば普通の事で、特に後半は周知の事実ではあるけど…ピーシェの表情につられるように、この場の空気も落ち込んでいく。

 ネプテューヌですらきっとどうにも出来ないから悲しいのか、改めて『違うねぷてぬ』である事を意識して辛くなったのか、或いはその両方なのか。…そのどれであっても見ているわたしまで切なくなるし、それはコンパやアイエフも同じ。

 

(…いや、違うわね。きっと、二人はもっと……)

 

 そこまで考えて、わたしは自分の思考を訂正。そんな訳ない。わたしと同じ訳がない。だって、二人もまたわたしよりずっとプルルートとの付き合いは長い訳で、二人とピーシェは赤ちゃんの頃から一緒にいる、姉妹も同然の間柄なんだから。

 あぁ、やっぱりこういう空気は好きじゃない。悲しい気持ち、嘆きの感情…それも時に可憐で美しく映るものだけど、わたしは皆に幸せでいてほしい。幸せな気持ちに辿り着いてほしい。

 

「…皆、今度は全員で…ネプテューヌやネプギアも呼んで、皆で考えましょ。プルルートを助けたい気持ちは、皆同じなんだから」

「う、うん……え?今度?今日はもう終わりにするの…?」

「元々今日は、この後各々やらなきゃいけない事あるでしょ?」

「ま、まぁそうだけど……」

 

 分かるけども…と、若干釈然としない表情を浮かべるアイエフ。とはいえこのまま話していてもこれまで同様時間を浪費するだけだとは思っていたのか、アイエフが一番最初に首肯してくれた。

 それに続いて、コンパとピーシェの二人も首肯。納得してくれた三人にわたしは一安心して、一番最初に席を立つ。

 

「せーつは、この後打ち合わせだっけ?」

「そうよ。今日も雑務、頼むわねピーシェ」

 

 訊いてきたピーシェに答えて、わたしは廊下へ。打ち合わせというのは、ネプテューヌ達にも(ピーシェが)ほんの少し話した国際文化・文明授与式に関する事で、ピーシェの行う雑務というのは…プルルートの代わりにやっている事。

 廊下を歩きながら、時刻を確認。まだ時間に余裕がある事を確認したわたしは、一度足を止めて……角を曲がる。

 今曲がったのは、教会の出口でも、わたしの使っている部屋に繋がる道でもない。なのにそこで曲がったのは…その前に、しておきたい事があるから。

 

「…………」

 

 ある部屋の前まで来たわたしは、その部屋の扉をノック。そのまま何も言わずに待つと、数秒経ってから小さな声が返ってくる。

 

「…ピーシェ、ちゃん…?」

「わたしよ、プルルート」

「…セイツ、ちゃん……」

 

 ここは、今プルルートがいる部屋。最初に返ってきたのがピーシェかどうか訊く言葉で、それを聞いてわたしは思った。ピーシェ、ほんとによくプルルートの所に来てるのね…って。

 

「…ネプギアちゃんは、近くにいる…?」

「いないわ」

「そっか…なら、伝えておいて…ごめんなさい、って……」

「…その気持ちなら、もう十分に伝わってるわよ。あの時、ネプギアだっていたんだもの」

 

 あの時というのは、二人にプルルートと女神メモリーの事を話した後の事。その時は本当に、何度も何度もネプギアへと謝っていて…あの時は誰もが辛かった。心が締め付けられるようだった。

 

「……ねぇ、プルルート。今も、怖い?自分じゃない自分が、段々自分になっていくのが」

「…………」

 

 これは、訊くまでもない事。閉じ籠っている事実が、何よりの証拠となっているような問い。だから、何も返ってこない扉へとわたしは背を預け、今のは聞き流してと付け加える。…扉越しでも、伝わってくるわ…プルルートの、辛い気持ちが……。

 

「…怒ってるよね、セイツちゃんは……」

「…怒ってる?」

「…嫌い、でしょ…?ちゃんと務めを果たさない…皆の思いに応えないような、女神は……」

 

 今度は、プルルートからの言葉。訊いているようで、その内側に自分を責めるような思いが込められた、荒んだ問い。それを聞いたわたしは、ゆっくりと息を吐いて…そのままの姿勢で、答える。

 

「…そうね。確かにわたしは、あいつが…そういう女神が心底嫌いだし、貴女の事も……正直、苛立たしく思っていないと言えば嘘になるわ」

「……だよ、ね…ごめん、なさい…」

「…でもね、それ以上にわたしは貴女が…消えてしまいそうな程に苦しんでいる今のプルルートを、放っておく事なんて出来ないのよ。それに、この思いは皆も同じ。…この事は、プルルートだって分かってるでしょ?」

 

 また、答える言葉は返ってこない。だけどきっと、この扉の奥でプルルートは頷いてくれたと思う。プルルートはぼんやりしていて、天然な女の子だけど…女神として、人の気持ちはちゃんと分かってる筈だから。

 

「だからね、わたし達に申し訳ないなんて思う必要はないわ。むしろそう思える余裕があるなら、ちょっとでも楽しい事を考えてみて頂戴。その方が、わたしは嬉しいもの」

「…セイツちゃん……」

「…それと、さっきのごめんなさい…あれは、わたしにかける言葉じゃないでしょう?その言葉をかけなきゃいけないのは……」

「…うん…授与式には、ちゃんと出るよ…こんなあたしでも、プラネテューヌの…女神、だから……」

「…えぇ。信じてるわよ、プルルート」

 

 ほんの少しだけ…さっきのやり取りで生まれた怒りをほんのちょっぴりだけ混ぜた指摘を投げ掛けると、プルルートは消え入りそうな声で…でもちゃんと言った。女神としての、アイリスハートでなければこなせない務めは、逃げる事なく果たすって。

 その言葉が、その意思が聞けたから、わたしは少し頬を緩める。…だから、わたしも貴女の味方なのよ、プルルート。女神としての責任を、完全に手放した訳じゃないから…皆に応えようって思いがある限り、貴女はあいつとは違う。あんなのと、同じになんてなる訳がない。

 

「…じゃあ、わたしは行くわね。気が向いたら、またデートしましょ、プルルート」

「…セイツちゃん…ほんとにそれ、好きだね……」

「当然よ。笑ったり、驚いたり、喜んだり……色んな気持ちを見て、それに触れるのが、わたしは好きなんだもの」

 

 最後に聞こえた、少しだけ柔らかな言葉。それでプルルートの心に、まだ悲しみや絶望以外の感情が差し込むだけの余裕があると分かったわたしは、扉から背を離して歩き出す。

 まだ、全然進展はしてない。今日の話し合いも行き詰まってしまっただけで、今何とかなるなんて考えるのは、楽天的な思考の域を出ない。

 けれどわたしは信じたい。わたし達なら、皆ならきっとプルルートの心を癒せると。わたしは信じてる。プルルートなら、絶対前に進む事が出来ると。だって、皆も、プルルートも…宝石の様に輝く、素敵な思いを持っているんだから。




今回のパロディ解説

・「ドララララララララララァァッ〜〜」
ジョジョシリーズの主人公(四部)の一人、東方仗助のラッシュ時の台詞のパロディ。意図せずなのですが、最後の「掘削掘削ゥ」もジョジョやエヴァパロっぽくありますね。

・今週のビックリドッキリメカ
ヤッターマンシリーズに登場する、小型ロボットの事。因みにですが、急須と共に小型アームが二本出てきて、それでお茶を淹れる…という案もありました。
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