超次元ゲイムネプテューヌ Re;Birth3&VⅡ Origins Exceed 作:シモツキ
上方から突撃と共に振り下ろされる、大太刀とM.P.B.L。それを押されながらも何とか峰側に左手を当てた刀身で受け止めて、力任せに押し返す。
次の瞬間、側面から突き出された大槍を、押し返した時の慣性に乗る事でギリギリ避け、大槍の柄に足を引っ掛け蹴る事で上空に離脱。追撃の大剣と戦斧は反転からのフルスピード降下で振り切って、更なる追撃を弾幕で防ぐ。
それを散開する事で避けながら、次の攻撃へと姿勢を整えていく敵。その姿は、間違いなく……女神化したわたし達と、全くの同じ。
「ネプギア、大丈夫!?」
「まだ大丈夫!お姉ちゃんは?」
「当然大丈夫よ。…一先ず、対抗出来てるって意味ではね…ッ!」
回り込むようにして飛んできたお姉ちゃんと背中合わせになり、死角を埋め合いながら背中越しに会話。お姉ちゃんの声に無理をしている感じはないし、わたしもそうはなってない筈。
正直まだ状況を飲み込み切れていないし、お姉ちゃんや皆さんともう少し話をしたいところ。でもそれを、敵は許してくれない。
楔状の陣形を組んで、ランスチャージをかけてくる
「ちッ、こうして戦うのは初めてじゃないが…」
「まさかまた、自分達の偽者と戦う事になるなんてねッ!」
「しかも今回は、全員複数の上ネプギアちゃんの偽者までいますとは…!」
散発的に聞こえてくる、皆さんの声。でも、誰が喋ったのかは分からない。だって、ブランさんもノワールさんもベールさんも、四方八方にいるんだから。
そう。わたし達は、わたし達と戦っている。でもわたし達が戦っているわたし達は、別次元のわたし達じゃなくて…わたし達の、偽者。わたし自身には、偽者だっていう確証はないけど、皆さんは過去にも自分達の偽者と戦った経験があるらしくて、今戦っている敵にはそれと同じものを感じるとの事。
(……っ…戦い、辛い…ッ!)
偽者だからなのかは分からないけど、一人一人の戦闘能力はそこまでじゃない。勿論強くはあるけど、一対一なら普通に、一対二でも油断せず上手く立ち回れば勝てると思う。でも、わたし達の偽者は少なく見積もっても二十人弱、もしかすると三十人以上という洒落にならない人数だから、三人、四人、五人を相手にする事だってざら。
それに、外見だけじゃ真偽の判別が付かないから、こっちは上手く連携が出来ない。理由は分からないけど唯一偽者がいないセイツさん、それに何となく本物かどうかが分かるお姉ちゃんは別だけど、それにしたって数で劣る上に連携も出来ないってなると中々攻撃に移れない。それに、万が一…万が一何かの拍子に真偽を誤認して、本物の皆さんを傷付けてしまったら…そういう精神的な不安も、攻撃の手を躊躇わせる。
ただそれでも、個々の能力はこっちの方が上だし、向こうの連携は決して高いレベルじゃないから、時間をかければ少しずつ数を減らせるような気もしている。…だけど……
「まだ、全然避難が済んでないってのに…ッ!」
左右からの大太刀と大剣を二振りの剣で受け止め、真正面から振り出された鉤爪を前腕ごと蹴り上げる事で防ぎながら、表情を歪めて声を発するセイツさん。
戦場となっているのは空中。眼下には式典の会場があって…未だに混乱は続いている。それどころか悪化の一途を辿っていて、まるで避難が進んでいない。
当然の事ではある。皆さんからすればただでさえ非常事態なのにいきなり女神が何人も現れたかと思えば女神同士で戦っていて、しかも穴から女神と共に現れたのは猛争モンスターで、それがこちらへと…生活圏へと向かってきているんだから。そしてわたし達は、守るべき人達が避難出来てないこの状況で、じっくり戦える訳がない。
「だーッ!くっそ…こうなりゃいっそ、片腕斬り飛ばしゃ見分けも付く……」
「……!?ブランちゃん、そういう事は冗談でも……」
「だったらどうしろってんだよ!もう足の速い奴は会場まで迫ってきてんだ、腕の一本や二本で何十何百の人を守れるなら、こんな安い買い物はねぇよ…!」
「どこの露出狂系生徒会長よ貴女は…。…けど、この状況を覆す為には、なりふり構ってもいられないわね…ッ!」
「はっ、珍しく気が合うな!他に手段があるってなら別だが、そうじゃねぇならわたしは躊躇わない……」
自分の偽者を蹴り飛ばしたブランさんの、ヤケを起こしたかのような発言。それにわたしもプルルートさんも驚くけど、ブランさんの瞳は短気を起こした人のものじゃない。それに止めるどころかノワールさんも理解を示して、止めなきゃ本当に実行してしまいそうな雰囲気の二人。
でも、止めたところでどうなる?代案もなしにただ止めて、皆さんの安全を後回しにする?…そんなの出来る訳がない。ましてや自分の次元の人を守ろうとしているブランさん達を、代案なしに止めるなんて出来ない事位は、わたしだって分かってる。だから、わたしは止める為の言葉を一瞬躊躇ってしまって……けれど次の瞬間、ブランさんの声が止まる。
(ブランさん…?)
眼下のある方向へと目をやったまま、ブランさんは空中で静止。そこを狙うように飛び込んできた偽ピーシェさんの飛び蹴りをギリギリで受け流したブランさんは、もう一度同じ方向を見た後ゆっくりと息を吐き出し……身を翻す。
「悪い、一度離脱する!ネプギア、出来ればサポートしてくれッ!」
「あ、は、はいっ!」
言うが早いかブランさんは一直線でステージへ。それを追おうとするわたし達の偽者を咄嗟にわたしは射撃で牽制し、わたし自身も引き撃ちでブランさんの後に続く。
突然の離脱に驚きながらも、これまで以上に激しく飛び回る事で何とか偽者を空中に押し留めるお姉ちゃん達。ブランさんはステージの端へと降り立ち…そこにいた、ある一人の男性の名前を呼ぶ。
「アクダイジーン!」
「……!ぶ、ブラン様…」
ブランさんがしようとしている事の邪魔をさせない為に、わたしは対空射撃を続行。その最中、聞こえてくるのはブランさんと男性…来賓の一人として出席していたアクダイジーンさんのやり取り。
「時間がねぇから目的だけ言うぞ。わたし達は今指揮も避難誘導も出来ねぇ。だからアクダイジーン、お前に頼みたい」
「な……っ!?わ、私めが…ですか?」
「だからそう言ってんだろ。今は大企業を、昔は一時期とはいえ曲がりなりにもルウィーを仕切ってんたんだ、出来ねぇとは言わせねぇぞ?」
「…それが、貴女方の総意で?」
「いいや、わたしの独断だ」
「……っ…何故…」
降り立ったブランさんが切り出したのは、自分達の代わりに指揮を頼みたいというもの。問いに対して独断であるとブランさんが返すと、アクダイジーンさんが発したのは何故、という言葉。
それを聞いて、わたしは思い出す。アクダイジーンさんは元七賢人でブランさんの元部下…つまり、裏切られた過去があるって事を。何故って言葉も、それを踏まえれば理解出来る。全体で決めた事ならともかく、どうして裏切った自分を、真っ先に頼りにするんだ…って。
その質問により生まれたのは、一瞬の沈黙。一瞬黙って、それから「あー…くっそ……」と何かを躊躇うような呟きを発した後……ブランさんは、言う。
「…テメェが思ってる通り、わたしはまだテメェを許しちゃいねぇ。テメェの事なんざ大嫌いだ。…だがな…それでもわたしは、認めてるんだよ。テメェの実力も…お前がいたから、わたしは女神としてやってこれたんだって事もな」
「……ブラン、様…」
「…答えはどうだよ、アクダイジーン。引き受けるのか、それとも……」
「…ふっ…ブラン様にそこまで言われては、断る事など出来ませんな…。……ならば、偽者は任せましたぞ」
気取る事も、当たり障りのない言葉を選ぶ事もなく、真っ直ぐにただ正直な思いを言葉にした。…そう思える、そう感じられるブランさんの言葉。それが聞こえた数秒後、小さな笑いと、落ち着きのある低い声が聞こえてきて……ブランさんは、舞い上がる。
「すまねぇ、ネプギア。もう少しだけ、ここで迎撃をしていてくれるか?」
「分かりました。…それと、ブランさん」
「うん?」
「今の…凄く、格好良かったです」
「へっ、ったりめーだ。プルルート達とは、年季が違うんだからなッ!」
わたしより少しだけ高い位置に来たブランさんへ、ちょっぴり頬を緩ませながら格好良かったと伝えるわたし。するとブランさんもにやりと笑って、空へと突進。お姉ちゃん達の防衛線を突破しかけていた偽ノワールさんを殴り付けて、偽者達との戦いを再開する。
それと同時に、再び聞こえてくるアクダイジーンさんの声。内容からして、それは指示。
「アブネス、お主今はどこにおる?…ふむ、そうか…ならこちらの方が早いな。局地的な声かけでは効率が悪い、それはお前も分かっているだろう?あぁそうだ、正しく物事を伝えたいのであれば急げ!」
(アブネス…って確か、インタビュアーの……)
返しの声が聞こえてこないし、多分携帯か何かによる通話。それが一度途切れたところで、今度は別の…けれど聞き慣れた声がわたしの耳に。
「ネプギア!」
「ギアちゃん!」
「アイエフさん!?コンパさん!?…あ、すみません!今は……」
「分かってる、軍の方から連絡があったから、機を見て皆に伝えて頂戴!塔の方の部隊は無事よ!でも猛争モンスターを蹴散らすのは無理だって!」
「了解です!えと、じゃあ…空からの攻撃に気を付ける事を第一に、と改めて通達しておいて下さい!」
「いいわ、すぐに…っとと……」
「ぢゅ!?あ、危ないっちゅね!」
「それはこっちの台詞だっての!…なんて余計な話してる場合じゃないわね…!」
今は止んでいるとはいえ、空からの大出力ビームの事を考えれば軍を大々的に展開する事は出来ないし、迎撃より身を守る事を優先するようにノワールさん達は言っていた。だからあまり勝手な事は言えないわたしは、重ねて指示する事を選択し……その直後、これまたどこかで聞いた覚えのある声が聞こえてくる。…あれ、この声って……
「ん?おぉ、丁度良いところに来たではないか」
「オイラはコンパちゃんの安全を守る為に駆けてきたんだっちゅ!」
「そんな事はどうでもいい。それよりお前は小柄でどこへでも入れるだろう。その体格を活かして、お前には迷子になっている者がいないかどうかを探してもらいたい」
「なんでそうなるんっちゅか!確かに今は非常事態っちゅが、オイラはあくまでコンパちゃんの安全を守る為に……」
「ネズミさん!その時怪我をしている人を見つけたらお手当てするですから、連れてきてほしいです!」
「勿論だっちゅ!迷子も怪我人も、全力で探すっちゅよーっ!」
「……うむ、まぁ…協力感謝する…」
「ほぇ……?」
何とも言えない感じの声を出すアクダイジーンさんに、きょとんとしている(と思う)コンパさん。その理由は、間違いなくネズミさんと呼ばれた人物(?)で…うん、思い出した…今のって、絶対あの…モンスター?…だよね…こっちの次元にもいたんだ……。
そこから更に、別の声が背後からしてくる。その声は確か、さっきのインタビュアー…アブネスさんのもの。
「はぁ、はぁ…やっと着いた……マイクは…!?」
「そこだ。すぐにいけるか?」
「ジャーナリストは即応力が試される仕事よ、舐めないで頂戴…!」
短いやり取りの後、ステージにマイクテストの音が響く。そして……
「すぅ…はぁ……あんた達っ!いい歳した大人なんだから、いい加減パニックになってんじゃないわよっ!ほら、有事の際の避難経路は最初に説明したでしょうが!今も誘導がされてるでしょうが!そりゃ、慌てるのは分かるけど…今の自分達の姿を、青少年達に見せられる訳!?」
(え…声かけって、そういう事……!?)
皆さんを落ち着かせる事を言うのかと思いきや、アブネスさんが口にしたのはまさかの一喝。しかもそれを音が割れるレベルの声量で言ったものだから、耳が痛くなる程の音となって……だけどその声量のおかげで会場は静まり返り、避難誘導の声がよく通る状態に。そして、その数秒後…これまでとは段違いに、はっきりと見て分かる程にきちんと避難行動が進み始める。
「……わ、ワタシの言葉を…こんなに多くの人が…」
「…また電源が入ったままになっておるぞ」
「…ご、ごほん。二番ゲート焦らない!どうせ焦ったって先に行ける訳じゃないんだからね!」
その事に感銘を受けていた様子のアブネスさんは、指摘を受けて咳払いをすると、ステージ上からの発信を続行。
人の心は周りに影響されるもの。周りが慌てていれば自分も慌ててしまうし、その逆もまた然り。そしてここにいる人達は、色んな経験を積んできた人も多い訳だから…一度パニック状態の空気がリセットされた事で、多くの人が冷静な行動を取れるようになったんだと思う。
「ふむ、後は…あいつも確かおった筈じゃな。パープルシスターよ、ここはもうよい!」
「……!で、ですが……」
「なぁに、これでも私めは過去数度に渡って、本物の女神様方と戦った事がある身です。その時の事を思えば、数が多くとも覇気のない偽者など、恐るるに足りません」
「ちょっ、ワタシは守ってほしいんだけど…!?…って言いたいけど…えぇい、最悪どっか隠れるわよ!今更格好悪い事なんて言えないし!」
「そういう事ですから、大丈夫ですよ、ギアちゃん!」
「…分かりました。でも…絶対に、突破はさせません…ッ!」
何となく浮かぶ、少し悪そうな顔と、半ばやけっぱちになった顔。そんな二人とコンパさんの声に背中を押されて、わたしは再び舞い上がる。
勿論、目立つ所は狙われ易いし、マイクを使って声を出しているなら尚更の事。でもそれは、わたし達が偽者を抑え切れなかった場合の話であって…通させるつもりなんて、一欠片もない。
だって、皆さんが動いてくれてるんだから。色んな人が、自分に出来る事を頑張っていて、わたし達が戦い易いようにしてくれてるんだから……それに応えなきゃ、女神じゃないよ…ッ!
*
「ねぷてぬっ!せーつっ!」
「そいつねッ、ピー子ッ!」
「さようなら、心のない偽者ッ!」
蛇腹剣で両腕を絡め取られた状態から、逆に蛇腹剣ごと偽ぷるるんを振り回し、上空へと放り飛ばすピー子。斬り結んでいたにせものわー…もとい、偽ノワールの肩を踏み台に飛び上がったわたしはセイツと共に肉薄し、真正面から伸びたままの蛇腹剣諸共偽ぷるるんを斬り付ける。
引き戻していない蛇腹剣の防御なんて、女神の前ではあってないようなもの。わたしとセイツ、二人の斬撃に斬り裂かれた偽ぷるるんは力無く落下していき……消滅。
「ふぅ。ほんとにピー子は感覚が鋭いのね」
「なんかね、ぷるるとはふにゃ〜でごごごーってかんじだけど、今のはむー…なのっ!」
「そ、そう…まあとにかく、次行くわよッ!」
満面の笑みで答えてくれるピー子だけど、流石にちょっと難解過ぎてわたしは困惑。とはいえそれをじっくり考えている時間はない訳で、すぐにわたしは追ってきた偽ノワールと横から来る偽ベールへの対応を開始。
交戦開始から数十分。初めは偽者を抑え込むので精一杯だったわたし達だけど、今はもう複数体の偽者撃破に成功している。
その理由の一つは、ピー子は直感的に真偽の判別が出来るって分かった事。そのピー子と偽者のいないセイツを中心に各個撃破を狙う事で、少しずつだけど偽者の数を減らせている。そして、もう一つは……
「はっはっはー!そうだー、デラックス・コピリーエースだぁああああッ!」
「……全く衰えないな、君の勢いは…」
凄まじい勢いで会場の目前へと迫った猛争モンスターの集団へ、突っ込んでは吹き飛ばすコピリーエース。彼が取り零した個体を、逐一潰していくマジェコンヌと軍の会場警備部隊。マジェコンヌ達が猛争モンスターの迎撃をしてくれているおかげで、非武装の人達は誰一人として襲われていない。
それだけじゃない。会場内でも、色んな人が動いてくれて、そのおかげで避難もかなり進んでいる。それがあるから、わたし達は対偽者に専念を…目の前の敵を倒す事に、全力を注げている。
「あははははっ!偽者の貴女、一対一だと全然手応えがないわねッ!」
「はっ!テメェの偽者こそ、一人じゃすばしっこいだけだなッ!」
「…ここぞとばかりに集中攻撃していますわね…まぁ、いいですけれど……」
撃破はピー子とセイツが中心になって、わたし達は各個撃破出来る状況を作りつつ、適宜連携するというのがわたし達の作戦。だから各自がどう戦うかは各々の自由なんだけど…どうもノワールは偽ブランを、ブランは偽ノワールを集中的に狙っている。その動きに、全然躊躇いというか、「万が一本物だったらどうしよう…」みたいな気配はない。
ノワールは偽ブランを機動力で翻弄し、逆にブランは偽ノワールの攻撃を全て防いで的確にカウンター。周りの偽者もまるで躊躇いのない二人の動きに攻めあぐねているようで、圧倒されている二人の偽者は痺れを切らしたように本物と正対しながら離脱。けれど次の瞬間、本物のノワールとブランばかりを見ていた二人の偽者は……衝突する。
『……ッ!?』
「考えが……」
「甘ぇんだよッ!」
背中同士でぶつかった二人の偽者が晒す、大きな隙。その瞬間を逃さなかったノワールとブランは、フルスピードでそれぞれの偽者へと突進。偽者達が立て直すよりも早く、二人は肉薄し……一閃。振り抜かれた大剣と戦斧は偽者二人の胴を斬り裂き、二人揃って消滅した。
「あら、抜群の連携じゃない。さっきも意見が合ってたし、二人って案外仲良いんじゃないの?」
『仲良くないッ!』
「あ、うん。定番の反応ありがと。…さて、まだまだ行くわよッ!」
本気の否定を返されたセイツは苦笑いした後、次なる標的へと向かって旋回。わたしもネプギアから援護を受けつつ、偽者を引き付ける為に飛び回る。
まだ数は偽者の方が上だけど、こっちの戦線離脱者はゼロ。倒せば倒す程有利に、数の差は縮まっていく訳で、撃破効率も上がっていく。
そうして更に数分。偽者の数の減少が目に見えて分かる程になったところで、わたしは勝利を確信した。でも、その次の瞬間……地上の戦いに、衝撃が走る。
「な……ッ!?」
「うぉっ!?この電撃は……」
微かに耳へと届いたのは、マジェコンヌとコピリーエースの驚愕した声。偽ベールと偽ピー子の挟撃を回避しつつ身体を回転させて下を見た瞬間、視界の中で放たれる電撃。そして、その発生源にいたのは……神次元のマジェコンヌ。
(……っ!まさか、マジェコンヌ……)
電撃を信次元のマジェコンヌが回避すると、神次元のマジェコンヌは杖を構えて真っ直ぐに突撃をかける。
間違いない。神次元のマジェコンヌが狙っているのは、信次元のマジェコンヌ。しきりに放つ電撃は信次元のマジェコンヌが避けた先で何度もモンスターを貫いてはいるけど、正体不明のマジェコンヌを倒したあの時の言葉通り…別次元の自分を倒そうとしているのは間違いない。
「……ッ!マジェコンヌ…!」
その光景を見て、咄嗟にわたしは救援に向かおうとした。こっちもまだ油断出来ないとはいえ、緊急事態という意味じゃあっちの方が上だから。
でもその体勢を取った瞬間、混じり合うわたしとマジェコンヌの視線。こっちを見ている事に気付いたマジェコンヌは一瞬驚いた顔をした後…ゆっくりと首を横に振って、ふっと笑う。…その目は、その顔は言っていた。……心配するな、と。
(……全く…ほんと凄いわね、貴女…)
そんな事言っていられる場合じゃないでしょう。…他の誰かなら、きっとわたしはそう思っていた。でも、今は…今のマジェコンヌに限っては、大丈夫な気がした。大丈夫だって、思わされた。
確かに、マジェコンヌも実力者。神次元のマジェコンヌの攻撃を凌ぎ切れる可能性もゼロじゃないとは思うけど…それでも危険は危険な筈。にも関わらず、そう思ったのは…やっぱり、敵として何度も戦って、最後はわたし含む女神五人が力の全てを振り絞って何とか勝てたって位の相手だから。今はあの時程の力はないけど…それでも、マジェコンヌの力を信じているわたしがいる。
だからわたしは、意識の一部を常に下へ…マジェコンヌへと向けておく事を決めて、わたしの戦いへと戻る。…それが、結果的にはマジェコンヌの助けにもなるから。偽者を全て倒せれば…わたし達も、猛争モンスターとの戦いに向かえるから。
*
(後、少し…もう少し耐えれば…それで、終わる…終わらせられる……!)
光弾と斬撃を避けながら、偽者の皆の位置を確認しながら、あたしは歯を食い縛る。あたしの意識を、本物のあたしを、見失わない為に。
「ぴーしぇちゃん、べーるさん、もう少し追い立ててくれないかしら…!」
「おいたてる…?」
「もっと激しく追い掛けてほしい、という事ですわッ!」
「そっか、うんっ!」
皆で頑張って戦ったおかげで、遂に偽者のねぷちゃんは後二人、それ以外の皆は後一人にまで減らせた。
だから今は、皆が一点に偽者を集めようとしている。集まったらあたしが伸ばした剣で捕まえて、一斉攻撃で倒す予定。全員を一度に捕まえるのは難しいけど…絶対に捕まえる。絶対に捕まえなきゃいけない。あたしは、これまで皆にずっと助けてもらってきたんだから。
(今日はずっと耐えられたんだもの…皆のおかげで、また外に出られるようになったんだもの…だから、これで…今日で、あたしは克服するの…!でなくちゃ、あたしは…あたしは……ッ!)
少しずつ狭まる包囲網。一回でもやれば狙いに気付かれるから、あたしは失敗出来ない。あたしのせいで、台無しには出来ない。
でも、成功したら…成功して、最後まであたしがあたしを忘れないでいたら…きっとあたしは、前に進める。心から、あたしはもう大丈夫って言える。
あたしは取り戻したい。皆とのんびり出来る、あんな酷い性格に悩む事のなかった頃を。この戦いは、今日という日は、その大きな一歩になる筈だから…絶対に、失敗なんてしない……ッ!
「これ、でぇぇッ!」
「……っ!」
正面のあたしへ突撃してきた偽者ののわーるちゃんを、横から入ってきた本物ののわーるちゃんが受け止めてくれて、そのままのわーるちゃんは押し返す。
その瞬間、あたしは「ここだ」と思った。上手くは言えないけど、そんな気がした。だからあたしは腕を振り抜いて…あたしの剣を、偽者の皆へと放つ。
「捕まえ、た…ッ!」
鞭の様にしなるあたしの剣は、偽者のねぷちゃん達を包囲。全員を囲んだ瞬間、あたしは腕を思い切り引いて……ねぷぎあちゃんが相手しているもう一人の偽者のねぷちゃん以外の全員を、一纏めに縛り上げる。
次の瞬間あたしは引き付けて、踏みつける様に飛び蹴り。そこから皆を地上へと落として、更に硬くキツく拘束。
(や、った…!これで、後は……っ!)
一周だけど皆は伸ばした剣に縛られていて、刃は食い込んでいる。あたしから見て上になったのわーるちゃんを踏み付けているから、逃げられる事はない。
もう、勝ったも同然。後は皆の攻撃の邪魔にならないようにあたしが下がれば、それでお終い。それで勝てる。それで終われる。あたしはあたしを見失わないまま…プルルートとして、終わらせられる。
──そう、思っていたのに…そうなる、筈だったのに……あたしは見た。見てしまった。縛られ食い込まされて、その苦痛で表情を歪める、皆の顔を。
「…………ぁ…」
一番上にいるのは、のわーるちゃん。女神化すると激しい感じの性格になって、でも本当は優しくて恥ずかしがりの、のわーるちゃんが苦しそうな顔をしている。
その隣にいるのは、ぶらんちゃん。小さいけれど格好良くて、女神化しても胸の事を言われると怒るところはやっぱりぶらんちゃんなのねって思わせてくれるぶらんちゃんが、悔しそうな顔をしている。
逆側にはねぷちゃんとねぷぎあちゃん。下の方にはあたしとぴーしぇちゃんとべーるさん。皆が皆、表情を歪めていて、あたしを睨んでいて、でも縛られてる皆が睨んでもそれは全然迫力がなくて、むしろ情けなくて、そんな皆の瞳が、顔が、姿がどうしようもなく可愛くて素敵でドキドキして…………
「……あはっ…♪ねぇ、もっと見せて頂戴…皆のその、苦しそうで悔しそうな…情けなーい、皆の顔を…♪」
──気付けばあたしは、より強く縛り上げていた。縛り上げて、刃一つ一つをもっと食い込ませて、ヒールでのわーるちゃんの脇腹を踏み付けて……
「…ね?気持ち良いでしょ?皆を…可愛くて大好きな皆を虐めて、惨めな姿を晒させるのって」
「────ッッ!!?」
その瞬間、あたしの中であたしが…
「……あ…あ、ぁ…あぁぁ…………」
その声に呼ばれて、現実に引き戻されて、やっと気付く。気付かされる。あたしが、偽者を…偽者を介して、皆を見ていた事を。あたしが縛り上げて、踏み付けて悦んでいたのは……大事な皆なんだって事を。
(…違、う…違う、違う違う違う……違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うッ!違うッ、そうじゃない!あたしは、あたしは…あたしはっ、皆を……ッ!!)
真っ黒に染まっていく視界。あたしの心を闇の中へと引き摺り込む絶望。あたしの中にあった希望が、あたし自身への期待が、音を立てて崩れていく。
否定したかった。そうじゃないって。そんな訳ないって。こんなのは、おかしいって。…でも、現実が…苦しめる事で悦び、より強く縛り上げていたあたし自身がそれを許さない。
あたしは、裏切った。裏切ってしまった。皆の…あたしを思ってくれる、皆の心を。
「嫌…嫌ぁ…あたしは、あたしはっ…苦しんで欲しくなんかないのに……ッ!」
現実に、自分自身に耐えられなくなったあたしは、剣を離して飛び上がる。あたしを呼ぶ皆の声に応える事も出来ず、会場から飛び去る。逃げるように、恐れるように。
変わろうと思った。変われると思った。皆となら、あたしも前へ進めるって。でも本当は、変わってなかった。何も進めてなんかいなかった。だって、あたしは…戦いからも皆からも逃げ去る今のあたしは……ねぷちゃんとねぷぎあちゃんの前から逃げたあの時と、何一つとして変わってなんかいなかったから。
今回のパロディ解説
・露出狂系生徒会長
めだかボックスの主人公、黒髪めだかの事。…女神も女神化時(プロセッサ装着時)は露出度高いですよね。殆ど身体の動きを阻害しない(っぽく見える)点で言えば機能的ですが。
・「はっはっはー〜コピリーエースだぁああああッ!」
秘密結社鷹の爪団シリーズに登場するキャラの一人、DXファイターの登場時の台詞のパロディ。ただのネタなので、デラックスコピリーエースなどは存在しませんよ。
・「〜〜あたしは、〜〜なんかないのに……ッ!」
機動戦士ガンダムSEEDの主人公、キラ・ヤマトの台詞の一つのパロディ。形はそんなに崩れてないですが、かなり分かり辛いネタになってしまったような気がします。