超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed   作:シモツキ

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第六十一話 同一の人物、違う中身

「真巓解放・純潔ッ!」

 

 吹き荒む嵐の様に、或いは風に舞う花びらの様に、両の刃で剣舞を放つ。前後左右、それに上からと襲いかかり、牙や爪でわたしを引き裂こうとする猛争モンスターを、逆に纏めて斬り飛ばす。

 強敵に対して、同時攻撃で対応能力の上から叩き潰すというのは悪い策じゃない。けれどわたし相手に、高々十にも満たない物量で押し潰そうなんてした時点で運の尽き。噴き出すモンスターの血飛沫もまた、わたしの周囲で無情に舞い散る。

 

「…憐れね。それじゃあ最早、蛮勇ですらないわ」

 

 深手を負ったモンスターは脚を引き摺りながら下がり、それすら出来ない個体は蹲る。されど攻撃範囲の外にいた個体や軽傷で済んだ個体は躊躇う事も、仲間を顧みる事すらせず、猛然とわたしへの攻撃を続行。

 そこに、わたしを昂らせてくれる心の衝動はない。元々モンスターは人と違って多彩な、鮮やかな感情の数々はないけど、それでも闘争心であったり、仲間がやられた時は怒りや怯えの感情が表れていたというのに、猛争モンスターにはそれすらない。あるのは剥き出しの、それでいてどこかぼやけた敵意だけで…思いの輝きの美しさ、心の煌めきの華麗さを愛するわたしとしては、それ等を失ってしまっている猛争モンスター達は残念を超えて憐れでしかなかった。

 とはいえ、憐れだからって見逃すつもりはない。本命の戦いを…ネプテューヌとマジェコンヌの、敵であるもう一人のマジェコンヌとの戦いを邪魔しようとするのなら、容赦はしない。

 

「ふっ…はぁぁッ!」

 

 二本の剣で次なる攻撃をいなし、お返しとして回し蹴り。続けて跳躍する事で一度距離を取る……と見せかけて、再突入からの斬撃で一体撃破。そのまま流れるように別の個体への追撃をかけようとして…モンスターの内の一体が、わたしではなくネプテューヌ達の方へ向かっている事に気付く。

 

「……ッ!通しは…しないッ!」

 

 偶然か、それとも策か、わたしとそのモンスターの間へ入ってこようとする別のモンスター。

 そのまま飛べば邪魔をされる。そうなれば間に合わなくなる。そう判断したわたしは意識を脚へと巡らせ、両脚を包むプロセッサの一部位…踵部に装填しておいたシェアエナジーを解放する。

 

「遅いッ!」

 

 解放されたシェアエナジーは推進剤の如く推力を生み出し、地を蹴る動作と合わせる事で目標のモンスターへと一気に肉薄。驚いて動きの鈍った瞬間にわたしは左剣での横薙ぎを叩き込み、突進諸共真横から斬り伏せる。

 まだ息はあるものの、この状態で横槍をしようとは思うまい。そう思ったわたしの瞳に映ったのは、目を見開くモンスターの眼球と…そこに映る、もう一体のモンスター。

 

「…だから、通さないと言った筈よッ!」

 

 そこに映っていたモンスターの狙いもまた、恐らくは主人であるマジェコンヌの援護。ならばとわたしは素早く振り向きながら左右の剣を互い違いに連結させ、その勢いのまま偏差投擲。剣はブーメランの如く弧を描きながらモンスターの進路へと先回りし、モンスターが飛び上がろうとした瞬間その腹部へ貫入。猛争モンスター故のタフさもあってか流石に手元へ戻ってはこなかったけど、動きを止められたのならそれで十分。

 

(…今いる数と、残っている筈の数が合わないわね…いつの間にか向こうも増援が来たのかしら……)

 

 追い掛けてきた後方のモンスター達へ今し方斬り裂いた個体を投げ飛ばし、飛び上がって回避しつつも仕掛けてきたモンスターの鼻面に掌底を打ち込んだわたしは、すぐに刺さったままの得物を回収。分離させ、左右どちらも逆手持ちで構え直しながら、周囲を見回し考える。

 仮に増援が来ていたとしても、殲滅自体はなんて事ない。でもどこかに発生源があって、そこにまだかなりの数が残っているのであれば、そちらを先に叩かないとわたしも向こうの戦いに加勢出来ない。まあ尤も、向こうも現状はそこそこ有利なようだけど。

 

「…いや、これは考えたって何か生まれるような事じゃないわね。それに殲滅してしまえば、その辺りもはっきりする──」

 

 二手に分かれて挟み込んでくるモンスターに対し、わたしはネプテューヌ達の戦いを背にしている事もあって迎え撃つ姿勢。けれどモンスターが近接戦の距離へ入る前に、その内片方の戦闘が真横から放たれた光芒によって撃ち抜かれる。

 

「これって……!」

「お待たせしました、セイツさんッ!」

 

 わたしがそちらへ視線を向けるのと、続く数条のビームがモンスターを牽制したのはほぼ同時。そしてわたしが思った通り、その光芒の射手はネプギア。

 

「遅くなってすみません!…って、そういえばこの展開……」

「えぇ、街中で戦った時にもあったわね…あの時の感覚を、こんなにも早くまた感じさせてくれるなんて……」

「はは、まぁでもこれは偶然で…って、しれっとわたしの手を取らないで下さい!せ、戦闘中ですよ!?」

「問題ないわ、むしろ今ので…わたしの士気は上々だものッ!」

 

 絶妙なタイミングでの増援は、わたしじゃなくたって興奮するもの。それをこの短い期間で二回も同じ相手から、それもネプギアからされたとなれば心が踊らない訳がなくて、わたしは剣を手放し両手でネプギアの左手を掴む。包むように、プロセッサ越しにネプギアの熱を感じるように。

 出来る事なら、このままこの高鳴りに浸りたいところ。でもそうはいかない訳で、わたしは左手はネプギアの手を掴んだまま、身体を捻って地面に刺さった剣を一蹴り。蹴り飛ばした得物は真っ直ぐに飛び……モンスターの顔面に突き刺さる。

 

「わぉ……」

「…遣らずの雨Ver.R(レジスト).H(ハート)…なんて、ね」

 

 続けざまにもう一本も蹴り飛ばし、それからネプギアの手を離す。そうしてネプギアににこりと微笑み、わたしは言う。

 

「援護ありがとネプギア。でもピーシェももう少ししたら来ると思うし、こっちは大丈夫よ。だからネプギアは向こうに行ってあげて」

「…分かりました。でも大変な時は言って下さいねっ!」

 

 迷う事も躊躇う事もなく、頷きを返して飛翔するネプギア。それをわたしは見送って……反転と同時の右フックで、今正にわたしへ噛み付こうとしていたモンスターを地面へと叩き付ける。

 

「残念。敵意がだだ漏れなのよ」

 

 追撃も兼ねて殴り付けたモンスターを踏み台にし、わたしは跳躍。いつの間にかまた増えていた猛争モンスターの飛ばす粘液らしき物を避けながら、改めて得物を持ち直す。さてと、とにかくわたしは…全力で殲滅を続けるとしようかしらね…!

 

 

 

 

 引きながら次々放たれる電撃を真正面から斬り裂いて、最短距離で突進。大太刀の間合いへ入る寸前、逆にわたしへと突っ込む事というカウンターを敢えて大きな回避行動を取る事で難を逃れたように見せかけ……マジェコンヌへ、視線を送る。

 

「今よッ!」

「あぁッ!」

 

 わたしの声に応えながら、後方にいたマジェコンヌは得物である杖を真横に一閃。杖に灯る魔力光は振りに合わせて軌跡を描き、それは弧の形をした斬撃となって飛翔。わたしを退けたばかりの…退けたと思っている瞬間の、敵であるマジェコンヌへと一気に迫る。

 

「ち、ぃぃ…ッ!」

 

 魔力刃に直前で気付いた敵方のマジェコンヌ…って、戦闘中じゃ絶対ややこしくなるわね。えぇと…敵コンヌは、槍状の杖で斬り裂いてガード。けれどその瞬間彼女の足は止まり…そこへわたしとネプギアが左右から攻撃。大跳躍で避けた先へは、即座にマジェコンヌが追撃を放つ。

 

「投降しなさいッ!貴女に勝ち目はないわッ!」

「黙れッ!誰が貴様等女神などに投降するかッ!」

「ふん、我ながら往生際が悪いな…ッ!」

 

 前衛をわたし、遊撃をネプギア、そして隙を悉くマジェコンヌが突くという形で、わたし達は絶え間なく攻め立てる。

 ネプギアが到着する前から、わたし達はある程度優勢に立ち回れていた。そこにネプギアも加わった訳だから、戦況はわたし達が大きく有利。それは敵コンヌも分かっているようで、表情や声音からは焦りが見て取れる。

 

「ぐぅぅ…!なんなんだ、なんなんだ貴様はぁああッ!」

「それは、お互い様だろうに…ッ!」

 

 魔法の乱射でわたしとネプギアを退かせ、マジェコンヌへと突撃をかける敵コンヌ。マジェコンヌは衝撃波を一発放つ事で突撃の速度を減衰させ、突き出された刃を杖から出力させた魔力刃で打ち払う。

 互いに数度得物を振るい、真正面から斬り結ぶ二人。数秒間の拮抗の後、不意にマジェコンヌが姿勢を崩し、耐えかねたかのように後ろへ跳躍。

 

「……ッ!貰っ……」

「そうはいきませんッ!」

「な……ッ!?」

 

 飛行能力のない今のマジェコンヌにとって、空中は踏ん張りも十分な身動きも効かない危険な場所。けれど大きな隙を晒してしまった…というのはマジェコンヌのブラフで、しめたとばかりに敵コンヌが追撃をかけようとした瞬間ネプギアが強襲。突進の勢いを乗せた大振りの一撃で逆に敵コンヌを吹き飛ばし…そこにわたしが回り込む。

 

「悪いけど、こっちはもう…貴方と戦い慣れてるのよッ!」

「ぐッ、ぁ……ッ!」

 

 鋭い軌道で回り込んだわたしは、逆袈裟の要領で飛んでくる敵コンヌへと大太刀を振り上げる。直前で敵コンヌは振り向き杖を掲げてくるけど、マジェコンヌなら対応してくるって事は分かっていた。だからわたしは直前で大太刀を手放す事で武器同士による激突を避け…がら空きの脇腹に蹴りを叩き込んだ。

 

(…三対一でこれだけ持ち堪えてるんだから、油断しなくて正解だったわね。…でも……)

 

 落下しながらも敵コンヌが放射状に放つ電撃を避けながら、わたしはマジェコンヌへと合流。対する敵コンヌも着地し、脇腹を抑えながらも立ち上がる。

 

「お姉ちゃん!」

「助かるわ、ネプギア。二人共、このまま一気に決めるわよッ!」

 

 ネプギアから拾ってくれた大太刀を受け取って、わたしは再突撃。後ろからネプギアの射撃とマジェコンヌの電撃による支援を受けて、その場に釘付けとなった敵コンヌへと大上段の形から一撃。

 防御されたところで、続けて横薙ぎ。返す刃での刺突、斬り上げ、振り下ろしと続けて、脇腹へのダメージが残る敵コンヌを圧倒。そして敵コンヌがわたしの攻撃への対応で手一杯になっている事を感じ取ったところで、わたしは斬り付けると見せかけて後方宙返りをかけ…再びマジェコンヌが飛ばした魔力刃が、敵コンヌの肩口を斬り裂く。

 

「うぐぁッ…!く、そッ…くそぉぉ……ッ!」

「いい加減分かったでしょう?このままやっても結果は……」

「ええぃ黙れッ!こうなれば…私を守れモンスター共ッ!この私が、この程度でやられるなど──」

 

 苦渋に表情を歪ませた敵コンヌが上げる、モンスターへの指示。それを耳にしたわたし達は、ここまで来て逃げられるのは不味いと再度接近をかけようとして……

 

「あははははっ!とりゃーーっ!」

『……──ッ!?』

 

 次の瞬間、敵コンヌの目の前へ猛争モンスターが吹き飛んできた。

 あまりにも唐突な、それでいてタイミングの良過ぎる事態に、敵コンヌは勿論わたし達すら唖然として硬直。けれどそのモンスターが飛んでくる直前、聞き覚えのある声が聞こえてきていて…もしやと思って振り向くと、そこには笑いながら投げ飛ばした後のような姿勢をしているピー子の姿。

 それだけじゃない。その隣には、肩を竦めて笑みを浮かべるセイツもいて……一方それなりの数いた猛争モンスターは、もう一体の姿もない。

 

「……まさか…」

「……っ…!今ッ!」

 

 使役していたモンスターの全滅。そこへ更に驚く中、一足先に動いたネプギアがM.P.B.Lを振るうように射撃。咄嗟に敵コンヌは杖を前に出すも、それこそ前に出す事しか間に合わなかった敵コンヌの手から杖が弾かれ…その瞬間、最大の、最高の隙が生まれた。

 いや、違う。隙なんてものじゃない。この時、既に…勝負は決まっていた。

 

「これで、終わらせる…ッ!」

 

 地面を踏み締め、大太刀を投げ放つわたし。でもそうは言いつつも、わたしが狙ったのは敵コンヌの足元。声で防御や回避を意識させつつも足元を、地面を割る事で姿勢を崩させ、そこに強襲するマジェコンヌの回し蹴り。飛び込んでの蹴撃は防御諸共更に敵コンヌの姿勢を崩し、続けてマジェコンヌは反作用で離脱。そして……

 

「鮮烈なる幕引きを、貴女に送るわッ!」

「わるいことしちゃ、めーッ!」

 

 爆ぜるような勢いで側面からマジェコンヌへと肉薄する二つの閃光。残像の如く三本の軌跡を残す鉤爪と、縦に連結された二振りの剣。ピー子とセイツ、二人の髪が慣性のままにたなびく中、前後から鉤爪と連結双剣は振り抜かれ……敵コンヌの身体を、深く鋭く斬り裂いた。

 

「がッ…ふ…ぁッ……!」

 

 ぐらりと揺れ、膝を突き、そのままどさりとマジェコンヌは倒れる。負った傷は、誰がどう見たって重傷。普通の人間やただのモンスターなら、即死したっておかしくはない。

 

「…あの、もしかして……」

「大丈夫よ、殺してはいないわ。ピーシェもやり過ぎてはいないわよね?」

「うんっ!…でもいたそう…ご、ごめんなさい…」

 

 けれどマジェコンヌなら、人の域を遥かに超えた存在なら別。勿論戦闘不能は免れないけど、少なくともこっちのマジェコンヌなら…負のシェアに汚染されていた頃の彼女なら、これじゃまだやられてくれなかった。

 

「…想定していたよりも、呆気ないものだな…」

「…マジェコンヌ……」

「いや、気にするな。私よりも、女神である君達がトドメを担った方が確実だ。それにまだ油断は……」

 

 油断は出来ない。そうマジェコンヌは言いかけて、わたしもそれに同意しようと思っていた。

 けれどその瞬間、わたし達は驚愕に目を見開く。今倒したマジェコンヌの身体が消え始めた事で…愕然とする。

 

「な……ッ!?そんな、これって…!」

 

 僅かに藍色らしさも見える闇色の粒子を傷口から漏らし、少しずつ消え始めるマジェコンヌ。それはモンスター…或いはシェアエナジーで身体を構築している存在特有の現象で、でもマジェコンヌは人間な筈。人間の身体をしている筈。

 

「どういう事…!?だ、誰か何かしたの…!?」

「わ、わたしは普通に斬っただけよ!?ネプテューヌ達こそ、わたし達が仕掛けるまでに何かしてない!?」

「い、いやそんな事言ってる場合じゃないですよ!マジェコンヌ、貴女は何が目的だったんですか!?それに、これは…!?」

 

 全く想定していなかった事態を前にわたし達は慌てふためき、ネプギアは倒れたマジェコンヌへと駆け寄る。本来まだ息のある敵に対してこういう行動をするのは危険だけど…今はそれどころじゃない。だってこのままじゃ、何一つ分からず終いなんだから。

 

「ぐ、ふっ…こんな、こんな…筈…では……」

「……っ…マジェコンヌ…」

 

 ネプギアはマジェコンヌをうつ伏せから仰向けにさせて呼び掛け続けるけど、マジェコンヌはぶつぶつと戯言のように呟くだけ。

 反撃してくる気配はない。激しい敵意すらももう感じない。信じられない、こんな筈じゃない。…そんな言葉ばかりをマジェコンヌは漏らし続け……そうしてそのまま、消えてしまった。完全に消滅する直前、何かに気付いたように目を見開いたけど…その意味も、もう分からない。

 

「…なんだか、釈然としない勝ち方ね……」

「うん…それに、マジェコンヌって……」

「えぇ。変身するかと思っていたけど……」

 

 思い入れがある…とは違うけど、もう何度も戦っているわたしとしては、こんな色々な事がはっきりとしないままの終わり方は気分が良くない。それに……正直言って、このマジェコンヌは弱かった。勿論、わたし達とまともに戦えてる時点で強くはあるんだけど…うずめと戦った時のマジェコンヌには一歩劣る感じがあったし、ここにいるマジェコンヌも敵だった頃はもっと脅威だったような気がする。こっちの人数とか状況を加味しても…やっぱり、そう。

 分からない。目的も、どこから来たのかも、強さの事も変身しなかった事も。倒せたのは間違いないけど、本当にただ倒せたというだけで……

 

 

 

 

──その瞬間だった。わたし達の上方から、電撃が降り注いだのは。

 

『……ッ!?』

 

 反射的に飛び退くわたし達。範囲外に出ると同時に滑りながら着地し、すぐに電撃の発生点へと視線を走らせる。

 驚いた。奇襲そのものもそうだけど…その電撃は、ついさっきまで何度も見ていたものだから。だからまさかと、そんな馬鹿なと思いながらわたしは見上げ……そして、目にした。上空からこちらを見下ろす、マジェコンヌの姿を。

 

「…流石に避けるか…まあいい。今ので一網打尽では、あまりにも味気がないからな」

「マジェコンヌ…って事は、今わたし達が倒したのは……」

「待ってネプテューヌ!彼女は、こっちの…神次元のマジェコンヌよ!そうでしょうマジェコンヌ!?」

 

 涼しい顔でこちらを見下ろすマジェコンヌの身体に、怪我や傷は一つもない。でも確かにわたし達はマジェコンヌを倒した訳で…となれば今倒したのは分身か、或いは実体のある幻影か。…そんな思考を巡らせたわたしだけど、すぐさまセイツがそれを否定。神次元のって…じゃあ、彼女は前に教会で会った……。

 

「ふん。不愉快な波動を感じて来てみれば…確かに不愉快な訳だ。ネプテューヌのみならず、私の姿をした不届き者に加え…あろう事か女神共に与する別次元の私とやらまでいるのだからな」

「はどう…?あっ、これ?」

「…………」

「ぴ、ピーシェさん…今ボケるのは流石にタイミング的にどうかと……」

「ほぇ……?」

 

 鼻を鳴らした神次元のマジェコンヌは、まずわたしへ、それからこちらのマジェコンヌへと視線を向ける。…そこでピー子が拳又は弾という、普段のわたしみたいな事をしていたけど…ごめんなさいねピー子。今はわたし、シリアスな気分だから…。

 

「悪いな、こちらの私よ。だが君が女神を憎むように、私にも女神の力にならんとする信念がある。無論、互いの在り方についてとやかく言う気はないがな」

「ほぅ、やはり別次元の私なだけあって気は合うな。…であれば御託は必要あるまい。私は、マジェコンヌは……私一人いれば十分だ」

『……っ!』

 

 信次元のマジェコンヌと神次元のマジェコンヌ…二人のマジェコンヌによるやり取り。けれどそれは短いもので、締め括ったのは神次元のマジェコンヌが発した言葉。その言葉に、そこに含まれる意味にわたし達は緊張に包まれ……だけど次の瞬間、神次元のマジェコンヌは手にした杖を降ろす。

 

「だがまぁ、この程度でやられる恥晒しを始末してくれた事に免じて、今回だけは見逃してやろう。だが、次また私の前に現れるようなら…その時は、覚悟しておくんだな」

「あっ、ちょっ…現れるも何も、貴女がここに来たんじゃない……」

 

 最後に一度こちらのマジェコンヌを睨め付け、神次元マジェコンヌは飛び去る。小さくなっていくマジェコンヌの背に、セイツが呟きを漏らしたけど…多分、その言葉は届いていない。

 

「…行っちゃった、ね…マジェコンヌさん、本当に気になって来てみただけなのかな……」

「恐らくそうだろう。私はそういう人間だ」

「マジェコンヌが言うならきっとそうなんでしょうね…でも、助かったわ。流石にマジェコンヌとの連戦は避けたいところだったし」

 

 完全に姿が見えなくなったところで、わたし達はほっと一息。聞けば猛争モンスターの中には隠れていた個体もいたらしいけど、それ等含めてセイツ達が倒してくれたらしいから…今度こそ、これで戦闘は終了。

 

「ふー…まさかマジェコンヌ倒したらマジェコンヌが出てくるなんて、メモリーズの明けない夜かと思っちゃったよ〜」

「え…ネプテューヌ、さっき言おうとしてた事って……」

「ううん、違うよ?」

「あ、そ、そうよね…良かった、ボケに大真面目な返しをしちゃったかと思ったわ……」

 

 女神化を解いて脱力するわたし。皆も解いて、一先ず勝てた事への笑みを浮かべる。

 

「え、っと…作戦は成功、でいいんだよね…?」

「まぁ…そうね。あのマジェコンヌの事は色々不明なままだけど…取り敢えず、彼女っていう懸念要素を取り除く事が出来たのは事実だもの」

「だが、不明なままにしておくのもそれはそれで不安が残るな。…尤も、当人が消えてしまった以上どこまで調べられるか怪しいものだが……」

「…結局のところ、彼女はマジェコンヌ…で、いいんですよね…?」

 

 ピー子の言葉にセイツが答えて、今度はネプギアが疑問を言って。確かにわたし達の想像していたマジェコンヌよりも弱かった訳だから、そこも気になる事の一つで……

 

「……って、あ」

「…どうしたの?お姉ちゃん」

「いや…マジェコンヌが思ったより弱かったり、変身もしなかったのってさ、シンプルにそういうマジェコンヌだから…って事じゃないかな?」

「…どういう事?」

「ほら、例えば信次元のノワールは最初から女神だけど、こっちのノワールは人から女神になった訳でしょ?それと同じで、強めのマジェコンヌがいる次元もあれば、弱めのマジェコンヌがいる次元もあるって感じじゃないかなーって」

「あー…動機は分からないけど、能力に関してはそれもあるかも……」

 

 ぴこん、とライトが点くみたいに思い付いた事を言うと、ネプギアもその可能性を感じてくれた様子。ふふん、こういうのをぱっと思い付くのって気分が良いよね!

 

「まあ何であれ、セイツの言う通り作戦は成功だ。皆、ありがとう」

「ううん、それはこっちの台詞だよマジェコンヌ。見つけられたのはマジェコンヌが協力してくれたおかげなんだからさ」

「だよね。…まじぇこんぬ、神次元の女神としてお礼を言わせて。こちらこそ、ありがとう」

「わたしからも言わせて頂戴。助かったわ、マジェコンヌ」

「…君達の役に立てたのなら、何よりさ」

 

 真面目な顔をしたピー子のお礼と、それに続くセイツの言葉。それにマジェコンヌは頬を緩ませて…大人っぽい顔で、ふっと微笑む。

 

「よーっし、それじゃあ報告して教会に帰ろーっ!」

「えぇ、そうしましょうか。…あ、そうだマジェコンヌ。帰りにどこかで食事でもどうかしら?」

「ふふっ…すまないが、それはまたの機会にしてくれないか?流石に今日は疲れた…」

「あ、せーつが振られた」

「なぁっ!?ふ、振られてないわよ!今はタイミングが悪かっただけ、そうよね!?」

「はぁ…やはりこれで漸く気を楽にして休めるな……」

「ちょっと!?マジェコンヌ!?」

「あ、あはは…皆さーん、帰らないんですかー…?」

 

 振られた訳じゃないと全力で否定するセイツに、わざとかは分からないけどはぐらかすマジェコンヌ。目標通り、わたし達は式典前にマジェコンヌの件を何とかする事が出来て……それから三日後、わたし達は予定通りに授与式を開催するのだった。

 

 

 

 

 虚空に浮かぶ、戦闘痕の残る神次元の一角の映像。その映像を消しながら、どことも知れぬ空間でうずめはぽつりと呟く。

 

「…彼女はやられたか」

「──だが、奴は我等四人衆の中でも最弱の以下略っ!」

「……!?」

 

 次の瞬間、背後から聞こえた快活な声。それに驚いたうずめが振り向くと…そこにいたのは、何やら楽しそうな顔をした少女、ネプテューヌ。

 

「…ねぷっち…いつの間に…?」

「んと、二秒前かな!」

「こいつ、ここに入る直前急に『何か面白そうな事言えそうな気配がしてる!』…とか言って駆け出したんだぜ?で、いざ何を言うかと思えば……」

「えー、だって最弱ネタは一回言ってみたくない?」

 

 元気一杯に答えるネプテューヌに続いて、彼女が持つ本…ねぷのーとの中から、クロワールが言葉を続ける。彼女の表情に、嘘を吐いているような気配はなく…その事にうずめは内心安堵。

 

「…なんだ、そういう事だったんだね。気持ちは分からないでもないけど、急に入ってくるのは控えてくれないかな?驚くし、オレが何かしていたらそれが原因で怪我をしてしまう事もあり得るだろう?」

「う、それは確かに…ごめんねうずめ…」

「分かってくれたならいいさ。…で、彼女の様子は?」

「向こうのうずめの事?それなら元気だよ?前言われた通りあのキノコ持って行ったら、物凄く動揺してたけど」

「ふふ、だろうね」

「……?」

 

 ネプテューヌから話を聞いて、小さく笑ううずめ。それにネプテューヌはきょとんとしていたが、うずめはすぐに表情を戻す。

 

「さて、悪いけどねぷっち。少し出ていてくれないかな?オレは考えたい事があるんだ」

「考えたい事?そっか…じゃあクロちゃんに餌でもあげてよっかな」

「おいこら、餌って言うんじゃねぇ餌って!」

「でもお腹空いたでしょ?一緒にご飯食べようよ」

「食べないとも言ってないだろうが…ったく……」

 

 いつも通りのやり取りをしながら、頼みを聞き入れたネプテューヌはその場を後に。悪いね、と言いながらうずめは立ち去るネプテューヌを見送り……その十数秒後、穏やかさの消えた顔付きでうずめは言う。

 

「……彼女は倒された。だが、これも想定内…いいや、予定しておいた通りの展開だ。…だろう?()()()()()()

 

 振り向く事なく、何もない空間を見つめながら発された言葉。その言葉に応えるように、彼女の背後の暗闇から人影が現れ──問いかけられた人影(マジェコンヌ)は、彼女の問いににやりと笑うのだった。




今回のパロディ解説

・「…遣やずの雨〜〜」
家庭教師ヒットマンREBORN!に登場する剣技、時雨蒼燕流の型の一つのパロディ。その後のVer.〜〜という表現も、この作品のパロディですね。

・拳
ストリートファイターシリーズにおける代名詞的な技、波動拳の事。波動拳の構えをするイエローハート…実際何か出せそうですね!

・弾
ポケモンシリーズに登場する技の一つ、波導弾の事。イエローハートはかくとうタイプ感ありますし、こちらも出せそうな気がします。

・「〜〜メモリーズの明けない夜〜〜」
ガンダム メモリーズ 〜戦いの記憶〜及び、その中に収録されているミッションの一つのパロディ。本当にそうならびっくりにも程がありますね。

・「〜〜奴は〜〜最弱〜〜」
ギャグマンガ日和シリーズ内の劇中劇の一つ、ソードマスターヤマトにおけるギャグの一つのパロディ。このネタは確か前にもやりましたね、原作にもありますし。

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